説明

電磁界分布シミュレーション装置および方法

【課題】 損失誘電体や損失磁性体を伴う環境における電磁界分布を高精度かつ低計算コストでシミュレーションする。
【解決手段】 入力部11により境界条件等のパラメータを入力する。電磁界方程式は時間分離解法を適用して移流項および非移流項に分けて処理する。移流項処理部13により電磁界方程式の移流項にCIP法および特性曲線法を適用し、時間変化の中間値の数値解を得る。非移流項処理部14により、移流項処理部13の数値解を二次中央差分法の離散化式に代入して1タイムステップ進んだ数値解を得る。希望時間となるまで時間ステップを繰り返す。希望時間となったら出力部15を用いて数値解析結果を表示ないしプリントする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁界分布をシミュレーションする技術に関し、とくに損失誘電体や損失磁性体を伴う環境における電磁界分布を高精度かつ低計算コストでシミュレーションするのに最適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁界解析手法として用いられているFDTD法(時間領域有限差分法)は、その差分化に中央差分法を用いていることから、解析モデルにおいて、特に信号が高周波であった場合に、数値振動が生ずることが問題となっており、この問題を解決するべく、高次精度風上差分法であるCIP法を電磁界方程式に適用し、この問題を解決する方法が提案されている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、非特許文献1においては、実際の電磁界解析において必要となる損失誘電体および損失磁性体の表現について触れられておらず、その汎用性に欠けていた。
【非特許文献1】CIP法、原子から宇宙までを解くマルチスケール解法、森北出版株式会社、矢部 孝等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、以上の事情を考慮してなされたものであり、損失誘電体や損失磁性体を伴う環境における電磁界分布を高精度かつ低計算コストでシミュレーションすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。ここでは、発明を詳細に説明するのに先だって、特許請求の範囲の記載について補充的に説明を行なっておく。
【0006】
すなわち、この発明の一側面によれば、上述の目的を達成するために、電磁界分布シミュレーション装置に:複素比誘電率および/または複素比透磁率を考慮した電磁界方程式から導出した移流項の方程式をCIP法によりシミュレーションする第1のシミュレーション手段と;上記電磁界方程式から導出した非移流項の方程式をシミュレーションする第2のシミュレーション手段とを設け;上記第1のシミュレーション手段の算出結果と第2のシミュレーション手段の算出結果から上記電磁界方程式のシミュレーションを行なうようにしている。
【0007】
複素比誘電率および/または複素比透磁率を考慮した電磁界方程式は、典型的には、つぎのようなものである。
【数4】

【0008】
また、上記移流項の方程式はつぎのようなものである。
【数5】

【0009】
また、上記非移流項の方程式は、つぎのようなものである。
【数6】

【0010】
この構成においては、複素比誘電率および/または複素比透磁率を考慮した電磁界方程式をCIP法を利用して高精度かつ低コストにシミュレーションできる。
【0011】
この構成において、上記第2のシミュレーション手段は上記第1のシミュレーション手段の算出結果を用いて二次中央差分法によりシミュレーションを行なうようにできる。
【0012】
また上記第2のシミュレーション手段は上記第1のシミュレーション手段の算出結果を用いて前進差分法によりシミュレーションを行なうようにしてもよい。
【0013】
なお、この発明は装置またはシステムとして実現できるのみでなく、方法としても実現可能である。また、そのような発明の一部をソフトウェアとして構成することができることはもちろんである。またそのようなソフトウェアをコンピュータに実行させるために用いるソフトウェア製品もこの発明の技術的な範囲に含まれることも当然である。
【0014】
この発明の上述の側面および他の側面は特許請求の範囲に記載され以下実施例を用いて詳述される。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、複素比誘電率および/または複素比透磁率を考慮した電磁界方程式を高精度かつ低コストでシミュレーションすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施例について説明する。
【0017】
図1は、この発明の実施例の電磁界分布シミュレーション装置100を全体として示している。実施例1の電磁界分布シミュレーション装置100は、典型的には、コンピュータ101に電磁界分布シミュレーション用のプログラム102(複数のシミュレーションプログラムを連携して用いる場合を含む)をインストールして実装される。以下に機能ブロックを用いて説明する各部は、コンピュータ101のハードウェア資源およびソフトウェア資源を協働させて実現される。
【0018】
図1において、電磁界分布シミュレーション装置100は、入力部11、シミュレーション処理部12、出力部15を含んで構成される。入力部11はシミュレーションに必要な各種パラメータを入力するものである。出力部15は、シミュレーション結果を視覚化して表示装置や印刷装置(図示しない)に出力するものである。シミュレーション処理部12は、移流項処理部13、非移流項処理部14を含んでいる。移流項処理部13は電磁界方程式の移流項の部分をCIP法で数値解析を行なうものである。非移流項処理部14は、移流項処理部13の算出結果を用いて差分法で数値解析を行なうものでる。この例では、二次中央差分法を用いて数値解析を行なう。
【0019】
図2は、この実施例の動作例を示している。この実施例の動作は以下のようなものである。なお、その詳細については後述の原理的な説明で補充することにする。
【0020】
[ステップS10]:入力部11により境界条件等のパラメータを入力する。
[ステップS11]:移流項処理部13により電磁界方程式の移流項を処理して数値解を得る。
[ステップS12]:非移流項処理部14により電磁界方程式の非移流項の数値解を得る。
[ステップS13]:希望時間となるまで時間ステップを繰り返す。希望時間となったら出力ステップに進む。
[ステップS14]:出力部15を用いて数値解析結果を表示ないしプリントする。
【0021】
つぎにこの実施例の原理的な説明を行なう。この実施例では、複素比誘電率および複素比透磁率を含む電磁界方程式に対してCIP法および時間分離解法を適用した。具体的には、一次元の電磁界方程式
【数7】


に対して変形を施して式(1)を得る。
【数8】

これに対して時間分離解法を用いると、
【数9】

となり、式(2)は移流項であるためCIP法と特性曲線法(J.H.Beggs,et.al.,The Numerical Method of Characteristics for Electromagnetics,:ACES Journal,Vol.14,No.2,July 1999.)を適用し、時間変化の中間値を求める。
【数10】

そして式(3)の非移流項の時間微分に対しては2次中央差分法を適用し、先に求めた時間変化の中間値を式(3)の離散化式に代入することで、一タイムステップが進む。
【数11】

【0022】
更に、CIP法では微分値も移流させることにより高精度に解析する。そこで、式(1)の変形電磁界方程式のx微分を計算すると、
【数12】

これらも、移流項と非移流項に分離して解析する。ここで、ε、μ、σ、σ*の空間微分が式(6)で現れるが、これは空間4次中央差分を適用する。
【数13】

ここで、Fはε、μ、σ、σ*である。上記の時間2次差分、空間4次差分を適用することによって、全体として4次精度が保たれるため、CIP法の空間時間3次精度が保障される。
【0023】
非特許文献で提案されているCIP法を用いた電磁界計算は、電磁界方程式を光速で表現しているため、複素比誘電率や複素比透磁率を表現できなかった。この実施例によれば、CIP法に時間分離解法を適用することで、複素比誘電率や複素比透磁率も表現でき、かつ、上記の時間2次中央差分、空間4次中央差分を用いることにより、CIP法の空間時間より具体的な電磁界問題を解くことが可能となる。
【0024】
なお、この発明は上述の実施例に限定されるものではなくその趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。例えば、M型CIP法、A型CIP法およびC型CIP法と組み合わせ多次元電磁界問題にも適用することができる。また上述例では、差分法として2次中央差分法を採用したが、前進差分法を採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施例を全体として示す図である。
【図2】上述実施例の動作例を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0026】
11 入力部
12 シミュレーション処理部
13 移流項処理部
14 非移流項処理部
15 出力部
100 電磁界分布シミュレーション装置
101 コンピュータ
102 プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素比誘電率および/または複素比透磁率を考慮した電磁界方程式から導出した移流項の方程式をCIP法によりシミュレーションする第1のシミュレーション手段と、
上記電磁界方程式から導出した非移流項の方程式をシミュレーションする第2のシミュレーション手段とを有し、
上記第1のシミュレーション手段の算出結果と第2のシミュレーション手段の算出結果から上記電磁界方程式のシミュレーションを行なうことを特徴とする電磁界分布シミュレーション装置。
【請求項2】
上記第2のシミュレーション手段は上記第1のシミュレーション手段の算出結果を用いて二次中央差分法によりシミュレーションを行なう請求項1記載の電磁界分布シミュレーション装置。
【請求項3】
上記第2のシミュレーション手段は上記第1のシミュレーション手段の算出結果を用いて前進差分法によりシミュレーションを行なう請求項1記載の電磁界分布シミュレーション装置。
【請求項4】
上記電磁界方程式は、
【数1】

であり、上記移流項の方程式は、
【数2】

であり、上記非移流項の方程式は、
【数3】

である請求項1または2記載の電磁界分布シミュレーション装置。
【請求項5】
第1のシミュレーション手段が、複素比誘電率および/または複素比透磁率を考慮した電磁界方程式から導出した移流項の方程式をCIP法によりシミュレーションするステップと、
第2のシミュレーション手段が、上記電磁界方程式から導出した非移流項の方程式をシミュレーションするステップと、
上記第1のシミュレーション手段の算出結果と第2のシミュレーション手段の算出結果から上記電磁界方程式のシミュレーションを行なうステップとを有することを特徴とする電磁界分布シミュレーション方法。
【請求項6】
複素比誘電率および/または複素比透磁率を考慮した電磁界方程式から導出した移流項の方程式をCIP法によりシミュレーションする第1のシミュレーション手段と、
上記電磁界方程式から導出した非移流項の方程式をシミュレーションする第2のシミュレーション手段とを実現するためにコンピュータにより実行され、
上記第1のシミュレーション手段の算出結果と第2のシミュレーション手段の算出結果から上記電磁界方程式のシミュレーションを行なうことを特徴とする電磁界分布シミュレーション用コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−78634(P2007−78634A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270287(P2005−270287)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年5月13日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.61」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年6月2日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.107」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年6月22日 社団法人電気学会主催の「計測研究会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月22日 社団法人電気学会主催の「2005年電気学会 基礎・材料・共通部門大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月5日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.271」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月6日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.272」に発表
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【出願人】(505350204)
【出願人】(505352080)
【Fターム(参考)】