説明

電流導入構造

【課題】真空チャンバー内の真空状態を保持すると共に、冷却媒体収容部内での電食を防いで耐久性の向上を図ることができる電流導入構造を提供することを目的とする。
【解決手段】成膜チャンバー3内の補助陽極9に電流を導入する電流導入構造20において、コイル17及び冷却水Waを収容する水冷ジャケット15と、コイル17の余剰部分となる絶縁導線部19と、水冷ジャケット15の外周壁部15eに設けられると共に、水冷ジャケット15の周囲の真空を保持しながら絶縁導線部19が貫通して絶縁導線部19の先端を真空側に露出させるシール構造部23と、を備える。その結果、冷却水Waを収容する水冷ジャケット15内において絶縁導線部19と他の導体部との間での接点を設ける必要が無くなり、冷却水Waによる電食の虞を低減でき、コイル17の耐久性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置などの真空チャンバー内に配置されて、例えば、主ハース周りの補助陽極として機能するコイルに電流を導入するための電流導入構造に関する。
【背景技術】
【0002】
RPD法などを利用した成膜装置では、成膜材料としてのタブレットの直上に高密度のプラズマを集束させ、その結果、タブレットを昇華拡散させて上方の基板に付着させて成膜する。この種の成膜装置(特許文献1参照)では、成膜処理が行われる真空チャンバーを備え、真空チャンバーの側壁にはプラズマビームを出射するプラズマガンが取り付けられている。また、真空チャンバーの底部には、成膜材料としてのタブレットを保持すると共に、プラズマビームを集束させる主ハースが備え付けられている。さらに、主ハースの周りには、環状に主ハースを取り囲む補助陽極(「輪ハース」ともいう)が配置されている。
【0003】
図6に示されるように、補助陽極100として、電磁石コイル101からなる電磁石102を有する態様が知られている。この態様では、電磁石102の発熱と、プラズマビームの輻射熱により補助陽極100が昇温するのを防ぐ必要があり、例えば、水冷方式によって補助陽極100を冷却保護している。水冷方式の場合、補助陽極100には、冷却水配管から導入された冷却水Waを収容する水冷ジャケット103が設けられている。コイル101及び冷却水Waを収容する水冷ジャケット103内は大気側状態であるため、水冷ジャケット103の外側からコイル101に電流を引き込みまたは引き出す際には、構造上、真空チャンバー104内の真空保持に配慮する必要がある。そこで、通常は、水冷ジャケット103の外壁に気密に取り付けられた電流導入端子105を利用してコイル101への電流の導入を図っている。
【0004】
電流導入端子105は導電体からなり、絶縁物を介して水冷ジャケット103に気密に装着されている。電流導入端子105の外側、すなわち真空側には外部側端子105aが設けられており、真空チャンバー104内に配線されたリード線106は、外部側端子105aに圧着接続されている。電流導入端子105の内側、すなわち、冷却水Waを収容する大気圧側には内部側端子105bが設けられている。内部側端子105bには、コイル101に通じるリード線107が圧着接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−316794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水冷ジャケット103内に収容されたコイル101に電流を導入するための従来の構造では、コイル101からのリード線107と電流導入端子105の内部側端子105bとの圧着接続箇所が冷却水Wa内に存在するため、圧着接続箇所に電食を生じる虞があり、耐久性の向上という観点から改善の余地があった。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、真空チャンバー内の真空状態を保持すると共に、冷却媒体収容部内での電食を防いで耐久性の向上を図ることができる電流導入構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、絶縁膜が被覆されると共に、真空チャンバー内に配置されたコイルに電流を導入してコイルを電磁石として機能させるための電流導入構造において、コイル及び冷却媒体を収容する冷却媒体収容部と、コイルの余剰部分となる絶縁導線部と、冷却媒体収容部の外壁に設けられると共に、冷却媒体収容部の周囲の真空を保持しながら絶縁導線部が貫通して絶縁導線部の先端を真空側に露出させるシール構造部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、コイルの余剰部分となる絶縁導線部がシール構造部を貫通しており先端が真空側に露出している。従って、冷却媒体を収容する冷却媒体収容部内において絶縁導線部と他の導体部との間での接点を設ける必要が無くなり、冷却媒体による電食の虞を低減できる。その結果として、コイルの耐久性を向上できる。
【0010】
さらに、シール構造部は、絶縁導線部が貫通する本体部と、本体部を貫通する絶縁導線部の真空側である外側を密封する外側シール部と、本体部を貫通する絶縁導線部の内側を密封する内側シール部と、を有すると好適である。外側シール部と内側シール部との少なくとも二段のシール構造によって気密性を保持できるために真空の保持が一層確実の実現でき、更に、外側シール部及び内側シール部の少なくとも一方が機能していれば真空の保持が可能になるために劣化に強くなり、耐久性の向上を図りやすくなる。
【0011】
また、シール構造部は、絶縁導線部が貫通する本体部と、本体部に取り付けられると共に、本体部を貫通する絶縁導線部を環状に取り囲んで密封するシール部と、を有し、本体部は、シール部が取り付けられた状態で前記冷却媒体収容部の外壁に装着可能であると好適である。本体部を冷却媒体収容部の外壁に装着する前に本体部にシール部を取り付けて確実な密封状態を形成できるために気密性の確保と取り付け作業に伴う負担の低減との両立を図りやすくなる。
【0012】
さらに、冷却媒体収容部の外壁には、本体部を装着する貫通孔が形成されており、本体部は、貫通孔に嵌合すると共に、絶縁導線部が貫通する筒状部と、冷却媒体収容部の外壁に当接して気密に固定される張出し部と、を有すると好適である。この構成によれば、張出し部を冷却媒体収容部の外壁に当接させるように本体部を貫通孔に嵌合させることで気密性の確保を容易に行うことができる。
【0013】
さらに、冷却媒体収容部の外壁には、本体部を装着する貫通孔が形成されており、本体部は、貫通孔に嵌合すると共に、絶縁導線部が貫通する筒状部を有し、シール部は、筒状部の一方の端部側から挿入されると共に、絶縁導線部に外嵌する環状で、且つ弾性を有するシール部材と、筒状部の一方の端部側に装着されると共に、絶縁導線部が貫通し、且つシール部材を押圧するシール圧縮部と、を有すると好適である。この構成によれば、シール部材の圧縮変形によって気密性の確保を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、真空チャンバー内の真空状態を保持すると共に、冷却媒体収容部内での電食を防いで耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】成膜装置を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電流導入構造を示す断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】シール構造部の断面図であり、(a)は図3のVa−Va線に沿った断面図であり、(b)は図3(b)のVb−Vb線に沿った断面図である。
【図6】従来の電流導入構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電流導入構造の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。まず、本実施形態に係る電流導入構造が適用される成膜装置について説明する。
【0017】
図1に示されるように、成膜装置1は、RPD(反応性プラズマ蒸着)法によって基板Wに成膜する装置であり、通称、インラインタイプと呼ばれる搬送形態を採用している。成膜装置1は、成膜処理が行われる真空の成膜チャンバー(真空チャンバー)3を備えており、成膜チャンバー3の上方を所定の経路に沿って基板Wが搬送される。
【0018】
成膜チャンバー3の側壁には圧力勾配型のプラズマガン5が設けられており、底部には、成膜材料であるタブレットTを保持する主ハース7及び主ハース7を環状に取り囲む補助陽極(「輪ハース」、「ビームガイド」ともいう)9が設けられている。プラズマガン5から照射されたブラズマビームBは主ハース7に導かれて集束し、タブレットTを昇華拡散させる。基板Wは、昇華した蒸発粒子によって成膜される。
【0019】
図2及び図3に示されるように、補助陽極9は、主ハース7の上部近傍を環状に囲み、且つ主ハース7の軸線に対して僅かに偏芯した永久磁石11を備え、永久磁石11の下で、永久磁石11と同心に配置された環状の電磁石13を備えている。また、補助陽極9は上下二段に配置された永久磁石11及び電磁石13を収容する環状(ドーナツ状)の水冷ジャケット15を備えている。水冷ジャケット15内には、冷却水(冷却媒体)Waが収容されており、電磁石13の発熱やプラズマビームBからの輻射熱から補助陽極9及び主ハース7を冷却保護している。補助陽極9の磁場によってプラズマビームBはガイドされる。また、補助陽極9の電磁石13を調整することで、蒸発粒子の飛行方向分布を制御できるようになり、その結果、膜厚分布の均一化を図ることが可能になる。
【0020】
電磁石13を構成するコイル17は、巻回されたリード線(図5参照)17aによって形成されており、リード線17aには、全長に亘って電気的絶縁性の膜(絶縁膜)17bが被膜されている。絶縁膜17bが被覆されたリード線17aの形態としては、例えば、フッ素系熱収縮フレキチューブなどの2重以上の熱収縮チューブでリード線17aの外周を覆った形態が好適である。コイル17への電流の引き込み側及びコイル17からの電流の引き出し側には余剰部分となるリード線(以下、「絶縁導線部」という)19が突き出しており、絶縁導線部19を介して電流の引き込み及び引き出しが行われ、その結果、コイル17は電磁石13として機能する。
【0021】
以下、コイル17を電磁石13として機能させるための電流導入構造20について説明する。なお、本実施形態に係る電流導入構造20は、コイル17への電流の引き込み側及び引き出し側の両方の構造を含むが、引き込み側及び引き出し側の構造は同様であるため、引き込み側を例にして説明して引き出し側の詳細説明は省略する。
【0022】
主ハース7の下部には径外方向に張り出した円形板状の連結部7aが設けられている。連結部7aの上面には、周縁に沿って環状の電気的絶縁部7bが取り付けられており、連結部7aは電気的絶縁部7bを介して支持プレート21に固定されている。支持プレート21には、主ハース7が突き出す円形の孔21aが形成されている。支持プレート21の上面には、主ハース7を囲むような環状の電気的絶縁部21bが配置され、電気的絶縁部21bの上面には、環状の水冷ジャケット15が固定されている。水冷ジャケット15内には、冷却水配管から導入された冷却水Waが収容されている。
【0023】
水冷ジャケット15は、銅などの導電体からなり、支持プレート21上に固定されたベース部15aと、ベース部15a上に取り付けられたカバー部15bと、を備えている。カバー部15bは、ベース部15aの上面を覆うような袋状の形態からなり、Oリングなどのガスケット15m,15nを介してベース部15aに気密にボルト止めされている。カバー部15bとベース部15aとが一体になった状態で環状(ドーナツ状)の外観が形成される。
【0024】
カバー部15bは、断面逆U字状であり、主ハース7に対面する内側の内周壁部15dと外側の外周壁部15eとを有する。外周壁部15eには、コイル17から余剰部分として突き出した絶縁導線部19が通される貫通孔15fが形成されている。貫通孔15fには、水冷ジャケット15の内側と外側との間での気密性を保持するためのシール構造部23が装着される。
【0025】
シール構造部23は、貫通孔15fに装着される本体部25を備える。本体部25は、貫通孔15fに嵌合する筒状部25aと、筒状部25aの外周の中央付近から径外方向に張り出した矩形の張出し部25bと、を有する。張出し部25bには、外周壁部15eとの当接面にOリングなどのシール部材25kが装着され、外周壁部15eには、張出し部25bに当接する平坦な当り面15gが形成されている。張出し部25bは外周壁部15eにボルト止めされ、その結果、シール部材25kが貫通孔15fを囲むように当り面15gに当接して気密性が保持される。
【0026】
コイル17の余剰部分として突き出した絶縁導線部19は、本体部25の筒状部25aを貫通して延在する。筒状部25aは、外周壁部15eの貫通孔15fに差し込まれた際に、水冷ジャケット15の外側(真空側)を向く一方の端部25cと、内側、すなわち水冷ジャケット15内側を向く他方の端部25dと、を有する。筒状部25aの一方の端部25c側には、絶縁導線部19の周りを密封する外側シール部27が取り付けられ、他方の端部25d側には、絶縁導線部19の周りを密封する内側シール部29が取り付けられる。
【0027】
筒状部25a内の中央付近には、径内方向に突出した環状のシール部材当接部25eが設けられており、筒状部25aの一方の端部25cには、雄ねじ(螺合部)25fが形成されている。筒状部25a内には、絶縁導線部19に通された環状のガスケット(シール部材)31が一方の端部25c側から挿入されている。ガスケット31は、フッ素系の弾性ゴムからなる。ガスケット31の挿入後、筒状部25aには金属製の鍔付きスリーブ33が挿入され、その後、袋ナット35が、筒状部25aの雄ねじ25fに螺合締結される。袋ナット35には、絶縁導線部19が貫通する孔35aが形成されている。
【0028】
袋ナット35を締め付けると、袋ナット35の内面は鍔付きスリーブ33の鍔に当接し、鍔付きスリーブ33を筒状部25aの内側、すなわちシール部材当接部25e側に押圧する。鍔付きスリーブ33はガスケット31に当接し、袋ナット35による押圧を受けてガスケット31を圧縮変形させる。その結果として、ガスケット31は、絶縁導線部19の周りを密封する。鍔付きスリーブ33及び袋ナット35によって外側のシール圧縮部37は構成される。また、ガスケット31は、シール部材当接部25eよりも外側(真空側)で絶縁導線部19を環状に取り囲み、シール圧縮部37とシール部材当接部25eとの間で挟持されて絶縁導線部19の周りを密封して外側のシール部材として機能する。
【0029】
筒状部25aの他方の端部25dには、雌ねじ(螺合部)25gが形成されている。他方の端部25d側からは、絶縁導線部19に通された環状のガスケット(シール部材)39が挿入されている。ガスケット39は、フッ素系の弾性ゴムからなる。ガスケット39の挿入後、筒状部25aの他方の端部25dには、絶縁導線部19が通された金属製のねじ付きスリーブ41が螺合締結される。
【0030】
ねじ付きスリーブ41を締め付けると、ねじ付きスリーブ41の先端はガスケット39に当接してガスケット39を圧縮変形させる。その結果として、ガスケット39は、絶縁導線部19の周りを密封する。ねじ付きスリーブ41は内側のシール圧縮部に相当する。また、ガスケット39は、シール部材当接部25eよりも内側(大気側)で絶縁導線部19を環状に取り囲み、ねじ付きスリーブ41とシール部材当接部25eとの間で挟持されて絶縁導線部19の周りを密封して内側のシール部材として機能する。
【0031】
また、本体部25の張出し部25bの外面には、絶縁導線部19を覆って保護するリード線保護部43がボルト止めされている。シール構造部23を貫通して真空側に露出した絶縁導線部19は、リード線保護部43の下方を抜け、絶縁導線部19の先端は、成膜チャンバー3の底に設けられた電流導入端子45に接続されている。電流導入端子45は、成膜チャンバー3の外壁を気密に貫通しており、成膜チャンバー3の外側に突き出した部分には、外部リード線47に接続される外部端子45aが設けられている。外部リード線47及び電流導入端子45を介して絶縁導線部19への電流の引き込みが行われ、さらに、絶縁導線部19を介してコイル17への電流の導入が行われる。なお、コイル17からの電流の引き出しのための絶縁導線部19の先端も、電流導入端子45に接続されて別の外部リード線に接続されている。
【0032】
次に、電流導入構造20の組み付け手順について説明する。永久磁石11及び電磁石13を収容するように水冷ジャケット15を所定位置に固定するのに合わせて、コイル17の余剰部分となる絶縁導線部19をカバー部15bの貫通孔15fから引き出す。次に、貫通孔15fから外側に引き出された絶縁導線部19にシール構造部23を通した後にシール構造部23を貫通孔15fに装着する。ここで、絶縁導線部19は、ねじ付きスリーブ41、ガスケット39、本体部25、ガスケット31、鍔付きスリーブ33及び袋ナット35の順番に通される。
【0033】
次に、本体部25の筒状部25aの両端からそれぞれガスケット31,39を挿入する。その後、一方の端部25c側から鍔付きスリーブ33を挿入し、さらに、袋ナット35を螺合して締め付ける。また、筒状部25aの他方の端部25d側からねじ付きスリーブ41を螺合して締め付ける。その結果として外側のガスケット31が圧縮されて外寄りの絶縁導線部19の周りを簡単に密封でき、さらに、内側のガスケット39が圧縮されて内寄りの絶縁導線部19の周りを簡単に密封できる。
【0034】
外側シール部27及び内側シール部29を本体部25に取り付けて確実な密封状態を形成した後、本体部25を貫通孔15fに差し込み、張出し部25bを外周壁部15eにボルト止めして装着する。このように、本実施形態に係る電流導入構造20では、シール構造部23の本体部25を水冷ジャケット15の貫通孔15fに気密に装着する前に、本体部25に外側シール部27及び内側シール部29を取り付けて確実な密封状態を形成できるため、気密性の確保と取り付け作業に伴う負担の低減との両立を図りやすくなる。
【0035】
以上、本実施の形態に係る電流導入構造20によれば、コイル17の余剰部分となる絶縁導線部19がシール構造部23を貫通しており、先端が真空側に露出している。従って、冷却水Waを収容する水冷ジャケット15内において絶縁導線部19と他の導体部との間での接点を設ける必要が無くなり、冷却水Waによる電食の虞を低減でき、コイル17の耐久性を向上できる。なお、絶縁導線部19の先端は電流導入端子45に接続されているが、この接続箇所は、真空内であるため、腐蝕等の影響を受けない。
【0036】
また、従来の電流導入構造(図6参照)では、水冷ジャケット103内でのリード線107の圧着接続が必要であったため、圧着接続箇所をコーキング処理することが必須であり、さらに、コーキング処理後の乾燥処理も必要であった。一方で、本実施形態では、真空側で絶縁導線部19の端子接続を行っているので、接続箇所のコーキング作業と乾燥時間が省略され、さらに、組み立てにスキルを要することもなくなり、組み立て作業の効率化が可能になる。
【0037】
さらに、本実施形態では、外側シール部27と内側シール部29との少なくとも二段のシール構造によって気密性を保持できるために真空の保持が一層確実に実現でき、更に、外側シール部27及び内側シール部29の少なくとも一方が機能していれば真空の保持が可能になるために劣化に強くなり、耐久性の向上を図りやすくなる。
【0038】
さらに、水冷ジャケット15の外周壁部15eには、本体部25を装着する貫通孔15fが形成されており、本体部25は、貫通孔15fに嵌合すると共に、絶縁導線部19が貫通する筒状部25aと、水冷ジャケット15の外周壁部15eに当接して気密に固定される張出し部25bと、を有する。この構成によれば、張出し部25bを外周壁部15eに当接させるように本体部25を貫通孔15fに嵌合させることで気密性の確保を容易に行うことができる。
【0039】
さらに、外側シール部27は、筒状部25aの端部25c側から挿入されると共に、絶縁導線部19に外嵌する環状で、且つ弾性を有するガスケット31と、筒状部25aの端部25c側に装着されると共に、絶縁導線部19が貫通し、且つガスケット31を押圧するシール圧縮部37と、を有する。また、内側シール部29は、筒状部25aの端部25d側から挿入されると共に、絶縁導線部19に外嵌する環状で、且つ弾性を有するガスケット39と、筒状部25の端部25d側に装着されると共に、絶縁導線部19が貫通し、且つガスケット39を押圧するねじ付きスリーブ(シール圧縮部)41と、を有する。この構成によれば、シール部材に相当するガスケット31,39の圧縮変形によって気密性の確保を容易に行うことができる。
【0040】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、冷却媒体収容部として水冷ジャケットを示し、水冷ジャケットに装着されるシール構造体を例にして説明したが、水冷ジャケットの外壁を絶縁導線部が貫通し、絶縁導線部が貫通する外壁に直接にシール部材などを組み付けてシール構造体を設けた態様であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
3…成膜チャンバー(真空チャンバー)、13…電磁石、15…水冷ジャケット(冷却媒体収容部)、15e…水冷ジャケットの外周壁部(冷却媒体収容部の外壁)、15f…貫通孔、17…コイル、17b…絶縁膜、19…絶縁導線部、20…電流導入構造、23…シール構造部、25…本体部、25a…筒状部、25b…張出し部、25c,25d…筒状部の端部、27…外側シール部(シール部)、29…内側シール部(シール部)、31…ガスケット(シール部材)、37…シール圧縮部、39…ガスケット(シール部材)、41…ねじ付きスリーブ(シール圧縮部)、Wa…冷却水(冷却媒体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁膜が被覆されると共に、真空チャンバー内に配置されたコイルに電流を導入して前記コイルを電磁石として機能させるための電流導入構造において、
前記コイル及び冷却媒体を収容する冷却媒体収容部と、
前記コイルの余剰部分となる絶縁導線部と、
前記冷却媒体収容部の外壁に設けられると共に、前記冷却媒体収容部の周囲の真空を保持しながら前記絶縁導線部が貫通して前記絶縁導線部の先端を真空側に露出させるシール構造部と、を備えることを特徴とする電流導入構造。
【請求項2】
前記シール構造部は、
前記絶縁導線部が貫通する本体部と、前記本体部を貫通する前記絶縁導線部の真空側である外側を密封する外側シール部と、前記本体部を貫通する前記絶縁導線部の内側を密封する内側シール部と、を有することを特徴とする請求項1記載の電流導入構造。
【請求項3】
前記シール構造部は、
前記絶縁導線部が貫通する本体部と、前記本体部に取り付けられると共に、前記本体部を貫通する前記絶縁導線部を環状に取り囲んで密封するシール部と、を有し、
前記本体部は、前記シール部が取り付けられた状態で前記前記冷却媒体収容部の外壁に装着可能であることを特徴とする請求項1記載の電流導入構造。
【請求項4】
前記冷却媒体収容部の外壁には、前記本体部を装着する貫通孔が形成されており、
前記本体部は、前記貫通孔に嵌合すると共に、前記絶縁導線部が貫通する筒状部と、前記冷却媒体収容部の外壁に当接して気密に固定される張出し部と、を有することを特徴とする請求項3記載の電流導入構造。
【請求項5】
前記冷却媒体収容部の外壁には、前記本体部を装着する貫通孔が形成されており、
前記本体部は、前記貫通孔に嵌合すると共に、前記絶縁導線部が貫通する筒状部を有し、
前記シール部は、前記筒状部の一方の端部側から挿入されると共に、前記絶縁導線部に外嵌する環状で、且つ弾性を有するシール部材と、前記筒状部の一方の端部側に装着されると共に、前記絶縁導線部が貫通し、且つ前記シール部材を押圧するシール圧縮部と、を有することを特徴とする請求項3記載の電流導入構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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