説明

電磁結合器及びそれを搭載した情報通信機器

【課題】給電系との整合調整及び周波数帯域の調整を容易に行うことが可能な電磁結合器を提供する。
【解決手段】電磁結合器2は、第1の導体パタン2aと、この第1の導体パタン2aと離間した第2の導体パタン2bとが誘電体からなるプリント基板の第1層2gに形成され、導体からなり、給電系2iに接続される給電パタン2eと、導体からなり、給電パタン2eと離間したグラウンドパタン2fとがプリント基板の第2層2hに形成され、第1層2gと第2層2hとが平行であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近距離に配置された情報通信機器間で静電界や誘導電界を用いて情報を伝達する無線通信システムに好適な電磁結合器及びそれを搭載した情報通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁結合器としては、特許文献1に記載されている電磁結合器がある。この電磁結合器(高周波結合器)は、平板上の電極と直列インダクタ、並列インダクタを高周波信号伝送路により接続して構成される。また、電磁結合器は、送信機や受信機などの情報通信機器に配置される。この送信機と受信機をそれぞれの電磁結合器の電極同士が向かい合うように配置すると、2つの電極間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15以下の場合は、2つの電極は縦波の静電界成分によって結合し、1つの容量として動作し、全体としてバンドパスフィルタのように動作するため、2つの電磁結合器間で効率良く情報を伝達することが出来る。また、2つの電極間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15〜8λ/15の場合は、縦波の誘導電界を利用し情報の伝達が可能である。
【0003】
一方、電磁結合器間が一定値以上の遠距離である場合、情報の伝達が不可能である。このため、電磁結合器から生じる電磁波により他の無線通信システムを妨害することがなく、かつ電磁結合器を具備する情報通信機器を用いる無線通信システムが他の無線通信システムから干渉を受けることがないという特徴を持つ。これらの特徴に基づき、従来の電磁結合器を用いた無線通信システムによれば、近距離において縦波の静電界若しくは誘導電界を使い、広帯域信号を用いるUWB(Ultra Wide Band)通信方式により情報通信機器間で大容量のデータ通信を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4345851号公報
【特許文献2】特開2006−121315号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】羽石操、外2名,「小形・平面アンテナ」,社団法人電子情報通信学会,p.23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、電磁結合器間において、2つの電極間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15以下の場合は、バンドパスフィルタを実現することにより情報を効率よく伝達するが、相手の電磁結合器との相性が良くない場合に信号伝達の効率が劣化するという問題がある。つまり、従来の電磁結合器では、2つの電磁結合器の電極間が縦波の静電界成分により結合し、1つの容量として動作し、直列インダクタと並列インダクタによりバンドパスフィルタを実現している。
【0007】
しかし、例えばこの電磁結合器を装置内部に搭載し無線通信を行う場合、電磁結合器間には誘電体を含む装置のカバー等があり、これにより電磁結合器間の誘電率が変化する。そうすると、2つの電磁結合器の電極間の容量の容量値が変化し、バンドパスフィルタの周波数特性が変化し、場合によっては所望の周波数帯域での情報伝達特性が劣化するという問題がある。この場合に、これら誘電率の変化を踏まえ電磁結合器の設計を行ったとしても、無線通信を行う装置がさらに別のものである場合、電磁結合器間の誘電率がさらに別の値となり、同様に無線通信の情報伝達特性が劣化してしまう。
【0008】
また、2つの電磁結合器の電極間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15〜8λ/15の場合は、縦波の誘導電界成分を利用し情報の伝達を行う。この際、2つの電磁結合器の配置と周囲環境を一定とした場合、情報伝達特性は電磁結合器と給電系との間の整合条件に依存する。つまり、整合条件が良い場合は電磁結合器から給電系を含む通信モジュールへの信号強度が大きくなり、反対に整合条件が悪い場合は電磁結合器から給電系を含む通信モジュールへの信号強度が小さくなる。
【0009】
しかし、従来技術においては、電磁結合器を設計する際に、電磁結合器間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15以下の場合にバンドパスフィルタを実現するように設計されているが、さらに、電磁結合器間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15〜8λ/15における整合条件を考慮する必要がある。このため、例えば電磁結合器間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15〜8λ/15において信号強度が不十分な場合、電磁結合器間の距離が使用する周波数の波長の2λ/15以下のバンドパスフィルタの実現も含め再設計が必要であり、電磁結合器の設計に手間がかかる。さらに、使用する周波数帯域が広帯域な場合、整合条件が適当となる周波数を多く実現する必要があり、さらに設計の手間がかかる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、従来技術と同等の情報伝達特性を維持しつつ、情報伝達特性が電磁結合器間の誘電率の変化に殆ど依存しない電磁結合器を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、従来技術と同等の情報伝達特性を維持しつつ、給電系との整合調整及び周波数帯域の調整を容易に行うことが可能な電磁結合器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る電磁結合器は、第1の導体パタンと、該第1の導体パタンと離間した少なくとも一つの第2の導体パタンとが第1の平面に形成され、導体からなり、給電系に接続される給電パタンと、導体からなり、前記給電パタンと離間したグラウンドパタンとが第2の平面に形成され、前記第1の導体パタンと前記給電パタンとの間、並びに前記第2の導体パタンと前記グラウンドパタンとの間を電気的に接続する複数の線状導体が前記第1の平面と前記第2の平面との間に形成され、前記第1の平面と前記第2の平面とが平行であるものである。
【0013】
上記の電磁結合器において、前記複数の線状導体は、前記第2の平面に対して垂直に形成されていても良い。
【0014】
上記の電磁結合器において、前記第1の平面と前記第2の平面との間には、プリント基板が形成されており、前記線状導体は、前記プリント基板に形成されたスルーホールの内部に形成された導体であっても良い。
【0015】
上記の電磁結合器において、前記第2の導体パタンは、前記グラウンドパタンと対向する位置に形成されても良い。
【0016】
上記の電磁結合器において、前記第1の導体パタンは、前記第2の導体パタンに向かって伸びるように形成され、前記第2の導体パタンは、前記第1の導体パタンの少なくとも先端部を囲むように形成されていても良い。
【0017】
上記の電磁結合器において、前記第1の導体パタンは、先端部が幅広に形成されていても良い。
【0018】
上記の電磁結合器において、前記第2の導体パタンは、複数の導体パタンから構成され、前記第1の導体パタンは、前記第2の導体パタンを構成する複数の導体パタンのそれぞれに向かって放射状に伸びるように形成されていても良い。
【0019】
上記の電磁結合器において、前記第2の導体パタンを構成する複数の導体パタンのそれぞれは、前記線状導体によって前記グラウンドパタンに接続されていても良い。
【0020】
上記の電磁結合器において、前記第1の導体パタンと前記第2の導体パタンは、それぞれ矩形状に形成されていても良い。
【0021】
上記の電磁結合器において、前記第2の導体パタンは、4つの矩形状の導体パタンから構成され、当該矩形状の導体パタンのそれぞれは、前記第1の導体パタンの外周の各辺と対向するように放射状に形成されていても良い。
【0022】
上記の電磁結合器において、前記第2の導体パタンと前記線状導体は、前記第1の導体パタンと前記線状導体との接続点に関して、点対称となるように形成されていても良い。
【0023】
上記の電磁結合器において、前記第1の導体パタンと前記第2の導体パタンとの最短距離が、電磁結合器が対象とする周波数帯の中心周波数の波長λに関して、λ/8以下であっても良い。
【0024】
また、本発明の情報通信機器は、上記の電磁結合器を搭載し、静電界又は誘導電界を用いて情報を伝達するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、従来技術と同等の情報伝達特性を維持しつつ、情報伝達特性が電磁結合器間の誘電率の変化に殆ど依存しない電磁結合器を実現できる。
【0026】
また、本発明は、従来技術と同等の情報伝達特性を維持しつつ、給電系との整合の調整及び帯域の調整を容易に行うことが可能な電磁結合器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の電磁結合器のモデルを示す図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態に係る電磁結合器を示す図である。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係る電磁結合器を示す図である。
【図4】図4は、本発明の電磁結合器のモデルを示す図である。
【図5】図5は、電界の縦波と横波を説明する図である。
【図6】図6は、式(5)、式(6)を元に計算した電界の波長と距離の比(r/λ)と電界強度との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の第3の実施形態に係る電磁結合器を示す図である。
【図8】図8は、本発明の第4の実施形態に係る電磁結合器を示す図である。
【図9】図9は、第4の実施形態に係る電磁結合器の周波数と反射係数の絶対値との関係についての実験結果を示すグラフである。
【図10】図10は、第4の実施形態に係る電磁結合器間及びモノポールアンテナ間の距離に対する電磁結合器又はモノポールアンテナへの入力電力と出力電力の比の実験結果を示すグラフである。
【図11】図11は、図9と図10の実験に用いる第4の実施形態の電磁結合器の寸法を示す図である。
【図12】図12は、図10の実験に用いるモノポールアンテナの寸法を示す図である。
【図13】図13は、図10の実験の実験方法を示す図である。
【図14】図14は、本発明の第5の実施形態に係る電磁結合器を示す図である。
【図15】図15は、本発明の第6の実施形態に係る電磁結合器を示す図である。
【図16】図16は、本発明の第7の実施形態に係る電磁結合器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では図1に示すモデルからなる電磁結合器1を用いることで前述の課題の一つを解決する。図1の電磁結合器1は、1つの容量1aと、1つの伝送線路1bからなる。特許文献2(特開2006−121315号公報)に基づき、図1に示す電磁結合器1の入力インピーダンスZinを求めると、伝送線路の特性インピーダンスをZo、伝送線路の損失定数をα、伝送線路の電気長をl、容量をC、電磁波の速度をv、角周波数をωとすると、ω・l/v<<1の条件において、この電磁結合器の入力インピーダンスZinは、式(1)で近似が可能である。
【数1】

【0029】
給電系との整合性の向上には、電磁結合器の入力インピーダンスを給電系のインピーダンスの複素共役にする必要がある。式(1)から分かるように、図1の構造の入力インピーダンスZinは複素数となり、実数成分と虚数成分から構成されるが、損失定数αは実数成分のみに存在し、容量Cは虚数成分のみに存在する。このため、実数成分と虚数成分を独立に調整することができ、よって、給電系との整合調整が容易である。
また、給電系のインピーダンスをZFとおくと、一般的に整合条件は、反射係数Γを用い式(2)のように表すことが可能である。
【数2】

【0030】
式(2)から分かるように、整合条件が適当となる周波数の数、つまり周波数帯域は反射係数の周波数特性に依存する。さらに、一般的には給電系のインピーダンスZFは一定であるので、周波数帯域は電磁結合器の入力インピーダンスZinの周波数特性に依存する。また、周波数帯域は反射係数Γの周波数に対する変化の割合に依存し、例えば、反射係数Γの周波数に対する変化の割合が小さい場合は狭帯域の実現に適しており、逆の場合は広帯域の実現に適している。この関係は電磁結合器の入力インピーダンスZinと周波数の間にも成り立つ。式(1)より、本発明による電磁結合器の入力インピーダンスZinの周波数(角周波数ω)に対する変化の割合を式(3)に示す。
【数3】

【0031】
式(3)より、例えば広帯域化を行う場合は、式(3)の伝送線路の特性インピーダンスZoを減少させる、電気長lを減少させる、損失定数αを減少させる、または容量Cを増加させる、の少なくとも何れかにより可能である。このように、本発明のアンテナは整合条件の周波数に対する変化の割合の調整も可能であり、かつ前述のように整合調整が容易であるため、周波数帯域の調整が容易である。
【0032】
また、図1に示す構造は伝送線路と容量からなる単純な構造であるため、例えば図2に示す本発明による第1の実施形態のように2層のプリント基板において実現が可能である。
【0033】
[第1の実施形態]
以下に、本発明の第1の実施形態に係る電磁結合器2について、図2を用いて説明する。
【0034】
本実施の形態では、電磁結合器2は、一方の面に導体が形成される第1層2gを備え、他方の面に導体が形成される第2層2hを備えた2層のプリント基板が用いられている。図2(a)は、電磁結合器2の第1層2gを見た図であり、図2(b)は、電磁結合器2の第2層2hを第1層2g側から透過して見た図である。
【0035】
図2に示す電磁結合器2は、第1の導体パタン2aと、この第1の導体パタン2aと離間した第2の導体パタン2bとが誘電体からなるプリント基板の第1層2gに形成され、導体からなり、給電系2iに接続される給電パタン2eと、導体からなり、給電パタン2eと離間したグラウンドパタン2fとがプリント基板の第2層2hに形成されている。第1層2gと第2層2hは平行である。
【0036】
第2の導体パタン2bは、第1の導体パタン2aよりも大きく形成されている。また、第2の導体パタン2bは、その全体がグラウンドパタン2fと対向する位置に形成されている。なお、第1の導体パタン2aと第2の導体パタン2bとの最短距離は、電磁結合器2が対象とする周波数帯の中心周波数の波長λに関してλ/8以下である。
【0037】
第1の導体パタン2aと給電パタン2eとの間、並びに第2の導体パタン2bとグラウンドパタン2fとの間は、それぞれ第2層2hに対して垂直に(グラウンドパタン2fに対しても垂直)形成された線状導体2cと線状導体2dによって電気的に接続されている。この線状導体2c、2dは、プリント基板に形成されたスルーホールの内部に形成された導体である。この導体は、スルーホールの内部に充填されていても良く、又は、スルーホールの内面に薄く設けられていても良い。
【0038】
線状導体2cは、一端が第1の導体パタン2aと接続され、他端が給電パタン2eと接続される。したがって、第1の導体パタン2aと給電パタン2eとの間は、線状導体2cにより電気的に接続される。また、線状導体2dは、一端が第2の導体パタン2bと接続され、他端がグラウンドパタン2fと接続される。したがって、第2の導体パタン2bとグラウンドパタン2fとの間は、線状導体2dにより電気的に接続される。これらにより、給電パタン2eとグラウンドパタン2fとの間に給電がされる。なお、第1の導体パタン2aと第2の導体パタン2bの空隙は、図1における容量1aとして動作し、第2の導体パタン2bは、図1における伝送線路1bとして動作する。
【0039】
給電系2iから電磁結合器2への給電は、例えば同軸ケーブルにより行うことができる。同軸ケーブルの中心導体は、給電パタン2eに接続され、同軸ケーブルの外部導体は、グラウンドパタン2fに接続される。給電系2iから電磁結合器2に給電することにより、第1の導体パタン2a、第2の導体パタン2b、及び線状導体2c、2dに電流が流れ、線状導体2c、2dの電流から、2つの線状導体2c、2dと平行な方向に電磁波の縦波成分が放射される。この縦波成分の大きさは電磁結合器2と給電系2iとの間の整合条件と正の相関関係にある。本発明に係る電磁結合器2は、前述のように整合調整が容易であるため、電磁波の縦波成分の大きさの調整が容易であり、十分な情報伝達の実現が可能である。さらに、電磁結合器2は、従来技術のようにバンドパスフィルタ構造を用いていないため、前述の電磁結合器間の誘電率の変化に基づく情報伝達特性の劣化の低減が可能である。
【0040】
なお、従来の電磁結合器では、バンドパスフィルタを実現するために、電極、直列インダクタ、並列インダクタ、及び容量が必要であり、また、電極は直列インダクタ、並列インダクタ及びグラウンドパタンとは独立する層に配置される構造である。これを具現化する手法の一つとして、2層のプリント基板の片層に直列および並列のインダクタを、他層にグラウンドパタンを成形し、さらにこれらに別の電極を接続する方法がある。また、3層のプリント基板を用いて、それぞれの層に電極、直列および並列インダクタ、グラウンドパタンを形成し、電極とインダクタを線状導体で接続する方法がある。しかし、このような方法によると、電磁結合器の構造が複雑となり、コストも高くなる。一方、本発明では、第1の実施形態のように2層のプリント基板を用いて電磁結合器の実現が可能であり、例えばFR4を介材とするプリント基板等を用いることが可能である。したがって、本発明の電磁結合器は、構造が単純でコストが低い電磁結合器の実現が可能である。
【0041】
また、第2の導体パタン2bは、グラウンドパタン2fと対向する位置に形成されているが、第2の導体パタン2bとグラウンドパタン2fとには、互いに逆方向に電流が流れる。このため、第2の導体パタン2bに流れる電流に基づく電界は、グラウンドパタン2fに流れる電流に基づく電界によって打ち消される。横波は距離に対する減衰量が縦波よりも小さく、横波の発生によって遠距離での通信が可能となるという問題が生じるが、電磁結合器2は、第2の導体パタン2bを流れる電流による横波の発生を抑制することが可能である。
【0042】
また、第1の導体パタン2aについても、第2の導体パタン2bと同様であり、第1の導体パタン2aと給電パタン2eは、互いに対向して形成されているため逆方向の電流が流れるため、第1の導体パタン2aに流れる電流に基づく電界は、給電パタン2eに流れる電流に基づく電界によって打ち消される。
【0043】
したがって、本発明の電磁結合器は、近距離に配置された情報通信機器間で静電界や誘導電界を用いて情報を伝達する無線通信システムに非常に好適であることが分かる。なお、第2の導体パタン2bに流れる電流に基づく電界をグラウンドパタン2fに流れる電流に基づく電界によって打ち消すとの作用効果は、第1層2gと第2層2hが平行であるときに最も有効である。
【0044】
以上、本発明の第1の実施形態では、情報伝達特性が情報伝達を行うもう一方の電磁結合器との間の誘電率の変化に殆ど依存しない電磁結合器を実現できる。この結果、誘電体を含むカバーで覆われた機器に電磁結合器を内蔵する場合であっても、情報伝達特性の劣化を低減することが可能であり、より多くの種類の情報通信機器への適応が容易となる。
【0045】
また、従来技術と同等の情報伝達能力を維持しつつ、給電系との整合調整を容易に行うことが可能な電磁結合器を実現できる。したがって、電磁結合器を機器に搭載する場合に、電磁結合器を配置する空間や周囲環境により、電磁結合器の周波数特性の調整が必要であるが、給電系との整合調整を容易に行うことが可能であるため、この調整に要する時間の低減が可能であり、迅速に最適な電磁結合器の提供が可能となる。
【0046】
[第2の実施形態]
図3は本発明の第2の実施形態に係る電磁結合器3を示す図である。図2に示した構造においては、2つの線状導体2c、2dを流れる電流から生じ、かつ線状導体2c、2dと平行である電磁波の縦波成分を利用し、近距離での情報伝達を行い、かつ第1の導体パタン2aと第2の導体パタン2bを流れる電流による横波を抑制している。しかし、この横波が抑制しきれない場合、第1の導体パタン2aと第2の導体パタン2bを流れる電流による横波が発生し、遠距離での通信が可能となる問題が生じる。この問題を回避するために、本実施の形態は、図2の第1層2gの第1の導体パタン2aと第2の導体パタン2bを図3に示すように変更した。
【0047】
すなわち、図3に示す第2の実施形態の電磁結合器3は、第1の導体パタン3aと、第1の導体パタン3aと離間し、2つの矩形状の導体パタン3b、3cからなる第2の導体パタンとがプリント基板の第1層3iに形成され、導体からなり、給電系3kに接続される給電パタン3gと、導体からなり、給電パタン3gと離間したグラウンドパタン3hとがプリント基板の第2層3jに形成されている。第1の導体パタン3aと給電パタン3gとの間は、プリント基板の第2層3jに対して垂直に形成された線状導体3dによって電気的に接続されている。また、第2の導体パタンを構成する2つの導体パタン3b、3cとグラウンドパタン3hとの間は、プリント基板の第2層3jに対して垂直に形成された線状導体3e、3fによってそれぞれ電気的に接続されている。この線状導体3d、3e、3fは、プリント基板に形成されたスルーホールの内部に形成された導体である。線状導体3dは、一端が第1の導体パタン3aと接続され、他端が給電パタン3gと接続され、線状導体3e、3fは、それぞれ一端が第2の導体パタンを構成する導体パタン3b、3cと接続され、他端がグラウンドパタン3hと接続される。このようにして、電磁結合器3は、給電パタン3gとグラウンドパタン3hの間に給電がされる。
【0048】
第2の導体パタンを構成する導体パタン3b、3cは、同一形状をしていて、第1の導体パタン3aを挟み込むように配置されている。このように2つの導体パタン3b、3cを配置することで、両導体パタン3b、3cから生じる電磁波の横波成分を相殺させることが可能であり、横波成分の低減が可能である。特に、第1の導体パタン3aと2つの導体パタン3b、3cとの形状と配置位置、3つの線状導体3d、3e、3fの配置位置が、第1の導体パタン3aと線状導体3dの接続点に関し点対称である場合、2つの導体パタン3b、3cには、逆方向でありかつ大きさの等しい電流が流れるため、これら電流から生じる電磁波の横波成分のさらなる低減が可能である。また、本実施の形態では、グラウンドパタン3hは、給電パタン3gを囲むように形成されている。これにより、横波がさらに生じ難くなるという効果が得られる。
【0049】
この電磁結合器3の作用効果について、さらに詳細に説明する。第2の実施形態の電磁結合器3のモデルは図4となる。伝送線路4b、4dの特性インピーダンスをZo’、損失定数をα’、電気長をl’とし、容量4a、4cの容量値をC’、電磁波の速度をv、角周波数をωとすると、ω・l’/v<<1の条件において、この電磁結合器4の入力インピーダンスZin’は式(4)となる。
【数4】

【0050】
式(4)から分かるように、図4の構造の入力インピーダンスZin’は図1のものと同じ形となる。よって、図3、4記載の電磁結合器も図1、2に示す電磁結合器と同様に、整合調整及び周波数帯域の調整を容易に行うことが可能である。
【0051】
図5は、電界の縦波と横波を説明する図である。式(5)、式(6)、および図5に示すように、微小ダイポール(Il)から生じる電界には縦波(Er)と横波(Eθ)がある(非特許文献1)。
【0052】
【数5】

【0053】
【数6】

【0054】
ここで、Ilは原点Oを通りZ軸上にある微小ダイポールを、Erは観測点Pにおける縦波を、Eθは観測点Pにおける横波を、rは微小ダイポールから観測点Pまでの距離を、koは波数を、jは虚数単位を、wは角周波数を、εoは真空の誘電率を、θはZ軸(微小ダイポール)と観測点Pのなす角を示す。
【0055】
図6に式(5)と式(6)を元に計算した電界の波長と距離の比(r/λ)と電界強度との関係を示す。図6の横軸は電界の波長と距離の比(r/λ)を示し、図6の縦軸は電界強度を対数で示している。図6には、以下の(a)〜(e)の5つの電界成分の大きさを示す。
【0056】
(a)縦波の1/r^2を含む項の絶対値
(b)縦波の1/r^3を含む項の絶対値
(c)横波の1/r^1を含む項の絶対値
(d)横波の1/r^2を含む項の絶対値
(e)横波の1/r^3を含む項の絶対値
【0057】
図3に示す第2の実施形態においては、2つの第1の実施形態に係る電磁結合器2を、線状導体2cを共有するように並列接続したものであり、第1層3iにおいて第1の導体パタン3aと線状導体3dと接続点を中心に点対称な構造となっている。これにより、導体パタン3bと3cを流れる電流は逆向きとなるため、これら電流から放射される電磁波の横波成分は相殺され、横波成分の放射をより低減することが可能である。一方、電磁結合器3は、式(5)と式(6)における縦波の1/r^2を含む項と縦波の1/r^3を含む項に基づく電磁波が線状導体3d、3e、3fと平行な方向に放射される。したがって、電磁結合器3は、近距離に配置された情報通信機器間で静電界や誘導電界を用いて情報を伝達する無線通信システムに非常に好適であることが分かる。
【0058】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に関し、図7を用いて説明する。
【0059】
第3の実施形態の電磁結合器7は、誘電体を介材とし、その一方の面に導体が形成される第1層7gを備え、その他方の面に導体が形成される第2層7hを備えた2層のプリント基板で構成されている。電磁結合器7は、第1の導体パタン7aと、この第1の導体パタン7aと離間した第2の導体パタン7bとがプリント基板の第1層7gに形成され、導体からなり、給電系7iに接続される給電パタン7eと、導体からなり、給電パタン7eと離間したグラウンドパタン7fとがプリント基板の第2層7hに形成されている。
【0060】
本実施の形態では、第1の導体パタン7aは、第2の導体パタン7bに向かって伸びるように形成されている。また、第1の導体パタン7aの先端部7pは、幅広に形成されている。一方、第2の導体パタン7bは、第1の導体パタン7aの少なくとも先端部を囲むように形成されている。第2の導体パタン7bは、第1の導体パタン7aよりも大きく、且つその全体がグラウンドパタン7fと対向するように形成されている。なお、第1の導体パタン7aと第2の導体パタン7bとの最短距離は、電磁結合器7が対象とする周波数帯の中心周波数の波長λに関して、λ/8以下である。
【0061】
第1の導体パタン7aと給電パタン7eとの間は、第2層7hに対して垂直に形成された線状導体7cによって電気的に接続されている。つまり、線状導体7cは、一端が第1の導体パタン7aに接続され、もう一端が給電パタン7eに接続される。また、第2の導体パタン7bとグラウンドパタン7fとの間は、第2層7hに対して垂直に形成された2つの線状導体7d、7dによって電気的に接続されている。つまり、2つの線状導体7d、7dは、それぞれ一端が第2の導体パタン7bに接続され、他端はグラウンドパタン7fに接続されている。なお、線状導体7c、7dは、プリント基板に形成されたスルーホールの内部に形成された導体である。
【0062】
第3の実施形態は、第1の実施形態に対して、図1に示すモデルにおいて容量1aの増加を図るものである。すなわち、第1の導体パタン7aと第2の導体パタン7bが対向する辺の長さを第1の実施形態の電磁結合器2と比較して大きくすることによって、第1の導体パタン7aと第2の導体パタン7bとによる容量を第1の実施形態と比較してより大きくすることが可能である。このため、式(1)または式(4)から分かるように、電磁結合器の入力インピーダンスの虚数成分が零となる共振周波数(角周波数ω)が小さくなる。このため、本実施形態によると、電磁結合器の小型化が可能である。
【0063】
また、容量1aがとり得る容量値の範囲が広がることで、式(1)、(2)、(3)からわかるように、電磁結合器の厚みや介材の変更による特性インピーダンスZ、損失定数α、及び電気長lの変化に対し、電磁結合器の整合条件および帯域の保持が可能である。このため、本実施形態によると、電磁結合器の設計自由度が増し、電磁結合器の薄型化や小型化が可能である。
【0064】
なお、第1の導体パタン7aの先端部7pが幅広に形成されていることによって、第1の導体パタン7aと第2の導体パタン7bが対向する辺の長さをより長くとることが可能である。先端部7pの形状は、第3の実施形態の矩形状以外にも、円形状や星形状にすることも可能である。
【0065】
また、第2の導体パタン7bは、グラウンドパタン7fと対向する位置に形成されているため、第2の導体パタン7bとグラウンドパタン7fとに互いに逆方向の電流が流れる。これにより、第2の導体パタン7bに流れる電流に基づく電界は、グラウンドパタン7fに流れる電流に基づく電界によって打ち消されるため、第2の導体パタン7bを流れる電流による横波の発生を抑制することが可能である。なお、第1層7gと第2層7hとが平行であるとき、第2の導体パタン7bを流れる電流による横波の発生を最も効果的に抑制することが可能である。
【0066】
一方、第1の導体パタン7aは、給電パタン7eとグラウンドパタン7fとこれらの間の非導体部分に対向しているため、横波発生を抑制する効果は大きくない。しかし、第1の導体パタン7aは、第2の導体パタン7bよりも小さいため、横波の発生も第2の導体パタン7bよりも小さい。したがって、第2の導体パタン7bの方をグラウンドパタン7fと対向する位置に形成することによって、より効果的に横波の発生を抑制することが可能である。
【0067】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態に関し、図8を用いて説明する。
【0068】
第4の実施形態の電磁結合器8は、4つの第3の実施形態に係る電磁結合器7を、線状導体7cを共有するように並列接続したものである。すなわち、電磁結合器8は、プリント基板の中央から4方向に放射状に伸びる第1の導体パタン8aと、この第1の導体パタン8aと離間した4つの第2の導体パタン8bとがプリント基板の第1層8gに形成され、給電系8iに接続される給電パタン8eと、この給電パタン8eと離間したグラウンドパタン8fとがプリント基板の第2層8hに形成され、第1の導体パタン8aの中央には、1つの線状導体8cが形成されたものである。グラウンドパタン8fと各第2の導体パタン8bとの間には、それぞれ2つの線状導体8dが形成されている。
【0069】
線状導体8cは、一端が第1の導体パタン8aに接続されると共にもう一端が給電パタン8eに接続されている。同様に、線状導体8dは、一端が第2の導体パタン8bに接続されると共にもう一端がグラウンドパタン8fに接続されている。線状導体8c、8dは、第2層8hに対して垂直となるように形成されている。
【0070】
このように形成された電磁結合器8は、第1層8gにおいて、第1の導体パタン8aと線状導体8cと接続点を中心に点対称な構造となっている。これにより、本実施形態の電磁結合器8は、第1の導体パタン8aと第2の導体パタン8bから放射される電磁波の横波成分が相殺され、横波成分の放射を低減することが可能である。また、本実施形態の電磁結合器8は、4つの電磁結合器7を形成していることによって、縦波を放射する線状導体8c、8dの配置が広範囲となるため、結合範囲の広い電磁結合器を実現することが可能である。また、4つの第3の実施形態に係る電磁結合器7が並列に接続されているため、電磁結合器8の入力インピーダンスZinは式(4)の半分となるが、これは容量C等を変更することで容易に調整が可能であるため、給電系との整合条件の調整に問題は生じない。
【0071】
なお、第3の実施形態の電磁結合器7において、線状導体7dの配置を広範囲とする目的で第2の導体パタン7bを大きくすることは、容易ではない。すなわち、第2の導体パタン7bを大きくすると、式(4)におけるZo’、l’、α’が変化し、電磁結合器の入力インピーダンスZinが変化する。この結果、給電系との整合状態が劣化するため、放射電界強度が低下し、電磁結合器の結合強度が劣化するという問題が生じる。したがって、第2の導体パタン7bの大きさには制限がある。
【0072】
次に、本発明の第4の実施形態に関する実験結果を示す。
【0073】
まず、図9は、本発明の第4の実施形態に係る電磁結合器8の周波数と反射係数の絶対値との関係を調査した実験結果である。この実験では、図11に示す形状の電磁結合器8を使用した。電磁結合器8は、厚さ1.6mmのFR4両面(2層)基板を用いて形成され、電磁結合器8の各寸法は、図11に示す通りである。また、反射係数の絶対値は、ネットワークアナライザを用いて測定した。
【0074】
図9の実験結果によると、周波数が4.12GHz〜4.76GHzにおいて、反射係数の絶対値は0.7以下である。したがって、電磁結合器8は、広帯域な周波数特性を実現していることが分かる。
【0075】
また、図10は、本発明の第4の実施形態に係る電磁結合器8とモノポールアンテナに関して、2つの電磁結合器8の間、及び2つのモノポールアンテナの間の距離に対する電磁結合器又はモノポールアンテナへの入力電力と出力電力の比との関係を調査した実験結果である。この実験では、図9の実験と同じ電磁結合器8を使用した。また、実験では、図12に示すモノポールアンテナ12を使用した。モノポールアンテナ12は、プリント基板12aと、プリント基板12aの表面に形成された2つの矩形導体12b、12cとからなる。2つの矩形導体12b、12cは、離間して形成されており、矩形導体12bは放射導体として動作し、矩形導体12cはグラウンドとして動作する。矩形導体12b、12cの間において給電がされる。モノポールアンテナ12は、厚さ2.4mmのFR4片面基板を用いて形成され、L’1=22.0mm、L’2=10.0mm、L’3=1.0mm、L’4=20.0mm、L’5=9.5mm、L’6=1.0mmである。モノポールアンテナ12は、一般的に利用されているアンテナであり、横波を用いた無線通信に適用されている。
【0076】
また、図13を用いて実験系を述べる。実験では2つの被測定物13a、13b、すなわち、2つの電磁結合器8又は2つのモノポールアンテナ12は、平行に対向して配置され、一方の被測定物13aの中心を通る垂線が、他方の被測定物13bの中心を通るように配置される。また、被測定物13a、13bは、同軸ケーブル13c、13dを介し1つのネットワークアナライザ13eの2つの端子に接続されている。ネットワークアナライザ13eの一方の端子から出力される電力に対する他方の端子から入力される電力の比(S21の絶対値)、すなわち、電磁結合器又はモノポールアンテナへの入力電力と出力電力の比を評価する。
【0077】
図10は、2つの図11の電磁結合器8の間、及び2つの図12のモノポールアンテナ12の間のS21の絶対値と距離との関係についての実験結果を示す。実験では、周波数が4.5GHzの信号を使用しており、図10の横軸は、この使用周波数の波長に対する被測定物間の距離の比とした。
【0078】
図10から分かるように、本発明による第4の実施形態の電磁結合器8では、距離に対する減衰が横波より大きい縦波を用い無線通信を行っているため、横波を用いて無線通信を行うモノポールアンテナ12より距離に対するS21の絶対値の傾きの絶対値が大きい。例えば、波長に対する被測定物間の距離の比が0.7付近では、電磁結合器8のS21は、モノポールアンテナ12が約−18dBであるのに対し、電磁結合器8が約−35dBである。一方、波長に対する被測定物間の距離の比が小さくなるにしたがい、電磁結合器8のS21とモノポールアンテナ13との差が小さくなる。したがって、電磁結合器8は、比較的に遠方での無線通信強度が弱く、近距離無線通信に適していることが分かる。
【0079】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態に関し、図14を用いて説明する。第5の実施形態の電磁結合器14は、第2の実施形態の電磁結合器3に第2の導体パタンを構成する導体パタン14l、14m、及び線状導体14n、14oを加えたものである。第1の導体パタン3aと4つの第2の導体パタン3b、3c、14l、14mとの最短距離は、電磁結合器が対象とする周波数帯の中心周波数の波長λに関してλ/8以下である。また、2つの線状導体14n、14oは、プリント基板の第2層3jに対して垂直に形成されている。線状導体14nは、一端が導体パタン14lと接続され、もう一端がグラウンドパタン3hと接続され、線状導体14oは、一端が導体パタン14mと接続され、もう一端がグラウンドパタン3hと接続されている。
【0080】
ここで、線状導体14n、14oは、第1層3iにおいて、線状導体3eと線状導体3dと線状導体3fを通る直線と線状導体14nと線状導体3dと線状導体14oを通る直線とが90°の角度をなすように配置される。つまり、4つの線状導体3e、3f、14n、14oは、第1の導体パタン3aと線状導体3dとの接続点を中心に、90度の角度間隔に形成されているまた、導体パタン14l、14mは、線状導体14nと線状導体3dと線状導体14oを通る直線に沿って配置される。つまり、第2の導体パタンを構成する4つの矩形状の導体パタン3b、3c、14l、14mは、それぞれ第1の導体パタン3aの外周の各辺と対向するように放射状に形成されている。
【0081】
このように導体パタン14l、14m、及び線状導体14n、14oを加えることで、第5の実施形態の電磁結合器14は、第2の実施形態と比較して、線状導体から放射される電磁波の縦波成分を偏り無く放射することが可能であり、方向による通信能力のばらつきを低減することが可能である。なお、第1層3iにおいて、線状導体3dを中心として放射状に導体パタンと線状導体を追加することも可能である。この場合、電磁結合器から放出される電磁波の縦波成分の偏りをさらに低減させることが可能である。
【0082】
なお、本実施形態の電磁結合器14は、第1層3iにおいて点対称な構造となっているため、第4の実施形態の電磁結合器8と同様に、第2の導体パタンから放射される電磁波の横波成分が相殺され、横波成分がより低減される。
【0083】
[第6の実施形態]
次に、本発明の第6の実施形態に関し、図15を用いて説明する。
【0084】
第6の実施形態の電磁結合器15は、8つの第3の実施形態に係る電磁結合器7を、線状導体7cを共有するように並列接続したものである。すなわち、電磁結合器15は、プリント基板の中央から8方向に放射状に伸びる第1の導体パタン15aと、この第1の導体パタン15aと離間した8つの第2の導体パタン15bとがプリント基板の第1層15gに形成され、給電系15iに接続される給電パタン15eと、この給電パタン15eと離間したグラウンドパタン15fとがプリント基板の第2層15hに形成され、第1の導体パタン15aの中央には、1つの線状導体15cが形成されたものである。また、グラウンドパタン15fと各第2の導体パタン15bとの間には、それぞれ2つの線状導体15dが形成されている。
【0085】
第1の導体パタン15aは、45度間隔で8方向に放射状に伸びているが、その伸びの長さは、長短が交互になっている。なお、放射状に伸びた第1の導体パタン15aの先端部15pは、それぞれ矩形状に幅広となっている。8つの第2の導体パタン15dは、矩形状に形成された先端部15pに合致するように、内周が同様の矩形状に形成されている。
【0086】
線状導体15cは、一端が第1の導体パタン15aに接続されると共にもう一端が給電パタン15eに接続されている。同様に、線状導体15dは、一端が第2の導体パタン15bに接続されると共にもう一端がグラウンドパタン15fに接続されている。線状導体15c、15dは、第2層15hに対して垂直となるように形成されている。
【0087】
このように複数の第3の実施形態係る電磁結合器7を平面的且つ点対象に配置することにより、縦波を放射する線状導体15dの配置が広範囲となって結合範囲を広範囲とすることが可能であると共に、同時に電磁波の横波成分の放射を低減することが可能である。
【0088】
[第7の実施形態]
次に、本発明の第7の実施形態に関し、図16を用いて説明する。
【0089】
第7の実施形態の電磁結合器16は、第6の実施形態の電磁結合器15において、8方向に放射状に伸びる第1の導体パタンの長さを等しくしたものである。すなわち、電磁結合器16は、プリント基板の中央から45度間隔で放射状に伸びる第1の導体パタン16aと、この第1の導体パタン16aと離間した8つの第2の導体パタン16bとがプリント基板の第1層16gに形成され、給電系16iに接続される給電パタン16eと、この給電パタン16eと離間したグラウンドパタン16fとがプリント基板の第2層16hに形成され、第1の導体パタン16aの中央には、1つの線状導体16cが形成されたものである。また、グラウンドパタン16fと各第2の導体パタン16bとの間には、それぞれ2つの線状導体16dが形成されている。
【0090】
第7の実施形態の電磁結合器16は、第6の実施形態の電磁結合器15と同様の作用効果を奏するが、結合範囲に偏りをより低減することが可能である。なお、結合範囲を増加するために、8つより多くの第3の実施例の電磁結合器を並列に配置してもよい。
【0091】
以上、本発明の実施形態を図示し説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術思想、技術的範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正が可能であることは明らかである。
【0092】
例えば、上記の実施形態では、2層のプリント基板の一方の面に第1の導体パタンと第2の導体パタンを形成し、他方の面に給電パタンとグラウンドを形成した実施形態を示したが、3層以上のプリント基板を用い、そのプリント基板の何れか2層を用いることも可能である。また、上記の実施形態では、2層のプリント基板を用いた電磁結合器を示したが、プリント基板を用いずに銅や鉄などの導体からなる導体板を用いて電磁結合器を形成することも可能である。さらに、第1の導体パタンと第2の導体パタンの間の空隙により容量を実現したが、第1の導体パタンと第2の導体パタンの間にさらに容量(例えばチップ容量)を設けることも可能である。これらのような変更及び修正は全て本発明の技術思想、技術的範囲に包含されるべきものである。
【符号の説明】
【0093】
1〜4、7、8、14〜16 ・・・ 電磁結合器
1a ・・・ 容量
1b ・・・ 伝送線路
1c ・・・ 給電系
4a、4c ・・・ 容量
4b、4d ・・・ 伝送線路
4e ・・・ 給電系
12 ・・・ モノポールアンテナ
13a、13b ・・・ 被測定物
13c、13d ・・・ 同軸ケーブル
13e・・・ ネットワークアナライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導体パタンと、該第1の導体パタンと離間した少なくとも一つの第2の導体パタンとが第1の平面に形成され、
導体からなり、給電系に接続される給電パタンと、導体からなり、前記給電パタンと離間したグラウンドパタンとが第2の平面に形成され、
前記第1の導体パタンと前記給電パタンとの間、並びに前記第2の導体パタンと前記グラウンドパタンとの間を電気的に接続する複数の線状導体が前記第1の平面と前記第2の平面との間に形成され、
前記第1の平面と前記第2の平面とが平行であることを特徴とする電磁結合器。
【請求項2】
前記複数の線状導体は、前記第2の平面に対して垂直に形成されていることを特徴とする請求項1記載の電磁結合器。
【請求項3】
前記第1の平面と前記第2の平面との間には、プリント基板が形成されており、
前記線状導体は、前記プリント基板に形成されたスルーホールの内部に形成された導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁結合器。
【請求項4】
前記第2の導体パタンは、前記グラウンドパタンと対向する位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電磁結合器。
【請求項5】
前記第1の導体パタンは、前記第2の導体パタンに向かって伸びるように形成され、
前記第2の導体パタンは、前記第1の導体パタンの少なくとも先端部を囲むように形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電磁結合器。
【請求項6】
前記第1の導体パタンは、先端部が幅広に形成されていることを特徴とする請求項5記載の電磁結合器。
【請求項7】
前記第2の導体パタンは、複数の導体パタンから構成され、
前記第1の導体パタンは、前記第2の導体パタンを構成する複数の導体パタンのそれぞれに向かって放射状に伸びるように形成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の電磁結合器。
【請求項8】
前記第2の導体パタンを構成する複数の導体パタンのそれぞれは、前記線状導体によって前記グラウンドパタンに接続されていることを特徴とする請求項7に記載の電磁結合器。
【請求項9】
前記第1の導体パタンと前記第2の導体パタンは、それぞれ矩形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電磁結合器。
【請求項10】
前記第2の導体パタンは、4つの矩形状の導体パタンから構成され、当該矩形状の導体パタンのそれぞれは、前記第1の導体パタンの外周の各辺と対向するように放射状に形成されていることを特徴とする請求項9に記載の電磁結合器。
【請求項11】
前記第2の導体パタンと前記線状導体は、前記第1の導体パタンと前記線状導体との接続点に関して、点対称となるように形成されていることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の電磁結合器。
【請求項12】
前記第1の導体パタンと前記第2の導体パタンとの最短距離が、電磁結合器が対象とする周波数帯の中心周波数の波長λに関して、λ/8以下であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の電磁結合器。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載の電磁結合器を搭載し、静電界又は誘導電界を用いて情報を伝達する情報通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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