電磁波吸収体
【課題】薄層であっても高い電磁波吸収特性を実現した電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】電磁波吸収体1は、電磁波吸収層2と、電磁波反射層3とが積層されることにより構成される。また、電磁波吸収層2は、高誘電性材料で形成されるとともに立方体形状を有する基材12と、高磁性材料で形成されるとともに基材12の内部において3方向に形成された各長孔14、15、16に充填された充填材13とが複合した複合体によって成形し、各高誘電性材料及び高磁性材料をそれぞれ三次元的に連続させた構造とする。
【解決手段】電磁波吸収体1は、電磁波吸収層2と、電磁波反射層3とが積層されることにより構成される。また、電磁波吸収層2は、高誘電性材料で形成されるとともに立方体形状を有する基材12と、高磁性材料で形成されるとともに基材12の内部において3方向に形成された各長孔14、15、16に充填された充填材13とが複合した複合体によって成形し、各高誘電性材料及び高磁性材料をそれぞれ三次元的に連続させた構造とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の電子部品から発せられる電磁波を薄層形状で吸収可能とする電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動モータやコンピュータ等の電子機器から発せられる電磁波によって、他の電子機器の正常な動作を妨げる事態が少なからず生じていた。そこで、従来より電磁波を吸収する吸収体によってそれらの電子機器を囲ったり、隔壁を形成することによって、電磁波による悪影響を防止する方法が行われていた。
【0003】
また、従来用いられていた電磁波吸収体の一つとして、吸収体の表面上において無反射となる無反射条件を利用したλ/4型電磁波吸収体がある。この無反射条件を利用したλ/4型電磁波吸収体では、例えば金属製の電磁波反射層の前面に所定の厚みの電磁波吸収材からなる電磁波吸収層を積層した構造とする。そして、電磁波が入射した際に、電磁波吸収体の特性インピーダンスと空気中の特性インピーダンスとが整合するように電磁波吸収層の厚みや材料定数を設計する。それによって、見かけ上電磁波が反射されなくなる。この状態は無反射状態と呼ばれる(特開2003−133784号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−133784号公報(第3頁〜第5頁、図1〜図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電磁波吸収体を形成する材料の材料定数(例えば、比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)、比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″))が所定の関係を満たすときに、上記無反射状態となる条件(以下、無反射条件という)を実現することができる。具体的には、電磁波の波長λ、電磁波吸収層の厚さd、材料の材料定数(比誘電率εr、比透磁率μr)が以下の数式1を満たす場合に無反射条件を実現する。
【0006】
【数1】
【0007】
そして、上記数式1を満たす電磁波吸収体を形成する材料の材料定数は、例えばカーボンブラックを配合した電波吸収体の場合、適切なバインダー樹脂にカーボンブラックの配合量を適切に選択することによって達成する必要がある。
この場合において、適切なバインダー樹脂にカーボンブラックの配合量を適切に選択することによって無反射条件を満足する電磁波吸収体は実現することが可能であるが、薄層の電磁波吸収体を実現することは容易ではなかった。
【0008】
即ち、無反射条件は上記数式1に示すように電磁波吸収層の厚さdと電磁波の波長λとの比:d/λによって異なる。そして、電磁波の周波数720MHzで電磁波吸収層の厚さ3mm(d/λ=0.0072)の無反射条件を満足するような薄層領域では、電磁波吸収体を形成する材料の材料定数(特に比誘電率の実部)を大きな値で確保することが必要となることがその理由である。
【0009】
ここで、図13は、電波吸収体として誘電材料(比透磁率≒1)を用いた場合において、比誘電率に対する無反射曲線及び20dB曲線と、電磁波吸収体に用いるCの比誘電率をプロットした図を示す。尚、無反射曲線は、無反射条件を満たす為の電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数を示す曲線である。即ち、電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数が無反射曲線上に一致する場合に無反射条件を満たすこととなる。また、20dB曲線は、20dBの電磁波吸収特性を満たす範囲の電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数を示す曲線である。即ち、電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数が20dB曲線上に一致する場合に20dBの電磁波吸収特性を満たすこととなる。また、20dB曲線に囲まれた範囲は、20dB以上の電磁波吸収特性を満たす電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数の範囲を示す。
更に、図13では、d/λ=0.0072となる点も示す。その結果、図13に示すように無反射曲線上においてd/λ=0.0072となる比誘電率はε=1206−j44.2となる。また、20dB曲線上においてd/λ=0.0072となる比誘電率はε=1205−j36.2又は1206−j54.0となる。そして、現状のCの材料定数では、含有量を増加させたとしても比誘電率の虚部の値に対して実部の値が大きくならないので、無反射曲線上又は20dB曲線上のd/λ=0.0072となる点に一致させるのは困難である。
【0010】
以上のように、無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲(20dB以上の電磁波吸収特性を達成する為の条件)を満たす薄層の電磁波吸収体を実現する為には、電磁波吸収体を形成する材料の材料定数を大きな値の範囲でコントロールすることが必要である。しかしながら、従来の電磁波吸収体では材料定数を大きな値の範囲でコントロールすることが十分にできず、無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することは非常に困難であった。
【0011】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する3次元連続体構造を用いて電磁波吸収層を形成することにより、薄層であっても高い電磁波吸収特性を実現した電磁波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とが複合された複合体からなるとともに、前記複合体中において前記高誘電性材料と前記高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層と、前記電磁波吸収層の一方の面に対して積層され、入射された電磁波を反射する電磁波反射層と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に係る電磁波吸収体は、請求項1に記載の電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層の比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部は、電磁波が前記電磁波吸収層の他方の面から入射したときに、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たすことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に係る電磁波吸収体は、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層は、前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の一方で成形され、内部に複数の長孔を備えた基材と、前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の他方で成形され、前記長孔に充填された充填材と、を備え、前記長孔は、所定方向に沿って形成された第1長孔と、前記第1長孔と交差する第2長孔と、前記第1長孔及び前記第2長孔と交差する第3長孔と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に係る電磁波吸収体は、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層は、前記高誘電性材料で形成された第1紐状体と、前記高磁性材料で形成された第2紐状体と、を備え、前記第1紐状体と前記第2紐状体とが複数混合された構造を有することを特徴とする。
【0016】
更に、請求項5に係る電磁波吸収体は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記高誘電性材料に導電材を添加したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
前記構成を有する請求項1に記載の電磁波吸収体によれば、電磁波吸収層を高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造とすることにより、電磁波吸収層を形成する材料の材料定数を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0018】
また、請求項2に記載の電磁波吸収体によれば、電磁波吸収層を形成する材料の材料定数として、電磁波吸収層の比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることにより、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数の電磁波吸収層を形成することが可能となる。その結果、20dB以上の電磁波吸収特性を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0019】
また、請求項3に記載の電磁波吸収体によれば、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。
【0020】
また、請求項4に記載の電磁波吸収体によれば、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。
【0021】
更に、請求項5に記載の電磁波吸収体によれば、電磁波吸収層の比誘電率の虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値をコントロールすることが可能となる。従って、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態に係る電磁波吸収体について示した説明図である。
【図2】第1実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図3】比較例として、高誘電性材料と高磁性材料と導電性材料とを粒子単位で混合して製造した電磁波吸収シートを示した図である。
【図4】設計周波数を720MHzとし、電磁波吸収層の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部と虚部、比透磁率μrの実部と虚部が無反射条件を満たす点をグラフ上にプロットした図である。
【図5】設計周波数を720MHzとし、電磁波吸収層の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部と虚部、比透磁率μrの実部と虚部が無反射条件を満たす値の組み合わせの例を複数示した図である。
【図6】サンプル1とサンプル2について比透磁率の実部μr´と比誘電率の実部εr´の測定結果を示した図である。
【図7】サンプル1とサンプル2について比透磁率の虚部μr″と比誘電率の虚部εr″の測定結果を示した図である。
【図8】サンプル1とサンプル3について比誘電率の虚部εr″の測定結果を示した図である。
【図9】第2実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図10】第3実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図11】第4実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図12】第5実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図13】電波吸収体として誘電材料を用いた場合において、比誘電率に対する無反射曲線及び20dB曲線と、電磁波吸収体に用いるCの比誘電率をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る電磁波吸収体について具体化した第1乃至第5実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
先ず、第1実施形態に係る電磁波吸収体1について図1に基づき説明する。図1は第1実施形態に係る電磁波吸収体1について示した説明図である。
【0025】
図1に示すように、第1実施形態に係る電磁波吸収体1は、基本的に電磁波吸収層2と電磁波反射層3とから構成される。
【0026】
電磁波吸収層2は、後述するように無反射条件或いは無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数を備えた電磁波吸収材料により成形される。特に、第1実施形態では高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する複合体を電磁波吸収材料とする。また、電磁波吸収層2の厚みについては、先ず、電磁波吸収層2の比誘電率及び比透磁率に対応するd/λの値を無反射曲線又は20dB曲線との対応で求め、設計周波数(例えば720MHz)に応じたdの値を設計厚みとする。特に、算出されたdの値の±数%の範囲内で電磁波吸収層2を作製することが望ましい。尚、電磁波吸収層2の詳細については後述する。
【0027】
一方、電磁波反射層3は、入射された電磁波を反射する反射手段として用いられる層であり、アルミニウム、銅、鉄やステンレス等の金属板や、高分子フィルムに真空蒸着やめっきで上記金属の薄膜を形成したもの、炭素繊維等の導電材で樹脂等を補強したものなどにより成形される。尚、電磁波吸収層2と電磁波反射層3との積層方法は、例えば、直接熱接着する方法、電磁波吸収特性に影響を与えない程度の薄い接着剤で接着する方法等がある。また、電磁波吸収体1に対して入射する電磁波の入射方向4は、電磁波反射層3が積層されている面と反対側の面から入射するように設計する。但し、図1では電磁波の入射方向4は、電磁波反射層3に対して垂直となっているが、入射方向は電磁波反射層3に対して垂直でなくても良い。
【0028】
次に、電磁波吸収体1を形成する電磁波吸収層2について、図2を用いてより詳細に説明する。図2は第1実施形態に係る電磁波吸収層2の構成について示した模式図である。
電磁波吸収層2は、高磁性材料で形成されるとともに電磁波吸収層2の外形を形成する基材12と、高誘電性材料で形成されるとともに円柱形状を有する充填材13とが複合した複合体によって構成される。尚、第1実施形態では高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。また、高誘電性材料としては、例えば水(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“80.4”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。尚、充填材13として水を用いる場合には、寒天やポリアクリル酸ナトリウム等の高い吸水性及び水分保持性能を有する材料に水を吸水させたゲル状体を用いることが望ましい。
【0029】
尚、基材12と充填材13は以下の材料の組み合わせによって構成しても良い。
(a)“多孔質フェライト”からなる基材12と“導電ゲル(ゲル状体にNaCl等の電解質を溶解させたもの)”からなる充填材13。
(b)“多孔質フェライト”からなる基材12と“導電フィラーを混練したBaTiO3”からなる充填材13。
【0030】
そして、第1実施形態に係る電磁波吸収層2では、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。ここで、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造とは、どのような位置でどのような角度により構造体(第1実施形態では電磁波吸収層2)を切断したとしても、その切断面において高誘電性材料と高磁性材料とが互いに接触する構造をいう。
具体的には、高磁性材料からなる基材12の内部において3方向に形成された計27本の各長孔14、15、16に、高誘電性材料からなる充填材13が充填されることによって電磁波吸収層2は構成される。
【0031】
また、各長孔14、15、16は図2のX軸方向に沿って形成された第1長孔14と、Y軸方向に沿って形成された第2長孔15と、Z軸方向に沿って形成された第3長孔16とからなり、互いに交差する。また、充填材13及び各長孔14、15、16は図2に示すような円柱形状に限らず、四角柱等の多角柱形状等で構成しても良い。更に、電磁波吸収層2の高誘電性材料と高磁性材料の体積比率は比誘電率、比透磁率の値を加味した体積比とすることが望ましい。
【0032】
次に、上記図1に示す第1実施形態に係る電磁波吸収体1の製造方法について説明する。
ここで、電磁波吸収体1の製造方法としては、先ず電磁波吸収層2を所定の設計厚みで成形し、成形された電磁波吸収層2の一方の面に対して電磁波反射層3を接着し、各層を積層する。尚、電磁波反射層3の接着には、直接熱接着する方法又は接着剤で接着する方法等が用いられる。また、電磁波吸収層2を成形する方法としては、先ず基材12を成形した後に、基材12に対して各長孔14、15、16を形成し、その後に充填材13を充填する方法が挙げられる。
【0033】
そして、上記製造方法によって作製された電磁波吸収体1は、電磁波吸収層2において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続する構造となる。その結果、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、高誘電性材料と高磁性材料を樹脂中に配合し、粒子単位で混合して電磁波吸収層を製造する場合と比較して、電磁波吸収体の比誘電率や比透磁率が大幅に低下することが無い。
【0034】
ここで、図3は比較例として、高誘電性材料と高磁性材料と導電性材料とを粒子単位で混合して製造した電磁波吸収層21を示した図である。
図3に示すように、例えば、フェライト等の高磁性材料粒子22と、チタン酸バリウム等の高誘電性材料粒子23と、導電性材料である炭素粒子24とを樹脂25中に混合することによって製造した電磁波吸収層21は、混合前の高磁性材料や導電性材料と比較して比誘電率や比透磁率が大幅に低下する。例えば、高誘電性材料としてチタン酸バリウム、高磁性材料としてフェライトが用いられた場合では、電磁波吸収層21の比誘電率εrは約1/100まで低下し、比透磁率μrについても約1/100まで低下することとなる。
従って、このように粒子単位で混合した電磁波吸収層21では、比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることができない。それにより、電磁波吸収シートとして十分な電磁波吸収特性を得る為には一定以上のシート厚みが必要となり、薄膜化が困難となる。それに対して、第1実施形態の電磁波吸収体1では、前記したように電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されず、比誘電率や比透磁率が大きく低下することが無い。その結果、後述のように比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能であり、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
【0035】
続いて、図1及び図2に示すように高誘電性材料及び高磁性材料を三次元的に連続させた構造を有する電磁波吸収層2を備えた電磁波吸収体1に関する電磁波吸収特性について以下に説明する。
【0036】
ここで、図4は設計周波数を720MHzとし、電磁波吸収層2の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)及び比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″)が無反射条件を満たす点をグラフ上にプロットした図である。また、図5は同じく電磁波吸収層2の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)及び比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″)が無反射条件を満たす値の組み合わせの例を複数示した図である。
ここで、無反射条件は、前述したように電磁波が入射した際に、電磁波吸収体の特性インピーダンスと空気中の特性インピーダンスとが整合することにより見かけ上電磁波が反射されなくなる無反射状態となる為の条件である。具体的には、電磁波の波長λ、電磁波吸収層の厚さd、材料の材料定数(比誘電率εr、比透磁率μr)が前記数式1を満たす場合に無反射条件を実現する。
尚、図4において無反射曲線はプロットされた各点に相当する。また、無反射曲線の20dB吸収範囲はプロットされた各点から所定距離内の範囲となる。
【0037】
図4及び図5を参照すると、無反射条件を満たす材料定数の組み合わせの内、各値が比較的小さくなる組み合わせの一例として、(μr´、μr″、εr´、εr″)=(3.3、21.7、10、0)がある。ここで、720MHzで比透磁率の虚部の値を20程度に確保する電磁波吸収材料としては、通常高周波高損失フェライト(Ni、Cu系フェライト)をバルク状態で用いたものがあるが、フェライトのバルク体では比透磁率の値を大きな値にコントロールできたとしても、比誘電率を大きな値で確保することができない。
一方、図3に示した高誘電性材料と高磁性材料と導電性材料とを粒子単位で混合する方式では、比誘電率や比透磁率が必要とする値の1/10以下の値となってしまう。
一方、誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する第1実施形態の電磁波吸収体1では、上記の無反射条件を満たす材料定数の組み合わせを実現することが可能である。以下に、その手段について詳細に説明する。
【0038】
上記の無反射条件を満たす材料定数の組み合わせを実現する為には、電磁波吸収層2の比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)、比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″)を大きな値の範囲でコントロールすることが必要となる。
【0039】
以下に、サンプル1〜3の測定結果を用いて、電磁波吸収層2の比透磁率の実部と比誘電率の実部を大きな値の範囲でコントローするとともに、且つ比透磁率の虚部と比誘電率の虚部を大きな値の範囲でコントロールする手段の導出について説明する。
【0040】
(測定対象とするサンプル1及びサンプル2)
測定に用いるサンプル1は、第1実施形態に係る電磁波吸収層2と同じ構成を備えた電磁波吸収層を用いる。ただし、基材12としてフェライトを用いる。また、充填材13としてAuコロイド処理がされたBaTiO3を用いる。
具体的には、サンプル1の作製は、以下の(a)〜(e)の工程により行う。
(a)ウルトラアペックスミルを用い、BaTiO3を湿式粉砕する。尚、溶剤としては、1−プロパノールを用いる。BaTiO3と溶剤の分量比は1:3とする。更に、粉砕時間は20分間とする。
(b)粉砕後に溶剤を除去する。
(c)Auナノコロイドを作製する。具体的には、HAuCl4・4H2Oをクエン酸三ナトリウム水溶液で還元(80℃×30min)する。
(d)上記Auナノコロイドの溶液に粉砕されたBaTiO3を投入し、混合する。
(e)洗浄→遠心分離を繰り返し行った後、乾燥させ、Auコロイド処理がされたBaTiO3を作製する。
(f)作製されたAuコロイド処理BaTiO3とシアノエチルプルランとN−メチルピロリドン(NMP)を100:10:50の重量比で配合しスラリーを作製する。
(g)その後は、第1実施形態で説明した第1工程〜第6工程と同様に、フェライトからなる基材42に形成された長孔14、15、16にスラリーを充填し、充填材13を形成する。
以上より、サンプル1として用いる電磁波吸収層を製造する。
尚、比較例として誘電体(Auコロイド処理BaTiO3)を充填していない基材12のみから構成されるサンプル2も製造した。
【0041】
(サンプル測定1)
上記サンプル1について比透磁率の実部μr´と比誘電率の実部εr´を測定すると、図6に示す結果を得た。尚、比較例として誘電体(Auコロイド処理BaTiO3)を充填していないサンプル2の測定結果も示すこととする。また、測定周波数は60MHz〜200MHzとした。
【0042】
図6に示すように、サンプル1の比透磁率の実部μr´は、測定周波数に対してμr´=5〜12の間で変化する。一方、比誘電率の実部εr´は測定周波数に対して依存せず略固定の値となったが、誘電体を充電していないサンプル2がεr´≒7であるのに対して、誘電体を充電したサンプル1はεr´≒17まで上昇した。
従って、図6に示す測定結果を比較すると、基材12に対して誘電体を充填することにより、比誘電率の実部εr´の値をコントロールすることが可能となることが分かる。即ち、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整することによって、比透磁率の実部μr´と比誘電率の実部εr´について無反射条件を満たす材料定数の組み合わせ(図4、図5参照)を実現することが可能となる。また、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数の組み合わせについても実現することも可能となる。
【0043】
(サンプル測定2)
次に、上記サンプル1について比透磁率の虚部μr″と比誘電率の虚部εr″を測定すると、図7に示す結果を得た。尚、比較例として誘電体(Auコロイド処理BaTiO3)を充填していないサンプル2の測定結果も示すこととする。また、測定周波数は60MHz〜200MHzとした。
【0044】
図7に示すように、サンプル1の比透磁率の虚部μr″は、測定周波数に対してμr″=20〜40の間で変化する。一方、比誘電率の虚部εr″は誘電体を充電していないサンプル2がεr″=0〜0.2の値となるのに対して、誘電体を充電したサンプル1はεr″=1〜2の値まで上昇した。
従って、図7に示す測定結果を比較すると、誘電体を充電したとしても比透磁率の虚部μr″に比べて比誘電率の虚部εr″が非常に小さい。従って、無反射条件を満たす材料定数の組み合わせを実現する為には、比誘電率の虚部εr″を更に上昇させる必要があることが分かる。
【0045】
(測定対象とするサンプル3)
測定に用いるサンプル3は、サンプル1と同じく第1実施形態に係る電磁波吸収層2と同じ構成を備えた電磁波吸収層を用いる。ただし、基材12としてフェライトを用いる。また、充填材13としてAuコロイド処理がされたBaTiO3に導電材(例えばAg)を添加した材料を用いる。
尚、具体的なサンプル3の作製工程については、スラリーにAgを添加する点以外はサンプル1と同一であるので省略する。
【0046】
(サンプル測定3)
次に、上記サンプル3について比誘電率の虚部εr″を測定すると、図8に示す結果を得た。尚、比較例として誘電体にAgを添加していないサンプル1の測定結果も示すこととする。また、測定周波数は60MHz〜200MHzとした。
【0047】
図8に示すように、誘電体にAgを添加していないサンプル1の比誘電率の虚部εr″は、前記したようにεr″=1〜2の値が測定される。一方、誘電体にAgを添加したサンプル3の比誘電率の虚部εr″は、εr″=50〜100の値まで上昇した。
従って、図8に示す測定結果を比較すると、長孔14、15、16に充填する誘電体に対して導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の虚部εr″の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となることが分かる。即ち、添加する導電材の種類や添加量等を調整することによって、比透磁率の虚部μr″と比誘電率の虚部εr″について無反射条件を満たす材料定数の組み合わせ(図4、図5参照)を実現することが可能となる。また、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数の組み合わせについても実現することも可能となる。
【0048】
以上説明したように、第1実施形態に係る電磁波吸収体1は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層2と、電磁波反射層3とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層2を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
また、高磁性材料からなる基材12の内部において3方向に形成された計27本の各長孔14、15、16に、高誘電性材料からなる充填材13が充填されることによって電磁波吸収層2は構成されるので、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層2を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層2の比誘電率εrの実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層2の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0049】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る電磁波吸収体について図9に基づき説明する。
第2実施形態に係る電磁波吸収体は、前記した第1実施形態に係る電磁波吸収体1と同じく基本的に電磁波吸収層と電磁波反射層とから構成される(図1参照)。但し、第2実施形態の電磁波吸収層41の構成は、以下のように第1実施形態の電磁波吸収層2の構成と異なっている。図9は第2実施形態に係る電磁波吸収層41の構成について示した模式図である。
【0050】
図9に示すように、第2実施形態に係る電磁波吸収層41は、高誘電性材料で形成されるとともに電磁波吸収層41の外形を形成する基材42と、高磁性材料で形成されるとともに円柱形状を有する充填材43とが複合した複合体によって構成される。尚、第2実施形態では高誘電性材料としては、例えばチタン酸バリウム(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“90”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。また、高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。
【0051】
そして、第2実施形態に係る電磁波吸収層41では、第1実施形態と同じく、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。
具体的には、高誘電性材料からなる基材42の内部において3方向に形成された計27本の各長孔44、45、46に、高磁性材料からなる充填材43が充填されることによって電磁波吸収層41は構成される。
【0052】
また、各長孔44、45、46は図9のX軸方向に沿って形成された第1長孔44と、Y軸方向に沿って形成された第2長孔45と、Z軸方向に沿って形成された第3長孔46とからなり、互いに交差する。また、充填材43及び各長孔44、45、46は図9に示すような円柱形状に限らず、四角柱等の多角柱形状等で構成しても良い。更に、電磁波吸収層41の高誘電性材料と高磁性材料の体積比率は誘電率、透磁率の値を加味した体積比とすることが望ましい。
【0053】
次に、第2実施形態に係る電磁波吸収体の製造方法について説明する。
ここで、電磁波吸収体の製造方法としては、先ず電磁波吸収層41を所定の設計厚みで成形し、成形された電磁波吸収層41の一方の面に対して電磁波反射層3を接着し、各層を積層する。尚、電磁波反射層3の接着には、直接熱接着する方法又は接着剤で接着する方法等が用いられる。また、電磁波吸収層41を成形する方法としては、先ず、基材42を成形した後に、基材42に対して各長孔44、45、46を形成し、その後に充填材43を充填する方法が挙げられる。
【0054】
上記第2実施形態に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層41と、電磁波反射層とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層41を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
また、高誘電性材料からなる基材42の内部において3方向に形成された計27本の各長孔44、45、46に、高磁性材料からなる充填材43が充填されることによって電磁波吸収層41は構成されるので、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、第1実施形態と同様に、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や設計値等を調整したり、高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となる(図6〜図8参照)。従って、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層41を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層41の比誘電率εrの実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層41の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0055】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態に係る電磁波吸収体について図10に基づき説明する。
第3実施形態に係る電磁波吸収体は、前記した第1実施形態に係る電磁波吸収体1と同じく基本的に電磁波吸収層と電磁波反射層とから構成される(図1参照)。但し、第3実施形態の電磁波吸収層51の構成は、以下のように第1実施形態の電磁波吸収層2の構成と異なっている。図10は第3実施形態に係る電磁波吸収層51の構成について示した模式図である。
【0056】
図10に示すように、第3実施形態に係る電磁波吸収層51は、高誘電性材料で形成される第1紐状体52と、高磁性材料で形成される第2紐状体53とが複合した複合体によって構成される。尚、第3実施形態では高誘電性材料としては、例えばチタン酸バリウム(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“90”、比透磁率μrの実部の値“1”)や水(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“80.4”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。また、高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。尚、第2紐状体53として特に水を用いる場合には、寒天やポリアクリル酸ナトリウム等の高い吸水性及び水分保持性能を有する材料に水を吸水させたゲル状体を用いることが望ましい。
【0057】
そして、第3実施形態に係る電磁波吸収層51では、第1実施形態と同じく、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。具体的には、複数の第1紐状体52と第2紐状体53とが互いに三次元方向に絡み合った状態で固定されることによって電磁波吸収層51は構成される。更に、電磁波吸収層51の高誘電性材料と高磁性材料の体積比率は誘電率、透磁率の値を加味した体積比とすることが望ましい。
【0058】
上記第3実施形態に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層51と、電磁波反射層とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層41を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
また、高誘電性材料で形成された第1紐状体52と、高磁性材料で形成された第2紐状体53とが複数混合されることによって電磁波吸収層51は構成されるので、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、第1実施形態と同様に、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や設計値等を調整したり、高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となる(図6〜図8参照)。従って、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層51を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層51の比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層51の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0059】
〔第4実施形態、第5実施形態〕
次に、第4実施形態及び第5実施形態に係る電磁波吸収体について図11及び図12に基づき説明する。
第4実施形態及び第5実施形態に係る電磁波吸収体は、前記した第1実施形態に係る電磁波吸収体1と同じく基本的に電磁波吸収層と電磁波反射層とから構成される(図1参照)。但し、第4実施形態及び第5実施形態の電磁波吸収層61、71の構成は、以下のように第1実施形態の電磁波吸収層2の構成と異なっている。図11は第4実施形態に係る電磁波吸収層61の構成について示した模式図である。また、図12は第5実施形態に係る電磁波吸収層71の構成について示した模式図である。
【0060】
図11に示すように、第4実施形態に係る電磁波吸収層61は、高誘電性材料と高磁性材料とが複合した複合体によって構成される。同じく図12に示すように、第5実施形態に係る電磁波吸収層71は、高誘電性材料と高磁性材料とが複合した複合体によって構成される。
尚、第4実施形態及び第5実施形態では高誘電性材料としては、例えばチタン酸バリウム(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“90”、比透磁率μrの実部の値“1”)や水(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“80.4”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。また、高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。尚、高誘電性材料として特に水を用いる場合には、寒天やポリアクリル酸ナトリウム等の高い吸水性及び水分保持性能を有する材料に水を吸水させたゲル状体を用いることが望ましい。
【0061】
そして、第4実施形態に係る電磁波吸収層61及び第5実施形態に係る電磁波吸収層71では、第1実施形態と同じく、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。
また、電磁波吸収層61及び電磁波吸収層71には図9及び図10に示すように、三次元網目状に連続的に繋がる空隙を備える。従って、高誘電性材料として特に水を用いる場合には、この空隙に水を充填させることによって高誘電性材料を三次元的に連続した構造とすることが可能となる。
【0062】
上記第4実施形態に係る電磁波吸収体及び第5実施形態に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層51、61と、電磁波反射層とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層51、61を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、第1実施形態と同様に、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や設計値等を調整したり、高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となる(図6〜図8参照)。従って、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層61、71を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層61、71の比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層61、71の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0063】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、第1実施形態及び第2実施形態では基材12、42に形成する長孔の数を、一方向当たり9本としているが、9本より多く又は少なくしても良い。また、高誘電性材料及び高磁性材料として用いる材料は上記実施形態に記載した材料以外であっても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 電磁波吸収体
2、41、51、61、71 電磁波吸収層
3 電磁波反射層
12、42 基材
13、43 充填材
14、15、16、44、45、46 長孔
52 第1紐状体
53 第2紐状体
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の電子部品から発せられる電磁波を薄層形状で吸収可能とする電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動モータやコンピュータ等の電子機器から発せられる電磁波によって、他の電子機器の正常な動作を妨げる事態が少なからず生じていた。そこで、従来より電磁波を吸収する吸収体によってそれらの電子機器を囲ったり、隔壁を形成することによって、電磁波による悪影響を防止する方法が行われていた。
【0003】
また、従来用いられていた電磁波吸収体の一つとして、吸収体の表面上において無反射となる無反射条件を利用したλ/4型電磁波吸収体がある。この無反射条件を利用したλ/4型電磁波吸収体では、例えば金属製の電磁波反射層の前面に所定の厚みの電磁波吸収材からなる電磁波吸収層を積層した構造とする。そして、電磁波が入射した際に、電磁波吸収体の特性インピーダンスと空気中の特性インピーダンスとが整合するように電磁波吸収層の厚みや材料定数を設計する。それによって、見かけ上電磁波が反射されなくなる。この状態は無反射状態と呼ばれる(特開2003−133784号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−133784号公報(第3頁〜第5頁、図1〜図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電磁波吸収体を形成する材料の材料定数(例えば、比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)、比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″))が所定の関係を満たすときに、上記無反射状態となる条件(以下、無反射条件という)を実現することができる。具体的には、電磁波の波長λ、電磁波吸収層の厚さd、材料の材料定数(比誘電率εr、比透磁率μr)が以下の数式1を満たす場合に無反射条件を実現する。
【0006】
【数1】
【0007】
そして、上記数式1を満たす電磁波吸収体を形成する材料の材料定数は、例えばカーボンブラックを配合した電波吸収体の場合、適切なバインダー樹脂にカーボンブラックの配合量を適切に選択することによって達成する必要がある。
この場合において、適切なバインダー樹脂にカーボンブラックの配合量を適切に選択することによって無反射条件を満足する電磁波吸収体は実現することが可能であるが、薄層の電磁波吸収体を実現することは容易ではなかった。
【0008】
即ち、無反射条件は上記数式1に示すように電磁波吸収層の厚さdと電磁波の波長λとの比:d/λによって異なる。そして、電磁波の周波数720MHzで電磁波吸収層の厚さ3mm(d/λ=0.0072)の無反射条件を満足するような薄層領域では、電磁波吸収体を形成する材料の材料定数(特に比誘電率の実部)を大きな値で確保することが必要となることがその理由である。
【0009】
ここで、図13は、電波吸収体として誘電材料(比透磁率≒1)を用いた場合において、比誘電率に対する無反射曲線及び20dB曲線と、電磁波吸収体に用いるCの比誘電率をプロットした図を示す。尚、無反射曲線は、無反射条件を満たす為の電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数を示す曲線である。即ち、電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数が無反射曲線上に一致する場合に無反射条件を満たすこととなる。また、20dB曲線は、20dBの電磁波吸収特性を満たす範囲の電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数を示す曲線である。即ち、電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数が20dB曲線上に一致する場合に20dBの電磁波吸収特性を満たすこととなる。また、20dB曲線に囲まれた範囲は、20dB以上の電磁波吸収特性を満たす電磁波吸収体を形成する電磁波吸収材料の材料定数の範囲を示す。
更に、図13では、d/λ=0.0072となる点も示す。その結果、図13に示すように無反射曲線上においてd/λ=0.0072となる比誘電率はε=1206−j44.2となる。また、20dB曲線上においてd/λ=0.0072となる比誘電率はε=1205−j36.2又は1206−j54.0となる。そして、現状のCの材料定数では、含有量を増加させたとしても比誘電率の虚部の値に対して実部の値が大きくならないので、無反射曲線上又は20dB曲線上のd/λ=0.0072となる点に一致させるのは困難である。
【0010】
以上のように、無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲(20dB以上の電磁波吸収特性を達成する為の条件)を満たす薄層の電磁波吸収体を実現する為には、電磁波吸収体を形成する材料の材料定数を大きな値の範囲でコントロールすることが必要である。しかしながら、従来の電磁波吸収体では材料定数を大きな値の範囲でコントロールすることが十分にできず、無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することは非常に困難であった。
【0011】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する3次元連続体構造を用いて電磁波吸収層を形成することにより、薄層であっても高い電磁波吸収特性を実現した電磁波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とが複合された複合体からなるとともに、前記複合体中において前記高誘電性材料と前記高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層と、前記電磁波吸収層の一方の面に対して積層され、入射された電磁波を反射する電磁波反射層と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に係る電磁波吸収体は、請求項1に記載の電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層の比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部は、電磁波が前記電磁波吸収層の他方の面から入射したときに、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たすことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に係る電磁波吸収体は、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層は、前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の一方で成形され、内部に複数の長孔を備えた基材と、前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の他方で成形され、前記長孔に充填された充填材と、を備え、前記長孔は、所定方向に沿って形成された第1長孔と、前記第1長孔と交差する第2長孔と、前記第1長孔及び前記第2長孔と交差する第3長孔と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に係る電磁波吸収体は、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体において、前記電磁波吸収層は、前記高誘電性材料で形成された第1紐状体と、前記高磁性材料で形成された第2紐状体と、を備え、前記第1紐状体と前記第2紐状体とが複数混合された構造を有することを特徴とする。
【0016】
更に、請求項5に係る電磁波吸収体は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電磁波吸収体において、前記高誘電性材料に導電材を添加したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
前記構成を有する請求項1に記載の電磁波吸収体によれば、電磁波吸収層を高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造とすることにより、電磁波吸収層を形成する材料の材料定数を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0018】
また、請求項2に記載の電磁波吸収体によれば、電磁波吸収層を形成する材料の材料定数として、電磁波吸収層の比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることにより、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数の電磁波吸収層を形成することが可能となる。その結果、20dB以上の電磁波吸収特性を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0019】
また、請求項3に記載の電磁波吸収体によれば、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。
【0020】
また、請求項4に記載の電磁波吸収体によれば、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。
【0021】
更に、請求項5に記載の電磁波吸収体によれば、電磁波吸収層の比誘電率の虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値をコントロールすることが可能となる。従って、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態に係る電磁波吸収体について示した説明図である。
【図2】第1実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図3】比較例として、高誘電性材料と高磁性材料と導電性材料とを粒子単位で混合して製造した電磁波吸収シートを示した図である。
【図4】設計周波数を720MHzとし、電磁波吸収層の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部と虚部、比透磁率μrの実部と虚部が無反射条件を満たす点をグラフ上にプロットした図である。
【図5】設計周波数を720MHzとし、電磁波吸収層の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部と虚部、比透磁率μrの実部と虚部が無反射条件を満たす値の組み合わせの例を複数示した図である。
【図6】サンプル1とサンプル2について比透磁率の実部μr´と比誘電率の実部εr´の測定結果を示した図である。
【図7】サンプル1とサンプル2について比透磁率の虚部μr″と比誘電率の虚部εr″の測定結果を示した図である。
【図8】サンプル1とサンプル3について比誘電率の虚部εr″の測定結果を示した図である。
【図9】第2実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図10】第3実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図11】第4実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図12】第5実施形態に係る電磁波吸収層の構成について示した模式図である。
【図13】電波吸収体として誘電材料を用いた場合において、比誘電率に対する無反射曲線及び20dB曲線と、電磁波吸収体に用いるCの比誘電率をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る電磁波吸収体について具体化した第1乃至第5実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
先ず、第1実施形態に係る電磁波吸収体1について図1に基づき説明する。図1は第1実施形態に係る電磁波吸収体1について示した説明図である。
【0025】
図1に示すように、第1実施形態に係る電磁波吸収体1は、基本的に電磁波吸収層2と電磁波反射層3とから構成される。
【0026】
電磁波吸収層2は、後述するように無反射条件或いは無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数を備えた電磁波吸収材料により成形される。特に、第1実施形態では高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する複合体を電磁波吸収材料とする。また、電磁波吸収層2の厚みについては、先ず、電磁波吸収層2の比誘電率及び比透磁率に対応するd/λの値を無反射曲線又は20dB曲線との対応で求め、設計周波数(例えば720MHz)に応じたdの値を設計厚みとする。特に、算出されたdの値の±数%の範囲内で電磁波吸収層2を作製することが望ましい。尚、電磁波吸収層2の詳細については後述する。
【0027】
一方、電磁波反射層3は、入射された電磁波を反射する反射手段として用いられる層であり、アルミニウム、銅、鉄やステンレス等の金属板や、高分子フィルムに真空蒸着やめっきで上記金属の薄膜を形成したもの、炭素繊維等の導電材で樹脂等を補強したものなどにより成形される。尚、電磁波吸収層2と電磁波反射層3との積層方法は、例えば、直接熱接着する方法、電磁波吸収特性に影響を与えない程度の薄い接着剤で接着する方法等がある。また、電磁波吸収体1に対して入射する電磁波の入射方向4は、電磁波反射層3が積層されている面と反対側の面から入射するように設計する。但し、図1では電磁波の入射方向4は、電磁波反射層3に対して垂直となっているが、入射方向は電磁波反射層3に対して垂直でなくても良い。
【0028】
次に、電磁波吸収体1を形成する電磁波吸収層2について、図2を用いてより詳細に説明する。図2は第1実施形態に係る電磁波吸収層2の構成について示した模式図である。
電磁波吸収層2は、高磁性材料で形成されるとともに電磁波吸収層2の外形を形成する基材12と、高誘電性材料で形成されるとともに円柱形状を有する充填材13とが複合した複合体によって構成される。尚、第1実施形態では高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。また、高誘電性材料としては、例えば水(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“80.4”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。尚、充填材13として水を用いる場合には、寒天やポリアクリル酸ナトリウム等の高い吸水性及び水分保持性能を有する材料に水を吸水させたゲル状体を用いることが望ましい。
【0029】
尚、基材12と充填材13は以下の材料の組み合わせによって構成しても良い。
(a)“多孔質フェライト”からなる基材12と“導電ゲル(ゲル状体にNaCl等の電解質を溶解させたもの)”からなる充填材13。
(b)“多孔質フェライト”からなる基材12と“導電フィラーを混練したBaTiO3”からなる充填材13。
【0030】
そして、第1実施形態に係る電磁波吸収層2では、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。ここで、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造とは、どのような位置でどのような角度により構造体(第1実施形態では電磁波吸収層2)を切断したとしても、その切断面において高誘電性材料と高磁性材料とが互いに接触する構造をいう。
具体的には、高磁性材料からなる基材12の内部において3方向に形成された計27本の各長孔14、15、16に、高誘電性材料からなる充填材13が充填されることによって電磁波吸収層2は構成される。
【0031】
また、各長孔14、15、16は図2のX軸方向に沿って形成された第1長孔14と、Y軸方向に沿って形成された第2長孔15と、Z軸方向に沿って形成された第3長孔16とからなり、互いに交差する。また、充填材13及び各長孔14、15、16は図2に示すような円柱形状に限らず、四角柱等の多角柱形状等で構成しても良い。更に、電磁波吸収層2の高誘電性材料と高磁性材料の体積比率は比誘電率、比透磁率の値を加味した体積比とすることが望ましい。
【0032】
次に、上記図1に示す第1実施形態に係る電磁波吸収体1の製造方法について説明する。
ここで、電磁波吸収体1の製造方法としては、先ず電磁波吸収層2を所定の設計厚みで成形し、成形された電磁波吸収層2の一方の面に対して電磁波反射層3を接着し、各層を積層する。尚、電磁波反射層3の接着には、直接熱接着する方法又は接着剤で接着する方法等が用いられる。また、電磁波吸収層2を成形する方法としては、先ず基材12を成形した後に、基材12に対して各長孔14、15、16を形成し、その後に充填材13を充填する方法が挙げられる。
【0033】
そして、上記製造方法によって作製された電磁波吸収体1は、電磁波吸収層2において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続する構造となる。その結果、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、高誘電性材料と高磁性材料を樹脂中に配合し、粒子単位で混合して電磁波吸収層を製造する場合と比較して、電磁波吸収体の比誘電率や比透磁率が大幅に低下することが無い。
【0034】
ここで、図3は比較例として、高誘電性材料と高磁性材料と導電性材料とを粒子単位で混合して製造した電磁波吸収層21を示した図である。
図3に示すように、例えば、フェライト等の高磁性材料粒子22と、チタン酸バリウム等の高誘電性材料粒子23と、導電性材料である炭素粒子24とを樹脂25中に混合することによって製造した電磁波吸収層21は、混合前の高磁性材料や導電性材料と比較して比誘電率や比透磁率が大幅に低下する。例えば、高誘電性材料としてチタン酸バリウム、高磁性材料としてフェライトが用いられた場合では、電磁波吸収層21の比誘電率εrは約1/100まで低下し、比透磁率μrについても約1/100まで低下することとなる。
従って、このように粒子単位で混合した電磁波吸収層21では、比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることができない。それにより、電磁波吸収シートとして十分な電磁波吸収特性を得る為には一定以上のシート厚みが必要となり、薄膜化が困難となる。それに対して、第1実施形態の電磁波吸収体1では、前記したように電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されず、比誘電率や比透磁率が大きく低下することが無い。その結果、後述のように比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能であり、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
【0035】
続いて、図1及び図2に示すように高誘電性材料及び高磁性材料を三次元的に連続させた構造を有する電磁波吸収層2を備えた電磁波吸収体1に関する電磁波吸収特性について以下に説明する。
【0036】
ここで、図4は設計周波数を720MHzとし、電磁波吸収層2の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)及び比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″)が無反射条件を満たす点をグラフ上にプロットした図である。また、図5は同じく電磁波吸収層2の設計厚みを3mm(d/λ=0.0072)とした場合において、比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)及び比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″)が無反射条件を満たす値の組み合わせの例を複数示した図である。
ここで、無反射条件は、前述したように電磁波が入射した際に、電磁波吸収体の特性インピーダンスと空気中の特性インピーダンスとが整合することにより見かけ上電磁波が反射されなくなる無反射状態となる為の条件である。具体的には、電磁波の波長λ、電磁波吸収層の厚さd、材料の材料定数(比誘電率εr、比透磁率μr)が前記数式1を満たす場合に無反射条件を実現する。
尚、図4において無反射曲線はプロットされた各点に相当する。また、無反射曲線の20dB吸収範囲はプロットされた各点から所定距離内の範囲となる。
【0037】
図4及び図5を参照すると、無反射条件を満たす材料定数の組み合わせの内、各値が比較的小さくなる組み合わせの一例として、(μr´、μr″、εr´、εr″)=(3.3、21.7、10、0)がある。ここで、720MHzで比透磁率の虚部の値を20程度に確保する電磁波吸収材料としては、通常高周波高損失フェライト(Ni、Cu系フェライト)をバルク状態で用いたものがあるが、フェライトのバルク体では比透磁率の値を大きな値にコントロールできたとしても、比誘電率を大きな値で確保することができない。
一方、図3に示した高誘電性材料と高磁性材料と導電性材料とを粒子単位で混合する方式では、比誘電率や比透磁率が必要とする値の1/10以下の値となってしまう。
一方、誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する第1実施形態の電磁波吸収体1では、上記の無反射条件を満たす材料定数の組み合わせを実現することが可能である。以下に、その手段について詳細に説明する。
【0038】
上記の無反射条件を満たす材料定数の組み合わせを実現する為には、電磁波吸収層2の比誘電率εrの実部(εr´)と虚部(εr″)、比透磁率μrの実部(μr´)と虚部(μr″)を大きな値の範囲でコントロールすることが必要となる。
【0039】
以下に、サンプル1〜3の測定結果を用いて、電磁波吸収層2の比透磁率の実部と比誘電率の実部を大きな値の範囲でコントローするとともに、且つ比透磁率の虚部と比誘電率の虚部を大きな値の範囲でコントロールする手段の導出について説明する。
【0040】
(測定対象とするサンプル1及びサンプル2)
測定に用いるサンプル1は、第1実施形態に係る電磁波吸収層2と同じ構成を備えた電磁波吸収層を用いる。ただし、基材12としてフェライトを用いる。また、充填材13としてAuコロイド処理がされたBaTiO3を用いる。
具体的には、サンプル1の作製は、以下の(a)〜(e)の工程により行う。
(a)ウルトラアペックスミルを用い、BaTiO3を湿式粉砕する。尚、溶剤としては、1−プロパノールを用いる。BaTiO3と溶剤の分量比は1:3とする。更に、粉砕時間は20分間とする。
(b)粉砕後に溶剤を除去する。
(c)Auナノコロイドを作製する。具体的には、HAuCl4・4H2Oをクエン酸三ナトリウム水溶液で還元(80℃×30min)する。
(d)上記Auナノコロイドの溶液に粉砕されたBaTiO3を投入し、混合する。
(e)洗浄→遠心分離を繰り返し行った後、乾燥させ、Auコロイド処理がされたBaTiO3を作製する。
(f)作製されたAuコロイド処理BaTiO3とシアノエチルプルランとN−メチルピロリドン(NMP)を100:10:50の重量比で配合しスラリーを作製する。
(g)その後は、第1実施形態で説明した第1工程〜第6工程と同様に、フェライトからなる基材42に形成された長孔14、15、16にスラリーを充填し、充填材13を形成する。
以上より、サンプル1として用いる電磁波吸収層を製造する。
尚、比較例として誘電体(Auコロイド処理BaTiO3)を充填していない基材12のみから構成されるサンプル2も製造した。
【0041】
(サンプル測定1)
上記サンプル1について比透磁率の実部μr´と比誘電率の実部εr´を測定すると、図6に示す結果を得た。尚、比較例として誘電体(Auコロイド処理BaTiO3)を充填していないサンプル2の測定結果も示すこととする。また、測定周波数は60MHz〜200MHzとした。
【0042】
図6に示すように、サンプル1の比透磁率の実部μr´は、測定周波数に対してμr´=5〜12の間で変化する。一方、比誘電率の実部εr´は測定周波数に対して依存せず略固定の値となったが、誘電体を充電していないサンプル2がεr´≒7であるのに対して、誘電体を充電したサンプル1はεr´≒17まで上昇した。
従って、図6に示す測定結果を比較すると、基材12に対して誘電体を充填することにより、比誘電率の実部εr´の値をコントロールすることが可能となることが分かる。即ち、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整することによって、比透磁率の実部μr´と比誘電率の実部εr´について無反射条件を満たす材料定数の組み合わせ(図4、図5参照)を実現することが可能となる。また、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数の組み合わせについても実現することも可能となる。
【0043】
(サンプル測定2)
次に、上記サンプル1について比透磁率の虚部μr″と比誘電率の虚部εr″を測定すると、図7に示す結果を得た。尚、比較例として誘電体(Auコロイド処理BaTiO3)を充填していないサンプル2の測定結果も示すこととする。また、測定周波数は60MHz〜200MHzとした。
【0044】
図7に示すように、サンプル1の比透磁率の虚部μr″は、測定周波数に対してμr″=20〜40の間で変化する。一方、比誘電率の虚部εr″は誘電体を充電していないサンプル2がεr″=0〜0.2の値となるのに対して、誘電体を充電したサンプル1はεr″=1〜2の値まで上昇した。
従って、図7に示す測定結果を比較すると、誘電体を充電したとしても比透磁率の虚部μr″に比べて比誘電率の虚部εr″が非常に小さい。従って、無反射条件を満たす材料定数の組み合わせを実現する為には、比誘電率の虚部εr″を更に上昇させる必要があることが分かる。
【0045】
(測定対象とするサンプル3)
測定に用いるサンプル3は、サンプル1と同じく第1実施形態に係る電磁波吸収層2と同じ構成を備えた電磁波吸収層を用いる。ただし、基材12としてフェライトを用いる。また、充填材13としてAuコロイド処理がされたBaTiO3に導電材(例えばAg)を添加した材料を用いる。
尚、具体的なサンプル3の作製工程については、スラリーにAgを添加する点以外はサンプル1と同一であるので省略する。
【0046】
(サンプル測定3)
次に、上記サンプル3について比誘電率の虚部εr″を測定すると、図8に示す結果を得た。尚、比較例として誘電体にAgを添加していないサンプル1の測定結果も示すこととする。また、測定周波数は60MHz〜200MHzとした。
【0047】
図8に示すように、誘電体にAgを添加していないサンプル1の比誘電率の虚部εr″は、前記したようにεr″=1〜2の値が測定される。一方、誘電体にAgを添加したサンプル3の比誘電率の虚部εr″は、εr″=50〜100の値まで上昇した。
従って、図8に示す測定結果を比較すると、長孔14、15、16に充填する誘電体に対して導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の虚部εr″の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となることが分かる。即ち、添加する導電材の種類や添加量等を調整することによって、比透磁率の虚部μr″と比誘電率の虚部εr″について無反射条件を満たす材料定数の組み合わせ(図4、図5参照)を実現することが可能となる。また、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす材料定数の組み合わせについても実現することも可能となる。
【0048】
以上説明したように、第1実施形態に係る電磁波吸収体1は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層2と、電磁波反射層3とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層2を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
また、高磁性材料からなる基材12の内部において3方向に形成された計27本の各長孔14、15、16に、高誘電性材料からなる充填材13が充填されることによって電磁波吸収層2は構成されるので、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層2を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層2の比誘電率εrの実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層2の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0049】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る電磁波吸収体について図9に基づき説明する。
第2実施形態に係る電磁波吸収体は、前記した第1実施形態に係る電磁波吸収体1と同じく基本的に電磁波吸収層と電磁波反射層とから構成される(図1参照)。但し、第2実施形態の電磁波吸収層41の構成は、以下のように第1実施形態の電磁波吸収層2の構成と異なっている。図9は第2実施形態に係る電磁波吸収層41の構成について示した模式図である。
【0050】
図9に示すように、第2実施形態に係る電磁波吸収層41は、高誘電性材料で形成されるとともに電磁波吸収層41の外形を形成する基材42と、高磁性材料で形成されるとともに円柱形状を有する充填材43とが複合した複合体によって構成される。尚、第2実施形態では高誘電性材料としては、例えばチタン酸バリウム(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“90”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。また、高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。
【0051】
そして、第2実施形態に係る電磁波吸収層41では、第1実施形態と同じく、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。
具体的には、高誘電性材料からなる基材42の内部において3方向に形成された計27本の各長孔44、45、46に、高磁性材料からなる充填材43が充填されることによって電磁波吸収層41は構成される。
【0052】
また、各長孔44、45、46は図9のX軸方向に沿って形成された第1長孔44と、Y軸方向に沿って形成された第2長孔45と、Z軸方向に沿って形成された第3長孔46とからなり、互いに交差する。また、充填材43及び各長孔44、45、46は図9に示すような円柱形状に限らず、四角柱等の多角柱形状等で構成しても良い。更に、電磁波吸収層41の高誘電性材料と高磁性材料の体積比率は誘電率、透磁率の値を加味した体積比とすることが望ましい。
【0053】
次に、第2実施形態に係る電磁波吸収体の製造方法について説明する。
ここで、電磁波吸収体の製造方法としては、先ず電磁波吸収層41を所定の設計厚みで成形し、成形された電磁波吸収層41の一方の面に対して電磁波反射層3を接着し、各層を積層する。尚、電磁波反射層3の接着には、直接熱接着する方法又は接着剤で接着する方法等が用いられる。また、電磁波吸収層41を成形する方法としては、先ず、基材42を成形した後に、基材42に対して各長孔44、45、46を形成し、その後に充填材43を充填する方法が挙げられる。
【0054】
上記第2実施形態に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層41と、電磁波反射層とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層41を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
また、高誘電性材料からなる基材42の内部において3方向に形成された計27本の各長孔44、45、46に、高磁性材料からなる充填材43が充填されることによって電磁波吸収層41は構成されるので、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、第1実施形態と同様に、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や設計値等を調整したり、高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となる(図6〜図8参照)。従って、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層41を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層41の比誘電率εrの実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層41の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0055】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態に係る電磁波吸収体について図10に基づき説明する。
第3実施形態に係る電磁波吸収体は、前記した第1実施形態に係る電磁波吸収体1と同じく基本的に電磁波吸収層と電磁波反射層とから構成される(図1参照)。但し、第3実施形態の電磁波吸収層51の構成は、以下のように第1実施形態の電磁波吸収層2の構成と異なっている。図10は第3実施形態に係る電磁波吸収層51の構成について示した模式図である。
【0056】
図10に示すように、第3実施形態に係る電磁波吸収層51は、高誘電性材料で形成される第1紐状体52と、高磁性材料で形成される第2紐状体53とが複合した複合体によって構成される。尚、第3実施形態では高誘電性材料としては、例えばチタン酸バリウム(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“90”、比透磁率μrの実部の値“1”)や水(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“80.4”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。また、高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。尚、第2紐状体53として特に水を用いる場合には、寒天やポリアクリル酸ナトリウム等の高い吸水性及び水分保持性能を有する材料に水を吸水させたゲル状体を用いることが望ましい。
【0057】
そして、第3実施形態に係る電磁波吸収層51では、第1実施形態と同じく、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。具体的には、複数の第1紐状体52と第2紐状体53とが互いに三次元方向に絡み合った状態で固定されることによって電磁波吸収層51は構成される。更に、電磁波吸収層51の高誘電性材料と高磁性材料の体積比率は誘電率、透磁率の値を加味した体積比とすることが望ましい。
【0058】
上記第3実施形態に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層51と、電磁波反射層とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層41を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
また、高誘電性材料で形成された第1紐状体52と、高磁性材料で形成された第2紐状体53とが複数混合されることによって電磁波吸収層51は構成されるので、簡易な構造により高誘電性材料と高磁性材料とをそれぞれ三次元的に連続させた複合体を成形することが可能である。従って、製造が容易となり、生産性に優れる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、第1実施形態と同様に、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や設計値等を調整したり、高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となる(図6〜図8参照)。従って、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層51を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層51の比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層51の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0059】
〔第4実施形態、第5実施形態〕
次に、第4実施形態及び第5実施形態に係る電磁波吸収体について図11及び図12に基づき説明する。
第4実施形態及び第5実施形態に係る電磁波吸収体は、前記した第1実施形態に係る電磁波吸収体1と同じく基本的に電磁波吸収層と電磁波反射層とから構成される(図1参照)。但し、第4実施形態及び第5実施形態の電磁波吸収層61、71の構成は、以下のように第1実施形態の電磁波吸収層2の構成と異なっている。図11は第4実施形態に係る電磁波吸収層61の構成について示した模式図である。また、図12は第5実施形態に係る電磁波吸収層71の構成について示した模式図である。
【0060】
図11に示すように、第4実施形態に係る電磁波吸収層61は、高誘電性材料と高磁性材料とが複合した複合体によって構成される。同じく図12に示すように、第5実施形態に係る電磁波吸収層71は、高誘電性材料と高磁性材料とが複合した複合体によって構成される。
尚、第4実施形態及び第5実施形態では高誘電性材料としては、例えばチタン酸バリウム(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“90”、比透磁率μrの実部の値“1”)や水(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“80.4”、比透磁率μrの実部の値“1”)が用いられる。また、高磁性材料としては、例えばフェライト(測定周波数45MHzにおける比誘電率εrの実部の値“2”、比透磁率μrの実部の値“90”)が用いられる。尚、高誘電性材料として特に水を用いる場合には、寒天やポリアクリル酸ナトリウム等の高い吸水性及び水分保持性能を有する材料に水を吸水させたゲル状体を用いることが望ましい。
【0061】
そして、第4実施形態に係る電磁波吸収層61及び第5実施形態に係る電磁波吸収層71では、第1実施形態と同じく、その複合体中において高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する。
また、電磁波吸収層61及び電磁波吸収層71には図9及び図10に示すように、三次元網目状に連続的に繋がる空隙を備える。従って、高誘電性材料として特に水を用いる場合には、この空隙に水を充填させることによって高誘電性材料を三次元的に連続した構造とすることが可能となる。
【0062】
上記第4実施形態に係る電磁波吸収体及び第5実施形態に係る電磁波吸収体は、高誘電性材料と高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層51、61と、電磁波反射層とが積層されることにより構成されるので、電磁波吸収層51、61を形成する材料の材料定数である比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。その結果、低周波の電磁波(例えば720MHz)に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層(例えば3mm)の電磁波吸収体を実現することが可能となる。また、高誘電性材料と高磁性材料とを三次元的に連続させた複合構造とすることによって、電磁波の磁界成分及び電界成分の振動方向に対しても高誘電性材料及び高磁性材料が連続するので、磁気回路及び電気回路が分断されることが無い。従って、比誘電率εrや比透磁率μrが大きく低下することがなく、薄層の電磁波吸収シートとしても高い電磁波吸収特性を備える。
また、第1実施形態と同様に、高磁性材料及び高誘電材料の各材料定数や設計値等を調整したり、高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加することにより、比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、その値を制御することが可能となる(図6〜図8参照)。従って、材料定数や誘電体の充填率の設計値等を調整したり、電磁波吸収層61、71を構成する高誘電性材料に導電材(例えばAg)を添加する場合に、添加する導電材の種類や添加量を調整することによって、電磁波吸収層61、71の比誘電率の実部や虚部の値を大きく上昇させるとともに、電磁波吸収層61、71の比誘電率εrの実部と虚部及び比透磁率μrの実部と虚部を大きな値の範囲でコントロールすることが可能となる。従って、低周波の電磁波に対しても無反射条件や無反射曲線の20dB吸収範囲を満たす薄層の電磁波吸収体を実現することが可能となる。
【0063】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、第1実施形態及び第2実施形態では基材12、42に形成する長孔の数を、一方向当たり9本としているが、9本より多く又は少なくしても良い。また、高誘電性材料及び高磁性材料として用いる材料は上記実施形態に記載した材料以外であっても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 電磁波吸収体
2、41、51、61、71 電磁波吸収層
3 電磁波反射層
12、42 基材
13、43 充填材
14、15、16、44、45、46 長孔
52 第1紐状体
53 第2紐状体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高誘電性材料と高磁性材料とが複合された複合体からなるとともに、前記複合体中において前記高誘電性材料と前記高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層と、
前記電磁波吸収層の一方の面に対して積層され、入射された電磁波を反射する電磁波反射層と、を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
前記電磁波吸収層の比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部は、電磁波が前記電磁波吸収層の他方の面から入射したときに、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記電磁波吸収層は、
前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の一方で成形され、内部に複数の長孔を備えた基材と、
前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の他方で成形され、前記長孔に充填された充填材と、を備え、
前記長孔は、
所定方向に沿って形成された第1長孔と、
前記第1長孔と交差する第2長孔と、
前記第1長孔及び前記第2長孔と交差する第3長孔と、を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記電磁波吸収層は、
前記高誘電性材料で形成された第1紐状体と、
前記高磁性材料で形成された第2紐状体と、を備え、
前記第1紐状体と前記第2紐状体とが複数混合された構造を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記高誘電性材料に導電材を添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【請求項1】
高誘電性材料と高磁性材料とが複合された複合体からなるとともに、前記複合体中において前記高誘電性材料と前記高磁性材料とがそれぞれ三次元的に連続した構造を有する電磁波吸収層と、
前記電磁波吸収層の一方の面に対して積層され、入射された電磁波を反射する電磁波反射層と、を有することを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
前記電磁波吸収層の比誘電率の実部と虚部及び比透磁率の実部と虚部は、電磁波が前記電磁波吸収層の他方の面から入射したときに、無反射曲線の20dB吸収範囲を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記電磁波吸収層は、
前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の一方で成形され、内部に複数の長孔を備えた基材と、
前記高誘電性材料及び前記高磁性材料の他方で成形され、前記長孔に充填された充填材と、を備え、
前記長孔は、
所定方向に沿って形成された第1長孔と、
前記第1長孔と交差する第2長孔と、
前記第1長孔及び前記第2長孔と交差する第3長孔と、を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記電磁波吸収層は、
前記高誘電性材料で形成された第1紐状体と、
前記高磁性材料で形成された第2紐状体と、を備え、
前記第1紐状体と前記第2紐状体とが複数混合された構造を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記高誘電性材料に導電材を添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電磁波吸収体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図13】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−186801(P2010−186801A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28493(P2009−28493)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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