説明

電波吸収体

【課題】接着剤を用いることなく、部材の腐食などの不具合が発生せず、生産効率が高く、設計の自由度が高い電波吸収体を提供する。
【解決手段】開示される電波吸収体は、粒状炭、バインダー樹脂及び基体を有する粒状炭シートと、金属シートと、粒状炭シートと金属シートとの間に設けられ、粒状炭シートと金属シートとの間隔を、吸収対象である電波の波長の4分の1に保持するためのスペーサとが糸11により縫い合わされて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、隣接するICタグ同士の電波干渉を防止したり、ICタグの読み取り装置や自動料金収受システム (ETC:Electronic Toll Collection System)に用いて好適な電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子機器は、搭載される中央処理装置(CPU)の動作クロックの高周波化等に起因して、内部で使用される信号の周波数が高周波数化される傾向にある。このため、多くの電子機器から不要な電波が輻射され、他の電子機器を誤動作させるなど、いわゆる、電磁波障害(EMI)が問題となっている。
【0003】
そこで、各種の電波吸収体が提案され又は実用に供されている。このような電波吸収体には、従来、粒状炭をバインダー樹脂によって固めるとともに、両面を不織布又は織布若しくは樹脂膜で覆って所定の厚さとした粒状炭層とスペーサ層と反射板とを積層したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−141691号公報(請求項1,請求項2,[0007]〜[0017]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の電波吸収体では、各部材を接着剤によって接着している。したがって、各部材に接着剤を均一に塗布する必要があるが、各部材の面積が広い場合には、各部材に接着剤を均一に塗布することが困難であるという課題があった。また、用いる接着剤が水性エマルジョン接着剤である場合、接着終了後の部材と部材との間に水分が残ることがある。この場合には、この水分を乾燥させる必要があり、完成にまで時間がかかる。また、上記した水分を残したままの電波吸収体を使用した場合には、金属からなる反射板が腐食するなど不具合が発生する。
【0006】
一方、用いる接着剤が溶剤系接着剤である場合、飛散が多いとともに、換気等を十分にする必要があるため、作業性に難点がある。さらに、各部材の接合に接着剤を用いる場合、各部材間への接着剤の均一塗布、各接着剤の乾燥及び硬化等の過程を経る必要があるため、用いる接着剤の種類によっては完成までに長時間を要し、生産効率が悪いという課題があった。
【0007】
また、上記した従来の電波吸収体で用いられる接着剤は固有の誘電体損失を有しているため、吸収対象である電波の周波数のピークが設計時から変動してしまうという課題があった。この不都合を防止するためには、用いられる接着剤の周波数ピークの変動を考慮して電波吸収体を設計する必要があるので、設計の自由度が少ないという課題があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような課題を解決することができる電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る電波吸収体は、粒状炭、バインダー樹脂及び基体を有する粒状炭シートと、金属シートと、前記粒状炭シートと前記金属シートとの間に設けられ、前記粒状炭シートと前記金属シートとの間隔を、吸収対象である電波の波長の4分の1に保持するためのスペーサとが縫い合わされて構成されていることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の電波吸収体に係り、前記粒状炭シートが複数枚重ね合わされていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接着剤を用いることなく、部材の腐食などの不具合が発生せず、生産効率が高く、設計の自由度が高い電波吸収体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る電波吸収体1の構成を示す分解斜視図、図2は、図1に示す電波吸収体1の構成を示す断面図である。本実施の形態1に係る電波吸収体1は、4分の1波長型であり、スペーサ2の上面側に、粒状炭シート3と、平織シート4とが順次積層されているとともに、スペーサ2の下面側に、金属シート5と、平織シート4とが順次積層され、糸11により縫い合わされて構成されている(図3及び図4参照)。
【0013】
スペーサ2は、粒状炭シート3と金属シート5との間隔を、吸収対象である電波の波長の4分の1に保持するためのものである。スペーサ2は、例えば、ポリエチレン(誘電率:2.3〜2.4)、ポリプロピレン(誘電率:2.0〜2.3)、ポリスチレン(誘電率:2.4〜2.6)又はポリウレタン(誘電率:5.0〜5.3)等の発泡体、スポンジゴムなど、空気を多く含んだ各種の無機物質又は有機物質からなる。このスペーサ2の厚さは、吸収対象である電波の周波数を設定する上で重要な要因であり、誘電体損失を有する材質により厚さを調整して各種の不要電波に対処することになる。
【0014】
粒状炭シート3は、自由空間の電波特性インピーダンスである377Ωに近い面抵抗値を有している。粒状炭シート3は、粒状炭と、バインダー樹脂と、基体とから構成されている。粒状炭の粒径は、例えば、約0.1mm〜約2.0mm程度である。粒状炭は、木炭(例えば、備長炭など)や竹炭等を粉砕した後、水選等により粒径0.1mm〜約2.0mm程度のものに揃える。バインダー樹脂は、熱溶解性を有しており、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ウレタン、エポキシ、メラミン、ポリビニルアルコールなどからなる。基体は、例えば、不織布又は織布若しくは樹脂膜などからなる。粒状炭シート3における粒状炭の面密度は、例えば、約125g/m2〜約500g/m2程度である。なお、粒状炭シート3を含めた電波吸収体1の製造方法の一例については後述する。
【0015】
平織シート4は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維を平織りし、それを紙に接着して構成されている。上記合成繊維と上記紙とは、例えば、親和性が良好なポリエチレン素材の熱溶融性接着剤を用いて接着されている。この種の接着剤は、ゴムやポリウレタンほど誘電率は高くなく、また使用量も少ないので、誘電率の影響はほとんど無視することができる。金属シート5は、導電性の高い金属、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の単体金属を板材又は箔材にしたもの、これら単体金属とクロム、亜鉛等との合金を板材又は箔材にしたもの、あるいは上記単体金属又は合金からなる板材又は箔材にクロム、亜鉛等のメッキを施したものなどからなる。金属シート5は、例えば、厚さが約0.006mm〜約0.2mm程度の箔材でも良いし、厚さが約0.5mm〜約2.0mm程度の板材でも良い。
【0016】
電波吸収体1は、以上説明した、スペーサ2、粒状炭シート3、平織シート4及び金属シート5が、図1に示すように積層され、後述するように、糸11により縫い合わされることにより構成されている。この糸11は、例えば、ビニロン、ポリプロピレンからなる。糸11がビニロンからなる場合、例えば、6.1番手×3本撚りのものを使用するのが好まし。ビニロンの糸11は、伸びにくく、質感と強度、価格のパフォーマンスが良好である。一方、糸11がポリプロピレンからなる場合、例えば、115テックス×2本撚りのものを使用するのが好ましい。ポリプロピレンの糸11は、安価であって、こちらも、質感と強度、価格のパフォーマンスが良好である。
【0017】
以下、電波吸収体1の製造方法について説明する。
まず、粒状炭シート3の製造方法の一例について説明する。この例では、粒状炭同士をバインダー樹脂で固めるとともに、その両面を基体としての不織布で包むことにより粒状炭シート3を作製する。
【0018】
(1) ロール状に巻き回された不織布を巻き出し、その上面に、粒状炭にバインダー樹脂を添加して混合攪拌したものを均一に散布する。このときの散布量を調整することにより、粒状炭の層の厚さを設定することができる。
(2) 次に、上記(1)の工程を経たものを熱風を放射するドライヤー中を通過させることにより、バインダー樹脂を溶解させる。
(3) 次に、上記(2)の工程を経たものの上面に、ロール状に巻き回されたもう1つの不織布を巻き出して重ね、これを適宜加圧することにより、不織布と粒状炭及び粒状炭同士が接着され、全体がほぼ均一な厚さを有する粒状炭シート3となる。
【0019】
上記粒状炭シート3を作製する場合、バインダー樹脂に対する粒状炭の量が重要であり、例えば、バインダー樹脂の量と粒状炭の量との比は、1:2.5以上とする。粒状炭の量がこの比より少ない場合には、隣接する粒状炭同士がバインダー樹脂で絶縁され、十分な電波吸収効果が発揮されないと思われる。
【0020】
ここで、粒状炭の粒径を約0.1mm〜約2.0mm程度と設定したのは、以下に示す理由による。まず、粒状炭の粒径が約0.1mmより小さい場合には、粒状炭が基体である不織布の目からこぼれ出るからである。一方、粒状炭の粒径が約2.0mmより大きい場合には、粒状炭の不織布への接着性と、成層性とが悪くなるからである。さらに、粒状炭の粒径を約0.1mm〜約2.0mm程度に設定するとともに、粒状炭シート3における粒状炭の面密度を約125g/m2〜約500g/m2程度に設定したことが、電波吸収体1の電波吸収性に好影響を及ぼしていると推察できるからである。
【0021】
また、上記粒状炭シート3の厚さ、粒状炭シート3における粒状炭の面密度及び粒状炭の使用量は、相関関係があるが、これらは、電波吸収作用にとって非常に重要である。自由空間法による電波吸収特性の測定結果によれば、粒状炭シート3における粒状炭の面密度は、約200g/m2〜約500g/m2(粒状炭シート3の厚さに換算すると、約0.5mm〜約2.5mm程度)、特に、約250g/m2程度が好ましい。粒状炭シート3における粒状炭の面密度がこれらの値の場合、粒状炭シート3は、自由空間の電波特性インピーダンスである377Ωに近い面抵抗値を有し、高い電波吸収性能が得られると思われる。なお、粒状炭シート3を2層又は3層に積層することにより、電波吸収体1全体における粒状炭の密度分布を均一化することができるので、電波吸収性能を安定させることができる。
【0022】
次に、電波吸収体1の製造方法の一例について説明する。
(a) 平織シート4、金属シート5、スペーサ2及び粒状炭シート3を順次重ね合わせたものを、図3に示すように、糸11により縫合する。図3は、単環縫いにより縫合した例である。図3(a)は平面図、図3(b)は背面図である。ここで、単環縫いとは、上糸1本だけで作られる縫い目であり、背面側は糸11のループが互いに連続する鎖目状となって続いており、連続縫製に適した縫い方である。この縫合は、例えば、一般的な畳床製畳機を用いて行う。この場合、糸11は、一般的な畳用の糸を用いることができる。図3において、符号12は、縫合時に針が挿通された孔である。
【0023】
(b) 次に、上記(a)の工程を経たものの上面に、平織シート4を重ね合わせたものを上下逆にして、図4に示すように、糸11により縫合することにより、電波吸収体1を完成させる。図4は、単環縫いにより縫合した例である。図4(a)は平面図、図4(b)は背面図である。この場合も 、一般的な畳床製畳機と、一般的な畳用の糸とを用いて縫合を行うことができる。糸(針)と糸(針)との間隔は、例えば、40mmに設定し、糸の送り(針足)は、例えば、30〜60mmに設定する。このように間隔及び針足を設定することにより、平織シート4、金属シート5、スペーサ2及び粒状炭シート3を順次重ね合わせたものを接着剤を用いないで固定することができる。
【0024】
なお、縫い方は、単環縫いだけでなく、二重環縫い、本縫いなど、他の縫い方を用いてももちろん良い。ここで、二重環縫いとは、上糸とルーパーとが互いに交錯して縫う方式であり、二重に上糸と交錯しているために、糸が切れた場合でも単環縫いよりほどけ難いのが特徴である。一方、本縫いとは、広く一般的に用いられている縫い方であり、「縫い目の表裏が同じ」、「構成が1縫い目ごとに独立」している。ただし、下糸があるので、連続縫製に制限ある。
【0025】
(c) 必要に応じて、上記(b)の工程を経た電波吸収体1全体を図示せぬ防水シートで被覆しても良い。
【0026】
ここで、図5に実験結果の一例を示す。図5は、TM波を入射角30度で被検体に入射した場合の周波数に対する反射減衰量の特性を自由空間法で測定した一例である。各被検体は周波数1.6GHzにチューニングしてある。図5において、曲線aは、被検体がアルミニウムからなる金属シート(以下「アルミニウム反射板」という。)、スペーサ及び粒状炭シートを単に重ね合わせたものからなる場合の特性の一例、曲線bは、被検体がアルミニウム反射板、スペーサ及び粒状炭シートを重ね合わせて縫合したものからなる場合の特性の一例である。また、曲線cは、被検体がアルミニウム反射板、スペーサ及び粒状炭シートを重ね合わせてゴム系接着剤で貼り合わせたものからなる場合の特性の一例、曲線dは、被検体がアルミニウム反射板、スペーサ及び粒状炭シートを重ね合わせて酢酸ビニル系接着剤で貼り合わせたものからなる場合の特性の一例である。
【0027】
図5からは、曲線aに示す特性と曲線bに示す特性とでは、電波吸収量に若干の差はあるが、ほぼ類似した特性を示すことが分かる。また、曲線cに示す特性は、曲線aに示す特性及び曲線bに示す特性に比べて、ピークが若干周波数が低い側にずれており、また電波吸収量もこれらの特性に比べて少なくなっていることが分かる。つまり、曲線cは、接着剤の誘電抵抗が悪影響を与えていることを示している。さらに、曲線dに示す特性では、全体的に電波吸収量が低いが、これは接着剤の水分が残存しているためと思われる。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施例によれば、953MHz、1.6GHz、2.45GHz、5.8GHzなど、特定の周波数に対して良好な性能を有する電波吸収体1を非常に安価に作製することができる。ここで、周波数953MHzの電波は、例えば、ICタグ読み取りに使用され、周波数1.6GHzの電波は、例えば、GPSの無線通信に使用され、周波数2.45GHzの電波は、例えば、ICタグ読み取りや無線LANの無線通信に使用され、周波数5.8GHzの電波は、ETCの無線通信に使用される。
【0029】
このように、本発明の実施例によれば、電波吸収体1は、スペーサ2の上面側に、粒状炭シート3と、平織シート4とが順次積層されているとともに、スペーサ2の下面側に、金属シート5と、平織シート4とが順次積層され、糸11により縫い合わされて構成されている。つまり、本発明の実施例では、接着剤を用いていない。したがって、接着剤の均一塗布のための工夫、水性接着剤を用いた場合の水分乾燥、溶剤系接着剤を用いた場合の飛散及び換気等への配慮、接着剤特有の工程等、がすべて不要となる。また、水性接着剤を用いた場合の不充分乾燥に伴う腐食等の不具合も発生することはない。
【0030】
さらに、一般的な畳床製畳機を用いれば、作業性が良好であるとともに、作業時間が短縮するため、生産効率が向上する。この結果、大幅なコストダウンを図ることができる。また、接着剤固有の誘電率に対する考慮が不要であるため、吸収対象である電波の周波数のピーク変動がなく、設計の自由度が大きい。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
上述の実施の形態では、粒状炭シート3の製造過程において、上記(2)の工程を経たものの上面に、ロール状に巻き回されたもう1つの不織布を巻き出して重ね、これを適宜加圧する例を示したが、これに限定されない。例えば、上記(2)の工程を経たものをそのまま適宜加圧しても良い。すなわち、粒状炭シート3の片面だけ不織布を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る電波吸収体の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す電波吸収体の構成を示す断面図である。
【図3】図1に示す電波吸収体の製造方法を説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は背面図である。
【図4】図1に示す電波吸収体の製造方法を説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は背面図である。
【図5】実験結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1…電波吸収体、2…スペーサ、3…粒状炭シート、4…平織シート、5…金属シート、11…糸、12…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状炭、バインダー樹脂及び基体を有する粒状炭シートと、
金属シートと、
前記粒状炭シートと前記金属シートとの間に設けられ、前記粒状炭シートと前記金属シートとの間隔を、吸収対象である電波の波長の4分の1に保持するためのスペーサと
が縫い合わされて構成されていることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
前記粒状炭シートが複数枚重ね合わされていることを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−152374(P2009−152374A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328834(P2007−328834)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(599095953)株式会社カネハ (4)
【Fターム(参考)】