電磁波放射体・電磁波吸収体
【課題】大きなピークや傾斜をもたない平坦なスペクトルを示す、換言すれば、より一層広い波長範囲に渡って一様に高い放射率特性を得ることができる電磁波放射体を提供する。
【解決手段】規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波放射体であって、前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、特定の条件で定義されるものとすること。
【解決手段】規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波放射体であって、前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、特定の条件で定義されるものとすること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波放射体・電磁波吸収体に関し、特に基板の表面と交差する向き(好ましくは法線方向)に配向した複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTとも呼ぶ)の集合体で構成された電磁波放射体・電磁波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先ず、本発明における技術用語について以下に定義する。
放射および電磁波:
物質の熱エネルギー状態(熱力学温度)に応じて放出される電磁波であり、いわゆる熱放射(熱ふく射)を指す。なお、ここでいう電磁波はマイクロ波やラジオ波などに限定されず、紫外、可視、赤外などの波長領域の光線も含んだいわゆる広義の電磁波である。
【0003】
電磁波放射体:
電磁波を放射する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体であり、粉体、シート、基板など形状は問わない。電磁波放射体として好適であるのは、可能な限り広い波長範囲にわたって高い放射率を示す材料である。
【0004】
電磁波吸収体:
電磁波を吸収する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体であり、粉体、シート、基板など形状は問わない。電磁波吸収体として好適であるのは、可能な限り広い波長範囲にわたって高い吸収率を示す材料である。
【0005】
放射率:
実在する物体のある温度における熱放射強度と、同じ温度の理想的な黒体の放射強度との比であり、これをもって実在する物体が示す熱放射性能の指標とする。即ち、放射率εは次式で与えられる。
【0006】
ε=W/WB
但し、W:実在の物体の放射強度、WB:黒体の放射強度
黒体の放射率は、全波長において一定(=1)であり、実在する物体の放射率は、0〜1の値をとり、1に近いほど熱放射効率が高い。なお、本明細書における放射率εは、特に断らない限り、物体表面の法線方向への熱放射について測定された放射率、即ち垂直放射率を指す。
【0007】
因みに黒体とは、外部から入射する全ての放射を完全に吸収する仮想の物体であり、現実には存在しない。黒体から熱放射される光・電磁波の強度及び波長分布は、黒体の温度のみによって決まるとされている(プランクの法則)。
【0008】
反射率・吸収率・透過率:
実在する物体に電磁波が入射した場合、一般に、その一部は表面で反射され、残りは物体に浸透した後、吸収されるか透過する。ある入射エネルギに対する反射エネルギ、吸収エネルギ、透過エネルギの比を、それぞれ反射率ρ、吸収率α、透過率τと定義する。この三者には次の関係が成り立つ。
【0009】
ρ+α+τ=1・・・(1)
また、熱平衡下にある物体の吸収率αは放射率εと等しい(キルヒホッフの法則)と仮定でき、
α=ε・・・(2)
従って、高い放射率を示す物体は同時に高い吸収率を示すため、効率の良い電磁波放射体は、同時に効率の良い電磁波吸収体であるといえる。
【0010】
式1、2より、反射率ρおよび透過率τから放射率εを算出することができる。即ち、式1、2から吸収率αを消去し、
ε=1−ρ−τ・・・(3)
さらに、不透明体の場合は透過率τ=0であるので、
ε=1−ρ・・・(4)
と簡略化される。
【0011】
但し、この式を用いて放射率εと反射率ρとを相互に変換する際には、測定波長や受光角度などの点で両者が対応している必要がある。例えば垂直放射率に対応する反射率は、例えば垂直入射の半球反射率(2π空間に広がった全反射光(=正反射光+拡散反射光)の測定に基づいて算出される反射率)である。つまり垂直放射率を求める場合に用いる反射率は、垂直方向入射の半球反射率もしくは、それと等価な物理量(例えば半球入射の方向反射率)でなければならない。
【0012】
放射率ε、吸収率α、反射率ρ、および透過率τは、測定波長や受光角度などに関する対応関係に留意すれば、式1〜4を用いて相互に変換可能である。不透明体(透過率τ=0)の場合の放射率ε、吸収率α、および反射率ρの相互換算表を以下に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
波長域:
吸収または放射可能な波長域については複数の定義があるが、ここでは紫外(0.014〜0.4μm)、可視(0.4〜0.7μm)、近赤外(0.7〜3μm)、中赤外(3〜6μm)、遠赤外(6〜12μm)、極遠赤外(15−100μm)とした。各波長域で電磁波吸収体により紫外線遮光(リソグラフィー技術、医療、紫外)、光学機器の反射・迷光防止(可視)、熱線遮蔽(近赤外)、集熱器(可視〜近赤外)、放射温度計測(中赤外〜遠赤外)、電磁遮蔽(遠赤外〜極遠赤外)などの効果が得られる。また電磁波放射体により放熱器(中赤外〜遠赤外)、放射温度計測(中赤外〜遠赤外)、発熱器(赤外)などの効果が得られる。
【0015】
かさ密度:
CNT集合体における体積と重量との比であり、厚さが一様の場合には下式で与えられる。
【0016】
かさ密度=CNT集合体の重量/(CNT集合体の面積×CNT集合体の厚さ)
今日、電磁波放射体および電磁波吸収体が幅広い分野で必要とされている。理想的な電磁波の放射体かつ吸収体である物体として黒体が挙げられるが、これは外部から入射する全ての放射を完全に吸収し、また最高効率で熱放射する仮想の物体であり、現実には存在しない。そこで産業的には、例えば、適宜な光吸収材料を顔料とした塗料の塗布や、化成処理または熱処理による様々な表面処理(黒化処理)などにより、電磁波の放射率の向上が図られている。電磁波吸収体もまた同様に塗料の塗布、化成処理、熱処理などにより実現されている。
【0017】
従来の代表的な黒化処理表面の赤外域における放射率スペクトルを図1に示す。この放射率の測定は、Ishii and Ono (2001)の装置(Measurement Science and Technology 12, 2103-2112)を用いて行った。図1より、従来の黒化処理表面で実現される放射率の上限は0.95〜0.97に止まること、またスペクトルには大小のピークや傾きが存在し、放射率が全波長に渡って一様ではないことが判る。式(2)に示される通り、放射率と吸収率は等価である。従って図1より、従来の黒化処理表面で実現される吸収率の上限も0.95〜0.97に止まり、またスペクトルには大小のピークや傾きが存在し、吸収率が全波長に渡って一様ではないことが判る。
【0018】
このような従来の黒化処理表面によると、表面処理に用いる物質固有の電子状態や格子振動といった回避不能な物質の本質的な性質が原因で放射あるいは吸収可能な波長に偏り(つまりスペクトル上のピークや、スペクトルの傾斜)が生ずるため、広い波長範囲に渡って一様な放射特性あるいは吸収特性を得ることは困難である。これを改善する手段として、物体の表面構造を制御することで放射・吸収特性を向上させることが知られており、例えば、図1のAnritsu blackは、物体表面にミクロンオーダーの凸凹な構造を形成することで放射率(=吸収率)の向上を図っている。しかしながら、その性能は、長波長に向かうほど低下しており、電磁波の放射体あるいは吸収体として満足できる性能が得られているとは言い難い。
【0019】
他方、新素材として近年注目を集めているカーボンナノチューブ(CNT)は、光吸収能力の高い物質でもあることが知られており、その特性を利用した焦電センサ(非特許文献2を参照されたい)や、ボロメータ(非特許文献3を参照されたい)などの開発が報告されている。また石英板上に形成した直径30〜50nmの多層CNTが基板表面に垂直な方向に配向した集合体(以下、単に集合体と呼ぶ)の反射率スペクトルを測定したところ、0.5〜2.5μmの波長範囲において0.982の吸収率が推定されたことが非特許文献4に発表されている。さらに、直径8〜11nm、かさ密度0.01〜0.02g/cm3の多層CNT集合体の反射率を測定したところ、可視光域(波長0.457〜0.633μm)において、0.045%という低い値が測定されたことが非特許文献5に発表されている。しかし光源として単波長レーザー(458、488、514、633nm)を使用しているためスペクトルが測定されておらず、反射特性の一様性が評価されているとはいえない。これらの報告は、CNT集合体が、電磁波放射体そして電磁波吸収体に適用可能であることを示唆している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Kodama et al. IEEE Trans. Inst. Meas. 39, 230-232, 1990
【非特許文献2】Theocharous et al. Applied Optics 6, 1093
【非特許文献3】Itkis et al. Science 312, 413
【非特許文献4】Cao et al. Solar Energy Materials & Solar Cells 70, 481
【非特許文献5】Yan et al. Nano Letter 8, 446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかるに、これらの報告によると、電磁波放射体あるいは吸収体としてCNT集合体が有効なことは明らかであるが、その効果は可視〜近赤外域の波長に止まっており、より広い波長範囲での評価はなされていない上、電磁波放射体・吸収体の性能の一つとして重要であるスペクトルの一様性も十分には評価されていない。
【0022】
本発明は、このような観点に立脚してなされたものであり、その主な目的は、大きなピークや傾斜をもたない平坦なスペクトルを示す、換言すれば、より一層広い波長範囲に渡って一様に高い放射率特性あるいは吸収率特性を得ることができる電磁波放射体・電磁波吸収体を提供することにある。こうした利用可能な波長範囲の拡大と一様性の確保により、例えば電磁波放射体として電子電気機器の放熱性の改善、広い波長範囲にわたって利用可能な赤外光源など、電磁波放射体を利用した製品の高機能化、高精度化、汎用性の拡大などを図ることができる。また電磁波吸収体としてより精度の高い赤外センサ、広い波長範囲にわたる高度な電磁遮蔽や光学機器の反射防止など、電磁波吸収体を利用した製品の高機能化、高精度化、汎用性の拡大などを図ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題を解決するために本発明においては、下記のような技術的手段が提供される。
【0024】
[1]規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波放射体であって、
前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
【0025】
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
【0026】
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つで定義されることを特徴とする電磁波放射体。
【0027】
[2]上記[1]の発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において、半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波放射体。
【0028】
[3]上記[1]または[2]の発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域で、実質的に半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波放射体。
[4]前記[1]から[3]のいずれかの発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において透過率1%以下であることを特徴とする電磁波放射体。
【0029】
[5]前記[1]から[4」のいずれかの発明において、カーボンナノチューブ配向集合体の炭素純度が95%以上であることを特徴とする電磁波放射体。
【0030】
[6]前記[1]から[5]のいずれかに記載の電磁波放射体を有してなる物品。
【0031】
[7]規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波吸収体であって、
前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つで定義されることを特徴とする電磁波吸収体
[8]上記[7]の発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において、半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波吸収体。
[9]上記[7]または[8]のいずれかの発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域で、実質的に半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波吸収体。
[10]前記[7]から[9]のいずれかの発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において透過率1%以下であることを特徴とする電磁波吸収体。
[11]前記[7]から[10]のいずれかの発明において、カーボンナノチューブ配向集合体の炭素純度が95%以上であることを特徴とする電磁波吸収体。
[12]前記[7]から[11]のいずれかに記載の電磁波吸体を有してなる物品。
【発明の効果】
【0032】
このような本発明によれば、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の一部の波長範囲において垂直分光放射率が0.96以上の電磁波放射体、及び、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域おいて実質的に半球反射率が0.02以下の電磁波放射体を提供する上に多大な効果を奏することができる。また、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の一部の波長範囲において垂直分光放射率が0.96以上の電磁波吸収体、及び紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域において実質的に半球反射率が0.02以下の電磁波吸収体を提供する上で多大な効果を奏することができる。
【0033】
なお、ある波長領域において放射率または反射率が実質的に指定値以上(以下)であるとは、仮にその波長領域内に指定値が満たされない波長範囲があったとしても、その範囲が領域全体からみて一部に限定されるか、あるいはその波長領域における放射率または反射率の平均値が指定値を満たす場合を指す。
【0034】
図41は電磁波放射体における判断例を示す。放射率スペクトル31は、波長範囲の一部において指定値30を満たさないが、その波長範囲がごく一部であるため放射率は実質的に指定値30以上であり、本明細書の電磁波放射体として好適である。放射率スペクトル32は、波長範囲における放射率平均値が指定値30を満たさないが、指定値を満たさない波長範囲がごく一部に限られるため放射率は実質的に指定値30以上であり、本明細書の電磁波放射体として好適である。放射率スペクトル33は、波長領域内の広い範囲において放射率が指定値30を満たさないが、波長領域における平均値は指定値30を満たすので放射率は実質的に指定値30以上であり本明細書の電磁波放射体として好適である。放射率スペクトル34は、波長領域内の広い範囲において放射率が指定値30を満たさず、かつ波長領域における平均値も指定値30を満たさないため放射率は実質的に指定値30以下であり本明細書の電磁波放射体として不適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来技術による黒化処理表面の放射率スペクトルである。
【図2】CNT集合体における光吸収機構の模式的説明図である。
【図3】触媒微粒子添加量と単層CNT配向集合体の重量密度との関係を示すグラフである。
【図4】単層CNT配向集合体の高さ−重量、および高さ−密度の関係を示すグラフである。
【図5】CNT集合体のかさ密度および厚さと透過率との関係を示す説明図である。
【図6】CNTの光学的異方性に関する模式的説明図であり、AはCNT1本を、BはCNT集合体を示す。
【図7】CNTの傾斜角度(基板表面の法線とCNT伸長方向のなす角度)と正反射光の進行方向との関係を示す模式的説明図であり、Aは傾斜角45°以下の場合であり、Bは傾斜角45°以上の場合である。Cは、実際のCNTでは反射以外にも吸収と透過が起こっていることを示す光の入射部の拡大図である。
【図8】θ−2θ法の測定装置を示す模式的構成図であり、(a)はその斜視図であり、(b)はその平面図である。
【図9】単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定したX線回折スペクトル線図である。
【図10】単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定した(CP)回折ピークのX線回折スペクトル線図であり、(a)はX線入射方向とCNT配向方向とが平行する場合であり、(b)はX線入射方向とCNT配向方向とが直交する場合である。
【図11】単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定したX線入射方向とCNT配向方向とが平行する場合と、X線入射方向とCNT配向方向とが直交する場合との(002)、(100)、(110)回折ピークのX線回折スペクトル線図である。
【図12】ラウエ法の測定装置を示す模式的構成図である。
【図13】ラウエ法による単層CNT配向集合体の回折パターン画像である。
【図14】基板から剥離した粉体状単層CNT配向集合体の電子顕微鏡(SEM)画像の高速フーリエ変換画像である
【図15】図14の高速フーリエ変換画像から求めた強度プロフィールである。
【図16】ラウエ法による回折パターン画像からのX線強度関数の一例である。
【図17】ラウエ法による回折パターン画像からのX線強度関数の導出方法を示す説明図である
【図18】本発明のCNT製造装置を概念的に示す側面図である。
【図19】本発明のCNT製造方法を概念的に示すフロー図である。
【図20】単層CNT配向集合体の合成手順を示すフロー図である。
【図21】図20に示した合成手順のプロセス条件である。
【図22】高さが約1cmまで成長した単層CNT配向集合体のデジタルカメラ画像である。
【図23】高さが12μmまで成長した単層CNT配向集合体の真横からのSEM画像である。
【図24】テレセントリック光学測定系を用いて成長中に計測した単層CNT配向集合体の成長曲線である。
【図25】単層CNT集合体の走査型電子顕微鏡画像の一例である。
【図26】単層CNT集合体の透過型電子顕微鏡画像の一例である。
【図27】単層CNT集合体表面のレーザー顕微鏡画像の一例である。左上囲みは画像の一部を拡大表示したもの、また下のグラフは断面の高さプロファイルである。
【図28】単層CNT集合体のラマンスペクトルの一例である。ラベルG,D、RBMは、CNTによる特徴的なピークであるGバンド、Dバンド、RBMモードを示す。また右上囲みはRBMモードの拡大である。
【図29】単層CNT集合体の熱重量分析の結果の一例を示すグラフである。
【図30】厚さの異なる単層CNT集合体の垂直分光放射率スペクトルである。図中の数字は集合体の厚みを示す。
【図31】厚さの異なる単層CNT集合体の垂直放射率(測定波長5-12μmにおける平均値)と集合体のバルク密度との関係(A)、および集合体の面積あたり重量との関係(B)である。
【図32】波長0.2〜2μmにおける単層CNT集合体の反射率スペクトルの一例である。
【図33】波長2〜20μmにおける単層CNT集合体の反射率スペクトルの一例である。
【図34】波長25〜200μmにおける単層CNT集合体の反射率および透過率スペクトルの一例である。
【図35】単層CNT集合体の正反射率(入射角=反射角=θ)の角度依存性を示すグラフである。
【図36】垂直配向構造をもたない単層CNT膜の垂直放射率スペクトルの例である。
【図37】多層CNT集合体の走査型電子顕微鏡画像の一例である。
【図38】多層CNT集合体の透過型電子顕微鏡画像の一例である。
【図39】多層CNT集合体の垂直放射率スペクトルの例である。
【図40】本発明におけるCNT集合体と基板との関係を例示した概略図である。
【図41】放射率指定値を実質的に満たす場合を例示する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0037】
本発明に係る電磁波放射体は、電磁波を熱放射する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体である。また本発明に係る電磁波吸収体は電磁波を吸収する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体である。
【0038】
前述(段落0005)の通り、ある物体への電磁波の入射波は、反射、吸収、あるいは透過のいずれかをたどる。紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の一部の波長範囲において、垂直分光放射率0.96以上、およびまたは、半球反射率が0.02以下の波長依存性が極めて小さい一様な放射・吸収特性を実現するためには、反射および透過を可能な限り低減させることが肝要である。反射および透過の低減によって結果的に吸収が増加し、吸収が増加すれば放射も等しく増加する(キルヒホッフの法則(式2))。
【0039】
垂直分光放射率0.96以上を実現することで、電磁波放射体あるいは電磁波吸収体としての一般的な用途、例えば紫外、可視、赤外など各波長領域における遮光や反射防止、集熱器、放熱器、電磁波遮蔽などに利用可能となる。また半球反射率0.02以下を実現することで、より高い放射・吸収特性が求められる用途、例えば熱型赤外センサのコーティングや精密計測機器の迷光防止などに応用可能となる。また電磁波放射体・吸収体の透過率は、先述のとおり吸収率と放射率を向上させるためには低いほど望ましく、不透過が理想的ではあるが、電磁波放射体あるいは吸収体のかさ密度、厚み、目的とする電磁波の波長域などによっては不透過の達成が困難である場合も予想される。実施に当たっては、好ましくは透過率0.01以下であれば垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適である。
【0040】
本発明においては、反射の低減のため、CNT集合体におけるCNTのかさ密度の制御、およびCNTの配向性の制御を行うこととし、透過の低減のため、CNT集合体の厚さの制御、およびCNTのかさ密度の制御を行うこととする。これらを行うことにより、図2に示すように、CNT集合体10の表面からの反射11を低減させ、且つCNT集合体10の内部(CNT間の空隙)へ電磁波12を進入させ、狭くて不規則なCNT同士の空隙を通過する間に電磁波のエネルギを吸収・減衰させることができる。
〔かさ密度〕
かさ密度を制御することにより、CNT集合体を空隙に富んだ構造とすることができる。かさ密度の制御は、多数のCNTが、例えば基板面の法線方向に配向したCNT集合体における単位面積あたりのCNTの本数を制御することで実現し得る。
【0041】
このように、かさ密度を制御させてCNT同士の空隙を増やすことにより、CNT集合体全体の電子密度の低下が起こり、結果として誘電率が下がる。基礎光学によれば、屈折率は誘電率の平方根とほぼ等しいので、かさ密度を制御することでCNT集合体の屈折率を低下させることができる。
【0042】
さらにフレネルの法則、すなわち、
ρ={(n−n0)/(n+n0)}2
但し、ρ:表面への垂直入射に対する反射率、n:物質の屈折率、n0:媒質(空気)の屈折率より、屈折率の減少は反射率の減少を招くので、かさ密度を減少させた結果として反射率の低減が得られる。なお、空隙の導入においては、1本1本のCNTと空隙とが電磁波の波長スケールからみて十分均一に分布している必要がある 。
【0043】
本発明のCNT配向集合体のかさ密度(重量密度)は0.002〜0.2g/cm3である。このかさ密度は、触媒微粒子の密度と種類を調整することによって制御可能である。因みに、Chem. Mater. 誌、第13巻(2001年)第1008頁に述べられた方法によって触媒が合成された鉄微粒子ナノパーティクルを用い、後述する実施例1の条件で生成された単層CNT配向集合体における触媒微粒子の添加量と単層CNT配向集合体のかさ密度との関係を図3に示す。これにより、触媒微粒子の添加量を変化させることで単層CNT配向集合体のかさ密度を制御可能なことが分かる。
【0044】
本発明の単層CNT集合体の成長高さと重量および密度との関係の一例を図4に示す。本図から、重量は成長高さに比例して増加しており、単層CNT配向集合体の構造が、成長高さに関わりなく均質であることが分かる。そこで、かさ密度を、単層CNT配向集合体の体積を重さで割ったものと定義すれば、かさ密度は成長高さに関係なく殆ど一定(0.036g/cm3)となることが分かる。
【0045】
かさ密度が0.002g/cm3〜0.2g/cm3の範囲にあると、上記したように、かさ密度を制御することでCNT集合体の屈折率を低下させることができ、結果として、反射率を低減させることができる。かさ密度が0.2g/cm3を超えると、屈折率が高くなり、反射率が増加する。またかさ密度が0.002g/cm3に満たないと、CNT配向集合の一体性が失われため、カーボンナノチューブ配向集合体を形成することが困難となる。
〔CNT集合体の厚みの制御とかさ密度の制御〕
透過を低減するためには、図5の17・19に示すように、CNT集合体の厚さを大きくして電磁波が通過する経路を十分に長くするか、あるいは図5の16・17に示すように、CNT集合体のかさ密度を大きくしてCNTの分布密度を増加させて電磁波が透過しにくいようにする必要がある。もし厚さとかさ密度との両方を十分に確保できれば(図5の17)、電磁波の透過を容易に最小限に抑えることができるが、どちらか一方が不足している場合でも、他方を十分に確保すれば透過を低減させることが可能である(図5の16・19)。
【0046】
反射の低減のためには、上述の通り、CNT集合体のかさ密度を減少させる必要がある。しかしながら、かさ密度が過度に低いと、透過を増加させて放射率を減少させることが考えられる。単位面積あたりのCNT集合体の重量(=CNT集合体の厚さ×かさ密度)が約1.0mg/cm2以上であれば、透過率を1%以下にすることができ、垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適である。
【0047】
CNT配向集合体の厚さ(高さ)は2μm以上、10cm以下、より好ましくは、10μm以上、10cm以下の範囲にあることが好ましい。この厚さ範囲にあるCNT配向集合は、良好な配向性を備え、極めて一様で波長依存性がない低反射率、高放射率、高吸収率を示す。高さが2μmに満たないと、均一なCNT配向集合体の合成が困難であり、基板の一部が容易に露出し、反射率(放射率・吸収率)が増加(減少)する(図31−A)。高さが10μmに満たないと、配向性が低下し、反射率(放射率・吸収率)が増加(減少)する。
【0048】
また高さが10cmを超えるものは、生成に長時間を要するために炭素系不純物が付着しやすくなり、グラファイト状になり、反射率(放射率・吸収率)が増加(減少)する。
〔CNT集合体の配向性〕
CNT集合体を構成する複数のCNTの方向を揃えること(配向)により、単一CNTのもつ光学的異方性をCNT集合体においても実現し、反射率の低減を可能とする。すなわち、図6−Aに示すように、単一CNTは、CNT13の軸と平行な方向からの入射波14に対して屈折率が低く、従って反射率も低い。なぜならば、電磁波がつくる電場がCNTの軸に直交し、そしてこの方向には電子が振動できない(つまり電気感受率が低い)からである。つまり、図2並びに図6−Bに示すように、CNT集合体10の表面に直交する方向からの入射波12は、その大部分がCNT集合体10の内部に進入し、CNT集合体層の表面からの反射11は極めて低くなる。
【0049】
他方、単一CNTは、CNT13の軸に直交する方向からの入射光15に対しては、比較的大きな屈折率および反射率を示す(図6−A)。その理由は、電磁波のつくる電場がCNTの軸方向と合致し、この方向には電子が振動できるからである(つまり電気感受率が高い)。この光学的異方性のため、基板の法線方向に配向したCNT集合体は、無配向なCNT集合体に比べて反射率を低く抑えることができ、吸収率および放射率を増加させるために有利である。
【0050】
配向のもう一つの作用は、仮に入射波が集合体を構成する個々のCNTによって反射されたとしても、その正反射がCNT集合体の表面へ向かわずに裏面つまり基板方向へ導かれるため、CNT集合体表面の反射率を抑制できることである。例えば図6−Bのごとく、CNT集合体に垂直入射する電磁波を仮定する。もし図7−Aに示されるように基板面の法線とCNTのなす角度が小さい場合、正反射は集合体裏面方向へ向かうためCNT集合体表面の反射率の増加に寄与しない。対照的に、図7−Bのように角度が大きい場合、正反射はCNT集合体表面へ向かうためCNT集合体表面の反射率を増加させる。このようにCNTが配向することによって、個々のCNTによる正反射が集合体裏面へ向かうようにすることができ、集合体表面の反射率を低減することができる。この効果を得るためには、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
【0051】
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
【0052】
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つを満たせばよい。また、前述のX線回折法において、CNT間のパッキングに起因する(CP)回折ピーク、(002)ピークの回折強度およびCNTを構成する炭素六員環構造に起因する(100)、(110)ピークの平行と垂直との入射方向の回折ピーク強度の度合いが互いに異なるという特徴も有している。
【0053】
このような条件を満たす、CNT配向集合体は、構成している一本一本のCNTが規則的な方向に配向していて、垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適である。また、このような条件を満たす、CNT配向集合体は、極めて一様で波長依存性がない低反射率、高放射率、高吸収率を示し、様々な用途に好適である。なお、ヘルマン配向係数が1の単層CNT配向集合体は、完全に配向したものとなる。
【0054】
さらには、カーボンナノチューブ配向集合体の法線とCNTとのなす角度は45°以下(ヘルマン係数が0.25から1)であればこの効果はいっそう顕著になり、より好ましい。また、実際のCNTでは、反射と同時に吸収および透過が起こっていることを明記しておく(図7−C)。
【0055】
以下に詳細に説明する。
(1)X線回折(θ−2θ法)による配向性評価
θ−2θ法X線回折装置のセットアップ状態を図8に示す。図8(a)はその斜視図、図(b)はその平面図である。この構成において、配向性を有する物体に対し、配向方向に平行する第1の方向からX線を入射する場合(以下、平行入射)と、配向方向に直交する第2の方向からX線を入射する場合(以下、垂直入射)との両方についてX線回折スペクトルを観測すると、垂直入射の反射強度が平行入射の反射強度よりも高くなる角度θと反射方位とが存在し、且つ平行入射の反射強度が垂直入射の反射強度よりも高くなる角度θと反射方位とが存在する。
【0056】
本発明のCNT配向集合体は、図9〜図11に示すように、平行入射のX線回折スペクトルのピーク回折強度は、CNT間のパッキングに起因する(CP=close-packing)および(002)が垂直入射よりも高く、CNTを構成する炭素六員環構造に起因する(100)および(110)が垂直入射よりも低い。また垂直入射のX線回折スペクトルのピーク回折強度は、(CP)および(002)が平行入射よりも低く、(100)および(110)が平行入射よりも高い。なお、図9は、単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定したX線回折スペクトル線図、図10は、単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定した(CP)回折ピークのX線回折スペクトル線図であり、図10(a)はX入射方向とCNT配向方向が平行する場合であり、図10(b)はX線入射方向とCNT配向方向が直交するう場合である。
【0057】
このように本発明のCNT配向集合体においては、(CP)および(002)のピーク回折強度と、(100)および(110)のピーク回折強度とは、X線の入射方向が変わると大きく変化する。完全に等方的(無配向)な物体の場合は、X線の入射方向によって回折強度は変化しないので、このことは、本発明の単層CNT配向集合体が、異方性を有している、換言すると、配向性に富んでいて、垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適であることを示している。
【0058】
X線の入射方向による各回折ピークの強度比を、本発明の単層CNT配向集合体と無配向CNT集合体とで比較した結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
(2)X線回折(ラウエ法)による配向性評価
ラウエ法X線回折装置のセットアップ状態を図12に示す。このラウエ法において、CNT配向集合体の円柱状をなす試料を配向方向に平行な軸上で回転させると共に、直径0.5mmのピンホールコリメータを通過したX線を配向方向に直交する方向から試料に照射し、CCDパネル上に回折パターン像を結像させた。
【0061】
その結果、図13に示すように、本発明によるCNT配向集合体の(CP)、(002)、(100)などの回折ピークのパターン像は楕円状となった。完全に等方的な物体のラウエ回折パターン像は真円状となるので、このことは、本発明による単層CNT配向集合体が異方性を有している、換言すると、配向していて垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適であることを示している。
(3)ヘルマンの配向係数による配向性評価
ヘルマンの配向係数を算出することで、CNT配向集合体の配向度を定量的に評価することができる。
【0062】
ヘルマンの配向係数Fは以下の式で定義される。
【0063】
【数1】
【0064】
但し、φはφ=0を参照(基準)方位とした方位角(azimuthal angle)であり、I(φ)は回折強度関数である。
【0065】
ヘルマンの配向係数においては、φ=0方向について完全配向ならばF=1となり、無配向ならばF=0となる。
【0066】
回折強度関数I(φ)は、CNT配向集合体の構造を測定、観察する手段を適宜用いることで求めることができる。
【0067】
例えば、図14は基板から剥離した粉末状単層CNT配向集合体のSEM画像を高速フーリエ変換(以下、FFTとも称する)して各方向の凹凸の分布を周波数分布で表した平面FFT画像である。FFT画像(図14)における変換強度を変数としてヘルマンの配向係数を算出することでも配向性を定量的に評価することができる。図14において、CNTが縦方向に延在していることが既に分かるが、これを各方向についての周波数分布で表した図15において、周波数分布の輪郭は、横軸を長軸とする扁平な楕円状をなしている。これはCNTが図14にて上下方向に配向していることを表している。そしてこの楕円が扁平であるほど配向性が高いことを表している。この場合は、FFT画像の原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの変換強度を求め、これを回折強度関数(図15)とする。この回折強度関数は、方位角方向での原点からの距離に対応する周期性の程度を示している。例えば、FFT画像の原点からの距離が30×1013Hzに対応する実空間の距離は100nmとなる。この回折強度関数を変数として上式を演算することにより、参照方向についての配向度を定量的に評価することができる。
また、θ―2θ法X線回折装置において、ある回折強度ピークが観測される角度2θにX線検出器を固定した状態で、角度θにある試料の角度θを参照方位として(φ=0)、試料を角度φだけ回転させる(図8−b参照)。これにより、φの関数としてのX線回折強度I(φ)が得られる(図16参照)。
【0068】
バックグラウンドを除いた(ゼロベースライン)φ=0からφ=π/2までのX線回折強度関数I(φ)を変数として上式を演算することにより、ヘルマンの配向係数Fを求める。これにより、φ=0方向についての配向度を定量的に評価することができる。
【0069】
回折強度関数I(φ)をラウエ法で求める場合は、2次元の回折パターン像(図17参照)において、原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの回折強度を求め、これを変数として上式を演算することにより、ヘルマンの配向係数Fを求める。これにより、φ=0方向についての配向度を定量的に評価することができる。
【0070】
参照方向は、カーボンナノチューブ配向集合体の法線方向とすることが好ましいが、適宜、低反射、高放射率が望まれる所望の方向としても良い。
【0071】
低反射率、高放射率、高吸収率を得るためには、CNTが可能な限り高純度であることが望ましい。ここでいう純度とは、炭素純度であり、CNT配向集合の重量の何パーセントが炭素で構成されているかを示す。低反射率、高放射率、高吸収率を得る上での純度に上限はないが、製造上の都合から、99.9999%以上のCNT配向集合を得ることは困難である。金属不純物を含んで炭素純度が95%に満たないと、金属不純物からの反射が発生するため、結果として、低反射率を得ることが困難となる。これらの点から、単層CNTの純度は95%以上であることが好ましい。
【0072】
本発明のCNT配向集合体の純度は、蛍光X線を用いた元素分析結果より得られる。後述の実施例1の方法で生成した単層CNT配向集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素が99.98%、鉄が0.013%であり、その他の元素は計測されなかった。また実施例1の方法において、基板をニッケル−鉄合金として生成した単層CNT配向集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素が99.9%、不純物として、ニッケルが198ppm、鉄が100ppmであった。
【0073】
本発明における基板とは、配向CNT電磁波放射体・吸収体20が装着された物であり、形状、材質、装着方法に左右されない。形状として、例えば基板21の形状は平面(図40−A)のほか、曲面(図40−B)やフレキシブルなもの(図40−C)が考えられ、基板21の厚みは問わない。材質は、例えば各種金属、セラミックス、シリコン基板、樹脂などが考えられる。また基板21の全面が配向CNT電磁波放射体・吸収体20で被覆されている必要はない。例えば配向CNT電磁波放射体・吸収体20がパターニングされているもの(図40−D)、部分的に基板表面が露出しているもの(図40−E)、電子回路22が形成されたもの(図40−F)などが考えられる。また配向CNT電磁波放射体・吸収体20が基板21に直接接触して装着されている必要はなく、基板21との間に電磁波吸収放射特性、熱伝導特性、接着性などの向上を目的として中間層23を設けてもよい(図40−G)。配向CNT電磁波放射(体・吸収体20と基板21の接触面積を減らすため、中間層として間隙24を設けることもある(図40−H)。これらの基板21は後述の配向CNT集合体の製造のための成長用基材(成長用基板)と同一のものである必要はない。つまり製造工程を終えた配向CNT集合体が成長した成長用基材をそのまま用いてもよいし、新たに用意した基板に配向CNT集合体を移し替えて用いてもよい。
【0074】
本発明における物品とは、配向CNT電磁波放射体・吸収体20や基板21上に配向CNT電磁波放射体・吸収体を設けた物から構成される。
【0075】
以下、本発明に係るCNT集合体の製造方法について詳述する。
〔CNT集合体の製造法〕
本発明に係るCNT配向集合体の製造には、CVD装置1(図18)を用いることができる。これは、成長用基材上に触媒の被膜形成面を製造し、その触媒に複数のCNTを化学気相成長(CVD)させるものである。触媒被膜形成面とは、成長用基材上での触媒を包含する面もしくは空間のことであり、一般的には成長用基材が平板状の場合には、その基板面となる。
【0076】
以下にCVD装置1(図18)を用いた、本発明に係わる配向CNTの製造法の概念図を図19に例示する。図18に示すように、先ず、他方のガス供給管3−6から供給された雰囲気ガス(例えばヘリウム)及び還元ガス(例えば水素)等が満たされて所定温度(例えば750℃)に加熱され且つその温度に保たれた合成炉3−3内に、触媒被膜(例えばアルミナ−鉄薄膜)を別工程で予め成膜した成長用基板3−2(例えばシリコンウエハ)を基板ホルダ3−13に載置したものを搬入する(第1の過程2−S1)。
【0077】
次いで他方のガス供給管3−6から合成炉3−3内に還元ガス(例えば水素)を所望の時間供給する(第2の2−過程S2)フォーメーション工程を行う。この還元ガスにより、触媒被膜形成面2aの触媒微粒子が、CNTの成長に適合した状態に調整される。ここで適切な金属触媒被膜の厚さ並びに還元反応条件を選択することにより、直径数ナノメートルの触媒微粒子を、1.0×1011(個/cm2)から1.0×1014(個/cm2)の密度に調整可能である。この密度は、触媒被膜形成面3−2aに直交する向きに配向した複数のCNTを成長させるのに好適である。フォーメーション工程においては、必要に応じて触媒賦活物質を添加しても良い。触媒から80%以上の確率で単層CNTを成長させることが可能である。もちろん、水分量を調整するなどして、確率を80%以下にすることは可能である。触媒密度が1×1011個/cm2以下であると、成長する単層CNTの密度が小さく、単層CNT配向集合の形成が困難になる。また触媒密度が1014個/cm2以上であると、触媒間の間隔が小さくなり、触媒同士が融着しやすくなる。また、成長する単層CNTの密度が大きく、単層CNT間をガスが拡散しづらくなる。このような触媒密度に調整された触媒からCNT配向集合を成長させると、かさ密度が0.005〜0.2g/cm3のカーボンナノチューブ配向集合体成長させることができる。
【0078】
次いで他方のガス供給管3−6からの還元ガス及び雰囲気ガスの供給を、所望(反応条件)に応じて停止あるいは低減すると共に、原料ガス(例えばエチレン)と、雰囲気ガスに混入した触媒賦活物質(例えば水蒸気)とを、一方のガス供給管3−5から供給し、シャワーヘッド3−14から成長用基板3−2の触媒被膜形成面3−2aにこれを吹きかける(第3の過程2−S3)。これにより、成長用基板3−2に被着した触媒微粒子からCNTが成長する(成長工程)。
【0079】
このようにして、基板3−2上の触媒被膜形成面3−2aから同時に成長した複数のCNTは、触媒被膜形成面3−2aに直交する向きに成長して高さが概ねそろったCNT配向集合体を構成する。この時、触媒微粒子は、主として触媒被膜形成面3−2a上に固着したままであり、更なるCNTの成長を維持するためには、原料ガス及び触媒賦活物質が成長した配向CNT集合体の中を効率よく拡散し、触媒被膜形成面3−2a上の触媒微粒子に継続的にかつ安定的に供給される必要があり、シャワーヘッドの噴出孔を基板の触媒被膜形成面を臨む位置に設けられることは好適である。
<成長用基材(成長用基板)>
成長用基材あるいは成長用基板とはその表面にカーボンナノチューブの触媒を担持することのできる部材であり、CNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができる。
【0080】
材質としては、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、砒素、燐、およびアンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金および酸化物、またはシリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト、およびダイヤモンドなどの非金属、並びにセラミックなどが挙げられる。
【0081】
成長用基材の態様としては、平板状以外に、薄膜状、ブロック状、或いは粉末状などでもよいが、特に体積の割に表面積を大きくとれる態様が多量生産において有利である。好ましくは、平板状で500℃以上の高温でも形状を保持できる材質であることが望ましい。金属材料はシリコンやセラミックと比較して、低コストであるから好ましく、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金等のFe基合金は好適である。
<触媒>
成長用基材もしくは浸炭防止層上には、CNT成長のための触媒を形成する。触媒としてはこれまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができ、具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、およびこれらの塩化物、および合金、またこれらが、さらにアムミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンと複合化、また層状になっていても良い。たとえば、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、およびアルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、アルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。
【0082】
触媒の存在量としては、これまでのCNTの製造に実績のある量であればその範囲で使用することができ、例えば鉄を用いる場合、その厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がさらに好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0083】
成長用基材表面への触媒層の形成は、ウェットプロセス或いはドライプロセスのいずれを適用してもよい。具体的には、スパッタリング蒸着法や、金属微粒子を適宜な溶媒に分散させた液体の塗布・焼成法などを適用することができる。また周知のフォトリソグラフィーやナノインプリンティング等を適用したパターニングを併用して触媒層を任意の形状とすることもできる。本発明の製造方法においては、成長用基板上に成膜する触媒のパターニングおよびCNTの成長時間により、薄膜状、円柱状、角柱状、およびその他の複雑な形状をしたものなど、単層CNT配向集合体の形状を任意に制御することができる。
特に薄膜状の単層CNT配向集合体は、その長さおよび幅寸法に比較して厚さ(高さ)寸法が極端に小さいが、長さおよび幅寸法は、触媒のパターニングによって任意に制御可能であり、厚さ寸法は、単層CNT配向集合体を構成する各単層CNTの成長時間によって任意に制御可能である。
<原料(原料ガス)>
本発明においてCNTの生成に用いる原料としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができ、一般的には、成長温度において原料炭素源を有するガスである。
【0084】
なかでもメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンプロピレン、およびアセチレンなどの炭化水素が好適である。この他にも、メタノール、エタノールなどの低級アルコールや、アセトン、一酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物でもよい。これらの混合物も使用可能である。またこの原料ガスは、不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0085】
原料ガスの濃度(全流量に対する原料ガスの割合)はCNTの生産効率を作用する非常に大事な要素である。一般的には、CNTの生産効率、特に成長速度は原料ガス濃度が高いほど、成長速度が速くなり、生産効率は向上する。
【0086】
しかし、原料ガス濃度が20%を上回ると、触媒寿命が短くなり、また、合成炉の下流で大量のタール等、炭素不純物が発生して、CNTの生産効率は低下する。逆に原料ガス濃度が2%以下であると、成長速度が十分でなく、生産効率は低下する。原料ガス濃度が2%−20%の範囲にあれば、成長速度は速く、寿命も十分に長く、かつ下流の炭素不純物の発生も抑制されCNTの成長を行え、CNTの生産効率は高くなる。
<還元ガス>
還元ガスは、一般的には、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果を持つ、成長温度において気体状のガスである。
【0087】
これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、典型的には還元性を有したガスであり、例えば水素ガス、アンモニア、水蒸気およびそれらの混合ガスを適用することができる。また、水素ガスをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。還元ガスは、一般的には、フォーメーション工程で用いるが、適宜成長工程で用いても良い。
<触媒賦活物質>
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加してもよい。触媒賦活物質の添加によって、カーボンナノチューブの生産効率や純度をより一層改善することができる。ここで用いる触媒賦活剤としては、一般には酸素を含む物質であり、成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であればよく、水蒸気の他に、例えば、硫化水素、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素、および二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、あるいはエタノール、メタノールなどのアルコール類や、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトンなどのケトン類、アルデヒドロ類、エステル類、酸化窒素、並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水蒸気、酸素、二酸化炭素、および一酸化炭素、あるいはテトラヒドロフランなどのエーテル類が好ましく、特に水蒸気が好適である。
【0088】
触媒賦活物質の添加量に格別な制限はないが、通常、微量でよく、例えば水蒸気の場合には、10ppm以上10000ppm以下、好ましくは50ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上700ppm以下の範囲とするとよい。
【0089】
触媒賦活物質の機能のメカニズムは、現時点では以下のように推測される。CNTの成長過程において、副次的に発生したアモルファスカーボンやグラファイトなどが触媒に付着すると触媒は失活してしまいCNTの成長が阻害される。しかし、触媒賦活物質が存在すると、アモルファスカーボンやグラファイトなどを一酸化炭素や二酸化炭素などに酸化させることでガス化するため、触媒層が清浄化され、触媒の活性を高め且つ活性寿命を延長させる作用(触媒賦活作用)が発現すると考えられている。
【0090】
この触媒賦活物質の添加により、触媒の活性が高められ且つ寿命が延長した結果、従来は高々2分間程度で終了したCNTの成長が数十分間継続する上、成長速度は、従来に比べて100倍以上、さらには1000倍にも増大することになった。この結果、その高さが著しく増大したCNT配向集合体が得られることとなった。
<雰囲気ガス>
化学気相成長の雰囲気ガス(キャリアーガス)としては、CNTが成長する温度で不活性であり、成長するCNTと反応しないガスであればよい。これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、一般的には不活性ガスが好ましく、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素、ネオン、クリプトン、二酸化炭素、および塩素などや、これらの混合ガスが例示でき、特に窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、およびこれらの混合ガスが好適である。
<雰囲気圧力>
CNTを成長させる雰囲気の圧力は、102Pa以上、107Pa(100気圧)以下が好ましく、104Pa以上、3×105Pa(3大気圧)以下がさらに好ましく、5×10Pa以上、9×10Pa以下が特に好ましい。
<反応温度>
CNTを成長させる反応温度は、金属触媒、原料炭素源、および反応圧力などを考慮して適宜に定められるが、触媒失活の原因となる副次生成物を排除するために触媒賦活剤を添加する工程を含む場合は、その効果が十分に発現する温度範囲に設定することが望ましい。つまり、最も望ましい温度範囲としては、アモルファスカーボンやグラファイトなどの副次生成物を触媒賦活物質が除去し得る温度を下限値とし、主生成物であるCNTが触媒賦活物質によって酸化されない温度を上限値とすることである。
【0091】
具体的には、触媒賦活物質として水を用いる場合は、好ましくは400℃〜1000℃とすることである。400℃以下では触媒賦活物質の効果が発現せず、1000℃以上では、触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【0092】
また触媒賦活物質として二酸化炭素を用いる場合は、400℃〜1100℃以下とすることがより好ましい。400℃以下では触媒賦活物質の効果が発現せず、1100℃以上では、触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
<フォーメーション工程>
フォーメーション工程とは、成長用基材に担持された触媒に還元ガスを接触させて、触媒または還元ガスの少なくともどちらか一方を加熱する工程のことを意味する。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の生産に好適な触媒に調製される。
<成長工程>
成長工程とは、フォーメーション工程によってCNTの生産に好適な状態となった触媒に原料ガスを接触させて、触媒または原料ガスの少なくともどちらか一方を加熱することにより、CNT配向集合体を成長させる工程のことを意味する。
【実施例】
【0093】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明による単層CNT配向集合体についてより詳細に説明する。本実施例によって製造される、CNT配向集合体の特性は、製造条件の詳細に依存するが、下記記述の実施例の製造条件では、典型値として、密度:0.03g/cm3、BET−比表面積:1200m2/g、平均外径:2.5nm、半値幅2nm、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.8である。
【0094】
本実施例に係る製造工程は、図20のフローチャートに示すように、触媒基板の作成工程と単層CNTの合成工程とを備えている。触媒基板の作成工程は、アルミナ(Al2O3)からなる厚さ40nmの助触媒層を、RFスパッタリングによって成長用基板上に形成し、このアルミナ層上に鉄(Fe)からなる厚さ1nmの触媒層をスパッタリングによって形成する工程を含んでいる。なお、詳細なプロセス条件を図21に示す。パターニングされた、単層CNT配向構造体を製造する場合には、先ず、助触媒層が予め形成されたシリコン成長用基板上に、電子ビーム露光用レジスト(ZEP−520A/日本ゼオン製)を、スピンコーターを用いて(4700rpm/60秒)薄く塗布し、それをベークする(200℃/3分)。次に、レジストが塗布された成長用基板上に、電子ビーム露光装置を用いて直径150μmの円形のパターンを250μm間隔で描画する。次に、スパッタ蒸着装置を用いて鉄を蒸着し、最後に、剥離液(ZD−MAC/日本ゼオン製)を用いて成長用基板上からレジストを剥離する。これらの工程を経て、例えば円形などの任意形状にパターニングされた触媒金属層が成膜された触媒基板が得られる。
【0095】
この触媒基板を、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×105Paに保持されたCVD装置(図18)の合成炉内に設置し、この炉内に、He:100sccm、H2:900sccmを6分間導入する。これにより、鉄触媒層は還元されて単層CNTの成長に適合した状態の微粒子化が促進され、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される(フォーメーション工程)。なお、このときの鉄微粒子の密度は、1×1011〜1×1014個/cm2に調整される。
【0096】
次に、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×105Paに保持された状態の合成炉内に、He:850sccm、C2H4:100sccm、H2O含有He(相対湿度23%):50sccmを5分間供給する。これにより、単層CNTが各鉄触媒微粒子から成長する(成長工程)。
【0097】
成長工程終了後、反応炉内にHe:1000sccmのみを供給し、残余の原料ガスや触媒賦活剤を排除する(フラッシュ工程)。これにより、配向した単層CNTの集合体が得られる。
【0098】
本実施例の方法において成長時間を120分として生成された高さ1cmの単層CNT配向集合体のデジタルカメラ画像を図22に示し、本実施例の方法を用い、かつ特願2008−051321号明細書に記載のテレセントリック測定システムを用いて成長高さを計測しつつCNTを成長させて10μmで原料ガスの供給を停止させて得た単層CNT配向集合体の側方からのSEM画像を図23に示す。また同じくテレセントリック測定システムで成長中の高さをリアルタイムに計測して得た成長曲線の一例を図24に示す。このように成長高さをリアルタイムに計測しつつCNTを成長させ、かつ成長高さの計測値に応じて原料ガスの供給を制御することにより、所望の高さの単層CNT配向集合体を自動制御によって得ることが可能である。なお、図24に示した例は、原料ガスの停止とCNTの成長停止との間にタイムラグがあり、実際には12μmまで成長した。本手法を用いれば、高さ12μmから1cmまでの単層CNT配向集合体を製造することが可能である。
〔走査型電子顕微鏡による観察〕
前述の方法で生成したCNT集合体の走査型電子顕微鏡(以下、SEMと呼ぶ)画像を図25に示す。低倍率の観察像(図25A)によれば、集合体の表面は平坦であるように見える。高倍率の観察像(図25B)によると、表面には概ね水平方向に伸長したCNTが多数分布していることが判る。多数のCNTは、略均一に分布しており、互いに隣接するCNT同士間の空隙は、数nm〜数十nmの幅をもっている。
【0099】
一方、側面の観察像(図25C)により、CNTは略垂直に(各CNTと基板の法線とのなす角度は略10〜20°の範囲)配向していることが読み取れる。この時の配向度を示すヘルマン係数は0.82〜0.95であり、本発明において必要な値(0.25以上)を十分に満たしている。また集合体を基板から剥離した底面の観察像(図25D)によると、CNTの端末部が略垂直に起立した状態であることが判る。
【0100】
このように、表面側の端末部は略水平方向を向き、底面側の端末部は略垂直方向を向く理由は、CNTは、基板表面に存在する触媒の表面から成長するが、合成過程の初期には柔軟性のためCNTが起立できずに水平方向に伸長して集合体の表面にあたる構造を形成し、その後、互いに隣接するCNT同士が相互に支持し合って垂直方向に伸長するからであると考えられる。表面側においても、底面側においても、CNT配向集合は極めて一様で波長依存性がない低反射率、高放射率を示した。
〔透過型電子顕微鏡による観察〕
またCNTの直径サイズ分布評価は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと呼ぶ)の観察によって行うことができる。すなわち、TEM画像から個々の単層CNTの直径を計測してヒストグラムを作成し、このヒストグラムから直径サイズ分布を算出することができる。
【0101】
前述の方法で生成したCNT集合体のTEM画像を図26に示す。合成時に使用した触媒鉄のCNT集合体への混入は見られず、またCNTは一層のグラフェンシートから構成され、高純度の単層CNT集合体であることがわかる。また画像から各単層CNTの直径を計測したところ、本発明によるCNT集合体を構成する単層CNTは、その直径サイズが0.8〜4.5nmの範囲に渡って分布し、その中心直径サイズは2.5nmであることが確認された。なお、直径サイズ分布範囲および中心直径サイズは、触媒微粒子の調整によって制御可能である。
〔ラマンスペクトル〕
前述の方法で生成したCNT集合体の品質は、ラマン分光のスペクトルデータから評価することができる。本発明のCNT集合体のラマンスペクトルの一例を図28に示す。Gバンドの鋭いピークが1540カイザーで観察され、これより、このCNT集合体を構成するCNTにグラファイト結晶構造が存在することが判る。また、Dバンド(1330カイザー)は小さいことから、アモルファスカーボンが付着せず欠陥が少ない高品質なグラファイト層がこのCNTに存在することが判る。結晶構造の欠陥の量は、ナノチューブのキンク(屈曲、湾曲)の量と密接に関連する。キンクの増加は配向性を乱し、またアモルファスカーボンの付着は反射率を増加させることが予測されるため、Gバンドは高くかつDバンドは低いことが好ましい。さらに、複数の単層CNTに起因するRBMモード(250〜100カイザー)が低波長側に観察されたことから、グラファイト層は単層CNTであることが判る。
〔熱重量分析〕
前述の方法で生成したCNT集合体の熱重量分析の一例を図29に示す。測定条件として、乾燥空気雰囲気下にて10℃/分で昇温した。
【0102】
本CNT集合体を構成するCNTの燃焼のピーク温度(即ち微分曲線の頂点)は680℃であり、それ以外の炭素成分の存在を表す他のピークは存在しない。CNTの燃焼は通常400〜700℃で起こり、高温であるほど高品質(結晶度が高く触媒金属を含まない)であることが知られている。このことから、本CNT集合体は、高品質のCNTで構成されていることが判る。また燃焼後の残渣(灰分)は、0.05wt%であり、金属不純物が微量であること、つまり炭素純度が高いことを示す。
〔比表面積〕
前述の方法で生成したCNT集合体のBET法で測定した比表面積は、1000〜1200m2/gという非常に大きな値であった。またBET法から同時に推定される細孔径は5〜30nmであった。例えば一般的な空洞型黒体炉においては、十分な放射率を得るために空洞の内表面積を大きくかつ空洞開口部の面積をできるだけ小さくする必要がある。CNT集合体内部において空洞型黒体炉内のごとき光・電磁波の反射、吸収、放射の過程が起きているとするならば、CNT集合体の表面積は黒体炉の内表面積に対応するため、比表面積は大きいほど好ましい。また比表面積が高いCNT集合体は反射率を増加させる炭素不純物の含有量が少なく、こうした観点からもCNT配向集合体の比表面積は大きいほど好ましい。
〔放射率の測定1〕
前述の方法で生成した、厚さ460μm、かさ密度0.065g/cm3の単層CNT集合体に係る赤外域(5〜12μm)における放射率(垂直分光放射率)を、Ishii and Ono (2001)の装置(Measurement Science and Technology 12, 2103-2112)を用いて測定した。式(2)に示した放射率と吸収率の等価性より、以下に記述する放射率の測定値は、吸収率に読み替えることが可能である。
【0103】
この装置は、試料・参照黒体部および分光器部から構成されており、分光器部は、KBr製ビームスプリッタ及びコーナーキューブミラーから成るマイケルソン型干渉計を利用したフーリエ変換分光器である。
【0104】
この装置の真空容器中に試料を固定し、試料温度を100℃に制御しつつ、光起電力型MCT赤外検出器を用いて放射率を測定した。この際、実用的にゼロ輝度レベルとなる77K付近の液体窒素冷却黒体炉及び測定試料温度(100℃)と略等しい液体循環式黒体炉を測定することによって輝度温度目盛を校正した。
【0105】
その結果は、図30(厚さ460μm試料)に示す通り、放射率は0.98〜0.99(平均値0.987、標準偏差0.003)と従来の黒化処理に比べて高く、しかも最大値と最小値の差は0.012であり波長依存性に乏しく一様であった。
〔放射率の測定2〕
〔放射率の測定1〕と同様にして厚さ53μmの単層CNT集合体に係る放射率を測定した。その結果は図30(53μm)に示す通り、放射率は0.98〜0.99(平均値0.984、標準偏差0.002)と従来の黒化処理に比べて高く、しかも最大値と最小値の差は0.008であり波長依存性に乏しく一様であった。
〔放射率の測定3〕
同様に、厚さ360μmの単層CNT集合体に関する放射率を測定した。その結果は図30(360μm)に示す通り、0.97〜0.99(平均値0.983、標準偏差0.002)であり、しかも最大値と最小値の差は0.010であり大きな波長依存性は見られなかった。
〔放射率の測定4〕
同様に、厚さ2μmの単層CNT集合体に係る放射率を測定した。その結果は図30(2μm)に示す通り、波長5〜12μmでの放射率は0.97〜0.99(平均0.975、標準偏差0.005、最大値と最小値の差は0.018)である。シリコン基板に由来するピークがスペクトル上に出現するため比較的大きな波長依存性を示すが、0.96以上の放射率を示すため本発明の電磁波放射体・吸収体として好適である。
【0106】
単層CNT集合体の厚さ、密度、単位面積あたり重量、分光放射率の平均値、および標準偏差の相互関係を以下に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
CNT集合体の放射率は、図31Cに示す通り、単位面積あたりのCNT集合体の重量(=CNT集合体の厚さ×かさ密度)と良い相関関係を示す。単位面積あたりのCNT集合体の重量の増加と共に放射率は増加する。この増加は、CNT集合体の状態が図5の17の状態に近づき透過が減少しているためであると考えられる。単位面積あたりのCNT集合体の重量が約2.0mg/cm2以上で赤外放射率は略一定値となる。これは透過がほぼゼロとなり、それ以上放射率の増加に寄与しなくなったためと推測される。逆に単位面積あたりのCNT集合体の重量が減少すると、放射率は減少し本発明の効果が得られない。
〔反射率の測定1〕
厚さ460μm、かさ密度0.065g/cm3の単層CNT集合体に関し、紫外〜近赤外域(波長0.2〜2μm)における反射率(半球反射率=正反射率+拡散反射率)スペクトルを、積分球を装備した一般的な分散型分光光度計で測定した。具体的には、光源(ハロゲンランプまたは重水素ランプ)からの光を、積分球内面に固定された試料にモノクロメータを通して照射し(入射角8°)、積分球で集光した試料からの反射光強度を、ホトマル(光電子増倍管)あるいはPbSセルで測定した。
【0109】
反射率は次式で求められる。
【0110】
R=I/IRef/RRef
但し、R:試料の反射率、I:試料の反射光強度、IRef:標準反射板(スペクトラロン標準白色板)の反射光強度、RRef:標準反射板の絶対反射率(反射板の製造者等によって別途評価された値)である。
【0111】
その結果、図32に示した通り、波長依存性に乏しい平坦なスペクトルが得られた。これによると、反射率は0.01〜0.02(平均0.016、標準偏差0.005)である。本試料は不透明体であるので、この反射率は、式5から放射率0.98〜0.99に相当し、従来の黒化処理表面よりも高い。また吸収率は、式3から0.98〜0.99である。
【0112】
なお、スペクトルに見られる小さなピークは、検出器の切り替え(0.8μm近傍)および高次光カットフィルタの切り替え(近赤外域)によるものと考えられる。また、僅かな傾きが見られるが、本試料の反射率は非常に低く装置の検出可能限界付近での測定であるため、これが試料本来のものか、或いは測定装置及び標準反射板の特性に起因するものかを判断することは困難である。
〔反射率の測定2〕
上述の単層CNT集合体に係る近赤外〜極遠赤外(波長2〜20μm)における反射率(半球反射率)スペクトルを、積分球を装備した一般的なフーリエ変換赤外分光光度計で測定した。具体的には、赤外熱光源(セラミックス)からの光を、積分球内面に固定された試料に干渉計を通して変調した上で照射し(入射角10°以下)、試料からの反射光(正反射+拡散反射)を積分球で集光した。焦電型赤外検出器またはMCT検出器でその強度を測定し、これをフーリエ変換することでスペクトル波形を得た。そして試料および標準反射板(金ミラー)について同様の測定を行い、その比を計算することで反射率を求めた。
【0113】
その結果は図33に示す通り、波長依存性に乏しい平坦なスペクトルが得られた。これによると、反射率は0.01〜0.02(平均0.0097、標準偏差0.004)である。本試料は不透明体であるので、この反射率は、式4から放射率0.98〜0.99に相当し、従来の黒化処理表面よりも高い。この値やスペクトルの平坦さは、同じ波長域で放射率を直接に測定した前述の〔放射率の測定1〕の結果と一致し、測定の正しさを裏付けている。また吸収率は、式2から0.98〜0.99である。
〔反射率の測定3〕
上述の単層CNT集合体に係る極遠赤外域(25〜200μm)における反射率(正反射率)スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計で測定した。具体的には、水銀光源からの光を真空下にて干渉計を通して試料に照射し(入射角10°)、ポリエチレン窓を備えた遠赤外用焦電型検出器を用いて正反射を検出した。その反射強度と標準反射板(アルミミラー)の反射率との比をとることで試料の反射率を計算した。
【0114】
その結果、図34に実線で示す波長依存性の小さいスペクトルが得られた。これによると、反射率は0〜0.01(平均0.0042、標準偏差0.006)であった。なお、この波長域では積分球が使用できず、正反射のみの測定であるため、測定1および2に比べて一桁低い反射率が測定されている。この反射率は、半球反射率ではないので、測定1および2の結果と直接的に比較することはできない。しかし、前記[反射率の測定2]の結果との連続性及び、反射スペクトルに波長依存性が見られないことに鑑み、この波長域における反射率も測定1および2の波長域の反射率と同程度と考えられる。
【0115】
この波長域では光線が透過する可能性があるため、併せて透過率スペクトルも測定した。その結果は図34に破線で示す通り、単層CNT集合体+基板が0〜0.002、また図34に一点鎖線で示す通り、基板のみが0.2〜0.4であった。これらからCNT集合体の透過率は0〜0.0005と計算され、本試料は不透明とみなされる。
〔反射率測定1〜3のまとめ〕
反射率測定1、2での反射率は0.01〜0.02であり、式3、4より、放射率0.98〜0.99に換算できる。この値は、放射率測定の結果と一致する。
【0116】
反射率測定3での反射率は、半球反射率ではないので、垂直放射率に換算することはできないが、そのスペクトルの平坦さから、反射率測定2での測定値がそのまま継続すると考えることが合理的である。
【0117】
即ち、反射率測定1〜3の結果から、このCNT集合体が、0.2〜200μmの波長域(紫外から遠赤外)において非常に高く一様な放射率(0.98〜0.99)を維持することが判った。
【0118】
上述の測定結果のまとめを以下に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
〔正反射率の角度依存性〕
次に本発明による単層CNT集合体の正反射率の角度依存性を測定した。具体的には、波長5μmの無偏向光をCNT集合体に入射させ、入射角(θ)と受光角(=θ)とをそれぞれ5°〜70°の範囲で同時に変化させつつ正反射率を測定した。その結果、CNT集合体の正反射率は、図35に示す通り、角度の増加と共に3×10−4から6×10−2まで増加した。この結果から、CNT集合体の反射率は、入射角が大きくなるに連れて増加するものの、それは非常に低い値であり、即ち本発明のCNT集合体による電磁波放射・吸収効果は、垂直入射のみに留まらないことが判った。
〔比較例1〕
〔放射率の測定1〕と同様にして厚さ2μm以下の単層CNT集合体に係る放射率を測定した。しかし均一なCNT配向集合体の合成が困難であり、基板の一部が容易に露出し、放射率は0.96を下回り、本発明の効果が得られなかった(図31−A)。
〔比較例2〕
シリコン基板から剥離した単層CNT集合体をバス型超音波処理装置でエタノール中に微粒子化分散させたものを、新たな基板に噴霧して乾燥させた(厚み17μm、密度0.4g/cm3)。この試料(無配向)の放射率を測定したところ、平均0.885、標準偏差0.007、最大値と最小値の差は0.03であった。CNTは基板に略平行に分布するため、配向度を示すヘルマン係数はほぼ−0.5である。本発明によるCNT集合体と比較して放射率値が低く、一様性にも乏しかった(図36/試料1)。
【0121】
このことは、所定の配向性およびかさ密度が達成されていないCNT集合体では、本発明のような高く且つ一様な放射率(同時に吸収率)が実現できないことを示す(図31−B)。
〔比較例3〕
比較例2と同様に、バス型超音波処理装置を用いてエタノール中に微粒子化分散させたものを、減圧ろ過によって孔径0.2μmのメンブレンフィルター上に堆積させ乾燥させた(厚み84μm、密度0.65g/cm3)。この試料について放射率を測定したところ、平均0.728、標準偏差0.003、最大値と最小値の差は0.108であり、CNTは基板に略平行に分布するため、配向度を示すヘルマン係数はほぼ−0.5である。本発明によるCNT集合体と比較して放射率(吸収率)が低く一様性にも乏しかった(図36/試料2)。
【0122】
このことは、所定の配向性およびかさ密度が達成されていないCNT集合体では、本発明のような高く且つ一様な放射率(吸収率)が実現できないことを示す(図31−B)。
〔比較例4〕
上述のCNT集合体を、そのままローラープレスを用いてポリイミドフィルムに圧着した(厚み10μm、密度1.27g/cm3)。この試料に関する放射率を測定したところ、平均0.689、標準偏差0.062、最大値と最小値の差は0.137であり、CNTは基板に略平行に分布するため、配向度を示すヘルマン係数はほぼ−0.5である。本発明によるCNT集合体と比較して放射率(吸収率)が低く、一様性にも乏しかった(図36/試料3および図31−B)。
【0123】
この試料は、配向性は保たれているが、その方向は基板と略平行である。また、かさ密度が高まっていることにより、本発明の放射率・吸収率特性が実現できない(図31−B)。
〔比較例5〕
前述のCNT集合体の製造方法により、鉄触媒層の膜厚を変更して垂直配向した多層CNTからなる集合体を製作した(試料1:厚さ550nm、かさ密度0.01g/cm3、試料2:厚さ400nm、かさ密度0.01〜0.02g/cm3)。これらのSEM画像によると、多層CNT集合体の表面(図37)は、単層CNT集合体(図25−B)に似ているが、CNTの直径が大きく、CNT同士の間隔も大きいことが判る。またTEM画像(図38)によると、CNTの直径は10〜20nmであり、3〜5層程度のグラーフェン層から構成されていることが判る。
【0124】
これら2つの試料に関する垂直放射率を測定したところ、図39に示す通り、試料1は平均0.96(標準偏差0.005、最大値と最小値の差0.019)、試料2は平均0.94(標準偏差0.007、最大値と最小値の差0.027)であり、赤外域においては従来技術の黒化処理表面と同程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明による電磁波放射体は、放射温度計やサーモグラフィー(熱画像装置・赤外線カメラ)の校正に用いる標準器(空洞型黒体炉、平面型黒体炉)や放熱板などに適用可能である。また、良い放射体は同時に良い吸収体でもある(式2)ので、本発明は、光・電磁波吸収体としても利用可能であり、吸収体としては、電磁波遮蔽装置(赤外域)、赤外線センサ(赤外域)、太陽光利用装置(可視〜近赤外域)、反射防止装置(赤外〜紫外域)など幅広い分野に適用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波放射体・電磁波吸収体に関し、特に基板の表面と交差する向き(好ましくは法線方向)に配向した複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTとも呼ぶ)の集合体で構成された電磁波放射体・電磁波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先ず、本発明における技術用語について以下に定義する。
放射および電磁波:
物質の熱エネルギー状態(熱力学温度)に応じて放出される電磁波であり、いわゆる熱放射(熱ふく射)を指す。なお、ここでいう電磁波はマイクロ波やラジオ波などに限定されず、紫外、可視、赤外などの波長領域の光線も含んだいわゆる広義の電磁波である。
【0003】
電磁波放射体:
電磁波を放射する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体であり、粉体、シート、基板など形状は問わない。電磁波放射体として好適であるのは、可能な限り広い波長範囲にわたって高い放射率を示す材料である。
【0004】
電磁波吸収体:
電磁波を吸収する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体であり、粉体、シート、基板など形状は問わない。電磁波吸収体として好適であるのは、可能な限り広い波長範囲にわたって高い吸収率を示す材料である。
【0005】
放射率:
実在する物体のある温度における熱放射強度と、同じ温度の理想的な黒体の放射強度との比であり、これをもって実在する物体が示す熱放射性能の指標とする。即ち、放射率εは次式で与えられる。
【0006】
ε=W/WB
但し、W:実在の物体の放射強度、WB:黒体の放射強度
黒体の放射率は、全波長において一定(=1)であり、実在する物体の放射率は、0〜1の値をとり、1に近いほど熱放射効率が高い。なお、本明細書における放射率εは、特に断らない限り、物体表面の法線方向への熱放射について測定された放射率、即ち垂直放射率を指す。
【0007】
因みに黒体とは、外部から入射する全ての放射を完全に吸収する仮想の物体であり、現実には存在しない。黒体から熱放射される光・電磁波の強度及び波長分布は、黒体の温度のみによって決まるとされている(プランクの法則)。
【0008】
反射率・吸収率・透過率:
実在する物体に電磁波が入射した場合、一般に、その一部は表面で反射され、残りは物体に浸透した後、吸収されるか透過する。ある入射エネルギに対する反射エネルギ、吸収エネルギ、透過エネルギの比を、それぞれ反射率ρ、吸収率α、透過率τと定義する。この三者には次の関係が成り立つ。
【0009】
ρ+α+τ=1・・・(1)
また、熱平衡下にある物体の吸収率αは放射率εと等しい(キルヒホッフの法則)と仮定でき、
α=ε・・・(2)
従って、高い放射率を示す物体は同時に高い吸収率を示すため、効率の良い電磁波放射体は、同時に効率の良い電磁波吸収体であるといえる。
【0010】
式1、2より、反射率ρおよび透過率τから放射率εを算出することができる。即ち、式1、2から吸収率αを消去し、
ε=1−ρ−τ・・・(3)
さらに、不透明体の場合は透過率τ=0であるので、
ε=1−ρ・・・(4)
と簡略化される。
【0011】
但し、この式を用いて放射率εと反射率ρとを相互に変換する際には、測定波長や受光角度などの点で両者が対応している必要がある。例えば垂直放射率に対応する反射率は、例えば垂直入射の半球反射率(2π空間に広がった全反射光(=正反射光+拡散反射光)の測定に基づいて算出される反射率)である。つまり垂直放射率を求める場合に用いる反射率は、垂直方向入射の半球反射率もしくは、それと等価な物理量(例えば半球入射の方向反射率)でなければならない。
【0012】
放射率ε、吸収率α、反射率ρ、および透過率τは、測定波長や受光角度などに関する対応関係に留意すれば、式1〜4を用いて相互に変換可能である。不透明体(透過率τ=0)の場合の放射率ε、吸収率α、および反射率ρの相互換算表を以下に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
波長域:
吸収または放射可能な波長域については複数の定義があるが、ここでは紫外(0.014〜0.4μm)、可視(0.4〜0.7μm)、近赤外(0.7〜3μm)、中赤外(3〜6μm)、遠赤外(6〜12μm)、極遠赤外(15−100μm)とした。各波長域で電磁波吸収体により紫外線遮光(リソグラフィー技術、医療、紫外)、光学機器の反射・迷光防止(可視)、熱線遮蔽(近赤外)、集熱器(可視〜近赤外)、放射温度計測(中赤外〜遠赤外)、電磁遮蔽(遠赤外〜極遠赤外)などの効果が得られる。また電磁波放射体により放熱器(中赤外〜遠赤外)、放射温度計測(中赤外〜遠赤外)、発熱器(赤外)などの効果が得られる。
【0015】
かさ密度:
CNT集合体における体積と重量との比であり、厚さが一様の場合には下式で与えられる。
【0016】
かさ密度=CNT集合体の重量/(CNT集合体の面積×CNT集合体の厚さ)
今日、電磁波放射体および電磁波吸収体が幅広い分野で必要とされている。理想的な電磁波の放射体かつ吸収体である物体として黒体が挙げられるが、これは外部から入射する全ての放射を完全に吸収し、また最高効率で熱放射する仮想の物体であり、現実には存在しない。そこで産業的には、例えば、適宜な光吸収材料を顔料とした塗料の塗布や、化成処理または熱処理による様々な表面処理(黒化処理)などにより、電磁波の放射率の向上が図られている。電磁波吸収体もまた同様に塗料の塗布、化成処理、熱処理などにより実現されている。
【0017】
従来の代表的な黒化処理表面の赤外域における放射率スペクトルを図1に示す。この放射率の測定は、Ishii and Ono (2001)の装置(Measurement Science and Technology 12, 2103-2112)を用いて行った。図1より、従来の黒化処理表面で実現される放射率の上限は0.95〜0.97に止まること、またスペクトルには大小のピークや傾きが存在し、放射率が全波長に渡って一様ではないことが判る。式(2)に示される通り、放射率と吸収率は等価である。従って図1より、従来の黒化処理表面で実現される吸収率の上限も0.95〜0.97に止まり、またスペクトルには大小のピークや傾きが存在し、吸収率が全波長に渡って一様ではないことが判る。
【0018】
このような従来の黒化処理表面によると、表面処理に用いる物質固有の電子状態や格子振動といった回避不能な物質の本質的な性質が原因で放射あるいは吸収可能な波長に偏り(つまりスペクトル上のピークや、スペクトルの傾斜)が生ずるため、広い波長範囲に渡って一様な放射特性あるいは吸収特性を得ることは困難である。これを改善する手段として、物体の表面構造を制御することで放射・吸収特性を向上させることが知られており、例えば、図1のAnritsu blackは、物体表面にミクロンオーダーの凸凹な構造を形成することで放射率(=吸収率)の向上を図っている。しかしながら、その性能は、長波長に向かうほど低下しており、電磁波の放射体あるいは吸収体として満足できる性能が得られているとは言い難い。
【0019】
他方、新素材として近年注目を集めているカーボンナノチューブ(CNT)は、光吸収能力の高い物質でもあることが知られており、その特性を利用した焦電センサ(非特許文献2を参照されたい)や、ボロメータ(非特許文献3を参照されたい)などの開発が報告されている。また石英板上に形成した直径30〜50nmの多層CNTが基板表面に垂直な方向に配向した集合体(以下、単に集合体と呼ぶ)の反射率スペクトルを測定したところ、0.5〜2.5μmの波長範囲において0.982の吸収率が推定されたことが非特許文献4に発表されている。さらに、直径8〜11nm、かさ密度0.01〜0.02g/cm3の多層CNT集合体の反射率を測定したところ、可視光域(波長0.457〜0.633μm)において、0.045%という低い値が測定されたことが非特許文献5に発表されている。しかし光源として単波長レーザー(458、488、514、633nm)を使用しているためスペクトルが測定されておらず、反射特性の一様性が評価されているとはいえない。これらの報告は、CNT集合体が、電磁波放射体そして電磁波吸収体に適用可能であることを示唆している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Kodama et al. IEEE Trans. Inst. Meas. 39, 230-232, 1990
【非特許文献2】Theocharous et al. Applied Optics 6, 1093
【非特許文献3】Itkis et al. Science 312, 413
【非特許文献4】Cao et al. Solar Energy Materials & Solar Cells 70, 481
【非特許文献5】Yan et al. Nano Letter 8, 446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかるに、これらの報告によると、電磁波放射体あるいは吸収体としてCNT集合体が有効なことは明らかであるが、その効果は可視〜近赤外域の波長に止まっており、より広い波長範囲での評価はなされていない上、電磁波放射体・吸収体の性能の一つとして重要であるスペクトルの一様性も十分には評価されていない。
【0022】
本発明は、このような観点に立脚してなされたものであり、その主な目的は、大きなピークや傾斜をもたない平坦なスペクトルを示す、換言すれば、より一層広い波長範囲に渡って一様に高い放射率特性あるいは吸収率特性を得ることができる電磁波放射体・電磁波吸収体を提供することにある。こうした利用可能な波長範囲の拡大と一様性の確保により、例えば電磁波放射体として電子電気機器の放熱性の改善、広い波長範囲にわたって利用可能な赤外光源など、電磁波放射体を利用した製品の高機能化、高精度化、汎用性の拡大などを図ることができる。また電磁波吸収体としてより精度の高い赤外センサ、広い波長範囲にわたる高度な電磁遮蔽や光学機器の反射防止など、電磁波吸収体を利用した製品の高機能化、高精度化、汎用性の拡大などを図ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
このような課題を解決するために本発明においては、下記のような技術的手段が提供される。
【0024】
[1]規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波放射体であって、
前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
【0025】
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
【0026】
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つで定義されることを特徴とする電磁波放射体。
【0027】
[2]上記[1]の発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において、半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波放射体。
【0028】
[3]上記[1]または[2]の発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域で、実質的に半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波放射体。
[4]前記[1]から[3]のいずれかの発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において透過率1%以下であることを特徴とする電磁波放射体。
【0029】
[5]前記[1]から[4」のいずれかの発明において、カーボンナノチューブ配向集合体の炭素純度が95%以上であることを特徴とする電磁波放射体。
【0030】
[6]前記[1]から[5]のいずれかに記載の電磁波放射体を有してなる物品。
【0031】
[7]規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波吸収体であって、
前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つで定義されることを特徴とする電磁波吸収体
[8]上記[7]の発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において、半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波吸収体。
[9]上記[7]または[8]のいずれかの発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域で、実質的に半球反射率が0.02以下であることを特徴とする電磁波吸収体。
[10]前記[7]から[9]のいずれかの発明において、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において透過率1%以下であることを特徴とする電磁波吸収体。
[11]前記[7]から[10]のいずれかの発明において、カーボンナノチューブ配向集合体の炭素純度が95%以上であることを特徴とする電磁波吸収体。
[12]前記[7]から[11]のいずれかに記載の電磁波吸体を有してなる物品。
【発明の効果】
【0032】
このような本発明によれば、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の一部の波長範囲において垂直分光放射率が0.96以上の電磁波放射体、及び、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域おいて実質的に半球反射率が0.02以下の電磁波放射体を提供する上に多大な効果を奏することができる。また、紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の一部の波長範囲において垂直分光放射率が0.96以上の電磁波吸収体、及び紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域において実質的に半球反射率が0.02以下の電磁波吸収体を提供する上で多大な効果を奏することができる。
【0033】
なお、ある波長領域において放射率または反射率が実質的に指定値以上(以下)であるとは、仮にその波長領域内に指定値が満たされない波長範囲があったとしても、その範囲が領域全体からみて一部に限定されるか、あるいはその波長領域における放射率または反射率の平均値が指定値を満たす場合を指す。
【0034】
図41は電磁波放射体における判断例を示す。放射率スペクトル31は、波長範囲の一部において指定値30を満たさないが、その波長範囲がごく一部であるため放射率は実質的に指定値30以上であり、本明細書の電磁波放射体として好適である。放射率スペクトル32は、波長範囲における放射率平均値が指定値30を満たさないが、指定値を満たさない波長範囲がごく一部に限られるため放射率は実質的に指定値30以上であり、本明細書の電磁波放射体として好適である。放射率スペクトル33は、波長領域内の広い範囲において放射率が指定値30を満たさないが、波長領域における平均値は指定値30を満たすので放射率は実質的に指定値30以上であり本明細書の電磁波放射体として好適である。放射率スペクトル34は、波長領域内の広い範囲において放射率が指定値30を満たさず、かつ波長領域における平均値も指定値30を満たさないため放射率は実質的に指定値30以下であり本明細書の電磁波放射体として不適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来技術による黒化処理表面の放射率スペクトルである。
【図2】CNT集合体における光吸収機構の模式的説明図である。
【図3】触媒微粒子添加量と単層CNT配向集合体の重量密度との関係を示すグラフである。
【図4】単層CNT配向集合体の高さ−重量、および高さ−密度の関係を示すグラフである。
【図5】CNT集合体のかさ密度および厚さと透過率との関係を示す説明図である。
【図6】CNTの光学的異方性に関する模式的説明図であり、AはCNT1本を、BはCNT集合体を示す。
【図7】CNTの傾斜角度(基板表面の法線とCNT伸長方向のなす角度)と正反射光の進行方向との関係を示す模式的説明図であり、Aは傾斜角45°以下の場合であり、Bは傾斜角45°以上の場合である。Cは、実際のCNTでは反射以外にも吸収と透過が起こっていることを示す光の入射部の拡大図である。
【図8】θ−2θ法の測定装置を示す模式的構成図であり、(a)はその斜視図であり、(b)はその平面図である。
【図9】単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定したX線回折スペクトル線図である。
【図10】単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定した(CP)回折ピークのX線回折スペクトル線図であり、(a)はX線入射方向とCNT配向方向とが平行する場合であり、(b)はX線入射方向とCNT配向方向とが直交する場合である。
【図11】単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定したX線入射方向とCNT配向方向とが平行する場合と、X線入射方向とCNT配向方向とが直交する場合との(002)、(100)、(110)回折ピークのX線回折スペクトル線図である。
【図12】ラウエ法の測定装置を示す模式的構成図である。
【図13】ラウエ法による単層CNT配向集合体の回折パターン画像である。
【図14】基板から剥離した粉体状単層CNT配向集合体の電子顕微鏡(SEM)画像の高速フーリエ変換画像である
【図15】図14の高速フーリエ変換画像から求めた強度プロフィールである。
【図16】ラウエ法による回折パターン画像からのX線強度関数の一例である。
【図17】ラウエ法による回折パターン画像からのX線強度関数の導出方法を示す説明図である
【図18】本発明のCNT製造装置を概念的に示す側面図である。
【図19】本発明のCNT製造方法を概念的に示すフロー図である。
【図20】単層CNT配向集合体の合成手順を示すフロー図である。
【図21】図20に示した合成手順のプロセス条件である。
【図22】高さが約1cmまで成長した単層CNT配向集合体のデジタルカメラ画像である。
【図23】高さが12μmまで成長した単層CNT配向集合体の真横からのSEM画像である。
【図24】テレセントリック光学測定系を用いて成長中に計測した単層CNT配向集合体の成長曲線である。
【図25】単層CNT集合体の走査型電子顕微鏡画像の一例である。
【図26】単層CNT集合体の透過型電子顕微鏡画像の一例である。
【図27】単層CNT集合体表面のレーザー顕微鏡画像の一例である。左上囲みは画像の一部を拡大表示したもの、また下のグラフは断面の高さプロファイルである。
【図28】単層CNT集合体のラマンスペクトルの一例である。ラベルG,D、RBMは、CNTによる特徴的なピークであるGバンド、Dバンド、RBMモードを示す。また右上囲みはRBMモードの拡大である。
【図29】単層CNT集合体の熱重量分析の結果の一例を示すグラフである。
【図30】厚さの異なる単層CNT集合体の垂直分光放射率スペクトルである。図中の数字は集合体の厚みを示す。
【図31】厚さの異なる単層CNT集合体の垂直放射率(測定波長5-12μmにおける平均値)と集合体のバルク密度との関係(A)、および集合体の面積あたり重量との関係(B)である。
【図32】波長0.2〜2μmにおける単層CNT集合体の反射率スペクトルの一例である。
【図33】波長2〜20μmにおける単層CNT集合体の反射率スペクトルの一例である。
【図34】波長25〜200μmにおける単層CNT集合体の反射率および透過率スペクトルの一例である。
【図35】単層CNT集合体の正反射率(入射角=反射角=θ)の角度依存性を示すグラフである。
【図36】垂直配向構造をもたない単層CNT膜の垂直放射率スペクトルの例である。
【図37】多層CNT集合体の走査型電子顕微鏡画像の一例である。
【図38】多層CNT集合体の透過型電子顕微鏡画像の一例である。
【図39】多層CNT集合体の垂直放射率スペクトルの例である。
【図40】本発明におけるCNT集合体と基板との関係を例示した概略図である。
【図41】放射率指定値を実質的に満たす場合を例示する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0037】
本発明に係る電磁波放射体は、電磁波を熱放射する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体である。また本発明に係る電磁波吸収体は電磁波を吸収する機能をもった材料、もしくはこの機能をもった材料で被覆された物体である。
【0038】
前述(段落0005)の通り、ある物体への電磁波の入射波は、反射、吸収、あるいは透過のいずれかをたどる。紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の一部の波長範囲において、垂直分光放射率0.96以上、およびまたは、半球反射率が0.02以下の波長依存性が極めて小さい一様な放射・吸収特性を実現するためには、反射および透過を可能な限り低減させることが肝要である。反射および透過の低減によって結果的に吸収が増加し、吸収が増加すれば放射も等しく増加する(キルヒホッフの法則(式2))。
【0039】
垂直分光放射率0.96以上を実現することで、電磁波放射体あるいは電磁波吸収体としての一般的な用途、例えば紫外、可視、赤外など各波長領域における遮光や反射防止、集熱器、放熱器、電磁波遮蔽などに利用可能となる。また半球反射率0.02以下を実現することで、より高い放射・吸収特性が求められる用途、例えば熱型赤外センサのコーティングや精密計測機器の迷光防止などに応用可能となる。また電磁波放射体・吸収体の透過率は、先述のとおり吸収率と放射率を向上させるためには低いほど望ましく、不透過が理想的ではあるが、電磁波放射体あるいは吸収体のかさ密度、厚み、目的とする電磁波の波長域などによっては不透過の達成が困難である場合も予想される。実施に当たっては、好ましくは透過率0.01以下であれば垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適である。
【0040】
本発明においては、反射の低減のため、CNT集合体におけるCNTのかさ密度の制御、およびCNTの配向性の制御を行うこととし、透過の低減のため、CNT集合体の厚さの制御、およびCNTのかさ密度の制御を行うこととする。これらを行うことにより、図2に示すように、CNT集合体10の表面からの反射11を低減させ、且つCNT集合体10の内部(CNT間の空隙)へ電磁波12を進入させ、狭くて不規則なCNT同士の空隙を通過する間に電磁波のエネルギを吸収・減衰させることができる。
〔かさ密度〕
かさ密度を制御することにより、CNT集合体を空隙に富んだ構造とすることができる。かさ密度の制御は、多数のCNTが、例えば基板面の法線方向に配向したCNT集合体における単位面積あたりのCNTの本数を制御することで実現し得る。
【0041】
このように、かさ密度を制御させてCNT同士の空隙を増やすことにより、CNT集合体全体の電子密度の低下が起こり、結果として誘電率が下がる。基礎光学によれば、屈折率は誘電率の平方根とほぼ等しいので、かさ密度を制御することでCNT集合体の屈折率を低下させることができる。
【0042】
さらにフレネルの法則、すなわち、
ρ={(n−n0)/(n+n0)}2
但し、ρ:表面への垂直入射に対する反射率、n:物質の屈折率、n0:媒質(空気)の屈折率より、屈折率の減少は反射率の減少を招くので、かさ密度を減少させた結果として反射率の低減が得られる。なお、空隙の導入においては、1本1本のCNTと空隙とが電磁波の波長スケールからみて十分均一に分布している必要がある 。
【0043】
本発明のCNT配向集合体のかさ密度(重量密度)は0.002〜0.2g/cm3である。このかさ密度は、触媒微粒子の密度と種類を調整することによって制御可能である。因みに、Chem. Mater. 誌、第13巻(2001年)第1008頁に述べられた方法によって触媒が合成された鉄微粒子ナノパーティクルを用い、後述する実施例1の条件で生成された単層CNT配向集合体における触媒微粒子の添加量と単層CNT配向集合体のかさ密度との関係を図3に示す。これにより、触媒微粒子の添加量を変化させることで単層CNT配向集合体のかさ密度を制御可能なことが分かる。
【0044】
本発明の単層CNT集合体の成長高さと重量および密度との関係の一例を図4に示す。本図から、重量は成長高さに比例して増加しており、単層CNT配向集合体の構造が、成長高さに関わりなく均質であることが分かる。そこで、かさ密度を、単層CNT配向集合体の体積を重さで割ったものと定義すれば、かさ密度は成長高さに関係なく殆ど一定(0.036g/cm3)となることが分かる。
【0045】
かさ密度が0.002g/cm3〜0.2g/cm3の範囲にあると、上記したように、かさ密度を制御することでCNT集合体の屈折率を低下させることができ、結果として、反射率を低減させることができる。かさ密度が0.2g/cm3を超えると、屈折率が高くなり、反射率が増加する。またかさ密度が0.002g/cm3に満たないと、CNT配向集合の一体性が失われため、カーボンナノチューブ配向集合体を形成することが困難となる。
〔CNT集合体の厚みの制御とかさ密度の制御〕
透過を低減するためには、図5の17・19に示すように、CNT集合体の厚さを大きくして電磁波が通過する経路を十分に長くするか、あるいは図5の16・17に示すように、CNT集合体のかさ密度を大きくしてCNTの分布密度を増加させて電磁波が透過しにくいようにする必要がある。もし厚さとかさ密度との両方を十分に確保できれば(図5の17)、電磁波の透過を容易に最小限に抑えることができるが、どちらか一方が不足している場合でも、他方を十分に確保すれば透過を低減させることが可能である(図5の16・19)。
【0046】
反射の低減のためには、上述の通り、CNT集合体のかさ密度を減少させる必要がある。しかしながら、かさ密度が過度に低いと、透過を増加させて放射率を減少させることが考えられる。単位面積あたりのCNT集合体の重量(=CNT集合体の厚さ×かさ密度)が約1.0mg/cm2以上であれば、透過率を1%以下にすることができ、垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適である。
【0047】
CNT配向集合体の厚さ(高さ)は2μm以上、10cm以下、より好ましくは、10μm以上、10cm以下の範囲にあることが好ましい。この厚さ範囲にあるCNT配向集合は、良好な配向性を備え、極めて一様で波長依存性がない低反射率、高放射率、高吸収率を示す。高さが2μmに満たないと、均一なCNT配向集合体の合成が困難であり、基板の一部が容易に露出し、反射率(放射率・吸収率)が増加(減少)する(図31−A)。高さが10μmに満たないと、配向性が低下し、反射率(放射率・吸収率)が増加(減少)する。
【0048】
また高さが10cmを超えるものは、生成に長時間を要するために炭素系不純物が付着しやすくなり、グラファイト状になり、反射率(放射率・吸収率)が増加(減少)する。
〔CNT集合体の配向性〕
CNT集合体を構成する複数のCNTの方向を揃えること(配向)により、単一CNTのもつ光学的異方性をCNT集合体においても実現し、反射率の低減を可能とする。すなわち、図6−Aに示すように、単一CNTは、CNT13の軸と平行な方向からの入射波14に対して屈折率が低く、従って反射率も低い。なぜならば、電磁波がつくる電場がCNTの軸に直交し、そしてこの方向には電子が振動できない(つまり電気感受率が低い)からである。つまり、図2並びに図6−Bに示すように、CNT集合体10の表面に直交する方向からの入射波12は、その大部分がCNT集合体10の内部に進入し、CNT集合体層の表面からの反射11は極めて低くなる。
【0049】
他方、単一CNTは、CNT13の軸に直交する方向からの入射光15に対しては、比較的大きな屈折率および反射率を示す(図6−A)。その理由は、電磁波のつくる電場がCNTの軸方向と合致し、この方向には電子が振動できるからである(つまり電気感受率が高い)。この光学的異方性のため、基板の法線方向に配向したCNT集合体は、無配向なCNT集合体に比べて反射率を低く抑えることができ、吸収率および放射率を増加させるために有利である。
【0050】
配向のもう一つの作用は、仮に入射波が集合体を構成する個々のCNTによって反射されたとしても、その正反射がCNT集合体の表面へ向かわずに裏面つまり基板方向へ導かれるため、CNT集合体表面の反射率を抑制できることである。例えば図6−Bのごとく、CNT集合体に垂直入射する電磁波を仮定する。もし図7−Aに示されるように基板面の法線とCNTのなす角度が小さい場合、正反射は集合体裏面方向へ向かうためCNT集合体表面の反射率の増加に寄与しない。対照的に、図7−Bのように角度が大きい場合、正反射はCNT集合体表面へ向かうためCNT集合体表面の反射率を増加させる。このようにCNTが配向することによって、個々のCNTによる正反射が集合体裏面へ向かうようにすることができ、集合体表面の反射率を低減することができる。この効果を得るためには、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
【0051】
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
【0052】
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つを満たせばよい。また、前述のX線回折法において、CNT間のパッキングに起因する(CP)回折ピーク、(002)ピークの回折強度およびCNTを構成する炭素六員環構造に起因する(100)、(110)ピークの平行と垂直との入射方向の回折ピーク強度の度合いが互いに異なるという特徴も有している。
【0053】
このような条件を満たす、CNT配向集合体は、構成している一本一本のCNTが規則的な方向に配向していて、垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適である。また、このような条件を満たす、CNT配向集合体は、極めて一様で波長依存性がない低反射率、高放射率、高吸収率を示し、様々な用途に好適である。なお、ヘルマン配向係数が1の単層CNT配向集合体は、完全に配向したものとなる。
【0054】
さらには、カーボンナノチューブ配向集合体の法線とCNTとのなす角度は45°以下(ヘルマン係数が0.25から1)であればこの効果はいっそう顕著になり、より好ましい。また、実際のCNTでは、反射と同時に吸収および透過が起こっていることを明記しておく(図7−C)。
【0055】
以下に詳細に説明する。
(1)X線回折(θ−2θ法)による配向性評価
θ−2θ法X線回折装置のセットアップ状態を図8に示す。図8(a)はその斜視図、図(b)はその平面図である。この構成において、配向性を有する物体に対し、配向方向に平行する第1の方向からX線を入射する場合(以下、平行入射)と、配向方向に直交する第2の方向からX線を入射する場合(以下、垂直入射)との両方についてX線回折スペクトルを観測すると、垂直入射の反射強度が平行入射の反射強度よりも高くなる角度θと反射方位とが存在し、且つ平行入射の反射強度が垂直入射の反射強度よりも高くなる角度θと反射方位とが存在する。
【0056】
本発明のCNT配向集合体は、図9〜図11に示すように、平行入射のX線回折スペクトルのピーク回折強度は、CNT間のパッキングに起因する(CP=close-packing)および(002)が垂直入射よりも高く、CNTを構成する炭素六員環構造に起因する(100)および(110)が垂直入射よりも低い。また垂直入射のX線回折スペクトルのピーク回折強度は、(CP)および(002)が平行入射よりも低く、(100)および(110)が平行入射よりも高い。なお、図9は、単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定したX線回折スペクトル線図、図10は、単層CNT配向集合体をθ−2θ法で測定した(CP)回折ピークのX線回折スペクトル線図であり、図10(a)はX入射方向とCNT配向方向が平行する場合であり、図10(b)はX線入射方向とCNT配向方向が直交するう場合である。
【0057】
このように本発明のCNT配向集合体においては、(CP)および(002)のピーク回折強度と、(100)および(110)のピーク回折強度とは、X線の入射方向が変わると大きく変化する。完全に等方的(無配向)な物体の場合は、X線の入射方向によって回折強度は変化しないので、このことは、本発明の単層CNT配向集合体が、異方性を有している、換言すると、配向性に富んでいて、垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適であることを示している。
【0058】
X線の入射方向による各回折ピークの強度比を、本発明の単層CNT配向集合体と無配向CNT集合体とで比較した結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
(2)X線回折(ラウエ法)による配向性評価
ラウエ法X線回折装置のセットアップ状態を図12に示す。このラウエ法において、CNT配向集合体の円柱状をなす試料を配向方向に平行な軸上で回転させると共に、直径0.5mmのピンホールコリメータを通過したX線を配向方向に直交する方向から試料に照射し、CCDパネル上に回折パターン像を結像させた。
【0061】
その結果、図13に示すように、本発明によるCNT配向集合体の(CP)、(002)、(100)などの回折ピークのパターン像は楕円状となった。完全に等方的な物体のラウエ回折パターン像は真円状となるので、このことは、本発明による単層CNT配向集合体が異方性を有している、換言すると、配向していて垂直分光放射率0.96以上、半球反射率0.02以下を実現するのに好適であることを示している。
(3)ヘルマンの配向係数による配向性評価
ヘルマンの配向係数を算出することで、CNT配向集合体の配向度を定量的に評価することができる。
【0062】
ヘルマンの配向係数Fは以下の式で定義される。
【0063】
【数1】
【0064】
但し、φはφ=0を参照(基準)方位とした方位角(azimuthal angle)であり、I(φ)は回折強度関数である。
【0065】
ヘルマンの配向係数においては、φ=0方向について完全配向ならばF=1となり、無配向ならばF=0となる。
【0066】
回折強度関数I(φ)は、CNT配向集合体の構造を測定、観察する手段を適宜用いることで求めることができる。
【0067】
例えば、図14は基板から剥離した粉末状単層CNT配向集合体のSEM画像を高速フーリエ変換(以下、FFTとも称する)して各方向の凹凸の分布を周波数分布で表した平面FFT画像である。FFT画像(図14)における変換強度を変数としてヘルマンの配向係数を算出することでも配向性を定量的に評価することができる。図14において、CNTが縦方向に延在していることが既に分かるが、これを各方向についての周波数分布で表した図15において、周波数分布の輪郭は、横軸を長軸とする扁平な楕円状をなしている。これはCNTが図14にて上下方向に配向していることを表している。そしてこの楕円が扁平であるほど配向性が高いことを表している。この場合は、FFT画像の原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの変換強度を求め、これを回折強度関数(図15)とする。この回折強度関数は、方位角方向での原点からの距離に対応する周期性の程度を示している。例えば、FFT画像の原点からの距離が30×1013Hzに対応する実空間の距離は100nmとなる。この回折強度関数を変数として上式を演算することにより、参照方向についての配向度を定量的に評価することができる。
また、θ―2θ法X線回折装置において、ある回折強度ピークが観測される角度2θにX線検出器を固定した状態で、角度θにある試料の角度θを参照方位として(φ=0)、試料を角度φだけ回転させる(図8−b参照)。これにより、φの関数としてのX線回折強度I(φ)が得られる(図16参照)。
【0068】
バックグラウンドを除いた(ゼロベースライン)φ=0からφ=π/2までのX線回折強度関数I(φ)を変数として上式を演算することにより、ヘルマンの配向係数Fを求める。これにより、φ=0方向についての配向度を定量的に評価することができる。
【0069】
回折強度関数I(φ)をラウエ法で求める場合は、2次元の回折パターン像(図17参照)において、原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの回折強度を求め、これを変数として上式を演算することにより、ヘルマンの配向係数Fを求める。これにより、φ=0方向についての配向度を定量的に評価することができる。
【0070】
参照方向は、カーボンナノチューブ配向集合体の法線方向とすることが好ましいが、適宜、低反射、高放射率が望まれる所望の方向としても良い。
【0071】
低反射率、高放射率、高吸収率を得るためには、CNTが可能な限り高純度であることが望ましい。ここでいう純度とは、炭素純度であり、CNT配向集合の重量の何パーセントが炭素で構成されているかを示す。低反射率、高放射率、高吸収率を得る上での純度に上限はないが、製造上の都合から、99.9999%以上のCNT配向集合を得ることは困難である。金属不純物を含んで炭素純度が95%に満たないと、金属不純物からの反射が発生するため、結果として、低反射率を得ることが困難となる。これらの点から、単層CNTの純度は95%以上であることが好ましい。
【0072】
本発明のCNT配向集合体の純度は、蛍光X線を用いた元素分析結果より得られる。後述の実施例1の方法で生成した単層CNT配向集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素が99.98%、鉄が0.013%であり、その他の元素は計測されなかった。また実施例1の方法において、基板をニッケル−鉄合金として生成した単層CNT配向集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素が99.9%、不純物として、ニッケルが198ppm、鉄が100ppmであった。
【0073】
本発明における基板とは、配向CNT電磁波放射体・吸収体20が装着された物であり、形状、材質、装着方法に左右されない。形状として、例えば基板21の形状は平面(図40−A)のほか、曲面(図40−B)やフレキシブルなもの(図40−C)が考えられ、基板21の厚みは問わない。材質は、例えば各種金属、セラミックス、シリコン基板、樹脂などが考えられる。また基板21の全面が配向CNT電磁波放射体・吸収体20で被覆されている必要はない。例えば配向CNT電磁波放射体・吸収体20がパターニングされているもの(図40−D)、部分的に基板表面が露出しているもの(図40−E)、電子回路22が形成されたもの(図40−F)などが考えられる。また配向CNT電磁波放射体・吸収体20が基板21に直接接触して装着されている必要はなく、基板21との間に電磁波吸収放射特性、熱伝導特性、接着性などの向上を目的として中間層23を設けてもよい(図40−G)。配向CNT電磁波放射(体・吸収体20と基板21の接触面積を減らすため、中間層として間隙24を設けることもある(図40−H)。これらの基板21は後述の配向CNT集合体の製造のための成長用基材(成長用基板)と同一のものである必要はない。つまり製造工程を終えた配向CNT集合体が成長した成長用基材をそのまま用いてもよいし、新たに用意した基板に配向CNT集合体を移し替えて用いてもよい。
【0074】
本発明における物品とは、配向CNT電磁波放射体・吸収体20や基板21上に配向CNT電磁波放射体・吸収体を設けた物から構成される。
【0075】
以下、本発明に係るCNT集合体の製造方法について詳述する。
〔CNT集合体の製造法〕
本発明に係るCNT配向集合体の製造には、CVD装置1(図18)を用いることができる。これは、成長用基材上に触媒の被膜形成面を製造し、その触媒に複数のCNTを化学気相成長(CVD)させるものである。触媒被膜形成面とは、成長用基材上での触媒を包含する面もしくは空間のことであり、一般的には成長用基材が平板状の場合には、その基板面となる。
【0076】
以下にCVD装置1(図18)を用いた、本発明に係わる配向CNTの製造法の概念図を図19に例示する。図18に示すように、先ず、他方のガス供給管3−6から供給された雰囲気ガス(例えばヘリウム)及び還元ガス(例えば水素)等が満たされて所定温度(例えば750℃)に加熱され且つその温度に保たれた合成炉3−3内に、触媒被膜(例えばアルミナ−鉄薄膜)を別工程で予め成膜した成長用基板3−2(例えばシリコンウエハ)を基板ホルダ3−13に載置したものを搬入する(第1の過程2−S1)。
【0077】
次いで他方のガス供給管3−6から合成炉3−3内に還元ガス(例えば水素)を所望の時間供給する(第2の2−過程S2)フォーメーション工程を行う。この還元ガスにより、触媒被膜形成面2aの触媒微粒子が、CNTの成長に適合した状態に調整される。ここで適切な金属触媒被膜の厚さ並びに還元反応条件を選択することにより、直径数ナノメートルの触媒微粒子を、1.0×1011(個/cm2)から1.0×1014(個/cm2)の密度に調整可能である。この密度は、触媒被膜形成面3−2aに直交する向きに配向した複数のCNTを成長させるのに好適である。フォーメーション工程においては、必要に応じて触媒賦活物質を添加しても良い。触媒から80%以上の確率で単層CNTを成長させることが可能である。もちろん、水分量を調整するなどして、確率を80%以下にすることは可能である。触媒密度が1×1011個/cm2以下であると、成長する単層CNTの密度が小さく、単層CNT配向集合の形成が困難になる。また触媒密度が1014個/cm2以上であると、触媒間の間隔が小さくなり、触媒同士が融着しやすくなる。また、成長する単層CNTの密度が大きく、単層CNT間をガスが拡散しづらくなる。このような触媒密度に調整された触媒からCNT配向集合を成長させると、かさ密度が0.005〜0.2g/cm3のカーボンナノチューブ配向集合体成長させることができる。
【0078】
次いで他方のガス供給管3−6からの還元ガス及び雰囲気ガスの供給を、所望(反応条件)に応じて停止あるいは低減すると共に、原料ガス(例えばエチレン)と、雰囲気ガスに混入した触媒賦活物質(例えば水蒸気)とを、一方のガス供給管3−5から供給し、シャワーヘッド3−14から成長用基板3−2の触媒被膜形成面3−2aにこれを吹きかける(第3の過程2−S3)。これにより、成長用基板3−2に被着した触媒微粒子からCNTが成長する(成長工程)。
【0079】
このようにして、基板3−2上の触媒被膜形成面3−2aから同時に成長した複数のCNTは、触媒被膜形成面3−2aに直交する向きに成長して高さが概ねそろったCNT配向集合体を構成する。この時、触媒微粒子は、主として触媒被膜形成面3−2a上に固着したままであり、更なるCNTの成長を維持するためには、原料ガス及び触媒賦活物質が成長した配向CNT集合体の中を効率よく拡散し、触媒被膜形成面3−2a上の触媒微粒子に継続的にかつ安定的に供給される必要があり、シャワーヘッドの噴出孔を基板の触媒被膜形成面を臨む位置に設けられることは好適である。
<成長用基材(成長用基板)>
成長用基材あるいは成長用基板とはその表面にカーボンナノチューブの触媒を担持することのできる部材であり、CNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができる。
【0080】
材質としては、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、チタン、アルミニウム、マンガン、コバルト、銅、銀、金、白金、ニオブ、タンタル、鉛、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、砒素、燐、およびアンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金および酸化物、またはシリコン、石英、ガラス、マイカ、グラファイト、およびダイヤモンドなどの非金属、並びにセラミックなどが挙げられる。
【0081】
成長用基材の態様としては、平板状以外に、薄膜状、ブロック状、或いは粉末状などでもよいが、特に体積の割に表面積を大きくとれる態様が多量生産において有利である。好ましくは、平板状で500℃以上の高温でも形状を保持できる材質であることが望ましい。金属材料はシリコンやセラミックと比較して、低コストであるから好ましく、特に、Fe−Cr(鉄−クロム)合金、Fe−Ni(鉄−ニッケル)合金、Fe−Cr−Ni(鉄−クロム−ニッケル)合金等のFe基合金は好適である。
<触媒>
成長用基材もしくは浸炭防止層上には、CNT成長のための触媒を形成する。触媒としてはこれまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができ、具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、およびこれらの塩化物、および合金、またこれらが、さらにアムミニウム、アルミナ、チタニア、窒化チタン、酸化シリコンと複合化、また層状になっていても良い。たとえば、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、およびアルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、アルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。
【0082】
触媒の存在量としては、これまでのCNTの製造に実績のある量であればその範囲で使用することができ、例えば鉄を用いる場合、その厚さは、0.1nm以上100nm以下が好ましく、0.5nm以上5nm以下がさらに好ましく、0.8nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0083】
成長用基材表面への触媒層の形成は、ウェットプロセス或いはドライプロセスのいずれを適用してもよい。具体的には、スパッタリング蒸着法や、金属微粒子を適宜な溶媒に分散させた液体の塗布・焼成法などを適用することができる。また周知のフォトリソグラフィーやナノインプリンティング等を適用したパターニングを併用して触媒層を任意の形状とすることもできる。本発明の製造方法においては、成長用基板上に成膜する触媒のパターニングおよびCNTの成長時間により、薄膜状、円柱状、角柱状、およびその他の複雑な形状をしたものなど、単層CNT配向集合体の形状を任意に制御することができる。
特に薄膜状の単層CNT配向集合体は、その長さおよび幅寸法に比較して厚さ(高さ)寸法が極端に小さいが、長さおよび幅寸法は、触媒のパターニングによって任意に制御可能であり、厚さ寸法は、単層CNT配向集合体を構成する各単層CNTの成長時間によって任意に制御可能である。
<原料(原料ガス)>
本発明においてCNTの生成に用いる原料としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができ、一般的には、成長温度において原料炭素源を有するガスである。
【0084】
なかでもメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンプロピレン、およびアセチレンなどの炭化水素が好適である。この他にも、メタノール、エタノールなどの低級アルコールや、アセトン、一酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物でもよい。これらの混合物も使用可能である。またこの原料ガスは、不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0085】
原料ガスの濃度(全流量に対する原料ガスの割合)はCNTの生産効率を作用する非常に大事な要素である。一般的には、CNTの生産効率、特に成長速度は原料ガス濃度が高いほど、成長速度が速くなり、生産効率は向上する。
【0086】
しかし、原料ガス濃度が20%を上回ると、触媒寿命が短くなり、また、合成炉の下流で大量のタール等、炭素不純物が発生して、CNTの生産効率は低下する。逆に原料ガス濃度が2%以下であると、成長速度が十分でなく、生産効率は低下する。原料ガス濃度が2%−20%の範囲にあれば、成長速度は速く、寿命も十分に長く、かつ下流の炭素不純物の発生も抑制されCNTの成長を行え、CNTの生産効率は高くなる。
<還元ガス>
還元ガスは、一般的には、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果を持つ、成長温度において気体状のガスである。
【0087】
これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、典型的には還元性を有したガスであり、例えば水素ガス、アンモニア、水蒸気およびそれらの混合ガスを適用することができる。また、水素ガスをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。還元ガスは、一般的には、フォーメーション工程で用いるが、適宜成長工程で用いても良い。
<触媒賦活物質>
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加してもよい。触媒賦活物質の添加によって、カーボンナノチューブの生産効率や純度をより一層改善することができる。ここで用いる触媒賦活剤としては、一般には酸素を含む物質であり、成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であればよく、水蒸気の他に、例えば、硫化水素、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素、および二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、あるいはエタノール、メタノールなどのアルコール類や、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトンなどのケトン類、アルデヒドロ類、エステル類、酸化窒素、並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水蒸気、酸素、二酸化炭素、および一酸化炭素、あるいはテトラヒドロフランなどのエーテル類が好ましく、特に水蒸気が好適である。
【0088】
触媒賦活物質の添加量に格別な制限はないが、通常、微量でよく、例えば水蒸気の場合には、10ppm以上10000ppm以下、好ましくは50ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上700ppm以下の範囲とするとよい。
【0089】
触媒賦活物質の機能のメカニズムは、現時点では以下のように推測される。CNTの成長過程において、副次的に発生したアモルファスカーボンやグラファイトなどが触媒に付着すると触媒は失活してしまいCNTの成長が阻害される。しかし、触媒賦活物質が存在すると、アモルファスカーボンやグラファイトなどを一酸化炭素や二酸化炭素などに酸化させることでガス化するため、触媒層が清浄化され、触媒の活性を高め且つ活性寿命を延長させる作用(触媒賦活作用)が発現すると考えられている。
【0090】
この触媒賦活物質の添加により、触媒の活性が高められ且つ寿命が延長した結果、従来は高々2分間程度で終了したCNTの成長が数十分間継続する上、成長速度は、従来に比べて100倍以上、さらには1000倍にも増大することになった。この結果、その高さが著しく増大したCNT配向集合体が得られることとなった。
<雰囲気ガス>
化学気相成長の雰囲気ガス(キャリアーガス)としては、CNTが成長する温度で不活性であり、成長するCNTと反応しないガスであればよい。これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、一般的には不活性ガスが好ましく、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素、ネオン、クリプトン、二酸化炭素、および塩素などや、これらの混合ガスが例示でき、特に窒素、ヘリウム、アルゴン、水素、およびこれらの混合ガスが好適である。
<雰囲気圧力>
CNTを成長させる雰囲気の圧力は、102Pa以上、107Pa(100気圧)以下が好ましく、104Pa以上、3×105Pa(3大気圧)以下がさらに好ましく、5×10Pa以上、9×10Pa以下が特に好ましい。
<反応温度>
CNTを成長させる反応温度は、金属触媒、原料炭素源、および反応圧力などを考慮して適宜に定められるが、触媒失活の原因となる副次生成物を排除するために触媒賦活剤を添加する工程を含む場合は、その効果が十分に発現する温度範囲に設定することが望ましい。つまり、最も望ましい温度範囲としては、アモルファスカーボンやグラファイトなどの副次生成物を触媒賦活物質が除去し得る温度を下限値とし、主生成物であるCNTが触媒賦活物質によって酸化されない温度を上限値とすることである。
【0091】
具体的には、触媒賦活物質として水を用いる場合は、好ましくは400℃〜1000℃とすることである。400℃以下では触媒賦活物質の効果が発現せず、1000℃以上では、触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【0092】
また触媒賦活物質として二酸化炭素を用いる場合は、400℃〜1100℃以下とすることがより好ましい。400℃以下では触媒賦活物質の効果が発現せず、1100℃以上では、触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
<フォーメーション工程>
フォーメーション工程とは、成長用基材に担持された触媒に還元ガスを接触させて、触媒または還元ガスの少なくともどちらか一方を加熱する工程のことを意味する。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の生産に好適な触媒に調製される。
<成長工程>
成長工程とは、フォーメーション工程によってCNTの生産に好適な状態となった触媒に原料ガスを接触させて、触媒または原料ガスの少なくともどちらか一方を加熱することにより、CNT配向集合体を成長させる工程のことを意味する。
【実施例】
【0093】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明による単層CNT配向集合体についてより詳細に説明する。本実施例によって製造される、CNT配向集合体の特性は、製造条件の詳細に依存するが、下記記述の実施例の製造条件では、典型値として、密度:0.03g/cm3、BET−比表面積:1200m2/g、平均外径:2.5nm、半値幅2nm、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.8である。
【0094】
本実施例に係る製造工程は、図20のフローチャートに示すように、触媒基板の作成工程と単層CNTの合成工程とを備えている。触媒基板の作成工程は、アルミナ(Al2O3)からなる厚さ40nmの助触媒層を、RFスパッタリングによって成長用基板上に形成し、このアルミナ層上に鉄(Fe)からなる厚さ1nmの触媒層をスパッタリングによって形成する工程を含んでいる。なお、詳細なプロセス条件を図21に示す。パターニングされた、単層CNT配向構造体を製造する場合には、先ず、助触媒層が予め形成されたシリコン成長用基板上に、電子ビーム露光用レジスト(ZEP−520A/日本ゼオン製)を、スピンコーターを用いて(4700rpm/60秒)薄く塗布し、それをベークする(200℃/3分)。次に、レジストが塗布された成長用基板上に、電子ビーム露光装置を用いて直径150μmの円形のパターンを250μm間隔で描画する。次に、スパッタ蒸着装置を用いて鉄を蒸着し、最後に、剥離液(ZD−MAC/日本ゼオン製)を用いて成長用基板上からレジストを剥離する。これらの工程を経て、例えば円形などの任意形状にパターニングされた触媒金属層が成膜された触媒基板が得られる。
【0095】
この触媒基板を、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×105Paに保持されたCVD装置(図18)の合成炉内に設置し、この炉内に、He:100sccm、H2:900sccmを6分間導入する。これにより、鉄触媒層は還元されて単層CNTの成長に適合した状態の微粒子化が促進され、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される(フォーメーション工程)。なお、このときの鉄微粒子の密度は、1×1011〜1×1014個/cm2に調整される。
【0096】
次に、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×105Paに保持された状態の合成炉内に、He:850sccm、C2H4:100sccm、H2O含有He(相対湿度23%):50sccmを5分間供給する。これにより、単層CNTが各鉄触媒微粒子から成長する(成長工程)。
【0097】
成長工程終了後、反応炉内にHe:1000sccmのみを供給し、残余の原料ガスや触媒賦活剤を排除する(フラッシュ工程)。これにより、配向した単層CNTの集合体が得られる。
【0098】
本実施例の方法において成長時間を120分として生成された高さ1cmの単層CNT配向集合体のデジタルカメラ画像を図22に示し、本実施例の方法を用い、かつ特願2008−051321号明細書に記載のテレセントリック測定システムを用いて成長高さを計測しつつCNTを成長させて10μmで原料ガスの供給を停止させて得た単層CNT配向集合体の側方からのSEM画像を図23に示す。また同じくテレセントリック測定システムで成長中の高さをリアルタイムに計測して得た成長曲線の一例を図24に示す。このように成長高さをリアルタイムに計測しつつCNTを成長させ、かつ成長高さの計測値に応じて原料ガスの供給を制御することにより、所望の高さの単層CNT配向集合体を自動制御によって得ることが可能である。なお、図24に示した例は、原料ガスの停止とCNTの成長停止との間にタイムラグがあり、実際には12μmまで成長した。本手法を用いれば、高さ12μmから1cmまでの単層CNT配向集合体を製造することが可能である。
〔走査型電子顕微鏡による観察〕
前述の方法で生成したCNT集合体の走査型電子顕微鏡(以下、SEMと呼ぶ)画像を図25に示す。低倍率の観察像(図25A)によれば、集合体の表面は平坦であるように見える。高倍率の観察像(図25B)によると、表面には概ね水平方向に伸長したCNTが多数分布していることが判る。多数のCNTは、略均一に分布しており、互いに隣接するCNT同士間の空隙は、数nm〜数十nmの幅をもっている。
【0099】
一方、側面の観察像(図25C)により、CNTは略垂直に(各CNTと基板の法線とのなす角度は略10〜20°の範囲)配向していることが読み取れる。この時の配向度を示すヘルマン係数は0.82〜0.95であり、本発明において必要な値(0.25以上)を十分に満たしている。また集合体を基板から剥離した底面の観察像(図25D)によると、CNTの端末部が略垂直に起立した状態であることが判る。
【0100】
このように、表面側の端末部は略水平方向を向き、底面側の端末部は略垂直方向を向く理由は、CNTは、基板表面に存在する触媒の表面から成長するが、合成過程の初期には柔軟性のためCNTが起立できずに水平方向に伸長して集合体の表面にあたる構造を形成し、その後、互いに隣接するCNT同士が相互に支持し合って垂直方向に伸長するからであると考えられる。表面側においても、底面側においても、CNT配向集合は極めて一様で波長依存性がない低反射率、高放射率を示した。
〔透過型電子顕微鏡による観察〕
またCNTの直径サイズ分布評価は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと呼ぶ)の観察によって行うことができる。すなわち、TEM画像から個々の単層CNTの直径を計測してヒストグラムを作成し、このヒストグラムから直径サイズ分布を算出することができる。
【0101】
前述の方法で生成したCNT集合体のTEM画像を図26に示す。合成時に使用した触媒鉄のCNT集合体への混入は見られず、またCNTは一層のグラフェンシートから構成され、高純度の単層CNT集合体であることがわかる。また画像から各単層CNTの直径を計測したところ、本発明によるCNT集合体を構成する単層CNTは、その直径サイズが0.8〜4.5nmの範囲に渡って分布し、その中心直径サイズは2.5nmであることが確認された。なお、直径サイズ分布範囲および中心直径サイズは、触媒微粒子の調整によって制御可能である。
〔ラマンスペクトル〕
前述の方法で生成したCNT集合体の品質は、ラマン分光のスペクトルデータから評価することができる。本発明のCNT集合体のラマンスペクトルの一例を図28に示す。Gバンドの鋭いピークが1540カイザーで観察され、これより、このCNT集合体を構成するCNTにグラファイト結晶構造が存在することが判る。また、Dバンド(1330カイザー)は小さいことから、アモルファスカーボンが付着せず欠陥が少ない高品質なグラファイト層がこのCNTに存在することが判る。結晶構造の欠陥の量は、ナノチューブのキンク(屈曲、湾曲)の量と密接に関連する。キンクの増加は配向性を乱し、またアモルファスカーボンの付着は反射率を増加させることが予測されるため、Gバンドは高くかつDバンドは低いことが好ましい。さらに、複数の単層CNTに起因するRBMモード(250〜100カイザー)が低波長側に観察されたことから、グラファイト層は単層CNTであることが判る。
〔熱重量分析〕
前述の方法で生成したCNT集合体の熱重量分析の一例を図29に示す。測定条件として、乾燥空気雰囲気下にて10℃/分で昇温した。
【0102】
本CNT集合体を構成するCNTの燃焼のピーク温度(即ち微分曲線の頂点)は680℃であり、それ以外の炭素成分の存在を表す他のピークは存在しない。CNTの燃焼は通常400〜700℃で起こり、高温であるほど高品質(結晶度が高く触媒金属を含まない)であることが知られている。このことから、本CNT集合体は、高品質のCNTで構成されていることが判る。また燃焼後の残渣(灰分)は、0.05wt%であり、金属不純物が微量であること、つまり炭素純度が高いことを示す。
〔比表面積〕
前述の方法で生成したCNT集合体のBET法で測定した比表面積は、1000〜1200m2/gという非常に大きな値であった。またBET法から同時に推定される細孔径は5〜30nmであった。例えば一般的な空洞型黒体炉においては、十分な放射率を得るために空洞の内表面積を大きくかつ空洞開口部の面積をできるだけ小さくする必要がある。CNT集合体内部において空洞型黒体炉内のごとき光・電磁波の反射、吸収、放射の過程が起きているとするならば、CNT集合体の表面積は黒体炉の内表面積に対応するため、比表面積は大きいほど好ましい。また比表面積が高いCNT集合体は反射率を増加させる炭素不純物の含有量が少なく、こうした観点からもCNT配向集合体の比表面積は大きいほど好ましい。
〔放射率の測定1〕
前述の方法で生成した、厚さ460μm、かさ密度0.065g/cm3の単層CNT集合体に係る赤外域(5〜12μm)における放射率(垂直分光放射率)を、Ishii and Ono (2001)の装置(Measurement Science and Technology 12, 2103-2112)を用いて測定した。式(2)に示した放射率と吸収率の等価性より、以下に記述する放射率の測定値は、吸収率に読み替えることが可能である。
【0103】
この装置は、試料・参照黒体部および分光器部から構成されており、分光器部は、KBr製ビームスプリッタ及びコーナーキューブミラーから成るマイケルソン型干渉計を利用したフーリエ変換分光器である。
【0104】
この装置の真空容器中に試料を固定し、試料温度を100℃に制御しつつ、光起電力型MCT赤外検出器を用いて放射率を測定した。この際、実用的にゼロ輝度レベルとなる77K付近の液体窒素冷却黒体炉及び測定試料温度(100℃)と略等しい液体循環式黒体炉を測定することによって輝度温度目盛を校正した。
【0105】
その結果は、図30(厚さ460μm試料)に示す通り、放射率は0.98〜0.99(平均値0.987、標準偏差0.003)と従来の黒化処理に比べて高く、しかも最大値と最小値の差は0.012であり波長依存性に乏しく一様であった。
〔放射率の測定2〕
〔放射率の測定1〕と同様にして厚さ53μmの単層CNT集合体に係る放射率を測定した。その結果は図30(53μm)に示す通り、放射率は0.98〜0.99(平均値0.984、標準偏差0.002)と従来の黒化処理に比べて高く、しかも最大値と最小値の差は0.008であり波長依存性に乏しく一様であった。
〔放射率の測定3〕
同様に、厚さ360μmの単層CNT集合体に関する放射率を測定した。その結果は図30(360μm)に示す通り、0.97〜0.99(平均値0.983、標準偏差0.002)であり、しかも最大値と最小値の差は0.010であり大きな波長依存性は見られなかった。
〔放射率の測定4〕
同様に、厚さ2μmの単層CNT集合体に係る放射率を測定した。その結果は図30(2μm)に示す通り、波長5〜12μmでの放射率は0.97〜0.99(平均0.975、標準偏差0.005、最大値と最小値の差は0.018)である。シリコン基板に由来するピークがスペクトル上に出現するため比較的大きな波長依存性を示すが、0.96以上の放射率を示すため本発明の電磁波放射体・吸収体として好適である。
【0106】
単層CNT集合体の厚さ、密度、単位面積あたり重量、分光放射率の平均値、および標準偏差の相互関係を以下に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
CNT集合体の放射率は、図31Cに示す通り、単位面積あたりのCNT集合体の重量(=CNT集合体の厚さ×かさ密度)と良い相関関係を示す。単位面積あたりのCNT集合体の重量の増加と共に放射率は増加する。この増加は、CNT集合体の状態が図5の17の状態に近づき透過が減少しているためであると考えられる。単位面積あたりのCNT集合体の重量が約2.0mg/cm2以上で赤外放射率は略一定値となる。これは透過がほぼゼロとなり、それ以上放射率の増加に寄与しなくなったためと推測される。逆に単位面積あたりのCNT集合体の重量が減少すると、放射率は減少し本発明の効果が得られない。
〔反射率の測定1〕
厚さ460μm、かさ密度0.065g/cm3の単層CNT集合体に関し、紫外〜近赤外域(波長0.2〜2μm)における反射率(半球反射率=正反射率+拡散反射率)スペクトルを、積分球を装備した一般的な分散型分光光度計で測定した。具体的には、光源(ハロゲンランプまたは重水素ランプ)からの光を、積分球内面に固定された試料にモノクロメータを通して照射し(入射角8°)、積分球で集光した試料からの反射光強度を、ホトマル(光電子増倍管)あるいはPbSセルで測定した。
【0109】
反射率は次式で求められる。
【0110】
R=I/IRef/RRef
但し、R:試料の反射率、I:試料の反射光強度、IRef:標準反射板(スペクトラロン標準白色板)の反射光強度、RRef:標準反射板の絶対反射率(反射板の製造者等によって別途評価された値)である。
【0111】
その結果、図32に示した通り、波長依存性に乏しい平坦なスペクトルが得られた。これによると、反射率は0.01〜0.02(平均0.016、標準偏差0.005)である。本試料は不透明体であるので、この反射率は、式5から放射率0.98〜0.99に相当し、従来の黒化処理表面よりも高い。また吸収率は、式3から0.98〜0.99である。
【0112】
なお、スペクトルに見られる小さなピークは、検出器の切り替え(0.8μm近傍)および高次光カットフィルタの切り替え(近赤外域)によるものと考えられる。また、僅かな傾きが見られるが、本試料の反射率は非常に低く装置の検出可能限界付近での測定であるため、これが試料本来のものか、或いは測定装置及び標準反射板の特性に起因するものかを判断することは困難である。
〔反射率の測定2〕
上述の単層CNT集合体に係る近赤外〜極遠赤外(波長2〜20μm)における反射率(半球反射率)スペクトルを、積分球を装備した一般的なフーリエ変換赤外分光光度計で測定した。具体的には、赤外熱光源(セラミックス)からの光を、積分球内面に固定された試料に干渉計を通して変調した上で照射し(入射角10°以下)、試料からの反射光(正反射+拡散反射)を積分球で集光した。焦電型赤外検出器またはMCT検出器でその強度を測定し、これをフーリエ変換することでスペクトル波形を得た。そして試料および標準反射板(金ミラー)について同様の測定を行い、その比を計算することで反射率を求めた。
【0113】
その結果は図33に示す通り、波長依存性に乏しい平坦なスペクトルが得られた。これによると、反射率は0.01〜0.02(平均0.0097、標準偏差0.004)である。本試料は不透明体であるので、この反射率は、式4から放射率0.98〜0.99に相当し、従来の黒化処理表面よりも高い。この値やスペクトルの平坦さは、同じ波長域で放射率を直接に測定した前述の〔放射率の測定1〕の結果と一致し、測定の正しさを裏付けている。また吸収率は、式2から0.98〜0.99である。
〔反射率の測定3〕
上述の単層CNT集合体に係る極遠赤外域(25〜200μm)における反射率(正反射率)スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計で測定した。具体的には、水銀光源からの光を真空下にて干渉計を通して試料に照射し(入射角10°)、ポリエチレン窓を備えた遠赤外用焦電型検出器を用いて正反射を検出した。その反射強度と標準反射板(アルミミラー)の反射率との比をとることで試料の反射率を計算した。
【0114】
その結果、図34に実線で示す波長依存性の小さいスペクトルが得られた。これによると、反射率は0〜0.01(平均0.0042、標準偏差0.006)であった。なお、この波長域では積分球が使用できず、正反射のみの測定であるため、測定1および2に比べて一桁低い反射率が測定されている。この反射率は、半球反射率ではないので、測定1および2の結果と直接的に比較することはできない。しかし、前記[反射率の測定2]の結果との連続性及び、反射スペクトルに波長依存性が見られないことに鑑み、この波長域における反射率も測定1および2の波長域の反射率と同程度と考えられる。
【0115】
この波長域では光線が透過する可能性があるため、併せて透過率スペクトルも測定した。その結果は図34に破線で示す通り、単層CNT集合体+基板が0〜0.002、また図34に一点鎖線で示す通り、基板のみが0.2〜0.4であった。これらからCNT集合体の透過率は0〜0.0005と計算され、本試料は不透明とみなされる。
〔反射率測定1〜3のまとめ〕
反射率測定1、2での反射率は0.01〜0.02であり、式3、4より、放射率0.98〜0.99に換算できる。この値は、放射率測定の結果と一致する。
【0116】
反射率測定3での反射率は、半球反射率ではないので、垂直放射率に換算することはできないが、そのスペクトルの平坦さから、反射率測定2での測定値がそのまま継続すると考えることが合理的である。
【0117】
即ち、反射率測定1〜3の結果から、このCNT集合体が、0.2〜200μmの波長域(紫外から遠赤外)において非常に高く一様な放射率(0.98〜0.99)を維持することが判った。
【0118】
上述の測定結果のまとめを以下に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
〔正反射率の角度依存性〕
次に本発明による単層CNT集合体の正反射率の角度依存性を測定した。具体的には、波長5μmの無偏向光をCNT集合体に入射させ、入射角(θ)と受光角(=θ)とをそれぞれ5°〜70°の範囲で同時に変化させつつ正反射率を測定した。その結果、CNT集合体の正反射率は、図35に示す通り、角度の増加と共に3×10−4から6×10−2まで増加した。この結果から、CNT集合体の反射率は、入射角が大きくなるに連れて増加するものの、それは非常に低い値であり、即ち本発明のCNT集合体による電磁波放射・吸収効果は、垂直入射のみに留まらないことが判った。
〔比較例1〕
〔放射率の測定1〕と同様にして厚さ2μm以下の単層CNT集合体に係る放射率を測定した。しかし均一なCNT配向集合体の合成が困難であり、基板の一部が容易に露出し、放射率は0.96を下回り、本発明の効果が得られなかった(図31−A)。
〔比較例2〕
シリコン基板から剥離した単層CNT集合体をバス型超音波処理装置でエタノール中に微粒子化分散させたものを、新たな基板に噴霧して乾燥させた(厚み17μm、密度0.4g/cm3)。この試料(無配向)の放射率を測定したところ、平均0.885、標準偏差0.007、最大値と最小値の差は0.03であった。CNTは基板に略平行に分布するため、配向度を示すヘルマン係数はほぼ−0.5である。本発明によるCNT集合体と比較して放射率値が低く、一様性にも乏しかった(図36/試料1)。
【0121】
このことは、所定の配向性およびかさ密度が達成されていないCNT集合体では、本発明のような高く且つ一様な放射率(同時に吸収率)が実現できないことを示す(図31−B)。
〔比較例3〕
比較例2と同様に、バス型超音波処理装置を用いてエタノール中に微粒子化分散させたものを、減圧ろ過によって孔径0.2μmのメンブレンフィルター上に堆積させ乾燥させた(厚み84μm、密度0.65g/cm3)。この試料について放射率を測定したところ、平均0.728、標準偏差0.003、最大値と最小値の差は0.108であり、CNTは基板に略平行に分布するため、配向度を示すヘルマン係数はほぼ−0.5である。本発明によるCNT集合体と比較して放射率(吸収率)が低く一様性にも乏しかった(図36/試料2)。
【0122】
このことは、所定の配向性およびかさ密度が達成されていないCNT集合体では、本発明のような高く且つ一様な放射率(吸収率)が実現できないことを示す(図31−B)。
〔比較例4〕
上述のCNT集合体を、そのままローラープレスを用いてポリイミドフィルムに圧着した(厚み10μm、密度1.27g/cm3)。この試料に関する放射率を測定したところ、平均0.689、標準偏差0.062、最大値と最小値の差は0.137であり、CNTは基板に略平行に分布するため、配向度を示すヘルマン係数はほぼ−0.5である。本発明によるCNT集合体と比較して放射率(吸収率)が低く、一様性にも乏しかった(図36/試料3および図31−B)。
【0123】
この試料は、配向性は保たれているが、その方向は基板と略平行である。また、かさ密度が高まっていることにより、本発明の放射率・吸収率特性が実現できない(図31−B)。
〔比較例5〕
前述のCNT集合体の製造方法により、鉄触媒層の膜厚を変更して垂直配向した多層CNTからなる集合体を製作した(試料1:厚さ550nm、かさ密度0.01g/cm3、試料2:厚さ400nm、かさ密度0.01〜0.02g/cm3)。これらのSEM画像によると、多層CNT集合体の表面(図37)は、単層CNT集合体(図25−B)に似ているが、CNTの直径が大きく、CNT同士の間隔も大きいことが判る。またTEM画像(図38)によると、CNTの直径は10〜20nmであり、3〜5層程度のグラーフェン層から構成されていることが判る。
【0124】
これら2つの試料に関する垂直放射率を測定したところ、図39に示す通り、試料1は平均0.96(標準偏差0.005、最大値と最小値の差0.019)、試料2は平均0.94(標準偏差0.007、最大値と最小値の差0.027)であり、赤外域においては従来技術の黒化処理表面と同程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明による電磁波放射体は、放射温度計やサーモグラフィー(熱画像装置・赤外線カメラ)の校正に用いる標準器(空洞型黒体炉、平面型黒体炉)や放熱板などに適用可能である。また、良い放射体は同時に良い吸収体でもある(式2)ので、本発明は、光・電磁波吸収体としても利用可能であり、吸収体としては、電磁波遮蔽装置(赤外域)、赤外線センサ(赤外域)、太陽光利用装置(可視〜近赤外域)、反射防止装置(赤外〜紫外域)など幅広い分野に適用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波放射体であって、
前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つで定義されることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において、半球反射率が0.02以下であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波放射体。
【請求項3】
紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域で、実質的に半球反射率が0.02以下であることを特徴とする前記請求項1から2に記載の電磁波放射体。
【請求項4】
紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において透過率1%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電磁波放射体。
【請求項5】
カーボンナノチューブ配向集合体の炭素純度が95%以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電磁波放射体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の電磁波吸収体を有してなる物品。
【請求項1】
規則的な方向に配向した複数のカーボンナノチューブから成るカーボンナノチューブ配向集合体を備える電磁波放射体であって、
前記カーボンナノチューブ配向集合体が、かさ密度が0.002〜0.2g/cm3であり、かつ厚みが10μm以上であると共に、その配向度が、
1.CNTの長手方向に平行な第1方向と、該第1方向に直交する第2方向とからX線を入射してX線回折強度を測定(θ−2θ法)した場合に、前記第2方向からの反射強度が、前記第1方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在し、且つ前記第1方向からの反射強度が、前記第2方向からの反射強度より大きくなるθ角と反射方位とが存在すること。
2.CNTの長手方向に直交する方向からX線を入射して得られた2次元回折パターン像でX線回折強度を測定(ラウエ法)した場合に、異方性の存在を示す回折ピークパターンが出現すること。
3.ヘルマンの配向係数が、0より大きく1より小さいこと。
の少なくともいずれか1つで定義されることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において、半球反射率が0.02以下であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波放射体。
【請求項3】
紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域で、実質的に半球反射率が0.02以下であることを特徴とする前記請求項1から2に記載の電磁波放射体。
【請求項4】
紫外、可視、近赤外、中赤外、遠赤外、極遠赤外の少なくとも一つの領域の、少なくとも一部の波長範囲において透過率1%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電磁波放射体。
【請求項5】
カーボンナノチューブ配向集合体の炭素純度が95%以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電磁波放射体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の電磁波吸収体を有してなる物品。
【図1】
【図3】
【図4】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図24】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図39】
【図41】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図17】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図37】
【図38】
【図40】
【図3】
【図4】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図24】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図39】
【図41】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図17】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図37】
【図38】
【図40】
【公開番号】特開2010−192581(P2010−192581A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33853(P2009−33853)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「自己組織プロセスにより創製された機能性・複合CNT素子による柔らかいナノMEMSデバイス」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「自己組織プロセスにより創製された機能性・複合CNT素子による柔らかいナノMEMSデバイス」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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