説明

電磁鋼板とその製造方法、ステータコア、ロータコアおよびモータ

【課題】高周波鉄損を効果的に低減でき、しかも低周波の磁束流れを阻害しない電磁鋼板を製造することのできる電磁鋼板の製造方法、この方法によってできる電磁鋼板、この電磁鋼板からなるロータコアおよびステータコアとモータを提供する。
【解決手段】本発明の電磁鋼板の製造方法は、一方側の珪素濃度が他方側に比して高濃度となる面材3を用意する第1の工程と、2枚の面材3,3を、それぞれの珪素濃度の高い側31、31が外側となる姿勢で積層して面材積層体4を形成する第2の工程と、面材積層体4を圧延処理することによって電磁鋼板5を製造する第3の工程と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板とその製造方法、この電磁鋼板が積層されてできるステータコアおよびロータコアと、これらのコアを備えてなるモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車産業においては、ハイブリッド自動車や電気自動車のさらなる走行性能の向上を目指して、駆動用モータの高出力化、軽量化、小型化への開発が日々進められている。また、家電製品メーカーにおいても、各種家電製品に内蔵されるモータのさらなる小型化、高性能化への開発に余念がない。
【0003】
モータの性能を向上させるには、モータ内部で発生する各種損失を如何に低減できるかが課題である。例えば、電気入力後においては、モータを構成するコイルにおいて導体抵抗損失に起因する銅損が生じ、ロータやステータには渦電流損失やヒステリシス損失に起因する鉄損(または高周波鉄損)が生じ、これらの損失に応じてモータ効率やトルク性能が低下することとなる。上記するモータの小型化により、モータ性能を高めるために高回転化が鋭意研究されているが、この高回転化に伴ってモータ損失は大きくなることから、低鉄損化は急務の課題となっているのが現状である。
【0004】
ところで、ロータコアやステータコアを製造するための電磁鋼板に関し、その鉄損を低減すべくCVD法(浸珪処理法)を適用して電磁鋼板表面からその成分であるシリコンを拡散させて表層のシリコン濃度を高め、その高周波特性を改善せんとする技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、3層構造のクラッド材、具体的には、両側にシリコン濃度の高い鋼板、中央にシリコン濃度の低い鋼板を配置してこれらを圧着焼鈍することにより製造されるクラッド材からなる電磁鋼板が特許文献2に開示されている。
【0006】
上記するCVD法による製造方法では、シリコンを高温雰囲気で時間をかけて拡散させることにより、その結晶粒径が粗大化してしまい、このことは渦電流損を大きくする原因となる。また、シリコン拡散のために高温雰囲気で長時間を要することから、従来一般の電磁鋼板の製造方法に比してその製造コストが高騰することは必至である。
【0007】
一方、3層構造のクラッド材からなる電磁鋼板の場合には、シリコン濃度が相違する鋼板同士、すなわち、異種鋼板同士を合わせて圧着焼鈍することから、鋼板界面で剥がれが起き易いという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平8−302449号公報
【特許文献2】特開2002−302744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、電磁鋼板成分の結晶粒径を粗大化させることなく、また、製造された電磁鋼板内部で剥がれが生じ難く、さらには製造コストを高騰させることのない、電磁鋼板の製造方法と、この製造方法によって製造される電磁鋼板、この電磁鋼板を積層してなるステータコアおよびロータコアとこれらコア材からなるモータ(電動機)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による電磁鋼板の製造方法は、一方側の珪素濃度が他方側に比して高濃度となる面材を用意する第1の工程と、2枚の前記面材を、それぞれの珪素濃度の高い前記一方側が外側となる姿勢で積層して面材積層体を形成する第2の工程と、前記面材積層体を圧延処理することによって電磁鋼板を製造する第3の工程と、からなるものである。
【0011】
本発明の電磁鋼板の製造方法は、たとえば、鉄と珪素(シリコン)を少なくとも含む面材であって、その一方側は珪素濃度が相対的に高く、他方面は珪素濃度が相対的に低い面材を2枚用意し、珪素濃度の高い側を外側にして2枚の面材を積層し、これを圧延処理することにより、両側の珪素濃度が高く、内側の珪素濃度が低い電磁鋼板を製造するものである。なお、上記する面材は、鉄、珪素のほかにアルミニウムなどもその成分に含まれているものであってもよい。
【0012】
ここで、2枚の面材は、それらが当接する上記他方側の珪素濃度が同濃度もしくは同程度の濃度となるように調整されており、したがって、2枚の面材が積層した状態において、同素材の面材が当接されるようになっている。このようにすることで、面材積層体が圧延処理された際に、2つの面材界面での剥離を抑止することができる。
【0013】
圧延処理することによってできる所定厚みの上記する電磁鋼板は、その両側に珪素濃度が高く、内側に珪素濃度の低い鋼板となっており、このことは、高周波磁界が鋼板表面を流れ易いという、いわゆる表皮効果に基づいて鋼板表面で鉄損が生じ易くなるという課題に対し、鋼板表面の比抵抗を高めることでこの鉄損低減を図ることができること、鋼板の内側(内部)は珪素濃度が低いことから、低周波の磁束の流れを促進できること、という2つの効果を得ることができる。
【0014】
ここで、1枚の面材の両側においてその珪素濃度を変化させる該面材の製造方法としては、次のような製造方法を挙げることができる。
【0015】
その一つは、少なくとも珪素と鉄を含む溶湯を鋳込むとともに該珪素を重力偏析させ、その一方側の珪素濃度が他方側に比して高濃度となる面材を形成する方法である。
【0016】
鋳型内に溶湯を流し込み、所定時間経過させると、鉄に比して重量の軽い珪素が上方に浮遊し、上方には珪素濃度の高い層が形成される一方で、相対的に重量の重い鉄は下方に沈降し、下方には鉄濃度が高く、珪素濃度が相対的に低い層が形成される(重力偏析)。
【0017】
なお、溶湯温度は、その融点以上に調整されていればよく、たとえば1500℃以上に設定しておくことができる。また、重力偏析に要する時間は、製造する面材の厚み等によって調整されるものである。
【0018】
また、上記面材の他の製造方法において、前記第1の工程では、少なくとも珪素と鉄を含み、それぞれの珪素濃度が異なる2以上の溶湯を用意し、該溶湯を順次鋳込むことにより、その一方側の珪素濃度が他方側に比して高濃度となる面材を形成するものである。
【0019】
この製造方法によれば、上記する重力偏析の場合に比して、製造時間を短縮することができる。また、珪素濃度の異なる溶湯をそれぞれ流し込んだとしても、たとえば、珪素濃度の低い(鉄濃度の高い)溶湯をはじめに鋳型に流し込み、次いで珪素濃度の高い溶湯を流し込むことにより、双方の溶湯内で成分移動(鉄の沈降や珪素の上昇)はほとんど生じないことから、その硬化を待つことで所望の面材を製造することが可能となる。
【0020】
また、上記する2枚の面材から電磁鋼板を製造する方法のほかに、本発明による電磁鋼板の製造方法の他の実施の形態は、前記第2の工程において、前記2枚の面材の間に、それぞれの面材の前記他方側の珪素濃度を有する別途の面材を介在させて面材積層体を形成するものである。
【0021】
この製造方法は、電磁鋼板の厚みを厚くする際に適用されるものであり、既述する2枚の面材の間に、これら面材の珪素濃度の低い側と同じもしくは同程度の珪素濃度の面材を介在させることにより、この中央の面材とその両側の面材間の界面剥離を生じさせずに、その両側に珪素濃度の高い電磁鋼板を製造することが可能となる。
【0022】
なお、この中央に介在する面材は、1枚であってもよいし、2枚以上であってもよく、所望の厚みの電磁鋼板を製造するために必要な枚数に調整されればよい。
【0023】
前記製造方法によって製造された電磁鋼板を所定形状に打ち抜き加工し、加工後の電磁鋼板を所定数積層し、たとえばその両端部をかしめたりスポット溶接等することにより、モータ用のステータコアやロータコアを製造することができる。
【0024】
このステータコアおよび/またはロータコアを具備するモータは、これらコア材の高周波鉄損が抑止され、しかも低周波の磁束流れを阻害しない電磁鋼板にて形成されていることより、回転性能、トルク性能に優れ、モータ効率の高いモータとなる。
【0025】
したがって、このモータは、近時その量産が盛んとなっていて、かつ、その高性能化、小型化が叫ばれているハイブリッド車や電気自動車の駆動用モータに好適である。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の電磁鋼板の製造方法によれば、高周波鉄損を効果的に低減でき、しかも低周波の磁束流れを阻害しない電磁鋼板を製造することができる。さらに、この電磁鋼板からなるステータコアおよび/またはロータコアを具備する本発明のモータは、回転性能、トルク性能に優れ、高いモータ効率を備えたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の製造方法に係り、図1aは鋳型に溶湯を流し込んでいる状況を説明した図であり、図1bは溶湯が硬化してできた面材を示した図である。図2aは2枚の面材を積層してなる面材積層体を示した図であり、図2bは3枚の面材を積層してなる面材積層体を示した図であり、図3は面材積層体を熱間圧延している状況を説明した図である。なお、面材積層体は、図示する実施の形態以外にも、面材3,3の間に2枚以上の面材3’が介在するものであってもよい。
【0028】
図1〜3に基づいて、本発明の電磁鋼板の製造方法を概説する。
まず、鉄と珪素(シリコン)からなる溶湯2またはさらにアルミニウムを含有する溶湯2を用意し、これを図1aのごとく製造するべき形状の内空を有する鋳型1内に流し込む。
【0029】
溶湯2を流し込んだ後、所定時間を経過させ、溶湯2内の珪素を上方に浮遊させ、鉄を下方に沈降させながら(重力偏析)その硬化を待つ。
【0030】
溶湯2が硬化し、脱型された面材3を図1bに示す。重力偏析させることにより、面材3は、その上方が珪素濃度の高い側31、その下方が珪素濃度の低い側32からなる2層構造を呈する。たとえば、珪素濃度の高い側31でFe−6重量%Si、下方でFe−2重量%Siの面材3を製造することができる。
【0031】
なお、図示を省略するが、面材3の他の製造方法として、珪素濃度の異なる2種類の溶湯(一方の溶湯は珪素濃度の高い側31と同濃度の珪素を有し、他方の溶湯は珪素濃度の低い側32と同濃度の珪素を有する)を用意し、鋳型1にそれらを順次流し込むことにより、図1bで示す面材3を製造する方法であってもよい。
【0032】
次いで、図2aで示すように、面材3を2枚用意し、双方の珪素濃度の低い側32、32を当接させて面材積層体4を製作する。
【0033】
なお、図2bは、面材3,3の間に、該面材3の珪素濃度の低い側32と同濃度の珪素濃度を有する面材3’を介在させて面材積層体4Aを製作したものである。この面材積層体4Aは、面材4よりも厚めの電磁鋼板を製造したい場合の実施例である。
【0034】
次いで、図3で示すように、たとえば、図2aで示す面材積層体4を再度加熱し、ローラ6,6間を通して(X方向)熱間圧延処理を施し、冷間処理を施して電磁鋼板5が製造される。
【0035】
圧延処理されてできる電磁鋼板5は、その両表面51,51の珪素濃度が高く、その内部の珪素濃度が低い鋼板となっている。
【0036】
以上で概説する製造方法によって電磁鋼板を製造し、この電磁鋼板を所定の形状、たとえば円盤状、円環状に打ち抜き加工し、加工された電磁鋼板を所定高さに積層し、スポット溶接等することにより、モータ用のロータコアやステータコアを製造することができる。
【0037】
[従来の電磁鋼板(比較例)と、本発明の製造方法によってできた電磁鋼板(実施例)に関し、双方の鉄損を比較した解析とその結果]
本発明者等は、Fe−4重量%Siの電磁鋼板およびFe−6重量%Siの電磁鋼板(それぞれ比較例1,2であり、Si濃度は鋼板内で均一)と、上方がFe−6重量%Si,下方がFe−2重量%Siの2枚の面材を使用して図1〜3の製造方法で製造された電磁鋼板(実施例であり、電磁鋼板内全体のSi含有量は比較例と同じ)とで、双方の鉄損を解析にて求めた。なお、本解析では、双方の電磁鋼板を0.3mmの厚みとしている。
【0038】
解析結果を図4に示しており、図では、比較例の鉄損を1.0に正規化している。
【0039】
解析の結果、比較例1に対して実施例の電磁鋼板を使用した場合には、鉄損がおよそ20%低減できることが分かった。また、比較例2と比較して、ほぼ同等の鉄損低減効果が得られることが分かった。本発明によれば、実施例の電磁鋼板では、比較例1に比してその表面の珪素濃度が高いことから比抵抗が高くなり、高周波鉄損の低減効果が高められたものと特定されている。
【0040】
その一方で、実施例にかかる電磁鋼板の内部では比較例1,2に比して珪素濃度が低くなっており、このことは、低周波磁束の流れがより促進されることを意味している。したがって、全体として、モータ効率を向上させること、モータの回転性能とトルク性能の双方を向上させること、を実現できるものである。
【0041】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の製造方法に係り、(a)は鋳型に溶湯を流し込んでいる状況を説明した図であり、(b)は溶湯が硬化してできた面材を示した図である。
【図2】(a)は2枚の面材を積層してなる面材積層体を示した図であり、(b)は3枚の面材を積層してなる面材積層体を示した図である。
【図3】面材積層体を熱間圧延している状況を説明した図である。
【図4】従来の電磁鋼板(比較例1,2)と、本発明の製造方法によってできた電磁鋼板(実施例)とで、双方の鉄損を比較した解析結果を示したグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1…鋳型、2…溶湯、3,3’…面材、31…珪素濃度の高い側、32…珪素濃度の低い側、4,4A…面材積層体、5…電磁鋼板、51…表面、52…内部、6…ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側の珪素濃度が他方側に比して高濃度となる面材を用意する第1の工程と、
2枚の前記面材を、それぞれの珪素濃度の高い前記一方側が外側となる姿勢で積層して面材積層体を形成する第2の工程と、
前記面材積層体を圧延処理することによって電磁鋼板を製造する第3の工程と、からなる、電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程では、少なくとも珪素と鉄を含む溶湯を鋳込むとともに該珪素を重力偏析させてその一方側の珪素濃度が他方側に比して高濃度となる面材を形成する、請求項1に記載の電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程では、少なくとも珪素と鉄を含み、それぞれの珪素濃度が異なる2以上の溶湯を用意し、該溶湯を順次鋳込むことにより、その一方側の珪素濃度が他方側に比して高濃度となる面材を形成する、請求項1に記載の電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程において、前記2枚の面材の間に、それぞれの面材の前記他方側の珪素濃度を有する別途の面材を介在させて面材積層体を形成する、請求項1〜3のいずれかに記載の電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造される、電磁鋼板。
【請求項6】
請求項5に記載の電磁鋼板を積層してできるステータコア。
【請求項7】
請求項5に記載の電磁鋼板を積層してできるロータコア。
【請求項8】
請求項6に記載のステータコアと請求項7に記載のロータコアのいずれか一方もしくは双方を備えてなるモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−194966(P2009−194966A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30907(P2008−30907)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】