説明

電界紡糸方法および電界紡糸装置

【課題】新規な電界紡糸方法およびこの新規な電界紡糸方法が適用可能な電界紡糸装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の電界中にノズルから紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸方法は、前記紡糸溶液を帯電させ、前記ノズルへ前記紡糸溶液を送液し、前記ノズルから前記紡糸溶液をスプレーして紡糸する。また、本発明の電界中に紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸装置は、前記紡糸溶液をスプレーするノズル5と、前記ノズルへ送液する前記紡糸溶液を貯留して帯電させる容器6と、を備える。前記容器には、前記紡糸溶液を帯電させる導電性材料でなる電極4が内蔵されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な電界紡糸方法に関する。また、本発明は、この新規な電界紡糸方法が適用可能な電界紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子物質からなるサブミクロンからナノメートルの直径を有する極細繊維を製造する方法として、電界紡糸方法が知られている(エレクトロスピニング法とも称される)。電界紡糸方法は、例えば特許文献1に記載されているように、電界中において高分子の紡糸溶液をスプレーさせ静電爆発の現象を伴い極細繊維を製造する技術である。この電界紡糸方法が適用可能な電界紡糸装置は、紡糸溶液が貯留されている容器と、この容器の先に装着された金属製のノズルとを備えており、ノズルに高電圧を印加して紡糸溶液に電荷を帯電させ、この紡糸溶液をスプレーすることにより極細繊維を製造するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−120971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電界紡糸方法による極細繊維の製造は、連続的かつ安定的に紡糸溶液をスプレーすることが必要である。そのためには紡糸溶液のスプレー中にノズル近傍で紡糸溶液が固化したり溶出したりすることを防御せねばならない。
【0005】
従来の電界紡糸装置では、ノズルは金属製であるため紡糸中に紡糸溶液がノズル内部あるいはノズル吐出口付近で固化または溶出し易く、スプレーが不安定となり停止することがある。また、金属ノズル表面のフッ素系やシリコーン系撥水材処理は持続性がなく、長時間の効果を発揮することに問題があった。紡糸溶液のスプレー中の固化や溶出を防御するためには、複雑である電界紡糸装置の制御(電圧、送液速度、温湿度等)を要する。よって、手間が掛かるノズルの洗浄作業を頻繁に行う必要があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な電界紡糸方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、この新規な電界紡糸方法が適用可能な電界紡糸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、電界中にノズルから紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸方法であって、前記紡糸溶液を帯電させ、前記ノズルから前記紡糸溶液をスプレーして紡糸する、ことを特徴としている。
【0009】
また、上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、電界中に紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸装置において、前記紡糸溶液をスプレーするノズルと、前記紡糸溶液を帯電させる電極と、を有することを特徴としている。
【0010】
また、電界中に紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸装置において、前記紡糸溶液をスプレーするノズルと、前記ノズルへ送液する、前記紡糸溶液を貯留する容器と、前記紡糸溶液を帯電させる電極と、を有することを特徴としている。
また、前記容器には、前記紡糸溶液を帯電させる導電性材料でなる前記電極が内蔵されていることを特徴としている。
また、前記電極は、前記容器から前記ノズルまでの間に設置されることを特徴としている。
【0011】
本来、帯電させたいのは高分子の紡糸溶液であり、紡糸溶液を帯電することができれば、金属製のノズルである必要はない。金属製のノズルと対極金属部間の距離によっては、放電する可能性がある。金属製のノズルを樹脂製に変更することで、固着したポリマーをノズルからすばやく除去することができ、ノズルの洗浄時間の短縮につながる。また、放電を防止することができる。
【0012】
また、紡糸溶液に対する金属と樹脂の濡れ性の違いから、紡糸中の固化を遅延することができるようになる。また、固化の遅延ということは、紡糸条件が長時間一定であり続けるという理由から、安定したスプレーを行うことができるようになり、生成する繊維品質の安定性にもつながる。つまり、長時間スプレーを可能にし、極細繊維の品質を保持できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0014】
本発明の電界紡糸方法および電界紡糸装置は、ノズルでの紡糸溶液の固化を制御することができ、ノズルの洗浄作業等が簡便となる。また、放電を防止することができ、安定したスプレーが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態にかかる第1の電界紡糸装置である。
【図2】従来の第1の電界紡糸装置である。
【図3】ノズル別の繊維を示す第1の電子顕微鏡写真である。
【図4】各種ノズル材質およびノズル内径と平均繊維径の関係を示す第1の図である。
【図5】各種ノズル材質およびノズル内径と平均繊維径の関係を示す第2の図である。
【図6】ノズル別の繊維を示す第2の電子顕微鏡写真である。
【図7】各種ノズル材質およびノズル内径とビーズ個数の関係を示す第1の図である。
【図8】各種ノズル材質およびノズル内径とビーズ個数の関係を示す第2の図である。
【図9】本発明の実施の形態にかかる第2の電界紡糸装置である。
【図10】従来の第2の電界紡糸装置である。
【図11】従来の第2の電界紡糸装置である。
【図12】本発明の実施の形態にかかる第2の電界紡糸装置である。
【図13】ノズル別の繊維を示す第2の電子顕微鏡写真である。
【図14】ノズル別の繊維生成スプレー挙動を示す第1の写真である。
【図15】本発明の実施の形態にかかる第3の電界紡糸装置である。
【図16】ノズル別の繊維を示す第3の電子顕微鏡写真である。
【図17】本発明の実施の形態にかかる第4の電界紡糸装置である。
【図18】生成繊維を示す第4の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、電界紡糸方法および電界紡糸装置にかかる発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
電界紡糸方法は、紡糸溶液を帯電させ、ノズルから紡糸溶液をスプレーして紡糸する。
【0018】
また、電界紡糸装置は、紡糸溶液をスプレーする樹脂製のノズルと、紡糸溶液を帯電させる電極と、を有し、電界中に紡糸溶液をスプレーして紡糸する。また、紡糸溶液をスプレーする樹脂製のノズルと、ノズルへ送液する、紡糸溶液を貯留する容器と、紡糸溶液を帯電させる電極と、を有し、電界中に紡糸溶液をスプレーして紡糸する。容器には、紡糸溶液を帯電させる導電性材料でなる電極が内蔵されている。
【0019】
ノズルの材質としては、例えば、テフロン(登録商標)やジュラコン(登録商標)等のエンジニアリングプラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニルなどの樹脂、ステンレス、鉄、銅、ニッケル、白金、金、銀などの金属、カーボンなどの導電性材料であることが好ましい。しかし、これらの材質に限定されるわけではなく、導電性を有無に関わらず、多種の材料を採用することができる。
また、ノズルの径は、0.1〜500mmの範囲内にあることが好ましい。ノズルの径が0.1mm以上であると、紡糸溶液の吐出速度を調整しやすいという利点がある。ノズルの径が500mm以下であると、紡糸溶液を一定速度で送液するのに安定しやすいという利点がある。
また、吐出口は、穴形状に限らず、例えば、スリット形状、多角形状、二重ノズル形状なども含まれる。
【0020】
ノズルと繊維捕集部までの距離は、1〜2000mmの範囲内にあることが好ましい。ノズルと繊維捕集部までの距離が1mm以上であると、捕集効率が高く、対電極と捕集部を同一にでき、溶媒が揮発しやすいという利点がある。ノズルと繊維捕集部までの距離が2000mm以下であると、捕集効率が高く、溶媒を揮発できる利点がある。
また、電界紡糸装置の対電極の形状としては、リング状もしくはプレート状、球状の他、種々の形状が使用可能である。なお、ノズル内の紡糸溶液と外界との間に電位差があれば、対電極はなくてもよい。
【0021】
紡糸溶液を帯電させる方法としては、電極を紡糸溶液に挿入する方法がある。紡糸溶液に挿入する電極の形状は、円筒(中空状を含む)、プレート、線状(フィラメント)、織布状等問わない。また、紡糸溶液に挿入する電極の位置は、紡糸溶液貯留容器内の紡糸溶液中に限らず、容器とノズルの間に存在する紡糸溶液中であってもよい。
また、対電極、紡糸溶液に接触する電極は、金属、カーボン、等であることが好ましい。
【0022】
この他、紡糸溶液を帯電させる方法としては、紡糸溶液を貯留する容器からノズルまでの間において、紡糸溶液と接触する電極を一箇所または複数箇所で設置する方法があり、帯電した溶液をスプレーすることができる。なおスプレーノズルは1本から多数本を採用することができる。また、電界紡糸溶液を多枝に分流させたところに各々のチューブにおいて電極を設置し、帯電させることができる。また印加電圧を各変化させ帯電量を変化させることが可能である。
【0023】
紡糸溶液を貯留する容器からノズルまでの間において、紡糸溶液と接触する電極を設置する方法としては、容器からノズルまでの間の管の一部に電極を設置する方法、送液パイプ内に電極を設置する方法、溶液貯留容器内に電極を設置する方法、溶液分配部に電極を設置する方法、溶液を多枝に分流させたところに各々に電極を設置する方法などを採用することができる。紡糸溶液を貯留する容器もしくは容器の内壁が絶縁体である場合には容器中に金属等の導電体製の電極を設ける方法などを採用することができる。
紡糸溶液と接触する電極は、金属、カーボン、等の導電性材料であることが好ましい。
【0024】
また、紡糸溶液を貯留する容器の材料としては、金属、カーボン等の導電性材料、またはテフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン、ガラス等の絶縁性材料を採用することができる。しかし、これらの材質に限定されるわけではなく、導電性を有無に関わらず、多種の材料を採用することができる。
【0025】
なお、紡糸溶液を連続的に供給することができれば、貯留容器を使用することに限定されず、その他の機構を使用してもよいことはもちろんである。
紡糸溶液を連続的に供給する方法としては、定量液送ポンプにより紡糸溶液を供給する方法、エアー圧力による送液方法、重力を利用した位置エネルギーの差による送液方法
などを採用することができる。
【0026】
また、紡糸電圧は、−500〜500kVの範囲内にあることが好ましい。紡糸電圧が−500kV以上かつ500kV以下であると、強靭で液滴の少ない繊維の生成ができる、あるいは大量のポリマーを繊維にできるという利点がある。
【0027】
また、紡糸湿度は、紡糸材料や温度によっても異なるが、5〜95相対%の範囲内にあることが好ましい。紡糸湿度が5相対%以上であると、溶媒蒸発速度を高め極細繊維製造を可能とし、より可能な限りに細くなるという利点がある。紡糸湿度が95相対%以下であると、溶媒蒸発速度を遅らせることにより極細繊維製造を可能とし、より可能な限り細くなるという利点がある。
また、紡糸温度は、0〜250℃の範囲内にあることが好ましい。紡糸温度が0℃以上かつ250℃以下であると、スプレー状態が安定するという利点がある。
【0028】
また、紡糸材としては、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド、パーフルオロスルホン酸ポリマー(ナフィオン(登録商標))、低分子量材料やオリゴマー等から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせであることが好ましい。
【0029】
また、紡糸材の溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、N−メチルピロリドン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、水等から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせであることが好ましい。
【0030】
また、紡糸溶液の濃度は、1〜99質量%の範囲内にあることが好ましい。紡糸溶液の濃度が1質量%以上であると、極細繊維で作製することができる、という利点がある。紡糸溶液の濃度が99質量%以下であると、溶媒が揮発する過程で十分に繊維が伸長し、均質な繊維を生成することができ、より細い繊維の生成が期待できるという利点がある。
また、紡糸溶液の粘度は、1〜6000mPa・sの範囲内にあることが好ましい。紡糸溶液の粘度が1mPa・s以上であると、極細繊維で作製することができる、という利点がある。紡糸溶液の粘度が6000mPa・s以下であると、溶媒が揮発する過程で十分に繊維が伸長し、均質な繊維を生成することができ、より細い繊維の生成が期待できるという利点がある。
また、紡糸溶液の送液圧は、0.001〜5.000MPaの範囲内にあることが好ましい。紡糸溶液の送液圧が0.001MPa以上であると、一定量での均一な極細繊維が生成できるという利点がある。紡糸溶液の送液圧が5.000MPa以下であると、大量に極細繊維を製造し、安定した品質を保てるという利点がある。
【0031】
紡糸溶液の液送量は、0.1μl/min〜100l/min以上にあることが好ましい。紡糸溶液の液送量が0.1μl/min以上であると、一定量での均一な極細繊維が生成できるという利点がある。紡糸溶液の液送量が100l/min以下であると、大量に極細繊維を製造できるという利点がある。
【0032】
また、繊維の平均径は、0.005〜1.2μmの範囲内にあることが好ましい。繊維の平均径が0.005μm以上であると、極細繊維であるナノファイバーという利点がある。繊維の平均径が1.2μm以下であると、極細繊維という利点がある。これにより、繊維は、マスクやフィルタ、衣類、電極用セパレータ、電極、偏光材料、イオン交換不織布等に適用可能である。
【0033】
複数ノズルを採用する場合、複数ノズルの配置状態は単一ノズルが一次元方向に並んだもの、単一ノズルが二次元方向に並んだもの、1本ノズルから多数に枝分かれしたノズルが並んだものなどを採用することができる。
また、複数ノズルの形状としては、複数の穴を有するノズル、三次元方向に複数の穴を有するノズル、円形や、剣山型などの形を持つノズルなどを採用することができる。
【0034】
複数ノズルを採用する場合、ノズル形状が円形の場合などにおいては回転が可能であり、異なった形状ノズルを設置することができる。
【0035】
複数ノズルを採用する場合、ノズルの本数は、2〜100万本の範囲内にあることが好ましい。ノズルの本数が2本以上であると、電界溶液の吐出量が多くなり紡糸量が多くなるという利点がある。ノズルの本数が100万本以下であると、短時間で大量に極細繊維を製造し、安定した生産を保てるという利点がある。
【0036】
複数ノズルを採用する場合、ノズル間の距離は、1〜1000mmの範囲内にあることが好ましい。ノズル間の距離が1mm以上であると、夫々のノズルから、安定したスプレーが可能であるという利点がある。ノズル間の距離が1000mm以下であると、単位面積あたりの繊維の生成量が高くなり、安定した生産に有利であるという利点がある。
【0037】
複数ノズルを採用する場合、ノズル群の端あるいはコレクタ側の両端などに補助電極を設置できる。補助電極の設置により、最端のノズルから吐出された極細繊維が、電界の影響で外側にそれるのを電磁気力の反発力で抑止することができる。これにより、端のノズルから吐出された繊維も均質に堆積することができる。なお、補助電極について簡単に説明する。導電体を設置し、電圧を印加することで電界を発生させ、繊維のスプレー方向を制御するものである。
【0038】
複数ノズルを採用する場合、ノズル群をトラバースすることができる。これにより、各ノズルから生成した繊維の、堆積量のばらつきを制御することができる。なお、トラバースについて簡単に説明する。トラバースとは、ノズル側を基材の面に対して並行面内で、あるいは走行方向に対して直交方向などに移動する機能を持たせることである。
【0039】
複数ノズルを採用する場合、それぞれ独立したノズルを使用することが可能なため同一の紡糸溶液を使用すること、ノズルの材質について金属製のもの、樹脂製のものでも同時に同一環境下でスプレーすることができる。このことによりノズルの材料によって同一紡糸溶液からの生成される極細繊維物の繊維の太さやビーズの大きさを制御することが出来る。
【0040】
複数ノズルを採用する場合、異なる紡糸溶液を使用し、かつ同一の材料からなるノズルのみならず異なった材質のノズルを使用することができる。それぞれ独立したノズルを使用することが可能なため各ノズルに異なった電界紡糸液を送液し、スプレーすることができる。複数の材料からなるコンポジット材料を、一度に作ることができる。
【0041】
また、本発明は上述の発明を実施するための形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0042】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0043】
[実施例1](ポリウレタンをテフロン(登録商標)樹脂製のノズルでスプレーした場合)
【0044】
<サンプル紡糸溶液の作製>
ポリウレタン(BASF社製、以下「PU」ともいう。)をジメチルホルムアミド(和光純薬社製、以下「DMF」ともいう。)で溶解させる。PU溶液はミックスローターの上に設置し、撹拌しながら十分ジメチルホルムアミドに溶解させる。このようにサンプルの濃度を15質量%で調整した高分子溶液を作製し電界紡糸用の紡糸溶液とする。
【0045】
<電界紡糸装置>
電界紡糸方法は図1に示すような装置を使用した。装置は、直流高圧電源1(松定プレシジョン社製、HARb−100N1−LF)、エアーコンプレッサー2(八重崎空圧(株)社製、YC−4RS)、リング電極3、円筒(中空状)電極4、ノズル5、円筒(中空状)電極4および紡糸溶液を入れる容器6、繊維捕集部7から構成される。リング電極3および円筒(中空状)電極4はステンレス製、ノズル5はテフロン(登録商標)樹脂製、容器6はポリプロピレン製である。繊維捕集部7は不織布からなり、その表面上に極細繊維を堆積させて捕集する。リング電極3の直径は400mm、ノズル5の先端から繊維捕集部までの距離は600mm、ノズル5から繊維捕集部に向かう風速は1.5m/sである。円筒(中空状)電極4は接地とし、リング電極3には−20kVの電圧を印加した。紡糸溶液を入れた容器6内にエアで0.001MPaで圧力をかけて送液した。
【0046】
<実験環境>
実験環境としては、温度26〜32℃、湿度40〜60%の中で、大気圧中で行った。表1に示すように、ノズル5の内径0.38、0.46、0.68mmの3種類を用い、夫々10分ずつスプレー実験を行った。
【0047】
<測定・評価方法>
極細繊維でなる不織布の諸特性について、測定方法および評価方法について説明する。
【0048】
極細繊維の繊維径は、不織布でなる繊維捕集部7の上に堆積した極細繊維ごとの試料片を電子顕微鏡の基板に設置し極細繊維の太さを測定する。走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JCM−5700)を用いて測定した。測定箇所は最低20箇所とする。試料片をステンレスの台にカーボンテープで固定しPt蒸着を行い電子顕微鏡試料とする。この試料を走査型顕微鏡に設置し、真空中で高電圧(5−20kV)を掛け試料の表面の観察を行う。倍率は20000倍の中で行う。
【0049】
極細繊維のビーズ発生測定は、不織布でなる繊維捕集部7の上に堆積した極細繊維ごとの試料片を電子顕微鏡の基板に設置しビーズの数を測定する。走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JCM−5700)を用いて測定した。試料片をステンレスの台にカーボンテープで固定しPt蒸着を行い電子顕微鏡試料とする。この試料を走査型顕微鏡に設置し、真空中で高電圧(5〜20kV)を掛け試料の表面の観察を行う。倍率は1000倍の中で行う。
【0050】
[実施例2](ポリウレタンをステンレス製のノズルでスプレーした場合)
【0051】
<サンプル紡糸溶液の作製>
実施例1と同一の高分子溶液を作製し電界紡糸用の紡糸溶液とする。
【0052】
<電界紡糸装置>
実施例1と同様の図1に示す装置のノズル5をステンレス製に変更したものを使用した。
【0053】
<実験環境>
実施例1と同様の実験環境で行った。ただし、ノズル5の内径0.30、0.51、0.70mmの3種類を用い、夫々10分ずつスプレー実験を行った。
【0054】
<測定・評価方法>
実施例1と同様の測定方法および評価方法で行った。
【0055】
[実施例3](ポリウレタンを、接地したステンレス製のノズルでスプレーした場合)
【0056】
<サンプル紡糸溶液の作製>
実施例1と同一の高分子溶液を作製し電界紡糸用の紡糸溶液とする。
【0057】
<電界紡糸装置>
電界紡糸方法は図2に示すような装置を使用した。装置は、直流高圧電源1(松定プレシジョン社製、HARb−100N1−LF)、エアーコンプレッサー2(八重崎空圧(株)社製、YC−4RS)、リング電極3、ノズル5、紡糸溶液を入れる容器6から構成される。リング電極3およびノズル5はステンレス製、容器6はポリプロピレン製である。リング電極3の直径は400mm、ノズル5の先端から繊維捕集部までの距離は600mm、ノズル5から繊維捕集部に向かう風速は1.5m/s、である。ノズル5は接地とし、リング電極3には−20kVの電圧を印加した。紡糸溶液を入れた容器6内にエアで0.001MPaで圧力をかけて送液した。
【0058】
<実験環境>
実施例1と同様の実験環境で行った。ただし、ノズル5の内径0.30、0.51、0.70mmの3種類を用い、夫々10分ずつスプレー実験を行った。
【0059】
<測定・評価方法>
実施例1と同様の測定方法および評価方法で行った。
【0060】
[実施例4](ポリビニルアルコールをテフロン(登録商標)樹脂製またはステンレス製のノズルでスプレーした場合)
【0061】
<サンプル紡糸溶液の作製>
ポリビニルアルコール(和光純薬社製、以下「PVA」という。)を温水(80℃)で十分溶解させる。このようにサンプルの濃度を5質量%で調整した高分子溶液を作製し電界紡糸用の紡糸溶液とする。
【0062】
紡糸溶液以外は、実施例1〜3と同様、すなわち表4が、実施例1と同様にテフロンノズル(図1に示す装置)、表5が、実施例2と同様のステンレスノズル(図1に示す装置)、表6が、実施例3と同様の接地したステンレスノズル(図2に示す装置)で行った。
【0063】
[実施例1〜4の測定結果および評価結果]
【0064】
極細繊維の繊維径の測定結果について、表1〜6および図3〜5に示す。
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
極細繊維の繊維径は、ポリウレタンのナノファイバーは、テフロン(登録商標)樹脂製のノズルで作製したものが、どのノズル内径においても平均繊維径が細かった。次に細いのが、接地した実施例3のステンレス製のノズルの場合で、最後が実施例2のステンレス製のノズルの場合であった(表1〜3、および図3,4参照)。ポリビニルアルコールのナノファイバーは、テフロン(登録商標)樹脂製のノズルで作製したものが、どのノズル内径においても平均繊維径が細かった。次に細いのが、のステンレス製のノズルの場合であり、最後が接地したステンレス製のノズルの場合であった(表4〜6、および図5参照)。
繊維径は、細いもののほうが作製しにくく、しかしその用途は計り知れない。繊維が細くなることによって、従来には見られなかった、細菌の不活化や吸着などの性質が現れる。細いほど繊維の比表面積が大きくなり、その材料効果を十分に発揮することができる。また、より細くなるほど圧力損失を下げる効果がある。
【0071】
極細繊維のビーズ発生の測定結果について、表7〜10および図6〜8に示す。
【表7】

【0072】
【表8】

【0073】
【表9】

【0074】
【表10】

【0075】
極細繊維のビーズ発生測定は、ポリウレタンのナノファイバーは、テフロン(登録商標)樹脂製のノズルで作製したものは1つ、或いは0であるのに対し、実施例2のステンレス製のノズルの場合であると、ノズル内径が0.30mmの場合においては少ないが、径が大きくなるにつれて多くなり、ノズル内径が0.70mmの場合は98個とテフロン(登録商標)樹脂製のノズルと比較して98倍であった。実施例3のステンレス製のノズルの場合では、ノズル内径が0.51の場合で最高値33個であった(表7〜9および図6,7参照)。PVAのビーズ発生量は、すべて0であった(表10および図8参照)。
極細繊維の中にビーズを0に近い状態にすることにより、通気性の抵抗値を下げ圧力損失を下げる効果がある。また、繊維の比表面積を大きくすることにより、吸着性が向上するという効果がある。
【0076】
以上の実施例1〜4により、電極が溶液に接していることで、テフロン(登録商標)樹脂製のノズルでも電界紡糸方法でナノファイバーを生成することができることがわかる。また、ノズル材質を金属からテフロン(登録商標)樹脂に変更することにより、平均繊維径を細くすると共に、ビーズの発生も抑制することができる。
【0077】
[実施例5](スプレー連続時間経過観察)
【0078】
<サンプル紡糸溶液の作製>
PVA溶液は、溶媒として水を用い、10質量%で調整した。
【0079】
<電界紡糸装置>
図9および図10に示すような電界紡糸装置を使用した。図9の装置は、直流高圧電源1(松定プレシジョン社製、HARb−100N1−LF)、エアーコンプレッサー2(八重崎空圧(株)社製、YC−4RS)、捕集用プレート電極13、円筒(中空)電極4、ノズル5および紡糸溶液を入れる容器6から構成される。捕集用プレート電極13および円筒(中空)電極4はステンレス製、ノズル5はスプレー用テフロン(登録商標)ノズル(内径0.46mm)、容器6はポリプロピレン製である。ノズル5の先端から捕集用プレート電極13までの距離は200mmである。捕集用プレート電極13は接地とし、円筒(中空)電極4には+20kVの電圧を印加した。紡糸溶液を入れた容器6内にエアで0.002MPaで圧力をかけて送液した。図10の装置は図9と略同一であるが、円筒(中空)電極4が無く、ノズル5はスプレー用ステンレスノズル(内径0.51mm)であり、ノズル5には+20kVの電圧を印加した。
【0080】
<実験環境>
実験環境は、温度31.4℃、湿度42%、大気圧中で行った。テフロン(登録商標)樹脂製のノズル5とステンレス製のノズル5で同時に電界紡糸を行い、15分ごとにスプレーの可否及び状態を観察した。200分で実験を終了した。
【0081】
[実施例5の測定結果]
【0082】
測定結果を表11に示す。テフロン(登録商標)樹脂製のノズルでのスプレーは終始スムーズであった。ステンレス製のノズルでは、75分で針先端に固化物を確認し、90分後の確認からはスプレーが断続的になった。そのため捕集部では、紡糸溶液による液滴が発生した。165分後の確認からは、スプレー間隔が長くなっていた。それ以降、大きな変化が見られなかった。
【表11】

【0083】
以上の結果から、ステンレス製のノズルより、テフロン(登録商標)樹脂製のノズルを用いた方が、ノズル内部ないし周辺の紡糸溶液が固化および溶出することがなく、固着しにくく、長時間の安定したスプレーが可能といえる。安定したスプレーということは、安定した繊維の生成につながるといえる。
【0084】
なお、上述した実施例の電界紡糸装置では、円筒(中空)電極4を接地し、リング電極3に負の電圧を掛けるか、または、捕集用プレート電極13を接地し、円筒(中空)電極4に正の電圧を掛けたが、電位差が生じればどのような掛け方であってもよい。
【0085】
[実施例6](ポリウレタン(PU)を樹脂製またはステンレス製のノズルでスプレーした場合)
【0086】
<サンプル紡糸溶液の作製>
ポリウレタン(BASF社製)をジメチルホルムアミド(和光純薬社製)で十分溶解させる。このようにサンプルの濃度を20質量%で調整した高分子溶液を作製し電界紡糸用の紡糸溶液とする。
【0087】
<電界紡糸装置>
電界紡糸装置は2種類を使用した。
電界紡糸装置の一つを図11に示す。この装置では、金属製ノズルに電圧を印加する。装置は直流高圧電源26(松定プレシジョン社製、HARb−100N1−LF)、電界紡糸溶液定量吐出装置23(ミナトコンセプト社製、DPCO-II)、ノズル21(金属製)、および紡糸溶液を入れる容器24、繊維捕集部25から構成される。
【0088】
他方の装置を図12に示す。この装置では、電界紡糸液に電圧を印加する。装置は直流高圧電源26(松定プレシジョン社製、HARb−100N1−LF)、電界紡糸溶液定量吐出装置23(ミナトコンセプト社製、DPCO-II)、ノズル21(樹脂製またはステンレス製)、金属電極(パイプ電極とも称する)22、および紡糸溶液を入れる容器24、繊維捕集部25から構成される。金属電極(パイプ電極)22からノズル21まで長さは100cmとした。
なお、金属電極(パイプ電極)について説明する。パイプ電極は、溶液に接触している中空の導電体である。送液用チューブの一部がパイプ電極になっており、溶液はこのパイプ電極の内側を必ず通って吐出されるようになる。溶液が、パイプ電極に接触する際に帯電される。それにより、ノズルから吐出後、静電爆発による電界紡糸を可能とさせるものである。
【0089】
<実験環境>
ノズル21の先端から繊維捕集部25までの距離は200mmである。図11の場合、ノズル21には14kVおよび20kVの電圧を印加した。図12の場合、パイプ電極22には14kVおよび20kVの電圧を印加した。繊維捕集部25は0kVとした。紡糸溶液を入れた容器24に定量吐出装置23で5μl/minの速度で送液した。夫々10分ずつスプレー実験を行った。温度23〜27℃、湿度45〜55%の中で、大気圧中で行った。
【0090】
<測定・評価方法>
極細繊維径の大きさの測定は、繊維捕集部25に堆積した極細繊維からなる不織布を試料片とし、走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JCM−5700)から得られるSEM写真から繊維径の大きさを測定する。測定箇所は最低30箇所とする。その方法は試料片をステンレスの台にカーボンテープで固定しPt蒸着を行い電子顕微鏡試料とする。この試料を、真空中・高電圧(5〜20kV)でスパッタリング(JEOL社製 オートファインコータ JFC1600)し、SEM写真用試料とする。この試料の表面を走査型顕微鏡で観察を行う。倍率は3000倍で行う。
【0091】
<測定・評価結果>
表12に本実施例の測定結果を示す。
【0092】
【表12】

【0093】
平均繊維径の測定結果をみる。従来の方法と本発明の方法を比較する。ここで、従来の方法とは、図11の装置を用い、金属製ノズルへ電圧を印加する方法であり、本発明の方法とは、図12の装置を用い、溶液へ電圧を印加する方法である。従来の方法および本発明の方法は、以下この定義による。本発明の方法のうち、金属製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均繊維径が、従来の方法により得られた繊維の平均繊維径よりも小さい。また、本発明の方法のうち、樹脂製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均繊維径が、従来の方法により得られた繊維の平均繊維径よりも小さい。
また、標準偏差においても、同様な結果となっている。
これらのことから、本発明の方法を用いることが可能となり、極細繊維の均一性を高め、繊維径の制御が容易となる。
【0094】
印加電圧14kVにおける、本発明の方法と従来の方法により得られた繊維のSEM画像を図13に示す。本発明の方法のうち、樹脂ノズルを使用した場合、極細繊維を作製することができる(図12 Teflon,図12 PP)。
【0095】
また、そのときのスプレー挙動写真を図14に示す。本発明の方法のうち、樹脂ノズルを使用した場合、テーラーコーンが複数形成されていることがわかる(図12 Teflon,図12 PP)。複数のノズルを使用せずとも、1本のノズルから多数のテーラーコーンができることで、複数ノズルを採用した場合と同じ効果が得られ、メンテナンスの容易性が高められる。
【0096】
[実施例7](ポリウレタン(PU)をスプレーした場合のノズル先端の電圧について)
【0097】
<サンプル紡糸溶液の作製>
実施例6と同様に行った。
【0098】
<電界紡糸装置>
実施例6と同様の装置を用いて行った。
図11の場合、ノズル1には14kVおよび20kVの電圧を印加した。図12の場合、金属電極(パイプ電極)22には14kVおよび20kVの電圧を印加した。ただし、ノズル21の先端から繊維捕集部25までの距離は100mm、200mm、300mmの3段階とした。繊維捕集部25は0kVとした。
金属電極(パイプ電極)22からノズル21まで長さは100cmとした。紡糸溶液を入れた容器24に定量吐出装置23で10μl/minの速度で送液した。夫々10分ずつスプレー実験を行った。金属製(ステンレス)ノズルの内径は0.51mm、樹脂製であるテフロン(登録商標)は0.46mm、ポリプロピレンは0.61mmである。
【0099】
<実験環境>
実験環境は、実施例6と同様である。温度22〜24℃、湿度30〜35%、大気圧中で行った。
【0100】
<測定・評価方法>
ポリウレタン(PU)をスプレーした場合、図11、図12における装置で印加電圧を一定にしたとき、各ノズルの材料ごとに、ノズルの先端の電圧の変化を測定、評価をおこなった。また電界紡糸の距離の変化に伴うノズル先端の電圧を測定、評価した。
直流高圧電源26における電圧を14kV,20kVとする。そのときのノズル21の先端部の電圧を、電圧測定器(FLUKE社製、True rms Multimeter 114)で測定した。
【0101】
<測定・評価結果>
評価結果を表13に示す。ノズル先端部の電圧の測定結果をみる。直流高圧電源26に14kV、20kV印加した場合、従来の方法により得られたノズル先端部の電圧は、印加した電圧と等しい。従来の方法と本発明の方法を比較する。本発明の方法のうち、金属製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られたノズル先端部の電圧が、従来の方法により得られたノズル先端部の電圧よりも低い。また、本発明の方法のうち、樹脂製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られたノズル先端部の電圧が、従来の方法により得られたノズル先端部の電圧よりも低い。
これらのことから、本発明の方法により得られたノズル先端部の電圧は、従来の方法により得られたノズル先端部の電圧よりも低く、安定な電圧を保持している。分子量の低いポリマーは低電圧で噴射することができる上安全性が高い。
【0102】
また、紡糸空間(ノズル−コレクター間距離)を100mm、200mm、300mmに拡大してもノズル先端部の電圧に大きな変化なく、どのような紡糸空間でも同様の結果となることがわかり、安定に噴射させることができる。
【0103】
【表13】

【0104】
[実施例8](ポリウレタン(PU)を樹脂製(テフロン(登録商標))複数ノズルでスプレーした場合)
【0105】
<サンプル紡糸溶液の作製>
実施例6と同様に行った。
【0106】
<電界紡糸装置>
電界紡糸方法は図15に示すような装置を使用した。装置は、直流高圧電源26(松定プレシジョン社製、HARb−100N1−LF)、電界紡糸溶液定量吐出装置23(ミナトコンセプト社製、DPCO-II)、ノズル21、金属電極(パイプ電極と称する)22、および紡糸溶液を入れる容器24、繊維捕集部25、溶液分岐部27から構成される。ノズル21は樹脂製(テフロン(商標登録))、金属電極(パイプ電極)22は金属(ステンレス)製、容器24はポリプロピレン製から構成される。なお、繊維捕集部25上には不織布があり、その表面上に極細繊維を堆積させて捕集する。電界紡糸溶液は装置23によって定量に吐出され 溶液分岐部27にいたるまでの箇所に電圧印加用の管からなる金属電極(パイプ電極)を通過する。帯電された電界紡糸溶液は溶液分岐部27をとおして各複数ノズル21(3本)へ配液されスプレーされる。
なお、金属電極(パイプ電極)について説明する。金属電極(パイプ電極)は、溶液に接触している中空の導電体である。
【0107】
<実験環境>
実験環境を、表14に示す。ノズル21の先端から繊維捕集部25までの距離は170mmである。樹脂製ノズル21を3本50mm間隔で設置し、図13で上からノズルa、b、cとする。パイプ電極22には15kVの電圧を印加した。繊維捕集部25には−2kVの電圧を印加した。紡糸溶液を入れた容器24に電界紡糸溶液定量吐出装置23で30μl/minの速度で送液した。30分間スプレー実験を行った。温度は21.9℃、湿度は27.9% 大気圧中で行った。ノズルの材質は樹脂製(テフロン(商標登録))であり内径0.46mmのものである。
【0108】
【表14】

【0109】
<測定・評価方法>
実施例6と同様の測定方法および評価方法で行った。極細繊維の繊維径を測定、標準偏差値を計算、評価した。ノズルa、b、cから堆積した繊維をそれぞれ測定し、比較した。
【0110】
<測定・評価結果>
平均繊維径の測定結果を表15に示す。また、走査型電子顕微鏡による極細繊維のSEM写真を図16に示す。表15をみると、ノズルa、b、cは、それぞれ平均繊維径が同程度である。また、標準偏差値も同程度である。これにより、複数ノズルを並列に配置しても電界干渉が少なく、均質な繊維が生成可能であることがわかる。
【0111】
これらのことから、溶液へ電圧を印加する方法を用いて複数ノズルにした場合も、それぞれのノズルから極細繊維が形成され、どのノズルも均一な品質のものが得られることがわかる。
本実施例の装置では、複数のノズルに対して、金属電極(パイプ電極)は1つあればよい。パイプ電極を通過した溶液が複数ノズルへ送液される方法であるため、複数のパイプ電極の設置を必要とせず、危険性や複雑さを避けられる。
【0112】
【表15】

【0113】
[実施例9](ポリウレタン(PU)を樹脂製(テフロン(登録商標))ノズルで、対向配置でスプレーした場合)
【0114】
<サンプル紡糸溶液の作製>
実施例6と同様に行った。
【0115】
<電界紡糸装置>
図17に示すような装置を用いて行った。装置は直流高圧電源26(松定プレシジョン社製、HARb−100N1−LF)、電界紡糸溶液定量吐出装置23(ミナトコンセプト社製、DPCO-II)、ノズル21(テフロン樹脂製)、および紡糸溶液を入れる容器24、繊維捕集部25から構成される。
ノズル21には+6kVおよび−4kVの電圧を印加した。ノズル21間の距離は300mmとした。金属電極(パイプ電極)22からノズル21まで長さは50cmとした。紡糸溶液を入れた容器24に定量吐出装置23で10μl/minの速度で送液した。10分間スプレーを行い、できたフィラメント状繊維を観察した。
【0116】
<実験環境>
実験環境は、実施例6と同様である。温度22〜24℃、湿度30〜35%、大気圧中で行った。
【0117】
<測定・評価方法>
目視でスプレーの可否を確認し、実施例6と同様の測定方法および評価方法で行った
【0118】
<測定・評価結果>
図18にSEM観察結果示す。フィラメントとして取り出すことができる。
これらのことから、図17に示すように電界紡糸溶液に一方にプラス、他方にマイナスになるように電界紡糸溶液を配置することによりスプレーができる。なお、ノズルの材質に関係なく、同様な効果が得られる。また、お互いにスプレーされる繊維を対極として機能し、極細繊維が絡み合いコンポジットを製造することができる。
【0119】
[実施例10](ポリアクリロニトリル(PAN)を樹脂製またはステンレス製のノズルでスプレーした場合)
【0120】
<サンプル紡糸溶液の作製>
ポリアクリロニトリル(三井化学社製、バレックスAN−1010、以下「PAN」ともいう。)をジメチルホルムアミド(和光純薬社製)で十分溶解させる。このようにサンプルの濃度を10質量%で調整した高分子溶液を作製し電界紡糸用の紡糸溶液とする。
【0121】
<電界紡糸装置>
実施例6と同様に行った。
【0122】
<実験環境>
装置図11、12においてはノズル21の先端から繊維捕集部25までの距離は60mmである。紡糸溶液を入れた容器24に定量吐出装置23で10μl/minの速度で送液した。温度23〜27℃、湿度45〜55%の中で、大気圧中で行った。夫々10分ずつスプレー実験を行った。
装置図11においては金属性ノズル21へ印加し、装置図12においては金属電極(パイプ電極)22へ印加した。ともに+9kVの電圧を印加した。繊維捕集部25は−1kVの電圧を印加した。
【0123】
装置図11および図12におけるノズル21の材質、印加電圧及び内径について表16に示す。金属製(ステンレス)ノズルの内径は0.51mm、樹脂製であるテフロン(登録商標)は0.46mm、ポリプロピレンは0.61mmである。
【0124】
【表16】

【0125】
<測定・評価方法>
極細繊維に発生したビーズ径の大きさの測定は、繊維捕集部25に堆積した極細繊維からなる不織布を試料片とし、走査型電子顕微鏡(JEOL社製、JCM−5700)から得られるSEM写真からビーズ径の大きさを測定する。測定箇所は最低30箇所とする。その方法は試料片をステンレスの台にカーボンテープで固定し、Pt蒸着を行い電子顕微鏡試料とする。この試料を、真空中・高電圧(5〜20kV)でスパッタリング(JEOL社製 オートファインコータ JFC1600)し、SEM写真用試料とする。この試料の表面を走査型顕微鏡で観察を行う。倍率は3000倍で行う。
【0126】
<測定・評価結果>
表17に本実施例の実験結果を示す。平均ビーズ径の測定結果をみる。従来の方法と本発明の方法を比較する。本発明の方法のうち、金属製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径よりも僅かに大きい。しかし、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径は、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径に非常に近い大きさであり、本発明の方法は、従来の方法と同程度の効果が得られている。また、本発明の方法のうち、樹脂製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径よりも小さい。
【0127】
平均ビーズ径の標準偏差をみる。従来の方法と本発明の方法を比較する。本発明の方法のうち、金属製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差よりも小さい。また、本発明の方法のうち、樹脂製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差よりも小さい。
これらのことから、本発明の方法を用いることが可能となり、極細繊維の均一性を高め、繊維径の制御が容易となる。
【0128】
【表17】

【0129】
[実施例11](ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を樹脂製またはステンレス製のノズルでスプレーした場合)
【0130】
<サンプル紡糸溶液の作製>
ポリフッ化ビニリデン(アルドリッチ社製、平均分子量275000、以下「PVDF」ともいう。)をジメチルアセトアミド(和光純薬社製、以下「DMAc」ともいう。)で十分溶解させる。このようにサンプルの濃度を10質量%で調整した高分子溶液を作製し電界紡糸用の紡糸溶液とする。
【0131】
<電界紡糸装置>
実施例6と同様の装置を用いて行った。
【0132】
<実験環境>
実施例6と同様の実験環境で行った。ただし、ノズル21の先端から繊維捕集部25までの距離は100mmである。図11の場合、ノズル21には15kVの電圧を印加した。図12の場合、パイプ電極22には15kVの電圧を印加した。繊維捕集部25は0kVとした。紡糸溶液を入れた容器24に定量吐出装置23で10μl/minの速度で送液した。夫々10分ずつスプレー実験を行った。温度23〜27℃、湿度45〜55%の中で、大気圧中で行った。金属製(ステンレス)ノズルの内径は0.51mm、樹脂製であるテフロン(登録商標)は0.46mm、ポリプロピレンは0.61mmである。
【0133】
<測定・評価方法>
実施例10と同様の測定方法および評価方法で行った。
【0134】
<測定・評価結果>
表18に本実施例の実験結果を示す。平均ビーズ径の測定結果をみる。従来の方法と本発明の方法を比較する。本発明の方法のうち、金属製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径よりも小さい。また、本発明の方法のうち、樹脂製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径よりも小さい。
【0135】
平均ビーズ径の標準偏差をみる。従来の方法と本発明の方法を比較する。本発明の方法のうち、金属製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差よりも小さい。また、本発明の方法のうち、樹脂製ノズルを使用した場合と、従来の方法を比較すると、本発明の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差が、従来の方法により得られた繊維の平均ビーズ径の標準偏差よりも小さい。
これらのことから、本発明の方法を用いることが可能となり、極細繊維の均一性を高め、繊維径の制御が容易となる。
【0136】
【表18】

【符号の説明】
【0137】
1‥‥直流高圧電源、2‥‥エアーコンプレッサー、3‥‥リング電極、4‥‥円筒(中空)電極、5‥‥ノズル、6‥‥容器、7‥‥繊維捕集部、13‥‥捕集用プレート電極、21‥‥ノズル、22‥‥金属電極(パイプ電極)、23‥‥定量吐出装置、24‥‥容器、25‥‥繊維捕集部、26‥‥直流高圧電源、27‥‥溶液分岐部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界中にノズルから紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸方法であって、
前記紡糸溶液を帯電させ、
前記ノズルから前記紡糸溶液をスプレーして紡糸する、
ことを特徴とする電界紡糸方法。
【請求項2】
電界中に紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸装置において、
前記紡糸溶液をスプレーするノズルと、
前記紡糸溶液を帯電させる電極と、
を有することを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項3】
電界中に紡糸溶液をスプレーして紡糸する電界紡糸装置において、
前記紡糸溶液をスプレーするノズルと、
前記ノズルへ送液する、前記紡糸溶液を貯留する容器と、
前記紡糸溶液を帯電させる電極と、
を有することを特徴とする電界紡糸装置。
【請求項4】
前記容器には、前記紡糸溶液を帯電させる導電性材料でなる前記電極が内蔵されている、
ことを特徴とする請求項3記載の電界紡糸装置。
【請求項5】
前記電極は、前記容器から前記ノズルまでの間に設置される
ことを特徴とする請求項3記載の電界紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−102455(P2011−102455A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117876(P2010−117876)
【出願日】平成22年5月23日(2010.5.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】