説明

電線の端末処理方法

【課題】良好な接続をすることが可能な、また、接続に係るバラツキを吸収することが可能な電線の端末処理方法を提供する。
【解決手段】電線の端末処理方法は、接続対象部位を形成するため電線を加工する工程11と、電線の接続対象部位に端子を圧接又は圧入する端子接続工程12とを含んでおり、電線を加工する工程11としては、芯線部を露出する芯線部露出工程13と、芯線部を単線化する芯線部単線化工程14とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の端末を圧接又は圧入にて処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線と端子とを電気的に接続する方法としては、一対の圧接刃の間に電線を押し込んで圧接刃と電線の芯線部とを接触させ、これにより接続を行う圧接による方法が知られている。圧接による接続方法は、電線の被覆部を除去しないまま一対の圧接刃の間に押し込まれるようになっている。下記特許文献1には、圧接による接続方法が一例として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−159628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電線と端子とを電気的に接続するにあたり、電線の芯線部を構成する複数の素線が細い場合、圧接による接続方法では次のような幾つかの問題点を有している。図6(a)において、図中には一対の圧接刃1が設けられており、この間隔となるスロット幅W1が狭くなると、芯線部2を構成する複数の素線3の一部が切れてしまうという問題点を有している。また、図6(b)において、スロット幅W2が広くなると、素線3の切れは生じないものの圧接刃1と素線3との接触面積がきわめて小さくなり、結果、抵抗値上昇の原因となってしまうという問題点を有している。さらに、図6(c)において、電線4の押し込みにズレがあったり、芯線部2の断面形状にバラツキがあったりすると、圧接刃1と素線3との接触本数が少なくなり、上記同様に抵抗値上昇の原因となってしまうという問題点を有している。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、良好な接続をすることが可能な、また、接続に係るバラツキを吸収することが可能な電線の端末処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の電線の端末処理方法は、電線の被覆部を剥いで複数の素線からなる芯線部を露出する芯線部露出工程と、前記芯線部に圧力を加えつつ超音波振動を加えて、前記芯線部を端子の圧接又は圧入箇所に基づく断面形状を形成するように、前記複数の素線間を摺動させて前記芯線部を単線化する芯線部単線化工程と、前記単線化された芯線部を前記端子に圧接又は圧入する端子接続工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
このような特徴を有する本発明によれば、芯線部を構成する複数の素線が超音波振動により擦り合わされ、この擦り合わせにより発生した摩擦熱によって素線同士の溶け合いが生じ、そして溶け合いによって複数の素線からこれらが恰も一つの状態になる単線に変化する。すなわち、径の小さな複数の素線から、恰も径の大きな一つの芯線部に変化する。芯線部は、超音波振動が加えられる際に圧力も加えられて形状が安定化する。芯線部は、形状が安定化することによりバラツキのない状態になる。芯線部は、単線化し形状が安定することから、圧接や圧入のいずれにあっても良好な接続が可能になる。具体的には、一対の圧接刃の間やスリットの間に押し込まれて接続される圧接や圧入のいずれにあっても、切れが生じたりすることはなく、また、接触面積も十分に確保され、結果、良好な接続が可能になる。
【0008】
本発明によれば、素線の表面に酸化被膜が生じるような場合にも有効な方法になる。すなわち、複数の素線が超音波振動により擦り合わされることから、この擦り合わせによって酸化被膜が破壊される。酸化被膜が破壊されれば、圧接対象部分又は圧入対象部分における電気抵抗値の低減が可能になる。また、酸化被膜が破壊されれば、芯線部の内部まで確実に電流が流れるようになり、抵抗値の上昇抑制が可能になる。
【0009】
尚、芯線部をプレス加工によって単に押し潰すだけの場合、プレス加工では各素線が細くなりすぎてしまうという虞があり、また、細くなりすぎることにより素線の切れが発生してしまうという虞もあるが、本発明においてはこのようなことはない。
【0010】
本発明によれば、超音波振動を加えるホーン及びこれを受けるアンビル等の形状により、また、加える圧力等により、芯線部は所望の断面形状で単線化する。例えば、断面形状が矩形となる芯線部であって圧接による接続の場合においては、一対の圧接刃の間隔となるスロット幅に合わせて芯線部の幅を容易に設定することが可能になる。また、所望の抵抗値に設定することも可能になる(圧入による接続の場合も同様)。一方、断面形状が円形となる芯線部であって圧接による接続又は圧入による接続の場合においては、方向性が問われることはなく、作業性を良好にすることが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された本発明によれば、良好な接続をすることや、接続に係るバラツキを吸収することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、芯線部の幅の設定や抵抗値の設定を容易にすること、さらには作業性を良好にすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電線の端末処理方法を示すブロック図である。
【図2】芯線部露出工程に係る図であり、(a)は被覆部を剥ぐ前の電線を示す斜視図、(b)は被覆部を剥いだ状態の電線を示す斜視図である。
【図3】芯線部単線化工程に係る図であり、(a)は超音波処理装置における溶着実施構成部の模式的な構成図、(b)及び(c)は単線化した状態の芯線部の模式図である。
【図4】端子接続工程に係る図であり、(a)は図3(b)の芯線部を圧接した状態を示す模式図、(b)は図3(c)の芯線部を圧接した状態を示す模式図である。
【図5】図3(b)及び(c)の芯線部を圧入する際の状態を示す模式図である。
【図6】従来例の電線の端末処理方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら一実施形態を説明する。図1は本発明の電線の端末処理方法を示すブロック図である。
【0014】
本発明における電線の端末処理方法は、接続対象部位を形成するため電線を加工する工程11と、電線の接続対象部位に端子を圧接又は圧入する端子接続工程12とを含んでおり、電線を加工する工程11としては、芯線部を露出する芯線部露出工程13と、芯線部を単線化する芯線部単線化工程14とを含んでいる。
【実施例】
【0015】
以下、図面を参照しながら一実施例を説明する。図2は本発明の電線の端末処理方法における芯線部露出工程に係る図である。また、図3は芯線部単線化工程に係る図、図4は端子接続工程に係る図である。さらに、図5は図3(b)及び(c)の芯線部を圧入する際の状態を示す模式図である。
【0016】
図2において、引用符号21は電線を示している。電線21は、例えば自動車に配索されるワイヤハーネスを構成するものであって、複数の素線22からなる芯線部23と、この芯線部23の外側に一括して被覆される被覆部24とを備えて構成されている。本実施例では、自動車用のワイヤハーネスに使用される電線21として、アルミニウム電線を一例に挙げて説明するものとする。アルミニウム電線を例に挙げるのは、軽量化やリサイクル性の良さから近年において一般的に使用される銅電線から置き換えようとする動きが出ているからである。また、他の理由としては、アルミニウム電線における酸化被膜の問題点を本発明で解消することができるからである(酸化被膜に関しては、アルミニウム電線ほどでないが銅電線の方も生じるので、銅電線に対しても有効である)。
【0017】
芯線部23を構成する素線22は、アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる非メッキ素線であって、図2(a)に示す如く一本一本が接触し合う束状の状態に配設されている(銅電線の場合は、銅又は銅合金よりなるものとする)。アルミニウムに関しては、銅に比べて、導電率が60%程度であるが、重さが1/3ですむという利点を有している。このため、大幅な軽量化が期待できるという利点を有している。また、銅に比べて融点が低く金属回収をすることがし易いという利点も有している。
【0018】
電線21は、芯線部露出工程13(図1参照)において、この端末部分25の被覆部24が一般的な方法で除去されるようになっている。すなわち、被覆部24が電線21の端面26から所定の長さで剥ぎ取られる(皮剥される)ようになっている。被覆部24が所定長さで剥ぎ取られると、図2(b)に示す如く芯線部23が露出するようになっている。引用符号27は芯線部23の露出部分を示している。尚、ここでは電線21の端末部分25の被覆部24を剥ぎ取るようにしているが、電線21の中間部分であって端子の接続が可能な部分を剥ぎ取るようにしてもよいものとする。
【0019】
図3(a)において、引用符号28は超音波処理装置の溶着実施構成部を示している。溶着実施構成部28は、溶着ホーン29と、アンビル30と、ホーン側プレート31と、アンビル側プレート32とを備えて構成されている。溶着ホーン29は、芯線部23に対し超音波振動を加える部分として備えられている。溶着ホーン29を駆動する機構や回路は、一般的なものと同じであるものとする。アンビル30は、溶着ホーン29に対向するように配置されており、受け部分として備えられている。ホーン側プレート31及びアンビル側プレート32は、芯線部23を所定の形状に成形するための部分として備えられている。ホーン側プレート31及びアンビル側プレート32は、これらが近接離間する方向に移動可能となるように配設されている(移動機構の図示は省略するものとする)。
【0020】
超音波処理装置は、エネルギーや振幅、ホーン側プレート31及びアンビル側プレート32の幅、圧力等を因子として超音波振動を芯線部23に加えることができるように構成されている。超音波処理装置は、溶着実施構成部28において、芯線部23に圧力を加えつつ超音波振動を加えて複数の素線22同士を摺動により溶着することができるように構成されている。また、溶着実施構成部28において、芯線部23を端子の圧接又は圧入箇所に基づく断面形状に形成することができるように構成されている。
【0021】
芯線部単線化工程14(図1参照)において、溶着実施構成部28に芯線部23を差し込むようにセットし、この後に装置を作動させると、芯線部23を構成する複数の素線22が超音波振動により擦り合わされる(超音波振動の向きをA、圧力方向をBとする)。この擦り合わせにより摩擦熱が発生すると、素線22同士に溶け合いが生じ、そして溶け合いによって複数の素線22の状態からこれらが恰も一つの状態になる単線に変化する。すなわち、径の小さな複数の素線22から、図3(b)に示す如く恰も径の大きな一つの芯線部23に変化する(図中の破線は素線22が一体化した状態をイメージしているものとする)。
【0022】
本発明では、上記の如く溶け合って一体になり単線化するのであって、擦り合わせにより素線22の表面が粗くなり、この粗くなった部分同士の引っ掛かり合いによって接合するのではないものとする(外力を受けると素線22が分離するような接合ではないものとする)。
【0023】
複数の素線22が超音波振動により擦り合わされると、素線22の表面に生じる酸化被膜(図示省略)は擦り合わせにより破壊されるようになっている。酸化被膜が破壊されると、抵抗値が不安定になる要因が解消されるのは言うまでもない。
【0024】
単線化した芯線部23の断面形状は、本実施例において、溶着実施構成部28の構成によっての形状により矩形になるように設定されている。尚、図3(c)に示す如く円形状になるように設定してもよいものとする。単線化された芯線部23は、バラツキのない安定した形状に形成されることが分かる。
【0025】
図4(a)において、引用符号33は圧接端子(端子)における一対の圧接刃を示している。一対の圧接刃33は、特に限定するものでないが、端子長手方向に二箇所、又は三箇所程度配設されているものとする。圧接端子は、導電性を有する金属薄板をプレス加工することにより形成されている。圧接端子の材質としては、銅又は銅合金が好適であって、Snメッキを施したものでもよいものとする。単線化された芯線部23(図3(b)に示す形状の場合)は、この幅W11が一対の圧接刃33の間隔となるスロット幅W12よりも大きくなるように形成されている(サイズの設定は超音波処理装置で行われ、形状が安定する本発明では設定をすることが容易である)。
【0026】
端子接続工程12(図1参照)において、単線化された芯線部23を一対の圧接刃33の間に押し込むと、圧接刃33が芯線部23の両側部にそれぞれ食い込むような状態で接触し、これにより電線21と圧接端子との接続が完了する。図4(b)には、図3(c)に示す形状の、単線化された芯線部23を一対の圧接刃33の間に押し込んだ状態が示されている。圧接刃33は、芯線部23の円弧状となった両側部にそれぞれ食い込むような状態で接触し、これにより電線21と圧接端子との接続が完了する。図3(c)に示す形状の、単線化された芯線部23の場合は、図3(b)の形状に比べて押し込み時の方向性が関係ないことが分かる(作業性が良好となる利点を有する)。電線21と圧接端子との接続が完了すると、一連の工程も完了する。
【0027】
端子接続工程12(図1参照)に関し、図5に示す如くのスリット34を有する圧入部35(端子の一部であるものとする)に適用することも可能で、単線化された芯線部23をスリット34に押し込むようにして圧入部35と芯線部23とを接触させると、接続が完了する。
【0028】
以上、図1ないし図5を参照しながら説明してきたように、本発明によれば、一対の圧接刃33の間に押し込まれて接続される圧接や、スリット34に押し込まれて圧入部35に接続される圧入のいずれにあっても、芯線部23において切れが生じたりすることはなく、また、接触面積も十分に確保され、結果、良好な接続をすることができるという効果を奏する。
【0029】
また、本発明によれば、芯線部23の形状を安定化させてバラツキのない接続をすることができるという効果を奏する。
【0030】
さらに、本発明によれば、酸化被膜の破壊・除去効果による導電性の向上・抵抗値の安定化を図ることができるという効果を奏する(特に圧接刃33や圧入部35に接触しない部分の抵抗値を安定化させることができるという効果を奏する)。
【0031】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
21…電線
22…素線
23…芯線部
24…被覆部
25…端末部分
26…端面
27…露出部分
28…溶着実施構成部
29…溶着ホーン
30…アンビル
31…ホーン側プレート
32…アンビル側プレート
33…圧接刃
34…スリット
35…圧入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の被覆部を剥いで複数の素線からなる芯線部を露出する芯線部露出工程と、
前記芯線部に圧力を加えつつ超音波振動を加えて、前記芯線部を端子の圧接又は圧入箇所に基づく断面形状を形成するように、前記複数の素線間を摺動させて前記芯線部を単線化する芯線部単線化工程と、
前記単線化された芯線部を前記端子に圧接又は圧入する端子接続工程と、を含む
ことを特徴とする電線の端末処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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