説明

電着塗料組成物および水性電着塗料組成物

【課題】紫外線による塗膜硬化を利用する電着塗装において、金属めっき面との密着性を損なうことなく、脆さが増加することなく、耐摩耗性に優れ、硬度が高くかつ表面の艶が良好であり、しかも多彩な色の電着塗装塗膜を形成する。
【解決手段】 電着塗料用の塗膜形成成分として、エチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有しかつ重量平均分子量が2000〜30000である紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂30〜90重量%と、1分子中に2またはそれ以上のエチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有する2官能または多官能(メタ)アクリレート10〜70重量%とを用い、この塗膜形成成分を含む電着塗料を、酸中和剤を含有する水に分散または溶解させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗料組成物および水性電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家電機器、音響機器、電子機器、通信機器、精密機器、光学機器、輸送機器、レジャー・スポーツ用品、装飾品、家具、建材などの広範な工業製品において、部品の保護、装飾などを目的として部品表面に金属めっきを施すことが一般的に行われる。また、金属めっきは、大気中の酸素、硫黄酸化物、雨水、海水などによって腐蝕する場合があるので、その耐食性を向上させて腐蝕を防止するために、金属表面に保護用塗膜が形成される。保護用塗膜の形成には、一般に、電着塗装法が利用される。電着塗装によれば、電荷を付与した塗膜形成成分を含む浴中に、保護用塗膜を形成しようとする金属めっきを施した被処理物を浸漬させ、浴内において通電し、該被処理物の金属めっき表面に塗膜成形成分を析出さ、焼付け処理を施して保護用塗膜を形成する。このとき、塗膜形成成分に顔料などの着色剤を含有させておけば、被処理物の多色化も容易である。また、金属めっきとともに金属めっき表面に電着塗装塗膜を形成することによって、被処理物の耐久性、表面平滑性、質感などが向上し、該被処理物の商品価値を大幅に増加させる。また、被処理物の形状に左右されず均一な膜厚に塗装でき、定量的に膜厚を管理でき、塗料損失が少なく、限外ろ過により塗料を容易に回収ができる。さらに火災の心配がなく衛生的である。したがって、現在において電着塗装は重要な塗装技術の1つに数えられる。
【0003】
電着塗装の塗膜形成成分には、表面硬度、機械的強度などを考慮して熱硬化性樹脂が用いられるけれども、熱硬化性樹脂は100℃以上の非常に高い温度で硬化させるのが一般的である。このような高温での硬化は、工程管理を複雑化し、作業者の安全性の面からも対策を講じる必要がある。このため、電荷を付与した紫外線硬化性塗膜形成成分を用い、加熱ではなくて紫外線照射によって塗膜を硬化させるUV電着塗装法が開発されている。UV電着塗装法においても、種々の改良が要求され、特に、UV電着塗装法によって形成される塗膜は充分な耐摩耗性を有しないという点が重要な解決課題になる。たとえば、塗膜形成成分に官能基数の多い多官能(メタ)アクリレートを含有させれば、形成される電着塗装塗膜の硬度、耐摩耗性などは向上するものの、金属めっきと電着塗装塗膜との密着性が低下し、該塗膜の脆性破壊が起こり易くなるという欠点がある。
【0004】
従来のUV電着塗装法としては、たとえば、1分子中に3個以上のアクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートの10重量部以上、70重量部未満と、3級アミノ基を含有し、平均分子量2000〜30000のカチオン電着性樹脂の30重量部以上、90重量部未満とからなる塗膜形成成分を含む紫外線硬化性カチオン電着塗料を用いる方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。そして、カチオン電着性樹脂としては、3級アミノ基含有ビニルモノマーと、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸ヒドロキシエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸アルキルエステルおよびα,β−エチレン性不飽和化合物から選ばれる1種または2種以上のモノマーとの共重合体が用いられる。この電着塗料によって形成される塗膜は、耐磨耗性に優れ、高い表面硬度を有するだけでなく、金属めっきに対して良好な密着性を示し、脆性破壊も起こり難い。しかしながら、各種製品に対するさらなる高性能化が要求される現状にあっては、UV電着塗装法によって形成される塗膜にも一層の性能向上が求められる。
【0005】
一方、(メタ)アクリロイル基含有水溶性樹脂、多官能(メタ)アクリレート化合物および光重合開始剤を含み、乳化状態の紫外線硬化型水性塗料組成物が提案されている(たとえば特許文献2参照)。(メタ)アクリロイル基含有水溶性樹脂が(メタ)アクリロイル基を含有するアクリル樹脂であることが段落[0021]に記載される。(メタ)アクリロイル基がたとえばジイソシアネート化合物を介してアクリル樹脂に導入されることが段落[0033]に記載される。多官能(メタ)アクリレート化合物は2以上のアクリロイル基を有することが段落[0043]に記載される。光重合開始剤がベンゾイン、ベンゾインメロチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、アセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノンなどであることが段落[0049]に記載される。しかしながら、特許文献2に記載の(メタ)アクリロイル基含有水溶性樹脂は、(メタ)アクリレート化合物と(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基を有するモノマー化合物との共重合体であるアクリル樹脂に(メタ)アクリロイル基を導入して得られる樹脂を、アミン類、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤で中和して水溶性化することによって得られる樹脂である。また、特許文献2の紫外線硬化型水性塗料組成物は、ABS、ポリカーボネートなどのプラスチック素材表面に着色層と表面保護層とを順次形成するに際し、表面保護層を形成するためのクリヤー塗料として用いられるものである。また、塗装方法として具体的に開示があるのも、エアースプレー塗装、スピンドル塗装などである。このように特許文献2には、(メタ)アクリレート化合物のみの重合体であるアクリル樹脂に(メタ)アクリロイル基を導入して得られる樹脂であって、酸中和剤と反応して水溶性を呈する紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂についての開示はなく、さらに該紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂をカチオン電着塗料組成物の塗膜形成成分の1つとして用いることについて、一切開示がない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−263026号公報
【特許文献2】特開2004−10779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、紫外線による塗膜硬化を利用する電着塗装において、金属めっき面との密着性を損なうことなく、脆さが増加することなく、耐摩耗性に優れ、硬度が高くかつ表面の艶が良好であり、しかも多彩な色の電着塗装塗膜を形成できる電着塗料組成物および水性電着塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有しかつ重量平均分子量が2000〜30000(2000以上、30000以下)である紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂30〜90重量%(30重量%以上、90重量%以下)と、1分子中に2またはそれ以上のエチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有する2官能または多官能(メタ)アクリレート10〜70重量%(10重量%以上、70重量%以下)とを塗膜形成成分として含有することを特徴とする電着塗料組成物である。
【0009】
また本発明の電着塗料組成物は、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が、(メタ)アクリレート化合物を重合させてなる(メタ)アクリル樹脂に(メタ)アクリロイル基を導入することにより得られることを特徴とする。
【0010】
さらに本発明の電着塗料組成物は、(メタ)アクリロイル基がジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリル樹脂に導入されることを特徴とする。
【0011】
さらに本発明の電着塗料組成物は、(メタ)アクリロイル基が(メタ)アクリレート化合物を重合させてなる(メタ)アクリル樹脂100gに対して0.06〜0.3モル(0.06モル以上、0.3モル以下)の割合で該(メタ)アクリル樹脂に導入されることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、酸中和剤を含む水に、前述のいずれか1つの電着塗料組成物を分散させたことを特徴とする水性電着塗料組成物である。
【0013】
さらに本発明の水性電着塗料組成物は、酸中和剤が、酢酸、蟻酸、プロピオン酸および乳酸から選ばれる1もしくは2以上の有機酸、または硫酸およびリン酸から選ばれる1もしくは2以上の無機酸であることを特徴とする。
【0014】
さらに本発明の水性電着塗料組成物は、光重合開始剤をさらに含むことを特徴とする。
さらに本発明の水性電着塗料組成物は、光重合開始剤がアルキルフェノン系光重合開始剤であることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明の水性電着塗料組成物は、前述のいずれか1つの電着塗料組成物における塗膜形成成分5〜20重量%(5重量%以上、20重量%以下)、光重合開始剤0.01〜10重量%(0.01重量%以上、10重量%以下)および酸中和剤0.1〜7重量%(0.1重量%以上、7重量%以下)を含み、残部が水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、(メタ)アクリロイル基を含有しかつ重量平均分子量2000〜30000である紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂(以後特に断らない限り単に「紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂」と称す)30〜90重量%と、1分子中に2またはそれ以上の(メタ)アクリロイル基を含有する2官能または多官能(メタ)アクリレート10〜70重量%とを塗膜形成成分として含有することを特徴とする電着塗料組成物が提供される。本発明の電着塗料組成物を用いれば、紫外線による塗膜硬化を利用する電着塗装によって、金属めっき面との密着性を損なうことなく、脆さが増加することなく、耐摩耗性に優れ、硬度が高くかつ表面の艶が良好であり、しかも多彩な色の電着塗装塗膜を形成できる。
【0017】
本発明によれば、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂として、(メタ)アクリレート化合物を重合させてなる(メタ)アクリル樹脂に(メタ)アクリロイル基を導入することにより得られる紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が好ましい。さらに、(メタ)アクリロイル基がジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリル樹脂に導入されたものであることが好ましい。このような紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂を含む電着塗料組成物からなる電着塗膜は、各種用途の被処理品表面に表面平滑性が高く、緻密で、傷、ピンホールなどがなく、好ましい質感を有する塗膜として形成でき、被処理品の商品価値を一層向上させ得る。また、該電着塗膜は、耐摩耗性と金属めっき表面への密着性という従来技術では相反するのが当然とされた特性を、両方とも特に高水準で併せ持ち、さらに耐薬品性にも優れるので、各種用途の被処理品に好適に形成できる。
【0018】
本発明によれば、(メタ)アクリレート化合物を重合させてなる(メタ)アクリル樹脂100gに対して、0.06〜0.3モルの割合で紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂に導入することによって、耐摩耗性と金属めっき表面への密着性とを、特に高水準で併せ持つことが可能になる。
【0019】
本発明によれば、前述の塗膜形成成分を水中に分散させるに際し、水に酸中和剤を添加しておくことによって、塗膜形成成分中の紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が酸中和剤との反応によって水溶性化され、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が水中において均一に分散する。したがって、塗膜形成成分を水中に分散させた水性電着塗料組成物を用いれば、電着塗装を円滑に実施でき、単に、耐摩耗性と金属めっき表面への密着性とを高水準で両立させるだけでなく、膜厚にむらがなく、長期耐久性の高い電着塗膜を形成できる。
【0020】
本発明によれば、酸中和剤として、酢酸、蟻酸、プロピオン酸および乳酸から選ばれる1もしくは2以上の有機酸、または硫酸およびリン酸から選ばれる1もしくは2以上の無機酸を用いることによって、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂に対して、良好な水への分散性または溶解性を一層確実に付与できる。
【0021】
本発明によれば、光重合開始剤、好ましくはアルキルフェノン系光重合開始剤をさらに含有させることによって、電着塗膜の紫外線照射による硬化工程を円滑に実施することができ、得られる硬化後の電着塗膜もその機械的強度が一層向上し、耐摩耗性および密着性に優れ、高い表面硬度を有し、長期的な耐用性を持つ。
【0022】
本発明によれば、塗膜形成成分を5〜20重量%、光重合開始剤を0.01〜5重量%および酸中和剤0.1〜5重量%を含み、残部が水である水性電着塗料組成物が特に好ましい。該水性電着塗料組成物は、各成分が水中に均一にかつ安定的に分散し、長期保存しても成分の凝集、沈殿などが起こり難く、電着塗装に好適に使用できる。また、該水性電着塗料組成物を用いれば、塗膜組織が均一かつ緻密で、高い質感を有し、色の鮮明な電着塗膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の電着塗料組成物は、塗膜形成成分として、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂と2官能または多官能(メタ)アクリレート(以後特に断らない限り「多官能(メタ)アクリレート」と総称する)とを含む。なお、本明細書において、(メタ)アクリル樹脂はアクリル樹脂とメタクリル樹脂とを意味する。(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートとを意味する。(メタ)アクリロイル基はアクリロイル基とメタクリロイル基とを意味する。
【0024】
[紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂]
紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂は、エチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有し、かつ重量平均分子量(Mw)が2000〜30000、好ましくは15000〜25000である。重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値を、標準物質である単分散分子量ポリスチレン(分子量1300、3000および10000)の検量線によって換算した値である。重量平均分子量(Mw)が2000未満であると、紫外線による硬化後の電着塗膜の機械的強度が低下し、耐摩耗性および表面硬度が不充分になる可能性がある。重量平均分子量(Mw)が30000を超えると、酸中和剤と反応させても水への分散性または溶解性が不充分なり、また分散または溶解が可能であるとしても、得られる水分散液または水溶液の粘度が著しく上昇し、紫外線による硬化後の電着塗膜の膜厚が不均一になり、表面平滑性が損なわれるおそれがある。さらに、電着塗膜の耐摩耗性、表面硬度なども低下するおそれがある。
【0025】
紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリレート化合物を重合させて得られる(メタ)アクリル樹脂に、(メタ)アクリロイル基を導入することによって得られるものである。
【0026】
(メタ)アクリル樹脂を得るための(メタ)アクリレート化合物としては公知のものを使用でき、たとえば、アミノ基含有(メタ)アクリレート化合物、アルキル(メタ)アクリレート化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。アミノ基含有(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ボロニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。本発明では、前記(メタ)アクリレート化合物以外にも、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物(但しカルボキシル基含有化合物を除く)であれば、特に制限なく使用できる。このような化合物としては、たとえば、スチレン、メチルスチレン、ビニルカルバゾールなどが挙げられる。(メタ)アクリレート化合物およびそれ以外のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物は、それぞれ、1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。なお、(メタ)アクリレート化合物およびそれ以外のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を、特に断らない限り、「モノマー化合物」と総称することがある。
【0027】
(メタ)アクリル樹脂は、公知の方法に従って製造できる。たとえば、溶剤中にて重合開始剤の存在下および加熱下に、モノマー化合物の1種または2種以上を重合させることによって、本発明で使用する(メタ)アクリル樹脂が得られる。ここで溶剤としては、たとえば、ジオキサン、セロソルブアセテートなどの活性水素を含まない溶剤を好ましく使用できる。溶剤の使用量は特に制限されず、モノマー化合物の種類、使用量などに応じて、重合反応が円滑に進行しかつ生成する(メタ)アクリル樹脂の反応系からの単離・精製操作が容易な量を適宜選択すればよい。重合開始剤としては公知のものを使用でき、たとえば、アゾ化合物、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、スルフィン化合物、ニトロソ化合物、パーオキサイド化合物などが挙げられる。重合開始剤の具体例としては、たとえば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。重合開始剤の使用量は特に制限されず、モノマー化合物の種類、使用量などに応じて、重合反応が円滑に進行しかつ目的の重合度または重量平均分子量の(メタ)アクリル樹脂を得ることが出来る量を適宜選択すればよいけれども、好ましくはモノマー化合物100重量部に対して0.01〜3重量部である。重合開始剤は、重合反応の進行状況に応じ、時間の間隔を空けて数回程度に分割して重合反応系に添加してもよい。重合反応は、好ましくは溶剤の還流温度下に行われ、5〜20時間程度で終了する。
【0028】
(メタ)アクリル樹脂への(メタ)アクリロイル基の導入は、たとえば、(A)ジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリロイル基および水酸基を有する化合物(以後「(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物」と称す)と(メタ)アクリル樹脂とを結合させる方法、(B)イソシアネート基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物とアクリル樹脂とを結合させる方法などが挙げられる。これらの方法の中でも、(A)の方法が好ましい。(A)の方法は、より具体的には、ジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物とを反応させて中間化合物を得る前反応と、前反応で得られる中間化合物と(メタ)アクリル樹脂とを反応させる後反応とを含む。
【0029】
前反応で用いられるジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1、4−シクロヘキサンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートなどが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが好ましく、イソホロンジイソシアネートがさらに好ましい。ジイソシアネート化合物は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0030】
(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物としては、たとえば、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。ジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物との使用割合は特に制限されないけれども、好ましくはジイソシアネート化合物のイソシアネート基2当量に対して(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物の水酸基が1〜1.1当量になるように両者を用いればよい。両者の反応は、無溶剤下または適当な溶剤中にて攪拌下および50〜90℃程度の加熱下に行われ、3〜8時間程度で終了する。溶剤としては両者を均一に溶解できるものであれば特に制限されず、たとえば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。なお、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基と水酸基との反応を促進するために、一般的なウレタン化触媒を反応系に添加してもよい。ウレタン化触媒としては、たとえば、有機錫化合物、アミン化合物などが挙げられる。有機錫化合物としては、たとえば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアルキルマレート、ステアリン酸錫、オクチル酸錫などが挙げられる。アミン化合物としては、たとえば、トリエチレンジアミン、ペンタメチレンジエチレントリアミン、N−エチルモルホリン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−ウンデセン−7などが挙げられる。ウレタン化触媒は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。ウレタン化触媒の使用量は特に制限されず、たとえば、ジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物との合計量100重量部に対して、0.02〜1重量部程度にすればよい。この反応によって、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物の水酸基とが反応し、ジイソシアネート化合物におけるイソシアネート基総量の1/2程度のイソシアネート基に(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物が置換した中間化合物が得られる。なお、このような中間化合物は市販されており、市販品をそのまま用いても良い。市販品の具体例としては、たとえば、カレンズMOI(商品名、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製)、カレンズAOI(商品名、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製)、カレンズBEI(商品名、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、昭和電工(株)製)などが挙げられる。
【0031】
後反応では、前反応で得られる中間化合物と(メタ)アクリル樹脂とを反応させ、本発明で使用する紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂を製造する。この反応は、前反応におけるジイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基含有ヒドロキシ化合物との反応と同様に実施できる。中間化合物と(メタ)アクリル樹脂との使用割合は特に制限されないけれども、好ましくは、(メタ)アクリル樹脂100gに対して中間化合物を0.06〜0.3モルの割合で反応させればよい。後反応においても、前反応と同様のウレタン化触媒の1種または2種以上を使用できる。後反応では、中間化合物中のイソシアネート基が残存しなくなるまで反応を行うのが好ましい。ここで、イソシアネート基の残存がないとは、反応生成物の赤外線吸収スペクトルにおいて2270cm−1の吸収がない状態を意味する。後反応で得られる紫外線吸収性(メタ)アクリル樹脂は、濾過、遠心分離、再沈、濃縮、洗浄などの一般的な精製手段によって反応混合物中から容易に単離できる。このようにして、エチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有する紫外線吸収性(メタ)アクリル樹脂が得られ、その中から重量平均分子量2000〜30000のものを用いる。この紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂を水溶性化するには、該樹脂を水中にて酸中和剤と反応させればよい。酸中和剤としては一般的な酸を使用できるけれども、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、乳酸などの有機酸、硫酸、リン酸などの無機酸が挙げられる。酸中和剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を使用できる。
【0032】
本発明の電着塗料組成物における紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂の含有量は、塗膜形成成分全量の30〜90重量%、好ましくは40〜65重量%である。紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂の含有量が30重量%未満では、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が水に分散または溶解し難くなるおそれがある。一方、90重量%を超えると、均一な外観が得られないおそれがある。
【0033】
[多官能(メタ)アクリレート]
多官能(メタ)アクリレートとしては、1分子中にエチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を2個またはそれ以上有する(メタ)アクリレート化合物であれば特に制限されず、公知のものをいずれも使用できる。このような(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、たとえば、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート化合物、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートグリセリントリアクリレートなどの3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。多官能(メタ)アクリレートは1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。本発明の電着塗料組成物におけ多官能(メタ)アクリレートの含有量は、塗膜形成成分全量の10〜70重量%、好ましくは35〜60重量%である。紫外線多官能(メタ)アクリレートの含有量が10重量%未満では、均一な外観が得られないおそれがある。一方、70重量%を超えると、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が水に分散または溶解し難くなるおそれがある。
【0034】
本発明の電着塗料組成物は、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂および多官能(メタ)アクリレートのそれぞれ所定量を混合することによって製造できる。
【0035】
[水性電着塗料組成物]
本発明の水性電着塗料組成物は、酸中和剤を含有する水中に本発明の電着塗料組成物を分散させることによって製造できる。すなわち、本発明の水性電着塗料組成物は、本発明の電着塗料組成物と酸中和剤とを含み、残部が水である組成物である。水性電着塗料組成物における電着塗料組成物の含有量は、固形分(塗膜形成成分)として、水性電着塗料組成物全量の5〜20重量%、好ましくは8〜15重量%である。5重量%未満または20重量%を超えると、塗料中での各成分の分散状態が不安定になり、凝集・沈殿が発生し、均一な外観がえられないなどの不具合が発生するおそれがある。また、酸中和剤の含有量は特に制限されず、塗膜形成成分における紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂の種類におよび含有量に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは本発明の水性電着塗料組成物全量の0.1〜7重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。0.1重量%未満では、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂の水溶性化が不充分になり、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が水中で均一に分散しないおそれがある。5重量%を超えると、酸中和剤が不純物として残存し、電着塗装ひいては電着塗装により形成される硬化塗膜に悪影響を及ぼすおそれがある。酸中和剤としては前述のものと同様のものを使用できる。なお、酸中和剤は紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂との反応によって消失するけれども、紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂と反応する前における、水への添加量を含有量と規定する。
【0036】
本発明の水性電着塗料組成物は、さらに光重合開始剤を含有できる。光重合開始剤を含むことによって、電着塗膜を紫外線硬化させる際に、硬化が円滑に進行し、硬化した電着塗膜の機械的強度の向上などがもたらされる。光重合開始剤としては公知のものを使用でき、たとえば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテルなどのベンゾイン類、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、2−メチル1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1,2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、N,N−ジメチルアミノアセトフェノンなどのアミノアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類、ベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、芳香族のヨードニウム塩、スルホニウム塩およびジアゾニウム塩、ポリシラン化合物、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンなどのα−アルキルフェノン類などが挙げられる。これらの中でも、α−アルキルフェノン類を好ましく使用できる。光重合開始剤としては市販品も使用でき、たとえば、チバ・スペシャルティケミカルス(株)製のIrgacure184(商品名、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン)、Darocure1173(商品名、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、Darocure1116(商品名、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン)、Darocure2959(商品名、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン)などが挙げられる。光重合開始剤は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。光重合開始剤の水性電着塗料組成物における含有量は、塗膜形成成分である紫外線吸収性(メタ)アクリル樹脂および多官能(メタ)アクリレートの種類および含有量などに応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは水性電着塗料組成物全量の0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.05〜7重量%である。0.01重量%未満では添加効果が不充分になり、一方10重量%を超えると硬化後の電着塗膜の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0037】
本発明の水性電着塗料組成物は、さらに着色剤を含むことができる。着色剤としては、たとえば、無機顔料、有機顔料などがある。無機顔料の具体例としては、たとえば、チタンホワイト(酸化チタン)、カーボンブラック、ベンガラなどの着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカなどの体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛などの防錆顔料などが挙げられる。これら以外にも、特開2000−290542号公報、特開2000−230151号公報、特開平11−106687号公報などに記載のビスマス化合物、特開平6−220371号公報などに記載の酸化タングステン、特開平9−241546号公報などの亜リン酸化合物なども使用できる。有機顔料の具体例としては、たとえば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、ベンズイミダゾロンエロー、キナクリドンレッド、モノアゾレッド、ボリアゾレッド、またはベリレンレッドなどが挙げられる。顔料は1種を単独で使用できまたは2種以上を使用できる。たとえば、酸化チタンを用いると、沈降安定性に優れる水性電着塗料組成物が得られ、白色性が高く隠蔽力の高い電着塗膜を形成できる。また、シリカまたはカオリンを用いると、電着塗膜のハジキ防止性、耐チッピング性、塗膜硬度、耐候性、付着性、防錆性などを向上させ得る。また、リン酸アルミニウムまたはモリブデン酸カルシウムを用いると、水性電着塗料組成物の沈降安定性が向上するとともに、電着塗膜の防錆性が向上する。本発明の水性電着塗料組成物における着色剤の含有量は、好ましくは該組成物の全固形分の1〜60重量%、さらに好ましくは1〜30重量%である。さらに本発明の水性電着塗料組成物は、たとえば、顔料分散剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの一般的な電着塗料用添加剤の適量を含むことができる。
【0038】
本発明の水性電着塗料組成物は、たとえば、各成分の所定量または適量を混合し、さらに水を加えて混合し、全量を100とすることによって製造できる。本発明の水性電着塗料組成物における好ましい実施形態は、塗膜形成成分5〜20重量%、光重合開始剤0.01〜10重量%および酸中和剤0.1〜7重量%を含み、残部が水である組成物である。本発明の水性電着塗料組成物におけるさらに好ましい実施形態は、塗膜形成成分8〜15重量%、光重合開始剤0.05〜7重量%および酸中和剤0.5〜5重量%を含み、残部が水である組成物である。
【0039】
本発明の水性電着塗料組成物は、めっき素材に各種めっきを施した物品、ダイカストなどの表面に電着塗膜を形成するのに好適に使用できる。めっき素材としては、この分野で常用されるものをいずれも使用でき、たとえば、純鉄、炭素鋼、高抗張力鋼(低合金鋼、マルエージング鋼)、磁性鋼、非磁性鋼、高マンガン鋼、ステンレス鋼(マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、オーステナイト・フェライト系ステンレス、析出硬化型ステンレスなど)、超合金鋼などの鉄系金属、銅および銅合金(無酸素銅、りん青銅、タフピッチ銅、アルミ青銅、ベリリウム銅、高力黄銅、丹銅、洋白、黄銅、快削黄銅、ネバール黄銅など)、鉄・ニッケル合金、ニッケル・クロム合金、ニッケル、クロム、アルミニウムおよびアルミニウム合金、マグネシウムおよびマグネシウム合金、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびこれらの合金、モリブデン、タングステンおよびこれらの合金、ニオブ、タンタルおよびこれらの合金、合成樹脂類(繊維強化プラスチック(FRP)、繊維強化金属(FRM)、エンジニアリングプラスチックなど)、セラミックス類(アルミナ、ジルコア、ガラス、ソーダガラス、石英ガラス、硼ケイ酸ガラスなど)などが挙げられる。めっき素材表面に施されるめっきの種類は特に制限されず、この分野で常用されるめっきをいずれも採用できる。たとえば、銅・ニッケル・クロムめっき、ニッケル・ボロン・タングステンめっき、ニッケル・ボロンめっき、黄銅めっき、ブロンズめっきなどの各種合金めっき、金めっき、銀めっき、銅めっき、錫めっき、ロジウムめっき、パラジウムめっき、白金めっき、カドミウムめっき、ニッケルめっき、クロムめっき、黒色クロムめっき、亜鉛めっき、黒色ニッケルめっき、黒色ロジウムめっき、亜鉛めっき、工業用(硬質)クロムめっきなどが挙げられる。また、ダイカストとしては、亜鉛ダイカスト、アルミニウムダイカスト、マグネシウムダイカスト、焼結合金ダイカストなどが挙げられる。
【0040】
本発明の水性電着塗料組成物を用いる電着塗装は、本発明の水性電着塗料組成物を用いる以外は、従来の電着塗装と同様にして実施できる。たとえば、被処理品に必要に応じて脱脂処理、酸洗処理などを施した後、本発明の水性電着塗料組成物に被処理品を浸漬し、通電を行うことによって、被処理品表面に未硬化の電着塗膜が形成される。この未硬化の電着塗膜が形成された被処理品に紫外線を照射することによって、被処理品表面に電着塗膜が形成される。ここで、被処理品とは、めっき素材の表面にめっきを施したものまたはダイカストである。脱脂処理は、たとえば、被処理品の表面にアルカリ水溶液を供給することにより行われる。アルカリ水溶液の供給は、たとえば、被処理品にアルカリ水溶液を噴霧するかまたは被処理品をアルカリ水溶液に浸漬させることにより行われる。アルカリとしては金属の脱脂に常用されるものを使用でき、たとえば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのアルカリ金属のリン酸塩などが挙げられる。アルカリ水溶液中のアルカリ濃度は、たとえば、処理する金属の種類、被処理金属の汚れの度合いなどに応じて適宜決定される。さらにアルカリ水溶液には、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤の適量が含まれていてもよい。脱脂は、20〜50℃程度の温度下(アルカリ水溶液の液温)に行われ、1〜5分程度で終了する。脱脂後、被処理品は水洗され、次の酸洗工程に供される。その他、酸性浴に浸漬する脱脂、気泡性浸漬脱脂、電解脱脂などを適宜組み合わせて実施することもできる。酸洗処理は、たとえば、被処理品の表面に酸水溶液を供給することにより行われる。酸水溶液の供給は、脱脂処理におけるアルカリ水溶液の供給と同様に、被処理品への酸水溶液の噴霧、被処理品の酸水溶液への浸漬などにより行われる。酸としては金属の酸洗に常用されるものを使用でき、たとえば、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸水溶液中の酸濃度は、たとえば、被処理金属の種類などに応じて適宜決定される。酸洗処理は、20〜30℃程度の温度下(酸水溶液の液温)に行われ、15〜60秒程度で終了する。脱脂処理および酸洗処理のほかに、スケール除去処理、下地処理、防錆処理などを施してもよい。これらの処理の後、被処理品を70〜120℃程度の温度下に乾燥させて次の電着塗装に供する。
【0041】
電着塗装は、公知の方法に従い、たとえば、本発明の水性電着塗料組成物を満たした通電槽中に被処理品を完全にまたは部分的に浸漬して陽極または陰極とし、通電することにより実施される。電着塗装条件も特に制限されず、被処理品である金属の種類、電着塗装用塗料の種類、通電槽の大きさおよび形状、得られる塗装被処理物の用途などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、通常は、浴温度(電着塗料温度)10〜50℃程度、印加電圧10〜450V程度、電圧印加時間1〜10分程度、水性電着塗料組成物の液温10〜45℃とすればよい。電着塗装が施された被処理品は、通電槽から取り出され、紫外線を照射される。紫外線照射の前に水洗および乾燥を行ってもよい。紫外線の照射量は特に制限されず、塗膜形成成分の種類に応じて広い範囲から適宜選択できるけれども、好ましくは200〜5000mJ/cmである。照射量は、照射強度(mJ/cm・s)と照射時間(s)との積であるから、照射強度と照射時間とを適宜選択することによって、所望の照射量を選択できる。紫外線源としては、たとえば、高圧水銀灯、ケミカルランプ、メタルハライドランプなどの一般的な紫外線源を使用できる。このようにして、被処理品の表面に硬化した電着塗膜が形成される。
【実施例】
【0042】
以下に合成例、実施例、比較例および試験例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(合成例1)
[アクリル樹脂の合成]
攪拌機、冷却器、温度計および滴下管を備える反応器にジオキサン95gを入れ、熱媒体油としてポリエチレングリコール(商品名:PGE♯400、ライオン(株)製)を用いるオイルバスで加熱し、還流状態にした。これに、(ジエチルアミノエチル)アクリレート10g、ヒドロキシエチルメタクリレート50g、メチルメタクリレート15g、スチレン15gおよびエチルヘキシルアクリレート10gのモノマーとアゾビスブチロニトリル(AIBN、ラジカル重合開始剤)2.4gとの均一混合物を3時間かけて滴下した。さらに、ジオキサン5gで滴下管内壁に付着する残存モノマーを洗い出し、残存モノマーを含むジオキサンをさらに滴下した。滴下終了から30分間、ジオキサンの還流下での反応を行った後、AIBNの0.3gを反応器内の反応混合物に添加し、以後30分毎にAIBNの0.3gを合計3回添加した。3回の添加終了後、さらにジオキサンの還流下で5時間反応を行い、反応を終了した。反応混合物を冷却し、液温が30℃以下になった時点で反応生成物を取り出し、アクリル樹脂を製造した。
【0043】
(合成例2)
[アクリル樹脂への(メタ)アクリロイル基の導入]
攪拌機、冷却器、温度計および滴下管を備える反応器に合成例1で得られたアクリル樹脂200gを入れ、さらに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(商品名:カレンズMOI、昭和電工(株)製)31g(0.2モル、アクリル樹脂100gに対して0.1モル)およびジブチルスズジラウレート(DBTL触媒)0.1gを添加し、50℃の温度下および攪拌下に0.5時間反応を行った。得られた反応生成物について、赤外線スペクトル(IR)を測定したところ、2270cm−1に吸収が存在せず、イソシアネート基が存在しないことが確認された。得られたメタクリロイル基が導入された紫外線硬化性アクリル樹脂の重量平均分子量は約20000であった。
【0044】
(合成例3)
[アクリル樹脂へのアクリロイル基の導入]
2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(カレンズMOI)の添加量を0.1モル/100gから0.2モル/100gに変更する以外は、合成例2と同様にして、アクリロイル基を付加した紫外線硬化性アクリル樹脂)を得た。紫外線硬化性アクリル樹脂の重量平均分子量は約24000であった。
【0045】
(実施例1)
合成例2で得られた紫外線硬化性アクリル樹脂100g、イソシアネート含有アクリル誘導体(多官能(メタ)アクリレート、商品名:アロニックスM−9050、東亜合成(株)製)50g、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(光重合開始剤、商品名:ダロキュア1173、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)2.0gおよび乳酸2gを混合し、この混合物にイオン交換水を徐々に加え、全量を1リットルとして本発明の水性電着塗料組成物を製造した。
【0046】
(実施例2)
合成例2で得られた紫外線硬化性アクリル樹脂に代えて、合成例3で得られた紫外線硬化性アクリル樹脂を用いる以外は、実施例1と同様にして、本発明の水性電着塗料組成物を製造した。
【0047】
(比較例1)
合成例2で得られた紫外線硬化性アクリル樹脂に代えて、合成例1で得られたアクリル樹脂を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較用の水性電着塗料組成物を製造した。
【0048】
(試験例1)
ABS樹脂片(70mm×100mm×0.5mm)に、めっき厚約5μmのニッケルめっきを施した。次いで、このものの表面に、実施例1、2または比較例1の水性電着塗料組成物を用い、液温25℃、塗装時間2分、通電方式:全没通電、電圧100V、塗料撹拌:3サイクル/時間の条件下に電着塗装を行って膜厚15μmの被膜を形成した。このものを水性電着塗料組成物中から取り出し、UV乾燥機(80W2灯、メタルハライドランプ、距離20cm、アイグラフィックス(株)製)で4分間照射し、被膜を硬化させ、テストピースを調製した。このテストピースを、以下の試験に供した。結果を表1に示す。
【0049】
[外観]
テストピースの外観を目視により観察し、硬化被膜表面にピンホール、傷などがないものを「○」と評価した。
【0050】
[密着性試験]
ASTM D3359−93に準拠し、碁盤目クロスカットテープ剥離を行い、その剥離残渣面積から5B〜0Bの評価を行った。
【0051】
[耐摩耗性(RCA磨耗)]
RCA摩耗試験機(Nor man Tool社製)を使用し、温度25℃、湿度60%で試験を行い、素地面が露出するまでの回数を求めた。
【0052】
[アルコールラビング]
アルコール摩耗試験機(消しゴム摩耗試験機、ソニー(株)製)を使用し、1kg荷重で試験を行い、素地表面に傷が付くまでの回数を求めた。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、本発明の組成物を用いて形成される電着塗膜は、密着性と耐摩耗性という相反する特性を高い水準で併せ持ち、さらに耐薬品性にも優れ、被めっき品の表面保護膜として極めて良好な性能を有することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有しかつ重量平均分子量が2000〜30000である紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂30〜90重量%と、1分子中に2またはそれ以上のエチレン性不飽和結合基である(メタ)アクリロイル基を含有する2官能または多官能(メタ)アクリレート10〜70重量%とを塗膜形成成分として含有することを特徴とする電着塗料組成物。
【請求項2】
紫外線硬化性(メタ)アクリル樹脂が、(メタ)アクリレート化合物を重合させてなる(メタ)アクリル樹脂に(メタ)アクリロイル基を導入することにより得られることを特徴とする請求項1記載の電着塗料組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリロイル基がジイソシアネート化合物を介して(メタ)アクリル樹脂に導入されることを特徴とする請求項2記載の電着塗料組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリロイル基が、(メタ)アクリレート化合物を重合させてなる(メタ)アクリル樹脂100gに対して0.06〜0.3モルの割合で該(メタ)アクリル樹脂に導入されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電着塗料組成物。
【請求項5】
酸中和剤を含む水に、請求項1〜4のいずれか1つに記載の電着塗料組成物を分散させたことを特徴とする水性電着塗料組成物。
【請求項6】
酸中和剤が、酢酸、蟻酸、プロピオン酸および乳酸から選ばれる1もしくは2以上の有機酸、または硫酸およびリン酸から選ばれる1もしくは2以上の無機酸であることを特徴とする請求項5記載の水性電着塗料組成物。
【請求項7】
光重合開始剤をさらに含むことを特徴とする請求項5または6記載の水性電着塗料組成物。
【請求項8】
光重合開始剤がアルキルフェノン系光重合開始剤であることを特徴とする請求項7記載の水性電着塗料組成物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電着塗料組成物における塗膜形成成分5〜20重量%、光重合開始剤0.01〜10重量%および酸中和剤0.1〜7重量%を含み、残部が水であることを特徴とする請求項7または8記載の水性電着塗料組成物。

【公開番号】特開2010−47692(P2010−47692A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213337(P2008−213337)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(390035219)株式会社シミズ (14)
【Fターム(参考)】