説明

電源回路

【課題】並列接続された直流電源3間における横流を防ぐとともに、電力損失の少ない電源回路5を提供する。
【解決手段】移動体に搭載された複数の直流電源3を並列接続点511を介して接続し、移動体搭載装置に電力を供給する電力供給経路51と、前記並列接続点511と1の直流電源3を除くその他の直流電源3との間に設けられた電流方向制御素子52と、前記電力供給経路51を流れる電流を検出する電流検出部53と、前記電流検出部53からの検出信号を受信して、前記電流方向制御素子52が設けられた経路の電流値の合計が、前記並列接続点511から移動体搭載装置側における経路の電流値以下となるように、前記1の直流電源3又はその他の直流電源3を制御する制御部54と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や船舶などの移動体に搭載される移動体搭載装置に電力を供給するための電源回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数の直流電源を負荷に対して並列に接続する場合、それら直流電源間の横流を防止するため、ダイオードORによる並列回路が用いられている。
【0003】
しかしながら、この回路では、ダイオードの順方向電圧降下Vfとダイオードに流れる順方向の電流Ifとの積が電力損失となってしまうという問題がある。特に大きな電流を流す場合、この電力損失は無視できなくなる。
【0004】
また、直流電源が電池により構成されている場合は、不要な電力消費となり、負荷に接続される各種装置の駆動時間の減少に繋がってしまう。
【0005】
このような問題点を解決するため、特許文献1に示すように、ダイオードとスイッチ素子とを組み合わせてダイオードにおける無駄な電力損失を避けるものがあるが、回路構成が複雑となってしまうという問題がある。
【0006】
ところで、移動体搭載装置としては、自動車等の車両に搭載され、車両中の内燃機関から排出される排ガスを測定するための車載型の排ガス分析装置がある。
【0007】
この排ガス測定装置を用いて自動車の実走行中に測定を行う場合、実験室等に設置された場合と異なり、持ち運び可能なバッテリーで構成される専用電源を測定装置と共に自動車に搭載し、この専用電源及び自動車に搭載されている車両用バッテリー(エンジンバッテリー)から電力を供給している。そして、このとき、専用電源と車両用バッテリーを並列に接続しており、上記同様に、直流電源間の横流を防止するため、ダイオードORによる並列回路を用いる必要がある。
【0008】
しかしながら、車両用バッテリー及び専用電源は、重量及び体積を小さくしなければならない制限の下で、容量をやみくもに大きくすることができず、それ故ダイオードによる電力損失が無視できないという問題がある。また、電力損失により排ガス分析装置の稼働時間を短くしてしまうという問題がある。
【特許文献1】特開2001−255965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、極めて簡単な回路構成でありながら、直流電源間の横流を防止しつつ、電力損失の少ない電源回路を提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る移動体搭載装置用電源回路は、移動体に搭載された複数の直流電源を並列接続点を介して接続し、移動体搭載装置に電力を供給する電力供給経路と、前記並列接続点と1の直流電源を除くその他の直流電源との間に設けられた電流方向制御素子と、前記電力供給経路を流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部からの検出信号を受信して、前記電流方向制御素子が設けられた経路の電流値の合計が、前記並列接続点から移動体搭載装置側における経路の電流値以下となるように、前記1の直流電源又はその他の直流電源を制御する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、極めて簡単な回路構成でありながら、電流方向制御手段が設けられている経路の電流値が、並列接続点から移動体搭載装置側における電流値以下としているので、電流方向制御手段が設けられている経路から、電流方向制御手段が設けられていない経路に電流が流れることがなく、直流電源間の横流(直流電源間で充電電流が流れること)を防止することができる。また、電流方向制御手段の数を少なくすることができるので、電力損失を可及的に抑制することができる。
【0012】
電流方向制御素子の具体例としては、ダイオード又はFET(電界効果トランジスタ)等のスイッチ素子が考えられる。特にFETを用いた場合には、さらに電力損失を低減することができる。
【0013】
電力供給回路の具体的な実施の形態としては、前記電力供給経路が、2つの直流電源を並列接続点を介して接続するものであることが望ましい。
【0014】
前記電流検出部としてホール素子センサを用いた場合には、前記電流方向制御素子が設けられた経路を構成する配線、及び前記並列接続点から前記移動体搭載装置側における経路を構成する配線が、その電流方向が逆方向となるように1つのホール素子に挿入されていることが望ましい。ホール素子センサからの検出信号により電流方向制御素子が設けられた経路を流れる電流値と並列接続点から移動体搭載装置側における経路を流れる電流値との比較を容易に行うことができる。
【0015】
移動体がエンジン駆動される車両であれば本発明の効果を一層顕著にすることができる。
【0016】
そして、前記移動体搭載装置が、エンジン駆動される車両から排出される排ガスを分析する排ガス分析装置であることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、極めて簡単な回路構成でありながら、直流電源間の横流を防止しつつ、電力損失の少ない電源回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態に係る電源回路を用いた移動体搭載システム1について、図面を参照して説明する。なお、図1は、本実施形態に係る移動体搭載システム1の模式的構成図である。
【0019】
<装置構成>
本実施形態に係る移動体搭載システム1は、内燃機関(エンジン)により駆動される自動車等の車両に搭載され、車両中の内燃機関から排出される排ガスを測定するための車載型の排ガス測定システムである。
【0020】
具体的に、このものは、図1に示すように、排ガス分析装置2と、当該排ガス分析装置2に電力を供給するための排ガス分析装置用電源3と、車両用バッテリー4と、排ガス分析装置用電源3及び車両用バッテリー4からの電力を前記排ガス分析装置2に供給する電源回路5とを備えている。
【0021】
以下、各部2〜5について説明する。
【0022】
排ガス分析装置2は、測定本体部と、その測定本体部からの測定値を分析して出力する情報処理装置等を備えている。測定本体部は、排ガス中に含まれるCOやNO等の各成分濃度を測定するため測定部を複数備えており、前記測定部としては、例えば赤外線吸収によって前記成分濃度を測定する赤外線ガス分析計や、水素炎イオン化分析計、CLD式NO計等を用いている。また、測定部本体には、車両の内燃機関(エンジン)から排出された排ガスをその内部に導入するための排ガス導入路が接続されるとともに、測定終了後の排ガスを外部に排出する排出路が接続されている
【0023】
排ガス分析装置用電源3(以下、単に「専用電源3」という。)は、排ガス分析装置2に電力を供給するためのメインの直流電源であり、この専用電源3からの電力は、電力供給経路51を介して排ガス分析装置2に供給される。本実施形態において、専用電源3は、例えば12[V]の再充電可能なバッテリーが用いられている。
【0024】
車両用バッテリー4は、車両内に設けられており、例えば12[V]の再充電可能なものである。
【0025】
電源回路5は、車両用バッテリー4及び専用電源3を並列接続点511を介して並列に接続し、排ガス分析装置2に電力を供給する電力供給経路51と、並列接続点511と専用電源3との間に設けられた電流方向制御素子52と、電力供給経路51を流れる電流値を検出する電流検出部53と、その電流検出部53からの検出信号を受信して、前記専用電源3を制御する制御部54と、を備えている。
【0026】
電力供給経路51は、専用電源3が接続される第1供給路51Aと、車両用バッテリー4が接続される第2供給路51Bとを備え、それらは並列接続点511で接続され、さらに、その並列接続点511と排ガス分析装置2とを接続する第3供給路51Cを備えている。
【0027】
電流方向制御素子52は、専用電源3が接続される第1供給路51A上に設けられて、専用電源3からの放電方向への電流は通すが、専用電源3への充電方向への電流は通さないものであり、本実施形態では、ダイオードを用いている。
【0028】
電流検出部53は、第1供給路51Aを流れる電流値I及び第3供給路51Cを流れる電流値Iを検出して、その検出信号を制御部54に出力するものである。本実施形態では、いわゆる貫通型のホール素子センサを用いている。このホール素子センサ53は、貫通孔に電力供給経路51を構成する配線が挿入され、その配線を流れる電流により発生する磁界を検出し、その磁界に比例するホール電圧を示す電気信号を出力する。
【0029】
そして、本実施形態では、1つのホール素子センサ53の貫通孔に、第1供給路51Aを構成する配線及び第3供給路51Cを構成する配線が、それらに流れる電流方向が逆方向となるように挿入されている。このとき、第1供給路51Aを流れる電流値Iと、第3供給路51Cを流れる電流値Iとが同じ場合には、ホール素子センサ53のホール電圧はゼロであり、出力信号はゼロである。また、第1供給路51Aを流れる電流値Iが大きい場合には、正電圧の出力信号を出力し、第3供給路51Cを流れる電流値Iが大きい場合には、負電圧の出力信号を出力する。なお、ホール電圧の正負は、ホール素子センサ53の向きにより適宜設定される。
【0030】
制御部54は、電流検出部53からの検出信号を受信して、電流方向制御素子52を設けている経路(第1供給路51A)から、その素子を設けていない経路(第2供給路51B)に電流が流れないように専用電源3を制御するものである。
【0031】
具体的には、制御部54は、専用電源3からの電流値(第1供給路51Aを流れる電流値I)が、排ガス分析装置2への供給電流値(第3供給路51Cを流れる電流値I)以下となるように、つまり、I=I、又は、I<Iとなるように、専用電源3を制御する。このとき、制御部54は、ホール素子センサ53から、ホール電圧がゼロまたは負電圧であることを示す出力信号を受信する。
【0032】
そして、第1供給路51Aを流れる電流値Iが第3供給路51Cを流れる電流値Iと等しく又は小さく保たれているので、車両用バッテリー4からの電流値(第2供給路51Bを流れる電流値I)はゼロ又は放電方向のみとなり、専用電源3から車両用バッテリー4への充電方向への電流を禁止できる。
【0033】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る排ガス測定システム1によれば、極めて簡単な回路構成でありながら、並列に接続した専用電源3と車両用バッテリー4との間で横流(専用電源3から車両用バッテリー4への充電方向の電流)を防止することができる。また、車両用バッテリー4と並列接続点511との間(第2供給路51B)にダイオード52を設ける必要がないため、電力損失を低減することができる。したがって、排ガス分析装置2の駆動時間を可及的に延長することができる。
【0034】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。以下の説明において前記実施形態に対応する部材には同一の符号を付すこととする。
【0035】
例えば、前記実施形態では、電流方向制御素子52を第1供給路51A上に設けるようにしているが、第2供給路51B上に設け、制御部54によって専用電源3ではなく車両用バッテリー4を制御するようにしても良い(ただし車両用バッテリー4が外部制御可能なものである場合に限る)。
【0036】
また、電流方向制御素子52としては、ダイオードの他にもFET(電界効果トランジスタ)等のスイッチ素子を用いても良い。
【0037】
この場合、制御部54等が、専用電源3から電流が流れだそうとするとき、すなわちスイッチ素子の専用電源側の端子電圧が負荷側の端子電圧以上のときのみ、スイッチ素子の制御端子を制御して当該スイッチ素子を閉じるように(ON状態となるように)制御すれば、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。そして、スイッチ素子に低ON抵抗の品種を選ぶことにより、並列接続点511の専用電源3側(第1供給路51A)における電力損失も低減することができる。
【0038】
さらに、電流検出部53としては、並列接続点511の専用電源3側(第1供給路51A)と並列接続点511の分析装置2側(第3供給路51C)との電流値I、Iを個別に検出するものであっても良い。このとき、制御部54は、それぞれの測定値I、Iをアナログ減算回路で演算し差分を求めることにより、第1供給路51Aを流れる出力電流値Iを制御する。
【0039】
加えて、電流検出部53として抵抗を用いても良い。このとき、第1供給路51Aを流れる電流値I及び第3供給路51Cを流れる電流値Iをそれぞれ抵抗電圧降下で測定し、制御部54が測定値I、Iをアナログ減算回路で演算して差分を求めることにより、第1供給路51Aを流れる出力電流値Iを制御する。
【0040】
また、前記実施形態では、制御部54が、第1供給路51Aを流れる電流値Iが、第3供給路51Cを流れる電流値I以下となるように専用電源3を制御するものであったが、負荷2が前記電流値I以上の電流を消費している場合には、第2供給路51Bを流れる電流値Iがゼロより大きくなるように、車両用バッテリー4を制御するようにしても良い。
【0041】
さらに加えて、前記実施形態では、電源回路5は2つの直流電源を並列接続したものであったが、3つ以上の直流電源の電力を排ガス分析装置2に供給するものであっても良い。
【0042】
具体的に電源回路5は、複数の直流電源(専用電源3及び車両用バッテリー4を含む。)を並列接続点511を介して接続し、排ガス分析装置2に電力を供給する電力供給経路51と、並列接続点511と1の直流電源(例えば車両用バッテリー4)を除くその他の直流電源との間に設けられた電流方向制御素子52と、並列接続点511と前記その他の直流電源との間を流れる電流値を検出する電流検出部53と、電流検出部53からの検出信号を受信して、並列接続点511と前記その他の直流電源との間を流れる電流値の合計が、前記並列接続点511から排ガス分析装置2側における経路の電流値以下となるように、前記その他の直流電源を制御する制御部54と、を備えている。
【0043】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動体搭載システムの模式的構成図。
【符号の説明】
【0045】
1・・・・・移動体搭載システム(車載型排ガス分析システム)
2・・・・・排ガス分析装置
3・・・・・専用電源
4・・・・・車両用バッテリー
5・・・・・電源回路
51・・・・電力供給経路
511・・・並列接続点
52・・・・電流方向制御素子
53・・・・電流検出部
54・・・・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載された複数の直流電源を並列接続点を介して接続し、移動体搭載装置に電力を供給する電力供給経路と、
前記並列接続点と1の直流電源を除くその他の直流電源との間に設けられた電流方向制御素子と、
前記電力供給経路を流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部からの検出信号を受信して、前記電流方向制御素子が設けられた経路の電流値の合計が、前記並列接続点から移動体搭載装置側における経路の電流値以下となるように、前記1の直流電源又はその他の直流電源を制御する制御部と、を備えている電源回路。
【請求項2】
前記電流方向制御素子が、ダイオードである請求項1記載の電源回路。
【請求項3】
前記電流方向制御素子が、FETである請求項1記載の電源回路。
【請求項4】
前記電力供給経路が、2つの直流電源を並列接続点を介して接続するものである請求項1、2又は3記載の電源回路。
【請求項5】
前記電流検出部が、ホール素子センサであり、
前記電流方向制御素子が設けられた経路を構成する配線、及び前記並列接続点から前記移動体搭載装置側における経路を構成する配線が、その電流方向が逆方向となるように1つのホール素子センサに挿入されていることを特徴とする請求項4記載の移動体搭載装置用電源回路。
【請求項6】
前記移動体が、エンジン駆動される車両である請求項1、2、3、4又は5記載の電源回路。
【請求項7】
前記移動体搭載装置が、エンジン駆動される車両から排出される排ガスを分析する排ガス分析装置である請求項6記載の電源回路。

【図1】
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【公開番号】特開2008−228463(P2008−228463A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63993(P2007−63993)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】