説明

電線導体および絶縁電線

【課題】軽量・細径化に伴う強度低下を改善するとともに、耐食性とリサイクル性に優れる電線導体および絶縁電線を提供すること。
【解決手段】純銅よりなる第一素線と、銅合金よりなる第二素線とを撚り合わせて電線導体を構成する。このとき第一素線の断面積は、電線導体全体の断面積に対して10〜90%の範囲内にあることが好ましい。このような電線導体を構成する銅合金としては、Cu−Ni−Si合金や、Sn、Ag、MgまたはZnを含有する銅合金などを例示することができる。電線導体は、円形圧縮されていても良い。また、電線導体の外周を絶縁体で被覆してなる絶縁電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線導体および絶縁電線に関し、さらに詳しくは、自動車用電線に好適に用いられる電線導体および絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両や電気・電子機器などの配線に用いられる絶縁電線としては、タフピッチ銅などの純銅からなる素線を複数本撚り合わせた電線導体を用いた絶縁電線が多く使用されている。
【0003】
近年、自動車などの車両や電気・電子機器などの高性能化が進められており、各種制御回路等の増加に伴って、使用される絶縁電線の数は増加する傾向にある。
【0004】
ここで、自動車分野においては、省エネルギーなどの観点から車両重量の軽量化が望まれている。そこで、車両重量の軽量化を図る一環として、絶縁電線の重量を軽量化する試みがなされている。例えば、従来の絶縁電線では、通電容量に余裕があるので、電線導体を細径化することにより絶縁電線を軽量にすることが行なわれている。
【0005】
ところが、電線導体を細径化すると、絶縁電線の強度が低下するという問題があった。そこで、細径化された電線導体を有する絶縁電線の強度を改善する試みがなされている。
【0006】
例えば特許文献1には、ステンレスからなる素線を複数本と、銅からなる素線とを組み合わせて構成される自動車用の電線導体が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−207079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ステンレスからなる素線と銅からなる素線とを組み合わせた電線導体では、電線導体が長期間水濡れすると異種金属接触腐食が生じるおそれがあった。また、電線導体は鉄鋼材料と非鉄金属材料とで構成されているが、絶縁電線をリサイクルする際に、電線導体中のステンレスと銅とが分離されにくいので、鉄鋼材料としてのリサイクルは難しく、非鉄金属としてのリサイクルでも純度が低くなるという問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、軽量・細径化に伴う強度低下を改善するとともに、耐食性とリサイクル性に優れる電線導体および絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電線導体は、純銅よりなる第一素線と、銅合金よりなる第二素線とを撚り合わせてなることを要旨とするものである。
【0011】
この場合、当該電線導体の断面積に対して、前記第一素線の断面積が10〜90%の範囲内にあることが望ましい。
【0012】
前記銅合金としては、Ni:1.5〜4.0重量%と、Si:0.4〜0.6重量%とを含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなるものを好適に示すことができる。
【0013】
また、前記銅合金としては、Sn、Ag、Mg、Znから選択される1種または2種以上を合計で0.15〜1.0重量%含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなるものを好適に示すことができる。
【0014】
そして、上記電線導体は、その断面積が0.5mm以下の細径電線に特に好適に用いることができる。
【0015】
さらに、上記電線導体は、円形圧縮されていても良い。
【0016】
一方、本発明に係る絶縁電線は、上記電線導体を用いてなることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電線導体は、純銅よりなる第一素線と、銅合金よりなる第二素線とを撚り合わせてなる。そのため、純銅よりなる素線のみを撚り合わせた従来の電線導体よりも強度が向上するので、軽量・細径化に伴う強度低下を改善することができる。また、純銅は、銅合金よりも導電性に優れることから、銅合金よりなる素線のみを撚り合わせた電線導体よりも導体抵抗が小さくなるので、許容電流を高くすることができる。
【0018】
そして、第一素線を形成している純銅と第二素線を形成している銅合金との間の標準電極電位差は小さいので、電線導体が長期間水濡れしても、異種金属接触腐食は生じにくく、耐食性に優れる。さらに、第一素線および第二素線はともに銅系材料で形成されていることから、銅系材料としてそのままリサイクルすることが可能であり、リサイクル性に優れる。
【0019】
この場合、当該電線導体の断面積に対して、前記第一素線の断面積が10〜90%の範囲内にあれば、強度向上効果が高く、導電性に優れる。
【0020】
そして、前記銅合金が、Ni:1.5〜4.0重量%と、Si:0.4〜0.6重量%とを含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなるものであれば、強度向上効果が高く、導電性に優れる。
【0021】
また同様に、前記銅合金が、Sn、Ag、Mg、Znから選択される1種または2種以上を合計で0.15〜1.0重量%含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなるものであれば、強度向上効果が高く、導電性に優れる。
【0022】
そして、電線導体の断面積が0.5mm以下の細径電線に用いることができるので、例えば自動車分野などで、絶縁電線の軽量化を図ることができる。
【0023】
さらに、上記電線導体が円形圧縮されれば、素線間の隙間が少なくなるので、同じ断面積で見たときに、電線導体の細径化を図ることができる。
【0024】
一方、本発明に係る絶縁電線は、上記電線導体を用いているので、電線強度が高く、腐食劣化しにくい。そのため、例えば、電線導体の断面積が0.5mm以下の細径電線として好適に用いることができる。そして、上記絶縁電線を例えば自動車分野に用いれば、車両重量の軽量化に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の含有率の単位は質量%である。
【0026】
本発明に係る電線導体は、純銅よりなる第一素線と、銅合金よりなる第二素線とを撚り合わせてなる。電線導体は、1本以上の第一素線と、1本以上の第二素線とで構成される。
【0027】
第一素線を形成する純銅とは、純度が99.9%以上の銅であり、例えば、タフピッチ銅、無酸素銅、りん脱酸銅などを例示することができる。このうち、タフピッチ銅は安価である点で好ましい。また、無酸素銅は銅中の酸素量が非常に少ないので、水素脆化が生じにくい点で好ましい。
【0028】
上記純銅で形成される第一素線としては、例えばJIS C3102に規定される電気用銅線などを好適に用いることができる。
【0029】
第二素線を形成する銅合金としては、特に限定されるものではないが、例えば、Cu−Ni−Si合金や、Sn、Ag、MgまたはZnを含有する銅合金などを例示することができる。
【0030】
Cu−Ni−Si合金としては、Niを1.5〜4.0%、Siを0.4〜0.6%含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなることが好ましい。より好ましくは、Niを2.0〜3.0%、Siを0.4〜0.6%含有するものである。
【0031】
Niが1.5%未満またはSiが0.4%未満では、電線導体の強度向上効果が低下しやすいからである。一方、Niが4.0%超またはSiが0.6%超では、導体抵抗が増大しやすいので、電線の許容電流が低下しやすくなり、電源線として用いにくくなるからである。
【0032】
Sn、Ag、MgまたはZnを含有する銅合金としては、これらの金属元素のうち1種のみを含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなるものでも良いし、これらの金属元素の2種以上を含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなるものでも良い。銅合金に添加される金属元素の量は、合計で0.15〜1.0%の範囲内にあることが好ましい。
【0033】
添加量が0.15%未満では、電線導体の強度向上効果が低下しやすいからである。一方、添加量が1.0%を超えると、導体抵抗が増大しやすいので、電線の許容電流が低下しやすくなり、電源線として用いにくくなるからである。
【0034】
電線導体は、上記第一素線と上記第二素線とを組み合わせて構成される。その組み合わせにおいて、純銅よりなる第一素線の割合が多くなると、強度は低下しやすいが、導電性が向上しやすくなる。一方、銅合金よりなる第二素線の割合が多くなると、導電性は低下しやすいが、強度が向上しやすくなる。そのため、導電性と強度向上効果とを考慮して、素線を組み合わせると良い。
【0035】
第一素線の割合は、当該電線導体の断面積に対する第一素線の断面積で表される。第一素線の断面積は、1本以上の第一素線全体の断面積で表される。
【0036】
電線導体の断面積に対する第一素線の断面積の割合は、10〜90%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、40〜70%の範囲内である。10%未満では、導体抵抗が増大しやすいので、電線の許容電流が低下しやすくなり、電源線として用いにくくなるからである。一方、90%を超えると、電線導体の強度向上効果が低下しやすいからである。
【0037】
電線導体としては、例えば電源線として用いる場合の許容電流量を考慮すると、導電率が45%IACS以上であることが好ましい。また、導体強度を考慮すると、引張り強さが300MPa以上であり、破断伸びが5%以上であることが好ましい。
【0038】
電線導体全体の断面積としては、特に限定されるものではないが、0.5mm以下であることが好ましい。電線導体の細径化により電線重量の軽量化を図ることができるからである。また、このように電線導体が細径化されても、強度向上効果により強度維持が可能だからである。なお、0.5mmは、公称の断面積である。
【0039】
素線本数および素線の断面積は、特に限定されるものではない。上述するように、第一素線の割合を考慮して、素線本数および素線の断面積を選択し、第一素線と第二素線とを組み合わせれば良い。
【0040】
なお、2本以上の第二素線を含む場合、同じ組成の銅合金からなる同種の第二素線のみを用いても良いし、互いに異なる組成の銅合金からなる複数種の第二素線を用いても良い。
【0041】
次に、より具体的な電線導体の構成について、図1〜図4を参照して説明する。なお、図示する例では、各第一素線の断面積および各第二素線の断面積がすべて同じ場合について示している。
【0042】
図1には、7本の素線で構成される電線導体を示す。この場合、第一素線および第二素線がそれぞれ1本以上あれば良い。好ましくは、第一素線を2〜5本にすると良い。
【0043】
図1(a)に示す電線導体10aは、5本の第一素線12と2本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第一素線12が配置され、この第一素線12を挟んで第二素線14が対称的な位置に配置されている。図1(b)に示す電線導体10bは、4本の第一素線12と3本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第一素線12が配置され、この第一素線12を囲むように3本の第一素線12と3本の第二素線14とが交互に配置されている。
【0044】
図1(c)に示す電線導体10cは、3本の第一素線12と4本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第二素線14が配置され、この第二素線14を囲むように3本の第一素線12と3本の第二素線14とが交互に配置されている。図(d)に示す電線導体10dは、1本の第一素線12と6本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第一素線12が配置され、この第一素線12を囲むように6本の第二素線14が配置されている。
【0045】
図2には、19本の素線で構成される電線導体を示す。第一素線12および第二素線14は、それぞれ2本以上あると良い。好ましくは、第一素線12を6〜15本にすると良い。
【0046】
図2(a)に示す電線導体20aは、15本の第一素線12と4本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第二素線14が配置され、この第二素線14を囲むように3本の第一素線12と3本の第二素線14とが交互に配置されている。さらにこれらを取り囲むように12本の第一素線12が配置されている。図2(b)に示す電線導体20bは、13本の第一素線12と6本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第一素線12が配置され、この第一素線12を囲むように6本の第二素線14が配置されている。さらにこれらを取り囲むように12本の第一素線12が配置されている。
【0047】
図2(c)に示す電線導体20cは、12本の第一素線12と7本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第二素線14が配置され、この第二素線14を囲むように6本の第二素線14が配置されている。さらにこれらを取り囲むように12本の第一素線12が配置されている。図2(d)に示す電線導体20dは、6本の第一素線12と13本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に第二素線14が配置され、この第二素線14を囲むように6本の第二素線14が配置されている。さらにこれらを取り囲むように6本の第一素線12と6本の第二素線14とが交互に配置されている。
【0048】
また、電線導体は、円形圧縮されていても良い。円形圧縮は、例えば電線導体を撚り合わせた状態で圧縮ダイスに通過させるなどして行なうことができる。
【0049】
図3には、7本の素線で構成され、円形圧縮された電線導体を示す。図3(a)〜(d)は、第一素線12と第二素線14との組み合わせ本数および配置が、それぞれ図1(a)〜(d)に示すものと同じ構成になっている。また、図1に示す素線と図3に示す素線とは、同じ断面積になっている。
【0050】
図1と比較すると、図3では、それぞれの場合において、円形圧縮されることにより素線間の隙間が少なくなっており、中心方向に円形圧縮されて、電線導体30a〜30dがそれぞれ全体として細径化されている。
【0051】
図4には、11本の素線で構成され、円形圧縮された電線導体を示す。図4(a)に示す電線導体40aは、8本の第一素線12と3本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に3本の第二素線14が配置され、これらを取り囲むように8本の第一素線12が配置されている。図4(b)に示す電線導体40bは、4本の第一素線12と7本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に3本の第二素線14が配置され、これらを取り囲むように4本の第一素線12と4本の第二素線14とが交互に配置されている。
【0052】
図4(c)に示す電線導体40cは、3本の第一素線12と8本の第二素線14との組み合わせ例である。中心に3本の第一素線12が配置され、これらを取り囲むように8本の第二素線14が配置されている。図4においては、図3に示すものと同様に、素線間の隙間が少なくなっており、中心方向に円形圧縮されている。
【0053】
第一素線12および第二素線14の配置は、図示する例には限定されないが、図示するように、第一素線12および第二素線14がそれぞれ電線導体全体として対称となる位置に配置されることが好ましい。第二素線14による導体強度の向上効果が電線導体全体にバランス良く発揮されるからである。また、電線導体の素線本数および第一素線12と第二素線14の組み合わせ本数は、図示する例には限定されない。
【0054】
図示する例では、各第一素線12の断面積および各第二素線14の断面積がすべて同じ場合について示しているが、これに限定されるものではない。例えば、第一素線12同士の断面積が互いに異なっていても良いし、第二素線14同士の断面積が互いに異なっていても良い。第一素線12同士の断面積が同じであり、第二素線14同士の断面積が同じであって、1本の第一素線12の断面積と1本の第二素線14の断面積とが異なっていても良い。
【0055】
次に、上記電線導体の製造方法の一例について説明する。
【0056】
電線導体を形成する第一素線は、例えば、電気銅を溶解し、鋳造および圧延によりワイヤロッドを形成後、これを所望の線径まで冷間加工して得られる。鋳造および圧延は、例えば連続鋳造圧延機などにより連続して行なうことができる。
【0057】
第二素線は、例えばCu−Ni−Si合金の場合には、例えば、所望の成分濃度に溶製した銅合金溶湯を急冷凝固させ、冷間圧延によりワイヤロッドを形成後、これを所望の線径まで冷間加工して得られる。合金溶湯の急冷凝固は、例えば水冷式の鋳型などを用いた間欠式連続鋳造機などにより行なうことができる。
【0058】
また、第二素線が例えばSn、Ag、Mg、Znを含有する銅合金の場合には、例えば、電気銅を溶解させたところに、所望の合金濃度となるようにSnなどの金属を添加して、鋳造および圧延によりワイヤロッドを形成後、これを所望の線径まで冷間加工して得られる。上記第一素線と同様、鋳造および圧延は、例えば連続鋳造圧延機により連続して行なうことができる。このとき、連続鋳造時に所望の合金濃度となるように、添加金属を連続添加することができる。
【0059】
このようにして得られた第一素線と第二素線とを、所望の比率となる本数の組み合わせで撚り合わせることにより、電線導体が製造される。なお、最終調質のために、必要に応じて、撚り合わされた電線導体を熱処理しても良い。
【0060】
最終調質のための熱処理は、各種軟化炉を用いて行なうことができる。軟化炉の様式は、電線導体に所望の特性が得られれば、特に限定はされない。バッチ式軟化炉であっても良いし、連続式軟化炉であっても良い。バッチ式軟化炉としては、例えばベル型軟化炉などを例示することができる。一方、連続式軟化炉としては、例えば通電連続軟化炉、パイプ連続軟化炉、高周波連続軟化炉などを例示することができる。
【0061】
次に、本発明に係る絶縁電線について説明する。
【0062】
本発明に係る絶縁電線は、上記電線導体の外周を絶縁体で被覆してなる。絶縁体は、1層としても良いし、2層以上としても良い。2層以上とする場合、各層は同種であっても良いし、異種であっても良い。
【0063】
絶縁体としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、PFA樹脂、ETFE(エチレン四フッ化エチレン共重合体)樹脂、FEP(フッ化エチレンプロピレン)樹脂等のフッ素樹脂などを例示することができる。被覆の厚さは、特に制限はない。
【0064】
絶縁体には、必要に応じて、各種添加剤が配合されていても良い。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)などを例示することができる。
【0065】
上記絶縁電線は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて混練した絶縁体材料を、通常の押出成形機などを用いて電線導体の外周に押出被覆するなどして製造することができる。
【実施例】
【0066】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0067】
(電気用銅線の作製)
電気銅を溶解させ、鋳造圧延機により連続鋳造圧延してφ8mmのワイヤロッドを得た後、冷間伸線加工して所望の線径の電気用銅線を作製した。
【0068】
(Cu−Ni−Si合金線の作製)
表1に示す成分濃度に溶製した銅合金溶湯を、水冷式鋳型を用いた間欠式連続鋳造機により急冷凝固させてφ24mmのワイヤロッドを得た。その後、冷間圧延してφ8mmのワイヤロッドを得た後、冷間伸線加工して所望の線径の銅合金線を作製した。
【0069】
(Sn、Ag、Mg、またはZnを含有する銅合金線の作製)
電気銅を溶解させたところに、表1に示す成分濃度になるように添加成分を連続添加しながら、鋳造圧延機により連続鋳造圧延してφ8mmのワイヤロッドを得た後、冷間伸線加工して所望の線径の銅合金線を作製した。
【0070】
(実施例1)
3本の電気用銅線と4本のCu−Ni−Si合金線とを撚り合わせた後、440℃で8時間調質熱処理を行なって、電線導体を得た。得られた電線導体について、以下に示す測定方法により引張強度、伸び、導電率を測定した。また、電線導体を構成する材料間の標準電極電位差から、耐食性を評価した。さらに、電線導体の材料構成から、リサイクル性を評価した。表1にその結果を示す。
【0071】
(実施例2)
2本の電気用銅線と5本のCu−Ni−Si合金線とを組み合わせ、400℃で8時間調質熱処理を行なったこと以外、実施例1と同様にした。表1にその結果を示す。
【0072】
(実施例3)
13本の電気用銅線と6本のCu−Ni−Si合金線とを組み合わせ、380℃で8時間調質熱処理を行なったこと以外、実施例1と同様にした。表1にその結果を示す。
【0073】
(実施例4−7)
3本の電気用銅線と、表1に示す成分の銅合金線4本とを撚り合わせた後、380℃で8時間調質熱処理を行なったこと以外、実施例1と同様にした。表1にその結果を示す。
【0074】
(比較例1)
7本の電気用銅線を撚り合わせた後、連続軟化したこと以外、実施例1と同様にした。表1にその結果を示す。
【0075】
(比較例2)
8本の電気用銅線と1本のステンレス鋼線とを撚り合わせた後、連続軟化したこと以外、実施例1と同様にした。表1にその結果を示す。
【0076】
(比較例3)
表1に示す成分の銅合金線7本を撚り合わせた後、480℃で8時間調質熱処理を行なったこと以外、実施例1と同様にした。表1にその結果を示す。
【0077】
(比較例4)
表1に示す成分の銅合金線7本を撚り合わせて構成し、熱処理を行なっていないこと以外、実施例1と同様にした。表1にその結果を示す。
【0078】
引張強度
汎用引張試験機にて測定し、300MPa以上を合格とした。
【0079】
破断伸び
汎用引張試験機にて測定し、5%以上を合格とした。
【0080】
導電率
ブリッジ法にて測定し、45%IACS(万国軟銅標準)以上を合格とした。
【0081】
【表1】

【0082】
表1によれば、比較例に係る電線導体は、引張強度、破断伸び、導電率、耐食性およびリサイクル性の評価項目のうち、いずれかに難点があることが分かる。
【0083】
具体的には、比較例1は、電気用銅線のみで構成されているため、破断伸び、導電性、耐食性およびリサイクル性に優れるものの、引張強度に劣っている。比較例2は、電気用銅線とステンレス鋼線とで構成されている。このものは、引張強度には優れるものの、異種金属で構成されているので、リサイクル性に劣っている。また、標準電極電位差が大きいため、耐食性も劣っている。
【0084】
比較例3は、銅合金線のみで構成されているため、引張強度には優れるものの、電気抵抗が高く、導電性に劣っている。また、比較例4も、銅合金線のみで構成されている。引張強度には優れるものの、熱処理も行なっていないために、破断伸びに劣っている。
【0085】
これに対し、本実施例に係る電線導体は、引張強度、破断伸び、導電率、耐食性およびリサイクル性とも優れていることが確認できた。
【0086】
すなわち、電気用銅線と銅合金線とを適度に組み合わせることにより、従来の電気用銅線のみの構成では成し得なかった、破断伸びや導電率を適正に維持しつつも引張強度に優れる電線導体を形成できることが確認できた。そして、このような構成にしても、銅と銅合金との間の標準電極電位差は小さいので、耐食性に優れ、また、同じ銅系材料なので、そのまま銅系材料へのリサイクルが可能であり、リサイクル性にも優れていることが確認できた。
【0087】
これにより、例えば、公称断面積が0.5mm以下のような細径電線に適用することにより電線の軽量・細径化を図る場合においても、軽量・細径化に伴う強度低下を改善することができる。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態に係る電線導体を表す断面図であり、素線7本で構成される電線導体である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電線導体を表す断面図であり、素線19本で構成される電線導体である。
【図3】図1に示す電線導体を円形圧縮したものを表す断面図である。
【図4】円形圧縮された他の実施形態に係る電線導体を表す断面図である。
【符号の説明】
【0090】
10a〜10d 電線導体
20a〜20d 電線導体
30a〜30d 電線導体
40a〜40c 電線導体
12 第一素線(純銅線)
14 第二素線(銅合金線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純銅よりなる第一素線と、銅合金よりなる第二素線とを撚り合わせてなることを特徴とする電線導体。
【請求項2】
当該電線導体の断面積に対して、前記第一素線の断面積が10〜90%の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の電線導体。
【請求項3】
前記銅合金は、Ni:1.5〜4.0重量%と、Si:0.4〜0.6重量%とを含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする請求項1または2に記載の電線導体。
【請求項4】
前記銅合金は、Sn、Ag、Mg、Znから選択される1種または2種以上を合計で0.15〜1.0重量%含有し、残部が実質的にCuおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする請求項1または2に記載の電線導体。
【請求項5】
その断面積が0.5mm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電線導体。
【請求項6】
円形圧縮されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の特徴とする電線導体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の電線導体を用いてなることを特徴とする絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−166141(P2008−166141A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354976(P2006−354976)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】