説明

電線端末の止水処理方法および止水処理装置

【課題】複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、止水材の無駄な消費を避けると同時に、止水処理を施す必要がある被覆電線に対しては止水材の十分な浸透を図る。
【解決手段】第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、前記集合端末に流動性を有する状態の止水材を供給する止水材供給工程と、前記集合端末の周囲の圧力と前記第2の被覆電線の他端の周囲の圧力とを、前記第1の被覆電線の他端の周囲の圧力よりも高くすることによって、集合端末から被覆材内側に止水材を浸透させる加圧浸透工程と、前記被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させる工程とにより、集合端末に止水処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電線端末の止水処理方法および止水処理装置
本発明は、電線端末の止水処理方法およびその実施に用いられる止水処理装置に関し、特に、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施す方法と、その止水処理方法に使用される止水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用電線などに使用される被覆電線では、電線端末から水などの液体が被覆材内側に浸透しないように、電線端末に止水処理を施すものがある。
例えば、一端がエンジンルーム内のボディアースに接続され、他端が自動車の電子制御装置などの発熱源に接続された被覆電線では、発熱源のヒートサイクルにより、ボディアース側の端末から被覆材内側に水などが吸い込まれてしまうことがある。したがって、このような被覆電線には、電線端末に確実に止水処理を施すことが望まれる。
【0003】
電線端末の止水処理方法としては、被覆電線の端末から、流動性を有する状態の止水材(未硬化のシリコーン樹脂など)を被覆材内側の隙間に浸透させ、その後、止水材を硬化させる手法が広く適用されている。
止水材を被覆材内側に浸透させるための具体的手法としては、例えば特許文献1に示される方法が知られている。
【0004】
特許文献1に示される技術では、圧着端子を取り付けた電線端末に、流動性を有する状態の止水材を滴下した後、その端末を加圧容器の室内にセットするとともに、他方の端末を大気圧下に置く。そして、加圧容器の室内を加圧することにより、被覆電線の両端間(一端と他端との間)に差圧を生じさせ、その差圧により、電線端末から止水材を被覆材内側に強制的に浸透させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/052693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車載用電線には、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、この束ねた部分に圧着端子などの端子部材を一括して取り付けるものがある。
そして、これら複数の被覆電線には、各被覆電線の他端に接続される部位に応じて、止水処理を施す必要があるものと、施す必要がないものとが含まれることがある。
【0007】
具体的には、例えば、一端がエンジンルーム内のボディアースに接続され、他端がヘッドランプ(発熱源)に接続される被覆電線(ヘッドランプ用のアース電線)には止水処理を施す必要がある。一方、アースの信頼性を向上させるため、アースを他のアースと接続する場合があるが、このようなアース間接続用の被覆電線には止水処理を施す必要がない。
そして、これら被覆電線の各一端を一つに束ね、この束ねた部分に一つの圧着端子(アース端子)を取り付け、エンジンルーム内のボディアースに一括して接続することがある。
【0008】
そして、止水処理を施す必要がある被覆電線の一端と、止水処理を施す必要がない被覆電線の一端とを一つに束ね、この束ねた部分に一つの圧着端子を取り付けた集合端末について、上述の特許文献1の手法に従って止水処理を施した場合、止水処理を施す必要がない被覆電線の被覆材内側にも止水材が浸透し、止水材が無駄に消費される。
また、止水材の無駄な消費により、止水処理を施す必要がある被覆電線への止水材の浸透量が少なくなり、十分な止水効果が得られなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、集合端末から止水処理を施す必要がない被覆電線への止水材の浸透を抑制して、止水材の無駄な消費を避けると同時に、止水処理を施す必要がある被覆電線への止水材の十分な浸透を図る止水処理方法、およびその実施のために使用される止水処理装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような課題を解決するため、本発明においては、複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、集合端末を加圧するばかりでなく、止水処理を施す必要がない被覆電線の他端をも加圧し、止水処理を施す必要がない被覆電線には止水材の浸透を抑制しつつ、止水処理を施す必要がある被覆電線には止水材が十分に浸透されるようにした。
【0011】
すなわち、本発明の基本的な態様(第1の態様)による電線端末の止水処理方法は、
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、
前記集合端末に流動性を有する状態の止水材を供給する止水材供給工程と、
前記集合端末の周囲の圧力と前記第2の被覆電線の他端の周囲の圧力とを、前記第1の被覆電線の他端の周囲の圧力よりも高くすることによって、前記集合端末から被覆材内側に止水材を浸透させる加圧浸透工程と、
前記被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させる止水材硬化工程と、
を有してなることを特徴とするものである。
【0012】
第1の態様の止水処理方法では、第1の被覆電線については、その両端間で差圧が生じて集合端末から止水材が被覆材内側に浸透する一方、第2の被覆電線については、その両端間の差圧が抑えられるため、集合端末から止水材が被覆材内側に浸透することが抑制される。
したがって、止水処理を施す必要がある被覆電線には、十分に止水材を浸透させて止水効果を発揮させることができると同時に、止水処理を施す必要がない被覆電線については、止水材の浸透を抑制して、止水材の無駄な消費を抑えることができる。
【0013】
また本発明の第2の態様による止水処理方法は、前記第1の態様の止水処理方法において、
前記加圧浸透工程は、
密閉可能な一つの加圧容器の室内に、前記集合端末とともに前記第2の被覆電線の他端を収容する工程と、
密閉した前記加圧容器の室内に加圧用ガスを供給して室内を加圧する工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0014】
第2の態様の止水処理方法によれば、集合端末と第2の被覆電線の他端とを同一の加圧容器の室内に収容して加圧するため、第2の被覆電線については、両端間に差圧が生じず(実質的にゼロ)、第2の被覆電線への止水材の浸透を確実に抑制することができる。また加圧容器の数が一つで足りるため、設備的にも低コストとすることができる。
【0015】
さらに本発明の第3の態様による止水処理方法は、前記第2の態様の止水処理方法において、
前記加圧浸透工程において、
前記第1の被覆電線の他端を大気圧下に配置したことを特徴とするものである。
【0016】
この第3の態様によれば、加圧浸透工程において、第1の被覆電線の他端は、大気中に置いておけばよいため、加圧浸透工程の作業が簡単化される。
【0017】
さらに本発明の第4の態様は、上述の電線端末の止水処理方法に使用される止水処理装置に関する。
すなわち第4の態様の止水処理装置は、
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、前記集合端末に供給した流動性を有する状態の止水材を被覆材内側に浸透させるための装置であって、
前記集合端末と前記第2の被覆電線の他端とを収容する密閉可能な加圧容器と、
前記加圧容器の室内に加圧用ガスを供給して室内を加圧する加圧手段と、
を有してなり、
前記加圧容器の室内に、前記集合端末を保持する第1の保持部と、前記第2の被覆電線の他端を保持する第2の保持部とが設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の被覆電線の各一端を束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、止水処理を施す必要がない被覆電線に止水材が浸透することを抑制しながら、止水処理を施す必要がある被覆電線には止水材を十分に浸透させることにより、止水材の無駄な消費を避けて、コスト低減を図ることができると同時に、止水処理を施す必要がある被覆電線について十分な止水効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の被覆電線の各端末を示す平面図である。
【図2】図1に示される被覆電線の各端末のうち、集合端末の正面図である。
【図3】集合端末に止水材を供給した状態を示す平面図である。
【図4】図3の正面図である。
【図5】止水処理装置の実施形態を示す概略図である。
【図6】止水処理装置の一例を示す部分切欠平面図である。
【図7】図6のX−X線における縦断正面図である。
【図8】止水処理装置の他の例を示す部分切欠平面図である。
【図9】図8のY−Y線における縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
【0021】
<被覆電線>
図1および図2に、本発明の止水処理方法が適用される被覆電線の一例を示す。
本実施形態は、2本の被覆電線11,12の各一端11A,12Aを一つに束ね、この束ねた部分に一つの圧着端子4を取り付けた集合端末13に、止水処理を施すものである。そして、2本の被覆電線11,12のうち、第1の被覆電線11は、止水処理を施す必要がある被覆電線とし、第2の被覆電線12は、止水処理を施す必要がない被覆電線とする。
【0022】
2本の被覆電線11,12の各一端11A,12Aは、所定の長さにわたって被覆材3が剥がされ、導体2(複数の素線)が露出している。そして、これら各一端11A,12Aは一つに束ねられ、一つの圧着端子4が取り付けられている。このように、複数の被覆電線の各一端11A,12Aを一つに束ね、一つの圧着端子4を取り付けた部分全体を、本明細書では集合端末13と称している。
2本の被覆電線11,12の他端11B,12Bの構成は特に限定されず、圧着端子などの端子部材が取り付けられていても、あるいは端子部材が取り付けられていなくても構わない。本実施形態では、第1の被覆電線11の他端11Bには、端子部材が取り付けられておらず(但し、所定の長さにわたって被覆材3が剥され導体2が露出した状態)、第2の被覆電線12の他端12Bには、別の圧着端子5を取り付けた構成としている。
【0023】
圧着端子4,5は、銅板などの導電性板材によって作られたものであって、その具体的構成は特に限定されない。
本実施形態では、圧着端子4,5の先端側には、固定用の螺子などが挿通される取り付け用開口部4Aを有する平板状の着座面4Bが形成され、かつ基端側には、二対の舌片部(一対の被覆部かしめ用舌片部4Cと、一対の導体かしめ用舌片部4D)が形成されている。
二対の舌片部のうち、一対の被覆部かしめ用舌片部4Cは、集合端末13において、各被覆電線の束を被覆材3の外側から“かしめ”により圧着固定する。また、一対の導体かしめ用舌片部4Dは、被覆電線かしめ用舌片部4Cより若干先端側に近い位置に形成され、集合端末13において、各被覆電線の束を露出した導体2の外側から“かしめ”により圧着固定する。
【0024】
<止水処理装置>
本発明の止水処理装置は、上記の集合端末13に供給した流動性を有する状態の止水材6を被覆材内側に浸透させるための装置である。
集合端末13に止水材6を滴下、供給した状況を、図3および図4に示す。
本実施形態の止水処理装置は、流動性を有する状態の止水材6が供給されている集合端末13とともに第2の被覆電線の他端12Bも加圧し、第1の被覆電線11については両端間に差圧を生じさせ、その差圧によって集合端末13から第1の被覆電線11の被覆材内側に止水材を強制的に浸透させるとともに、第2の被覆電線12については両端間の差圧を抑え、集合端末13から第2の被覆電線12の被覆材内側への止水材6の浸透を抑制するものである。
【0025】
図5は、止水処理装置20の実施形態を示す概略図である。
本実施形態の止水処理装置20は、密閉可能な加圧容器21と、加圧容器の室内22を加圧する加圧手段23と、流動性を有する状態の止水材6が供給された集合端末13を加圧容器の室内に保持する第1の保持手段31Aと、第2の被覆電線の他端12Bを加圧容器の室内に保持する第2の保持手段31Bとを備える。
【0026】
止水処理装置20の具体的構成を、図6および図7に示す。
加圧容器21は、上面を開放した箱型の容器本体24と、その容器本体24の上面開放部分を覆う蓋部25とにより構成されている。
加圧容器21は、容器本体24に対して蓋部25がヒンジ部26を中心として回動することによって開閉可能である。そして加圧容器21は、蓋部25を閉じたとき、容器本体24と蓋部25の間(境界)をシールする弾性シール部材27が設けられ、室内22が密閉可能な構成とされている。なお加圧容器21に、室内22を密閉状態に保つための任意のロック機構を設けておくことが望ましい(図示せず)。
【0027】
また加圧容器21には、加圧手段23(図示せず)から室内22に加圧用ガスを導入するための圧力調整ガス導入口28と、集合端末13から延びる各被覆電線11,12が挿通する第1の電線挿入口29Aと、第2の被覆電線12が挿通する第2の電線挿入口29Bとが形成されている。
【0028】
さらに本実施形態の止水処理装置20には、加圧容器21の室内22に、集合端末13を保持する第1の保持部31Aと、第2の被覆電線の他端12Bを保持する第2の保持部31Bとが設けられている。
第1の保持部31Aは、集合端末13の圧着端子4の着座面4Bを受ける台座部32と、その台座部32から垂直に突出し、圧着端子4の開口部4A内に挿入される凸部33とにより構成されている。また第2の保持部31Bも、第1の保持部31Aと同様に、台座部32と凸部33とにより構成されている。
そして集合端末13は、圧着端子4の開口部4A内に凸部33が挿入されるように台座部32に載置され、第1の保持部31Aに保持・固定される。また第2被覆電線の他端12Bは、圧着端子5の開口部4A内に凸部33が挿入されるように台座部32に載置され、第2の保持部31Bに保持・固定される。
【0029】
なお、第1の保持部材31Aと同一構成の第2の保持部31Bの代わりに、第2の被覆電線12の電線部分を直接保持する構成の第2の保持部31B´を設け、第2の被覆電線の他端12Bを保持・固定する構成としてもよい。
第2の被覆電線12の電線部分を直接保持する第2の保持部31B´を設けることによって、例えば、第2の被覆電線の他端12Bに圧着端子5が取り付けられていない場合や、圧着端子5の先端に開口部4Aが形成されてない場合にも、第2の被覆電線の他端12Bを保持・固定することができる。
【0030】
電線部分を直接保持する第2の保持部31B´を備える止水処理装置20´の具体的構成を、図8および図9に示す。
図8に示す止水処理装置20´では、第2の被覆電線12が挿通する第2の電線挿入口29Bの近傍に、第2の被覆電線の電線部分を直接保持する第2の保持部31B´が設けられている。なお図8に示す止水処理装置20´では、第2の保持部31B´を加圧容器21の室内22に配置したが、室内22に設置スペースが無い場合、加圧容器21の室外の第2の電線挿入口29Bの近傍に、電線部分を直接保持する第2の保持部31B´を設置してもよい。
【0031】
図9に示すように、第2の保持部31B´は、第2の電線挿入口29Bを通って室内22に挿入された第2の被覆電線の他端12Bの電線部分を受けるための上面V字状の受台41と、他端12Bの電線部分を両側から挟んで保持するためのクランプ部材43A,43Bとからなる。これらのクランプ部材43A,43Bは、支軸45に回動可能に支持されている。そして支軸45を中心として回動させることにより、第2の被覆電線12を挟んでクランプする状態(図9の実線)と、第2の被覆電線12を解放する状態(図9の鎖線)とに切り替えられるように構成されている。なおクランプ部材43A,43Bには、被覆電線クランプ状態をロックするためのロック機構を付設しておくことが望ましい(図示せず)。
そして第2の被覆電線の他端12Bは、電線部分がクランプ部材43A,43Bによって直接把持され、第2の保持部31B´に保持・固定される。
【0032】
このようにして、本実施形態の止水処理装置20(20´)では、加圧容器21の室内22に収容した集合端末13を第1の保持部31Aで保持・固定するとともに、加圧容器21の室内22に収容した第2の被覆電線の他端12Bを第2の保持部31B(31B´)で保持・固定する。
このとき、集合端末13から延びる各被覆電線11,12は第1の電線挿入口29Aを挿通して加圧容器21の室外に出され、これら被覆電線11,12のうち、第1の被覆電線11は加圧容器21の室外に出されたまま、他端11Bが加圧容器21の室外(大気圧下)に配置される。一方、第2の被覆電線12は第2の電線挿入口29Bを通って加圧容器21の室内22に挿入され、他端12Bが加圧容器21の室内22に配置される。
【0033】
止水処理装置20は、図5に示すように、密閉した加圧容器の室内22に加圧用ガス(空気)を送り込み、室内22を加圧する加圧手段23を備える。加圧手段23としては、例えば、加圧容器の室内22に加圧用ガス(例えば空気)を送り込むコンプレッサを使用することができる。また加圧用ガスとしては、空気のほかに、窒素ガスなどの不活性ガスなどが挙げられる。
そして止水処理装置20は、加圧手段23によって加圧容器の室内22を加圧することにより、第1の被覆電線11については、一端11A(集合端末13)と他端11Bとの間に差圧を生じさせ、集合端末13から第1の被覆電線11の被覆材内側に止水材6を強制的に浸透させる。
このとき、加圧容器21の室内22には集合端末13とともに第2の被覆電線の他端12Bが収容されているため、第2の被覆電線12については、一端12A(集合端末13)と他端12Bとの間の差圧が抑制され(実質的にゼロ)、集合端末から第2の被覆電線12の被覆材内側に止水材6が浸透するのが抑制される。
【0034】
<電線端末の止水処理方法>
本実施形態では、2本の被覆電線11,12の各一端11A,12Aを一つに束ね、一つの圧着端子14を取り付けた集合端末13に、流動性を有する状態の止水材6を供給する止水材供給工程と、集合端末13の周囲の圧力と前記第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力とを、第1の被覆電線の他端11Bの周囲の圧力よりも高くすることによって、集合端末から被覆材内側に止水材を浸透させる加圧浸透工程と、被覆材内側に浸透させた止水材6を硬化させる止水材硬化工程とにより、集合端末13に止水処理を施す。
【0035】
止水材供給工程では、圧着端子4を取り付けた集合端末13に、流動性を有する状態の止水材6を供給する(図3、図4参照)。
この具体的手法は任意であり、例えば、スポイト状の滴下具を用いて集合端末13の所要の箇所に手作業で止水材を滴下させても、あるいは自動的に滴下させる滴下装置により集合端末13の所要の箇所に止水材を滴下させても良い。
止水材の供給位置は、被覆材3の端面(導体2の露出部分と被覆材3の被覆部分との境界)が止水材6で覆われるように、被覆部かしめ用舌片部4Cと導体かしめ用舌片部4Dとの間に供給すればよい。集合端末13に止水材6を滴下、供給した状況を、図3および図4に示す。
【0036】
止水材の種類は特に限定しないが、少なくとも、集合端末13への供給時および被覆材内側への浸透時には流動性を有し、その後の硬化処理(大気中放置による自然硬化処理を含む)によって硬化し、かつ硬化状態で非透水性を示すタイプの材料、例えば、紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、自然硬化型樹脂などの硬化性樹脂からなるものを用いればよい。
具体的には、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂が代表的であるが、これらに限定されないことはもちろんである。なお、集合端末13へ供給される際の止水材の粘度は、特に限定されるものではないが、400mPa・s〜60000mPa・sの範囲内が好ましく、より好ましくは600mPa・s〜1000mPa・sの範囲内である。
【0037】
加圧浸透工程では、第1の被覆電線の他端11Bを、例えば大気圧下に配置した状態で、集合端末13の周囲の圧力と、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力とが大気圧よりも高くなるように加圧し、集合端末13から被覆材内側に止水材6を浸透させる。
すなわち、止水処理を施す必要がある第1の被覆電線11については、一端11A(集合端末13)と他端11Bとの間に差圧を生じさせ、集合端末13から第1の被覆電線11の被覆材内側に止水材6を強制的に浸透させる一方で、止水処理を施す必要がない第2の被覆電線12については、一端12A(集合端末13)と他端12Bとの間に差圧が生じるのを抑え、集合端末13から第2の被覆電線12の被覆材内側に止水材が浸透するのを抑制する。
【0038】
具体的には、上記の止水処理装置20(20´)を使用し、第1の被覆電線の両端間に差圧を生じさせると同時に、第2の被覆電線の両端間の差圧を抑え、集合端末から被覆材内側に止水材を浸透させる。
【0039】
本実施形態の止水処理装置20(20´)を使用した加圧浸透工程では、まず、加圧容器21の蓋部25を開放した状態で、集合端末13の圧着端子4を第1の保持部31Aに固定するとともに、第2の被覆電線の他端12Bの圧着端子5を第2の保持部31Bに固定し、その後、蓋部25を閉じて加圧容器21の室内22を密閉する。なお、第2の被覆電線の他端12Bの電線部分を第2の保持部31B´で直接保持し、固定するようにしてもよい。
上記のように、加圧容器21の室内22に集合端末13と第2の被覆電線の他端12Bとを収容したとき、集合端末13から延びる各被覆電線11,12を第1の電線挿入口29Aに挿通させて各被覆電線11,12を加圧容器21の室内22から室外に出す。そして、各被覆電線11,12のうち、第2の被覆電線12を第2の電線挿入口29Bに挿通させて加圧容器21の室内22に挿入し、他端12Bを加圧容器の室内22に配置するとともに、第1の被覆電線11は加圧容器22の室外に出したまま、他端11Bを大気圧下に配置する。
【0040】
加圧容器21の室内22に集合端末13と第2の被覆電線の他端12Bとを収容し密閉した後、コンプレッサなどの加圧手段23によって室内22に加圧用ガス(空気など)を送り込み、室内22を大気圧よりも高い圧力になるように加圧する。
これによって、止水処理を施す必要がある第1の被覆電線11については、一端11A(集合端末13)と他端11Bとの間で差圧が生じて、集合端末13から被覆材内側に止水材6が強制的に浸透される一方、止水処理を施す必要がない第2の被覆電線12については、一端12A(集合端末13)と他端12Bとが等しい圧力で加圧されるため両端間の差圧が抑えられ、集合端末13から被覆材内側に止水材6が浸透するのが抑制される。
このように、加圧容器の室内22を加圧した状態で所定時間(例えば5秒〜1分程度)保持すれば、集合端末13から第2の被覆電線12への止水材の浸透が抑制されたまま、集合端末13から第1の被覆電線11の被覆材内側に止水材が浸透する。
【0041】
なお加圧浸透工程の他の一例として、例えば、集合端末13と第2の被覆電線の他端12Bとを別々の加圧容器に収容し、各加圧容器を加圧するようにしてもよい。
この場合、第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力が、集合端末13の周囲の圧力と等しくなるように、各加圧容器の室内を同一の圧力で加圧することが望ましいが、加圧誤差などによって第2の被覆電線の他端12Bの周囲の圧力が集合端末13の周囲の圧力よりも高くなるのを防止するため、他端12Bを集合端末13よりも若干小さな圧力で加圧しても良い。集合端末13と第2の被覆電線の他端12Bとを同一圧力で加圧しなくても、第1の被覆電線11における両端間の差圧よりも、第2の被覆電線12における両端間の差圧が小さければ、集合端末13から第2の被覆電線12への止水材の浸透を抑制することができる。
【0042】
さらに加圧浸透工程の他の一例として、例えば、第1の被覆電線の他端11Bを収容する密閉可能な容器を設け、この容器の室内の圧力を調整(例えば減圧)することにより、第1の被覆電線11の両端間に差圧を生じさせるようにしてもよい。ただし、この場合も、集合端末13の周囲の圧力と第2の被覆電線12の他端12Bの周囲の圧力とが、第1の被覆電線11の他端11Bの周囲の圧力よりも高くなるように、集合端末13と第2の被覆電線の他端12Bとを加圧することはもちろんである。
【0043】
加圧浸透工程の後、加圧を停止させて加圧容器21を開放し(蓋部25を開け)、集合端末13および第2の被覆電線の他端12Bを加圧容器21の室内22から取り出す。
【0044】
続いて、止水材硬化工程では、集合端末13から各被覆電線11,12の被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させる。
止水材硬化処理の具体的手法は、使用した止水材の硬化タイプに応じて適宜選択すればよい。自然硬化型シリコーン樹脂を使用した場合はそのまま放置し、また熱硬化型シリコーン樹脂や紫外線硬化型シリコーン樹脂を使用した場合には、加熱したり紫外線照射したりすればよい。
なお止水材硬化処理は、集合端末13および第2の被覆電線12の他端12Bを加圧容器の室内に収容したまま行うことも可能である。この場合、加圧容器の室内22に、止水材硬化処理のための加熱源や紫外線照射源を設けておく。
以上のようにして、被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させることにより、止水処理は終了する。
【0045】
なお、以上の説明では、2本の被覆電線の各一端を束ねた集合端末に止水処理を施す場合について説明したが、3本以上の被覆電線の各一端を束ねた集合端末に止水処理を施す場合にも適用できることはもちろんである。
すなわち、止水処理を施す必要がある少なくとも1本の被覆電線の各一端と、止水処理を施す必要がない少なくとも1本の被覆電線の各一端とを一つに束ね、この束ねた部分に一つの端子部材を取り付けた集合端子にはすべて適用可能である。
【0046】
ここで、一般に毛管に、その一端側からある粘度の流体を圧力を加えて浸透させたときの浸透距離は、
L:浸透距離
r:毛管半径
P:圧力
t:時間
η:粘度
とすれば、毛管浸透理論(Lucas‐Washburn, Hagen‐Poiseulleの式)より、
L=√(r・P・t/4η)
と表すことができる。
【0047】
そして複数本の素線を撚り合わせてなる撚線導体を被覆した被覆電線について、その一端側から被覆材内の隙間(素線間の隙間)に止水材を浸透させる際には、その被覆材内側の各隙間が上記の毛管に相当するから、被覆電線の一端側から止水材を浸透させる際の止水材の浸透距離についても、上記式を準用することができる。
本実施形態では、止水処理を施す必要がある第1の被覆電線11については、その両端間で差圧が生じて、上記の式でPがある値Pxとなるため、ある距離Lxまで確実に止水材が浸透することになる。一方、止水処理を施す必要がない第2の被覆電線12については、その両端間の差圧が抑えられ(実質的にゼロであり、上記式でP=0となるため、浸透距離L=0となる)、集合端末13から被覆電線内側に止水材が浸透することが抑制される。
【0048】
なお、第2の被覆電線(止水処理を施す必要がない被覆電線)12への止水材の浸透が抑制されない場合、第1の被覆電線(止水処理を施す必要がある被覆電線)11に、止水材を十分に浸透させるためには、予め多量の止水材を集合端末13に供給しておかなければならない。しかしながら、図3および図4に示すように、止水材供給箇所は極めて狭く短い領域であり、止水材を過剰に供給すれば、止水材が垂れ落ちたり、圧着端子の先端まで止水材が流れ込んだりする虞がある。
しかるに本実施形態の場合、第2の被覆電線12への止水材の浸透が抑制され、止水材の無駄な消費が抑えられるため、集合端末13に過剰な止水材を供給しなくても、第1の被覆電線11に止水材を十分に浸透させることができ、十分な止水効果を確保できる。
【0049】
また、第2の被覆電線(止水処理を施す必要がない被覆電線)12への止水材の浸透が抑制されず、止水材が無駄に消費されると、1回の止水材の供給と加圧・浸透によっては、第1の被覆電線11に十分な止水効果が得られないため、止水材の供給と加圧・浸透を、2回以上繰り返すことも考えられる。しかしながら、止水材の供給と加圧・浸透を繰り返す回数が増えれば、作業時間が増し、作業能率が著しく低下するとともに、作業管理も煩雑化する。
しかるに本実施形態の場合は、第2の被覆電線12への止水材の浸透が抑制され、止水材の無駄な消費が抑えられるため、1回の処理でも、第1の被覆電線11に止水材を十分に浸透させることができ、十分な止水効果を確保できる。
【0050】
以下に本発明の実施例を示す。なお以下の実施例は、本発明の作用効果を明確化するためのものであって、実施例に記載された条件が本発明の技術的範囲を限定しないことはもちろんである。
【実施例】
【0051】
ポリ塩化ビニルによって軟銅撚り線を被覆してなるJASO D611準拠の自動車用薄肉低圧電線AVSS 0.5(仕上外径(標準):1.6mm、素線径:0.32mm、素線数:7本)と、ポリ塩化ビニルによって軟銅撚り線を被覆してなるJASO D611準拠の自動車用薄肉低圧電線AVSS 0.85(被覆電線外径:1.8mm、素線径:0.24mm、素線数:19本)とを用意した。これら2本の被覆電線のうち、前者の被覆電線(AVSS 0.5)を、止水処理を施す必要がない第2の被覆電線12とし、後者の被覆電線(AVSS 0.85)を、止水処理を施す必要がある第1の被覆電線11と想定する。
そして、図1および図2に示すように、第1の被覆電線11の一端11Aと第2の被覆電線12の一端末12Aとを一つに束ね、一つの圧着端子4を取り付け集合端末13とした。なお、第2の被覆電線の他端12Bにも圧着端子12を取り付けた。
続いて、図3および図4に示すように、集合端末13の導体露出部分と被覆材被覆部分との境界部位を覆うように、粘度800mPa・sの自然硬化型シリコーン樹脂を、止水材6として15ml滴下した。
【0052】
そして、図5に示す止水処理装置20を用い、被覆電線の集合端末に止水処理を施した。
まず、密閉可能な加圧容器21の室内22に集合端末13と第2の被覆電線の他端12Bを収容した後、加圧容器の室内を密閉した。なお第1の被覆電線の他端11Bは大気圧下(加圧容器の室外)に配置した。また加圧容器の室内では、集合端末13が第1の保持部31Aによって保持・固定され、第2の被覆電線の他端12Bが第2の保持部31Bによって保持・固定されている。
次に、加圧手段(コンプレッサ)23を作動させ、加圧容器の室内22に加圧用ガス(空気)を送り込み、加圧容器の室内22を0.4MPaの圧力にて15秒間加圧した。
その後、加圧容器21を開放して各端末を取り出し、被覆電線を大気圧下に放置することにより、集合端末13から被覆材内側に浸透させた止水材6を硬化させた。
【0053】
止水材浸透距離測定:
集合端末13から各被覆電線11,12の被覆材内側に浸透した止水材の量(止水材が被覆材内側に浸透した距離)を調べた。
その結果、第1の被覆電線11については、止水材の浸透距離は約30mmであり、集合端末から被覆材内側に止水材が十分に浸透したのに対して、第2の被覆電線12については、止水材の浸透距離は3mm以下に過ぎず、集合端末から被覆材内側に実質的に止水材が浸透していないことが確認された。
このように、止水処理を施す必要がある第1の被覆電線の被覆材内側には、止水材が十分に浸透し、止水処理を施す必要がない第2の被覆電線の被覆材内側には、止水材の浸透が抑制されていることが確認された。
【0054】
止水効果試験:
第1の被覆電線11について、水中加圧試験により止水効果を調べた。
この水中加圧試験は、止水処理を施した集合端末13を水中に入れ、第1の被覆電線の他端11B(水中に浸漬してない端末)を加圧し、集合端末13からの空気の漏れを調べる試験である。具体的には、集合端末13を水中に入れ、第1の被覆電線の他端11Bを加圧容器の室内に収容し、この加圧容器の室内に10kPaの圧縮空気を送り込んで、水中に浸漬した集合端末13からの空気漏れの有無を確認した。さらに、10kPa毎に加圧容器の室内の圧力を上げ、最大200kPaまで上げた。
そして、水中の集合端末からの空気の漏れの有無を調べたところ、200kPaまで空気漏れが生じなかった。
このように、第1の被覆電線11(止水処理を施す必要がある被覆電線)について十分に止水効果が得られたことが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1・・・被覆電線、2・・・導体、3・・・被覆材、4・・・圧着端子、5・・・圧着端子、11・・・第1の被覆電線、11A・・・第1の被覆電線の一端、11B・・・第1の被覆電線の他端、12・・・第2の被覆電線、12A・・・第2の被覆電線の一端、12B・・・第2の被覆電線の他端、13・・・集合端末、20・・・止水処理装置、21・・・加圧容器、23・・・加圧手段(コンプレッサ)、31A・・・第1の保持部、31B・・・第2の保持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を一つに束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、
前記集合端末に流動性を有する状態の止水材を供給する止水材供給工程と、
前記集合端末の周囲の圧力と前記第2の被覆電線の他端の周囲の圧力とを、前記第1の被覆電線の他端の周囲の圧力よりも高くすることによって、前記集合端末から被覆材内側に止水材を浸透させる加圧浸透工程と、
前記被覆材内側に浸透させた止水材を硬化させる止水材硬化工程と、
を有してなることを特徴とする電線端末の止水処理方法。
【請求項2】
前記加圧浸透工程は、
密閉可能な一つの加圧容器の室内に、前記集合端末とともに前記第2の被覆電線の他端を収容する工程と、
密閉した前記加圧容器の室内に加圧用ガスを供給して室内を加圧する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電線端末の止水処理方法。
【請求項3】
前記加圧浸透工程において、
前記第1の被覆電線の他端を大気圧下に配置したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電線端末の止水処理方法。
【請求項4】
第1の被覆電線と第2の被覆電線とを含む複数の被覆電線の各一端を束ね、一つの端子部材を取り付けた集合端末に止水処理を施すにあたって、前記集合端末に供給した流動性を有する状態の止水材を被覆材内側に浸透させるための装置であって、
前記集合端末と前記第2の被覆電線の他端とを収容する密閉可能な加圧容器と、
前記加圧容器の室内に加圧用ガスを供給して室内を加圧する加圧手段と、
を有してなり、
前記加圧容器の室内に、前記集合端末を保持する第1の保持部と、前記第2の被覆電線の他端を保持する第2の保持部とが設けられていることを特徴とする止水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−58434(P2013−58434A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196870(P2011−196870)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】