電流検出器
【課題】不要な外部磁界および外部電界の影響を抑えつつ、電流の検出感度の低下を抑える。
【解決手段】環状に形成され、内側を貫通した導体を流れる電流を検出するコイル12と、コイル12を覆うシールド部13と、を備える電流検出器10は、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に、コイル12に沿って環状に延び当該コイル12と外部とを連通するスリット13aを有する。
【解決手段】環状に形成され、内側を貫通した導体を流れる電流を検出するコイル12と、コイル12を覆うシールド部13と、を備える電流検出器10は、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に、コイル12に沿って環状に延び当該コイル12と外部とを連通するスリット13aを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状に形成されたコイルを有し、当該コイルの内側を貫通した導体を流れる電流を検出する電流検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、環状に形成されたコイル、例えば積層型のロゴスキーコイルを有し、このコイルの内側を貫通した導体を流れる電流を検出する電流検出器が公知である。この種の電流検出器では、例えば特許文献1に開示されているように、不要な外部磁界の影響を抑えるべく、コイルを非磁性材料からなるシールド部によって覆うことが考えられている。
しかしながら、コイルをシールド部によって覆ってしまうと、電流を検出すべき導体からの磁界も遮蔽されてしまい、電流の検出感度が低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−85620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、不要な外部磁界や外部電界の影響を抑えつつ、電流の検出感度の低下を抑えることができる電流検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載した発明によれば、環状に形成されたコイルを覆うシールド部は、コイルの内側部を覆う部分に、コイルに沿って環状に延び当該コイルと外部とを連通するスリットを有している。従って、コイルの内側を貫通した導体からの磁界は、スリットを通してコイルに作用するようになる。これにより、コイルの内側部以外の部分ではシールド部によって不要な外部磁界や外部電界の影響を抑えることができ、しかも、コイルの内側部では電流検出対象である導体からの磁界が遮蔽されることなくコイルに作用することから、電流の検出感度の低下を抑えることができる。
この場合、請求項2に記載した発明のように、シールド部は、複数の絶縁性基板を積層した積層基板の内部に設けるとよい。この構成によれば、シールド部の外部にさらに絶縁性基板が存在する構成となる。これにより、より絶縁された状態で電流の検出処理を行うことができ、電流の検出精度を向上することができる。
【0006】
また、シールド部の形成態様およびスリットの形成態様としては、例えば請求項3に記載した発明のように、シールド部の少なくとも側部を、積層基板の内部において電流検出器の厚み方向に延びる複数のスルーホールピンを周方向に連続的に配置、つまり、連続的に配列することにより形成することが可能である。また、請求項4に記載した発明のように、コイル内側に対向するスリットは、これら複数のスルーホールピンからなるシールド部の側部に1層以上の未接続層を設けることによって形成することが可能である。
また、請求項5に記載した発明のように、シールド部のうちスリットを有する面は、電流検出対象である導体を貫通させるために積層基板に形成された開口部の内周面によって覆われる構成とするとよい。この構成によれば、コイルのうちスリットに対向する部分、つまり、シールド部によって覆われない部分が、積層基板を構成する絶縁性基板の一部により覆われる状態となり、これにより、当該部分の絶縁性を確保することができ、電流の検出精度を向上することができる。
【0007】
また、請求項6に記載した発明のように、スリットは、電流検出器の厚み方向において、コイルが存在する範囲内に形成されていることが好ましい。また、請求項7に記載した発明のように、スリットは、電流検出器の厚み方向において、コイルの厚み以下の開口幅を有していることが好ましい。
また、請求項8に記載した発明のように、コイルは、周方向にらせん状に巻回された巻線部と、巻線部内を周方向に延びる戻線部と、を有するコイル、いわゆるロゴスキーコイルで構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態を示すものであり、電流検出器の外観を示す斜視図
【図2】電流検出器の内部構成を示す縦断面図
【図3】コイルの構成を示す斜視図
【図4】電流検出対象を流れる電流の周波数と電流検出対象から発生する磁界の通過特性との関係を示す図
【図5】比較例を示す図2相当図
【図6】第1実施形態の変形例を示すものであり、電流検出器の一部を示す縦断面図
【図7】第1実施形態の変形例を示すものであり、シールド部のうちコイルの内側部を覆う部分を拡大して示す平面図(a)および縦断面図(b)
【図8】本発明の第2実施形態に係る図2相当図
【図9】(a)はシールド部のうち外側部および内側部を示す平面図、(b)はシールド部の縦断面図
【図10】電流検出器の製造方法を説明するための図
【図11】給電部を流れる電流の周波数と電流検出器の検出感度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1から図7を参照しながら説明する。図1に示すように、電流検出器10は、全体としてほぼ矩形板状をなし、その中央部に当該電流検出器10を貫通する開口部10aを有する。この場合、開口部10aは円形状に形成されている。電流検出対象である図示しない導体は、この開口部10aに挿通され、電流検出器10は、この状態で、その導体に流れる電流を検出する構成である。
【0010】
次に、この電流検出器10の内部構成について図2および図3を参照しながら説明する。図2に示すように、電流検出器10は、基板11と、電流検出用のコイル12と、シールド部13とを備える。
基板11は、複数、この場合、4枚の絶縁性基板11a〜11dが電流検出器10の厚み方向、換言すれば電流検出器10の軸方向に積層された構成である。即ち、この基板11は、複数の絶縁性基板11a〜11dを積層した積層基板である。この基板11は、その中央部に上記の開口部10aに対応する開口部11eを有する。
コイル12は、この積層基板である基板11に設けられており、図3にも示すように、複数のコイル形成片12aと、複数のスルーホールピン12bと、戻線部12cとで構成されている。
【0011】
コイル形成片12aは、それぞれ細長い板状に形成されている。これらコイル形成片12aは、基板11を構成する複数の絶縁性基板11a〜11dのうち任意の2層に形成されるものであり、この場合、中間層を構成する絶縁性基板11bの外側の面および絶縁性基板11cの外側の面にそれぞれ配置されている。この場合、絶縁性基板11bの外側の面は図2では上面となっており、絶縁性基板11cの外側の面は図2では下面となっている。複数のコイル形成片12aは、上記した開口部11eの周囲において、円環状に配列され、且つ、それぞれが放射状に指向した状態で配置される。スルーホールピン12bは、基板11の任意の2層、この場合、中間の2層を構成する絶縁性基板11b,11cに形成された複数のスルーホールにそれぞれ挿通され、上記のように配置された複数のコイル形成片12aを電気的に接続する。このように構成されたコイル形成片12aおよびスルーホールピン12bは、電流検出器10の周方向にらせん状に巻回された巻線部12dを形成する。
【0012】
戻線部12cは、細長い板状に形成され、その一端部が巻線部12dの一端部にスルーホールピン12bを介して電気的に接続され、且つ、他端部が上記のように構成された巻線部12d内を周方向に円環状に延びる。この戻線部12cは、この場合、基板11を構成する複数の絶縁性基板11a〜11dのうち中間の2層を構成する絶縁性基板11bの内側の面と絶縁性基板11cの内側の面との間に配置されている。この場合、絶縁性基板11bの内側の面は図2では下面となっており、絶縁性基板11cの内側の面は図2では上面となっている。巻線部12dの他端部および戻線部12cの他端部は、それぞれ外部の図示しない信号処理回路に電気的に接続されている。この信号処理回路は、コイル12が検出した電流の信号処理を実行して、電流検出対象である導体に流れる電流を特定するものである。
このように、電流検出器10の周方向にらせん状に巻回された巻線部12dと、この巻線部12d内を周方向に延びる戻線部12cとを有し、積層基板である基板11に設けられたコイル12は、いわゆる積層型のロゴスキーコイルとして構成されている。
【0013】
シールド部13は、非磁性の材料からなり、上記のように構成された基板11およびコイル12を覆って電流検出器10の外郭を構成する。このシールド部13は、主として外部磁界および外部電界、つまり、電流検出器10の開口部10aを貫通した電流検出対象である導体以外の要素から発生する磁界および電界を遮蔽する機能を担う。そして、このシールド部13は、基板11の内側部、換言すれば、コイル12の内周部である内側部を覆う部分であって上記の開口部10aに対応する部分にスリット13aを有する。このスリット13aは、コイル12に沿って円環状に延び、当該コイル12と外部、つまり、開口部10a内の空間とを連通する。
このスリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12が存在する範囲内、換言すれば、当該コイル12に挟まれた絶縁性基板11bおよび絶縁性基板11cが存在する範囲内に形成されている。また、このスリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12の厚み以下、換言すれば、当該コイル12に挟まれた絶縁性基板11bおよび絶縁性基板11cの厚みの和以下の開口幅を有している。
【0014】
以上に説明した本実施形態に係る電流検出器10によれば、開口部10aに挿通された電流検出対象である導体、つまり、コイル12の内側を貫通した導体から発生する磁界は、電流検出器10の外部と内部とを連通するスリット13aを通してコイル12に作用するようになる。これにより、コイル12の内側部以外の部分ではシールド部13によって不要な外部磁界および外部電界の影響を抑えることができ、しかも、コイル12の内側部では電流検出対象である導体からの磁界が遮蔽されることなくコイル12に作用することから、電流の検出感度の低下を抑えることができる。
【0015】
図4は、電流検出対象である導体を流れる電流の周波数と、その導体から発生する磁界の検出感度との関係を示している。導体から発生する磁界の検出感度とは、導体から発生する磁界がスリット13aを通過してコイル12に作用することで発生する誘導起電力の大きさ、つまり、電流検出器10が導体を流れる電流を検出する感度を示す。この図4に示すように、導体から発生する磁界の検出感度は、符号aで示すシールド部13にスリット13aを設けた場合の方が、符号bで示すシールド部13にスリット13aを設けない場合よりも大きくなる。従って、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分にスリット13aを設けることにより、導体を流れる電流の周波数に関わらず、コイル12による磁界の検出感度が上昇することが確認できる。
【0016】
また、例えば図5に示すように、スリット13aを電流検出器10の厚み方向においてコイル12が存在する範囲外、換言すれば、当該コイル12に挟まれた絶縁性基板11bおよび絶縁性基板11cが存在する範囲外に形成した構成では、コイル12による磁界の検出感度が著しく低下してしまうことが発明者の実験によって確認されている。そのため、上記したように、スリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12が存在する範囲内に形成することが好ましい。これにより、コイル12による磁界の検出感度が著しく低下してしまうことを回避することができる。
【0017】
また、上記したように、スリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12の厚み以下の開口幅を有していることが好ましい。これにより、シールド部13による外部磁界および外部電界の遮蔽効果を十分に確保することができる。なお、スリット13aの開口幅は、コイル12の厚みに関わらず、少なくとも50μm以上であれば、コイル12による磁界の検出感度の低下が抑えられることが発明者の実験によって確認されている。なお、電流検出用のコイルの種類、電流検出性能、形状、構成、大きさなどが異なれば、スリット13aの開口幅が50μm以下であっても、そのコイルによる磁界の検出感度の低下が抑えられる場合も有り得る。
【0018】
なお、この実施形態においては、以下のような変形および拡張が可能である。即ち、スリット13aは、要は、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分において、当該コイル12に沿って環状に延び電流検出器10の外部と内部、つまり、コイル12と外部とを連通する構成であれば種々の構成を採用することができる。例えば、図6(a)に示すように、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に凹部13bを設けて当該凹部13bの一部、この場合、一面をスリット13aとしてもよい。この場合、凹部13b内に存在する絶縁性基板11bの一部は、スリット13aを介して、その上部の絶縁性基板11aに固定されている。
【0019】
また、図6(b)に示すように、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に段部13cを設けて当該段部13cの一部、この場合、一面をスリット13aとしてもよい。この場合、段部13c内に存在する絶縁性基板11cの一部は、スリット13aを介して、その上部の絶縁性基板11bに固定されており、段部13c内に存在する絶縁性基板11dの一部は、その上部の絶縁性基板11cに固定されている。さらに、図6(c)に示すように、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に、下方に延びるシールド片部13dと上方に延びるシールド片部13eとが電流検出器10の径方向において相互に対向する部分、つまり、オーバラップする部分を設けるようにしてもよい。
【0020】
また、図7に示すように、シールド部13は、電流検出器10の厚み方向に延びるシールド面形成用の複数のスルーホールピン13fを周方向に連続的に重ねて配置することにより形成するとともに、これら複数のスルーホールピン13fからなるシールド面に1層の未接続層13gを設けることによって1つのスリット13aを形成してもよい。この場合、未接続層13gは、スルーホールピン13fを電流検出器10の軸方向、つまり、厚み方向に分断することによって形成された層であり、分断されたスルーホールピン13fの各部が相互に未接続となった層である。なお、この未接続層13gを複数、つまり、1層以上設けることで、複数のスリット13aを形成するように構成してもよい。また、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分を、複数のスルーホールピン13fを重ねることなく周方向に連続的に配置することにより形成してもよい。
【0021】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図8から図11を参照しながら説明する。以下、第1実施形態と異なる点のみを説明する。図8に示すように、電流検出器20は、その中央部に当該電流検出器20を軸方向に貫通する開口部20aを有し、基板部21の内部に、電流検出用のコイル22と磁気遮蔽用のシールド部23とを備える。なお、この場合、開口部20aは、基板部21の中央部に当該基板部21を軸方向に貫通するように設けられた開口部21aからなる構成である。即ち、基板部21の開口部21aが電流検出器20の開口部20aを構成する。
【0022】
基板部21は、複数、この場合、12枚の絶縁性基板21A〜21Lが電流検出器20の厚み方向、換言すれば電流検出器20の軸方向に積層された構成である。即ち、この基板部21は、複数の絶縁性基板21A〜21Lを積層した積層基板である。電流検出器20は、この基板部21の内部にコイル22およびシールド部23を備える構成である。従って、電流検出器20は、その外郭が基板部21により形成された構成であり、電流検出器20の表面に基板部21の一部である絶縁性基板が露出した構成となっている。
コイル22は、この積層基板である基板部21の内部に設けられており、複数のコイル形成片22aおよび複数のスルーホールピン22bからなる巻線部22dと、この巻線部22d内を周方向に円環状に延びる戻線部22cとで構成されている。即ち、このコイル22も、いわゆる積層型のロゴスキーコイルとして構成されている。
【0023】
シールド部23は、非磁性の材料からなり、基板部21の内部において、上記のように構成されたコイル22を覆っている。そして、このシールド部23は、主として外部磁界および外部電界、つまり、電流検出器20の開口部20aを貫通した電流検出対象である導体以外の要素から発生する磁界および電界を遮蔽する機能を担う。そして、このシールド部23は、コイル22の内周部を覆う部分にスリット23aを有する。このスリット23aは、コイル22の周方向に沿って円環状に延び、当該コイル22と開口部20aとの間を開放する。即ち、シールド部23は、コイル22の内周部、つまり、開口部20aと対向する部分の一部を除き、コイル22のほぼ全体を覆う構成である。
【0024】
このスリット23aは、電流検出器20の厚み方向において、コイル22が存在する範囲内、換言すれば、当該コイル22に挟まれた絶縁性基板21E〜21Hが存在する範囲内に形成されている。また、このスリット23aは、電流検出器20の厚み方向において、コイル22の厚み以下、換言すれば、当該コイル22に挟まれた絶縁性基板21E〜21Hの厚みの和以下の開口幅を有している。
【0025】
図9に示すように、シールド部23の外側の側部(外側面部)および内側の側部(内側面部)は、基板部21の内部において電流検出器20の厚み方向に延びる複数のスルーホールピン23fを周方向に連続的に配置することにより形成されている。また、シールド部23の内側の側部においては、これら複数のスルーホールピン23fからなるシールド部23の内側部に1層の未接続層23gを設けることによって1つのスリット23aが形成されている。この場合、未接続層23gは、スルーホールピン23fを電流検出器20の軸方向、つまり、厚み方向に分断することによって形成された層であり、分断されたスルーホールピン23fの各部が相互に未接続となった層である。なお、この未接続層23gを複数、つまり、1層以上設けることで、シールド部23の側部に複数のスリット23aを形成するように構成してもよい。また、シールド部23のうちコイル12の内側部を覆う部分を、複数のスルーホールピン23fを重ねることなく周方向に連続的に配置することにより形成してもよい。
【0026】
また、シールド部23のうちスリット23aを有する面は、複数の絶縁性基板からなる基板部21のうち開口部21aの内周面を構成する部分によって覆われている。即ち、コイル22を覆うシールド部23は、電流検出対象である導体が貫通される電流検出器20の開口部20a(基板部21の開口部21aからなる部分)に露出しておらず、外部に開放することなく絶縁性の基板によって覆われるようになっている。
【0027】
次に、上記のようにシールド部23を基板部21の内部に設けた電流検出器20の製造方法について図10を参照しながら説明する。この場合、電流検出器20は、可撓性を有する樹脂製の絶縁性基板を複数枚積層し、それらを一括に熱プレスすることによって積層基板を形成する製造技術を利用して製造される。
即ち、図10(a)に示す絶縁性基板aは、例えば熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムを基材としている。この場合、熱可塑性樹脂は、例えば200℃付近で軟質となり、高温から温度低下すると硬質を保つ性質を有する。そして、このような熱可塑性樹脂からなる絶縁性基板aの片面には、例えば銅などの非磁性材料からなる金属箔bが貼り付けられている。
【0028】
次に、図10(b)および図10(c)の工程にそれぞれ移行する。図10(b)の工程では、金属箔bをエッチング処理することにより、シールド部23の上面または下面を構成するパターンcを形成する。また、絶縁性基板aのうちパターンcが形成されていない面には保護フィルムdを貼り付ける。一方、図10(c)の工程では、金属箔bを絶縁性基板aから剥離する。また、絶縁性基板aのうちパターンcが形成されていない面には保護フィルムdを貼り付ける。
【0029】
次に、図10(d)および図10(e)の工程にそれぞれ移行する。図10(d)の工程では、保護フィルムd側からレーザを照射して、パターンcを底面とする有底のスルーホールeを形成する。このとき、レーザの強度や照射時間などを調整することにより、パターンcに孔が開かないようにする。また、図10(e)の工程においても、保護フィルムd側からレーザを照射してスルーホールeを形成する。
次に、図10(f)および図10(g)の工程にそれぞれ移行する。これら図10(f)および図10(g)の工程では、スルーホールe内に、例えば銅などの非磁性材料からなる金属ペーストfを充填する。この金属ペーストfの充填は、例えばメタルマスクを用いたスクリーン印刷によって行うことが可能である。
【0030】
次に、図10(h)および図10(i)の工程にそれぞれ移行する。これら図10(h)および図10(i)の工程では、保護フィルムdを絶縁性基板aから剥離する。なお、以下の工程では、説明の便宜上、工程(b),(d),(f),(h)により生成した絶縁性基板、即ち、パターンcを有する絶縁性基板aを絶縁性基板a1と称し、工程(c),(e),(g),(i)により生成した絶縁性基板、即ち、パターンcを有しない絶縁性基板aを絶縁性基板a2と称する。
次に、図10(j)の工程に移行する。この工程では、2つの絶縁性基板a1の間に複数の絶縁性基板a2を積層する。また、複数の絶縁性基板a2を挟んだ両絶縁性基板a1を、さらに2つの絶縁性基板a3によって挟む。なお、絶縁性基板a3は、図10(a)の工程で示した金属箔b付きの絶縁性基板aから金属箔bを剥離したものであり、パターンcも金属ペーストfも有しない絶縁性基板である。
【0031】
次に、図10(k)の工程に移行する。この工程では、積層した絶縁性基板a1,a2,a3を熱プレスによって加圧する。この熱プレスは、例えば、200〜350℃で0.1〜10.0MPaの条件の下で行われる。これにより、絶縁性基板a1,a2,a3は、一旦軟化した状態で加圧され、相互に融着し、これにより、内部にシールド部23を有する基板部21が形成される。
この基板部21の完成状態においては、パターンcが金属ペーストfに一体化して基板部21の内部にシールド部23を形成する。この場合、パターンcがシールド部23の上面および下面を形成し、複数の金属ペーストfがスルーホールピン23fを形成する。
【0032】
次に、上記のように構成された電流検出器20について発明者が行ったシミュレーションの結果について図11を参照しながら説明する。なお、図11中、符号aは、電流検出器20の開口部20aに導体である図示しない給電部を挿通した場合において、当該給電部から発生する内部磁界に対する電流検出器20の検出感度を示している。また、符号bは、電流検出器20の開口部20aに導体である図示しない給電部を挿通した場合において、当該給電部から発生する内部電界に対する電流検出器20の検出感度を示している。また、符号cは、導体である図示しない給電部を電流検出器20から所定距離(例えば、0.5mm程)を有して水平に配置した場合、換言すれば、給電部を電流検出器20の軸方向に対して直交するように配置した場合において、当該給電部から発生する外部電界に対する電流検出器20の検出感度を示している。また、符号dは、導体である図示しない給電部を電流検出器20から所定距離(例えば、0.5mm程)を有して垂直に配置した場合、換言すれば、給電部を電流検出器20の軸方向に平行するように配置した場合において、当該給電部から発生する外部電界に対する電流検出器20の検出感度を示している。なお、給電部は、この場合、何れも50Ω程の内部インピーダンスを有するものを使用した。
【0033】
この図11に示すシミュレーション結果から明らかなように、電流検出器20の内部電界に対する検出感度(符号b参照)あるいは外部電界(符号c,d参照)に対する検出感度は、内部磁界に対する検出感度(符号a参照)よりも著しく低くなる。即ち、上記のように構成された電流検出器20は、内部電界あるいは外部電界の影響を受けにくく、開口部20aに挿通された導体から発生する内部磁界に対して高精度で反応することが確認された。
以上に説明した実施形態によれば、シールド部23を基板部21の内部に設けたので、シールド部23の外部にさらに絶縁性基板が存在する構成となり、電流検出対象である導体や周辺の他の回路と、シールド部23、さらには、当該シールド部23に覆われるコイル22との間の絶縁性を十分に確保することができる。これにより、より絶縁された状態で電流の検出処理を行うことができ、電流の検出精度を向上することができる。
【0034】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能であり、例えば、以下のように変形または拡張することができる。
コイル12,22は、いわゆるロゴスキーコイルに限られず、種々のコイルを採用することができ、例えばカレントトランスなどで構成してもよい。要は、環状に形成されたものであって、内側を貫通した導体を流れる電流を検出するコイルであればよい。また、コイル12,22は、円環状に限られず、例えば楕円環状、矩形環状、多角形環状に形成してもよい。また、開口部10a,20aは、円形状に限られず、例えば楕円形状、矩形状、多角形状に形成してもよい。
【0035】
基板11,21を構成する絶縁性基板は4枚,12枚に限られるものではない。要は、基板11,21は、複数の基板を積層した積層基板で構成することが好ましい。
また、シールド部13,23のうちコイル12,22の内側部を覆う部分に複数のスリット13a,23aを設けてもよい。
また、スリット13a,23aの開口幅は、電流検出用のコイルの種類、電流検出性能、形状、構成、大きさなどに応じて適宜変更して設定することができる。
上述した各実施形態を組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0036】
図面中、10,20は電流検出器、11,21は基板(積層基板)、12,22はコイル、12c,22cは戻線部、12d,22dは巻線部、13,23はシールド部、13a,23aはスリット、13f,23fはスルーホールピン、13g,23gは未接続層を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状に形成されたコイルを有し、当該コイルの内側を貫通した導体を流れる電流を検出する電流検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、環状に形成されたコイル、例えば積層型のロゴスキーコイルを有し、このコイルの内側を貫通した導体を流れる電流を検出する電流検出器が公知である。この種の電流検出器では、例えば特許文献1に開示されているように、不要な外部磁界の影響を抑えるべく、コイルを非磁性材料からなるシールド部によって覆うことが考えられている。
しかしながら、コイルをシールド部によって覆ってしまうと、電流を検出すべき導体からの磁界も遮蔽されてしまい、電流の検出感度が低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−85620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、不要な外部磁界や外部電界の影響を抑えつつ、電流の検出感度の低下を抑えることができる電流検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載した発明によれば、環状に形成されたコイルを覆うシールド部は、コイルの内側部を覆う部分に、コイルに沿って環状に延び当該コイルと外部とを連通するスリットを有している。従って、コイルの内側を貫通した導体からの磁界は、スリットを通してコイルに作用するようになる。これにより、コイルの内側部以外の部分ではシールド部によって不要な外部磁界や外部電界の影響を抑えることができ、しかも、コイルの内側部では電流検出対象である導体からの磁界が遮蔽されることなくコイルに作用することから、電流の検出感度の低下を抑えることができる。
この場合、請求項2に記載した発明のように、シールド部は、複数の絶縁性基板を積層した積層基板の内部に設けるとよい。この構成によれば、シールド部の外部にさらに絶縁性基板が存在する構成となる。これにより、より絶縁された状態で電流の検出処理を行うことができ、電流の検出精度を向上することができる。
【0006】
また、シールド部の形成態様およびスリットの形成態様としては、例えば請求項3に記載した発明のように、シールド部の少なくとも側部を、積層基板の内部において電流検出器の厚み方向に延びる複数のスルーホールピンを周方向に連続的に配置、つまり、連続的に配列することにより形成することが可能である。また、請求項4に記載した発明のように、コイル内側に対向するスリットは、これら複数のスルーホールピンからなるシールド部の側部に1層以上の未接続層を設けることによって形成することが可能である。
また、請求項5に記載した発明のように、シールド部のうちスリットを有する面は、電流検出対象である導体を貫通させるために積層基板に形成された開口部の内周面によって覆われる構成とするとよい。この構成によれば、コイルのうちスリットに対向する部分、つまり、シールド部によって覆われない部分が、積層基板を構成する絶縁性基板の一部により覆われる状態となり、これにより、当該部分の絶縁性を確保することができ、電流の検出精度を向上することができる。
【0007】
また、請求項6に記載した発明のように、スリットは、電流検出器の厚み方向において、コイルが存在する範囲内に形成されていることが好ましい。また、請求項7に記載した発明のように、スリットは、電流検出器の厚み方向において、コイルの厚み以下の開口幅を有していることが好ましい。
また、請求項8に記載した発明のように、コイルは、周方向にらせん状に巻回された巻線部と、巻線部内を周方向に延びる戻線部と、を有するコイル、いわゆるロゴスキーコイルで構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態を示すものであり、電流検出器の外観を示す斜視図
【図2】電流検出器の内部構成を示す縦断面図
【図3】コイルの構成を示す斜視図
【図4】電流検出対象を流れる電流の周波数と電流検出対象から発生する磁界の通過特性との関係を示す図
【図5】比較例を示す図2相当図
【図6】第1実施形態の変形例を示すものであり、電流検出器の一部を示す縦断面図
【図7】第1実施形態の変形例を示すものであり、シールド部のうちコイルの内側部を覆う部分を拡大して示す平面図(a)および縦断面図(b)
【図8】本発明の第2実施形態に係る図2相当図
【図9】(a)はシールド部のうち外側部および内側部を示す平面図、(b)はシールド部の縦断面図
【図10】電流検出器の製造方法を説明するための図
【図11】給電部を流れる電流の周波数と電流検出器の検出感度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1から図7を参照しながら説明する。図1に示すように、電流検出器10は、全体としてほぼ矩形板状をなし、その中央部に当該電流検出器10を貫通する開口部10aを有する。この場合、開口部10aは円形状に形成されている。電流検出対象である図示しない導体は、この開口部10aに挿通され、電流検出器10は、この状態で、その導体に流れる電流を検出する構成である。
【0010】
次に、この電流検出器10の内部構成について図2および図3を参照しながら説明する。図2に示すように、電流検出器10は、基板11と、電流検出用のコイル12と、シールド部13とを備える。
基板11は、複数、この場合、4枚の絶縁性基板11a〜11dが電流検出器10の厚み方向、換言すれば電流検出器10の軸方向に積層された構成である。即ち、この基板11は、複数の絶縁性基板11a〜11dを積層した積層基板である。この基板11は、その中央部に上記の開口部10aに対応する開口部11eを有する。
コイル12は、この積層基板である基板11に設けられており、図3にも示すように、複数のコイル形成片12aと、複数のスルーホールピン12bと、戻線部12cとで構成されている。
【0011】
コイル形成片12aは、それぞれ細長い板状に形成されている。これらコイル形成片12aは、基板11を構成する複数の絶縁性基板11a〜11dのうち任意の2層に形成されるものであり、この場合、中間層を構成する絶縁性基板11bの外側の面および絶縁性基板11cの外側の面にそれぞれ配置されている。この場合、絶縁性基板11bの外側の面は図2では上面となっており、絶縁性基板11cの外側の面は図2では下面となっている。複数のコイル形成片12aは、上記した開口部11eの周囲において、円環状に配列され、且つ、それぞれが放射状に指向した状態で配置される。スルーホールピン12bは、基板11の任意の2層、この場合、中間の2層を構成する絶縁性基板11b,11cに形成された複数のスルーホールにそれぞれ挿通され、上記のように配置された複数のコイル形成片12aを電気的に接続する。このように構成されたコイル形成片12aおよびスルーホールピン12bは、電流検出器10の周方向にらせん状に巻回された巻線部12dを形成する。
【0012】
戻線部12cは、細長い板状に形成され、その一端部が巻線部12dの一端部にスルーホールピン12bを介して電気的に接続され、且つ、他端部が上記のように構成された巻線部12d内を周方向に円環状に延びる。この戻線部12cは、この場合、基板11を構成する複数の絶縁性基板11a〜11dのうち中間の2層を構成する絶縁性基板11bの内側の面と絶縁性基板11cの内側の面との間に配置されている。この場合、絶縁性基板11bの内側の面は図2では下面となっており、絶縁性基板11cの内側の面は図2では上面となっている。巻線部12dの他端部および戻線部12cの他端部は、それぞれ外部の図示しない信号処理回路に電気的に接続されている。この信号処理回路は、コイル12が検出した電流の信号処理を実行して、電流検出対象である導体に流れる電流を特定するものである。
このように、電流検出器10の周方向にらせん状に巻回された巻線部12dと、この巻線部12d内を周方向に延びる戻線部12cとを有し、積層基板である基板11に設けられたコイル12は、いわゆる積層型のロゴスキーコイルとして構成されている。
【0013】
シールド部13は、非磁性の材料からなり、上記のように構成された基板11およびコイル12を覆って電流検出器10の外郭を構成する。このシールド部13は、主として外部磁界および外部電界、つまり、電流検出器10の開口部10aを貫通した電流検出対象である導体以外の要素から発生する磁界および電界を遮蔽する機能を担う。そして、このシールド部13は、基板11の内側部、換言すれば、コイル12の内周部である内側部を覆う部分であって上記の開口部10aに対応する部分にスリット13aを有する。このスリット13aは、コイル12に沿って円環状に延び、当該コイル12と外部、つまり、開口部10a内の空間とを連通する。
このスリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12が存在する範囲内、換言すれば、当該コイル12に挟まれた絶縁性基板11bおよび絶縁性基板11cが存在する範囲内に形成されている。また、このスリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12の厚み以下、換言すれば、当該コイル12に挟まれた絶縁性基板11bおよび絶縁性基板11cの厚みの和以下の開口幅を有している。
【0014】
以上に説明した本実施形態に係る電流検出器10によれば、開口部10aに挿通された電流検出対象である導体、つまり、コイル12の内側を貫通した導体から発生する磁界は、電流検出器10の外部と内部とを連通するスリット13aを通してコイル12に作用するようになる。これにより、コイル12の内側部以外の部分ではシールド部13によって不要な外部磁界および外部電界の影響を抑えることができ、しかも、コイル12の内側部では電流検出対象である導体からの磁界が遮蔽されることなくコイル12に作用することから、電流の検出感度の低下を抑えることができる。
【0015】
図4は、電流検出対象である導体を流れる電流の周波数と、その導体から発生する磁界の検出感度との関係を示している。導体から発生する磁界の検出感度とは、導体から発生する磁界がスリット13aを通過してコイル12に作用することで発生する誘導起電力の大きさ、つまり、電流検出器10が導体を流れる電流を検出する感度を示す。この図4に示すように、導体から発生する磁界の検出感度は、符号aで示すシールド部13にスリット13aを設けた場合の方が、符号bで示すシールド部13にスリット13aを設けない場合よりも大きくなる。従って、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分にスリット13aを設けることにより、導体を流れる電流の周波数に関わらず、コイル12による磁界の検出感度が上昇することが確認できる。
【0016】
また、例えば図5に示すように、スリット13aを電流検出器10の厚み方向においてコイル12が存在する範囲外、換言すれば、当該コイル12に挟まれた絶縁性基板11bおよび絶縁性基板11cが存在する範囲外に形成した構成では、コイル12による磁界の検出感度が著しく低下してしまうことが発明者の実験によって確認されている。そのため、上記したように、スリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12が存在する範囲内に形成することが好ましい。これにより、コイル12による磁界の検出感度が著しく低下してしまうことを回避することができる。
【0017】
また、上記したように、スリット13aは、電流検出器10の厚み方向において、コイル12の厚み以下の開口幅を有していることが好ましい。これにより、シールド部13による外部磁界および外部電界の遮蔽効果を十分に確保することができる。なお、スリット13aの開口幅は、コイル12の厚みに関わらず、少なくとも50μm以上であれば、コイル12による磁界の検出感度の低下が抑えられることが発明者の実験によって確認されている。なお、電流検出用のコイルの種類、電流検出性能、形状、構成、大きさなどが異なれば、スリット13aの開口幅が50μm以下であっても、そのコイルによる磁界の検出感度の低下が抑えられる場合も有り得る。
【0018】
なお、この実施形態においては、以下のような変形および拡張が可能である。即ち、スリット13aは、要は、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分において、当該コイル12に沿って環状に延び電流検出器10の外部と内部、つまり、コイル12と外部とを連通する構成であれば種々の構成を採用することができる。例えば、図6(a)に示すように、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に凹部13bを設けて当該凹部13bの一部、この場合、一面をスリット13aとしてもよい。この場合、凹部13b内に存在する絶縁性基板11bの一部は、スリット13aを介して、その上部の絶縁性基板11aに固定されている。
【0019】
また、図6(b)に示すように、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に段部13cを設けて当該段部13cの一部、この場合、一面をスリット13aとしてもよい。この場合、段部13c内に存在する絶縁性基板11cの一部は、スリット13aを介して、その上部の絶縁性基板11bに固定されており、段部13c内に存在する絶縁性基板11dの一部は、その上部の絶縁性基板11cに固定されている。さらに、図6(c)に示すように、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分に、下方に延びるシールド片部13dと上方に延びるシールド片部13eとが電流検出器10の径方向において相互に対向する部分、つまり、オーバラップする部分を設けるようにしてもよい。
【0020】
また、図7に示すように、シールド部13は、電流検出器10の厚み方向に延びるシールド面形成用の複数のスルーホールピン13fを周方向に連続的に重ねて配置することにより形成するとともに、これら複数のスルーホールピン13fからなるシールド面に1層の未接続層13gを設けることによって1つのスリット13aを形成してもよい。この場合、未接続層13gは、スルーホールピン13fを電流検出器10の軸方向、つまり、厚み方向に分断することによって形成された層であり、分断されたスルーホールピン13fの各部が相互に未接続となった層である。なお、この未接続層13gを複数、つまり、1層以上設けることで、複数のスリット13aを形成するように構成してもよい。また、シールド部13のうちコイル12の内側部を覆う部分を、複数のスルーホールピン13fを重ねることなく周方向に連続的に配置することにより形成してもよい。
【0021】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図8から図11を参照しながら説明する。以下、第1実施形態と異なる点のみを説明する。図8に示すように、電流検出器20は、その中央部に当該電流検出器20を軸方向に貫通する開口部20aを有し、基板部21の内部に、電流検出用のコイル22と磁気遮蔽用のシールド部23とを備える。なお、この場合、開口部20aは、基板部21の中央部に当該基板部21を軸方向に貫通するように設けられた開口部21aからなる構成である。即ち、基板部21の開口部21aが電流検出器20の開口部20aを構成する。
【0022】
基板部21は、複数、この場合、12枚の絶縁性基板21A〜21Lが電流検出器20の厚み方向、換言すれば電流検出器20の軸方向に積層された構成である。即ち、この基板部21は、複数の絶縁性基板21A〜21Lを積層した積層基板である。電流検出器20は、この基板部21の内部にコイル22およびシールド部23を備える構成である。従って、電流検出器20は、その外郭が基板部21により形成された構成であり、電流検出器20の表面に基板部21の一部である絶縁性基板が露出した構成となっている。
コイル22は、この積層基板である基板部21の内部に設けられており、複数のコイル形成片22aおよび複数のスルーホールピン22bからなる巻線部22dと、この巻線部22d内を周方向に円環状に延びる戻線部22cとで構成されている。即ち、このコイル22も、いわゆる積層型のロゴスキーコイルとして構成されている。
【0023】
シールド部23は、非磁性の材料からなり、基板部21の内部において、上記のように構成されたコイル22を覆っている。そして、このシールド部23は、主として外部磁界および外部電界、つまり、電流検出器20の開口部20aを貫通した電流検出対象である導体以外の要素から発生する磁界および電界を遮蔽する機能を担う。そして、このシールド部23は、コイル22の内周部を覆う部分にスリット23aを有する。このスリット23aは、コイル22の周方向に沿って円環状に延び、当該コイル22と開口部20aとの間を開放する。即ち、シールド部23は、コイル22の内周部、つまり、開口部20aと対向する部分の一部を除き、コイル22のほぼ全体を覆う構成である。
【0024】
このスリット23aは、電流検出器20の厚み方向において、コイル22が存在する範囲内、換言すれば、当該コイル22に挟まれた絶縁性基板21E〜21Hが存在する範囲内に形成されている。また、このスリット23aは、電流検出器20の厚み方向において、コイル22の厚み以下、換言すれば、当該コイル22に挟まれた絶縁性基板21E〜21Hの厚みの和以下の開口幅を有している。
【0025】
図9に示すように、シールド部23の外側の側部(外側面部)および内側の側部(内側面部)は、基板部21の内部において電流検出器20の厚み方向に延びる複数のスルーホールピン23fを周方向に連続的に配置することにより形成されている。また、シールド部23の内側の側部においては、これら複数のスルーホールピン23fからなるシールド部23の内側部に1層の未接続層23gを設けることによって1つのスリット23aが形成されている。この場合、未接続層23gは、スルーホールピン23fを電流検出器20の軸方向、つまり、厚み方向に分断することによって形成された層であり、分断されたスルーホールピン23fの各部が相互に未接続となった層である。なお、この未接続層23gを複数、つまり、1層以上設けることで、シールド部23の側部に複数のスリット23aを形成するように構成してもよい。また、シールド部23のうちコイル12の内側部を覆う部分を、複数のスルーホールピン23fを重ねることなく周方向に連続的に配置することにより形成してもよい。
【0026】
また、シールド部23のうちスリット23aを有する面は、複数の絶縁性基板からなる基板部21のうち開口部21aの内周面を構成する部分によって覆われている。即ち、コイル22を覆うシールド部23は、電流検出対象である導体が貫通される電流検出器20の開口部20a(基板部21の開口部21aからなる部分)に露出しておらず、外部に開放することなく絶縁性の基板によって覆われるようになっている。
【0027】
次に、上記のようにシールド部23を基板部21の内部に設けた電流検出器20の製造方法について図10を参照しながら説明する。この場合、電流検出器20は、可撓性を有する樹脂製の絶縁性基板を複数枚積層し、それらを一括に熱プレスすることによって積層基板を形成する製造技術を利用して製造される。
即ち、図10(a)に示す絶縁性基板aは、例えば熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムを基材としている。この場合、熱可塑性樹脂は、例えば200℃付近で軟質となり、高温から温度低下すると硬質を保つ性質を有する。そして、このような熱可塑性樹脂からなる絶縁性基板aの片面には、例えば銅などの非磁性材料からなる金属箔bが貼り付けられている。
【0028】
次に、図10(b)および図10(c)の工程にそれぞれ移行する。図10(b)の工程では、金属箔bをエッチング処理することにより、シールド部23の上面または下面を構成するパターンcを形成する。また、絶縁性基板aのうちパターンcが形成されていない面には保護フィルムdを貼り付ける。一方、図10(c)の工程では、金属箔bを絶縁性基板aから剥離する。また、絶縁性基板aのうちパターンcが形成されていない面には保護フィルムdを貼り付ける。
【0029】
次に、図10(d)および図10(e)の工程にそれぞれ移行する。図10(d)の工程では、保護フィルムd側からレーザを照射して、パターンcを底面とする有底のスルーホールeを形成する。このとき、レーザの強度や照射時間などを調整することにより、パターンcに孔が開かないようにする。また、図10(e)の工程においても、保護フィルムd側からレーザを照射してスルーホールeを形成する。
次に、図10(f)および図10(g)の工程にそれぞれ移行する。これら図10(f)および図10(g)の工程では、スルーホールe内に、例えば銅などの非磁性材料からなる金属ペーストfを充填する。この金属ペーストfの充填は、例えばメタルマスクを用いたスクリーン印刷によって行うことが可能である。
【0030】
次に、図10(h)および図10(i)の工程にそれぞれ移行する。これら図10(h)および図10(i)の工程では、保護フィルムdを絶縁性基板aから剥離する。なお、以下の工程では、説明の便宜上、工程(b),(d),(f),(h)により生成した絶縁性基板、即ち、パターンcを有する絶縁性基板aを絶縁性基板a1と称し、工程(c),(e),(g),(i)により生成した絶縁性基板、即ち、パターンcを有しない絶縁性基板aを絶縁性基板a2と称する。
次に、図10(j)の工程に移行する。この工程では、2つの絶縁性基板a1の間に複数の絶縁性基板a2を積層する。また、複数の絶縁性基板a2を挟んだ両絶縁性基板a1を、さらに2つの絶縁性基板a3によって挟む。なお、絶縁性基板a3は、図10(a)の工程で示した金属箔b付きの絶縁性基板aから金属箔bを剥離したものであり、パターンcも金属ペーストfも有しない絶縁性基板である。
【0031】
次に、図10(k)の工程に移行する。この工程では、積層した絶縁性基板a1,a2,a3を熱プレスによって加圧する。この熱プレスは、例えば、200〜350℃で0.1〜10.0MPaの条件の下で行われる。これにより、絶縁性基板a1,a2,a3は、一旦軟化した状態で加圧され、相互に融着し、これにより、内部にシールド部23を有する基板部21が形成される。
この基板部21の完成状態においては、パターンcが金属ペーストfに一体化して基板部21の内部にシールド部23を形成する。この場合、パターンcがシールド部23の上面および下面を形成し、複数の金属ペーストfがスルーホールピン23fを形成する。
【0032】
次に、上記のように構成された電流検出器20について発明者が行ったシミュレーションの結果について図11を参照しながら説明する。なお、図11中、符号aは、電流検出器20の開口部20aに導体である図示しない給電部を挿通した場合において、当該給電部から発生する内部磁界に対する電流検出器20の検出感度を示している。また、符号bは、電流検出器20の開口部20aに導体である図示しない給電部を挿通した場合において、当該給電部から発生する内部電界に対する電流検出器20の検出感度を示している。また、符号cは、導体である図示しない給電部を電流検出器20から所定距離(例えば、0.5mm程)を有して水平に配置した場合、換言すれば、給電部を電流検出器20の軸方向に対して直交するように配置した場合において、当該給電部から発生する外部電界に対する電流検出器20の検出感度を示している。また、符号dは、導体である図示しない給電部を電流検出器20から所定距離(例えば、0.5mm程)を有して垂直に配置した場合、換言すれば、給電部を電流検出器20の軸方向に平行するように配置した場合において、当該給電部から発生する外部電界に対する電流検出器20の検出感度を示している。なお、給電部は、この場合、何れも50Ω程の内部インピーダンスを有するものを使用した。
【0033】
この図11に示すシミュレーション結果から明らかなように、電流検出器20の内部電界に対する検出感度(符号b参照)あるいは外部電界(符号c,d参照)に対する検出感度は、内部磁界に対する検出感度(符号a参照)よりも著しく低くなる。即ち、上記のように構成された電流検出器20は、内部電界あるいは外部電界の影響を受けにくく、開口部20aに挿通された導体から発生する内部磁界に対して高精度で反応することが確認された。
以上に説明した実施形態によれば、シールド部23を基板部21の内部に設けたので、シールド部23の外部にさらに絶縁性基板が存在する構成となり、電流検出対象である導体や周辺の他の回路と、シールド部23、さらには、当該シールド部23に覆われるコイル22との間の絶縁性を十分に確保することができる。これにより、より絶縁された状態で電流の検出処理を行うことができ、電流の検出精度を向上することができる。
【0034】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能であり、例えば、以下のように変形または拡張することができる。
コイル12,22は、いわゆるロゴスキーコイルに限られず、種々のコイルを採用することができ、例えばカレントトランスなどで構成してもよい。要は、環状に形成されたものであって、内側を貫通した導体を流れる電流を検出するコイルであればよい。また、コイル12,22は、円環状に限られず、例えば楕円環状、矩形環状、多角形環状に形成してもよい。また、開口部10a,20aは、円形状に限られず、例えば楕円形状、矩形状、多角形状に形成してもよい。
【0035】
基板11,21を構成する絶縁性基板は4枚,12枚に限られるものではない。要は、基板11,21は、複数の基板を積層した積層基板で構成することが好ましい。
また、シールド部13,23のうちコイル12,22の内側部を覆う部分に複数のスリット13a,23aを設けてもよい。
また、スリット13a,23aの開口幅は、電流検出用のコイルの種類、電流検出性能、形状、構成、大きさなどに応じて適宜変更して設定することができる。
上述した各実施形態を組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0036】
図面中、10,20は電流検出器、11,21は基板(積層基板)、12,22はコイル、12c,22cは戻線部、12d,22dは巻線部、13,23はシールド部、13a,23aはスリット、13f,23fはスルーホールピン、13g,23gは未接続層を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成され、内側を貫通した導体を流れる電流を検出するコイルと、
前記コイルを覆うシールド部と、
を備える電流検出器であって、
前記シールド部は、前記コイルの内側部を覆う部分に、前記コイルに沿って環状に延び当該コイルと外部とを連通するスリットを有する電流検出器。
【請求項2】
前記シールド部は、複数の絶縁性基板を積層した積層基板の内部に設けられている請求項1に記載の電流検出器。
【請求項3】
前記シールド部の側部は、前記積層基板の内部において厚み方向に延びる複数のスルーホールピンを周方向に連続的に配置することにより形成されている請求項2に記載の電流検出器。
【請求項4】
前記スリットは、複数の前記スルーホールピンからなる前記シールド部の側部に1層以上の未接続層を設けることによって形成されている請求項3に記載の電流検出器。
【請求項5】
前記積層基板は、前記導体を貫通させるための開口部を有し、
前記シールド部のうち前記スリットを有する面は、前記開口部の内周面によって覆われている請求項2から4の何れか1項に記載の電流検出器。
【請求項6】
前記スリットは、前記電流検出器の厚み方向において、前記コイルが存在する範囲内に形成されている請求項1から5の何れか1項に記載の電流検出器。
【請求項7】
前記スリットは、前記電流検出器の厚み方向において、前記コイルの厚み以下の開口幅を有している請求項1から6の何れか1項に記載の電流検出器。
【請求項8】
前記コイルは、
周方向にらせん状に巻回された巻線部と、
前記巻線部内を周方向に延びる戻線部と、
を有する請求項1から7の何れか1項に記載の電流検出器。
【請求項1】
環状に形成され、内側を貫通した導体を流れる電流を検出するコイルと、
前記コイルを覆うシールド部と、
を備える電流検出器であって、
前記シールド部は、前記コイルの内側部を覆う部分に、前記コイルに沿って環状に延び当該コイルと外部とを連通するスリットを有する電流検出器。
【請求項2】
前記シールド部は、複数の絶縁性基板を積層した積層基板の内部に設けられている請求項1に記載の電流検出器。
【請求項3】
前記シールド部の側部は、前記積層基板の内部において厚み方向に延びる複数のスルーホールピンを周方向に連続的に配置することにより形成されている請求項2に記載の電流検出器。
【請求項4】
前記スリットは、複数の前記スルーホールピンからなる前記シールド部の側部に1層以上の未接続層を設けることによって形成されている請求項3に記載の電流検出器。
【請求項5】
前記積層基板は、前記導体を貫通させるための開口部を有し、
前記シールド部のうち前記スリットを有する面は、前記開口部の内周面によって覆われている請求項2から4の何れか1項に記載の電流検出器。
【請求項6】
前記スリットは、前記電流検出器の厚み方向において、前記コイルが存在する範囲内に形成されている請求項1から5の何れか1項に記載の電流検出器。
【請求項7】
前記スリットは、前記電流検出器の厚み方向において、前記コイルの厚み以下の開口幅を有している請求項1から6の何れか1項に記載の電流検出器。
【請求項8】
前記コイルは、
周方向にらせん状に巻回された巻線部と、
前記巻線部内を周方向に延びる戻線部と、
を有する請求項1から7の何れか1項に記載の電流検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−47660(P2013−47660A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29421(P2012−29421)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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