説明

電線加工装置及び電線加工方法

【課題】煩雑な調整作業を不要にして電線の製造効率を高めることができるとともに、芯線やシールド編組への傷付きを防止し、かつ絶縁被覆の切断面を綺麗に整えることができる電線加工装置及び電線加工方法を提供する。
【解決手段】電線90の長手方向に沿って切り込みCが形成された絶縁被覆91を周方向に切断して絶縁被覆91を剥ぎ取るものであって、互いに離間接近自在に設けられるとともに絶縁被覆91に食い込む一対の切り込みカッタ31,32を備え、一対の切り込みカッタ31,32は、絶縁被覆91の周方向に沿う刃部35,36を有するとともに、一方の切り込みカッタ31における刃部35には、他方側に向かって直線状に延びる直線部35Cが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の長手方向端部や中間部における絶縁被覆を剥ぎ取る電線加工装置及び電線加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芯線を絶縁被覆した被覆電線の長手方向端部において、芯線を端子金具などに接続するために絶縁被覆を剥ぎ取る電線加工装置(皮剥ぎ装置)が利用されている(例えば、特許文献1参照)。このような電線加工装置は、長手方向に送り出した電線を所定位置でクランプによって把持し、電線の長手方向端部を両側から挟み込む一対のカッタによって絶縁被覆の周方向に切り込みを入れ、電線の長手方向末端側にカッタをスライドさせることで絶縁被覆を除去するものである。
【0003】
一方、電線の長手方向に沿って絶縁被覆に切り込みを入れて、この絶縁被覆を剥ぎ取る電線加工装置(被覆剥き器)も利用されている(例えば、特許文献2参照)。この加工装置は、電線における芯線と絶縁被覆との間にガイドチップを挿入し、このガイドチップに隣接して設けられた切開刃で絶縁被覆を切開するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−12350号公報
【特許文献2】特開平11−187530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1に示されたような電線加工装置では、周方向に切り込みを入れた絶縁被覆をカッタのスライドによって芯線から引き抜くため、太物電線やシールド電線などの場合、あるいは除去する絶縁被覆の長さが長い場合には、芯線との摩擦抵抗が大きくなることから、絶縁被覆を引き抜くことが困難になる。また、切り込みを入れたカッタを芯線に沿ってスライドさせることから、カッタの刃が擦れて芯線に傷を付けてしまう可能性がある。
【0006】
また、特許文献1に示されたような電線加工装置では、一対のカッタを互いに接近する方向に移動させ、これらのカッタで電線を挟み込んで絶縁被覆の周方向に切り込みを入れるため、カッタの移動量(切り込み深さ)を厳密に調整する必要がある。即ち、切り込み深さが深すぎると、芯線に傷を付けてしまうことになり、切り込み深さが浅すぎると絶縁被覆が引き抜けなかったり、切断面が荒れてしまったりなどの不具合が生じる。さらに、電線ごとに寸法誤差もあることから、カッタの移動量を調整する調整作業が非常に高度かつ煩雑になり、作業効率の低下及び電線の製造効率の低下を招く可能性がある。
【0007】
一方、前述した特許文献2に示されたような電線加工装置を用いた場合であっても、切開刃で切開した絶縁被覆を除去する際には、切断面を整えるために周方向に切れ込みを入れる必要がある。ここで、特許文献1に示されたカッタを用いて周方向に切れ込みを入れると、前述した問題と同様に、カッタの移動量の調整作業が煩雑になって、作業効率や製造効率の低下を招く可能性がある。なお、電線としては、単数又は複数の芯線を絶縁被覆で被覆したシールド無しの電線でもよいし、単数又は複数の芯線をシールド編組で覆うとともに絶縁被覆で被覆したシールド電線であってもよい。シールド電線の場合には、前述したような芯線への傷付きとともに、シールド編組への傷付きが懸念される。
【0008】
本発明は、上記した点に鑑み、煩雑な調整作業を不要にして電線の製造効率を高めることができるとともに、芯線やシールド編組への傷付きを防止し、かつ絶縁被覆の切断面を綺麗に整えることができる電線加工装置及び電線加工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された本発明の電線加工装置は、電線の長手方向に沿って切り込みが形成された絶縁被覆を周方向に切断して該絶縁被覆を剥ぎ取るための電線加工装置であって、前記電線の長手方向に交差する方向に沿って離間接近自在に設けられるとともに、前記絶縁被覆の周方向に沿って食い込む一対の切り込みカッタを備え、前記一対の切り込みカッタは、それぞれ接近した際に互いに当接する当接部と、該当接部から凹んで形成されて前記絶縁被覆の周方向に沿う刃部とを有するとともに、一方の切り込みカッタにおける前記刃部には、他方の切り込みカッタにおける前記当接部に向かって直線状に延びる直線部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記構成により、絶縁被覆の周方向に沿って刃部を食い込ませる際に、一方の刃部に形成した直線部と電線の切り込みとを交差させるようにすれば、この交差位置を起点として刃部に沿って絶縁被覆を容易に切断することができる。この際、一方側の刃部に直線部が形成されているので、絶縁被覆を切断する際に、切り込みの端縁を直線部に押し付けるようにして切断し始めることができる。従って、切断開始点が刃部から離れてしまって引きちぎられるようなことにならず、直線部と切り込みとの交差位置から確実に切断を開始し、その後、刃部に沿って絶縁被覆を切断することができる。また、切り込みカッタの接近移動によって絶縁被覆を完全に切断しなくても、前述のように絶縁被覆を容易に切断することができるので、刃部の食い込み深さを高精度に調整する必要がなく、芯線やシールド編組に接触しない程度の範囲で食い込み深さを適宜に設定しておけばよい。
【0011】
請求項2に記載された電線加工装置は、請求項1記載の電線加工装置において、前記一対の切り込みカッタの各々に隣り合って前記電線を把持する一対の電線クランプをさらに備え、前記一対の電線クランプのうち、前記一方の切り込みカッタに隣り合う一方の電線クランプは、前記電線を受け入れる凹状の保持溝を有し、他方の電線クランプは、前記電線を前記保持溝の内部に向かって押し付ける押付部を有して構成されていることを特徴とする。
【0012】
上記構成により、一方の切り込みカッタに隣り合う一方の電線クランプが保持溝を有しているので、保持溝に電線を設置して保持させることで、刃部の直線部に対して確実に交差するように電線の切り込みを位置付けることができる。他方の電線クランプの押付部によって電線を保持溝の内部に向かって押し付けることで、直線部と電線の切り込みとを確実に位置決めすることができる。
【0013】
請求項3に記載された本発明の電線加工方法は、電線の長手方向に沿って切り込みが形成された絶縁被覆を周方向に切断して該絶縁被覆を剥ぎ取るための電線加工方法であって、前記電線の長手方向に交差する方向に沿って離間接近自在に設けられるとともに、前記絶縁被覆の周方向に沿って食い込む一対の切り込みカッタを用い、前記一対の切り込みカッタを接近させて互いに当接させるとともに、互いに凹んで形成された刃部を前記絶縁被覆の周方向に沿って食い込ませ、一方の切り込みカッタにおける前記刃部に形成されて前記切り込みよりも他方側に延びる直線部と該切り込みとの交差位置を起点として、前記刃部に沿って前記絶縁被覆を順次切断して剥ぎ取ることを特徴とする。
【0014】
上記構成により、前述した電線加工装置と同様に、カッタの刃を芯線やシールド編組に接触させることなく絶縁被覆を剥ぎ取ることができるとともに、直線部と電線の切り込みとの交差位置から確実に絶縁被覆を切断することができる。
【0015】
請求項4に記載された電線加工方法は、請求項3記載の電線加工方法において、前記直線部と前記切り込みとの交差位置を起点として、前記一方の切り込みカッタにおける前記刃部の側に向かって前記絶縁被覆の切断を開始し、順次周方向に沿って該絶縁被覆を切断していくことを特徴とする。
【0016】
上記構成により、直線部が形成された一方側の刃部に向かって絶縁被覆の切断を行うことで、直線部から連続した一方側の刃部による安定した切断ができ、切断面の荒れを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、カッタの刃を芯線やシールド編組に接触させることなく絶縁被覆を剥ぎ取ることができるので、芯線やシールド編組への傷つきを確実に防止することができる。さらに、一対のカッタの接近移動量を厳密に調整しなくてもよく、簡易な調整作業で済むため、作業効率の低下を抑制できて電線の製造効率を向上させることができる。また、一方側の刃部の直線部と電線の切り込みとの交差位置から絶縁被覆を切断開始することで、絶縁被覆を容易かつ円滑に切断することができ、切断面を綺麗に整えることができる。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、電線を保持溝内部の所定位置に位置決めし、刃部の直線部に対して電線の切り込みを確実に交差させた状態から絶縁被覆の切断を開始できるので、切断作業を円滑に実施することができる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、前述と同様に、電線のシールド編組や芯線への傷つきを確実に防止するとともに、カッタの移動量の調整作業を簡略化できて電線の製造効率を向上させることができる。さらに、絶縁被覆を容易かつ円滑に切断することができ、かつ切断面を綺麗に整えることができる。従って、切断面が整っていることで、後工程で端子金具を接続する際の作業効率をも向上させることができる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、絶縁被覆を容易かつ安定して切断することができ、切断面をさらに綺麗に仕上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電線加工装置を示す斜視図である。
【図2】前記電線加工装置の動作を示す正面図である。
【図3】前記電線加工装置の動作を示す正面図である。
【図4】前記電線加工装置の要部を拡大して示す斜視図である。
【図5】前記電線加工装置の要部をさらに拡大して示す正面図である。
【図6】前記電線加工装置を用いた電線の加工手順を示す図である。
【図7】図6に続く前記電線の加工手順を示す図である。
【図8】図7に続く前記電線の加工手順を示す図である。
【図9】図8に続く前記電線の加工手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態にかかる電線加工装置を、図1〜図9を参照して説明する。本実施形態の電線加工装置1は、電線90の長手方向端部において絶縁被覆91を周方向に切断して、該絶縁被覆91を剥ぎ取るためのものであって、この電線90の絶縁被覆91には、該剥ぎ取る部分の長手方向に沿った切り込みCが予め形成されている。電線90は、撚り線や単線からなる芯線92を2本備え、これら2本の芯線92が長手方向に沿って互いに平行に配され、その外周を覆って編組93と絶縁被覆91とが設けられている。即ち、電線90は、平行に延びる2本の芯線92を編組93と絶縁被覆91とで覆った全体断面略長円形又は楕円形に形成されている。なお、本実施形態においては、編組93を備えたシールド電線である電線90を例示するが、電線90は、編組93を備えないシールド無しの電線であってもよい。
【0023】
また、電線90の周方向に沿った位置のうち、2本の芯線92の対向方向一方側(各図における下側)の頂部において、絶縁被覆91を貫通して切り込みCが形成されている。この切り込みCは、図示しない別の加工装置を用いて形成されるもので、電線90の端部から所定の長さに渡って連続して形成され、この切り込みCが形成された範囲以下の絶縁被覆91が除去部分91A(図9等参照)として剥ぎ取られるようになっている。
【0024】
電線加工装置1は、上下一対のベースプレート11,12を四隅の柱13で連結したベース部材10と、上側のベースプレート11上面に支持された一対の電線クランプ20と、各電線クランプ20に固定された一対の切り込みカッタ30と、一対の電線クランプ20を互いに離間接近方向に相対移動させる操作手段40とを備えて構成されている。
【0025】
ベース部材10は、下側のベースプレート12が複数のアンカーボルトを介して図示しない載置台等に固定され、かつ上下のベースプレート11,12が柱13で連結されることで、その全体が移動不能に設けられている。
【0026】
一対の電線クランプ20は、操作手段40の反対側において上側のベースプレート11に固定された固定側クランプ(一方の電線クランプ)21と、固定側クランプ21に対向して上側のベースプレート11に移動自在に支持された移動側クランプ(他方の電線クランプ)22とで構成される。移動側クランプ22は、操作手段40の操作によって固定側クランプ21に対して進退移動可能、即ち、固定側クランプ21と移動側クランプ22とが互いに離間接近自在に構成されている。
【0027】
固定側クランプ21は、その背面側のアングル材等によって上側のベースプレート11に固定され、移動側クランプ22と対向する前面側には、電線90を受け入れる凹状の保持溝23と、この保持溝23の底面に連続して他方側(移動側クランプ22側)に延出する延出部24とが形成されている。移動側クランプ22は、その背面側に操作手段40が連結され、固定側クランプ21と対向する前面側には、保持溝23に対向して電線90を保持溝23の内部に向かって押し付ける押付部25が設けられている。
【0028】
一対の切り込みカッタ30は、固定側クランプ21に固定される一方の切り込みカッタとしての第一カッタ31と、移動側クランプ22に固定される他方の切り込みカッタとしての第二カッタ32とで構成される。これらの第一カッタ31と第二カッタ32とは、固定側クランプ21と移動側クランプ22との離間接近に伴って、互いに離間接近自在に構成されている。
【0029】
第一カッタ31及び第二カッタ32には、それぞれ接近した際に互いに当接する各々上下の当接部33,34と、各当接部33,34から凹んで形成されて電線90を受け入れる凹状の刃部35,36とが形成されている。刃部35,36は、電線90を受け入れた際に絶縁被覆91の周方向に沿って食い込むような内周形状を有し、このように絶縁被覆91に刃部35,36を食い込ませることで、後述するように刃部35,36に沿って絶縁被覆91を切断することができる。
【0030】
第一カッタ31の刃部35は、図3〜5に示すように、当接部33から最も凹んだ凹状の底部に形成されて上下に延びた鉛直部35Aと、この鉛直部35Aの上下に連続して略1/4円の円弧状に形成された一対の円弧部35Bと、各円弧部35Bの先端から第二カッタ32に向かって水平に延びた一対の直線部35Cとを有し、これら一対の直線部35Cの第二カッタ32側の先端が当接部33に連続して形成されている。また、刃部35は、その端縁が鋭利に形成されるとともに、固定側クランプ21の保持溝23よりも若干だけ小さな内周径に形成され、これにより刃部35の先端縁が絶縁被覆91に食い込むようになっている。
【0031】
第二カッタ32の刃部36は、当接部34から最も凹んだ凹状の底部に形成されて上下に延びた鉛直部36Aと、この鉛直部36Aの上下に連続して略1/4円よりも小さい円弧状に形成された一対の円弧部36Bとを有し、これら一対の円弧部36Bの第一カッタ31側の先端が上下の当接部34に連続して形成されている。即ち、刃部36は、刃部35よりも深さが浅い凹状に形成されるとともに、その先端縁が絶縁被覆91に食い込むように鋭利に形成されている。
【0032】
以上の第一カッタ31及び第二カッタ32において、互いの当接部33,34同士を当接させて、閉じた刃部35,36を電線90の周囲に食い込ませた状態では、図2及び図4,5に示すように、第一カッタ31の当接部33が電線90の中心よりも第二カッタ32側(他方側)に偏心して位置するようになっている。従って、電線90の絶縁被覆91に形成された切り込みCと、第一カッタ31における下側の直線部35Cとが互いに交差した状態となる。
【0033】
操作手段40は、上側のベースプレート11上面に固定される支持部41と、この支持部41に左右進退自在に支持されるロッド42と、ロッド42の一端と移動側クランプ22とを連結する連結部43と、ロッド42の他端と支持部41とに回動自在に連結されるトグル部44と、トグル部44に連結される操作レバー45と、を備えて構成される。このような操作手段40は、図1に示すように、操作レバー45を電線クランプ20から離れる側に回動操作することで、移動側クランプ22を固定側クランプ21から離隔させ、操作レバー45を電線クランプ20側に向かって回動操作することで、トグル部44を介してロッド42を進出させて、このロッド42及び連結部43を介して移動側クランプ22を固定側クランプ21に接近させるように機能する。
【0034】
以上の電線加工装置1を用いた電線加工方法を図6〜9も参照して以下に説明する。
先ず、図1に示すように、操作手段40の操作レバー45を電線クランプ20から離れる側に位置させ、固定側クランプ21及び第一カッタ31から移動側クランプ22及び第二カッタ32を離間させた待機状態としておく。この待機状態において、図3に示すように、固定側クランプ21及び第一カッタ31と移動側クランプ22及び第二カッタ32との間に電線90を挿入し、この電線90を固定側クランプ21の延出部24に沿って保持溝23に押し込んで保持させる。
【0035】
次に、操作レバー45を電線クランプ20側に向かって回動操作し、ロッド42及び連結部43を介して移動側クランプ22を固定側クランプ21に接近させる。これにより、図2及び図4,5に示すように、移動側クランプ22の押付部25で電線90を固定側クランプ21の保持溝23に強く押し込むとともに、第一カッタ31及び第二カッタ32の刃部35,36内部に電線90を受け入れる。このように固定側クランプ21と移動側クランプ22とを接近させて電線90を把持し、第一カッタ31及び第二カッタ32の当接部33,34同士を当接させた保持状態において、刃部35,36が絶縁被覆91の周囲に食い込むとともに、絶縁被覆91の切り込みCと第一カッタ31の直線部35Cとが交差することとなる。また、絶縁被覆91に食い込んだ刃部35,36は、絶縁被覆91を貫通せず、即ち、刃部35,36が編組93に到達しないように第一カッタ31及び第二カッタ32は位置調整されている。
【0036】
以上の保持状態において、図6に示すように、作業者が手指又は工具を切り込みCに差し込み、絶縁被覆91の一方側の端縁91Bを第一カッタ31の刃部35側に引っ張ることで、絶縁被覆91が下側の円弧部35Bに沿って切断される。さらに、図7に示すように、絶縁被覆91と芯線92の間に手指又は工具を差し込んで、絶縁被覆91を図中の左方から上方に引張り、刃部35の鉛直部35A及び上側の円弧部35Bに沿って切断部分を延長する。
【0037】
次に、図8に示すように、絶縁被覆91を図中の右方から下方に引張り、刃部36の上側の円弧部36B及び鉛直部36Aに沿って切断を継続し、下側の円弧部36Bから刃部35の直線部35Cに沿って切断することで、絶縁被覆91の他方側の端縁91Cまで一周連続して切断される。このようにして絶縁被覆91の除去部分91Aは、図9に示すように、周方向に沿って切断されて剥ぎ取られ、電線90の端部における芯線92及び編組93が露出される。
【0038】
以上のようにして電線90の端部における絶縁被覆91の除去部分91Aを除去したら、操作手段40の操作レバー45を電線クランプ20から離れる側に回動し、固定側クランプ21から移動側クランプ22を離間させるとともに、第一カッタ31から第二カッタ32を離間させ、端部の芯線92及び編組93が露出された加工済みの電線90を電線加工装置1から取り出して加工が完了する。
【0039】
本実施形態によれば、電線加工装置1に電線90を保持した状態において、絶縁被覆91の周方向に沿わせて刃部35,36を食い込ませ、第一カッタ31の直線部35Cと切り込みCとの交差位置を起点として、刃部35側に向かって絶縁被覆91を切断することによって、刃部35,36を芯線92や編組93に接触させることなく絶縁被覆91の除去部分91Aを剥ぎ取ることができる。また、絶縁被覆91の切断開始点が刃部35から離れてしまって引きちぎられるようなことにならず、直線部35Cと長手方向の切り込みCとの交差位置から確実に切断を開始し、その後、刃部35,36に沿って切断することができ、その切断面を綺麗に整えることができる。従って、芯線92や編組93への傷つきを確実に防止することができるとともに、第一カッタ31及び第二カッタ32の絶縁被覆91への食い込み深さの調整作業が簡略化でき、作業効率の低下を抑制できて電線90の加工効率を向上させることができる。
【0040】
また、固定側クランプ21の延出部24に沿って電線90を案内しつつ保持溝23に押し込むとともに、移動側クランプ22の押付部25で電線90を保持溝23に強く押し込んで保持することで、刃部35の直線部35Cに対して長手方向の切り込みCを確実に位置決めすることができる。さらに、刃部35,36に沿って周方向に切断する際の電線90の位置ずれを防止することができるので、絶縁被覆91の切断面を綺麗に整えつつ除去部分91Aを剥ぎ取ることができる。
【0041】
なお、前記実施形態では、2本の芯線92を有した電線90の絶縁被覆91を剥ぎ取るための電線加工装置1について説明したが、本発明の電線加工装置が対象とする電線は、前記実施形態のものに限らず、1本の芯線を有した電線でもよいし、3本以上の芯線を有した電線でもよい。この際、電線の断面形状に応じた適宜な形状の刃部を有する切り込みカッタを用意すればよく、これに伴って電線クランプの形状も適宜に変更すればよい。
【0042】
また、前記実施形態では、電線90の端部における絶縁被覆91を剥ぎ取る場合を例示したが、本発明の電線加工装置を用いて電線の中間部における絶縁被覆を剥ぎ取ることも可能である。すなわち、電線の中間部における所定長さの範囲に長手方向に沿った切り込みCが形成されている場合に、この切り込みの両端部において、それぞれ前記実施形態で説明したのと同様に周方向に沿って絶縁被覆を切断し、その間の絶縁被覆を剥ぎ取ればよい。
【0043】
また、前記実施形態では、一対の電線クランプ20間及び一対の切り込みカッタ30間への電線90のセットや、移動側クランプ22及び第一カッタ31の操作手段40による離間接近移動、さらには電線90の保持状態における絶縁被覆91の剥ぎ取りの各工程を作業者の手動操作で実施する場合を説明したが、各工程を自動で実行するような駆動機器を電線加工装置が備えていてもよい。
【0044】
さらに、前記実施形態では、電線90の長手方向に沿った切り込みCが絶縁被覆91に予め形成された状態から、この電線90の周方向に沿って絶縁被覆91を切断したが、本発明の電線加工装置によって、長手方向の切り込みの形成と絶縁被覆の切断とを連続して実行してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る電線加工装置及び電線加工方法は、各種電線の長手方向端部や中間部における絶縁被覆を剥ぎ取る皮剥ぎ装置及び方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 電線加工装置
20 電線クランプ
21 固定側クランプ(一方の電線クランプ)
22 移動側クランプ(他方の電線クランプ)
23 保持溝
24 延出部
25 押付部
30 切り込みカッタ
31 第一カッタ(一方の切り込みカッタ)
32 第二カッタ(他方の切り込みカッタ)
33,34 当接部
35,36 刃部
35C 直線部
90 電線
91 絶縁被覆
C 切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の長手方向に沿って切り込みが形成された絶縁被覆を周方向に切断して該絶縁被覆を剥ぎ取るための電線加工装置であって、
前記電線の長手方向に交差する方向に沿って離間接近自在に設けられるとともに、前記絶縁被覆の周方向に沿って食い込む一対の切り込みカッタを備え、
前記一対の切り込みカッタは、それぞれ接近した際に互いに当接する当接部と、該当接部から凹んで形成されて前記絶縁被覆の周方向に沿う刃部とを有するとともに、一方の切り込みカッタにおける前記刃部には、他方の切り込みカッタにおける前記当接部に向かって直線状に延びる直線部が形成されていることを特徴とする電線加工装置。
【請求項2】
前記一対の切り込みカッタの各々に隣り合って前記電線を把持する一対の電線クランプをさらに備え、
前記一対の電線クランプのうち、前記一方の切り込みカッタに隣り合う一方の電線クランプは、前記電線を受け入れる凹状の保持溝を有し、他方の電線クランプは、前記電線を前記保持溝の内部に向かって押し付ける押付部を有して構成されていることを特徴とする請求項1記載の電線加工装置。
【請求項3】
電線の長手方向に沿って切り込みが形成された絶縁被覆を周方向に切断して該絶縁被覆を剥ぎ取るための電線加工方法であって、
前記電線の長手方向に交差する方向に沿って離間接近自在に設けられるとともに、前記絶縁被覆の周方向に沿って食い込む一対の切り込みカッタを用い、
前記一対の切り込みカッタを接近させて互いに当接させるとともに、互いに凹んで形成された刃部を前記絶縁被覆の周方向に沿って食い込ませ、一方の切り込みカッタにおける前記刃部に形成されて前記切り込みよりも他方側に延びる直線部と該切り込みとの交差位置を起点として、前記刃部に沿って前記絶縁被覆を順次切断して剥ぎ取ることを特徴とする電線加工方法。
【請求項4】
前記直線部と前記切り込みとの交差位置を起点として、前記一方の切り込みカッタにおける前記刃部の側に向かって前記絶縁被覆の切断を開始し、順次周方向に沿って該絶縁被覆を切断していくことを特徴とする請求項3記載の電線加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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