説明

電熱線の断線検査テープ、および断線検査装置

【課題】安価で、しかも簡単かつ迅速にガラスに埋め込まれた電熱線の断線の有無を検査することができる断線検査テープ、および断線検査装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る断線検査テープ1Aは、電熱線が埋め込まれたガラスに接するように配置して使用される、当該電熱線の断線の有無を検査するためのものであって、テープ基材2と、テープ基材2上に設けられた着色層3と、着色層3上に設けられた示温インキ層4とを備え、電熱線が発熱すると、示温インキ層4の当該電熱線を跨ぐ部分が実質的に透明になることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電熱線の断線検査テープおよび断線検査装置に関し、特に、自動車の窓ガラスに埋め込まれている防曇用電熱線の断線の有無を検査するのに好適な断線検査テープおよび断線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の窓ガラス(特に、リアガラス)には防曇用の電熱線が埋め込まれている。また、自動車修理工場等では、客が持ち込んだ自動車の凹みや歪みを直すいわゆる鈑金作業の前にボディからリアガラスを一旦取り外し、鈑金作業が終了した後に再びボディにリアガラスを取り付けるということがよく行われ、これにより鈑金作業の影響でリアガラスが割れるのを防いでいる。
【0003】
一般に、リアガラスに埋め込まれている電熱線は、細く繊細で断線しやすい。このため、鈑金作業が終了して自動車が客に返却される際に電熱線が断線していると、その断線の発生時期がしばしば大きな問題となる。すなわち、自動車修理工場においてリアガラスを着脱する際に断線したのであれば、断線したのは自動車修理工場側の責任であり、断線修理費用またはリアガラス交換費用は自動車修理工場側で負担する必要がある。一方、客が自動車を持ち込んだ当初から断線していたのであれば、自動車修理工場には何の責任も発生しない。
【0004】
そこで、断線発生時期を明確にするために、自動車修理工場では、リアガラスの着脱前後に断線の有無を検査して、その検査結果を証拠として保存するようにしている。
【0005】
検査方法としては、通電して電熱線を発熱させた状態のリアガラス表面に泡立たせた液剤をスプレーで吹き付け、リアガラス表面での泡の消え具合を調べるのが一般的である。この方法によれば、断線により発熱していない部分は、正常に発熱している部分よりも泡の消える速度が遅いので、断線の有無を特定することができる。
【0006】
他の検査方法としては、特許文献1に記載のものが知られている。この方法では、通電して電熱線を発熱させた状態のリアガラス表面を赤外線カメラで撮影し、これにより断線により発熱していない部分の有無を検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−215081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、泡を用いた検査方法は、泡が消えているのか消えていないのかの判断が困難で、特に、リアガラスが急角度で傾斜した液剤が垂れやすい状況では、どの部分の泡が消えているのかほとんど判断できない場合があった。また、特許文献1に記載の検査方法は、赤外線カメラを用意する必要があり、高価であった。
【0009】
そこで本発明は、安価で、しかも簡単かつ迅速に断線の有無を検査することができる断線検査テープ、および当該テープを用いた断線検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る断線検査テープは、電熱線が埋め込まれたガラスに接するように配置して使用される、当該電熱線の断線の有無を検査するためのものであって、テープ基材と、テープ基材上に設けられた着色層と、着色層上に設けられた示温インキ層とを備え、電熱線が発熱すると、示温インキ層の当該電熱線を跨ぐ部分が実質的に透明になることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、断線検査テープを検査対象であるガラスに接するように配置して電熱線を通電させると、発熱した正常な電熱線を跨いでいる部分の示温インキ層が透明に変色し、着色層の色が透けて見えるようになるので、断線の有無を視覚的に簡単に検査することができる。また、通常、示温インキは可逆性を有しているので、何度でも繰り返し検査を行うことができ、安価である。
【0012】
上記断線検査テープにおいて、テープ基材は短冊状を有し、着色層はテープ基材の上面全域に亘って設けられ、示温インキ層は着色層の上面全域に亘って設けられ、さらに着色層の幅方向中心線を境に変色温度の異なる第1示温インキ層と第2示温インキ層とに分割されていることが好ましい。
【0013】
また、第1示温インキ層の変色温度は11〜25℃の範囲で設定され、第2示温インキ層の変色温度は30〜45℃の範囲で設定されていることがさらに好ましい。
【0014】
この構成によれば、示温インキ層が変色温度の異なる第1示温インキ層と第2示温インキ層とに分割されているので、周囲温度が低い冬場は、変色温度が第2示温インキ層の変色温度よりも低く設定されている第1示温インキ層の変色を頼りに断線の有無を判断することができる。これにより、電熱線の温度が第2示温インキ層の変色温度に到達するまで待つ必要がなく、迅速に断線の有無を検査することができる。なお、周囲温度が高い夏場は、変色温度が高く設定されている第2示温インキ層の変色を頼りに断線の有無を判断すればよい。つまり、この構成によれば、どのような周囲温度であっても、迅速に断線の有無を検査することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る断線検査装置は、上記断線検査テープと、断線検査テープをガラスに押し付けて保持する少なくとも1つのテープ保持具とを備え、テープ保持具は、平板状のベース部材と、ベース部材の下面側に設けられた弾性押付部材と、ベース部材の下面側であって、弾性押付部材を挟んだ対称位置に設けられた2つの吸着部材とを備え、吸着部材をガラスに吸着させると、断線検査テープが弾性押付部材によってガラスに押し付けられて保持されることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、断線検査テープをガラスに接した状態で簡単に保持することができる。また、この構成によれば、弾性押付部材によって断線検査テープがガラスの表面に押し付けられるので、ガラスの表面が湾曲していたとしても、位置ずれなく安定的に断線検査テープを保持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安価で、しかも簡単かつ迅速に断線の有無を検査することができる断線検査テープ、および当該テープを用いた断線検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1に係る断線検査テープであって、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【図2】実施例1に係る断線検査テープによる断線検査結果を示す模式図である。
【図3】実施例1に係る断線検査テープの使用状態を示す図であって、(A)は電熱線に通電する前の状態、(B)は通電させた後の状態である。
【図4】実施例2に係る断線検査テープであって、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【図5】実施例2に係る断線検査テープによる断線検査結果を示す模式図である。
【図6】本発明に係る断線検査装置であって、(A)はテープ保持具を下面側から見た斜視図、(B)は全体側面図、である。
【図7】本発明に係る断線検査装置の使用状態を示す図であって、(A)は電熱線に通電する前の状態、(B)は通電させた後の状態である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る断線検査テープおよび断線検査装置の好ましい実施形態について説明する。
【0020】
[断線検査テープ(実施例1)]
図1は、実施例1に係る断線検査テープである。本実施例に係る断線検査テープ1Aは、自動車のリアガラスに埋め込まれた電熱線の断線の有無を検査するもので、図1(A)に示すように、全体として短冊状を有している。断線検査テープ1Aの幅(短辺方向)は約4cm、長さ(長辺方向)は約80cmである。長さは、電熱線が埋め込まれている領域の寸法を考慮して決定されている。
【0021】
断線検査テープ1Aを、図1(A)の線B−B’から見た断面図を図1(B)に示す。同図に示すように、断線検査テープ1Aは、PET(ポリエチレンテレフタラート)からなるテープ基材2と、テープ基材2上に設けられた着色層3と、着色層3上に設けられた示温インキ層4と、示温インキ層4上に設けられた透明の保護層5とを備えている。
【0022】
示温インキ層4は、所定の変色温度よりも低い温度では有色であり、当該変色温度よりも高い温度では実質的に透明となる可逆性の示温インキからなっている。ここで、“実質的に透明”とは、着色層3の色が十分認識できる程度に透けていることをいう。本実施例において、変色温度は30〜35℃の範囲に設定されている。また、低温時の示温インキの色は黒色である。
【0023】
なお、実際には、示温インキの色は変色温度を境に急激に変化するのではなく、変色温度付近の温度変化にともなって緩やかに変化する。例えば、変色温度が33℃に設定されている場合は、29℃以下で発色濃度が100%、36℃以上で発色濃度が0%となり、27℃〜36℃の間では温度の上昇とともに色は次第に薄くなる。また、変色温度である33℃では、発色濃度は50%となる。
【0024】
着色層3は任意の色の塗料、染料、顔料等からなる。本実施例では、黄色の塗料が使用されている。
【0025】
保護層5は断線検査テープ1Aの最上層に設けられ、示温インキ層4に傷が付いたり、紫外線の影響で示温インキ層4が変質したりするのを防止している。前記の通り、保護層5は透明である。したがって、断線検査テープ1Aの上面側からは、示温インキ層4の色が透けて見える。また、示温インキ層4も透明の場合、断線検査テープ1Aの上面側からは、着色層3の色が透けて見える。
【0026】
図2は、断線検査テープ1Aによる断線検査結果を示す模式図である。同図に示すように、断線検査テープ1Aを電熱線W1〜6が埋め込まれたガラスの表面に接するように配置して各電熱線W1〜6を通電すると、発熱した電熱線W1、3〜6を跨ぐ部分の示温インキ層4が透明になり、着色層3の色(黄色)が透けて見えるようになる。また、電熱線W2は断線しているので発熱しない。したがって、電熱線W2を跨ぐ部分の示温インキ層4は黒色のままである。
【0027】
図3は、断線検査テープ1Aの使用状態を示す図である。図3(B)に示すように、自動車のリアガラスに埋め込まれている防曇用の電熱線を通電させると、正常な電熱線を跨ぐ部分からは着色層3の黄色が透けて見えるようになる。図3(B)では、幾つかの電熱線を跨ぐ部分が黒色のままであり、当該電熱線が断線していることが分かる。
【0028】
以上のように、実施例1に係る断線検査テープによれば、断線の有無を視覚的に簡単に検査することができる。また、通常、示温インキは可逆性を有しているので、何度でも繰り返し検査を行うことができる。
【0029】
[断線検査テープ(実施例2)]
図4は、実施例2に係る断線検査テープである。本実施例に係る断線検査テープ1Bは、実施例1に係る断線検査テープ1Aと同様に、自動車のリアガラスに埋め込まれた電熱線の断線の有無を検査するもので、全体として短冊状を有している。
【0030】
図4(B)は、断線検査テープ1Bを図4(A)の線B−B’から見た断面図である。同図に示すように、断線検査テープ1Bは、PETからなるテープ基材2と、テープ基材2上に設けられた着色層3と、着色層3上に設けられた示温インキ層4と、示温インキ層4上に設けられた透明の保護層5とを備えている。
【0031】
示温インキ層4は幅方向中心線X−X’を境に分割されており、その一方は変色温度が11〜25℃の範囲に設定された第1示温インキ層4a、他方は変色温度が30〜45℃の範囲に設定された第2示温インキ層4bである。本実施例において、第1示温インキ層4aおよび第2示温インキ層4bは、いずれも変色温度よりも温度が低い場合は黒色であり、変色温度よりも温度が高い場合は透明となる。
【0032】
着色層3と保護層5については、実施例1に係る断線検査テープ1Aと同様なので、ここでは説明を省略する。
【0033】
図5は、周囲温度が27℃であるときに、断線検査テープ1Bを用いて行った断線検査の結果を示す模式図である。同図に示すように、断線検査テープ1Bを電熱線W1〜6が埋め込まれたガラスの表面に接して配置し、各電熱線を通電すると、発熱した電熱線W1、3〜6を跨ぐ部分の第2示温インキ層4bが透明になり、着色層3の色(黄色)が透けて見えるようになる。また、電熱線W2は断線しているので発熱しない。したがって、電熱線W2を跨ぐ部分の第2示温インキ層4bは黒色のままである。
【0034】
一方、第1示温インキ層4aの変色温度は11〜25℃の範囲に設定されている。したがって、周囲温度が27℃の場合、第1示温インキ層4aは電熱線W1〜6の発熱とは無関係に全域に亘って透明となり、着色層3の黄色が透けて見える。
【0035】
以上のように、実施例2に係る断線検査テープによれば、周囲温度が高い夏場は、変色温度が高く設定されている第2示温インキ層の変色を頼りに断線の有無を判断することができる。また、周囲温度が低い冬場は、変色温度が第2示温インキ層の変色温度よりも低く設定されている第1示温インキ層の変色を頼りに断線の有無を判断することができる。これにより、電熱線の温度が第2示温インキ層の変色温度に到達するまで待つことなく、迅速に断線の有無を検査することができる。つまり、本実施例に係る断線検査テープによれば、どのような周囲温度であっても迅速に断線の有無を検査することができる。また、周囲温度に応じて、変色温度が異なる2種類の断線検査テープを使い分ける必要もなく、便利である。
【0036】
[断線検査装置]
続いて、本発明に係る断線検査装置について説明する。断線検査装置は、上記断線検査テープ(例えば、1A)と、断線検査テープ1Aを検査対象であるガラスの表面に押し付けて保持するための少なくとも1つのテープ保持具とからなる。
【0037】
図6(A)に示すように、テープ保持具11は、平板状のベース部材12と、ベース部材12の下面側に設けられた弾性押付部材13と、ベース部材12の下面側であって弾性押付部材13を挟んだ対称位置に設けられた2つの吸盤14(吸着部材)とからなる。このうち、弾性押付部材13は断線検査テープ1Aをガラス表面20に押し付けるためのもので、例えば、低反発ウレタン、低反発ゴム、低反発弾性フォーム等からなる。
【0038】
本発明に係る断線検査装置10を検査対象であるガラス表面20に取り付けると、図6(B)に示す状態となる。同図に示すように、テープ保持具11を吸盤14でガラス表面20に固定すると、断線検査テープ1Aが弾性押付部材13によってガラス表面20に押し付けられる。言い換えると、断線検査テープ1Aは、弾性押付部材13とガラス表面20とによって挟持される。
【0039】
テープ保持具11は少なくとも1つあればよいが、図7に示すように、3つのテープ保持具11によって、リアガラスの上端付近、中央付近、下端付近で保持するのが好ましい。このようにすれば、断線検査テープ1Aがガラス表面から浮き上がるのを防ぐことができ、より明確に断線の有無を検査することができる。
【0040】
結局、本発明に係る断線検査装置によれば、断線検査テープをガラスに接した状態で簡単に保持することができる。また、この断線検査装置によれば、低反発ウレタン等からなる弾性押付部材で断線検査テープをガラス表面に押し付けるので、ガラス表面が湾曲していたとしても、位置ずれなく安定的に断線検査テープを保持することができる。
【0041】
以上、本発明に係る断線検査テープおよび断線検査装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の構成に限定されるものではない。
例えば、各実施例に係る断線検査テープでは保護層によって示温インキ層を保護することとしたが、保護する必要がない場合は保護層を省略することができる。
また、実施例2に係る断線検査テープでは示温インキ層を2分割したが、3分割、4分割・・・して、第3示温インキ層、第4示温インキ層・・・を設けてもよい。
また、着色層および示温インキ層の色は一例であって、適宜変更することができる。ただし、断線の有無をより明確に特定するという観点から、着色層の色と示温インキ層の色は、例えば、白−黒、赤−緑のように対照的な色にしておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
1A、1B 断線検査テープ
2 テープ基材
3 着色層
4 示温インキ層
5 保護層
10 断線検査装置
11 テープ保持具
12 ベース部材
13 弾性押付部材
14 吸盤(吸着部材)
20 ガラス表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電熱線が埋め込まれたガラスに接するように配置して使用される、当該電熱線の断線の有無を検査するための断線検査テープであって、
テープ基材と、
前記テープ基材上に設けられた着色層と、
前記着色層上に設けられた示温インキ層と、
を備え、
前記電熱線が発熱すると、前記示温インキ層の当該電熱線を跨ぐ部分が実質的に透明になることを特徴とする断線検査テープ。
【請求項2】
前記テープ基材は、短冊状を有し、
前記着色層は、前記テープ基材の上面全域に亘って設けられ、
前記示温インキ層は、前記着色層の上面全域に亘って設けられ、さらに前記着色層の幅方向中心線を境に変色温度の異なる第1示温インキ層と第2示温インキ層とに分割されていることを特徴とする請求項1に記載の断線検査テープ。
【請求項3】
前記第1示温インキ層の変色温度が11〜25℃の範囲で設定され、前記第2示温インキ層の変色温度が30〜45℃の範囲で設定されていることを特徴とする請求項2に記載の断線検査テープ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の断線検査テープと、
前記断線検査テープを前記ガラスに押し付けて保持する少なくとも1つのテープ保持具とを備え、
前記テープ保持具は、
平板状のベース部材と、
前記ベース部材の下面側に設けられた弾性押付部材と、
前記ベース部材の下面側であって、前記弾性押付部材を挟んだ対称位置に設けられた2つの吸着部材とを備え、
前記吸着部材を前記ガラスに吸着させると、前記断線検査テープが前記弾性押付部材によって前記ガラスに押し付けられて保持されることを特徴とする断線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−95074(P2011−95074A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248598(P2009−248598)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509300821)株式会社グラスウエルドジャパン (1)
【Fターム(参考)】