電源装置のディジタル制御器
【課題】従来よりも負荷急変特性を効果的に改善できる電源装置のディジタル制御器を提供する。
【解決手段】入力電圧Viを出力電圧Voに変換して負荷3に供給する電源装置のロバストディジタル制御器20は、出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するコントローラ22と、この操作量ξ1を、電源装置を動作させるための信号に変換するPWMジェネレータ23を備え、入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素を接続し、この等価外乱Qからのフィードフォワードを、出力電圧Voおよび操作量ξ1からのフィードバックで置き換えることで、伝達関数WQy(z)の特性が3次微分特性となるようにコントローラ22を構成している。
【解決手段】入力電圧Viを出力電圧Voに変換して負荷3に供給する電源装置のロバストディジタル制御器20は、出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するコントローラ22と、この操作量ξ1を、電源装置を動作させるための信号に変換するPWMジェネレータ23を備え、入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素を接続し、この等価外乱Qからのフィードフォワードを、出力電圧Voおよび操作量ξ1からのフィードバックで置き換えることで、伝達関数WQy(z)の特性が3次微分特性となるようにコントローラ22を構成している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電力増幅器などの電源装置に組み込まれ、負荷に供給する出力電圧に対して制御を行なうディジタル制御器に関し、とりわけ広域な負荷変動や電源電圧変動に対しても、単独の構成で対応できる電源装置のディジタル制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換回路としてパルス幅変調(PWM)スイッチング回路を用いると共に、ノイズ除去のために電力変換回路と負荷との間にLCフィルタを挿入し、更に負荷に供給する出力電圧が指令信号に比例するようフィードバック制御系を構成したPWM電力増幅器が、電源装置として用いられている。このとき負荷の特性はキャパシティブからインダクティブと広く、大きさもゼロから最大定格までと大幅に変動する。そこで、このような広範な負荷変動に対しても、また直流電源の電圧変動に対しても、1個の制御器で対応できるいわゆるロバストなPWM電力増幅器が必要とされる。
【0003】
このようなPWM電力増幅器において、制御器へのノイズの影響を小さくするにはフィードバック信号が少ない方が好ましく、また電流検知センサは一般に高価であるため、電圧フィードバックのみを用いた制御器を得ることが望ましい。
【0004】
そこで、上記要求を満たすPWM電力増幅器におけるロバストディジタル制御器の設計方法が、非特許文献1に提案されている。
【0005】
ディジタルフィードバック制御系は、アナログフィードバック制御系よりも大きな入力無駄時間が生じる。この入力無駄時間は主にDSPの演算時間遅れや、アナログからディジタル(AD)への変換時間およびディジタルからアナログ(DA)への変換時間や、三角波比較部の遅れ等によるものである。この点に着目し、上記非特許文献1では、入力無駄時間と電流フィードバックの電圧フィードバックへの変換を考慮して、制御対象(PWM信号発生部と電力変換回路とLCフィルタ)を連続時間系より次数が2次高い離散時間系で表現し、これに対して与えられた目標特性を達成する状態フィードバック系の構成を提示している。またここでは、当該状態フィードバック系を電圧のみ用いた出力フィードバック系に等価変換した上で、この出力フィードバック系を近似して得られるロバスト補償器を結合すると、目標値と制御量および外乱と制御量の各特性を独立して制御する近似的2自由度のディジタルロバスト制御系が構成できると共に、このディジタルロバスト制御系を等価変換することで、電圧フィードバックのみを用いたディジタル積分形制御器が得られることを提示している。
【0006】
しかし、非特許文献1では、一次近似モデルを実現する近似的な2自由度ロバストディジタル制御系の構成法が示されているが、こうした制御系を組み入れたロバストディジタル制御器では、近似度を上げると同時に制御入力を抑えるのが困難であった。そこで、誰でも容易に高近似で制御入力の大きさの考慮の必要のないロバストディジタル制御器の設計装置を提供する必要があった。
【0007】
また、非特許文献1で提案した2自由度ロバストディジタル制御系に関し、ロバストディジタル制御器の近似度を上げる明確なパラメータの決定手段は示されていない。そのためパラメータの決定には多大な思考錯誤を必要とし、非常に手間がかかった。そこで誰でも容易に設計できる明確なパラメータの決定手段を示す必要があった。
【0008】
上述した問題点を解決すべく、特許文献1には、近似度が高く、しかも制御入力の大きさを考慮する必要のない新規な2自由度ロバストディジタル制御系を組み込んだロバストディジタル制御器の設計装置が提案された。ここでは、目標値から出力電圧までの応答を決定するモデルマッチングシステムを想定し、そのシステムに逆システムとフィルタを接続してロバストなシステムを再構築することで、DC−DCコンバータを含むスイッチング電源装置に適用する2自由度ディジタル積分形制御器を得る手法が示されている。
【0009】
ところで近年は、負荷や入力電圧の急変による出力電圧の変動を抑える要求が一層厳しくなっており、DC−DCコンバータとしての仕様を満足させるのが困難になっている。そうした仕様を満足するために、別な特許文献2や非特許文献2には、等価外乱から出力電圧までの伝達関数に零点を一つ追加し、2次微分特性を実現した近似的自由度制御系も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−50723号公報
【特許文献2】国際公開第2008/072618号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】樋口幸治,中野和司,荒木邦彌,茅野文穂,“電圧フィードバックのみを用いた近似的2自由度ディジタル積分形制御によるロバストPWM電力増幅器の設計”,電子情報通信学会論文誌,2002年10月,Vol.J-85-C,No.10,pp.1-11
【非特許文献2】竹上栄治,樋口幸治,中野和司,“二次微分外乱特性付加近似的2DOFディジタル制御器によるDC−DCコンバータのロバスト制御”,電気学会論文誌,2009年,Vol.129-D,No.12,pp.1137-1146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した経緯によって、スイッチング電源装置などのロバスト制御を実現するディジタル制御器は、技術的な進歩を遂げてきたが、従来よりもさらに負荷急変特性や入力電圧特性を効果的に改善したディジタル制御器の開発が必要となってきた。
【0013】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、従来よりも負荷急変特性や入力電圧特性を効果的に改善できる電源装置のディジタル制御器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、入力電圧を出力電圧Voに変換して負荷に供給する電源装置のディジタル制御器であって、前記出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するように構成された操作量演算部と、前記操作量ξ1を、前記電源装置を動作させるための信号に変換する信号生成部とを備え、前記入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素を接続し、前記等価外乱Qからのフィードフォワードを、前記出力電圧Voおよび前記操作量ξ1からのフィードバックで置き換えることで、前記等価外乱qyから前記出力電圧voの伝達特性が3次微分特性となるように、前記操作量演算部を構成したものである。
【0015】
この場合の操作量演算部は、次の式に従って
【0016】
【数1】
【0017】
(但し、z=exp(jωt)、rは出力電圧voについての任意の目標値、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、予め設定された所定のパラメータである)前記操作量ξ1を算出するように構成するのが好ましい。
【0018】
さらに操作量演算部は、前記目標値rを入力として次の式に表される伝達関数Grを有する第1のディジタルフィルタと、
【0019】
【数2】
【0020】
前記出力電圧Voを入力として次の式で表される伝達関数GVOを有する第2のディジタルフィルタと、
【0021】
【数3】
【0022】
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差を入力として次の式で表される伝達関数Geを有する第3のディジタルフィルタと、
【0023】
【数4】
【0024】
前記第1乃至第3のディジタルフィルタからの各出力を加算して前記操作量ξ1を出力する加算器と、から構成するのが好ましい。
【0025】
また前記操作量演算部は、前記目標値rを入力として前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4rを掛け算する各フィードフォワード乗算器が接続され、前記出力電圧voを入力として前記パラメータk1,k2,k7,k8を掛け算する各フィードバック乗算器が接続されると共に、前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差が減算器から第1の加算器に入力され、この第1の加算器からの出力が1サンプル時間遅らせる第1の遅延素子に入力され、この第1の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータki1,ki2,ki3,ki4を掛け算する各乗算器と前記第1の加算器に入力され、前記パラメータki1の乗算器からの出力と、前記パラメータk1を掛け算するフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3,k4,k5,k6を掛け算する各フィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk1rのフィードフォワード乗算器からの出力が、第2の加算器で加算され、この第2の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第2の遅延素子に入力され、この第2の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk6のフィードバック乗算器に入力され、前記第2の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk2のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk2rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki2の乗算器からの出力とが、第3の加算器で加算され、この第3の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第3の遅延素子に入力され、この第3の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk5のフィードバック乗算器に入力され、前記第3の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk8のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki3の乗算器からの出力とが、第4の加算器で加算され、この第4の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第4の遅延素子に入力され、この第4の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk4のフィードバック乗算器に入力され、前記第4の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk7のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk4rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki4の乗算器からの出力とが、第5の加算器で加算され、この第5の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第5の遅延素子に入力され、この第5の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータk3のフィードバック乗算器に入力されると共に前記操作量ξ1として出力されるよう構成されるのが好ましい。
【0026】
この場合の操作量演算部は、前記各フィードフォワード乗算器を省略して構成するのが好ましい。
【0027】
また前記操作量演算部は、前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものを省略して構成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の請求項1〜4によれば、等価外乱から出力電圧の伝達関数の特性が3次微分特性となるような操作量演算部を組み込むことで、電源装置の負荷急変や入力電圧急変時における出力電圧の変動特性を、従来よりも効果的に改善することができる。従って、電源装置として出力コンデンサの容量を小さくでき、小形,低コスト化につながる。
【0029】
また、本発明の請求項5,6によれば、演算処理の高速化や演算器の簡単化が可能となり、高速なディジタル制御を可能になる、又は演算器の構成を簡易なものとすることによりコストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例におけるディジタル制御器を含んだ電源装置の概略構成図である。
【図2】同上、モデル化したDC−DCコンバータの回路図である。
【図3】同上、考慮すべき遅れ要素を接続した制御対象のブロック線図である。
【図4】同上、等価外乱からのフィードフォワードを図3のシステムに付加したブロック線図である。
【図5】同上、図4を等価変換したブロック線図である。
【図6】同上、図3のシステムに状態フィードバック則とフィードフォワード則を適用したブロック線図である。
【図7】同上、図5と図6に示す各システムを組み合わせた制御器の構成を示すブロック線図である。
【図8】同上、伝達関数Wry(z),WQy(z)を含むシステムに、逆システムとフィルタを結合した実現可能な系のブロック線図である。
【図9】同上、図8に示す系を等価変換して得られた近似的2自由度ディジタル積分型制御系のブロック線図である。
【図10】同上、シミュレーション結果の一例として、等価外乱と出力との間の伝達関数に関する周波数−ゲイン特性を示すグラフである。
【図11】同上、シミュレーション結果の一例として、負荷の抵抗値を急変させたときの出力電圧の変動特性を示す波形図である。
【図12】同上、実験結果の一例として、負荷の抵抗値を急変させたときの出力電圧の変動特性を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら、本発明におけるディジタル制御器の好ましい実施例を説明する。
【0032】
先ず、図1に基づき、本発明におけるディジタル制御器を搭載した電源装置の概略構成を説明する。同図において、1は直流電源、2は直流電源1からの入力電圧Viを出力電圧Voに変換するDC−DCコンバータで、当該出力電圧Voは負荷3に供給される。DC−DCコンバータ2は、例えばMOS型FETからなるスイッチング素子5と、整流素子であるダイオード6と、転流素子であるダイオード7と、チョークコイル8と、平滑コンデンサ9とからなる降圧型コンバータで構成され、チョークコイル8と平滑コンデンサ9は、キャリアおよびスイッチングノイズ除去のためのフィルタとして機能する。
【0033】
スイッチング素子5は、後述するドライバ回路13からのスイッチング信号によって、オンまたはオフにスイッチング動作する。そのためスイッチング素子5がオンすると、ダイオード6がオンし、ダイオード7がオフすることにより、直流電源1からダイオード6を通してチョークコイル8に電流が流れ、このチョークコイル8にエネルギーが蓄えられる一方で、スイッチング素子5がオフすると、ダイオード6がオフし、ダイオード7がオンすることにより、チョークコイル8に蓄えていたエネルギーが、ダイオード7を通して平滑コンデンサ9や抵抗3に送り出される動作が繰り返され、それにより入力電圧Viよりも低い出力電圧Voを負荷3に供給できるようになっている。
【0034】
前記出力電圧Voを安定化させるための制御部として、ここではフィルタ11と、例えばDSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)などからなるロバストディジタル制御器12と、ドライバ回路13が順に接続される。ロバストディジタル制御器12は、フィルタ11を通して供給される例えば出力電圧Voなどのアナログ信号を、周期的にサンプリング(離散化)してディジタル信号に変換するADコンバータ21と、ADコンバータ21により離散化されたフィードバック信号、すなわち前記ディジタル信号と目標値rとに基づいて操作量ξ1を算出する操作量演算部としてのコントローラ22と、当該操作量ξ1に応じて制御信号となるスイッチング信号を生成する制御出力部としてのPWMジェネレータ23とから構成される。PWMジェネレータ23は、前記操作量ξ1をスイッチング素子5を動作させるための信号に変換する信号生成部として機能するもので、パルス幅制御された一定周期のスイッチング信号を発生させるために、図示しない三角波発振器からの三角波キャリアが用いられる。また、ドライバ回路13は、PWMジェネレータ23からのスイッチング信号をスイッチング素子5のゲートに出力するためのものである。
【0035】
本発明におけるロバストディジタル制御器12は、少なくとも出力電圧Voの1箇所をADコンバータ21で検出し、制御の操作量ξ1を決定している。ここでいう操作量ξ1とは、例えばPWM制御の場合は前記スイッチング信号のデューティに対応するものであり、本発明をPFM制御等にも応用することができる。PFM制御の場合は前記スイッチング信号の周波数に対応することとなる。さらに本発明は、電源装置の負荷3にLCフィルタ(例えば、図1ではチョークコイル8と平滑コンデンサ9)を接続した全ての電源装置に応用できるので、電源出力ノイズの低減が容易に達成できる。
【0036】
図2は、制御対象となる上記DC−DCコンバータ2をモデル化した回路図である。ここでは、図1に示すスイッチング素子5とダイオード6を一つのスイッチング素子16に置き換え、ダイオード7をスイッチング素子17に置き換えている。したがって、前記PWMジェネレータ23は、スイッチング素子16,17を互いに対称にスイッチング動作させるようなスイッチング信号を生成する。また18は、チョークコイル8の抵抗とスイッチング素子5のオン抵抗などの合成抵抗であり、その抵抗値をR1とする。その他、R0は負荷3の抵抗値であり、L1はチョークコイル8のインダクタンス値であり、C1は平滑コンデンサ9の静電容量である。
【0037】
ここで、入力uの周波数が前記三角波キャリアの周波数よりも十分に小さければ、状態平均化法によって、図2に示すDC−DCコンバータ2の抵抗負荷時における状態方程式は、次の線形近似式にてあらわせる。
【0038】
【数5】
【0039】
上記式において、入力uは入力電圧Viであり、出力yは出力電圧Voである。また、離散時間制御対象への等価外乱quと等価外乱qyの各変数は、DC−DCコンバータ2に対する入力電圧変動と負荷変動にそれぞれ対応する。上記式の状態変数x,システム行列A,入力行列B,出力行列Cは、次の式であらわせる。
【0040】
【数6】
【0041】
KpはDC−DCコンバータ2のゲインであり、iL1はチョークコイル8を流れる電流である。また行列A,B,Cは、回路構成に応じて適当な値が決定される。ここでパラメータ変動による影響を抑えるには、等価外乱quおよび等価外乱qyから出力yまでのパルス伝達関数のゲインが、できるだけ小さくなるようなロバストディジタル制御器12を構築すればよい。
【0042】
上記数5で示されるシステムを零次ホールドで離散化すると、次の差分方程式が得られる。
【0043】
【数7】
【0044】
上記式で、行列Adおよび行列Bdは、次のようにあらわせる。
【0045】
【数8】
【0046】
上記数7で示されるシステムの伝達関数Gp(z)は、次の式とする。
【0047】
【数9】
【0048】
但し、Np(z)やDp(z)は次のようになる。ここでのa**,b**は、DC−DCコンバータ2に固有の定数であり、z=exp(jωt)である。
【0049】
【数10】
【0050】
制御対象であるDC−DCコンバータ2の負荷変動と入力電圧変動は、数5に示す状態方程式のパラメータ変動と考えられる。こうしたパラメータ変動は、図3に示すように離散時間制御対象への等価外乱qu,qyに置き換えられる。パラメータ変動による影響を抑えるには、等価外乱qu,qyから出力yまでのパルス伝達関数のゲインができるだけさくなる制御システムを構築して、これを上記ロバストディジタル制御器12に組み込めばよい。
【0051】
次に、外乱と外乱からの微分値を用いた外乱からのフィードフォワードを、制御対象の出力と入力とそれらの微分値で表現し、外乱からのフィードフォワードも含めて遅れ要素に取り込んで、出力フィードバックに変換し、直接外乱を用いずに、外乱と制御量間の伝達関数の零点を追加する方法を説明する。これは、遅れ要素を制御対象の入力に結合し、制御対象の出力と入力とそれらの微分値で状態変数を表現し、その状態変数を用いたフィードバックを遅れ要素に取り込んで、出力フィードバックに変換するピアソンの方法を拡張したものである。
【0052】
図3は、本発明で考慮すべき遅れ要素を接続した制御対象のブロック線図である。ここで重要なことは、本実施例ではロバストディジタル制御器12による演算遅れと、電流推定と、2つの零点追加を考慮して、4つの遅れ要素31〜34を制御対象であるDC−DCコンバータ2の入力uに接続している、ということである。この点、特許文献2や非特許文献2では、演算遅れ,電流推定,および1つの零点追加による3つの遅れ要素を考慮して、制御システムを構築している。
【0053】
図3をさらに詳しく説明すると、遅れ要素31の操作量ξ1は、演算遅れなどの時間遅れを考慮したものであり、遅れ要素32の操作量ξ2は、電流推定を推定した遅れ要素であり、遅れ要素33の操作量ξ3と遅れ要素34の操作量ξ4は、それぞれ零点追加を考慮した遅れ要素である。これらの遅れ要素31〜34は、何れも次数1/zの遅延素子で構成される。前記操作量ξ1は制御対象への入力uに等しい。加え合せ点35により、この入力uと入力電圧変動による等価外乱quとを加え合わせたものがDC−DCコンバータ2に入力され、加え合せ点36により、DC−DCコンバータからの出力と負荷変動による等価外乱qyとを加え合わせたものが、実際の出力yとなる。
【0054】
前記数7の差分方程式について、出力yの各離散値y(k+1),y(k+2),y(k+3)は次のようにあらわせる。ここでは従来よりも零点が1つ多いことにより、出力yの次数がy(k)からy(k+3)までの4次に拡張される。
【0055】
【数11】
【0056】
これを、行列形式で示すと次の式であらわせる。
【0057】
【数12】
【0058】
数12の各行列を、それぞれ記号で置き換えると次の数13,数14のようになる。
【0059】
【数13】
【0060】
【数14】
【0061】
上記数13の両辺に次の式の行列を掛ける。
【0062】
【数15】
【0063】
すると、出力チョークコイル電流iL1と出力電圧Voに関する行列xd(k)は、次のようになる。
【0064】
【数16】
【0065】
数16で求めた行列xd(k)を数13に代入すると、次の式が得られる。
【0066】
【数17】
【0067】
ここで、I4は4×4の単位行列である。数17は、さらに次の式に置き換えられる。
【0068】
【数18】
【0069】
上記式において、l**やm**の各成分は、次のようにあらわせる。
【0070】
【数19】
【0071】
一方、前記図3に示すシステムの状態方程式は、次の式であらわせる。
【0072】
【数20】
【0073】
図4は、等価外乱Q=[qu qy]からのフィードフォワードを図3のシステムに付加したブロック線図である。同図において、37は等価外乱quを入力とするフィードフォワード要素であり、38は等価外乱qyを入力とするフィードフォワード要素である。各フィードフォワード要素37,38の出力は、加え合わせ点39にて遅れ要素31〜34への入力vと加算される。ここでは、等価外乱Qと出力yとの間の伝達関数に任意の零点を2つ追加するために、任意に指定可能な2つのパラメータkq1,kq2を導入したフィードフォワード要素37,38が付加される。
【0074】
上記数18によれば、等価外乱Qからのフィードフォワード要素37,38は、等価外乱Qと出力yとの間の伝達関数を保持したまま、制御対象であるDC−DCコンバータ2の入力uと、システムの最終的な出力yのフィードバックに等価変換できる。図5は、図4を等価変換したブロック線図である。同図において、41は入力uのフィードバック要素であり、42は出力yのフィードバック要素である。各フィードバック要素41,42の出力は、加え合わせ点39にて遅れ要素31〜34への入力vと加算される。
【0075】
図6は、図3に示す制御対象に遅れ要素31〜34を加えたシステムに、状態フィードバック則とフィードフォワード則を適用した場合のブロック線図を示している。同図において、ここでは制御対象の出力yすなわちDC−DCコンバータ2の出力電圧Voを入力とし、伝達パラメータf1を有するフィードバック要素44と、制御要素を流れる電流iを入力とし、伝達パラメータf2を有するフィードバック要素45と、遅れ要素31からの操作量ξ1を入力とし、伝達パラメータf3を有するフィードバック要素46と、遅れ要素32からの操作量ξ2を入力とし、伝達パラメータf4を有するフィードバック要素47と、遅れ要素33からの操作量ξ3を入力とし、伝達パラメータf5を有するフィードバック要素48と、遅れ要素34からの操作量ξ4を入力とし、伝達パラメータf6を有するフィードバック要素49と、目標値rを入力とし、伝達パラメータGH*(z+H4)(z+H5)(z+H6)を有するフィードフォワード要素50がそれぞれ付加され、これらのフィードバック要素44〜49の出力と、フィードフォワード要素50の出力が、前記加え合わせ点39で加算される。ここでのフィードフォワード要素50は、定常時に目標値rに対して出力yが等しくなるようにし、極H4,H5,H6を消去するためのものである。
【0076】
図7は、図5と図6の各システムを組み合わせた制御器の構成を示している。ここでは、制御対象(DC−DCコンバータ2)の電流フィードバックを、制御対象の入力uと出力yからのフィードバックに等価変換するために、制御対象の出力yを入力とし、伝達パラメータ−a11/a12を有する要素52と、制御対象の出力yを入力とし、伝達パラメータz/a12を有する要素53と、遅れ要素31からの操作量ξ1を入力とし、伝達パラメータ−b11/a12を有する要素54と、要素52,53からの各出力を加算する加え合せ点55と、要素54と加え合せ点55からの各出力を加算して、これを前記フィードバック要素45の入力とする加え合せ点56と、からなる電流推定部57が設けられる。この電流推定部57は非特許文献2にも開示されているが、1次の進み要素である。一方、前記フィードバック要素41,42は3次の進み要素である。
【0077】
前記図6および図7において、ステップ応答においてオーバーシュートを生じさせないために、目標値rと制御量である出力yとの間の伝達関数Wry(z)を次の式のように指定する。
【0078】
【数21】
【0079】
上記式において、n1,n2は零点、H1,H2,H3,H4,H5,H6は極である。前記図6に示す各パラメータf1,f2,f3,f4,f5,f6,GH,H4,H5,H6は、伝達関数Wry(z)が数21の式を満たすように決定される。また、NH(z),DH(z)は、モデルマッチングシステム定数(極配置(H1〜H6),状態フィードバック(f1〜f6))とDC−DCコンバータ定数(a**,b**)と零点追加用のパラメータkq1,kq2の関数である。
【0080】
等価外乱quから出力yの伝達関数Wquy(z)と、等価外乱qyから出力yの伝達関数Wqyy(z)の零点を1に配置するパラメータkq1,kq2は、次の式にてそれぞれあらわせる。
【0081】
【数22】
【0082】
これにより、等価外乱Q=[qu qy]と出力yとの間の伝達関数WQy(z)=[Wquy(z) Wqyy(z)]は、次の式のようになる。
【0083】
【数23】
【0084】
ここで、制御器としての近似度を高めるために、次の式のように極H2の絶対値が極H1,H3の絶対値よりも十分大きくなると指定する。
【0085】
【数24】
【0086】
これにより次の式に示すように、実際に実現する目標特性を、前記パルス伝達関数Wry(z)を一次近似したモデルの伝達関数Wm(z)に定めることができる。
【0087】
【数25】
【0088】
上記式を数21から導出するに際し、数21における(z+H4),(z+H5),(z+H6)の各項は、分子と分母に共通して存在するため消去できる。また、n2は制御対象の離散化に伴い発生する零点で、その絶対値は1よりも十分大きく、系に与える影響は小さいので無視できる。さらに、極H2に対して零点n1が小さい場合には、零点n1の影響が十分小さく無視できる。この場合、数24のように極H2の絶対値が極H1,H3の絶対値よりも十分大きくなると指定すれば、極H1,H3の項は十分速い応答となって無視できる。
【0089】
上述した数23は、図7に示す制御器のシステム構成において、等価外乱quから出力yの伝達関数Wquy(z)と、等価外乱qyから出力yの伝達関数Wqyy(z)が二次微分特性となることを示している。本実施例では、これにさらに一次微分特性を追加して三次微分特性とするために、図8に示すような近似的2自由度系を構成する補償器を追加する。図8に示すシステムは、前記を有する近似モデルの逆システム(逆関数)と、この逆システムを近似的に実現するためのフィルタK(z)を導入したもので、これにより図6に示すモデルマッチング系を、ロバストディジタル制御器12に組み込める構成とすることができる。逆システムの伝達関数Wm-1は、次の式に示すように、図7に示すシステムの伝達関数Wry(z)の逆関数としてあらわせる。
【0090】
【数26】
【0091】
また、フィルタK(z)は、逆システムの伝達関数Wm-1だけでは近似的に実現できない系となることを避けるのに導入されたもので、次の式で示される。なお、ここでの係数kzは、設計パラメータとして特定の値が設定される。
【0092】
【数27】
【0093】
したがって、目標値rと出力yとの間の関係は、上記伝達関数Wry(z)の式を用いて次のようにあらわせる。
【0094】
【数28】
【0095】
また、等価外乱Qと出力yとの間の関係は、上記伝達関数k(z)と伝達関数WQy(z)の式を用いて次のようにあらわせる。
【0096】
【数29】
【0097】
したがって、目標値rと出力yとの間の特性は、設計パラメータである極H2で、また等価外乱quから出力yの間の特性と、等価外乱qyから出力yの間の特性は、係数kzで各々独立して指定できる。これにより、図8のシステムは近似的2自由度刑であり、外乱に対する感度は係数kzを増加することで軽減できる。上記数29は、数23の関係式を用いると次のようになる。
【0098】
【数30】
【0099】
これにより本実施例では、入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した4つの遅れ要素31〜34を接続し、その等価外乱Qから遅れ要素31〜34の入力へのフィードフォワード要素37,38を、出力電圧Voおよび操作量ξ1から遅れ要素31〜34の入力へのフィードバック要素41,42で置き換えることで、等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)の特性が、3次微分特性を有するものとなる。
【0100】
図8において、61は等価外乱Qを考慮した伝達関数Wry(z),WQy(z)を含むシステムの伝達要素、62は伝達関数Wm-1を含む逆システムの伝達要素、63は伝達関数K(z)のフィルタを含むロバスト補償器としての伝達要素で、伝達要素61の出力yである制御量が、引き出し点64で引き出されて伝達要素62の入力に印加され、伝達要素63の出力と目標値rとを加算する加え合せ点65からの出力は、引き出し点66によって別な加え合せ点67に加算されると共に、伝達要素61に入力される。また加え合せ点67は、引き出し点66で分岐した加え合せ点65からの出力と、伝達要素62の出力との偏差(減算値)を、伝達要素63に入力するものである。
【0101】
図9は、図8に示す系をロバストディジタル制御器12として実現できる近似的2自由度の積分型制御系の構成に等価変換したブロック線図である。このブロック線図における各部の構成を説明すると、前述したコントローラ22は、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4の各パラメータを有する乗算器としての伝達要素70〜85と、1サンプル遅れに相当する次数1/zの遅延素子としての遅れ要素31〜34および遅れ要素86と、減算器としての加え合せ点87と、加算器としての加え合せ点39および加え合せ点88〜91との組み合わせにより構成される。なお、パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものは省略することができ、各フィードフォワード要素70,71,72,73も省略することができる。これにより、操作量ξ1の算出式が簡単化され演算負担が軽減され、演算処理の高速化や演算器の簡単化が可能となる。
【0102】
図9に示す構造をより詳細に説明すると、目標値rを入力としてパラメータk1r,k2r,k3r,k4rの各フィードフォワード要素70,71,72,73が接続され、出力電圧Voを入力としてパラメータk1,k2,k7,k8の各フィードバック要素74,75,80,81が接続されると共に、目標値rと出力電圧Voとの偏差が加え合せ点87から別な加え合せ点88に入力され、この加え合せ点88で次数1/zの遅れ要素86からの出力が加算されて当該遅れ要素86に入力され、遅れ要素86からの出力がパラメータki1,ki2,ki3,ki4の各伝達要素82,83,84,85に入力され、伝達要素82からの出力と、フィードバック要素73からの出力と、パラメータk3,k4,k5,k6の各フィードバック要素76,77,78,79からの出力と、フィードフォワード要素70からの出力が、加え合せ点39で加算され、この加え合せ点39で加算した出力が次数1/zの遅延要素34に入力され、この遅延要素34からの遅れ出力ξ4がフィードバック要素79に入力され、遅延要素34からの遅れ出力ξ4と、フィードバック要素75からの出力と、フィードフォワード要素71からの出力と、伝達要素83からの出力が、加え合せ点89で加算され、この加え合せ点89で加算した出力が次数1/zの遅延要素33に入力され、この遅延要素33からの遅れ出力ξ3がフィードバック要素78に入力され、遅延要素33からの遅れ出力ξ3と、フィードバック要素81からの出力と、フィードフォワード要素72からの出力と、伝達要素84からの出力とが、加え合せ点90で加算され、この加え合せ点90で加算した出力が次数1/zの遅延要素32に入力され、この遅延要素32からの遅れ出力ξ2が、フィードバック要素77に入力され、遅延要素32からの遅れ出力ξ2と、フィードバック要素80からの出力と、フィードフォワード要素73からの出力と、伝達要素85からの出力とが、加え合せ点91で加算され、この加え合せ点91で加算した出力が次数1/zの遅延要素31に入力され、この遅延要素31からの遅れ出力ξ1が、フィードバック要素76に入力されると共に、制御対象要素であるDC−DCコンバータ2の入力uとして与えられるように、ロバストディジタル制御器12のコントローラ22が構成される。
【0103】
上記図9では、制御対象要素であるDC−DCコンバータ2を除く部分が、近似的2自由度積分型制御系の構成となるロバストディジタル制御器12のコントローラ22に相当する。コントローラ22は、ディジタルフィルタとしての伝達要素を備えており、その伝達要素の伝達関数Gr,Gvo,Geは、次の式であらわされる。
【0104】
【数31】
【0105】
上記式において、Grは負荷電圧目標値rから操作量ξ1までの伝達関数であり、Gvoは出力電圧Voから操作量ξ1までの伝達関数であり、Geは負荷電圧目標値rと出力電圧voとの偏差から操作量ξ1までの伝達関数である。従って、制御対象への入力uとなる操作量ξ1は、これらの伝達関数Gr,Gvo,Geを有する各ディジタルフィルタの出力を加算したものとなって、次の式であらわされる。
【0106】
【数32】
【0107】
上記式では、z=exp(jωt)であり、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4の各パラメータは、ロバストディジタル制御器12として組み込まれる制御系に応じて予め設定される。
【0108】
このようにして得られたロバストディジタル制御器12を用いた電源装置は、電源装置の負荷急変,入力急変時の出力電圧変動を従来よりもさらに小さくできる。このため、出力コンデンサ(平滑コンデンサ9)の容量が小さくでき、電源装置として小形,低コスト化につながる。
【0109】
次に、上記実施例に基づくシミュレーションの結果を説明する。ここでは、電源装置のシミュレーションを行なうに際し、上述した設計パラメータH1,H2,H3,H4,H5,H6,kz,kq1,kq2を次のように設定する。
【0110】
【数33】
【0111】
これにより、図9のコントローラ22を構成する制御器パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、次のように導出できる。
【0112】
【数34】
【0113】
図10および図11は、上記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4を有するロバストディジタル制御器12を、DC−DCコンバータ2に組み込んだと仮定した場合のシミュレーション結果を示している。図10は、等価外乱Qと出力yとの間の伝達関数WQy(z)に関し、その周波数−ゲイン特性を示しており、左側は従来の2次微分特性を設定した制御系を示し、右側は本実施例における3次微分特性を設定した制御系を示している。
【0114】
同図からも明らかなように、伝達関数WQy(z)に関し、従来は(z−1)の次数が2次となっており、周波数−ゲイン特性の傾きは40dB/decとなる。一方、本実施例では(z−1)の次数が3次となっており、周波数−ゲイン特性の傾きは60dB/decとなるため、構成を複雑化させることなく、負荷急変に対する追従性を向上させることができる。
【0115】
図11は、図1や図2に示す負荷3の抵抗値R0を急変させたときの出力電圧Voの変動特性を示したものである。ここでは、負荷3の抵抗値R0を0.33Ωから0.165Ω(負荷3への出力電流ioを10Aから20A)に急変させているが、出力電圧Voの変動(図中矢印を参照)は、前記周波数−ゲイン特性の傾きが60dB/decに改善されている関係で、20mVに抑えられている。
【0116】
次に、本実施例に基づき設計したロバストディジタル制御器12の実装例を説明する。ここでの設計パラメータH1,H2,H3,H4,H5,H6,kz,kq1,kq2の各値は、次のように設定する。
【0117】
【数35】
【0118】
これにより、制御器パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、次のように導出される。
【0119】
【数36】
【0120】
図12は負荷3の抵抗値R0を急変させたときの出力電圧Voの変動特性を示したもので、ここでも同じ条件、すなわち負荷3の抵抗値R0を0.33Ωから0.165Ω(負荷3への出力電流ioを10Aから20A)に急変させている。上記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4を有するロバストディジタル制御器12を実際に電源装置に組み込んだ例では、出力電圧Voの変動(図中矢印を参照)が40mVに抑えられていることがわかる。
【0121】
このように、DC−DCコンバータ2に適用するロバストディジタル制御器12として、外乱Qから出力y間の伝達関数WQy(z)の零点2つに「1」を指定し、3次微分特性を与える新たな制御系を組み入れることで、従来よりも負荷急変特性を効果的に改善できることを、上記シミュレーションによる検証や、実際にロバストディジタル制御器12に装備した実験結果から確認できた。なお、零点2つに、例えば[0.99+0.01i,0.99−0.01i]のような共役複素数を設定し、コントローラ22に逆チェビシェフフィルタの特性を持たせることで、よりロバストな制御系を構成することもできる。
【0122】
以上のように、本実施例は入力電圧Viを出力電圧Voに変換して負荷3に供給する電源装置のロバストディジタル制御器12であって、出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するよう構成された操作量演算部としてのコントローラ22と、この操作量ξ1を、電源装置を動作させるための信号に変換する信号生成部としてのPWMジェネレータ23を備え、前記入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素31〜34を接続し、前記等価外乱Qからのフィードフォワード要素37,38を、前記出力電圧Voおよび前記操作量ξ1からのフィードバック要素41,42で置き換えることで、等価外乱Qから出力電圧voの伝達関数WQy(z)の特性が3次微分特性となるように、コントローラ22を構成している。
【0123】
また、ここでのコントローラ22は、次の式に従って
【0124】
【数37】
【0125】
(但し、z=exp(jωt)、rは出力電圧voについての任意の目標値、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、予め設定された所定のパラメータである。)操作量ξ1を算出するよう構成される。
【0126】
この場合のコントローラ22は、目標値rを入力として次の式に表される伝達関数Grを有する第1のディジタルフィルタと、
【0127】
【数38】
【0128】
出力電圧Voを入力として次の式で表される伝達関数GVOを有する第2のディジタルフィルタと、
【0129】
【数39】
【0130】
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差を入力として次の式で表される伝達関数Geを有する第3のディジタルフィルタと、
【0131】
【数40】
【0132】
これらのディジタルフィルタからの各出力を加算して操作量ξ1を出力する加算器と、から構成される。
【0133】
また、本実施例におけるコントローラ22は、目標値rを入力としてパラメータk1r,k2r,k3r,k4rを掛け算する各フィードフォワード乗算器として、フィードフォワード要素70,71,72,73が接続され、出力電圧voを入力としてパラメータk1,k2,k7,k8を掛け算する各フィードバック乗算器として、フィードバック要素74,75,80,81が接続されると共に、目標値rと出力電圧voとの偏差が減算器である加え合せ点87から第1の加算器である加え合せ点88に入力され、この加え合せ点88からの出力が1サンプル時間遅らせる第1の遅延素子としての遅れ要素86に入力され、この遅れ要素86からの遅れ出力が、パラメータki1,ki2,ki3,ki4を掛け算する各乗算器としての伝達要素82,83,84,85と、前記加え合せ点88とに入力され、パラメータki1の伝達要素82からの出力と、パラメータk1を掛け算するフィードバック要素74からの出力と、パラメータk3,k4,k5,k6を掛け算する各フィードバック乗算器としての各フィードバック要素76,77,78,79からの出力と、パラメータk1rのフィードフォワード要素70からの出力が、第2の加算器としての加え合せ点39で加算され、加え合せ点39で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第2の遅延素子としての遅延要素34に入力され、この遅延要素34からの遅れ出力ξ4がパラメータk6のフィードバック要素79に入力され、遅延要素34からの遅れ出力ξ4と、パラメータk2のフィードバック要素75からの出力と、パラメータk2rのフィードフォワード要素71からの出力と、前記パラメータki2の伝達要素83からの出力が、第3の加算器としての加え合せ点89で加算され、この加え合せ点89で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第3の遅延素子としての遅延要素33に入力され、この遅延要素33からの遅れ出力ξ3がパラメータk5のフィードバック要素78に入力され、遅延要素33からの遅れ出力ξ3と、パラメータk8のフィードバック要素81からの出力と、パラメータk3rのフィードフォワード要素72からの出力と、パラメータki3の伝達要素84からの出力が、第4の加算器としての加え合せ点90で加算され、この加え合せ点90で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第4の遅延素子としての遅延要素32に入力され、この遅延要素32からの遅れ出力ξ2がパラメータk4のフィードバック要素77に入力され、遅延要素32からの遅れ出力ξ2と、パラメータk7のフィードバック要素80からの出力と、パラメータk4rのフィードフォワード要素73からの出力と、パラメータki4の伝達要素85からの出力が、第5の加算器としての加え合せ点91で加算され、この加え合せ点91で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第5の遅延素子としての遅延要素31に入力され、この遅延要素31からの遅れ出力ξ1が、パラメータk3のフィードバック要素76に入力されると共に、DC−DCコンバータ2への前記操作量ξ1として出力されるように構成される。
【0134】
このようにすると、等価外乱Qから出力電圧voの伝達関数WQy(z)の特性が3次微分特性となるようなコントローラ22を組み込むことで、電源装置の負荷急変や入力電圧急変時における出力電圧Voの変動特性を、従来よりも効果的に改善することができる。従って、電源装置として出力コンデンサの容量を小さくでき、小形,低コスト化につながる。
【0135】
さらにコントローラ22は、各フィードフォワード要素70,71,72,73を省略して構成してもよく、また前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものを省略して構成してもよい。
【0136】
このようにすると、操作量ξ1の算出式が簡単化され、演算処理の高速化や演算器の簡単化が可能となる。従って、高速なディジタル制御を可能になる、又は演算器の構成を簡易なものとすることによりコストを抑制することができる。
【0137】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば、図1に示す制御対象となるDC−DCコンバータ2の構成はトランスを用いた絶縁型コンバータや、複数のスイッチング素子を有するコンバータ(例えば、ハーフブリッジコンバータやフルブリッジコンバータ)など、様々な形式のものが適用できる。
【符号の説明】
【0138】
3 負荷
20 ロバストディジタル制御器(ディジタル制御器)
22 コントローラ(操作量演算部)
23 PWMジェネレータ(信号生成部)
31 遅れ要素(第5の遅延素子)
32 遅れ要素(第4の遅延素子)
33 遅れ要素(第3の遅延素子)
34 遅れ要素(第2の遅延素子)
39 加え合せ点(第2の加算器)
70〜73 フィードフォワード要素(フィードフォワード乗算器)
74〜81 フィードバック要素(フィードバック乗算器)
82〜85 伝達要素(乗算器)
86 遅れ要素(第1の遅延素子)
87 加え合せ点(減算器)
88 加え合せ点(第1の加算器)
89 加え合せ点(第3の加算器)
90 加え合せ点(第4の加算器)
91 加え合せ点(第5の加算器)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電力増幅器などの電源装置に組み込まれ、負荷に供給する出力電圧に対して制御を行なうディジタル制御器に関し、とりわけ広域な負荷変動や電源電圧変動に対しても、単独の構成で対応できる電源装置のディジタル制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換回路としてパルス幅変調(PWM)スイッチング回路を用いると共に、ノイズ除去のために電力変換回路と負荷との間にLCフィルタを挿入し、更に負荷に供給する出力電圧が指令信号に比例するようフィードバック制御系を構成したPWM電力増幅器が、電源装置として用いられている。このとき負荷の特性はキャパシティブからインダクティブと広く、大きさもゼロから最大定格までと大幅に変動する。そこで、このような広範な負荷変動に対しても、また直流電源の電圧変動に対しても、1個の制御器で対応できるいわゆるロバストなPWM電力増幅器が必要とされる。
【0003】
このようなPWM電力増幅器において、制御器へのノイズの影響を小さくするにはフィードバック信号が少ない方が好ましく、また電流検知センサは一般に高価であるため、電圧フィードバックのみを用いた制御器を得ることが望ましい。
【0004】
そこで、上記要求を満たすPWM電力増幅器におけるロバストディジタル制御器の設計方法が、非特許文献1に提案されている。
【0005】
ディジタルフィードバック制御系は、アナログフィードバック制御系よりも大きな入力無駄時間が生じる。この入力無駄時間は主にDSPの演算時間遅れや、アナログからディジタル(AD)への変換時間およびディジタルからアナログ(DA)への変換時間や、三角波比較部の遅れ等によるものである。この点に着目し、上記非特許文献1では、入力無駄時間と電流フィードバックの電圧フィードバックへの変換を考慮して、制御対象(PWM信号発生部と電力変換回路とLCフィルタ)を連続時間系より次数が2次高い離散時間系で表現し、これに対して与えられた目標特性を達成する状態フィードバック系の構成を提示している。またここでは、当該状態フィードバック系を電圧のみ用いた出力フィードバック系に等価変換した上で、この出力フィードバック系を近似して得られるロバスト補償器を結合すると、目標値と制御量および外乱と制御量の各特性を独立して制御する近似的2自由度のディジタルロバスト制御系が構成できると共に、このディジタルロバスト制御系を等価変換することで、電圧フィードバックのみを用いたディジタル積分形制御器が得られることを提示している。
【0006】
しかし、非特許文献1では、一次近似モデルを実現する近似的な2自由度ロバストディジタル制御系の構成法が示されているが、こうした制御系を組み入れたロバストディジタル制御器では、近似度を上げると同時に制御入力を抑えるのが困難であった。そこで、誰でも容易に高近似で制御入力の大きさの考慮の必要のないロバストディジタル制御器の設計装置を提供する必要があった。
【0007】
また、非特許文献1で提案した2自由度ロバストディジタル制御系に関し、ロバストディジタル制御器の近似度を上げる明確なパラメータの決定手段は示されていない。そのためパラメータの決定には多大な思考錯誤を必要とし、非常に手間がかかった。そこで誰でも容易に設計できる明確なパラメータの決定手段を示す必要があった。
【0008】
上述した問題点を解決すべく、特許文献1には、近似度が高く、しかも制御入力の大きさを考慮する必要のない新規な2自由度ロバストディジタル制御系を組み込んだロバストディジタル制御器の設計装置が提案された。ここでは、目標値から出力電圧までの応答を決定するモデルマッチングシステムを想定し、そのシステムに逆システムとフィルタを接続してロバストなシステムを再構築することで、DC−DCコンバータを含むスイッチング電源装置に適用する2自由度ディジタル積分形制御器を得る手法が示されている。
【0009】
ところで近年は、負荷や入力電圧の急変による出力電圧の変動を抑える要求が一層厳しくなっており、DC−DCコンバータとしての仕様を満足させるのが困難になっている。そうした仕様を満足するために、別な特許文献2や非特許文献2には、等価外乱から出力電圧までの伝達関数に零点を一つ追加し、2次微分特性を実現した近似的自由度制御系も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−50723号公報
【特許文献2】国際公開第2008/072618号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】樋口幸治,中野和司,荒木邦彌,茅野文穂,“電圧フィードバックのみを用いた近似的2自由度ディジタル積分形制御によるロバストPWM電力増幅器の設計”,電子情報通信学会論文誌,2002年10月,Vol.J-85-C,No.10,pp.1-11
【非特許文献2】竹上栄治,樋口幸治,中野和司,“二次微分外乱特性付加近似的2DOFディジタル制御器によるDC−DCコンバータのロバスト制御”,電気学会論文誌,2009年,Vol.129-D,No.12,pp.1137-1146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した経緯によって、スイッチング電源装置などのロバスト制御を実現するディジタル制御器は、技術的な進歩を遂げてきたが、従来よりもさらに負荷急変特性や入力電圧特性を効果的に改善したディジタル制御器の開発が必要となってきた。
【0013】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、従来よりも負荷急変特性や入力電圧特性を効果的に改善できる電源装置のディジタル制御器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、入力電圧を出力電圧Voに変換して負荷に供給する電源装置のディジタル制御器であって、前記出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するように構成された操作量演算部と、前記操作量ξ1を、前記電源装置を動作させるための信号に変換する信号生成部とを備え、前記入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素を接続し、前記等価外乱Qからのフィードフォワードを、前記出力電圧Voおよび前記操作量ξ1からのフィードバックで置き換えることで、前記等価外乱qyから前記出力電圧voの伝達特性が3次微分特性となるように、前記操作量演算部を構成したものである。
【0015】
この場合の操作量演算部は、次の式に従って
【0016】
【数1】
【0017】
(但し、z=exp(jωt)、rは出力電圧voについての任意の目標値、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、予め設定された所定のパラメータである)前記操作量ξ1を算出するように構成するのが好ましい。
【0018】
さらに操作量演算部は、前記目標値rを入力として次の式に表される伝達関数Grを有する第1のディジタルフィルタと、
【0019】
【数2】
【0020】
前記出力電圧Voを入力として次の式で表される伝達関数GVOを有する第2のディジタルフィルタと、
【0021】
【数3】
【0022】
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差を入力として次の式で表される伝達関数Geを有する第3のディジタルフィルタと、
【0023】
【数4】
【0024】
前記第1乃至第3のディジタルフィルタからの各出力を加算して前記操作量ξ1を出力する加算器と、から構成するのが好ましい。
【0025】
また前記操作量演算部は、前記目標値rを入力として前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4rを掛け算する各フィードフォワード乗算器が接続され、前記出力電圧voを入力として前記パラメータk1,k2,k7,k8を掛け算する各フィードバック乗算器が接続されると共に、前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差が減算器から第1の加算器に入力され、この第1の加算器からの出力が1サンプル時間遅らせる第1の遅延素子に入力され、この第1の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータki1,ki2,ki3,ki4を掛け算する各乗算器と前記第1の加算器に入力され、前記パラメータki1の乗算器からの出力と、前記パラメータk1を掛け算するフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3,k4,k5,k6を掛け算する各フィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk1rのフィードフォワード乗算器からの出力が、第2の加算器で加算され、この第2の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第2の遅延素子に入力され、この第2の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk6のフィードバック乗算器に入力され、前記第2の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk2のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk2rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki2の乗算器からの出力とが、第3の加算器で加算され、この第3の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第3の遅延素子に入力され、この第3の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk5のフィードバック乗算器に入力され、前記第3の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk8のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki3の乗算器からの出力とが、第4の加算器で加算され、この第4の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第4の遅延素子に入力され、この第4の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk4のフィードバック乗算器に入力され、前記第4の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk7のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk4rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki4の乗算器からの出力とが、第5の加算器で加算され、この第5の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第5の遅延素子に入力され、この第5の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータk3のフィードバック乗算器に入力されると共に前記操作量ξ1として出力されるよう構成されるのが好ましい。
【0026】
この場合の操作量演算部は、前記各フィードフォワード乗算器を省略して構成するのが好ましい。
【0027】
また前記操作量演算部は、前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものを省略して構成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の請求項1〜4によれば、等価外乱から出力電圧の伝達関数の特性が3次微分特性となるような操作量演算部を組み込むことで、電源装置の負荷急変や入力電圧急変時における出力電圧の変動特性を、従来よりも効果的に改善することができる。従って、電源装置として出力コンデンサの容量を小さくでき、小形,低コスト化につながる。
【0029】
また、本発明の請求項5,6によれば、演算処理の高速化や演算器の簡単化が可能となり、高速なディジタル制御を可能になる、又は演算器の構成を簡易なものとすることによりコストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例におけるディジタル制御器を含んだ電源装置の概略構成図である。
【図2】同上、モデル化したDC−DCコンバータの回路図である。
【図3】同上、考慮すべき遅れ要素を接続した制御対象のブロック線図である。
【図4】同上、等価外乱からのフィードフォワードを図3のシステムに付加したブロック線図である。
【図5】同上、図4を等価変換したブロック線図である。
【図6】同上、図3のシステムに状態フィードバック則とフィードフォワード則を適用したブロック線図である。
【図7】同上、図5と図6に示す各システムを組み合わせた制御器の構成を示すブロック線図である。
【図8】同上、伝達関数Wry(z),WQy(z)を含むシステムに、逆システムとフィルタを結合した実現可能な系のブロック線図である。
【図9】同上、図8に示す系を等価変換して得られた近似的2自由度ディジタル積分型制御系のブロック線図である。
【図10】同上、シミュレーション結果の一例として、等価外乱と出力との間の伝達関数に関する周波数−ゲイン特性を示すグラフである。
【図11】同上、シミュレーション結果の一例として、負荷の抵抗値を急変させたときの出力電圧の変動特性を示す波形図である。
【図12】同上、実験結果の一例として、負荷の抵抗値を急変させたときの出力電圧の変動特性を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら、本発明におけるディジタル制御器の好ましい実施例を説明する。
【0032】
先ず、図1に基づき、本発明におけるディジタル制御器を搭載した電源装置の概略構成を説明する。同図において、1は直流電源、2は直流電源1からの入力電圧Viを出力電圧Voに変換するDC−DCコンバータで、当該出力電圧Voは負荷3に供給される。DC−DCコンバータ2は、例えばMOS型FETからなるスイッチング素子5と、整流素子であるダイオード6と、転流素子であるダイオード7と、チョークコイル8と、平滑コンデンサ9とからなる降圧型コンバータで構成され、チョークコイル8と平滑コンデンサ9は、キャリアおよびスイッチングノイズ除去のためのフィルタとして機能する。
【0033】
スイッチング素子5は、後述するドライバ回路13からのスイッチング信号によって、オンまたはオフにスイッチング動作する。そのためスイッチング素子5がオンすると、ダイオード6がオンし、ダイオード7がオフすることにより、直流電源1からダイオード6を通してチョークコイル8に電流が流れ、このチョークコイル8にエネルギーが蓄えられる一方で、スイッチング素子5がオフすると、ダイオード6がオフし、ダイオード7がオンすることにより、チョークコイル8に蓄えていたエネルギーが、ダイオード7を通して平滑コンデンサ9や抵抗3に送り出される動作が繰り返され、それにより入力電圧Viよりも低い出力電圧Voを負荷3に供給できるようになっている。
【0034】
前記出力電圧Voを安定化させるための制御部として、ここではフィルタ11と、例えばDSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)などからなるロバストディジタル制御器12と、ドライバ回路13が順に接続される。ロバストディジタル制御器12は、フィルタ11を通して供給される例えば出力電圧Voなどのアナログ信号を、周期的にサンプリング(離散化)してディジタル信号に変換するADコンバータ21と、ADコンバータ21により離散化されたフィードバック信号、すなわち前記ディジタル信号と目標値rとに基づいて操作量ξ1を算出する操作量演算部としてのコントローラ22と、当該操作量ξ1に応じて制御信号となるスイッチング信号を生成する制御出力部としてのPWMジェネレータ23とから構成される。PWMジェネレータ23は、前記操作量ξ1をスイッチング素子5を動作させるための信号に変換する信号生成部として機能するもので、パルス幅制御された一定周期のスイッチング信号を発生させるために、図示しない三角波発振器からの三角波キャリアが用いられる。また、ドライバ回路13は、PWMジェネレータ23からのスイッチング信号をスイッチング素子5のゲートに出力するためのものである。
【0035】
本発明におけるロバストディジタル制御器12は、少なくとも出力電圧Voの1箇所をADコンバータ21で検出し、制御の操作量ξ1を決定している。ここでいう操作量ξ1とは、例えばPWM制御の場合は前記スイッチング信号のデューティに対応するものであり、本発明をPFM制御等にも応用することができる。PFM制御の場合は前記スイッチング信号の周波数に対応することとなる。さらに本発明は、電源装置の負荷3にLCフィルタ(例えば、図1ではチョークコイル8と平滑コンデンサ9)を接続した全ての電源装置に応用できるので、電源出力ノイズの低減が容易に達成できる。
【0036】
図2は、制御対象となる上記DC−DCコンバータ2をモデル化した回路図である。ここでは、図1に示すスイッチング素子5とダイオード6を一つのスイッチング素子16に置き換え、ダイオード7をスイッチング素子17に置き換えている。したがって、前記PWMジェネレータ23は、スイッチング素子16,17を互いに対称にスイッチング動作させるようなスイッチング信号を生成する。また18は、チョークコイル8の抵抗とスイッチング素子5のオン抵抗などの合成抵抗であり、その抵抗値をR1とする。その他、R0は負荷3の抵抗値であり、L1はチョークコイル8のインダクタンス値であり、C1は平滑コンデンサ9の静電容量である。
【0037】
ここで、入力uの周波数が前記三角波キャリアの周波数よりも十分に小さければ、状態平均化法によって、図2に示すDC−DCコンバータ2の抵抗負荷時における状態方程式は、次の線形近似式にてあらわせる。
【0038】
【数5】
【0039】
上記式において、入力uは入力電圧Viであり、出力yは出力電圧Voである。また、離散時間制御対象への等価外乱quと等価外乱qyの各変数は、DC−DCコンバータ2に対する入力電圧変動と負荷変動にそれぞれ対応する。上記式の状態変数x,システム行列A,入力行列B,出力行列Cは、次の式であらわせる。
【0040】
【数6】
【0041】
KpはDC−DCコンバータ2のゲインであり、iL1はチョークコイル8を流れる電流である。また行列A,B,Cは、回路構成に応じて適当な値が決定される。ここでパラメータ変動による影響を抑えるには、等価外乱quおよび等価外乱qyから出力yまでのパルス伝達関数のゲインが、できるだけ小さくなるようなロバストディジタル制御器12を構築すればよい。
【0042】
上記数5で示されるシステムを零次ホールドで離散化すると、次の差分方程式が得られる。
【0043】
【数7】
【0044】
上記式で、行列Adおよび行列Bdは、次のようにあらわせる。
【0045】
【数8】
【0046】
上記数7で示されるシステムの伝達関数Gp(z)は、次の式とする。
【0047】
【数9】
【0048】
但し、Np(z)やDp(z)は次のようになる。ここでのa**,b**は、DC−DCコンバータ2に固有の定数であり、z=exp(jωt)である。
【0049】
【数10】
【0050】
制御対象であるDC−DCコンバータ2の負荷変動と入力電圧変動は、数5に示す状態方程式のパラメータ変動と考えられる。こうしたパラメータ変動は、図3に示すように離散時間制御対象への等価外乱qu,qyに置き換えられる。パラメータ変動による影響を抑えるには、等価外乱qu,qyから出力yまでのパルス伝達関数のゲインができるだけさくなる制御システムを構築して、これを上記ロバストディジタル制御器12に組み込めばよい。
【0051】
次に、外乱と外乱からの微分値を用いた外乱からのフィードフォワードを、制御対象の出力と入力とそれらの微分値で表現し、外乱からのフィードフォワードも含めて遅れ要素に取り込んで、出力フィードバックに変換し、直接外乱を用いずに、外乱と制御量間の伝達関数の零点を追加する方法を説明する。これは、遅れ要素を制御対象の入力に結合し、制御対象の出力と入力とそれらの微分値で状態変数を表現し、その状態変数を用いたフィードバックを遅れ要素に取り込んで、出力フィードバックに変換するピアソンの方法を拡張したものである。
【0052】
図3は、本発明で考慮すべき遅れ要素を接続した制御対象のブロック線図である。ここで重要なことは、本実施例ではロバストディジタル制御器12による演算遅れと、電流推定と、2つの零点追加を考慮して、4つの遅れ要素31〜34を制御対象であるDC−DCコンバータ2の入力uに接続している、ということである。この点、特許文献2や非特許文献2では、演算遅れ,電流推定,および1つの零点追加による3つの遅れ要素を考慮して、制御システムを構築している。
【0053】
図3をさらに詳しく説明すると、遅れ要素31の操作量ξ1は、演算遅れなどの時間遅れを考慮したものであり、遅れ要素32の操作量ξ2は、電流推定を推定した遅れ要素であり、遅れ要素33の操作量ξ3と遅れ要素34の操作量ξ4は、それぞれ零点追加を考慮した遅れ要素である。これらの遅れ要素31〜34は、何れも次数1/zの遅延素子で構成される。前記操作量ξ1は制御対象への入力uに等しい。加え合せ点35により、この入力uと入力電圧変動による等価外乱quとを加え合わせたものがDC−DCコンバータ2に入力され、加え合せ点36により、DC−DCコンバータからの出力と負荷変動による等価外乱qyとを加え合わせたものが、実際の出力yとなる。
【0054】
前記数7の差分方程式について、出力yの各離散値y(k+1),y(k+2),y(k+3)は次のようにあらわせる。ここでは従来よりも零点が1つ多いことにより、出力yの次数がy(k)からy(k+3)までの4次に拡張される。
【0055】
【数11】
【0056】
これを、行列形式で示すと次の式であらわせる。
【0057】
【数12】
【0058】
数12の各行列を、それぞれ記号で置き換えると次の数13,数14のようになる。
【0059】
【数13】
【0060】
【数14】
【0061】
上記数13の両辺に次の式の行列を掛ける。
【0062】
【数15】
【0063】
すると、出力チョークコイル電流iL1と出力電圧Voに関する行列xd(k)は、次のようになる。
【0064】
【数16】
【0065】
数16で求めた行列xd(k)を数13に代入すると、次の式が得られる。
【0066】
【数17】
【0067】
ここで、I4は4×4の単位行列である。数17は、さらに次の式に置き換えられる。
【0068】
【数18】
【0069】
上記式において、l**やm**の各成分は、次のようにあらわせる。
【0070】
【数19】
【0071】
一方、前記図3に示すシステムの状態方程式は、次の式であらわせる。
【0072】
【数20】
【0073】
図4は、等価外乱Q=[qu qy]からのフィードフォワードを図3のシステムに付加したブロック線図である。同図において、37は等価外乱quを入力とするフィードフォワード要素であり、38は等価外乱qyを入力とするフィードフォワード要素である。各フィードフォワード要素37,38の出力は、加え合わせ点39にて遅れ要素31〜34への入力vと加算される。ここでは、等価外乱Qと出力yとの間の伝達関数に任意の零点を2つ追加するために、任意に指定可能な2つのパラメータkq1,kq2を導入したフィードフォワード要素37,38が付加される。
【0074】
上記数18によれば、等価外乱Qからのフィードフォワード要素37,38は、等価外乱Qと出力yとの間の伝達関数を保持したまま、制御対象であるDC−DCコンバータ2の入力uと、システムの最終的な出力yのフィードバックに等価変換できる。図5は、図4を等価変換したブロック線図である。同図において、41は入力uのフィードバック要素であり、42は出力yのフィードバック要素である。各フィードバック要素41,42の出力は、加え合わせ点39にて遅れ要素31〜34への入力vと加算される。
【0075】
図6は、図3に示す制御対象に遅れ要素31〜34を加えたシステムに、状態フィードバック則とフィードフォワード則を適用した場合のブロック線図を示している。同図において、ここでは制御対象の出力yすなわちDC−DCコンバータ2の出力電圧Voを入力とし、伝達パラメータf1を有するフィードバック要素44と、制御要素を流れる電流iを入力とし、伝達パラメータf2を有するフィードバック要素45と、遅れ要素31からの操作量ξ1を入力とし、伝達パラメータf3を有するフィードバック要素46と、遅れ要素32からの操作量ξ2を入力とし、伝達パラメータf4を有するフィードバック要素47と、遅れ要素33からの操作量ξ3を入力とし、伝達パラメータf5を有するフィードバック要素48と、遅れ要素34からの操作量ξ4を入力とし、伝達パラメータf6を有するフィードバック要素49と、目標値rを入力とし、伝達パラメータGH*(z+H4)(z+H5)(z+H6)を有するフィードフォワード要素50がそれぞれ付加され、これらのフィードバック要素44〜49の出力と、フィードフォワード要素50の出力が、前記加え合わせ点39で加算される。ここでのフィードフォワード要素50は、定常時に目標値rに対して出力yが等しくなるようにし、極H4,H5,H6を消去するためのものである。
【0076】
図7は、図5と図6の各システムを組み合わせた制御器の構成を示している。ここでは、制御対象(DC−DCコンバータ2)の電流フィードバックを、制御対象の入力uと出力yからのフィードバックに等価変換するために、制御対象の出力yを入力とし、伝達パラメータ−a11/a12を有する要素52と、制御対象の出力yを入力とし、伝達パラメータz/a12を有する要素53と、遅れ要素31からの操作量ξ1を入力とし、伝達パラメータ−b11/a12を有する要素54と、要素52,53からの各出力を加算する加え合せ点55と、要素54と加え合せ点55からの各出力を加算して、これを前記フィードバック要素45の入力とする加え合せ点56と、からなる電流推定部57が設けられる。この電流推定部57は非特許文献2にも開示されているが、1次の進み要素である。一方、前記フィードバック要素41,42は3次の進み要素である。
【0077】
前記図6および図7において、ステップ応答においてオーバーシュートを生じさせないために、目標値rと制御量である出力yとの間の伝達関数Wry(z)を次の式のように指定する。
【0078】
【数21】
【0079】
上記式において、n1,n2は零点、H1,H2,H3,H4,H5,H6は極である。前記図6に示す各パラメータf1,f2,f3,f4,f5,f6,GH,H4,H5,H6は、伝達関数Wry(z)が数21の式を満たすように決定される。また、NH(z),DH(z)は、モデルマッチングシステム定数(極配置(H1〜H6),状態フィードバック(f1〜f6))とDC−DCコンバータ定数(a**,b**)と零点追加用のパラメータkq1,kq2の関数である。
【0080】
等価外乱quから出力yの伝達関数Wquy(z)と、等価外乱qyから出力yの伝達関数Wqyy(z)の零点を1に配置するパラメータkq1,kq2は、次の式にてそれぞれあらわせる。
【0081】
【数22】
【0082】
これにより、等価外乱Q=[qu qy]と出力yとの間の伝達関数WQy(z)=[Wquy(z) Wqyy(z)]は、次の式のようになる。
【0083】
【数23】
【0084】
ここで、制御器としての近似度を高めるために、次の式のように極H2の絶対値が極H1,H3の絶対値よりも十分大きくなると指定する。
【0085】
【数24】
【0086】
これにより次の式に示すように、実際に実現する目標特性を、前記パルス伝達関数Wry(z)を一次近似したモデルの伝達関数Wm(z)に定めることができる。
【0087】
【数25】
【0088】
上記式を数21から導出するに際し、数21における(z+H4),(z+H5),(z+H6)の各項は、分子と分母に共通して存在するため消去できる。また、n2は制御対象の離散化に伴い発生する零点で、その絶対値は1よりも十分大きく、系に与える影響は小さいので無視できる。さらに、極H2に対して零点n1が小さい場合には、零点n1の影響が十分小さく無視できる。この場合、数24のように極H2の絶対値が極H1,H3の絶対値よりも十分大きくなると指定すれば、極H1,H3の項は十分速い応答となって無視できる。
【0089】
上述した数23は、図7に示す制御器のシステム構成において、等価外乱quから出力yの伝達関数Wquy(z)と、等価外乱qyから出力yの伝達関数Wqyy(z)が二次微分特性となることを示している。本実施例では、これにさらに一次微分特性を追加して三次微分特性とするために、図8に示すような近似的2自由度系を構成する補償器を追加する。図8に示すシステムは、前記を有する近似モデルの逆システム(逆関数)と、この逆システムを近似的に実現するためのフィルタK(z)を導入したもので、これにより図6に示すモデルマッチング系を、ロバストディジタル制御器12に組み込める構成とすることができる。逆システムの伝達関数Wm-1は、次の式に示すように、図7に示すシステムの伝達関数Wry(z)の逆関数としてあらわせる。
【0090】
【数26】
【0091】
また、フィルタK(z)は、逆システムの伝達関数Wm-1だけでは近似的に実現できない系となることを避けるのに導入されたもので、次の式で示される。なお、ここでの係数kzは、設計パラメータとして特定の値が設定される。
【0092】
【数27】
【0093】
したがって、目標値rと出力yとの間の関係は、上記伝達関数Wry(z)の式を用いて次のようにあらわせる。
【0094】
【数28】
【0095】
また、等価外乱Qと出力yとの間の関係は、上記伝達関数k(z)と伝達関数WQy(z)の式を用いて次のようにあらわせる。
【0096】
【数29】
【0097】
したがって、目標値rと出力yとの間の特性は、設計パラメータである極H2で、また等価外乱quから出力yの間の特性と、等価外乱qyから出力yの間の特性は、係数kzで各々独立して指定できる。これにより、図8のシステムは近似的2自由度刑であり、外乱に対する感度は係数kzを増加することで軽減できる。上記数29は、数23の関係式を用いると次のようになる。
【0098】
【数30】
【0099】
これにより本実施例では、入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した4つの遅れ要素31〜34を接続し、その等価外乱Qから遅れ要素31〜34の入力へのフィードフォワード要素37,38を、出力電圧Voおよび操作量ξ1から遅れ要素31〜34の入力へのフィードバック要素41,42で置き換えることで、等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)の特性が、3次微分特性を有するものとなる。
【0100】
図8において、61は等価外乱Qを考慮した伝達関数Wry(z),WQy(z)を含むシステムの伝達要素、62は伝達関数Wm-1を含む逆システムの伝達要素、63は伝達関数K(z)のフィルタを含むロバスト補償器としての伝達要素で、伝達要素61の出力yである制御量が、引き出し点64で引き出されて伝達要素62の入力に印加され、伝達要素63の出力と目標値rとを加算する加え合せ点65からの出力は、引き出し点66によって別な加え合せ点67に加算されると共に、伝達要素61に入力される。また加え合せ点67は、引き出し点66で分岐した加え合せ点65からの出力と、伝達要素62の出力との偏差(減算値)を、伝達要素63に入力するものである。
【0101】
図9は、図8に示す系をロバストディジタル制御器12として実現できる近似的2自由度の積分型制御系の構成に等価変換したブロック線図である。このブロック線図における各部の構成を説明すると、前述したコントローラ22は、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4の各パラメータを有する乗算器としての伝達要素70〜85と、1サンプル遅れに相当する次数1/zの遅延素子としての遅れ要素31〜34および遅れ要素86と、減算器としての加え合せ点87と、加算器としての加え合せ点39および加え合せ点88〜91との組み合わせにより構成される。なお、パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものは省略することができ、各フィードフォワード要素70,71,72,73も省略することができる。これにより、操作量ξ1の算出式が簡単化され演算負担が軽減され、演算処理の高速化や演算器の簡単化が可能となる。
【0102】
図9に示す構造をより詳細に説明すると、目標値rを入力としてパラメータk1r,k2r,k3r,k4rの各フィードフォワード要素70,71,72,73が接続され、出力電圧Voを入力としてパラメータk1,k2,k7,k8の各フィードバック要素74,75,80,81が接続されると共に、目標値rと出力電圧Voとの偏差が加え合せ点87から別な加え合せ点88に入力され、この加え合せ点88で次数1/zの遅れ要素86からの出力が加算されて当該遅れ要素86に入力され、遅れ要素86からの出力がパラメータki1,ki2,ki3,ki4の各伝達要素82,83,84,85に入力され、伝達要素82からの出力と、フィードバック要素73からの出力と、パラメータk3,k4,k5,k6の各フィードバック要素76,77,78,79からの出力と、フィードフォワード要素70からの出力が、加え合せ点39で加算され、この加え合せ点39で加算した出力が次数1/zの遅延要素34に入力され、この遅延要素34からの遅れ出力ξ4がフィードバック要素79に入力され、遅延要素34からの遅れ出力ξ4と、フィードバック要素75からの出力と、フィードフォワード要素71からの出力と、伝達要素83からの出力が、加え合せ点89で加算され、この加え合せ点89で加算した出力が次数1/zの遅延要素33に入力され、この遅延要素33からの遅れ出力ξ3がフィードバック要素78に入力され、遅延要素33からの遅れ出力ξ3と、フィードバック要素81からの出力と、フィードフォワード要素72からの出力と、伝達要素84からの出力とが、加え合せ点90で加算され、この加え合せ点90で加算した出力が次数1/zの遅延要素32に入力され、この遅延要素32からの遅れ出力ξ2が、フィードバック要素77に入力され、遅延要素32からの遅れ出力ξ2と、フィードバック要素80からの出力と、フィードフォワード要素73からの出力と、伝達要素85からの出力とが、加え合せ点91で加算され、この加え合せ点91で加算した出力が次数1/zの遅延要素31に入力され、この遅延要素31からの遅れ出力ξ1が、フィードバック要素76に入力されると共に、制御対象要素であるDC−DCコンバータ2の入力uとして与えられるように、ロバストディジタル制御器12のコントローラ22が構成される。
【0103】
上記図9では、制御対象要素であるDC−DCコンバータ2を除く部分が、近似的2自由度積分型制御系の構成となるロバストディジタル制御器12のコントローラ22に相当する。コントローラ22は、ディジタルフィルタとしての伝達要素を備えており、その伝達要素の伝達関数Gr,Gvo,Geは、次の式であらわされる。
【0104】
【数31】
【0105】
上記式において、Grは負荷電圧目標値rから操作量ξ1までの伝達関数であり、Gvoは出力電圧Voから操作量ξ1までの伝達関数であり、Geは負荷電圧目標値rと出力電圧voとの偏差から操作量ξ1までの伝達関数である。従って、制御対象への入力uとなる操作量ξ1は、これらの伝達関数Gr,Gvo,Geを有する各ディジタルフィルタの出力を加算したものとなって、次の式であらわされる。
【0106】
【数32】
【0107】
上記式では、z=exp(jωt)であり、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4の各パラメータは、ロバストディジタル制御器12として組み込まれる制御系に応じて予め設定される。
【0108】
このようにして得られたロバストディジタル制御器12を用いた電源装置は、電源装置の負荷急変,入力急変時の出力電圧変動を従来よりもさらに小さくできる。このため、出力コンデンサ(平滑コンデンサ9)の容量が小さくでき、電源装置として小形,低コスト化につながる。
【0109】
次に、上記実施例に基づくシミュレーションの結果を説明する。ここでは、電源装置のシミュレーションを行なうに際し、上述した設計パラメータH1,H2,H3,H4,H5,H6,kz,kq1,kq2を次のように設定する。
【0110】
【数33】
【0111】
これにより、図9のコントローラ22を構成する制御器パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、次のように導出できる。
【0112】
【数34】
【0113】
図10および図11は、上記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4を有するロバストディジタル制御器12を、DC−DCコンバータ2に組み込んだと仮定した場合のシミュレーション結果を示している。図10は、等価外乱Qと出力yとの間の伝達関数WQy(z)に関し、その周波数−ゲイン特性を示しており、左側は従来の2次微分特性を設定した制御系を示し、右側は本実施例における3次微分特性を設定した制御系を示している。
【0114】
同図からも明らかなように、伝達関数WQy(z)に関し、従来は(z−1)の次数が2次となっており、周波数−ゲイン特性の傾きは40dB/decとなる。一方、本実施例では(z−1)の次数が3次となっており、周波数−ゲイン特性の傾きは60dB/decとなるため、構成を複雑化させることなく、負荷急変に対する追従性を向上させることができる。
【0115】
図11は、図1や図2に示す負荷3の抵抗値R0を急変させたときの出力電圧Voの変動特性を示したものである。ここでは、負荷3の抵抗値R0を0.33Ωから0.165Ω(負荷3への出力電流ioを10Aから20A)に急変させているが、出力電圧Voの変動(図中矢印を参照)は、前記周波数−ゲイン特性の傾きが60dB/decに改善されている関係で、20mVに抑えられている。
【0116】
次に、本実施例に基づき設計したロバストディジタル制御器12の実装例を説明する。ここでの設計パラメータH1,H2,H3,H4,H5,H6,kz,kq1,kq2の各値は、次のように設定する。
【0117】
【数35】
【0118】
これにより、制御器パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、次のように導出される。
【0119】
【数36】
【0120】
図12は負荷3の抵抗値R0を急変させたときの出力電圧Voの変動特性を示したもので、ここでも同じ条件、すなわち負荷3の抵抗値R0を0.33Ωから0.165Ω(負荷3への出力電流ioを10Aから20A)に急変させている。上記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4を有するロバストディジタル制御器12を実際に電源装置に組み込んだ例では、出力電圧Voの変動(図中矢印を参照)が40mVに抑えられていることがわかる。
【0121】
このように、DC−DCコンバータ2に適用するロバストディジタル制御器12として、外乱Qから出力y間の伝達関数WQy(z)の零点2つに「1」を指定し、3次微分特性を与える新たな制御系を組み入れることで、従来よりも負荷急変特性を効果的に改善できることを、上記シミュレーションによる検証や、実際にロバストディジタル制御器12に装備した実験結果から確認できた。なお、零点2つに、例えば[0.99+0.01i,0.99−0.01i]のような共役複素数を設定し、コントローラ22に逆チェビシェフフィルタの特性を持たせることで、よりロバストな制御系を構成することもできる。
【0122】
以上のように、本実施例は入力電圧Viを出力電圧Voに変換して負荷3に供給する電源装置のロバストディジタル制御器12であって、出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するよう構成された操作量演算部としてのコントローラ22と、この操作量ξ1を、電源装置を動作させるための信号に変換する信号生成部としてのPWMジェネレータ23を備え、前記入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素31〜34を接続し、前記等価外乱Qからのフィードフォワード要素37,38を、前記出力電圧Voおよび前記操作量ξ1からのフィードバック要素41,42で置き換えることで、等価外乱Qから出力電圧voの伝達関数WQy(z)の特性が3次微分特性となるように、コントローラ22を構成している。
【0123】
また、ここでのコントローラ22は、次の式に従って
【0124】
【数37】
【0125】
(但し、z=exp(jωt)、rは出力電圧voについての任意の目標値、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、予め設定された所定のパラメータである。)操作量ξ1を算出するよう構成される。
【0126】
この場合のコントローラ22は、目標値rを入力として次の式に表される伝達関数Grを有する第1のディジタルフィルタと、
【0127】
【数38】
【0128】
出力電圧Voを入力として次の式で表される伝達関数GVOを有する第2のディジタルフィルタと、
【0129】
【数39】
【0130】
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差を入力として次の式で表される伝達関数Geを有する第3のディジタルフィルタと、
【0131】
【数40】
【0132】
これらのディジタルフィルタからの各出力を加算して操作量ξ1を出力する加算器と、から構成される。
【0133】
また、本実施例におけるコントローラ22は、目標値rを入力としてパラメータk1r,k2r,k3r,k4rを掛け算する各フィードフォワード乗算器として、フィードフォワード要素70,71,72,73が接続され、出力電圧voを入力としてパラメータk1,k2,k7,k8を掛け算する各フィードバック乗算器として、フィードバック要素74,75,80,81が接続されると共に、目標値rと出力電圧voとの偏差が減算器である加え合せ点87から第1の加算器である加え合せ点88に入力され、この加え合せ点88からの出力が1サンプル時間遅らせる第1の遅延素子としての遅れ要素86に入力され、この遅れ要素86からの遅れ出力が、パラメータki1,ki2,ki3,ki4を掛け算する各乗算器としての伝達要素82,83,84,85と、前記加え合せ点88とに入力され、パラメータki1の伝達要素82からの出力と、パラメータk1を掛け算するフィードバック要素74からの出力と、パラメータk3,k4,k5,k6を掛け算する各フィードバック乗算器としての各フィードバック要素76,77,78,79からの出力と、パラメータk1rのフィードフォワード要素70からの出力が、第2の加算器としての加え合せ点39で加算され、加え合せ点39で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第2の遅延素子としての遅延要素34に入力され、この遅延要素34からの遅れ出力ξ4がパラメータk6のフィードバック要素79に入力され、遅延要素34からの遅れ出力ξ4と、パラメータk2のフィードバック要素75からの出力と、パラメータk2rのフィードフォワード要素71からの出力と、前記パラメータki2の伝達要素83からの出力が、第3の加算器としての加え合せ点89で加算され、この加え合せ点89で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第3の遅延素子としての遅延要素33に入力され、この遅延要素33からの遅れ出力ξ3がパラメータk5のフィードバック要素78に入力され、遅延要素33からの遅れ出力ξ3と、パラメータk8のフィードバック要素81からの出力と、パラメータk3rのフィードフォワード要素72からの出力と、パラメータki3の伝達要素84からの出力が、第4の加算器としての加え合せ点90で加算され、この加え合せ点90で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第4の遅延素子としての遅延要素32に入力され、この遅延要素32からの遅れ出力ξ2がパラメータk4のフィードバック要素77に入力され、遅延要素32からの遅れ出力ξ2と、パラメータk7のフィードバック要素80からの出力と、パラメータk4rのフィードフォワード要素73からの出力と、パラメータki4の伝達要素85からの出力が、第5の加算器としての加え合せ点91で加算され、この加え合せ点91で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第5の遅延素子としての遅延要素31に入力され、この遅延要素31からの遅れ出力ξ1が、パラメータk3のフィードバック要素76に入力されると共に、DC−DCコンバータ2への前記操作量ξ1として出力されるように構成される。
【0134】
このようにすると、等価外乱Qから出力電圧voの伝達関数WQy(z)の特性が3次微分特性となるようなコントローラ22を組み込むことで、電源装置の負荷急変や入力電圧急変時における出力電圧Voの変動特性を、従来よりも効果的に改善することができる。従って、電源装置として出力コンデンサの容量を小さくでき、小形,低コスト化につながる。
【0135】
さらにコントローラ22は、各フィードフォワード要素70,71,72,73を省略して構成してもよく、また前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものを省略して構成してもよい。
【0136】
このようにすると、操作量ξ1の算出式が簡単化され、演算処理の高速化や演算器の簡単化が可能となる。従って、高速なディジタル制御を可能になる、又は演算器の構成を簡易なものとすることによりコストを抑制することができる。
【0137】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば、図1に示す制御対象となるDC−DCコンバータ2の構成はトランスを用いた絶縁型コンバータや、複数のスイッチング素子を有するコンバータ(例えば、ハーフブリッジコンバータやフルブリッジコンバータ)など、様々な形式のものが適用できる。
【符号の説明】
【0138】
3 負荷
20 ロバストディジタル制御器(ディジタル制御器)
22 コントローラ(操作量演算部)
23 PWMジェネレータ(信号生成部)
31 遅れ要素(第5の遅延素子)
32 遅れ要素(第4の遅延素子)
33 遅れ要素(第3の遅延素子)
34 遅れ要素(第2の遅延素子)
39 加え合せ点(第2の加算器)
70〜73 フィードフォワード要素(フィードフォワード乗算器)
74〜81 フィードバック要素(フィードバック乗算器)
82〜85 伝達要素(乗算器)
86 遅れ要素(第1の遅延素子)
87 加え合せ点(減算器)
88 加え合せ点(第1の加算器)
89 加え合せ点(第3の加算器)
90 加え合せ点(第4の加算器)
91 加え合せ点(第5の加算器)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧を出力電圧Voに変換して負荷に供給する電源装置のディジタル制御器であって、
前記出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するように構成された操作量演算部と、
前記操作量ξ1を、前記電源装置を動作させるための信号に変換する信号生成部とを備え、
前記入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素を接続し、前記等価外乱Qからのフィードフォワードを、前記出力電圧Voおよび前記操作量ξ1からのフィードバックで置き換えることで、前記等価外乱qyから前記出力電圧voの伝達特性が3次微分特性となるように、前記操作量演算部を構成したことを特徴とする電源装置のディジタル制御器。
【請求項2】
前記操作量演算部は、次の式に従って
【数1】
(但し、z=exp(jωt)、rは出力電圧voについての任意の目標値、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、予め設定された所定のパラメータである)
前記操作量ξ1を算出するように構成されたことを特徴とする請求項1記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項3】
前記操作量演算部が、前記目標値rを入力として次の式に表される伝達関数Grを有する第1のディジタルフィルタと、
【数2】
前記出力電圧Voを入力として次の式で表される伝達関数GVOを有する第2のディジタルフィルタと、
【数3】
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差を入力として次の式で表される伝達関数Geを有する第3のディジタルフィルタと、
【数4】
前記第1乃至第3のディジタルフィルタからの各出力を加算して前記操作量ξ1を出力する加算器と、から構成されたことを特徴とする請求項2記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項4】
前記操作量演算部が、前記目標値rを入力として前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4rを掛け算する各フィードフォワード乗算器が接続され、前記出力電圧voを入力として前記パラメータk1,k2,k7,k8を掛け算する各フィードバック乗算器が接続されると共に、
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差が減算器から第1の加算器に入力され、この第1の加算器からの出力が1サンプル時間遅らせる第1の遅延素子に入力され、
この第1の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータki1,ki2,ki3,ki4を掛け算する各乗算器と前記第1の加算器に入力され、
前記パラメータki1の乗算器からの出力と、前記パラメータk1を掛け算するフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3,k4,k5,k6を掛け算する各フィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk1rのフィードフォワード乗算器からの出力が、第2の加算器で加算され、
この第2の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第2の遅延素子に入力され、
この第2の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk6のフィードバック乗算器に入力され、
前記第2の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk2のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk2rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki2の乗算器からの出力とが、第3の加算器で加算され、
この第3の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第3の遅延素子に入力され、
この第3の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk5のフィードバック乗算器に入力され、
前記第3の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk8のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki3の乗算器からの出力とが、第4の加算器で加算され、
この第4の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第4の遅延素子に入力され、
この第4の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk4のフィードバック乗算器に入力され、
前記第4の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk7のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk4rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki4の乗算器からの出力とが、第5の加算器で加算され、
この第5の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第5の遅延素子に入力され、
この第5の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータk3のフィードバック乗算器に入力されると共に前記操作量ξ1として出力されたよう構成されたことを特徴とする請求項2記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項5】
前記操作量演算部が前記各フィードフォワード乗算器を省略して構成されたことを特徴とする請求項4記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項6】
前記操作量演算部が、前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものを省略して構成されたことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項1】
入力電圧を出力電圧Voに変換して負荷に供給する電源装置のディジタル制御器であって、
前記出力電圧Voを検出して操作量ξ1を算出するように構成された操作量演算部と、
前記操作量ξ1を、前記電源装置を動作させるための信号に変換する信号生成部とを備え、
前記入力電圧変動および負荷変動の等価外乱Qから出力電圧Voまでの伝達関数WQy(z)に零点を2つ追加した遅れ要素を接続し、前記等価外乱Qからのフィードフォワードを、前記出力電圧Voおよび前記操作量ξ1からのフィードバックで置き換えることで、前記等価外乱qyから前記出力電圧voの伝達特性が3次微分特性となるように、前記操作量演算部を構成したことを特徴とする電源装置のディジタル制御器。
【請求項2】
前記操作量演算部は、次の式に従って
【数1】
(但し、z=exp(jωt)、rは出力電圧voについての任意の目標値、k1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4は、予め設定された所定のパラメータである)
前記操作量ξ1を算出するように構成されたことを特徴とする請求項1記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項3】
前記操作量演算部が、前記目標値rを入力として次の式に表される伝達関数Grを有する第1のディジタルフィルタと、
【数2】
前記出力電圧Voを入力として次の式で表される伝達関数GVOを有する第2のディジタルフィルタと、
【数3】
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差を入力として次の式で表される伝達関数Geを有する第3のディジタルフィルタと、
【数4】
前記第1乃至第3のディジタルフィルタからの各出力を加算して前記操作量ξ1を出力する加算器と、から構成されたことを特徴とする請求項2記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項4】
前記操作量演算部が、前記目標値rを入力として前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4rを掛け算する各フィードフォワード乗算器が接続され、前記出力電圧voを入力として前記パラメータk1,k2,k7,k8を掛け算する各フィードバック乗算器が接続されると共に、
前記目標値rと前記出力電圧voとの偏差が減算器から第1の加算器に入力され、この第1の加算器からの出力が1サンプル時間遅らせる第1の遅延素子に入力され、
この第1の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータki1,ki2,ki3,ki4を掛け算する各乗算器と前記第1の加算器に入力され、
前記パラメータki1の乗算器からの出力と、前記パラメータk1を掛け算するフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3,k4,k5,k6を掛け算する各フィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk1rのフィードフォワード乗算器からの出力が、第2の加算器で加算され、
この第2の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第2の遅延素子に入力され、
この第2の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk6のフィードバック乗算器に入力され、
前記第2の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk2のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk2rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki2の乗算器からの出力とが、第3の加算器で加算され、
この第3の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第3の遅延素子に入力され、
この第3の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk5のフィードバック乗算器に入力され、
前記第3の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk8のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk3rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki3の乗算器からの出力とが、第4の加算器で加算され、
この第4の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第4の遅延素子に入力され、
この第4の遅延素子からの遅れ出力が前記パラメータk4のフィードバック乗算器に入力され、
前記第4の遅延素子からの遅れ出力と、前記パラメータk7のフィードバック乗算器からの出力と、前記パラメータk4rのフィードフォワード乗算器からの出力と、前記パラメータki4の乗算器からの出力とが、第5の加算器で加算され、
この第5の加算器で加算した出力が1サンプル時間遅らせる第5の遅延素子に入力され、
この第5の遅延素子からの遅れ出力が、前記パラメータk3のフィードバック乗算器に入力されると共に前記操作量ξ1として出力されたよう構成されたことを特徴とする請求項2記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項5】
前記操作量演算部が前記各フィードフォワード乗算器を省略して構成されたことを特徴とする請求項4記載の電源装置のディジタル制御器。
【請求項6】
前記操作量演算部が、前記パラメータk1r,k2r,k3r,k4r,k1,k2,k3,k4,k5,k6,k7,k8,ki1,ki2,ki3,ki4のうちその値が小さく制御系に与える影響が小さいものを省略して構成されたことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つに記載の電源装置のディジタル制御器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−166892(P2011−166892A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24771(P2010−24771)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(390013723)TDKラムダ株式会社 (272)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(390013723)TDKラムダ株式会社 (272)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】
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