説明

電波式液面計

【課題】導波管とアンテナの間に挟み込んだシーリング材によって、電波伝搬路の電波伝搬特性が乱れる現象を最小限に抑えることができる電波式液面計を提供する。
【解決手段】電波発生器にて発生し同軸接栓から照射する電波をアンテナに案内し、アンテナと固定するフランジ部を有する導波管と、導波管に固定するフランジ部を有するアンテナと、導波管のフランジ部とアンテナのフランジ部間に挟み込んで固定するシーリング材を有する電波式液面計であって、導波管のフランジ部、アンテナのフランジ部の双方に、シーリング材が周方向に対して開放しないように半径方向外側に向かう切り込み部を形成され、この形成された切り込み部の垂直面によってシーリング材の挟み込み部外周が開放しないように覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵タンク内に貯蔵される液体の上部端面(以下「液面」という)に電波を照射し、液体の残量を計測する電波式液面計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電波式液面計に用いる電波の照射方式には複数の種類がある。代表的なものは、FMCW方式とパルスレーダーー方式である。
【0003】
FMCW方式は、貯蔵タンクの頂部に設置した液面計から下方の液面に向けて垂直方向に電波を照射し、液面計から液面までの距離を計測する方式である。この方式は、上記照射する電波の発振周波数を時間とともに直線的に変化させつつ液面に向かって照射し、照射開始時の発振周波数と、液面によって反射し再び上記液面計で受信される発振周波数との差を計測することで電波の伝搬時間を等価的に割り出して、液面計から液面までの距離を求めるものである。
【0004】
パルスレーダー方式も貯蔵タンク頂部に設置する液面計から下方の液面に向かって照射した電波によって、液面計から液面までの距離を計測する方式である。この方式は、前記FMCW方式とは異なり、発振周波数を一定値として決められた一定周期で電波を断続的に照射し、この断続波が、液面で反射し再び液面計で受信されるまでの時間差を直接計時し、等価的に電波の伝搬時間を割り出す。この割り出した伝搬時間を用いて液面計から液面までの距離を求めるものである。
【0005】
ここで計時に利用する電波は、直進性に優れ液面での反射による減衰が少ない特性を重視して、マイクロ波帯と呼ばれる、周波数がGHzオーダー帯域の電波である。
【0006】
また、上記帯域の電波を用いる場合に適したアンテナの代表例は、構造の簡単さと機械的強度に優れた「ホーン型アンテナ」である。ホーン型アンテナを用いる電波式液面計は電波の照射口となるアンテナ開口部から、電波の伝搬路である導波管の内部空洞部、導波管の給電部の同軸接栓までが外部に直接露出することになる。このため、貯蔵タンク内部にホーン型アンテナを設置すると、同軸接栓部が貯蔵タンク内に貯蔵している液体に対して暴露されることになる。
【0007】
貯蔵タンクにホーン型アンテナを用いた電波式液面計を設置した概略図を図6に示す。図6において、貯蔵タンク90は、液体91を貯蔵するための構造であって、貯蔵する液体91を貯蔵タンク90内に流入させる図示しない貯蔵液体流入部、電波式液面計100を設置する為の設置穴92を有している。設置穴92には電波式液面計100を設置している。電波式液面計100は、ホーンアンテナ93、導波管94、同軸接栓部95、液面計装置96、液面計装置本体外筺97を一体としてなり、設置穴92の上部に設けられた貯蔵タンク90のフランジ部と液面計装置外筺97のフランジ部とを図示しない固定ボルトで固定している。
【0008】
電波式液面計100を構成する液面計装置96は電波を発する電波発生器を具備しており、発生した電波は同軸ケーブルを通じて導波管94内の空洞に案内される。案内された電波は同軸ケーブルの先端に設置した同軸接栓部95によって導波管94の内部空洞に照射される。照射された電波はホーン型アンテナ93を通じて液面91に当たって反射され、反射された電波はホーン型アンテナ93、導波管94を通じ、同軸接栓部95を介して同軸ケーブルを伝って液面計装置96で受信され、液面計装置96が具備する計測手段によって、貯蔵している液体91の貯蔵タンク90の底からの高さを計測する。
【0009】
貯蔵タンク90に貯蔵する液体91は、あらゆる種類の油脂や薬品等である。従って、ホーンアンテナ93の開口部(図6において下方向)から上記薬品等が同軸接栓部95を伝って液面計装置96の内部にまで侵入する怖れがある。このように薬品類が液面計装置96を浸食すると、装置は重大な支障を受け故障する怖れがある。このような故障を防ぐために、ホーンアンテナ93と導波管94の間にシーリング材98を設けなければならない。
【0010】
シーリング材98は導波管94とホーンアンテナ93の間に挟み込んで、図示しない固定手段によって固定する。固定方法として接着剤を用いることも可能ではあるが、液体91との化学反応によって劣化が生じ、シーリング効果が発揮できなくなる危険性が高い為に、固定ボルトなどの機械的な手段で固定することが一般的である。また、上記シーリング材98には、シーリング効果が有効に持続し、かつ、使用可能な温度範囲の条件が極めて広い材料を用いる。
【0011】
一般にシーリング材98に用いる材質は、ホーンアンテナ93、導波管94に用いる材質とは異なる。材質が異なると当然ながら熱収縮率は異なる。従って、シーリング材98に使用可能温度範囲が広いものを用いたとしても、液体91の種類によっては極低温状態にて貯蔵する場合があり、そのような極低温状態ではシーリング材98とホーンアンテナ93、導波管94の間に間隙が生じる。このような間隙が生じるとシーリング効果を有効に発揮することはできずに、液体91が液面計装置96を浸食し同装置が動作不良を起こすことになる。このような課題を解決するために、導波管94とホーンアンテナ93に挟み込むシーリング材98を十分に薄くし、熱収縮率の差異による間隙発生を極めて少なくする発明が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−324374号公報
【0012】
特許文献1記載の発明におけるシーリング材98の例を図7に示す。図7は、ホーンアンテナ93、導波管94、同軸接栓部95、シーリング材98の構成のみを示し、他の構成要素は省略している。シーリング材98に用いる材質は、貯蔵タンク内に貯蔵される薬品類から液面計装置を防護し、かつ、液面距離測定に用いる電波の伝搬を妨害せず電波伝搬に対する影響が極力小さいことが必須条件となる。従って、この条件に合致する樹脂(誘電体)を用いる。
【0013】
上記条件を満たす材質として、貯蔵される薬品類の種類の如何に関わらず化学的に不活性であり、使用可能な温度範囲が極めて広い「PTFE(Poly−Tetra−Fluoro−Ethylene)」樹脂が有名である。ここではシーリング材98としてPTFEを図7の構成に用いた例を説明する。図7において、ホーン型アンテナ93と導波管94は相互に接合するフランジを有していて、シーリング材98は導波管94の内部に嵌る本体部分と、下側の円錐形の部分と、これら本体部分と円錐形の部分の境界部に形成された挟み込み部を有して成る。このシーリング材98の挟み込み部を前記アンテナ93のフランジと導波管94のフランジの間に挟み込んで図示しないフランジ締結ボルトの締め付け圧力により固定する。このように固定したシーリング材98によって、貯蔵タンクに貯蔵した薬品類が導波管94を伝って液面計装置に浸入することを阻止している。
【0014】
シーリング材98は、その挟み込み部がシールとしての機能を果たすものであるが、電波の伝搬特性を安定にするために、上記挟み込み部とともに全体が同じ材質であるPTFEで一体成形されている。すなわち、導波管94の内部に充填されるシーリング材98の本体部分も、挟み込み部と同じPTFE誘電体で一体成形されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の構造を有するシーリング材98とその固定方法を用いても、解決し得ない課題が存在する。上記のとおり同軸接栓部95から照射された電波は、導波管94内を伝搬しホーンアンテナ93から液面に向かって放射されるが、導波管94とホーンアンテナ93の間に挟み込んだシーリング材98の挟み込み部の厚み分だけ電波伝搬路としての導波管壁面が欠落していることになる。このように電波伝搬路の欠落は、電波伝搬特性の大きな乱れを引き起こし、ホーンアンテナの利得低下を誘発してしまう。
【0016】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたもので、シーリング材を導波管とアンテナのフランジに挟み込んだ際に電波伝搬特性が乱れる現象を最小限に抑えることができる電波式液面計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、電波を発する電波発生器と、電波発生器にて発生した電波を案内して照射する同軸接栓と、同軸接栓から照射された電波をアンテナに案内し、アンテナと固定するフランジ部を有する導波管と、導波管に固定するフランジ部を有し送信アンテナ及び受信アンテナとして作用するアンテナと、上記導波管のフランジ部とアンテナのフランジ部間に挟み込んで固定するシーリング材を有する電波式液面計であって、上記導波管のフランジ部、上記アンテナのフランジ部の双方には、上記シーリング材が周方向に対して開放しないように半径方向外側に向かう切り込み部が形成され、この形成された切り込み部の垂直面によってシーリング材の挟み込み部外周が開放しないように覆われていることを主な特徴とする。上記切り込み部は導波管のフランジ部、アンテナのフランジ部のいずれか一方に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、導波管側のフランジ部とアンテナ側のフランジ部のいずれか一方またはその両者に形成した切り込み部の垂直面によって、シーリング材の挟み込み部分を覆う構造となっているので、シーリング材の挟み込み部分の外周が閉鎖した構造すなわち外周側が露出しない構造となる。これにより、シーリング材の挟み込み部の厚み分だけ電波伝搬路が欠落することで生じる電波伝搬特性の乱れを防ぐことができ、その結果ホーン型アンテナの利得低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかる電波式液面計の実施例について説明する。
【0020】
図1は、本発明に係るホーン型アンテナを用いた電波式液面計の例を示す概略図である。なお、図1では、液面計装置本体、貯蔵タンクなどの説明に不要な構成要素は図示を省略している。
【0021】
図1において、ホーンアンテナ93は上端部に水平方向に広がるフランジ部93aを有し、このフランジ部93aに導波管94の下端部に形成されたフランジ部94aが重ねられ、これらのフランジ部93a,94aがボルトとナットなどの適宜の締結手段によって結合されている。上記二つのフランジ部93a,94a間にはシーリング材98の挟み込み部98aが挟み込まれ、上記締結手段の締結力で上記シーリング材98の挟み込み部98aが上記二つのフランジ部93a,94aによって上下方向に圧力が加えられた状態で固定されている。上記導波管94は有底円筒状の部材を伏せた形をしており下端部に上記フランジ94aを有している。上記シーリング材98は、挟み込み部98aを境にして上側が円柱状の本体部98b、下側がホーンアンテナ93の軸線方向下方に円錐形状に突出した円錐部98cとなっている。シーリング材98は樹脂による一体成形などで作成することができ、挟み込み部98aがシーリング材98としての本来の機能を果たす。シーリング材98の本体部分98bは導波管94内に挿入され、導波管94内に充填されたのと実質的に同一の構成になっている。上記挟み込み部98aはフランジ部93a、94aに形成した切り込み部にて挟み込まれている。詳しくは図1の点線で囲った格納部99を拡大した図2を用いて説明する。
【0022】
図2において、導波管94のフランジ部94aには、内面側から半径方向外側に向かう切り込み部が形成されて、導波管94の下端内周部が段状になっており、アンテナ93のフランジ部93aにも、内面側から半径方向外側に向かう切り込み部が形成されて、アンテナ93の上端内周部が段状になっている。上記の各切り込み部は、導波管94およびアンテナ93の内周に全周にわたり、導波管94と同心の円に沿って形成されている。上記各切り込み部は、上下で相対向することにより、シーリング材98の挟み込み部98aを囲み、切り込み部垂直面93b及び94bによって挟み込み部98aの外周部が開放されるのを防いでいる。
【0023】
図2に示す実施例では、アンテナのフランジ部93aと導波管のフランジ部94aを締結したとき、これらフランジ部の接合面80が、シーリング材98の挟み込み部98aの厚さ方向の中間点に位置するように、アンテナ93の切り込み部と、導波管94の切り込み部の縦方向寸法が設定されている。上記接合面80は、図4及び図5に示すように、導波管のフランジ部94aまたはアンテナのフランジ部93aに偏った位置であっても良い。図4に示す実施例は、アンテナのフランジ部93aの内周側にのみ切り込み部を形成して導波管のフランジ部94a側には切り込み部を設けることなくフランジ部94aの下面を平坦な面としたものである。図5に示す実施例は、逆に、導波管94のフランジ部94aの内周側にのみ切り込み部を形成してアンテナのフランジ部93a側には切り込み部を設けることなくフランジ部93aの上面を平坦な面としたものである。
【0024】
上記構造における電波特性の乱れ防止について図3を用いて詳細に説明する。
【0025】
電波式液面計の計測に用いる電波の自由空間における波長をλ(m)とすると、導波管94内を伝搬することで変化する波長λは、以下の式の通りである。
【数1】

【0026】
ここで、λは導波管94の遮断波長である。さらに導波管94内部をシーリング材98にて充填することにより、シーリング材98内を伝搬する波長λ’は以下の式の通りとなる。
【数2】

【0027】
上記εはシーリング材98に用いるシーリング用樹脂材の比誘電率であり、PTFEにおける値はおよそ2.1である。図3に示すとおり、シーリング材98の挟み込み部98aの挟み込み深さをd2(cm)とすると、シーリング材98の挟み込み部98aにおいて、導波管94とアンテナ93のフランジ部94a,93aに形成した切り込み部垂直面93b、94bで反射される電波Rの伝搬経路長と、導波管の壁面で反射する電波の伝搬経路長は、2×d2(cm)の差を有することになる。この2×d2が波長λ’に対して二分の一の整数倍関係にあればシーリング材98の挟み込み部分への入射電波と両フランジ部の切り込み部垂直面(93b及び94b)による反射電波は位相が等しく、互いに打ち消し合う。このように、伝搬経路長が異なる要因が存在しても一定条件の下では、位相の乱れ等による伝搬損失を無くすことができる。換言すれば、上記d2がλ’に対して四分の一の整数倍の関係にあれば、上記の伝搬損失は無くすことが可能である。また、上記のように伝搬損失とシーリング材98を挟み込み部分98aの厚さDは無関係である。
【0028】
上記作用は、シーリング材98が周方向に開放されない(露出していない)ことによって導波管の壁面がとぎれることなく電波を反射する構造において得ることができる。そこで、本発明では図2に示すとおり、アンテナのフランジ部93aと導波管のフランジ部94aに切り込み部を設けることで形成する垂直面93b、94bによって上記構造を実現している。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に用いる構造は、劇薬などを貯蔵するタンクに計測装置を設置する際に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る電波式液面計のシーリング構造の例を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る電波式液面計のシーリング構造部分を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明に係る電波式液面計の伝搬損失防止原理の概略を示す断面図である。
【図4】本発明に係る電波式液面計のシーリング構造の別の例を示す拡大断面図である。
【図5】本発明に係る電波式液面計のシーリング構造のさらに別の例を示す拡大断面図である。
【図6】従来の電波式液面計の構造を示す概略断面図である。
【図7】従来の電波式液面計におけるシーリング構造の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0031】
80 フランジ接合面
90 貯蔵タンク
91 貯蔵液体
92 アンテナ設置穴
93 ホーンアンテナ
93a アンテナのフランジ部
93b アンテナのフランジ部の切り込み部垂直面
94 導波管
94a 導波管のフランジ部
94b 導波管の切り込み部垂直面
95 同軸接栓部
96 液面計装置
97 液面計装置本体外筺
98 シーリング材
98a シーリング材の挟み込み部
98b シーリング材本体部
98c シーリング材円錐部
100 電波式液面計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を発する電波発生器と、
上記電波発生器にて発生した電波を案内して照射する同軸接栓と、
上記同軸接栓から照射された電波をアンテナに案内し、上記アンテナと固定するフランジ部を有する導波管と、
上記導波管に固定するフランジ部を有し送信アンテナ及び受信アンテナとして作用するアンテナと、
上記導波管のフランジ部とアンテナのフランジ部間に挟み込まれて固定されるシーリング材を有する電波式液面計であって、
上記導波管のフランジ部とアンテナのフランジ部の双方には、上記シーリング材が周方向に対して開放しないように半径方向外側に向かう切り込み部を有することを特徴とする電波式液面計。
【請求項2】
電波を発する電波発生器と、
上記電波発生器にて発生した電波を案内して照射する同軸接栓と、
上記同軸接栓から照射された電波をアンテナに案内し、上記アンテナと固定するフランジ部を有する導波管と、
上記導波管に固定するフランジ部を有し送信アンテナ及び受信アンテナとして作用するアンテナと、
上記導波管のフランジ部とアンテナのフランジ部間に挟み込まれて固定されるシーリング材を有する電波式液面計であって、
上記導波管のフランジ部とアンテナのフランジ部のいずれか一方に、上記シーリング材が周方向に対して開放しないように半径方向外側に向かう切り込み部を有することを特徴とする電波式液面計。
【請求項3】
上記シーリング材はPTFEを材料とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の電波式液面計
【請求項4】
上記フランジ切り込み部の周方向寸法(深さ)は、導波管内波長に対して四分の一の整数倍であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかにに記載の電波式液面計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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