説明

電磁波遮蔽構造

【課題】 部屋内と遮蔽部屋外との間で電磁波を効果的に遮蔽できる構造を提供する。
【解決手段】 電磁波遮蔽構造10では、電磁波の遮蔽を必要とする遮蔽部屋14における床スラブ22内に、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で電磁波が到来する。ここで、複数の導波管28が、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との境界部分における床スラブ22の内部に床スラブ22に沿って設けられて、一端を遮蔽部屋14側へ向けられると共に他端を反遮蔽部屋14側へ向けられている。このため、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で床スラブ22内を床スラブ22に沿って伝搬する電磁波が、各導波管28内で減衰される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の電磁波遮蔽構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波遮蔽構造としては、コンクリート床の上面に導電膜が設けられると共に、コンクリート床の下面にデッキプレートが設けられることで、コンクリート床内をコンクリート床に沿って伝搬する電磁波が減衰されて遮蔽されるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この電磁波遮蔽構造では、上述の如くコンクリート床の上面に導電膜が設けられると共にコンクリート床の下面にデッキプレートが設けられたのみの構成である。このため、電磁波を効果的に遮蔽できないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−121973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮し、部屋内と部屋外との間で電磁波を効果的に遮蔽(シールド)できる電磁波遮蔽構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の電磁波遮蔽構造は、建築物の部屋の外周を構成し、内部に前記部屋内と前記部屋外との間で電磁波が到来する外周部材と、管状にされると共に導電性を有し、前記部屋内と前記部屋外との境界部分における前記外周部材の内部に前記外周部材に沿って設けられて一端を前記部屋側へ向けられると共に他端を反前記部屋側へ向けられた導波管と、を備えている。
【0006】
請求項2に記載の電磁波遮蔽構造は、請求項1に記載の電磁波遮蔽構造において、導電性を有し、前記導波管の前記部屋側及び反前記部屋側の少なくとも一方で前記導波管の側面に対向して配置された導電層を備えた、ことを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載の電磁波遮蔽構造は、請求項1又は請求項2に記載の電磁波遮蔽構造において、前記外周部材内に設けられ、前記外周部材を補強すると共に導電性を有しない補強部材を備えた、ことを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載の電磁波遮蔽構造は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電磁波遮蔽構造において、前記導波管の側壁に貫通孔を貫通形成した、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の電磁波遮蔽構造では、建築物の部屋の外周を構成する外周部材内に、部屋内と部屋外との間で電磁波が到来する。
【0010】
ここで、管状にされると共に導電性を有する導波管が、部屋内と部屋外との境界部分における外周部材の内部に外周部材に沿って設けられて一端を部屋側へ向けられると共に他端を反部屋側へ向けられている。このため、部屋内と部屋外との間で外周部材内を外周部材に沿って伝搬する電磁波が、導波管内で減衰される。これにより、部屋内と部屋外との間で電磁波を効果的に遮蔽することができる。
【0011】
請求項2に記載の電磁波遮蔽構造では、導電性を有する導電層が、導波管の部屋側及び反部屋側の少なくとも一方で導波管の側面に対向して配置されている。このため、部屋内と部屋外との間で外周部材内を外周部材に沿って伝搬する電磁波が、導波管の側面と導電層との間から漏洩することが抑制される。これにより、部屋内と部屋外との間で電磁波を一層効果的に遮蔽することができる。
【0012】
請求項3に記載の電磁波遮蔽構造では、外周部材内に設けられて外周部材を補強する補強部材が導電性を有しない。このため、補強部材がアンテナになって補強部材によって部屋内と部屋外との間で電磁波が漏洩することを防止することができる。
【0013】
請求項4に記載の電磁波遮蔽構造では、導波管の側壁に貫通孔が貫通形成されている。このため、例えば外周部材がコンクリートによって構成される場合には、導波管内へのコンクリートの打設を貫通孔を介して容易に行うことができる。さらに、例えば貫通孔を補強部材が貫通できる場合には、貫通孔を介して補強部材を導波管内に配置でき、外周部材を補強部材によって効果的に補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1には、本発明の実施の形態に係る電磁波遮蔽構造10が適用されて構成された建築物12の主要部が断面図にて示されている。
【0015】
本実施の形態に係る建築物12は、オフィスビル等であり、所定数の部屋14を有している。部屋14の側壁16(外周)は一対の側壁ボード18を有しており、各側壁ボード18は各部屋14の側面を構成している。電磁波の遮蔽を必要とする部屋14(図1では左側の部屋14であり、以下「遮蔽部屋14」という)の側壁ボード18内には、導電層としての壁シールド層20が設けられており、壁シールド層20は例えばアルミニウム製のシート等にされて導電性を有している。このため、壁シールド層20は電磁波を遮蔽する。
【0016】
部屋14の下壁(外周)は、外周部材としてのコンクリート製の床スラブ22によって構成されており、床スラブ22には側壁16の下端及び上端が固定されている。遮蔽部屋14の下壁を構成する床スラブ22の部分の周部上面には、上記壁シールド層20が張り伸ばされている。さらに、床スラブ22の下端全体には、導電層としての例えば平板状(波板状であってもよい)の亜鉛メッキ板24(デッキプレート、亜鉛鉄板、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛メッキ鉄板又はメッキされていない鋼板等の鋼板の何れかであってもよい)が固定されており、亜鉛メッキ板24は導電性を有して電磁波を遮蔽する。
【0017】
床スラブ22内には、補強部材としての長尺円柱状の補強筋26が複数設けられており、複数の補強筋26は、平面視格子状に配置されて床スラブ22を補強している。補強筋26は、例えば樹脂製のアラミド筋にされて、導電性を有していない。
【0018】
遮蔽部屋14の下壁を構成する床スラブ22の部分の周部内には、矩形管状の導波管28が複数床スラブ22に沿って設けられており、複数の導波管28は遮蔽部屋14の側壁ボード18に沿って並列配置されている(図2参照)。これにより、各導波管28の一端は遮蔽部屋14側へ向けられると共に、各導波管28の一端は反遮蔽部屋14側へ向けられている。なお、例えば、導波管28の一端及び他端の各辺の長さa及びbは150mmにされると共に、導波管28の軸方向長さLは300mm以上にされている(図4参照)。
【0019】
導波管28は、エキスパンドメタル製にされて、側壁が網状にされており、導波管28の側壁には、多数の菱形状(矩形状)の貫通孔30が貫通形成されている。図3に詳細に示す如く、貫通孔30は、各辺の長さWが20mm以上にされて内接円直径が10mm以上にされており、このため、一般に直径Rが10mm未満の補強筋26が貫通孔30を貫通可能にされている。これにより、床スラブ22内に配置される補強筋26が、導波管28の軸方向のみならず、導波管28の幅方向においても、導波管28に貫通されて、補強筋26の格子状の配置を導波管28が制限しないようにされている。
【0020】
各導波管28は、上側壁が対向する壁シールド層20、下側壁が対向する亜鉛メッキ板24、及び、右側壁と左側壁とが対向する他の導波管28との間隔を小さくされている。さらに、各導波管28の全体には塗装が施されており、これにより、各導波管28が壁シールド層20及び亜鉛メッキ板24に接触して導通することが阻止されると共に、導波管28同士が互いに接触して導通することが阻止されている。
【0021】
遮蔽部屋14の床部分は、所謂OAフロアにされており、遮蔽部屋14における床スラブ22上(あるいは当該床スラブ22上の壁シールド層20上)には支持部材としての支持脚32が複数固定設けられると共に、複数の支持脚32には複数の平板状のフロアパネル34が水平に支持されている。これにより、複数のフロアパネル34と当該床スラブ22との間の空間に、コンピュータ等のための電源用配線や通信用配線等を配設可能にされている。
【0022】
なお、各部屋14には、上壁(外周)として、天井(図示省略)が設けられており、遮蔽部屋14の天井は電磁波を遮蔽する構成にされている。
【0023】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0024】
以上の構成の電磁波遮蔽構造10では、遮蔽部屋14の下壁を構成する床スラブ22内に、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で(遮蔽部屋14内及び遮蔽部屋14外(例えば遮蔽部屋14の隣の部屋14)からの)電磁波が到来する。
【0025】
ここで、矩形管状にされると共に導電性を有する複数の導波管28が、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との境界部分における床スラブ22の内部に床スラブ22に沿って設けられて、一端を遮蔽部屋14側へ向けられると共に他端を反遮蔽部屋14側へ向けられている。このため、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で床スラブ22内を床スラブ22に沿って伝搬する電磁波が、各導波管28内で減衰される。これにより、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で電磁波を効果的に遮蔽することができる。
【0026】
さらに、導電性を有する壁シールド層20及び亜鉛メッキ板24が、それぞれ導波管28の上側(遮蔽部屋14側)及び下側(反遮蔽部屋14側)で、導波管28の側面に間隔を小さくされかつ互いに導通されない状態で対向して配置されている。しかも、導波管28の側面同士が間隔を小さくされかつ互いに導通されない状態で対向して配置されている。このため、壁シールド層20と導波管28との間で構成されるコンデンサ、亜鉛メッキ板24と導波管28との間で構成されるコンデンサ、及び、導波管28同士間で構成されるコンデンサのインピーダンス及び電位差が小さくている。これにより、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で床スラブ22内を床スラブ22に沿って伝搬する電磁波が、壁シールド層20と導波管28との間、亜鉛メッキ板24と導波管28との間、及び、導波管28同士間から漏洩することが抑制されて、遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で電磁波を一層効果的に遮蔽することができる。
【0027】
しかも、床スラブ22内に設けられて床スラブ22を補強する補強筋26が導電性を有しない。このため、補強筋26がアンテナになって補強筋26によって遮蔽部屋14内と遮蔽部屋14外との間で電磁波が漏洩することを防止することができる。
【0028】
また、導波管28の側壁に多数の貫通孔30が貫通形成されている。このため、導波管28内へのコンクリートの打設を多数の貫通孔30を介して容易に行うことができる。さらに、貫通孔30に補強筋26が貫通されている。このため、貫通孔30を介して補強筋26を導波管28内に配置でき、床スラブ22を補強筋26によって効果的に補強することができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、壁シールド層20と導波管28との間、亜鉛メッキ板24と導波管28との間、及び、導波管28同士間を導通させない構成としたが、壁シールド層20と導波管28との間、壁シールド層20と導波管28との間、及び、導波管28同士間を導通させた構成としてもよい。
【0030】
また、本実施の形態では、エキスパンドメタル製の導波管28を矩形管状にした構成としたが、図5に示す如くエキスパンドメタル製の導波管40を円管状にした構成としてもよい。
【0031】
さらに、本実施の形態では、本発明を床スラブ22に適用した構成としたが、本発明を側壁16や天井に適用した構成としてもよい。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、こうした実施の形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0033】
(導波管による理論電磁波減衰性能)
導波管28、40による電磁波減衰量S(dB)は、
S=8.69×(2π×f/C)×[{(fc/f)2−1}×L]1/2
となる。
【0034】
但し、Cは光速(300Mm/s)であり、fは減衰対象電磁波の周波数(MHz)であり、fcは限界周波数(MHz)(上記式が成立する範囲の電磁波の周波数fであり、この値よりも電磁波の周波数fが高いと上記式は適用できない)であり、Lは導波管28、40の軸方向長さ(m)である。
【0035】
また、aを導波管28、40の幅(m)(図4の導波管28では導波管28一端の長い方の辺の長さ(本理論ではaがb以上とする)、図5の導波管40では導波管40一端の直径)とすると、限界周波数fcは、
図4の導波管28の場合に、
fc=C/(2a)
となり、
図5の導波管40の場合に、
fc=C/(2a×0.92)
となる。
【0036】
ここで、図4の導波管28の場合、限界周波数fcは図6のようになる。
【0037】
さらに、図4の導波管28において、導波管28の幅aが0.125mの場合には導波管28による電磁波減衰量S(dB)は図7のようになり、導波管28の幅aが0.15mの場合には導波管28による電磁波減衰量S(dB)は図8のようになる。
【0038】
これにより、例えば図4の導波管28において電磁波の周波数fが800MHz以下で導波管28の幅aが0.15mの場合には、図8から、導波管28の軸方向長さLが300mm以上であれば、導波管28による電磁波減衰量Sを30dB以上(本発明の電磁波減衰性能の基準)にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係る電磁波遮蔽構造が適用されて構成された建築物の主要部を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電磁波遮蔽構造における複数の導波管の配置状況を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電磁波遮蔽構造における導波管の貫通孔形成状況を示す正面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る電磁波遮蔽構造における導波管を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る電磁波遮蔽構造における導波管の別例を示す斜視図である。
【図6】図4の導波管における限界周波数fcを示す表である。
【図7】図4の導波管において導波管の幅aが0.125mの場合における導波管による電磁波減衰量S(dB)を示す表である。
【図8】図4の導波管において導波管の幅aが0.15mの場合における導波管による電磁波減衰量S(dB)を示す表である。
【符号の説明】
【0040】
10 電磁波遮蔽構造
12 建築物
14 部屋
20 壁シールド層(導電層)
22 床スラブ(外周部材)
24 亜鉛メッキ板(導電層)
26 補強筋(補強部材)
28 導波管
30 貫通孔
40 導波管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の部屋の外周を構成し、内部に前記部屋内と前記部屋外との間で電磁波が到来する外周部材と、
管状にされると共に導電性を有し、前記部屋内と前記部屋外との境界部分における前記外周部材の内部に前記外周部材に沿って設けられて一端を前記部屋側へ向けられると共に他端を反前記部屋側へ向けられた導波管と、
を備えた電磁波遮蔽構造。
【請求項2】
導電性を有し、前記導波管の前記部屋側及び反前記部屋側の少なくとも一方で前記導波管の側面に対向して配置された導電層を備えた、ことを特徴とする請求項1記載の電磁波遮蔽構造。
【請求項3】
前記外周部材内に設けられ、前記外周部材を補強すると共に導電性を有しない補強部材を備えた、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電磁波遮蔽構造。
【請求項4】
前記導波管の側壁に貫通孔を貫通形成した、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の電磁波遮蔽構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−169872(P2006−169872A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365914(P2004−365914)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】