説明

電磁ブレーキ式定張力発生装置

【課題】リールの回転を停止することなく、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を一定の目標値に保つ。
【解決手段】制御手段22により、回転軸12aがリール14の回転軸と連結されたモータ12の、端子間の短絡電流を、PWM制御に係るスイッチング素子20を用い任意に制御して、モータ12に発生する制動力を調整する。そして、線状材料16のリール14上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料16の張力を、満巻き状態から巻芯に至るまで、常に一定の目標値に保つ。線形材料の張力を調整するための、リールの制動力の調整機構が、機械的調整手法による必要がないので、機械系部品の交換が必要なく、また、リールの回転を停止することなく制動力を調整することが可能であることから、線状材料16の張力を、常に最適値に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リールに巻かれた線状材料が繰り出される際に、線状材料に加わる張力を一定にするための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、リールに巻かれた線状材料の繰り出し作業中に、外乱の影響を受けることなく、一定の張力でリールから線状材料を巻き出すことを可能とするための、定張力発生装置が開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平11―292395号公報(〔0004〕、〔0013〕〜〔0018〕)
【特許文献2】特開2001―292561号公報(〔0022〕〜〔0024〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の定張力発生装置は、いずれも、張力を調整するためのリール制動力調整機構の構成上、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を、一定の目標値に保つための機械的操作が必要であった。そして、かかる機械的操作を行う際に、リールの回転を停止することなく制動力を調整することが、不可能であるか極めて困難であったことから、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を、一定の目標値に保つことが困難であった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、リールの回転を停止することなく、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を、一定の目標値に保つことを可能とすることにある。又、外乱の影響を受けることなく、常に一定の張力でリールから線状材料を巻き出すことを可能とすることにある。
又、リールに巻かれた線状材料を繰り出す定張力発生装置の省エネ運転を可能とし、更には、装置の小型化を促進することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置は、リールに巻かれた線状材料が繰り出される際に線状材料に加わる張力を一定にする装置であって、 回転軸がリールの回転軸に連結されたモータと、リールに巻かれた線状材料がリールから繰り出される間、前記モータの端子間の発電電流をPWM制御に係るスイッチング素子を用い任意に制御して、モータに発生する制動力を制御することにより、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を一定の目標値に保つ制御手段と、を具備することを特徴とするものである。
【0007】
本発明によれば、制御手段により、回転軸がリールの回転軸と連結されたモータの、端子間の発電電流を、PWM制御に係るスイッチング素子を用い任意に制御して、モータに発生する制動力を調整し、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を、満巻き状態から巻芯に至るまで、常に一定の目標値に保つことができる。
【0008】
本発明において、前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、ローパスフィルタを介したモータ回転数信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することが望ましい。
この構成によれば、演算手段において、ローパスフィルタを介したモータ回転数信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行い、外乱に起因する張力の脈動を抑えることができる。
【0009】
又、本発明において、前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、線状材料の張力信号の微分値を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することとしても良い。
この構成によれば、演算手段において、線状材料の張力信号の微分値を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行い、外乱に起因する張力の変動を、より一層抑えることができる。
【0010】
又、本発明において、前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、モータ回転数信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値の微分値を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することが望ましい。
この構成によれば、線状材料の張力が実測できないような場合であっても、演算手段において、モータ回転数信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値の微分値を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行い、外乱に起因する張力の変動を、より一層抑えることができる。
【0011】
又、本発明において、前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、ローパスフィルタを介したモータの回転数から実測回転数を差し引いたフィードバック信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することが望ましい。
この構成によれば、演算手段において、モータ回転数のフィードバック信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行うことにより、外乱に起因する張力の脈動を、より一層抑えることができる。
【0012】
しかも、前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、線状材料の張力のフィードバック信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することとしても良い。この構成によれば、外乱に起因する張力の脈動を、より一層抑えることができる。
更に、前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、モータ回転数信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力のフィードバック信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することとしても良い。
この構成によれば、線状材料の張力が実測できないような場合であっても、演算手段において、モータ回転数信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値が考慮されることで、外乱に起因する張力の変動を、より一層抑えることができる。
【0013】
又、本発明において、前記モータの端子間の発電電流を、前記制御手段の駆動電力に活用する電力変換手段を具備することが望ましい。
この構成によれば、モータが制動で働いていない期間(スイッチング素子のOFF期間)は、リールに巻かれた線状材料が、リールから繰り出されることで生じる端子間の発電電流により、制御手段の駆動電力を賄うことが可能となる。
【0014】
又、本発明において、前記モータがヨークを具備しないフラットモータであることが望ましい。
本発明によれば、電磁ブレーキ式定張力発生装置の小型化を促進することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明はこのように構成したので、リールの回転を停止することなく、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を一定の目標値に保つことが可能となる。又、外乱の影響を受けることなく、常に一定の張力でリールから線状材料を巻き出すことが可能となる。又、省エネ運転を行い、更には、装置の小型化を促進することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
まず、図1〜図13を参照しながら、本発明の第1の実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置10の説明を行う。電磁ブレーキ式定張力発生装置10は、図1(a)に示されるように、回転軸12aがリール14の回転軸に連結されたモータ12を備えている。又、リール14に巻かれた線状材料16がリール14から繰り出され、巻取り機18に巻き取られる間、モータ12の端子12b、12c間の発電電流をPWM制御に係るスイッチング素子20a、20bを用い任意に制御して、モータ12に発生する制動力を制御する制御手段22を備えている。スイッチング素子ON・OFF信号21は、図1(b)に示されるように、スイッチング周波数の一周期中のON期間において、モータ12による制動力が発生し、OFF期間では、後述のごとく発電を行うことが可能である。スイッチングのON期間は、スイッチング周期にPWM値を乗ずることにより決定されるものである。
制御手段22は、線状材料16のリール14上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を、一定の目標値に保つものであり、後述のごとく、PWM制御に係る演算を行うための、電子計算機を用いた演算手段22aを具備している。又、モータ12には、かかる演算に必要となるモータ12の回転数を検出する、回転数検出器24が設けられている。なお、リール14から線状材料16を巻き取るための動力は、巻取り機18にのみ設けられており、リール14は、巻取り機18に巻き取られる線状材料16により、受動的に回転するものである。
【0018】
演算手段22aにおいて行われる、PWM制御に係る演算は、以下のPWM演算式(I)に基づいて行われる。
PWM=(Rp×v×Fref)/(w×w×kp×kp) ‥‥(I)
なお、Rp:モータコイル抵抗(Ω)、v:材料線速(m/s)、Fref:指令張力(N)、w:モータ回転速度(rad/s)、kp:モータトルク定数(Nm/A)である。このうち、Rp及びkpは既知の値であり、vは一定とみなし、wは回転数検出器24によって検出することが出来る。よって、PWM演算式(I)によれば、所望のFrefを設定することにより、必要なPWMの値を求めることが出来る。
【0019】
以下に、図6を参照しながら、制御手段22によるモータ12の、各制御ステップを説明する。この制御手順は、起動時、すなわち線状材料が満巻き状態のリールから線状材料の繰り出しを開始する際に適用される「起動モード」と、停止時、すなわちリールから規定長さの線状材料が繰り出され、繰り出し作業を停止する際に適用される「停止モード」と、定常時、すなわち起動時及び停止時の間の定常運転時に適用される「定常モード」とが含まれる。また、図中の符号は、Rr0:起動時のリール半径(m)(既知)、vref:定常時の材料線速(m/s)(既知)、Rr:定常時の変化するリール半径(m)、Rrx:定常時から停止時へと判定が変更された時点のリール半径(m)、ws:定常時のモータの回転速度(rad/s)である。
【0020】
(10)回転数検出器24により、モータ12の回転速度w(rad/s)を測定する。
(20)ステップ(10)における測定結果wと、定常時のモータの回転速度wsとを比較する。なお、ws=vref/Rr0である。本ステップにおいて、w>wsであると判定された場合には、ステップ(22)に移行する。
(22)ステップ(10)における測定結果wから、dw/dtを求め、この微分値を設定値(定常時であるか停止時であるかの判断に係る設定値)と比較する。
(30)ステップ(20)において、w>wsではないと判定された場合には、起動モードで運転され、PWM演算式のv値として、v=Rr0×wが与えられる。
(32)ステップ(22)において、dw/dt>(設定値)ではないと判断された場合には、定常モードで運転され、PWM演算式のv値として、v=vrefが与えられる。なお、定常時に変化するドラム半径Rrは、Rr=vref/wで求められる。
(34)ステップ(22)において、dw/dt>(設定値)であると判断された場合には、停止モードで運転され、PWM演算式のv値として、v=Rrx×wが与えられる。
(40)PWM演算式(I)に基づき、PWM値が求められる。
(50)ステップ(40)で得られたPWM値とスイッチング周波数により、制御手段22からスイッチング素子20a、20bに対し、スイッチング素子ON・OFF信号21が出力される。
【0021】
図7(a)〜(d)には、図6の各ステップに基づき制御された、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速V、モータ回転速度w、線状材料の張力F及びPWM値を、夫々例示している。又、図8(a)〜(d)には、定常モードから停止モードにシフトし、モータ12が停止するまでの材料線速V、モータ回転速度w、線状材料の張力F及びPWM値を、夫々例示している。
なお、図7(a)〜(d)においては、モータの起動からt1経過時の近辺で、起動モードから定常モードにシフトしている(後述する図9〜図12も同様である)。又、図8(a)〜(d)においては、モータの停止時t3の若干手前から図示されており、t2近辺で定常モードから停止モードにシフトしている。そして、図7(c)、図8(c)から明らかなように、定常モードにおける線状材料の張力Fは、起動モードから定常モードにシフトした直後と、定常モードから停止モードにシフトする直前とで、変化がない(Fref)ことが示されている。
【0022】
更に、本発明の第1の実施の形態では、定常運転時における外乱に起因する張力の脈動を、効果的に抑えるための、制御ロジックを備えている。図2に示される制御手段22のブロック図は、指令張力Frefに、ローパスフィルタLPFを介したモータ回転数wの信号を考慮して、PWM値を得るものである。又、図3に示される制御手段22のブロック図は、図2の構成に加え、ローパスフィルタを介したモータの回転数から実測回転数を差し引いたフィードバック信号を考慮して、PWM値を得るものである。
【0023】
更に、図4に示される制御手段22のブロック図は、指令張力Frefに、線状材料の張力Fの信号の微分値を考慮して、PWM値を得るものである。この例において、張力測定値Fが得られない場合には、かかる測定値Fに換えて、モータ回転数wの信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値の微分値を考慮することにより、PWM値を得ることも可能である。
なお、オブザーバ理論に基づく線状材料の張力値の推定は、以下の手順によって行われるものである。
線状材料の張力値Fとすると、状態方程式(II)は、
dF/dt=KSX×(v−Rr×w) ‥‥(II)
ここで、KSX:バネ定数である。又、モータ回転数(角速度)wとすると、状態方程式(III)は、
dW/dt=Rr×F/Jr−T/Jr ‥‥(III)
ここで、Jr:リール慣性モーメント、T:モータトルク(Nm)である。
【0024】
そして、状態方程式(II)、(III)を変形すると、
【数1】

オブザーバ(状態観測値)を次の〔数2〕のように定義する。なお、各推定値にはハット記号(^)を付す。
【数2】

【数3】

の固有値の実数部が負となるf1、f2、f3を決定する。
そして、〔数2〕を解くことにより、テンションFの推定が可能となる。
【0025】
一方、図5に示される制御手段22のブロック図は、図3に示されるブロック図における指令張力Frefに、更に、線状材料の張力Fのフィードバック信号を考慮して、PWM値を得るものである。なお、図5の例においても、張力測定値Fが得られない場合には、かかる測定値Fに換えて、モータ回転数wの信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値を考慮することにより、PWM値を得ることも可能である。この際の、オブザーバ理論に基づく線状材料の張力値の推定手法は、図4の例で説明した通りである。
【0026】
図9から図12には、夫々、図2から図5のブロック図に係る、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速V、モータ回転速度w、線状材料の張力F及びPWM値を例示している。これらの図を、ローパスフィルタを介したモータ回転数wの信号(1次遅れ信号)や、張力、回転数等のフィードバックを受けない場合について例示した図13と比較すると、定常モードにおける線状材料の張力Fの変動は(図9〜図13の(c)を比較参照)、外乱を受けた状態(時間t11以降)において減少しているのみならず、乱外を受けていない状態(定常モードで安定した後外乱が加わるまでの、t10〜t11の間)でも減少していることが読み取れる。
【0027】
上記構成をなす、本発明の第1の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。まず、制御手段22により、回転軸12aがリール14の回転軸と連結されたモータ12の、端子間の発電電流を、PWM制御に係るスイッチング素子20a、20bを用い任意に制御して、モータ12に発生する制動力を調整し、線状材料16のリール14上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料16の張力を、満巻き状態から巻芯に至るまで、常に一定の目標値(指令張力)Frefに保つことができる。
しかも、線形材料の張力を調整するための、リールの制動力の調整機構が、機械的調整手法による必要がないので、機械系部品の交換が必要なく、また、リールの回転を停止することなく制動力を調整することが可能であることから、線状材料16の張力Fを、常に最適値であるFrefに保つことができる。
【0028】
又、演算手段22aにおいて、ローパスフィルタLPFを介したモータ回転数wの信号を考慮して、PWM演算式(I)を用いた演算を行うことで、外乱に起因する張力の脈動を抑えることができる(図2、図9、図13参照)。
又、演算手段22aにおいて、線状材料16の張力Fの信号の微分値を考慮して、PWM演算式(I)を用いた演算を行うことで、外乱に起因する張力の変動を、より一層抑えることができる(図4、図11、図13参照)。又、線状材料16の張力が実測できないような場合であっても、演算手段22aにおいて、モータ回転数wの信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値の微分値を考慮して、PWM演算式(I)を用いた演算を行うことで、外乱に起因する張力の変動を、より一層抑えることができる(図4、図13参照)。
【0029】
又、演算手段22aにおいて、モータ回転数wのフィードバック信号を考慮して、PWM演算式(I)を用いた演算を行うことで、外乱に起因する張力の脈動を、より一層抑えることができる(図3、図10、図13参照)。
更に、演算手段22aにおいて、線状材料16の張力の目標値Frefに係る指令信号に、線状材料16の張力Fのフィードバック信号を考慮して、PWM演算式(I)を用いた演算を行うことで、外乱に起因する張力の脈動を、より一層抑えることができる(図5、図12、図13参照)。
更に、演算手段22aにおいて、線状材料16の張力の目標値Frefに係る指令信号に、モータ回転数wの信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値を考慮して、PWM演算式(I)を用いた演算を行うことで、線状材料の張力が実測できないような場合であっても、外乱に起因する張力の脈動を、より一層抑えることができる(図5、図13参照)。
【0030】
続いて、図14を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置26の説明をする。ここで、第1の実施の形態と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置26は、第1の実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置10の構成に加え、モータ12の端子12b、12c間の発電電流を、制御手段22の駆動電力に活用する「電力変換手段」を具備するものである。「電力変換手段」の具体的構成としては、制御電源変換装置28と、制御手段22を駆動するためのバッテリー30と、自動切換スイッチ32とを備えている。そして、制御電源変換装置28では、コンデンサ29に蓄えられたモータの逆起電力を、制御手段22に求められる制御電圧へと変換する。さらに、自動切換スイッチ32において、コンデンサ29の電圧が、制御電圧に達したことを検出し、バッテリー30からの電力供給を断ち、コンデンサ29に蓄えられた電力のみによって、制御手段22を駆動するものである。一方、コンデンサ29の電圧が制御電圧を下回ると、自動切換スイッチ32は、制御手段22への電力供給源を、再びバッテリー30へと切換える。
【0031】
従って、本発明の第2の実施の形態によれば、リール14に巻かれた線状材料16が、リール16から繰り出される間の制動していない期間(スイッチング素子20a、20bのOFF期間(図1(b)参照))は、モータ14が駆動されることで生じる端子12b、12c間の発電電流により、制御手段22の駆動電力を賄うことが可能となり、省エネ運転を行うことが可能となる。又、バッテリー30の負担が減ることから、バッテリー30の小型化を図ることも可能となる。なお、理想的には、バッテリー30を完全に無くすことが望ましい。更に、モータ14の逆起電力によりバッテリー30を充電することとすれば、バッテリー30の連続使用時間を延ばすことも可能となる。その他、本発明の第1の実施の形態と同様の作用効果については、詳しい説明を省略する。
【0032】
続いて、図15、図16を参照しながら、本発明の第3の実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置34の説明をする。ここでも、第1の実施の形態と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置34は、第1の実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置10のモータ12を、フラットモータ36に換え、フラットモータ36の端子36b、36c間の発電電流を、制御手段22により、PWM制御に係るスイッチング素子20a、20bを用い任意に制御して、フラットモータ36に発生する制動力を制御するものである。なお、図中には示されていないが、第1の実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置10と同様に、フラットモータ36の回転数を検出する、回転数検出器が設けられている。
【0033】
ここで用いられるフラットモータ36は、図16に示されるように、ヨークを具備しないフラットモータである。すなわち、フラットモータの場合、ヨークに磁性体を用いると、吸着によりリール14及びモータが無負荷で回転することができない。従って、制動力の制御が不能となり、線状材料の張力を一定の目標値に保つことが不可能となる。この対策として、ヨークを具備しないフラットモータ36を使用するものである。なお、フラットモータ36はヨークを備えないために、ヨークを備える場合と比べ、コイルを通過する磁石の磁束が弱くなる。この対策として、極数を増大させる(例えば、30極)ことにより、必要な起電力を得ることが望ましい。
以上のごとく構成された、本発明の第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態に係る電磁ブレーキ式定張力発生装置10と比較して、装置の小型化を促進することが可能となるので、より自由な装置レイアウトが可能となる。その他、本発明の第1の実施の形態と同様の作用効果については、詳しい説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る、電磁ブレーキ式定張力発生装置の構成を示すものであり、(a)は概略図、(b)はスイッチング素子のON、OFF信号と、モータの発電時、制動時のタイミングとを示す説明図である。
【図2】図1に示される電磁ブレーキ式定張力発生装置の、制御手段のブロック図である。
【図3】図1に示される電磁ブレーキ式定張力発生装置の、制御手段の別のブロック図である。
【図4】図1に示される電磁ブレーキ式定張力発生装置の、制御手段の更に別のブロック図である。
【図5】図1に示される電磁ブレーキ式定張力発生装置の、制御手段の更に別のブロック図である。
【図6】図1に示される電磁ブレーキ式定張力発生装置の、制御手段によるモータの制御ステップを示すフローチャートである。
【図7】図6の各ステップに基づき制御された、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速を(a)に、モータ回転速度を(b)に、線状材料の張力を(c)に、PWM値を(d)に、夫々例示したグラフである。
【図8】図6の各ステップに基づき制御された、定常モードから停止モードにシフトするまでの、材料線速を(a)に、モータ回転速度を(b)に、線状材料の張力を(c)に、PWM値を(d)に、夫々例示したグラフである。
【図9】図2のブロック図に係る、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速を(a)に、モータ回転速度を(b)に、線状材料の張力を(c)に、PWM値を(d)に、各々例示したグラフである。
【図10】図3のブロック図に係る、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速を(a)に、モータ回転速度を(b)に、線状材料の張力を(c)に、PWM値を(d)に、各々例示したグラフである。
【図11】図4のブロック図(張力が測定値の場合)に係る、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速を(a)に、モータ回転速度を(b)に、線状材料の張力を(c)に、PWM値を(d)に、各々例示したグラフである。
【図12】図5のブロック図(張力が測定値の場合)に係る、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速を(a)に、モータ回転速度を(b)に、線状材料の張力を(c)に、PWM値を(d)に、各々例示したグラフである。
【図13】比較例として、ローパスフィルタを介したモータ回転数wの信号(1次遅れ信号)や、速度、張力、回転数等のフィードバックを受けない場合に係る、起動モードから定常モードにシフトするまでの、材料線速を(a)に、モータ回転速度を(b)に、線状材料の張力を(c)に、PWM値を(d)に、各々例示したグラフである。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る、電磁ブレーキ式定張力発生装置の構成を示す概略図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態に係る、電磁ブレーキ式定張力発生装置の構成を示す概略図である。
【図16】図15に示された電磁ブレーキ式定張力発生装置の、フラットモータの模式図である。
【符号の説明】
【0035】
10、26、34:電磁ブレーキ式定張力発生装置、12:モータ、12a:回転軸、 12b、12c:端子、14:リール、16:線状材料、18:巻取り機、 20a、20b:スイッチング素子、21:スイッチング素子ON・OFF信号、22:制御手段、22a:演算手段、24:回転数検出器、26:電磁ブレーキ式定張力発生装置、28:制御電源変換装置、30:バッテリー、32:自動切換スイッチ、36:フラットモータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リールに巻かれた線状材料が繰り出される際に線状材料に加わる張力を一定にする装置であって、
回転軸がリールの回転軸に連結されたモータと、
リールに巻かれた線状材料がリールから繰り出される間、前記モータの端子間の発電電流をPWM制御に係るスイッチング素子を用い任意に制御して、モータに発生する制動力を制御することにより、線状材料のリール上の巻き径の減少に応じて変化する線状材料の張力を一定の目標値に保つ制御手段と、を具備することを特徴とする電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項2】
前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、ローパスフィルタを介したモータ回転数信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することを特徴とする請求項1記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項3】
前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、線状材料の張力信号の微分値を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することを特徴とする請求項2記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項4】
前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、モータ回転数信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力値の微分値を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することを特徴とする請求項2記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項5】
前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、ローパスフィルタを介したモータの回転数から実測回転数を差し引いたフィードバック信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することを特徴とする請求項2記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項6】
前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、線状材料の張力のフィードバック信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することを特徴とする請求項5記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項7】
前記制御手段は、線状材料の張力の目標値に係る指令信号に、モータ回転数信号に基づきオブザーバ理論によって推定された張力のフィードバック信号を考慮して、前記PWM制御に係る演算を行う演算手段を具備することを特徴とする請求項5記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項8】
前記モータの端子間の発電電流を、前記制御手段の駆動電力に活用する電力変換手段を具備することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。
【請求項9】
前記モータがヨークを具備しないフラットモータであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の電磁ブレーキ式定張力発生装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−197174(P2007−197174A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19008(P2006−19008)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】