説明

電流センサ

【課題】センサの特性のばらつきを抑制して電流の検出精度を向上できる、電流センサを提供する。
【解決手段】バスバー100を伝達する電流を検出する電流センサ1は、バスバー100に取り付けられた台座部10と、台座部10に搭載された磁性薄膜20と、磁性薄膜20に光を照射する発光装置と、発光装置から磁性薄膜20に照射され磁性薄膜20で反射した光を検出する受光装置と、受光装置によって検出された光信号を、バスバー100を伝達する電流に変換する差動増幅器と、磁性薄膜20のバスバー100に対する相対回転を規制する収容部材30およびピン40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサに関し、特に、磁性薄膜を用いて光により電流を検出する電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
光による電流測定装置に関し、従来、光源から出射された光が、偏光子で直線偏光に変換され、その直線偏光の偏光方向が、磁気光学素子で磁気光学効果により回転され、その任意の方向の直線偏光が、検光子で直交する二つの偏光成分に分離してそれぞれ異なった方向へ出射され、その二つの偏光成分に分離された光の強度が、2個の受光素子でそれぞれ個別に電気信号に変換される、電流測定装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
また、バスバーを流れる電流値を検出する電流センサに関し、磁気コアを保持するコア保持体にボスが設けられ、バスバーにボスと嵌合する孔が設けられ、バスバー上に磁気コアを位置決め固定する技術が開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−174790号公報
【特許文献2】特開2008−275566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の磁気ディスクや光磁気ディスクへの情報の読み書きに利用されている、磁性薄膜を用いた光による電流検出においては、磁性膜に対する磁界の印加方向によって電流検出の感度が変化するという特性がある。つまり、電流センサの組み付け時に磁界を検出する磁性薄膜の搭載位置のずれが生じると、磁性薄膜に対する磁界の印加方向にもずれが生じ、磁性薄膜の磁化のしやすさが変化する。そのため、たとえばより小さい磁界で磁化したり逆に大きな磁界を印加しないと磁化しないなど、磁性薄膜の特性に差が生じる。その磁性薄膜の特性の差がそのまま電流センサの特性として現れる結果、電流センサの特性にずれが生じてしまう問題があった。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、センサの特性のばらつきを抑制して電流の検出精度を向上できる、電流センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電流センサは、電流を伝達するバスバーを備え、バスバーを伝達する電流を検出する電流センサであって、バスバーに取り付けられた台座部と、台座部に搭載された磁性薄膜と、磁性薄膜に光を照射する発光装置と、発光装置から磁性薄膜に照射され磁性薄膜で反射した光を検出する受光装置と、受光装置によって検出された光信号を、バスバーを伝達する電流に変換する演算装置と、磁性薄膜のバスバーに対する相対回転を規制する回転規制部と、を備える。
【0008】
上記電流センサにおいて好ましくは、回転規制部は、磁性薄膜の台座部への搭載位置を規制する搭載位置規制部と、台座部のバスバーに対する相対回転を規制する台座固定部と、を含む。
【0009】
上記電流センサにおいて好ましくは、搭載位置規制部は、磁性薄膜を囲繞する壁部を有する。
【0010】
上記電流センサにおいて好ましくは、台座固定部は、台座部からバスバー側へ突起してバスバーに形成された基準穴に挿通される、基準ピンを有する。
【0011】
上記電流センサにおいて好ましくは、磁性薄膜に照射される入射光と、磁性薄膜で反射する反射光との経路の、磁性薄膜の表面に対する角度を規制する、制限部材を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電流センサによると、センサの特性のばらつきを抑制できることにより、電流の検出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態の電流センサの構成を示す断面図である。
【図2】電流センサの平面図である。
【図3】図2中に示すIII−III線に沿う電流センサの断面図である。
【図4】電流センサの分解斜視図である。
【図5】電流センサに使用される光学系の構成を示す模式図である。
【図6】磁性薄膜が位置決めされた状態を示す平面模式図である。
【図7】磁性薄膜の位置ずれが発生した状態を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0015】
図1は、本実施の形態の電流センサ1の構成を示す断面図である。図2は、電流センサ1の平面図である。図3は、図2中に示すIII−III線に沿う電流センサ1の断面図である。図4は、電流センサ1の分解斜視図である。図1〜図4を参照して、本実施の形態に係る電流センサ1の構成について説明する。
【0016】
電流センサ1は、細長い棒状の導電性であるバスバー100を伝達する電流を検出するためのセンサである。電流センサ1は、結晶磁気異方性を有する材料により形成された、磁性薄膜20を備える。磁性薄膜20は、台座部10に搭載されている。
【0017】
台座部10は、磁性薄膜20を搭載する平板状の本体部12と、本体部12の一方の面から突出する一対の脚部16とを有する。本体部12の、脚部16が突出する側の面と反対側の表面には、本体部12の一部が窪んだ平面形状矩形状の窪み部14が形成されている。脚部16の先端には、爪部18が設けられている。台座部10はたとえば、樹脂材料により形成されている。
【0018】
バスバー100には、バスバー100を厚み方向に貫通する貫通孔102が形成されている。脚部16が貫通孔102に挿通され、貫通孔102を貫通する脚部16の下端の爪部18がバスバー100の反対面側に係合することにより、台座部10はバスバー100に固定されている。なお、貫通孔102への爪部18の係合によって台座部10がバスバー100に固定される構成に限られず、たとえば台座部10がバスバー100にネジ止めされて固定されてもよい。
【0019】
バスバー100には、一対の基準穴としての貫通孔103が、バスバー100を厚み方向に貫通して形成されている。台座部10の本体部12には、本体部12を厚み方向に貫通する一対の貫通孔13が形成されている。台座部10の脚部16をバスバー100の貫通孔102に嵌合して本体部12をバスバー100の表面上に載置する状態で、貫通孔13と貫通孔103とが互いに重なるように、貫通孔13,103は形成されている。台座部10がバスバー100に組み付けられた状態で、貫通孔13,103を貫通するように、基準ピンとしてのピン40が配置される。
【0020】
台座部10の本体部に形成された窪み部14には、磁性薄膜20を収容する収容部材30が嵌合される。磁性薄膜20は、収容部材30を介在させて、台座部10に搭載される。収容部材30には磁性薄膜20を収容するための収容穴が形成されている。収容穴の底面32に磁性薄膜20の裏面が接触し、収容穴の内壁面34に磁性薄膜20の横端面が対向するように、収容穴は形成される。磁性薄膜20の形状が正方形状の平板の場合、収容穴の平面形状もまた正方形状とされる。収容穴の径は、磁性薄膜20の差し渡し長さに対し等しいまたは僅かに小さいので、収容穴の内部に収容された磁性薄膜20の収容部材30に対する位置ずれが抑制される。
【0021】
収容部材30を平面視したときの形状は矩形状であり、その収容部材30の中央部に、平面形状が正方形状の収容穴が形成される。収容部材30の長辺側において、収容穴から収容部材の縁部へ向かってテーパ状に収容部材30の厚みが増加している。当該テーパ状の部分は、収容穴に収容された磁性薄膜20の表面22へ照射される入射光、および、当該入射光が磁性薄膜20の表面22で反射する反射光の経路の、磁性薄膜20の表面22に対する角度を規制する、制限部材36として機能する。
【0022】
図5は、電流センサ1に使用される光学系の構成を示す模式図である。なお図5および後述する図6,7では、簡単のために、図1〜4で説明した電流センサ1の構成のうち、出力電流を伝達するためのバスバー100、および、バスバー100に搭載された磁性薄膜20のみが図示されている。電流センサ1は、バスバー100上に取付固定された磁性薄膜20により、バスバー100を流れる電流を検出する。
【0023】
図5に示すように、発光装置50で発生した光は、偏光プリズム52および集光レンズ54を経由して、磁性薄膜20に照射される。磁性薄膜20の表面で反射された反射光は、集光レンズ54、1/4波長板56を経由してビームスプリッタ58へ入り、ビームスプリッタ58で分離されてフォトダイオード61,62に入射する。フォトダイオード61,62は、発光装置50から磁性薄膜20に照射され磁性薄膜20で反射した光を検出する受光装置60に含まれる。フォトダイオード61,62は、それぞれのフォトダイオード61,62に入射する光の強度を検出し、差動増幅器70に入力する。差動増幅器70は、フォトダイオード61,62によって検出された光信号を、バスバー100を伝達する電流に変換する、演算装置である。
【0024】
バスバー100に電流が流れないとき、二つのフォトダイオード61,62に入射される光の強度は等しいので、フォトダイオード61,62の出力を入力とする差動増幅器70の出力はゼロとなる。一方、バスバー100に電流が流れると、バスバー100のまわりに磁界が発生して、磁性薄膜20に磁界が印加される。図5中には、バスバー100を伝達する電流の流れの方向CDと、その電流によって発生する磁界による磁性薄膜20の磁化方向MDが図示されている。磁性薄膜20の磁気モーメントが回転することで、ビームスプリッタ58で分離され二つのフォトダイオード61,62に入射する光の強度が変わり、フォトダイオード61,62の入射光強度に差分が生じるので、差動増幅器70に出力が現れる。
【0025】
以上の構成を備える電流センサ1を使用してバスバー100を伝達する電流を検出するときの、磁性薄膜20の位置ずれの影響について説明する。図6は、磁性薄膜20が位置決めされた状態の電流センサ1を示す平面模式図である。図7は、磁性薄膜20の位置ずれが発生した状態の電流センサ1を示す平面模式図である。図6および図7では、図中の下から上へ向かって矢印CDに示すようにバスバー100内を電流が流れ、その電流によって発生する磁界の磁性薄膜20の位置における方向が矢印MDで示される。
【0026】
磁性薄膜20の形成材料が有する結晶磁気異方性により、磁性薄膜20は、磁化されやすい結晶方位(磁化容易軸)と磁化困難な結晶方位(磁化困難軸)とを有する。図6および図7には、二点鎖線EMAにより磁化容易軸が示され、二点鎖線HMAにより磁化困難軸が示される。
【0027】
図6に示す磁性薄膜20が位置決めされた状態は、バスバー100を伝達する電流の方向CDに磁化容易軸EMAが沿い、磁性薄膜20における磁界の方向MDに磁化困難軸HMAが沿うように、バスバー100に対し磁性薄膜20の相対位置が定められた状態である。図6に示す位置決めされた状態は、バスバー100を流れる電流によって発生する磁界が磁化困難軸HMAの方向において磁性薄膜20に印加する、理想的な状態である。
【0028】
一方、図7に示す磁性薄膜20が位置ずれした状態は、バスバー100に対し磁性薄膜20が角度θ分相対回転し、その結果磁化容易軸EMAおよび磁化困難軸HMAがそれぞれ電流の方向および磁界の方向MDから角度θだけずれた状態である。図7に示す位置ずれした状態では、図6に示す理想状態のとき磁性薄膜20に印加する磁界の大きさのcosθ倍の大きさの磁界が磁化困難軸HMAの方向において磁性薄膜20に印加し、理想状態のとき磁性薄膜20に印加する磁界の大きさのsinθ倍の大きさの磁界が磁化容易軸EMAの方向において磁性薄膜20に印加する。
【0029】
磁性薄膜20の位置ずれが生じると、理想状態に対し、磁性薄膜20の磁化方向が一方向に揃わなくなり、磁性薄膜20に対する磁界の印加方向が変化する課題が生じる。その結果、磁性薄膜20の表面22で反射する反射光に特性差が生じ、電流センサ1としての特性に差が生じるので、電流検出の感度が低下して、電流センサ1の計測精度が低下する問題がある。そのため、電流センサ1の計測精度を向上するために、バスバー100に対する磁性薄膜20の相対位置を図6に示す理想状態に保つことが、重要視されることになる。
【0030】
そのため、本実施の形態の電流センサ1は、磁性薄膜20のバスバー100に対する相対回転を規制するための、回転規制部を備える。本実施の形態の場合、回転規制部は、磁性薄膜20の台座部10への搭載位置を規制する搭載位置規制部と、台座部10のバスバー100に対する相対回転を規制する台座固定部と、を含む。
【0031】
図1〜4に示す、磁性薄膜20を収容する収容部材30は、搭載位置規制部として機能する。収容部材30の収容穴に磁性薄膜20が収容された状態で、磁性薄膜20は収容穴の内壁面34によって囲繞される。収容穴の内壁面34は、収容穴の内部に収容された状態の磁性薄膜20を囲繞する縦壁部として機能する。台座部10に形成された窪み部14内に嵌合される収容部材30に、磁性薄膜20を固定するための縦壁部が設けられることにより、台座部10に対する磁性薄膜20の位置ずれが規制される。
【0032】
図1〜4に示すピン40は、台座固定部として機能する。基準ピンとしての二本のピン40が、台座部10に形成された貫通孔13と、バスバー100に形成された基準穴としての貫通孔103と、に亘って配置されることにより、バスバー100に対する磁性薄膜20の回転方向の位置ずれが規制される。
【0033】
なお基準ピンは、台座部10からバスバー100側へ突起して貫通孔103に挿通されるものであればどのような構成でもよいので、台座部10およびバスバー100と別の部材であるピン40を使用する例に限られない。たとえば、台座部10の本体部12の一部に突起が形成され当該突起が貫通孔103に挿通されてもよい。またたとえば、貫通孔103がバスバー100を厚み方向に貫通していなくてもよく、台座部10の本体部12が載置される側のバスバー100の表面から窪んで形成された有底の穴に基準ピンが挿通されてもよい。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態の電流センサ1では、バスバー100に対して磁性薄膜20が位置決めされて、バスバー100に対する磁性薄膜20の相対回転が規制される。磁性薄膜20のバスバー100への搭載位置を規制し、バスバー100への磁性薄膜20の組付け時のバラつきを最小限に抑える構造にすることで、磁性薄膜20のバスバー100に対する位置ずれが抑制でき、電流センサ1の特性のばらつきを抑制することができる。したがって、電流センサ1による電流の検出精度を向上することができる。
【0035】
また電流センサ1には、磁性薄膜20に対する入射光および反射光の角度を規制する制限部材が設けられている。磁性薄膜20に対する光の入射角および反射角は、入射光および反射光の進行方向と磁性薄膜20の表面に対する垂線との間の角度として定義されるが、入射角および反射角が大きすぎると、電流センサ1の感度が低下することが懸念される。磁性薄膜20の周囲に、磁性薄膜20の厚みに対して十分な高さを有する制限部材36を配置することにより、入射角および反射角の範囲を適切に制限して、電流センサ1の感度を最適にすることができる。
【0036】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の電流センサ1は、電気自動車用の電動機を駆動するために用いられるインバータを流れる電流を検出するための、インバータ用電流センサに、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0038】
1 電流センサ、10 台座部、12 本体部、13,102,103 貫通孔、14 窪み部、16 脚部、18 爪部、20 磁性薄膜、22 表面、30 収容部材、32 底面、34 内壁面、36 制限部材、40 ピン、50 発光装置、60 受光装置、61,62 フォトダイオード、70 差動増幅器、100 バスバー、CD 電流の方向、EMA 磁化容易軸、HMA 磁化困難軸、MD 磁界の方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流を伝達するバスバーを備え、前記バスバーを伝達する電流を検出する電流センサであって、
前記バスバーに取り付けられた台座部と、
前記台座部に搭載された磁性薄膜と、
前記磁性薄膜に光を照射する発光装置と、
前記発光装置から前記磁性薄膜に照射され前記磁性薄膜で反射した光を検出する受光装置と、
前記受光装置によって検出された光信号を、前記バスバーを伝達する電流に変換する演算装置と、
前記磁性薄膜の前記バスバーに対する相対回転を規制する回転規制部と、を備える、電流センサ。
【請求項2】
前記回転規制部は、前記磁性薄膜の前記台座部への搭載位置を規制する搭載位置規制部と、前記台座部の前記バスバーに対する相対回転を規制する台座固定部と、を含む、請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記搭載位置規制部は、前記磁性薄膜を囲繞する壁部を有する、請求項2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記台座固定部は、前記台座部から前記バスバー側へ突起して前記バスバーに形成された基準穴に挿通される、基準ピンを有する、請求項2または請求項3に記載の電流センサ。
【請求項5】
前記磁性薄膜に照射される入射光と、前記磁性薄膜で反射する反射光との経路の、前記磁性薄膜の表面に対する角度を規制する、制限部材を備える、請求項1から請求項4のいずれかに記載の電流センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−15437(P2013−15437A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149012(P2011−149012)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】