説明

電界放出型表示装置

【課題】発光輝度が高い赤色発光層を形成することによって、高輝度で色再現性などの表示特性に優れたFEDを提供する。
【解決手段】本発明のFEDは、表示パネルの内面に形成された蛍光体層と、前記蛍光体層に加速電圧が5〜15kVの電子線を照射して発光させる電子放出源と、前記電子放出源と前記蛍光体層を真空封止する外囲器とを具備する電界放出型表示装置であり、前記蛍光体層は、前記電子放出源から放出される電子線により励起されて青色光または緑色光を発光する青色蛍光体または緑色蛍光体と、前記電子放出源から放出される電子線により励起されて赤色光を発するとともに、前記青色蛍光体または緑色蛍光体から発せられる青色光または緑色光により励起されて赤色光を発する赤色蛍光体とが、混成された層を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチメディア時代の到来に伴って、デジタルネットワークのコア機器となるディスプレイ装置には、大画面化や高精細化、コンピュータ等の多様なソースへの対応性などが求められている。
【0003】
ディスプレイ装置の中で、電界放出型冷陰極素子などの電子放出素子を用いた電界放出型表示装置(フィールドエミッションディスプレイ;FED)は、様々な情報を緻密で高精細に表示することのできる大画面で薄型のデジタルデバイスとして、近年盛んに研究・開発が進められている。
【0004】
FEDは、基本的な表示原理が陰極線管(CRT)と同じであり、電子線により蛍光体を励起して発光させているが、電子線の加速電圧(励起電圧)がCRTに比べて低いうえに、電子線による単位時間当りの電流も低い。したがって、十分な輝度を得るために、CRTに比べて非常に長い励起時間を必要としている。このことは、所定の輝度を得るための単位面積当たりの投入電荷量を多くしなければならないことや、単位パルス当りの励起エネルギー密度を増加させることにつながり、蛍光体の寿命の悪化や輝度が所定の値に対して不十分になることが生じる。そのため、従来からCRT用として使用されている硫化亜鉛を母体とする蛍光体を使用したのでは、十分な発光輝度や寿命を得ることが難しかった。(例えば、特許文献1参照)このような背景から、発光輝度の高いFED用蛍光体が要望されている。
【0005】
従来から、励起電圧が5kV以下の電子線を照射した場合、化学式:SrGa:Euで表されるユーロピウム付活チオガレート蛍光体が比較的発光強度の高い緑色発光を示すことが知られている。またこの蛍光体は、通常のCRT用として、発光輝度は硫化亜鉛蛍光体に及ばないものの発光色が良好であることから、使用できるレベルの蛍光体であることが知られている。
【0006】
一方、FED用の赤色蛍光体としては、イットリウム酸硫化物蛍光体が良好な発光特性を示すことが知られているが、この蛍光体は、単位パルスあたりの励起エネルギー密度が増加すると、他の蛍光体に比べて発光効率の低下が大きいため、発光輝度は必ずしも十分ではなかった。そして、FED用赤色蛍光体として、種々の化学組成を有する化合物が検討されているが、発光色が良好で発光輝度の高い蛍光体は未だ得られていない。
【特許文献1】特開2002−226847公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、発光輝度が高い赤色発光層を形成することによって、高輝度で色再現性などの表示特性に優れた電界放出型表示装置(FED)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電界放出型表示装置は、表示パネルの内面に形成された蛍光体層と、前記蛍光体層に加速電圧が5〜15kVの電子線を照射して発光させる電子放出源と、前記電子放出源と前記蛍光体層を真空封止する外囲器とを具備する電界放出型表示装置であり、前記蛍光体層は、前記電子放出源から放出される電子線により励起されて青色光または緑色光を発光する青色蛍光体または緑色蛍光体と、前記電子放出源から放出される電子線により励起されて赤色光を発するとともに、前記青色蛍光体または緑色蛍光体から発せられる青色光または緑色光により励起されて赤色光を発する赤色蛍光体とが、混成された層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電界放出型表示装置によれば、表示パネルの内面に、10kV前後の加速電圧のパルス型電子線の励起により青色光または緑色光を発する青色蛍光体または緑色蛍光体とともに、この蛍光体から発せられる青色光または緑色光の光励起により赤色光を発する赤色蛍光体が混成された層が形成されているので、高い発光効率の赤色発光が得られ、赤色発光の輝度が向上する。
【0010】
また、光励起される窒化物系などの赤色蛍光体の輝度寿命はほとんど問題にならず、パルス型電子線により直接励起される青色蛍光体または緑色蛍光体の寿命が、蛍光体の寿命にそのまま反映されるため、従来から知られているイットリウム酸硫化物蛍光体より寿命が悪化すると考えられるが、他色との寿命バランスが良化し、電子線照射中での白色の色ずれが非常に少なくなるという利点がある。したがって、高輝度で表示特性が良好でありかつ長寿命の電界放出型表示装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
本発明の実施形態である電界放出型表示装置(FED)は、ガラス基板などの透明基板の上に蛍光体層が形成された表示パネル(フェイスプレート)と、この蛍光体層に加速電圧が5〜15kVの電子線を照射して発光させる電子放出源をそれぞれ有している。
【0013】
そして蛍光体層は、電子放出源から放出される電子線により励起されて青色光または緑色光を発する青色蛍光体または緑色蛍光体から成る層(青色蛍光体層または緑色蛍光体層)と、電子放出源から放出される電子線により励起されて赤色光を発光するとともに、青色蛍光体または緑色蛍光体から発せられる青色光または緑色光により励起されて赤色光を発光する赤色蛍光体から成る層(赤色蛍光体層)をそれぞれ有する。そして、実施形態においては、青色蛍光体層または緑色蛍光体層が赤色蛍光体層より電子放出源に近く位置するように積層されている。
【0014】
青色蛍光体または緑色蛍光体としては、例えば、化学式:ZnS:Ag,Alで実質的に表される銀(Ag)およびアルミニウム(Al)付活硫化亜鉛蛍光体が挙げられる。また、ユーロピウム(Eu)を付活剤とし、周期律表II族に属するアルカリ土類金属とガリウム(Ga)およびイオウ(S)をそれぞれ組合せた多元硫化物系の蛍光体を使用することもできる。
【0015】
多元硫化物系蛍光体としては、化学式:SrGa:Euで実質的に表されるEu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体、および化学式:BaGa:Euで実質的に表されるEu付活バリウムチオガレート蛍光体をそれぞれ挙げることができる。Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体は、加速電圧が5〜15kVのパルス型電子線の照射により励起され、波長500〜550nmの領域に発光ピークを有する緑色光を発する。また、Eu付活バリウムチオガレート(BaGa:Eu)蛍光体は、加速電圧が5〜15kVのパルス型電子線の照射により励起され、波長480〜520nmの領域に発光ピークを有する青緑色または緑色の光(以下、緑色光と示す。)を発する。
【0016】
これらの多元硫化物系蛍光体において、Euは発光中心をなす付活剤であり、高い遷移確率を有しているので高い発光効率が得られる。付活剤であるEuは、蛍光体の母体であるストロンチウムチオガレート(SrGa)またはバリウムチオガレート(BaGa)に対して、0.1〜5.0モル%の範囲で含有されることが好ましい。より好ましいEuの含有割合は2.0〜4.0モル%である。Euの含有割合がこの範囲を外れる場合には、発光輝度や発光色度が低下するため好ましくない。
【0017】
赤色蛍光体としては、周期律表II族に属するアルカリ土類金属とアルミニウム(Al)およびケイ素(Si)をそれぞれ含む窒化物系蛍光体が挙げられる。特に、化学式:CaAlSiN:Euで実質的に表されるユーロピウム(Eu)で付活された窒化物蛍光体を使用することが好ましい。この蛍光体において、Euは発光中心をなす付活剤であり、高い遷移確率を有しているので発光効率が高い。付活剤であるEuは、蛍光体の母体であるカルシウムアルミニウムシリコンナイトライド(CaAlSiN)に対して、0.5〜3.0モル%の範囲で含有されることが好ましい。より好ましいEuの含有割合は1.5〜3.0モル%である。Euの含有割合がこの範囲を外れると、発光輝度や発光色度が低下するため好ましくない。
【0018】
このCaAlSiN:Eu蛍光体は、加速電圧が5〜15kVのパルス型電子線の照射により励起されて波長630〜670nmの領域にピークを有する赤色光を発するとともに、前記した青色蛍光体または緑色蛍光体から発せられる青色光または緑色光によっても励起され、赤色光を発する。すなわち、この蛍光体は、青色蛍光体または緑色蛍光体から発光される青色光または緑色光の波長変換(ダウンコンバート)によっても赤色光を発光するので、輝度の高い赤色光が発せられる。
【0019】
実施形態で使用される青色蛍光体または緑色蛍光体である多元硫化物系蛍光体、および赤色蛍光体であるCaAlSiN:Eu蛍光体は、例えば以下に示す方法で製造することができる。
【0020】
すなわち、多元硫化物系蛍光体の製造においては、まず、蛍光体の母体と付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、所望の組成(SrGa:EuまたはBaGa:Eu)となるように秤量し、これらを乾式で混合する。具体的には、硫化ストロンチウムまたは硫化バリウムとオキシ水酸化ガリウムを所定量混合し、付活剤を含む化合物を適量添加することで蛍光体の原料とする。硫化ストロンチウムまたは硫化バリウムの代わりに、硫酸ストロンチウムまたは硫酸バリウムなどの酸性ストロンチウムまたは酸性バリウム原料を使用してもよい。付活剤としては、硫化ユーロピウムやシュウ酸ユーロピウムを使用することができる。
【0021】
次いで、このような蛍光体原料を、適当量の硫黄および活性炭素とともにアルミナるつぼまたは石英るつぼなどの耐熱容器に充填する。硫黄の添加・混合においては、ブレンダなどを使用して蛍光体原料より若干多めに混合し、この混合材料を耐熱容器に充填した後、その表面を硫黄で覆うようにすることが好ましい。これを、硫化水素雰囲気や硫黄蒸気雰囲気などの硫化性雰囲気、あるいは還元性雰囲気(例えば3〜5%水素−残部窒素の雰囲気)で焼成する。
【0022】
焼成条件は蛍光体母体の結晶構造を制御するうえで重要であり、700〜900℃の焼成温度とすることが好ましい。焼成時間は、設定した焼成温度にもよるが60〜180分とし、焼成後は焼成と同一雰囲気で冷却することが好ましい。その後、得られた焼成物をイオン交換水などで水洗し乾燥した後、必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを行うことによって、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体(SrGa:Eu)またはEu付活バリウムチオガレート蛍光体(BaGa:Eu)を得ることができる。
【0023】
なお、これらの蛍光体は、ガリウム金属と硫化ストロンチウムまたは硫化バリウム、あるいは硫酸ストロンチウムまたは硫酸バリウムなどを出発原料にしても合成が可能である。焼成は、前記した焼成条件(温度および時間)で行うことができる。
【0024】
実施形態に使用する赤色蛍光体であるCaAlSiN:Eu蛍光体は、例えば以下に示す方法で製造することができる。
【0025】
すなわち、蛍光体の母体と付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む蛍光体原料を、所望の組成(CaAlSiN:Eu)となるように秤量し、これらを乾式で混合する。具体的には、CaとAlNとSiを所定量混合し、付活剤であるEuを含む化合物を適量添加することで蛍光体の原料とする。
【0026】
次いで、このような蛍光体原料をアルミナるつぼまたは石英るつぼなどの耐熱容器に充填した後、還元性雰囲気(例えば3〜5%水素−残部窒素の雰囲気)で焼成する。焼成温度は1600〜1800℃の範囲とすることが好ましい。焼成時間は、設定した焼成温度にもよるが180〜330分とし、焼成後は焼成と同一雰囲気で冷却することが好ましい。その後、得られた焼成物をイオン交換水などで水洗し乾燥した後、必要に応じて粗大粒子を除去するための篩別などを行うことによって、CaAlSiN:Eu蛍光体を得ることができる。
【0027】
実施形態のFEDにおいては、ガラス基板などの透明基板上に、赤色の顔料を含有する光学フィルタ層が形成されており、その上に、前記赤色蛍光体の層と前記青色蛍光体層または緑色蛍光体層の少なくとも2層が積層された赤色発光層が形成されている。蛍光体の発光色に対応した光学フィルタ層を設けることで、色純度やコントラスト等の画像特性を向上させることができる。
【0028】
ここで、フィルタ層を構成する赤色顔料としては、無機系または有機系のいずれの顔料をも使用することができる。特に、層中に均一に分散することができ、光の散乱を起こすことなく十分な透明性を有するようにできる顔料の使用が好ましい。また、FEDの製造工程には高温加熱工程が含まれるので、無機系の顔料である酸化第二鉄(ベンガラ)系の顔料を用いることが好ましい。このような顔料から成るフィルタパターンの形成は、例えば以下に示す手順で行なわれる。すなわち、まず顔料粒子と高分子電解質分散剤とを主成分とし、重クロム酸アンモニウム(ADC)/ポリビニルアルコール(PVA)、重クロム酸ナトリウム(SDC)/PVA、ジアゾニウム塩/PVAなどのフォトレジストが含有された顔料分散液を、ガラス基板の内面にスピンコート法などにより塗布し、乾燥させる。次いで、このようなフォトレジストを含有する顔料層を、高圧水銀ランプ等を用いて露光し、紫外線照射された部分を硬化させた後、アルカリ水溶液を用いて現像することにより、所定のパターンの顔料層を形成する。
【0029】
赤色発光層は、前記した赤色蛍光体であるCaAlSiN:Eu蛍光体から成る赤色蛍光体層と、青色蛍光体から成る青色蛍光体層または緑色蛍光体から成る緑色蛍光体層が、青色蛍光体層または緑色蛍光体層が赤色蛍光体層の上になるようにすなわち電子放出源に近く位置するように、積層して形成された構造を有する。
【0030】
赤色蛍光体層および青色蛍光体層または緑色蛍光体層の厚さは、それぞれ2〜20μmとすることが好ましく、2〜10μmとすることがより好ましい。これらの蛍光体層の厚さを2μm以上に限定したのは、厚さが2μm未満で蛍光体粒子が均一に並んだ蛍光体層を形成することが難しいためである。また、各蛍光体層の厚さが20μmを超えると、発光輝度が低下し実用に供し得ない。さらに、これら2層以上の蛍光体層が積層された赤色発光層全体の厚さは、10〜30μmとすることが好ましく、10〜20μmとすることがより好ましい。
【0031】
赤色発光層の形成は、前記した赤色蛍光体と青色蛍光体または緑色蛍光体を使用し、公知の印刷法あるいはスラリー法により行うことができる。
【0032】
印刷法により赤色発光層を形成するには、まず、赤色蛍光体であるCaAlSiN:Eu蛍光体を、例えばポリビニルアルコール、n−ブチルアルコール、エチレングリコール、水などからなるバインダ溶液と混合して赤色蛍光体ペーストを調製し、この赤色蛍光体ペーストをスクリーン印刷などの方法で、光学フィルタ層が形成されたガラス基板上に塗布する。次いで、例えば500℃の温度で1時間加熱してバインダ成分を分解・除去するベーキング処理を行うことにより、CaAlSiN:Euから成る赤色蛍光体層を形成する。
【0033】
次いで、こうして形成された赤色蛍光体層の上に、AgおよびAl付活硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Ag,Al)、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体(SrGa:Eu)、あるいはEu付活バリウムチオガレート蛍光体(BaGa:Eu)などの青色蛍光体または緑色蛍光体を、ポリビニルアルコール、n−ブチルアルコール、エチレングリコール、水などからなるバインダ溶液と混合して成る青色蛍光体または緑色蛍光体ペーストを、スクリーン印刷などの方法で塗布し、次いで、例えば500℃の温度で1時間加熱してバインダ成分を分解・除去するベーキング処理を行うことにより、青色蛍光体層または緑色蛍光体層を形成する。
【0034】
スラリー法においては、赤色蛍光体であるCaAlSiN:Eu蛍光体、純水、ポリビニルアルコール、重クロム酸アンモニウムなどの感光性材料、界面活性剤などとともに混合して赤色蛍光体スラリーを調製し、この蛍光体スラリーをスピンコータなどを用いて、光学フィルタ層が形成されたガラス基板上に塗布・乾燥した後、紫外線などを照射して露光・現像し、乾燥する。こうして、所定のパターンの赤色蛍光体層を形成した後、その上に、青色蛍光体層または緑色蛍光体層を前記赤色蛍光体層と同様にスラリー法により形成する。
【0035】
この実施形態の赤色発光層においては、10kV前後の加速電圧のパルス型電子線の励起により赤色蛍光体から赤色光が発光されるとともに、パルス型電子線の励起により青色蛍光体または緑色蛍光体から発光された青色光または緑色光が赤色蛍光体に放射され、この光の励起によっても赤色蛍光体から赤色光が発せられる。そのため、高い発光効率の発光がなされ、高輝度の赤色発光が得られる。
【0036】
また、光励起される窒化物系などの赤色蛍光体の輝度寿命はほとんど問題となることがなく、パルス型電子線により直接励起される青色蛍光体または緑色蛍光体の寿命が、蛍光体の寿命にそのまま反映されるので、電子線照射中での白色の色ずれが非常に少なくなるという利点がある。
【0037】
本発明の実施形態であるFEDは、ガラス基板などの透明基板上に前記した赤色発光層が形成された表示パネルを、フェイスプレートとして有している。
【0038】
図1は、第1の実施形態であるFEDの要部構成を示す断面図である。図1において、符号1はフェイスプレートである。フェイスプレート1は、ガラス基板2などの透明基板上に蛍光体層3が形成された構造を有する。蛍光体層3は、青色蛍光体から成る青色発光層、緑色蛍光体から成る緑色発光層、および前記構造を有する赤色発光層をそれぞれ有し、これらの発光層の間を黒色導電材から成る光吸収層4により分離した構造となっている。青色蛍光体および緑色蛍光体としては、公知の硫化亜鉛蛍光体などを使用することができる。青色発光層、緑色発光層、赤色発光層およびそれらの間を分離する光吸収層4は、それぞれ水平方向に順次繰り返し形成されており、これらの蛍光体層3および光吸収層4が存在する部分が画像表示領域となる。各色の発光層と光吸収層4との配置パターンには、ドット状またはストライプ状など、種々のパターンが適用可能である。
【0039】
前記したように、赤色発光層全体の厚さは10〜30μmとすることが好ましく(より好ましくは10〜20μm)、各色の発光層の間に段差が生じないように、青色蛍光体から成る青色発光層、および緑色蛍光体から成る緑色発光層の厚さは、いずれも赤色発光層と同じにすることが望ましい。
【0040】
このような青色発光層、緑色発光層および赤色発光層をそれぞれ含む蛍光体層3の上には、メタルバック層5が形成されている。メタルバック層5は、Al膜などの金属膜からなり、蛍光体層3で発生した光のうち、後述するリアプレート方向に進む光を反射して輝度を向上させるものである。また、メタルバック層5は、フェイスプレート1の画像表示領域に導電性を与えて電荷が蓄積されるのを防ぐ機能を有し、リアプレートの電子源に対してアノード電極の役割を果たす。また、メタルバック層5は、フェイスプレート1や真空容器(外囲器)内に残留するガスが電子線で電離して生成するイオンにより、蛍光体層3が損傷することを防ぐ機能を有する。さらに、使用時に蛍光体層3から発生したガスが真空容器(外囲器)内に放出されることを防ぎ、真空度の低下を防止するなどの効果も有している。
【0041】
メタルバック層5上には、Baなどからなる蒸発型ゲッタ材により形成されたゲッタ膜6が形成されている。このゲッタ膜6によって、使用時に発生したガスが効率的に吸着される。そして、このようなフェイスプレート1とリアプレート7とが対向配置され、これらの間の空間が支持枠8を介して気密に封止されている。支持枠8は、フェイスプレート1およびリアプレート7に対して、フリットガラス、あるいはInやその合金などからなる接合材9により接合され、これらフェイスプレート1、リアプレート7および支持枠8によって、外囲器としての真空容器が構成されている。
【0042】
リアプレート7は、ガラス基板やセラミックス基板などの絶縁性基板、あるいはSi基板などからなる基板10と、この基板10上に形成された多数の電子放出素子11とを有している。これら電子放出素子11は、例えば電界放出型冷陰極や表面伝導型電子放出素子などを備え、リアプレート7の電子放出素子11の形成面には、図示を省略した配線が施されている。すなわち、多数の電子放出素子11は、各画素の蛍光体に応じてマトリックス状に形成されており、このマトリックス状の電子放出素子11を一行ずつ駆動する、互いに交差する配線(X−Y配線)を有している。なお、支持枠8には、図示を省略した信号入力端子および行選択用端子が設けられている。これらの端子は、前記したリアプレート7の交差配線(X−Y配線)に対応する。また、平板型のFEDを大型化させる場合、薄い平板状であるためにたわみなどが生じるおそれがある。このようなたわみを防止し、また大気圧に対して強度を付与するために、フェイスプレート1とリアプレート7との間に、大気圧支持部材(スペーサ)12を適宜配置してもよい。
【0043】
このような実施形態のFEDにおいては、前記したように、赤色蛍光体層と青色蛍光体層または緑色蛍光体層の少なくとも2層が積層された構造を有する赤色発光層を備えているので、加速電圧が5〜15kVより好ましくは7〜12kVのパルス型電子線の照射による赤色発光の輝度が高く、良好な表示特性が得られる。
【0044】
実施形態においては、赤色発光層を、前記した青色蛍光体または緑色蛍光体と赤色蛍光体とが均一に混合・分散された層とすることもできる。このとき輝度の高い赤色発光を得るために、低加速電圧のパルス型電子線により励起されて青色光または緑色光を発光する青色蛍光体または緑色蛍光体粒子の粒径(平均粒径)と、この青色蛍光体または緑色蛍光体からの光の励起により赤色光を発する赤色蛍光体粒子の粒径(平均粒径)を、後者の平均粒径が前者のそれの2倍以上になるようにすることが必要である。また、赤色蛍光体と青色蛍光体または緑色蛍光体との混合比は、重量比で6:1〜1:1とすることが好ましい。
【0045】
このように青色蛍光体または緑色蛍光体と赤色蛍光体とが混合・分散された赤色発光層全体の厚さは、15〜30μmとすることが好ましく、15〜20μmとすることがより好ましい。
【0046】
このような赤色発光層の形成は、前記した赤色蛍光体と青色蛍光体または緑色蛍光体との混合物を使用し、前述の印刷法あるいはスラリー法を用いることにより行うことができる。このような実施形態のFEDにおいても、加速電圧が5〜15kVより好ましくは7〜12kVのパルス型電子線の照射による赤色発光層の発光輝度が高く、良好な表示特性が得られる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0048】
実施例1〜3
赤色蛍光体の母体および付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む原料を、表1に示す組成(CaAlSiN:Eu、Eu含有割合2モル%)の化学量論比になるように秤量し、十分に混合して得られた蛍光体原料を石英るつぼ内に充填し、これを還元性雰囲気で焼成した。焼成条件は1800℃×300分とした。その後、得られた焼成物を水洗および乾燥しさらに篩別することによって、赤色蛍光体であるユーロピウム(Eu)付活窒化物蛍光体(CaAlSiN:Eu)を得た。
【0049】
また、青色または緑色蛍光体の母体および付活剤を構成する元素またはその元素を含有する化合物を含む原料を、表1に励起用蛍光体として組成を示す化学量論比になるように秤量し、十分に混合して得られた蛍光体原料を石英るつぼ内に充填し、還元性雰囲気で焼成した。その後、得られた焼成物を水洗および乾燥しさらに篩別することによって、表1に示す赤色蛍光体励起用の青色または緑色蛍光体を得た。
【0050】
次に、赤色顔料である酸化第二鉄(ベンガラ)を含有する光学フィルタ層が形成されたガラス基板上に、前記方法で得られたEu付活窒化物蛍光体(CaAlSiN:Eu)を用い、スクリーン印刷により10μmの厚さの赤色蛍光体層を形成した後、その上に前記青色または緑色蛍光体を用い、スクリーン印刷により5μmの厚さの青色または緑色蛍光体層を形成した。こうして、赤色蛍光体層と青色または緑色蛍光体層とが順に積層された赤色発光層を形成した。さらに、この赤色発光層の上に、ラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0051】
また比較例として、ガラス基板上に、赤色蛍光体であるY22S:Euを使用してスクリーン印刷により10μmの厚さの赤色蛍光体層を形成した後、その上に実施例1〜3と同様にラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0052】
次に、実施例1〜3および比較例でそれぞれ得られた赤色発光層および赤色蛍光体層の発光輝度と発光色度をそれぞれ調べた。発光輝度は、各発光層に、加速電圧10kV、電流密度30mA/cm、パルス幅15μsのパルス型電子線を照射して測定した。そして、比較例の赤色蛍光体層の輝度を100としたときの相対値として、発光輝度を求めた。
【0053】
発光色度はトプコン社製SR−3を使用して測定した。発光色度の測定は、発光時の色度が外部から影響を受けない暗室内で行った。発光輝度および発光色度の測定結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から明らかなように、実施例1〜3でそれぞれ得られた赤色発光層は、比較例で得られた赤色蛍光体層に比べて、低加速電圧(5〜15kV)で高電流密度のパルス型電子線を照射した際の発光輝度が大幅に向上し、かつ十分に良好な発光色度を有していることがわかる。
【0056】
実施例4〜8
実施例1〜3と同様にして、赤色蛍光体であるユーロピウム(Eu)付活窒化物蛍光体(CaAlSiN:Eu)(平均粒径10μm)と、表2に示す赤色蛍光体励起用の青色または緑色蛍光体を得た。なお、励起用の青色または緑色蛍光体である硫化亜鉛蛍光体(ZnS:Ag,Al)の平均粒径は5μmであり、Eu付活ストロンチウムチオガレート蛍光体(SrGa:Eu)の平均粒径は2μmであった。
【0057】
次に、赤色顔料である酸化第二鉄(ベンガラ)を含有する光学フィルタ層が形成されたガラス基板上に、前記した赤色蛍光体と青色蛍光体または緑色蛍光体を表2に示す配合率で混合した蛍光体を用いて、スクリーン印刷により15μmの厚さの赤色発光層を形成した。さらに、この赤色発光層の上に、ラッカー法によりアルミニウムのメタルバック層を形成した。
【0058】
次いで、実施例4〜8でそれぞれ得られた赤色発光層の発光輝度と発光色度を、実施例1〜3と同様にしてそれぞれ調べた。発光輝度は、前記比較例の赤色蛍光体層の輝度を100としたときの相対値として求めた。測定結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2から明らかなように、実施例4〜8でそれぞれ得られた赤色発光層は、比較例で得られた赤色蛍光体層に比べて、低加速電圧(5〜15kV)で高電流密度のパルス型電子線を照射した際の発光輝度が大幅に向上し、かつ十分に良好な発光色度を有していることがわかる。
【0061】
実施例9〜16
実施例1〜8でそれぞれ得られた赤色発光層を有するガラス基板をフェイスプレートとし、このフェイスプレートと、多数の電子放出素子を有するリアプレートとを支持枠を介して組立てるとともに、これらの間隙を真空排気しつつ気密封止し、FEDを作製した。こうして、発光輝度をはじめとする色再現性に優れ、さらに常温、定格動作で1000時間駆動させた後においても良好な輝度特性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のFEDによれば、加速電圧が5〜15kVで電流密度の高いパルス型電子線の照射により、輝度が高く色純度が良好な赤色発光を得ることができ、高輝度で色再現性などの表示特性に優れた表示を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態であるFEDを概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…フェイスプレート、2…ガラス基板、3…蛍光体層、4…光吸収層、5…メタルバック層、6…ゲッタ膜、7…リアプレート、8…支持枠、11…電子放出素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示パネルの内面に形成された蛍光体層と、前記蛍光体層に加速電圧が5〜15kVの電子線を照射して発光させる電子放出源と、前記電子放出源と前記蛍光体層を真空封止する外囲器とを具備する電界放出型表示装置であり、
前記蛍光体層は、
前記電子放出源から放出される電子線により励起されて青色光または緑色光を発光する青色蛍光体または緑色蛍光体と、前記電子放出源から放出される電子線により励起されて赤色光を発するとともに、前記青色蛍光体または緑色蛍光体から発せられる青色光または緑色光により励起されて赤色光を発する赤色蛍光体とが、混成された層を有することを特徴とする電界放出型表示装置。
【請求項2】
前記蛍光体層は、前記赤色蛍光体から成る層(以下、赤色蛍光体層と示す。)と、前記青色蛍光体または緑色蛍光体から成る層(以下、青色蛍光体層または緑色蛍光体層と示す。)の少なくとも2層が、前記青色蛍光体層または緑色蛍光体層が前記赤色蛍光体層より前記電子放出源に近く位置するように、積層して形成された層を有することを特徴とする請求項1記載の電界放出型表示装置。
【請求項3】
前記蛍光体層は、前記赤色蛍光体と前記青色蛍光体または緑色蛍光体とが混合・分散された層を有し、前記赤色蛍光体の平均粒径が前記青色蛍光体または緑色蛍光体の平均粒径の2倍以上であることを特徴とする請求項1記載の電界放出型表示装置。
【請求項4】
前記赤色蛍光体は、周期律表II族に属するアルカリ土類金属とアルミニウム(Al)およびケイ素(Si)をそれぞれ含む窒化物系蛍光体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電界放出型表示装置。
【請求項5】
前記赤色蛍光体は、化学式:CaAlSiN:Euで実質的に表されるユーロピウム(Eu)で付活された窒化物蛍光体であることを特徴とする請求項4記載の電界放出型表示装置。
【請求項6】
前記青色蛍光体または緑色蛍光体は、化学式:ZnS:Ag,Alで実質的に表される銀(Ag)およびアルミニウム(Al)で付活された硫化亜鉛蛍光体であることを特徴とするに請求項1乃至3のいずれか1項記載の電界放出型表示装置。
【請求項7】
前記青色蛍光体または緑色蛍光体は、ユーロピウム(Eu)を付活剤とし、周期律表II族に属するアルカリ土類金属とガリウム(Ga)およびイオウ(S)をそれぞれ含む多元硫化物系蛍光体であることを特徴とするに請求項1乃至3のいずれか1項記載の電界放出型表示装置。
【請求項8】
前記青色蛍光体または緑色蛍光体は、化学式:SrGa:Euで実質的に表されるユーロピウム(Eu)で付活されたチオガレート蛍光体であることを特徴とするに請求項7記載の電界放出型表示装置。
【請求項9】
前記青色蛍光体または緑色蛍光体は、化学式:BaGa:Euで実質的に表されるユーロピウム(Eu)で付活されたチオガレート蛍光体であることを特徴とするに請求項7記載の電界放出型表示装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−329027(P2007−329027A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159590(P2006−159590)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】