説明

電線被覆材および電線

【課題】絶縁性、耐熱性のみならず、耐衝撃性及び耐水トリー性に優れる電線被覆材、及び劣化しにくい電線を提供する。
【解決手段】2−ノルボルネン又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を開環重合して得られる開環重合体の、炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化して得られるノルボルネン系開環重合体水素化物であって、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%、置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位の全繰り返し単位に対する存在割合が0〜10重量%であり、かつ、融点が110〜145℃の範囲であるノルボルネン系開環重合体水素化物を含有する電線被覆材、並びに、導体上に、直接またはその他の層を介して、絶縁層を有する電線であって、前記絶縁層が前記電線被覆材によって構成される電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系開環重合体水素化物を含有してなる電線被覆材、及び、導体上に、この電線被覆材によって構成された絶縁体層を有する電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力ケーブル等の電線の絶縁体層を形成する電線被覆材として架橋ポリエチレンが広く使用されている。架橋ポリエチレンは、絶縁性、耐熱性、耐衝撃性等に優れるものである。
【0003】
しかし、架橋ポリエチレンからなる絶縁体層は耐水トリー性に乏しく、湿潤又は浸水雰囲気で長期間課電されると、その内部に水トリー(絶縁体層中の水分と電界の共存下で絶縁層に樹脂枝状に亀裂が生じる現象)を生じて、絶縁破壊に至ってしまうという問題があった。
【0004】
この問題を解決すべく、特許文献1には、導体外周にアモルファスポリオレフィン(電線被覆材)からなる絶縁体層を設けてなる電力ケーブルが提案されている。そこでは、アモルファスポリオレフィンの具体例として特定のノルボルネン系開環重合体が示されており、これを絶縁体層の形成に用いることによって、耐水トリー性に優れる電力ケーブルが得られると記載されている。
【0005】
また特許文献2には、ジシクロペンタジエン等の特定の環状オレフィン系重合体を含有してなる電線被覆材が開示されている。この文献に記載の電線被覆材は、耐水トリー性に加え、耐屈曲性、柔軟性等にも優れるとされている。
【0006】
しかしながら、これらの文献記載の電線被覆材は、まだなお耐水トリー性が十分ではなく、湿潤又は浸水雰囲気で長期間課電された場合に、水トリーが発生して絶縁体層が劣化するのを十分に防止することができなかった。また、耐衝撃性も十分ではなく、これらの文献に記載された電線被覆材を用いた電線が上空から落下した場合等において、クラックが発生しやすいという問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開平5−166418号公報
【特許文献2】特開平11−189743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、絶縁性及び耐熱性はもちろんのこと、耐水トリー性及び耐衝撃性にも優れる電線被覆材、並びに、導体上に、直接又はその他の層を介して、前記電線被覆材によって絶縁体層が構成された電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、2−ノルボルネン、又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を開環重合し、次いで水素化して得られるノルボルネン系開環重合体水素化物であって、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)、及び置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位(B)の存在割合が特定範囲にあり、かつ、特定の融点を有するノルボルネン系開環重合体水素化物を用いることにより、絶縁性、耐熱性、耐水トリー性及び耐衝撃性のすべてに優れる電線被覆材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明の第1によれば、2−ノルボルネン、又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を開環重合して得られる開環重合体の、炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化することにより得られるノルボルネン系開環重合体水素化物であって、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%、置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位(B)の全繰り返し単位に対する存在割合が0〜10重量%であり、かつ、融点が110〜145℃の範囲であるノルボルネン系開環重合体水素化物を含有することを特徴とする電線被覆材が提供される。
【0011】
本発明の電線被覆材においては、前記ノルボルネン系開環重合体水素化物が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算での重合平均分子量が、50,000〜200,000であり、かつ、分子量分布が1.5〜5.0の高分子であるのが好ましい。
【0012】
本発明の第2によれば、導体上に、直接又はその他の層を介して、絶縁体層を有する電線であって、前記絶縁体層が本発明の電線被覆材によって構成されたものであることを特徴とする電線が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁性及び耐熱性のみならず、耐水トリー性及び耐衝撃性にも優れる電線被覆材が提供される。
本発明の電線は耐水トリー性に優れる絶縁体層を有し、しかも耐衝撃性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を、1)電線被覆材、及び、2)電線に項分けして詳細に説明する。
1)電線被覆材
本発明の電線被覆材は、2−ノルボルネン、又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を開環重合して得られる開環重合体の、炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化することにより得られるノルボルネン系開環重合体水素化物であって、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%で、置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位(B)の全繰り返し単位に対する存在割合が0〜10重量%であり、かつ、融点が110〜145℃の範囲であるノルボルネン系開環重合体水素化物を含有することを特徴とする。
【0015】
(ノルボルネン系開環重合体水素化物)
本発明に用いるノルボルネン系開環重合体水素化物は、(i)2−ノルボルネンを、メタセシス重合触媒の存在下に開環重合することにより、2−ノルボルネン単独開環重合体を得た後、得られる開環重合体の炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化して得られるものであるか、(ii)2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を、メタセシス重合触媒の存在下に開環重合することにより、2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体の開環共重合体を得た後、得られる開環共重合体の炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化して得られるものである。
【0016】
2−ノルボルネンは、公知の化合物であり、例えば、シクロペンタジエンとエチレンとを反応させることにより得ることができる。
【0017】
置換基含有ノルボルネン系単量体は、分子内にノルボルネン骨格を有する化合物である(ただし、2−ノルボルネンを除く)。本発明に用いる「置換基含有ノルボルネン系単量体」には、置換基を有する2−ノルボルネン誘導体のほか、縮合した環を有するノルボルネン化合物も含まれる。
【0018】
置換基含有ノルボルネン系単量体としては、分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体、及び3環以上の多環式ノルボルネン系単量体等が挙げられる。
【0019】
前記分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体の具体例としては、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−ヘキシルノルボルネン、5−デシルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−シクロペンチルノルボルネン等のアルキル基を有するノルボルネン類;5−エチリデンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−プロペニルノルボルネン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、5−シクロペンテニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;5−フェニルノルボルネン等の芳香環を有するノルボルネン類;5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル−2−メチルプロピオネイト、ノルボルネニル−2−メチルオクタネイト、5−ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5−ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5−ヒドロキシイソプロピルノルボルネン、5,6−ジカルボキシノルボルネン、5−メトキシカルボニル−6−カルボキシノルボルネン、等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;5−シアノノルボルネン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;等が挙げられる。
【0020】
3環以上の多環式ノルボルネン系単量体とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環と縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン系単量体である。その具体例としては、下記に示す式(1)又は式(2)で示される単量体が挙げられる。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の二価の炭化水素基である。)
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよい。mは1又は2である。)
【0025】
式(1)で示される単量体としては、具体的には、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン等を挙げることができる。また、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロ−9H−フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ−4,6,8,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9,9a,10−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、等の芳香環を有するノルボルネン誘導体も挙げることができる。
【0026】
式(2)で示される単量体としては、mが1であるテトラシクロドデセン類、mが2であるヘキサシクロヘプタデセン類が挙げられる。
【0027】
テトラシクロドデセン類の具体例としては、テトラシクロドデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8−シクロペンチルテトラシクロドデセン等の無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8−メチリデンテトラシクロドデセン、8−エチリデンテトラシクロドデセン、8−ビニルテトラシクロドデセン、8−プロペニルテトラシクロドデセン、8−シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8−シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8−フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8−カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン−8,9−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8−トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類等が挙げられる。
【0028】
ヘキサシクロヘプタデセン類の具体例としては、ヘキサシクロヘプタデセン、12−メチルヘキサシクロヘプタデセン、12−エチルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセン等の無置換又はアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12−ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12−プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12−シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセン等の環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−フェニルヘキサシクロヘプタデセン等の芳香環を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−メチル−12−メトキシカルボニルヘキサシクロヘプタデセン、12−ヒドロキシメチルヘキサシクロヘプタデセン、12−カルボキシヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−シアノヘキサシクロヘプタデセン、ヘキサシクロヘプタデセン12,13−ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−クロロヘキサシクロヘプタデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12−トリメトキシシリルヘキサシクロヘプタデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するヘキサシクロヘプタデセン類等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
本発明においては、上記した2−ノルボルネン及び/又は置換基含有ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体とを組み合わせて用いることもできる。
【0030】
2−ノルボルネン及び/又は置換基含有ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン等の環状ジエン及びその誘導体;等が挙げられる。
【0031】
2−ノルボルネン、又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物の組成は、2−ノルボルネンが、通常、90〜100重量%、好ましくは95〜99重量%、より好ましくは97〜99重量%であり、置換基含有ノルボルネン系単量体は、通常、0〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。
【0032】
メタセシス重合触媒としては、例えば、特公昭41−20111号公報、特開昭46−14910号公報、特公昭57−17883号公報、特公昭57−61044号公報、特開昭54−86600号公報、特開昭58−127728号公報、特開平1−240517号公報等に記載された、本質的に(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分からなる一般のメタセシス重合触媒;シュロック型重合触媒(特開平7−179575号公報、Schrock et al.,J.Am.Chem.Soc.,1990年,第112巻,3875頁〜等)や、グラブス型重合触媒(Fu et al.,J.Am.Chem.Soc.,1993年,第115巻,9856頁〜;Nguyen et al.,J.Am.Chem.Soc.,1992年,第114巻,3974頁〜;Grubbs et al.,WO98/21214号パンフレット等)等のリビング開環メタセシス触媒;等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、得られる重合体の分子量分布を好適な範囲に調節するには、(a)遷移金属化合物触媒成分と(b)金属化合物助触媒成分とからなるメタセシス重合触媒が好ましい。
【0034】
前記(a)遷移金属化合物触媒成分は、周期律表第3〜11族の遷移金属の化合物である。例えば、これらの遷移金属のハロゲン化物、オキシハロゲン化物、アルコキシハロゲン化物、アルコキシド、カルボン酸塩、(オキシ)アセチルアセトネート、カルボニル錯体、アセトニトリル錯体、ヒドリド錯体、これらの誘導体、これら又はこれらの誘導体のP(C等の錯化剤による錯化物が挙げられる。
【0035】
具体例としては、TiCl、TiBr、VOCl、WBr、WCl、WOCl、MoCl、MoOCl、WO、HWO等が挙げられる。なかでも、重合活性等の点から、W、Mo、Ti、又はVの化合物が好ましく、特にこれらのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、又はアルコキシハロゲン化物が好ましい。
【0036】
前記(b)金属化合物助触媒成分は、周期律表第1〜2族、及び第12〜14族の金属の化合物で少なくとも一つの金属元素−炭素結合、又は金属元素−水素結合を有するものである。例えば、Al、Sn、Li、Na、Mg、Zn、Cd、B等の有機化合物等が挙げられる。
【0037】
具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等の有機アルミニウム化合物;テトラメチルスズ、ジエチルジメチルスズ、テトラブチルスズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ化合物;n−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物;n−ペンチルナトリウム等の有機ナトリウム化合物;メチルマグネシウムイオジド等の有機マグネシウム化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジエチルカドミウム等の有機カドミウム化合物;トリメチルホウ素等の有機ホウ素化合物;等が挙げられる。これらの中で、第13族の金属の化合物が好ましく、特にAlの有機化合物が好ましい。
【0038】
また、前記(a)成分、(b)成分の他に第三成分を加えて、メタセシス重合活性を高めることができる。用いる第三成分としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、分子状酸素、アルコール、エーテル、過酸化物、カルボン酸、酸無水物、酸クロリド、エステル、ケトン、含窒素化合物、含ハロゲン化合物、その他のルイス酸等が挙げられる。
【0039】
これらの成分の配合比は、(a)成分:(b)成分が金属元素のモル比で、通常、1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:10の範囲である。また、(a)成分:第三成分がモル比で、通常、1:0.005〜1:50、好ましくは1:1〜1:10の範囲である。
【0040】
また、重合触媒の使用割合は、(重合触媒中の遷移金属):(全単量体)のモル比で、通常、1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:1,000〜1:20,
000、より好ましくは1:5,000〜1:8,000である。触媒量が多すぎると重合反応後の触媒除去が困難になったり、また、分子量分布が広がるおそれがあり、一方、少なすぎると十分な重合活性が得られない。
【0041】
開環重合は無溶媒で行うこともできるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。
用いる有機溶媒としては、重合体及び重合体水素化物が所定の条件で溶解もしくは分散し、かつ、重合及び水素化反応に影響しないものであれば特に限定されないが、工業的に汎用されている溶媒が好ましい。
【0042】
このような有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデンシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類等の溶媒を使用することができる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
これらの中でも、工業的に汎用されている芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及びエーテル類が好ましい。
【0044】
重合を有機溶媒中で行う場合には、2−ノルボルネン及び所望により2−ノルボルネンと開環共重合可能なその他の単量体、又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物、並びに所望によりこれらと開環共重合可能なその他の単量体(以下、これらをまとめて「単量体」ということがある。)の濃度は、1〜50重量%が好ましく、2〜45重量%がより好ましく、3〜40重量%が特に好ましい。前記単量体の濃度が1重量%より小さいと生産性が低くなるおそれがあり、50重量%より大きいと重合後の溶液粘度が高すぎて、その後の水素化反応が困難となるおそれがある。
【0045】
開環重合においては、反応系に分子量調節剤を添加することができる。分子量調節剤を添加することで、得られる開環重合体の分子量を調整することができる。
【0046】
用いる分子量調節剤としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィン類;スチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエーテル類;アリルクロライド等のハロゲン含有ビニル化合物;グリシジルメタクリレート等酸素含有ビニル化合物;アクリルアミド等の窒素含有ビニル化合物;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン等の非共役ジエン、又は1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン等を挙げることができる。これらの中で、分子量調節のし易さから、α−オレフィン類が好ましい。
【0047】
分子量調節剤の添加量は、所望の分子量を持つ重合体を得るに足る量であればよく、(分子量調節剤):(全単量体)のモル比で、通常、1:50〜1:1,000,000、好ましくは1:100〜1:5,000、より好ましくは1:300〜1:3,000である。
【0048】
開環重合は、単量体と重合触媒とを混合することにより開始される。
開環重合を行う温度は、特に限定されないが、通常−20〜+100℃、好ましくは10〜80℃である。開環重合を行う温度が低すぎると反応速度が低下し、高すぎると副反応により、分子量分布が広がるおそれがある。
重合時間は、特に制限はなく、通常1分間から100時間である。
重合時の圧力条件は特に限定されないが、通常、0〜1MPaの加圧下で重合を行う。
【0049】
反応終了後においては、通常の後処理操作により目的とするノルボルネン系開環重合体を単離することができる。
【0050】
得られたノルボルネン系開環重合体は、次の水素化反応工程へ供される。
また後述するように、開環重合を行った反応溶液に水素化触媒を添加して、ノルボルネン系開環重合体を単離することなく、連続的に水素化反応を行うこともできる。
【0051】
ノルボルネン系開環重合体の水素化反応は、ノルボルネン系開環重合体の主鎖及び/又は側鎖に存在する炭素−炭素二重結合に水素化する反応である。この水素化反応は、ノルボルネン系開環重合体の不活性溶媒溶液に水素化触媒を添加し、反応系内に水素を供給して行う。
【0052】
水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化に際して一般に使用されているものであれば、均一系触媒、不均一系触媒のいずれも使用することができる。得られる重合体中の残留金属の除去等を考慮すると、不均一系触媒が好ましい。
【0053】
均一系触媒としては、例えば、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の組み合わせ等の遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒系;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
【0054】
不均一触媒としては、例えば、ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、又はこれらの金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させた固体触媒系が挙げられる。
【0055】
水素化触媒の使用量は、ノルボルネン系開環重合体100重量部に対し、通常、0.05〜10重量部である。
【0056】
水素化反応に用いる不活性有機溶媒としては、前述した2−ノルボルネンと置換基含有ノルボルネン系単量体との開環重合において用いることができる有機溶媒として例示したものと同様の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン系芳香族炭化水素、含窒素炭化水素、エーテル類等が挙げられる。
【0057】
水素化反応の温度は、使用する水素化触媒によって適する条件範囲が異なるが、水素化温度は、通常、−20℃〜+300℃、好ましくは0℃〜+250℃である。水素化温度が低すぎると反応速度が遅くなるおそれがあり、高すぎると副反応が起こる可能性がある。
【0058】
水素圧力は、通常、0.01〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。水素圧力が低すぎると水素化速度が遅くなり、高すぎると高耐圧反応装置が必要となるので好ましくない。
【0059】
ノルボルネン系開環重合体水素化物(以下、「開環重合体水素化物」ということがある)は、重合体中の炭素−炭素二重結合の水素化率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上である。上記の範囲にあると、得られる電線被覆層は耐水トリー性、耐熱性、及び機械的特性に優れる。
【0060】
開環重合体水素化物の水素化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、1H−NMRにより測定して求めることができる。
【0061】
水素化反応終了後は、反応溶液から水素化触媒等を濾別し、濾別後の重合体溶液から溶媒等の揮発成分を除去することにより、目的とする開環重合体水素化物を得ることができる。
【0062】
溶媒等の揮発成分を除去する方法としては、凝固法や直接乾燥法等公知の方法を採用することができる。
凝固法は、重合体溶液を重合体の貧溶媒と混合することにより、重合体を析出させる方法である。用いる貧溶媒としては、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;等の極性溶媒が挙げられる。
【0063】
凝固して得られた粒子状の成分は、例えば、真空中又は窒素中若しくは空気中で加熱して乾燥させて粒子状にするか、さらに必要に応じて溶融押出機から押し出してペレット状にすることができる。
【0064】
直接乾燥法は、重合体溶液を減圧下加熱して溶媒を除去する方法である。この方法には、遠心薄膜連続蒸発乾燥機、掻面熱交換型連続反応器型乾燥機、高粘度リアクタ装置等の公知の装置を用いて行うことができる。真空度や温度はその装置によって適宜選択され、限定されない。
【0065】
以上のようにして得られる開環重合体水素化物の2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)の全繰り返し単位に対する存在割合は、90〜100重量%、好ましくは95〜99重量%、より好ましくは97〜99重量%であり、置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位(B)の全繰り返し単位に対する存在割合は、0〜10重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%である。
【0066】
繰り返し単位(B)の存在割合が上記範囲であると、電線被覆材の耐水トリー性に優れ、機械的特性にも優れ好ましい。繰り返し単位(B)の存在割合が多すぎると、電線被覆材の耐水トリー性や耐熱性が悪化するおそれがある。一方、繰り返し単位(B)の存在割合が少なすぎると、電線被覆層の機械的特性が低下するおそれがある。
【0067】
得られる開環重合体水素化物は、その重量平均分子量(Mw)が、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算で、通常、50,000〜200,000、好ましくは70,000〜180,000、より好ましくは80,000〜150,000である。
【0068】
Mwが前記範囲にあると、機械的特性に優れた電線被覆層が得られる。一方、Mwが高すぎると、電線被覆層の成形性が悪化するおそれがある。また、Mwが低すぎると、電線被覆層の機械的特性が低下するおそれがあり、開環重合体水素化物が溶剤から析出し易くなり、ポリマー精製が困難になるおそれがある。
【0069】
開環重合体水素化物は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される分子量分布(Mw/Mn)が、通常1.5〜5.0、好ましくは1.5〜4.5、より好ましくは2.0〜4.0、さらに好ましくは2.5〜4.0、特に好ましくは2.5〜3.5である。
Mw/Mnが狭すぎると、該重合体の温度に対する溶融粘度が敏感に変化し易くなるため、電線被覆層の成形性が悪化するおそれがある。また、Mw/Mnが広すぎると、電線被覆層の機械的特性が低下するおそれがある。
【0070】
ちなみに、Mnは1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算として測定した数平均分子量である。
【0071】
開環重合体水素化物の融点は、110〜145℃、好ましくは120〜145℃、より好ましくは、130℃〜145℃である。上記の範囲にあると、電線被覆層の耐熱性に優れるため好ましい。
【0072】
ちなみに、開環重合体水素化物の融点は、開環重合体水素化物の分子量、分子量分布、異性化率、組成比等により変化する。
【0073】
開環重合体水素化物の異性化率は、通常、0〜40%、好ましくは0〜20%、より好ましくは1〜10%、特に好ましくは3〜9%である。
【0074】
異性化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、13C−NMRにより測定した33.0ppmピーク積分値/(31.8ppmピーク積分値+33.0ppmピーク積分値)×100から算出することができる。
【0075】
ちなみに、31.8ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のシス体由来のもの、33.0ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のトランス体由来のものである。
【0076】
本発明では、開環重合により、実質的にシス体である開環重合体を合成し、これを水素化して開環重合体水素化物とすることが好ましい。水素化反応の際に、通常、トランス体への異性化が生じるが、この異性化を抑制して、トランス体の含有量を低く抑えることが好ましい。
【0077】
開環重合体水素化物の異性化率が高すぎると、耐熱性が低下するおそれがある。一方、異性化率が低すぎると、開環重合体水素化物の有機溶剤に対する溶解性が低下し、析出するおそれがある。そのため、開環重合体水素化物の異性化率は、0%であってもよいが、10%以下の範囲内である程度の異性化率を示すものであることが好ましい。
【0078】
異性化率を上記範囲にするためには、開環重合体の水素化反応において、反応温度を好ましくは120〜170℃、より好ましくは130〜160℃とし、かつ、使用する水素化触媒の使用量を、開環重合体100重量部に対し、好ましくは0.2〜5重量部、より好ましくは0.2〜1重量部とする。
【0079】
用いる開環重合体水素化物は、異物が少ないことが好ましい。電線の絶縁体層中の金属残渣や異物等は、トリー発生の要因になるおそれがある。重合反応後又は水素化反応後に、孔径が0.2μm以下のフィルターにて重合体溶液を濾過することによって金属残査や異物等を精密に取り除くことができる。
【0080】
本発明の電線被覆材は、上記開環重合体水素化物の一種又は二種以上を含有するものであるが、必要に応じて、酸化防止剤(安定剤)、架橋剤、発泡剤、難燃剤、熱可塑性樹脂や軟質重合体等のその他の重合体、滑剤等の配合剤を含有していてもよい。
なお、本発明の電線被覆材を構成する重合体全体に対して、開環重合体水素化物の割合は、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0081】
酸化防止剤を配合すると機械的強度が低下しにくい電線被覆材を得ることができる。
酸化防止剤としては、特に制限はなく、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤が挙げられる。
【0082】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−第3アミル−6−(1−(3,5−ジ−第3アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等の特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系フェノール化合物;
【0083】
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メタン、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン〔すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)〕、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)、トコフェノール等のアルキル置換フェノール系化合物;
【0084】
6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、6−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物;等が挙げられる。
【0085】
リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン等のモノホスファイト系化合物;
【0086】
4,4'−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4'−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)、4,4'−イソプロピリデン−ビス(ジフェニルモノアルキル(C12〜C15)ホスファイト)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4'−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニルホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。
【0087】
イオウ系酸化防止剤は、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が挙げられる。
【0088】
ラクトン系酸化防止剤は、ラクトン構造を含む化合物ものであれば特に限定はされない。中でも、芳香族系のラクトン化合物が好ましく、ベンゾフラノン骨格を有するものがより好ましく、アリール基を置換基としてフラン環の側鎖に有する3−アリールベンゾフラン−2−オンがさらに好ましい。一例として5,7−ジ−第三ブチル−3−(3、4−ジ−メチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オンが挙げられる。
【0089】
本発明に用いる酸化防止剤としては、これらの中でも、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。更に、成形時の揮発を防止するため、20℃における蒸気圧が10-6Pa以下のものが望ましい。
【0090】
酸化防止剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸化防止剤の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲において適宜決定すればよいが、開環重合体水素化物100重量部に対して、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.005〜5重量部の範囲である。
【0091】
架橋剤は、電線被覆材中の開環重合体水素化物を架橋させ、耐熱性及び耐衝撃性の向上を目的として添加される。
本発明において用いることができる架橋剤としては、例えば、(i)有機過酸化物、(ii)熱により効果を発揮する架橋剤、及び(iii)光により効果を発揮する架橋剤等が挙げられる。
【0092】
(i)有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、4,4’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキシド類;オクタノイルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;パーオキシジカーボネート等のパーオキシエステル類;が挙げられる。
【0093】
これらの中でも、分解温度が高く、耐熱性に優れる、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類等が好ましく、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキシド等が特に好ましい。
【0094】
(ii)熱により効果を発揮する架橋剤は、加熱によって架橋反応させうる架橋剤であれば特に限定されない。例えば、ジアミン、トリアミン又はそれ以上の脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミンビスアジド、酸無水物、ジカルボン酸、多価フェノール、ポリアミド等が挙げられる。
【0095】
具体的には、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、等の脂肪族ポリアミン;ジアミノシクロヘキサン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン;1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、メンセンジアミン、イソホロンジアミンN−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環族ポリアミン;4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、メタフェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン類;4,4−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチル−シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2’−ジアジドスチルベン等のビスアジド;無水フタル酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性環状オレフィン樹脂等の酸無水物類;フマル酸、フタル酸、マレイン酸、トリメリット酸、ハイミック酸等のジカルボン酸類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等の多価フェノール類;トリシクロデカンジオール、ジフェニルシランジオール、エチレングリコール及びその誘導体、ジエチレングリコール及びその誘導体、トリエチレングリコール及びその誘導体等の多価アルコール類;ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−11、ナイロン−612、ナイロン−12、ナイロン−46、メトキシメチル化ポリアミド、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド等のポリアミド類;等が挙げられる。
【0096】
また、硬化速度の調整を行ったり、架橋反応の効率をさらに良くする目的で、さらに硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、ピリジン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、イミダゾール類等のアミン類等が挙げられる。これらの中でも、誘電特性に優れることから、イミダゾール類が好ましい。
【0097】
硬化促進剤の配合量は、通常、架橋剤100重量部に対して、通常0〜100重量部、好ましくは10〜80重量部の範囲である。配合量がこの範囲にあるときに、架橋密度と、誘電特性、吸水率等が高度にバランスされて好適である。
【0098】
(iii)光により効果を発揮する架橋剤は、g線、h線、i線等の紫外線、遠紫外線、x線、電子線等の活性光線の照射により、開環重合体水素化物と反応し、架橋化合物を生成する光反応性物質であれば特に限定されない。例えば、芳香族ビスアジド化合物、光アミン発生剤、光酸発生剤等が挙げられる。
【0099】
芳香族ビスアジド化合物としては、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルフォン、4,4’−ジアジドベンゾフェノン、4,4’−ジアジドジフェニル、2,7−ジアジドフルオレン、4,4’−ジアジドフェニルメタン等が挙げられる。
【0100】
光アミン発生剤としては、芳香族アミンあるいは脂肪族アミンのo−ニトロベンジロキシカルボニルカーバメート、2,6−ジニトロベンジロキシカルボニルカーバメート、α,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジロキシカルボニルカーバメート体等が挙げられる。具体的には、アニリン、シクロヘキシルアミン、ピペリジン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラアミン、1,3−(ジアミノメチル)シクロヘキサン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等のo−ニトロベンジロキシカルボニルカーバメート体が挙げられる。
【0101】
光酸発生剤とは、活性光線の照射によって解裂して、ブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成する物質である。光酸発生剤としては、例えば、オニウム塩、ハロゲン化有機化合物、キノンジアジド化合物、α,α−ビス(スルホニル)ジアゾメタン系化合物、α−カルボニル−α−スルホニル−ジアゾメタン系化合物、スルホン化合物、有機酸エステル化合物、有機酸アミド化合物、有機酸イミド化合物等が挙げられる。
【0102】
これらの架橋剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
架橋剤の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲において適宜決定すればよいが、開環重合体水素化物との反応を効率良く行わしめ、且つ得られる架橋樹脂の物性を損なわないこと及び経済性等の面から、開環重合体水素化物100重量部に対して、通常0〜30重量部、好ましくは1〜20重量部の範囲である。この範囲で架橋剤を用いることにより、十分な耐熱性、耐溶剤性を得ることができる。架橋剤の配合量が多すぎると、架橋した樹脂の吸水性、誘電特性等の特性が低下するため好ましくない。
【0103】
発泡剤は、特に通信ケーブル、コンピューター用同軸ケーブル、高周波ケーブル等のように、低誘電率、低誘電正接を要求する電線に使用する場合に添加される。
【0104】
発泡剤としては、特に限定されないが、例えば、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等の無機発泡剤;N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミド等のニトロソ化合物;アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ化合物;ベンゼンスルホニルヒドラジド、p,p−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ベンゼン−1,3−ジスルホニルヒドラジドと塩化パラフィンの混合物、トルエンスルホニルヒドラジド及びその誘導体等のスルホニルヒドラジド;p−トルエンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジノトリアジン、亜鉛−アミン錯化合物等のその他の発泡剤;等が挙げられる。
【0105】
ジニトロソペンタメチレンテトラミン等を使用する場合には、その分解を助成し、分解温度を下げる目的で、発泡助剤を添加することができる。発泡助剤としては、サリチル酸等の有機酸や、尿素等が挙げられる。
【0106】
難燃剤は、高圧電力ケーブル等の大量の電流が流れる電線に使用する場合に添加するのが好ましい。
難燃剤としては、特に制約はないが、硬化剤によって分解、変性、変質しないものが好ましい。通常、ハロゲン系難燃剤が用いられる。
【0107】
ハロゲン系難燃剤としては、塩素系及び臭素系の種々の難燃剤が使用可能である。その具体例としては、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモエチルベンゼン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモジフェニル、オクタブロモナフタレン等の臭素化芳香族炭化水素類;ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、トリブロモフェニルグリシジルエーテル、エチレンビストリブロモフェニルエーテル、エチレンビスペンタブロモフェニルエーテル、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン等の臭素化フェニルエーテル類;ペンタブロモシクロヘキサン、ヘキサブロモシクロドデカン等の臭素化脂環式炭化水素類;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)等のテトラブロモビスフェノールA類;テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)等のテトラブロモビスフェノールS類;テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモフタルイミド、エチレンビステトラブロモフタルイミド等のテトラブロモ無水フタル酸類;エチレンビス(5,6−ジブロモノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド)等のイミド類;トリス−(2,3−ジブロモプロピル−1)−イソシアヌレート等のイソシアヌレート類;ヘキサクロロシクロペンタジエンのディールス・アルダー反応の付加物;トリブロモフェニルアクリレート等のアクリレート類;臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキサイド、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート、ポリペンタブロモベンジルアクリレート等の臭素化ポリマー;ビス(トリブロモフェニル)フマルアミド等のアミド類;N−メチルヘキサブロモジフェニルアミン等のアミン類;等の使用が好ましい。
【0108】
難燃剤の添加量は、開環重合体水素化物100重量部に対して、通常0〜150重量部、好ましくは10〜140重量部、特に好ましくは15〜120重量部である。
【0109】
難燃剤の難燃化効果をより有効に発揮させるために、難燃助剤を添加してもよい。難燃助剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、三塩化アンチモン等のアンチモン系難燃助剤等が挙げられる。
【0110】
難燃助剤の添加量は、難燃剤100重量部に対して、通常0〜30重量部、好ましくは2〜20重量部である。
【0111】
熱可塑性樹脂や軟質重合体等のその他の重合体は、機械特性及び成形加工性の向上を目的として添加される。
【0112】
熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン−6、ナイロン6,6等のポリアミド;エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0113】
軟質重合体としては、特に限定されず、少なくとも1つのTgが40℃以下の重合体であればよい。例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンランダム共重合体等の、芳香族ビニルモノマーと共役ジエン系モノマーのランダム又はブロック共重合体及びその水素添加物;ポリイソプレンゴム;エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、α−オレフィン−ジエン共重合体、ジエン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、イソブチレン−ジエン共重合体等のジエン系共重合体;ノルボルネン系単量体とエチレン又はα−オレフィンの共重合体、ノルボルネン系単量体とエチレンα−オレフィンの3元共重合体、ノルボルネン系単量体の開環重合体等のノルボルネン系ゴム質重合体;等が挙げられる。
【0114】
これらのその他の重合体は、それぞれ一種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0115】
滑剤は、成形性の改良等を目的として使用される。
滑剤としては、多価アルコールの部分エステル、多価アルコールのフルエステル(多価アルコールのアルコール性水酸基の95%以上がエステル化されたもの)、高級飽和アルコール、多価アルコールの部分エーテル等が挙げられる。これらの中でも、多価アルコールのフルエステルが好ましく、多価アルコールとOH基含有高級飽和脂肪酸とのフルエステル、及び高級飽和アルコールが特に好ましい。更に、成形時の揮発を防止するため、20℃における蒸気圧が10−6Pa以下のものが望ましい。
【0116】
滑剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、開環重合体水素化物100重量部に対して、通常0〜10重量部、好ましくは0〜5重量部、より好ましくは0〜3重量部、特に好ましくは0〜1重量部である。
【0117】
なお、本発明の電線被覆材に添加できる配合剤は、上記に例示したものに限られない。例えば、染料、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、ワックス等の樹脂工業分野で通常使用されるその他の配合剤を、必要に応じて用いることができる。
【0118】
また、本発明の電線被覆材には、従来用いられている絶縁被覆材料を配合してもよい。従来用いられている絶縁被覆材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの架橋物等が挙げられる。本発明の電線被覆材にこれらの絶縁被覆材料を任意の配合比にてブレンドすることによって、耐久性、耐熱性、加工性等を改良することができる。
【0119】
本発明の電線被覆材は、開環重合体水素化物の一種若しくは二種以上か、又は開環重合体水素化物の一種若しくは二種以上に、上記配合剤を混合して得られる樹脂組成物のいずれかである。
【0120】
開環重合体水素化物に上記配合剤を混合して樹脂組成物を調製する方法としては、特に制約はないが、開環重合体水素化物と配合剤を、単軸押出機、2軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等の混練機によって溶融混合する方法が挙げられる。
【0121】
配合剤と混合する際の開環重合体水素化物は、開環重合体水素化物を含む反応液から単離したものであっても、前記反応液から不溶物を濾過した溶液のものであっても、濾過前の反応溶液のものであってもよい。また、配合剤は、それぞれ適当な溶媒に溶解したものであってもよい。開環重合体水素化物の溶液及び/又は配合剤の溶液は、必要に応じて加熱して用いてもよい。
【0122】
以上のようにして、開環重合体水素化物、又は開環重合体水素化物に配合剤が添加された樹脂組成物からなる本発明の電線被覆材を得ることができる。
本発明の電線被覆材は、通常、成形時に取り扱いやすいようにペレットと呼ばれる米粒程度の大きさに加工されて使用に供される。
【0123】
本発明の電線被覆材は、絶縁性及び耐熱性はもちろんのこと、耐衝撃性及び耐水トリー性にも優れる。そのため、電線の絶縁体層の形成用材料として好適に用いることができる。
【0124】
本発明の電線被覆材が耐衝撃性に優れることは、例えば、後述するように、本発明の電線被覆材を用いて電線被覆層(絶縁体層)を形成した電線を製造し、該電線を長さ10cmにカットし、20本束ねてビニールテープで固定し、3m上空から垂直落下させ、落下後の電線に生じたクラックの有無を1本ずつ顕微鏡で観察し、クラックが生じた電線の数を調べることで確認することができる。この試験においてクラックは確認されない。
【0125】
本発明の電線被覆材が耐水トリー性に優れることは、例えば、後述するように、本発明の電線被覆材を用いて電線被覆層を形成した電線を製造し、該電線を80℃の温水中に浸漬し、1KHz、38KVの電圧を60日間印加した後、解体して電線被覆層を取り出し、電線被覆層より厚さ0.5mmの試験片を採取し、電子顕微鏡(倍率50倍)を用いて試験片の水トリーの発生数を調べることで確認することができる。この試験において水トリーは発生し難い。
【0126】
2)電線
本発明の電線は、導体上に、直接又はその他の層を介して、絶縁体層を有する電線であって、前記絶縁体層が本発明の電線被覆材によって構成されたものであることを特徴とする。
【0127】
その他の層としては、内部半導電層が挙げられる。内部半導電層は、電線被覆層(絶縁体層)内部の電界分布を一様にして電界の局部集中による絶縁破壊を防止するものである。
【0128】
本発明の電線の構成は、導体上に、直接又はその他の層を介して、本発明の電線被覆材によって形成された絶縁体層を有するものであれば、特に制約はない。本発明の電線の構成例を図1に示す。
【0129】
図1において、(a)は、導体1とその上の絶縁体層2を有する電線の断面図であり、(b)は、導体1とその上に設けられた内部半導電層3及びその外周に設けられた絶縁体層2を有する電線の断面図であり、(c)は、導体1とその上の内部半導電層3、その外周の絶縁体層2及びその上の外部半導電層4を有する電線の断面図である。なお、ここで、外部半導電層も、内部半導電層と同様に、絶縁体層内部の電界分布を一様にして電界の局部集中による絶縁破壊を防止するために設けられるものである。
【0130】
このような電線の製造方法としては、例えば、本発明の電線被覆材のペレット、必要に応じて設けられる内部半導電層を形成するためのペレット、及び、外部半導電層を形成するためのペレット(例えば、導電性炭素又は金属粉を加えた樹脂組成物のペレット)のそれぞれを、成形機内で加熱溶融した後、従来公知の同軸押出機を用いて導体上に所望の層構成となるように(共)押出しして電線を製造する方法;本発明の電線被覆材、必要に応じて内部半導電層形成用組成物、外部半導電層形成用組成物を、それぞれ有機溶媒に溶解させてワニスとし、導体上に所望の層構成となるようにこれらのワニスを順次被覆して電線を製造する方法;等が挙げられる。これら方法は、被覆材料の厚さ、その他の要求特性によって適宜選択することができる。
【0131】
ワニスとする場合に用いられる有機溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;n−ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;クロロベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;等が挙げられる。
【0132】
有機溶媒の使用量は、溶解ないしは分散するに足りる量であればよく、通常、固形分濃度が1〜80重量%、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%になる量である。
【0133】
得られるワニスの溶融粘度は、ハンドリング、プロセス上のメリット等から、100〜200℃の範囲において5Pa・s以下、さらには2Pa・s以下であるのが好ましい。
【0134】
形成される電線被覆層においては、耐熱性及び耐衝撃性の向上等を目的として、電線被覆材中の開環重合体水素化物を架橋させてもよい。
架橋方法としては、従来公知の架橋ポリエチレンケーブル(CVケーブル)の架橋に用いられる架橋方法が挙げられる。具体的には、前述したように、電線被覆材に配合剤として架橋剤を配合し、熱処理によって化学架橋を起こさせる方法や電子線、紫外線等により架橋させる方法等が挙げられる。
【0135】
また、押出し成形時に、溶融させた電線被覆材中に直接不活性ガスを圧入する等して電線被覆層に気泡を混在させてもよい。このようにすることで、電線被覆材中に前記従来公知の発泡剤を配合させるのと同様の効果が得られる。
【0136】
従来、電線は、絶縁体層中(電線被覆層)に進入した水などの欠陥に加わる局部的な電界集中の相乗作用により、トリーが発生し、絶縁破壊が生じるおそれがあった。本発明の電線被覆材は水蒸気透過度が極めて低いため、該電線被覆材を用いた電線は、絶縁体層中に水分が浸入するおそれが無く、水トリーが発生し難い。そのため、本発明の電線は劣化し難い。
【0137】
本発明の電線は、種々の電線として使用することができる。例えば、配電用電線、制御・計装ケーブル、電子機器用電線、移動用ケーブル等のプラスチック絶縁電線;絶縁ケーブル、高圧電力ケーブル、プラスチック電力ケーブル等の電力ケーブル;市内・市外ケーブル、局内ケーブル、広帯域ケーブル、高周波同軸ケーブル、高周波同軸(管)給電線及びだ円導波管、通信用電線・ケーブル等の通信ケーブル;等が挙げられる。なかでも、その優れた誘電特性、耐水トリー性、耐衝撃性、耐熱性、柔軟性等により、高圧電力ケーブル、高周波同軸ケーブル等が特に好ましい。
【実施例】
【0138】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部又は%は、特に断りがない限り、重量基準である。
【0139】
以下の実施例及び比較例において、各種物性の測定法は次のとおりである。
(1)開環(共)重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、トルエンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0140】
測定装置として、GPC−8020シリーズ(DP8020、SD8022、AS8020、CO8020、RI8020、東ソー社製)を用いた。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが500、2630、10200、37900、96400、427000、1090000、5480000のものの計8点、東ソー社製)を用いた。
【0141】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、測定試料をトルエンに溶解後、カートリッジフィルター(ポリテトラフルオロエチレン製、孔径0.5μm)で濾過して調製した。
【0142】
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(東ソー社製)を2本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量100μml、カラム温度40℃の条件で行った。
【0143】
(2)開環(共)重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、1,2,4−トリクロロベンゼンを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として測定した。
【0144】
測定装置として、HLC8121GPC/HT(東ソー社製)を用いた。
標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが988、2580、5910、9010、18000、37700、95900、186000、351000、889000、1050000、2770000、5110000、7790000、20000000のものの計16点、東ソー社製)を用いた。
【0145】
サンプルは、サンプル濃度1mg/mlになるように、140℃にて測定試料を1,2,4−トリクロロベンゼンに加熱溶解させて調製した。
【0146】
測定は、カラムに、TSKgel GMHHR・H(20)HT(東ソー社製)を3本直列に繋いで用い、流速1.0ml/min、サンプル注入量300μml、カラム温度140℃の条件で行った。
【0147】
(3)開環共重合体水素化物の水素化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、1H−NMRにより測定して求めた。
【0148】
(4)異性化率は、溶媒に重クロロホルムを用い、13C−NMRにより測定した33.0ppmピーク積分値/(31.8ppmピーク積分値+33.0ppmピーク積分値)×100から算出して求めた。
ちなみに、31.8ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のシス体由来のもの、33.0ppmピークは、該重合体中の2−ノルボルネンの繰り返し単位のトランス体由来のものである。
【0149】
(5)融点は、示差走査熱量分析計(DSC6220、SIIナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K7121に基づき、試料を融点より30℃以上に加熱した後、冷却速度−10℃/minで室温まで冷却し、その後、昇温速度10℃/minで測定した。
【0150】
(6)ガラス転移温度は、示差走査熱量分析計(DSC6220、SIIナノテクノロジー社製)を用いて、JIS K6911に基づいて測定した。
(7)耐衝撃性は、長さ10cmにカットした電線を20本束ねてビニールテープで固定し、3m上空から垂直落下させ、落下後の電線に生じたクラックの有無を1本ずつ顕微鏡で観察し、クラックが生じた電線の数を数えることにより評価した。
【0151】
(8)耐水トリー性は、電線を80℃の温水中に浸漬し、1KHz、38KVの電圧を60日間印加した後、電線を解体して電線被覆層を取り出し、電線被覆層より厚さ0.5mmの試験片を輪切りにして採取し、電子顕微鏡(倍率50倍)を用いて試験片の水トリーの発生数を測定し、水トリーの発生数を相対値で評価した。
【0152】
[実施例1]
(開環重合)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500重量部に、1−ヘキセン0.55重量部、ジイソプロピルエーテル0.30重量部、トリイソブチルアルミニウム0.20重量部、イソブチルアルコール0.075重量部を室温で反応器に入れ混合した後、55℃に保ちながら、2−ノルボルネン(以下、「2−NB」と略すことがある。)250重量部及び六塩化タングステン1.0重量%トルエン溶液15重量部を2時間かけて連続的に添加し、重合を行った。得られた開環重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、83,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。
【0153】
(水素化反応)
上記で得た重合反応液を耐圧の水素化反応器に移送し、そこへ、珪藻土担持ニッケル触媒(T8400、ニッケル担持率58重量%、日産ズードヘミー社製)0.5重量部を加え、160℃、水素圧4.5MPaで6時間反応させた。この溶液を、珪藻土をろ過助剤としてステンレス製金網をそなえたろ過器によりろ過し、触媒を除去した。得られた反応溶液をイソプロピルアルコール3000重量部中に撹拌下に注いで水素化物を沈殿させ、濾取した。さらに、アセトン500重量部で洗浄した後、0.13×10Pa以下、100℃に設定した減圧乾燥器中で48時間乾燥し、開環重合体水素化物(A)を190重量部得た。
【0154】
(重合体物性)
得られた開環重合体水素化物(A)の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、82,200、分子量分布(Mw/Mn)は2.9、異性化率は5%、融点は140℃であった。
【0155】
(電線被覆材の調製)
開環重合体水素化物(A)100重量部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、イルガノックス1010、チバガイギー社製)0.1重量部を加え、2軸混練機(TEM35、東芝機械社製)で混練し、ペレット化し、電線被覆材(A)を得た。
【0156】
[実施例2]
(開環共重合・水素化反応)
実施例1において、モノマーを2−ノルボルネン245重量部、メチルノルボルネン(以下、「MNB」と略すことがある。)5重量部とし、六塩化タングステン1.0重量%トルエン溶液15重量部、1−ヘキセン0.40重量部、ジイソプロピルエーテル0.31重量部、トリイソブチルアルミニウム0.20重量部、イソブチルアルコール0.08重量部とした以外は実施例1と同様にして重合を行った。重合転化率はほぼ100%であった。得られた開環共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、103,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.9であった。その後、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、開環共重合体水素化物(B)を得た。
【0157】
(重合体物性)
得られた開環共重合体水素化物(B)の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、100,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.9、異性化率は8%、融点は136℃であった。
【0158】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環共重合体水素化物(B)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(B)を得た。
【0159】
[実施例3]
(開環共重合・水素化反応)
実施例1において、モノマーを2−ノルボルネン240重量部、メチルノルボルネン10重量部とし、1−ヘキセン0.55重量部とした以外は実施例1と同様に重合を行なった。重合転化率は、ほぼ100%であった。得られた開環重合体(C)の重量平均分子量(Mw)は、81,500、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。
その後、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、開環共重合体水素化物(C)を得た。
【0160】
(重合体物性)
得られた開環共重合体水素化物(C)の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、80,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.9、異性化率は8%、融点は133℃であった。
【0161】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環共重合体水素化物(C)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(C)を得た。
【0162】
[実施例4]
(開環共重合・水素化反応)
実施例1において、モノマーを2−ノルボルネン227.5重量部、メチルノルボルネン22.5重量部とし、1−ヘキセン0.4重量部、ジイソプロピルエーテル0.40重量部、トリイソブチルアルミニウム0.27重量部、イソブチルアルコール0.10重量部、六塩化タングステン1.0重量%トルエン溶液20重量部とした以外は実施例1と同様にして、重合を行った。重合転化率は、ほぼ100%であった。
得られた開環重合体(D)の重量平均分子量(Mw)は、101,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.8であった。
その後、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、開環共重合体水素化物(D)を得た。
【0163】
(重合体物性)
得られた開環共重合体水素化物(D)の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、98,800、分子量分布(Mw/Mn)は3.8、異性化率は7%、融点は114℃であった。
【0164】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環共重合体水素化物(D)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(D)を得た。
【0165】
[実施例5]
(開環共重合)
窒素雰囲気下、攪拌機付きオートクレーブに、70重量%のノルボルネンのトルエン溶液37.1重量部、ジシクロペンタジエン(以下、「DCP」と略すことがある。)0.26重量部と1−ヘキセン0.020重量部、シクロヘキサン49.3重量部を加えて攪拌した。続いてビス(トリシクロヘキシルフォスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.023重量部を8.6重量部のトルエンに溶解した溶液を加えて、60℃にて30分攪拌した。
【0166】
(水素化反応)
重合溶液にエチルビニルエーテル0.020重量部を加えて攪拌した後、水素圧力1.0MPa、150℃で20時間水素化反応を行なった。反応溶液を大量のイソプロパノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾取した。さらに、アセトンで洗浄した後、1.3×10Pa下、100℃に設定した減圧乾燥器中で48時間乾燥し、開環共重合体水素化物(E)を得た。
【0167】
(重合体物性)
得られた開環重合体水素化物(E)の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、160,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.8、異性化率は0%、融点は139℃であった。
【0168】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環共重合体水素化物(E)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(E)を得た。
【0169】
[実施例6]
(開環共重合・水素化反応)
実施例1において、モノマーを2−ノルボルネン240重量部、ジシクロペンダジエン10重量部とし、1−ヘキセン0.55重量部、ジイソプロピルエーテル0.40重量部、トリイソブチルアルミニウム0.27重量部、イソブチルアルコール0.10重量部、六塩化タングステン1.0重量%トルエン溶液20重量部とした以外は実施例1と同様にして、重合を行った。重合転化率はほぼ100%であった。
【0170】
得られた開環共重合体(F)の重量平均分子量(Mw)は、83,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.7であった。その後、実施例1と同様にして、水素化反応を行い、開環共重合体水素化物(F)を得た。
【0171】
(重合体物性)
得られた開環共重合体水素化物(F)の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、81,300、分子量分布(Mw/Mn)は3.8、異性化率は9%、融点は134℃であった。
【0172】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環共重合体水素化物(F)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(F)を得た。
【0173】
[比較例1]
(開環共重合・水素化反応)
実施例1において、モノマーに8−エチル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン(以下、「ETD」と略すことがある。)37.5重量部とトリシクロ[4.3.12,5.01,6]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエンともいう。)212.5重量部を用い、1−ヘキセンを0.70重量部とした以外は実施例1と同様にして、重合を行った。重合転化率はほぼ100%であった。
得られた開環共重合体を実施例1と同様にして、水素化反応を行い、開環共重合体水素化物(G)を得た。
【0174】
(重合体物性)
得られた開環共重合体水素化物(G)の水素化率は99.9%、重量平均分子量(Mw)は、40,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.1、ガラス転移温度は105℃であり、融点は観察されなかった。
【0175】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環共重合体水素化物(G)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(G)を得た。
【0176】
[比較例2]
(開環共重合・水素化反応)
実施例1において、モノマーを2−ノルボルネン222.5重量部、テトラシクロドデセン(以下、「TCD」と略すことがある。)27.5重量部とし、1−ヘキセン0.07重量部、ジイソプロピルエーテル0.40重量部、トリイソブチルアルミニウム0.27重量部、イソブチルアルコール0.10重量部、六塩化タングステン1.0重量%トルエン溶液20重量部とした以外は実施例1と同様にして、重合を行った。重合転化率はほぼ100%であった。
【0177】
得られた開環共重合体(H)の重量平均分子量(Mw)は、319,500、分子量分布(Mw/Mn)は3.4であった。その後、珪藻土担持ニッケル触媒を3重量部とした以外は実施例1と同様にして、水素化反応を行い、開環共重合体水素化物(H)を得た。
【0178】
(重合体物性)
得られた開環共重合体水素化(H)の水素化率は99.0%、重量平均分子量(Mw)は、315,000、分子量分布(Mw/Mn)は4.9、異性化率は9%、融点は100℃であった。
【0179】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環共重合体水素化物(H)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(H)を得た。
【0180】
[比較例3]
(開環重合)
窒素雰囲気下、攪拌機付きオートクレーブに、タングステン(フェニルイミド)テトラクロリド・ジエチルエーテル1.1重量部とシクロヘキサン18.5重量部を添加した。さらにジエチルアルミニウムエトキシド0.87重量部をヘキサン9.26重量部に溶解した溶液を添加して、室温にて30分攪拌した。得られた混合物に、ジシクロペンタジエン139重量部、1−ヘキセン0.33重量部を添加し、50℃で3時間重合反応を行なった。重合転化率はほぼ100%であった。
得られた開環重合体(I)の重量平均分子量(Mw)は、78,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.5であった。
【0181】
(水素化反応)
上記で得た開環重合体(I)を含む重合反応溶液に、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド0.87重量部及びエチルビニルエーテル20.4重量部をシクロヘキサン650重量部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧1.0MPa、160℃で20時間水素化反応を行なった。反応溶液を大量のイソプロパノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾取した。さらに、アセトン500重量部で洗浄した後、0.13×10Pa以下、100℃に設定した減圧乾燥器中で48時間乾燥し、開環重合体水素化物(I)を130重量部得た。
得られた開環重合体水素化物(I)は、GPCの溶剤に溶解せず、分子量の測定はできなかった。また、融点は273℃であった。
【0182】
(電線被覆材の調製)
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて開環重合体水素化物(I)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(I)を得た。
【0183】
[実施例7]
内部半導電層形成用ペレット、電線被覆材(A)、及び外部半導電層形成用ペレットを、押出機を用いて、バレル温度190℃、ダイ温度210℃にて溶融しながら、外径19mmφの銅導体上に、3層同軸押し出しし、内部半導電層(1mm厚)、電線被覆材(A)層(2mm厚)、外部半導電層(1mm厚)を形成して電線(A)を得た。得られた電線(A)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0184】
[実施例8]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(B)を用いた以外は実施例7と同様にして、電線(B)を得た。得られた電線(B)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0185】
[実施例9]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(C)を用いた以外は実施例7と同様にして、電線(C)を得た。得られた電線(C)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0186】
[実施例10]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(D)を用い、バレル温度180℃、ダイ温度200℃にした以外は実施例7と同様にして、電線(D)を得た。得られた電線(D)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0187】
[実施例11]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(E)を用いた以外は実施例7と同様にして、電線(E)を得た。得られた電線(E)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0188】
[実施例12]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(F)を用いた以外は実施例7と同様にして、電線(F)を得た。得られた電線(F)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0189】
[比較例4]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(G)を用い、バレル温度230℃、ダイ温度250℃にした以外は実施例7と同様にして、電線(G)を得た。得られた電線(G)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0190】
[比較例5]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(H)を用い、バレル温度160℃、ダイ温度180℃にした以外は実施例7と同様にして、電線(H)を得た。得られた電線(H)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0191】
[比較例6]
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(I)を用い、バレル温度320℃、ダイ温度340℃にした以外は実施例7と同様にして、電線(I)を得た。得られた電線(I)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0192】
[比較例7]
実施例1において、開環重合体水素化物(A)に替えて架橋ポリエチレン(NUC−V9253、日本ユニカー社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、電線被覆材(J)を得た。
【0193】
実施例7において、電線被覆材(A)に替えて電線被覆材(J)を用いた以外は実施例7と同様にして、電線(J)を得た。得られた電線(J)の耐水トリー性、耐衝撃性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0194】
【表1】

【0195】
第1表から、実施例7〜12で得られた電線は、耐衝撃性、耐水トリー性に優れていた。一方、比較例4〜6で得られた電線は、耐衝撃性、耐水トリー性に劣っていた。比較例7で得られた電線は、耐衝撃性には優れていたが、耐水トリー性に極めて劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】本発明に係る電線の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0197】
1・・・導体、2・・・絶縁体層、3・・・内部半導電層、4・・・外部半導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ノルボルネン、又は2−ノルボルネン及び置換基含有ノルボルネン系単量体からなる単量体混合物を開環重合して得られる開環重合体の、炭素−炭素二重結合の80%以上を水素化することにより得られるノルボルネン系開環重合体水素化物であって、2−ノルボルネン由来の繰り返し単位(A)の全繰り返し単位に対する存在割合が90〜100重量%、置換基含有ノルボルネン系単量体由来の繰り返し単位(B)の全繰り返し単位に対する存在割合が0〜10重量%であり、かつ、融点が110〜145℃の範囲であるノルボルネン系開環重合体水素化物を含有することを特徴とする電線被覆材。
【請求項2】
前記ノルボルネン系開環重合体水素化物が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算での重合平均分子量が、50,000〜200,000であり、かつ、分子量分布が1.5〜5.0の高分子である請求項1記載の電線被覆材。
【請求項3】
導体上に、直接またはその他の層を介して、絶縁体層を有する電線であって、前記絶縁体層が請求項1または2に記載の電線被覆材によって構成されることを特徴とする電線。

【図1】
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【公開番号】特開2008−159359(P2008−159359A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345606(P2006−345606)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】