説明

電線被覆剥取器

【課題】電線に取り付けた状態のまま補助刃の要否を操作できるようにして、作業負担を軽減することのできる電線被覆剥取器を提供すること。
【解決手段】電線に引っ掛けて周回させることにより、電線被覆に一対の補助刃35の刃先35aを切り込ませるとともに、その電線被覆に主刃を平行に切り込ませて電線の導通線から被覆を剥ぎ取る電線被覆剥取器であって、補助刃は、電線の被覆に刃先35aが切り込む稼働位置P1と該被覆に刃先が届かない退避位置P2との間を段差部31aで往復移動自在に支持されつつ側面のピン51が案内穴52に案内されて位置決めされるとともに、そのピンの先端の移動三角駒55が固定側の固定三角駒56との間に離隔道具が差し込まれることにより退避位置に移動する一方、固定三角駒と共に摘まれることにより稼働位置に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆剥取器に関し、詳しくは、電線の被覆の周方向への切断の要否をその電線に取り付けた状態で操作することができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
電線を分岐などさせるときに、絶縁性を確保しつつ遠隔位置から作業する間接活線工法を採用する場合には、その電線に電線被覆剥取器を引っ掛けた状態にして切断刃を被覆に切り込ませつつ周回させることにより、電線の導通線周りから被覆を剥ぎ取って露出させる作業が行われている。
【0003】
この電線被覆剥取器は、ヤットコ(絶縁把持道具)で把持して遠隔位置の電線に引っ掛ける状態を維持しつつ、絶縁操作棒の先端に取り付けたフックを引っ掛けて回転操作することにより電線に取り付ける作業を行う必要があり、さらに、その絶縁操作棒先端のフックを引っ掛け用リングに引っ掛けつつ牽引することによりその電線周りに周回させるようになっている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
このうちの特許文献1に記載の電線被覆剥取器では、フックを引っ掛ける位置を増やして周回作業をやり易く工夫することが提案されており、特許文献2に記載の電線被覆剥取器では、電線に容易に引っ掛けることを可能にするのと同時に不用意に外れてしまうことがないように引っ掛け箇所にカバーを取り付けることが提案されている。
【0005】
また、この種の電線被覆剥取器は、電線の被覆を延長方向と平行方向に切り込んで剥ぎ取る主刃と共に、その主刃の幅の両側の被覆を周方向に切り込んで剥ぎ取りを補助する補助刃を備えており、被覆を剥ぎ取る幅によっては、補助刃が電線の導通線に傷をつけてしまわないように保護するガードが設けられている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010− 22182号公報
【特許文献2】特開2009−284722号公報
【特許文献3】特開2010−130767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような電線被覆剥取器にあっては、特許文献3に記載のように、補助刃が機能しないようにガードを操作したとしても、その操作が不十分である場合や、その操作自体をしておくことを不注意で忘れてしまった場合には、電線に取り付けた状態から手元まで回収して確認・操作する必要がある。
【0008】
この電線被覆剥取器の電線からの取外や取付は、絶縁把持道具のヤットコと共に絶縁操作棒を同時に操作することから、相当の腕力と共に熟練が必要であり、また、ヤットコは挟み込む形態で把持する道具であることから、気が緩んでずれるなどすると、外れてしまって落下させてしまう恐れがあり、できるだけその作業回数は少なくしたい。
【0009】
そこで、本発明は、電線に取り付けた状態のまま補助刃の要否を操作できるようにして、作業負担を軽減することのできる電線被覆剥取器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する電線被覆剥取器の発明の一態様は、電線に引っ掛けた状態にする引掛部と、該引掛部に対して接離することにより前記電線を当該引掛部の間で挟持あるいは解放する接離部と、該接離部の前記電線の延長方向に離隔する位置に取り付けられて一体に同一方向に移動するとともに該電線の延長方向に対して直交する姿勢の刃先が当該電線の被覆に切り込む前記第1、第2切断刃と、該接離部の前記第1、第2切断刃の間に取り付けられて一体に同一方向に移動するとともに前記電線の延長方向と平行な姿勢の刃先が当該電線の被覆に切り込む第3切断刃と、を具備して、前記引掛部と前記接離部の間の離隔間隔を調整して前記電線を互いの間に内装する状態にしたまま該電線の周囲を周回させることにより前記第1〜第3切断刃が該電線の被覆を周方向および平行に切り込んで該被覆を当該電線の導通線から剥ぎ取る電線被覆剥取器であって、前記電線の被覆に刃先が切り込む切断位置と該被覆に刃先が届かない退避位置との間を往復移動自在に前記第1、第2切断刃を支持する支持構造と、前記切断位置と前記退避位置のそれぞれに前記第1、第2切断刃を位置決め保持する保持構造と、遠隔位置からの付勢力を受けて前記切断位置または前記退避位置に前記第1、第2切断刃を移動させる受圧構造と、を当該第1、第2切断刃毎に備えていて別個に機能させることができることを特徴とするものである。
【0011】
この発明の態様では、遠隔位置の電線に引掛部を引っ掛けつつ接離部との間で電線を挟持して内装する状態にし、その電線の周囲を周回させることにより第3切断刃(主刃)で電線の被覆を切断して導通線から剥ぎ取る際に、第1、第2切断刃(補助刃)毎の機能させる必要の有無に応じて、遠隔位置から受圧構造を操作して付勢することによりその第1、第2切断刃を切断位置と退避位置の一方に支持・移動させて位置決め保持することができる。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明の一態様によれば、電線に取り付けた状態のまま第1、第2切断刃を切断位置と退避位置に遠隔位置から操作することができ、操作が不十分かもしれないと思ったときなど確認が必要な場合や、その操作自体を忘れてしまった場合に加えて、連続して延在方向にずらして幅広の範囲の被覆を剥ぎ取る必要があって第1、第2切断刃の一方を機能させないようにする必要がある場合にも、手元に回収して確認・操作することなく、操作して作業を継続することができる。したがって、第1、第2切断刃のガードを操作するための作業を省略して作業負担を格段に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る電線被覆剥取器の第1実施形態を示す図であり、(a)はその全体構成を示す正面図、(b)はその側面図である。
【図2】その機能を説明する図であり、(a)はその拡大正面図、(b)はその拡大側面図である。
【図3】その要部構成を示す一部拡大側面図である。
【図4】その図3とは異なる要部構成を示す一部拡大側面図である。
【図5】その図3、図4とは異なる要部構成を示す一部拡大側面図である。
【図6】その図3〜図5とは異なる要部構成を示す一部拡大側面図である。
【図7】その図3〜図6とは異なる要部構成を示す一部拡大側面図である。
【図8】作業する際に利用するヤットコを示す平面図である。
【図9】作業する際に利用する絶縁操作棒を示す平面図である。
【図10】作業する際に利用するフックを示す平面図である。
【図11】作業する際に利用する先端工具を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の形態としては、上記の課題解決手段のように、電線に引っ掛けた状態にする引掛部と、該引掛部に対して接離することにより前記電線を当該引掛部の間で挟持あるいは解放する接離部と、該接離部の前記電線の延長方向に離隔する位置に取り付けられて一体に同一方向に移動するとともに該電線の延長方向に対して直交する姿勢の刃先が当該電線の被覆に切り込む前記第1、第2切断刃と、該接離部の前記第1、第2切断刃の間に取り付けられて一体に同一方向に移動するとともに前記電線の延長方向と平行な姿勢の刃先が当該電線の被覆に切り込む第3切断刃と、を具備して、前記引掛部と前記接離部の間の離隔間隔を調整して前記電線を互いの間に内装する状態にしたまま該電線の周囲を周回させることにより前記第1〜第3切断刃が該電線の被覆を周方向および平行に切り込んで該被覆を当該電線の導通線から剥ぎ取る電線被覆剥取器であって、前記電線の被覆に刃先が切り込む切断位置と該被覆に刃先が届かない退避位置との間を往復移動自在に前記第1、第2切断刃を支持する支持構造と、前記切断位置と前記退避位置のそれぞれに前記第1、第2切断刃を位置決め保持する保持構造と、遠隔位置からの付勢力を受けて前記切断位置または前記退避位置に前記第1、第2切断刃を移動させる受圧構造と、を当該第1、第2切断刃毎に備えていて別個に機能させることができることを基本構成とするのに加えて、次の構成を備えてもよい。
【0015】
第1の態様としては、前記支持構造は、前記切断位置と前記退避位置との間の前記第1、第2切断刃の移動経路を備えており、該移動経路は、前記第1、第2切断刃が当該移動経路外にずれることを制限する構造に形成されているとともに、前記電線被覆の切断時の周回方向に対する後退位置に前記切断位置が配置されて該周回方向に対する進行方向に向かう方向に前記切断位置と前記退避位置との間の経路が連続しているようにしてもよい。
【0016】
この態様では、切断位置に移動した第1、第2切断刃は、周回方向に回転して電線の被覆に切り込む際に、切断位置に向かう負荷が加えられつつその切断作業を行うことになり、後退位置から切断位置に向かう負荷のためにその切断位置から離脱してしまうことがない。したがって、信頼性高く、切断作業を完了することができる。
【0017】
第2の態様としては、前記第1、第2切断刃は、前記切断位置と前記退避位置のいずれに位置するのかを表示する手段を備えるようにしてもよい。
【0018】
この態様では、第1、第2切断刃が切断位置と退避位置のいずれに位置するのかを遠隔位置から確認することができ、無駄に操作することを回避することができる。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1〜図は本発明に係る電線被覆剥取器の一実施形態を示す図である。
【0020】
図1において、電線被覆剥取器10は、縦断面形状を縦長のコの字形状に形成されている本体部12と、この本体部12のコの字内に内装されて上下動する可動部13と、この可動部13を上下動させる調整機構14と、を組み立てることにより構築されている。
【0021】
本体部12は、コの字形状の上部に位置する本体上部21と、その下部に位置する本体下部22と、これら本体上部21と本体下部22の一端側を連結するように側方に位置する本体側部23と、を備えている。
【0022】
この本体部12の本体上部21は、図2に示すように、本体側部23側の下面で幅方向に延在する円弧溝21aが形成されている。これにより、本体部12は、図8に示すヤットコ100などにより把持して、電柱などに架線させている遠隔位置の電線を本体側部23の反対側から本体上部21の下方内に挿し込んで平行状態になるように位置させることにより、その本体上部21の円弧溝21a内にその電線の一部を収装する状態にして引っ掛けた状態にすることができる。すなわち、この本体上部21が引掛部を構成している。
【0023】
ここで、ヤットコ100は、図8に示すように、対象物を掴む把持部110と、作業者が把持して支持する支持棒131と、伝達棒132を介して操作力を伝達することにより把持部110を操作するハンドル122と、を備えている。これにより、ヤットコ100は、支持棒131に固設されている把持部110の不動部材111に対して、ハンドル122を操作することにより伝達棒132に連結されている可動部材112を回動軸113を中心に回動させることにより、把持部110の部材111、112の先端部111a、112aの間で本体部12などの対象物等を掴むことができる。なお、このヤットコ100には、掴む側からの水分を滴下させる傘カバー134と、掴む側からの絶縁性を考慮して安全に作業を行い得る限界位置を示す傘カバー135とを備えて、概略全体をプラスチックやゴム材料などの絶縁材料で作製されることにより絶縁性が確保されている。
【0024】
可動部13は、本体部12の本体上部21と本体下部22の間に位置して調整機構14により上下動されるベース部材31と、このベース部材31の両側方に連設されている側面板32により本体側部23の背面側に位置するように支持されている背面バー33と、を備えている。
【0025】
また、調整機構14は、可動部13のベース部材31の下面に回転自在に連結されて外周面側に雄ネジ山41aを刻設されている主軸41と、本体下部22の上下方向に貫通する不図示の貫通穴に隣接するように固設されてその貫通穴に挿通される主軸41の雄ネジ山41aを螺合させる雌ネジリング42と、主軸41の下部に相対回転不能に連結されて図9に示す絶縁操作棒200先端の図10に示すフック210を差込・係合可能に円形穴43aの開口する縦ハンドル43と、を備えている。
【0026】
これにより、可動部13は、調整機構14の縦ハンドル43の円形穴43aにフック210などを挿し込んで回転させることにより、あるいは、その縦ハンドル43をヤットコ100により掴んで回転させることにより、雌ネジリング42に螺合する主軸41を上下動させることができ、その主軸41の上部に連設されているベース部材31を背面バー33により本体側部23から離隔することを制限しつつ本体上部21に接離させることができる。すなわち、この可動部13が接離部を構成している。
【0027】
ここで、フック210は、図10に示すように、鉤の手部211および横棒部212を備えており、この鉤の手部211および横棒部212の基端部側には、図9に示す絶縁操作棒200の先端部を差込可能に円筒形状に形成されているジョイント部215が連設されている。このフック210のジョイント部215は、円筒形状の対面する周面のそれぞれが概略T字形状に切り欠かれて開口することにより、後端面(絶縁操作棒200)側から先端側に向う差込切欠部216と、この差込切欠部216の直交方向の両側に連続するように屈曲する係合切欠部217と、が一対形成されている。これに対して、絶縁操作棒200は、円柱形状の先端部の互いに反対側となる側面に突起形状に一対立設されることによりフック210のジョイント部215の2箇所の切欠部216、217内に挿し込んで係合させることのできるピン201と、先端部の先端面に配設されて不図示の内蔵スプリングにより突出方向に付勢されている突起202と、先端部の側面に刻設されている不図示のネジ形状に螺合して進退可能なグリップ203と、滑り難い材質の取替え可能な滑り止が施されて作業員の把持する基端部側の把持部204と、を備えている。
【0028】
この構成により、フック210は、ジョイント部215内に絶縁操作棒200の先端部を差し込んで突起202を内蔵スプリングの弾性力に抗して沈ませつつ、ピン201の双方を切欠部216、217内に進入させて回転させた後に、その進入させる力を解放すると、突起202がスプリングの弾性力により突出してジョイント部215を押し出すことにより、その係合切欠部217から屈曲する係合溝217a内にピン201を離脱不能に係合させることができる。さらに、この絶縁操作棒200は、グリップ203を回転させてジョイント部215側に寄せることによりピン201が係合溝217a内から離脱して回転しないようにロックすることができ、フック210が相対回転して外れてしまうことを信頼性高く防止して取り扱い易くすることができる。ここで、この絶縁操作棒200でも、中間部分に傘カバー205、206が取り付けられているとともに、全体をプラスチックなどの絶縁材料で作製されることにより絶縁性が確保されており、先端側の傘カバー205がフック210側からの水分を滴下させるとともに、基端側の傘カバー206が安全に作業を行い得る限界位置を示して、作業する際の安全を確保している。
【0029】
さらに、可動部13は、図2に示すように、ベース部材31の両側方に連設されている側面板32の間の空間に、その側面板32の双方の内面近傍まで延在して本体部12の本体側部23に対面する主刃34がそのベース部材31にネジ止めされており、その主刃34の両端辺と側面板32との間にはその側面板32と平行な補助刃35が後述する構造により位置決め固定されている。この主刃34は、可動部13が調整機構14により本体部12の本体上部21に接近すると、その本体上部21の円弧溝21a内に収装されて位置決めされている電線の被覆の本体側部23から離隔する側に平行に切れ込むように設置されている。また、補助刃35は、後述する稼働位置P1(図3を参照)では、可動部13が調整機構14により本体部12の本体上部21に接近すると、その主刃34の両側で、同時に、その電線の被覆に周方向(直交方向)に切り込むように設置されている。
【0030】
また、この可動部13の側面板32は、本体部12の本体上部21の円弧溝21aの両側に対応する箇所の端辺32aが主刃34と補助刃35よりも高くなるように延長されており、その円弧溝21aに対応する位置が電線を収装可能な幅のU字形状に切り欠かれた収装溝32bを形成する。これに対して、その本体部12の本体上部21は、円弧溝21a内に収装して位置決めする電線の被覆のみに、可動部13の主刃34と補助刃35が切り込んでそれ以上に上昇することを制限するストッパ溝25を有しており、主刃34と補助刃35が電線の被覆に切り込み過ぎて導通線を傷つけてしまうことがないようになっている。すなわち、主刃34が第3切断刃を構成する一方、補助刃35が第1、第2切断刃を構成している。
【0031】
一方、本体部12は、本体上部21の円弧溝21aの反対側(本体側部23の背面側)に回動レバー15が立設されており、この回動レバー15の先端側には、調整機構14の縦ハンドル43と同様に、絶縁操作棒200先端のフック210を差込・係合可能に係合リング15aが固設されている。
【0032】
したがって、電線被覆剥取器10は、電線を本体部12の本体上部21の円弧溝21a内に収装して引っ掛けた状態で位置決めした後に、可動部13を本体上部21に接近させる方向に上昇させると、可動部13の側面板32の端辺32a間の収装溝32b内に電線を収装することができる。このとき、可動部13は、電線の被覆に主刃34と補助刃35を切り込ませるとともに、側面板32の端辺32aをストッパ溝25の底面(天井)25aに突き当てて主刃34と補助刃35が電線の被覆のみに切り込む位置で衝止させる。
【0033】
この後に、電線被覆剥取器10は、回動レバー15の係合リング15aに、フック210の鍵の手部211を引っ掛けて下方に牽引したり、そのフック210の横棒部212を挿し込んで上昇させるなどすることにより、本体上部21の円弧溝21aに位置決めされている電線の被覆に可動部13の主刃34と補助刃35を切り込ませた状態のまま、導通線を傷つけることなく、その電線の周囲を周回させることができ、その導通線周りの被覆を剥ぐことができる。
【0034】
そして、本実施形態の補助刃35は、図3および図4に示すように、ベース部材31と側面板32との間で刃先35aを本体側部23に向かって近接・離隔させる方向にスライド自在に設置されており、ベース部材31側に段差部(支持構造)31aが形成されてそのスライド方向に移動する補助刃35の下辺35bを支持するようになっている。また、補助刃35の側面には、側面板32側に突出するピン51が固設されている。これに対して、その側面板32には、ベース部材31の段差部31aに支持されつつスライドする補助刃35を、電線の被覆に刃先35aを切り込ませる稼働位置(切断位置)P1までそのピン51が本体側部23に向かう方向に前進することを許容して位置決めするとともに、反対に、電線の被覆に刃先35aを切り込ませない退避位置P2までそのピン51が本体側部23から離隔する方向に後退することを許容して位置決めする案内穴(移動経路)52が形成されている。この側面板32の案内穴52は、稼働位置P1と退避位置P2との間がベース部材31の段差部31aから離隔する方向、言い換えると、上方に湾曲しており、また、その側面板32のベース部材31側には補助刃35の上辺35cを下方に、言い換えると、ベース部材31の段差部31aに押さえる方向に付勢する板バネ53の一旦部が固設されている。
【0035】
これにより、補助刃35は、ピン51が側面板32の案内穴52内を案内されて稼働位置P1と退避位置P2との間を往復する方向にスライドすることができ、また、この往復移動する際には上方に移動することを板バネ53で制限して稼働位置P1または退避位置P2のいずれか一方側に付勢することができ、ベース部材31の段差部31aで支持されつつ位置決めされるように案内される。また、この補助刃35は、稼働位置P1の刃先35aが電線被覆に切り込む際の負荷は後退方向からその段差部31aに押し付けられる方向に作用するだけであるので位置ずれしてしまうこともない。すなわち、ベース部材31の段差部31a、案内穴52、板バネ53が保持構造を構成している。
【0036】
また、補助刃35は、ピン51の先端部に移動三角駒55が固設されているとともに、側面板32外面の案内穴52の本体側部23側に隣接する位置には、固定三角駒56が固設されており、この移動三角駒55と固定三角駒56は、下方ほど離隔する斜面55a、56a(図5を参照)を有する姿勢になるように設けられている。
【0037】
これにより、補助刃35は、移動三角駒55と固定三角駒56の間に、絶縁操作棒200の先端に取り付けた図11に示すような先端工具60の三角形の先端部61を差し込んで、その斜面55a、56a同士を離隔させる方向の負荷を加えることにより、図5に示すように、ピン51を側面板32の案内穴52内に案内させつつ稼働位置P1から退避位置P2に向かってスライドさせて位置決めすることができる。反対に、この補助刃35は、移動三角駒55と固定三角駒56の互いの背面側に位置する外面55b、56bをヤットコ100の先端部111a、112aで摘むことにより、ピン51を側面板32の案内穴52内に案内させつつ退避位置P2から稼働位置P1に向かってスライドさせて位置決めすることができる。また、この補助刃35は、斜面55a、56a間の隙間の大きさにより稼働位置P1または退避位置P2のいずれに位置するかを遠隔位置から視認することができる。すなわち、移動三角駒55と固定三角駒56は、受圧構造を構成しているとともに、表示手段を構成している。
【0038】
また、可動部13は、図6に示すように、側面板32の外側にストッパ36が一端側を回動軸36aにより回動自在に軸支されており、このストッパ36は、固定三角駒56から離隔する側の移動三角駒55の外側で垂下姿勢になる一方、図7に示すように、反時計回りに回動させることによりその移動三角駒55と固定三角駒56の上部に当接支持させるときに、電線被覆剥取器10の収装溝32b上部に進入して主刃34や補助刃35が不用意に電線の被覆に切り込まないように設けられている。
【0039】
したがって、電線被覆剥取器10は、ストッパ36を収装溝32b上部に進退させて主刃34と補助刃35による電線の被覆の切り込みの要否を選択することができるとともに、ヤットコ100や先端工具60を先端に取り付けた絶縁操作棒200を操作して遠隔位置から補助刃35を単独で稼働位置P1または退避位置P2に移動させて位置決めすることができる。このため、既に導通線を露出している箇所の隣接位置の電線被覆を剥ぐ作業を行うために一方の補助刃35は稼働させる必要がない場合や、いずれの位置にあるのか記憶にない(不安の)場合には、手元まで回収することなく、電線に取り付けた状態のまま電線被覆剥取器10の移動三角駒55と固定三角駒56の位置を確認するだけで補助刃35が稼働位置P1または退避位置P2のいずれに位置するか確認することができ、まだ、稼働位置P1に位置する場合にはそのまま退避位置P2に移動させることができ、反対に、その補助刃35を退避位置P2から稼働位置P1に移動させることもできる。
【0040】
このように本実施形態においては、電線被覆剥取器10を電線に取り付けた状態のまま補助刃35を稼働位置P1と退避位置P2に遠隔位置から操作して位置させることができ、手元に回収する作業を行う際に落下させる恐れをなくして、作業を継続することができる。したがって、無駄な操作を省略して作業負担を格段に軽減しつつ、信頼性高く、電線被覆の切断作業を完了することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
10……電線被覆剥取器 12……本体部 13……可動部 14……調整機構 15……回動レバー 21……本体上部 21a……円弧溝 31……ベース部材 31a……段差部 32……側面板 32b……収装溝 34……主刃 35……補助刃 35a……刃先 36……ストッパ 41……主軸 41a……雄ネジ山 42……雌ネジリング 51……ピン 52……案内穴 53……板バネ 55……移動三角駒 55a、56a……斜面 55b、56b……外面 56……固定三角駒 60……先端工具 61……先端部 100……ヤットコ 101……把持部 111a、112a……先端部 200……絶縁操作棒 P1……稼働位置 P2……退避位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線に引っ掛けた状態にする引掛部と、該引掛部に対して接離することにより前記電線を当該引掛部の間で挟持あるいは解放する接離部と、該接離部の前記電線の延長方向に離隔する位置に取り付けられて一体に同一方向に移動するとともに該電線の延長方向に対して直交する姿勢の刃先が当該電線の被覆に切り込む前記第1、第2切断刃と、該接離部の前記第1、第2切断刃の間に取り付けられて一体に同一方向に移動するとともに前記電線の延長方向と平行な姿勢の刃先が当該電線の被覆に切り込む第3切断刃と、を具備して、前記引掛部と前記接離部の間の離隔間隔を調整して前記電線を互いの間に内装する状態にしたまま該電線の周囲を周回させることにより前記第1〜第3切断刃が該電線の被覆を周方向および平行に切り込んで該被覆を当該電線の導通線から剥ぎ取る電線被覆剥取器であって、
前記電線の被覆に刃先が切り込む切断位置と該被覆に刃先が届かない退避位置との間を往復移動自在に前記第1、第2切断刃を支持する支持構造と、前記切断位置と前記退避位置のそれぞれに前記第1、第2切断刃を位置決め保持する保持構造と、遠隔位置からの付勢力を受けて前記切断位置または前記退避位置に前記第1、第2切断刃を移動させる受圧構造と、を当該第1、第2切断刃毎に備えていて別個に機能させることができることを特徴とする電線被覆剥取器。
【請求項2】
前記支持構造は、前記切断位置と前記退避位置との間の前記第1、第2切断刃の移動経路を備えており、
該移動経路は、前記第1、第2切断刃が当該移動経路外にずれることを制限する構造に形成されているとともに、前記電線被覆の切断時の周回方向に対する後退位置に前記切断位置が配置されて該周回方向に対する進行方向に向かう方向に前記切断位置と前記退避位置との間の経路が連続していることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆剥取器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−165507(P2012−165507A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22319(P2011−22319)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】