電荷測定による発電酵素を用いた迅速高感度分子検出定量法、および該方法に用いるための検出部並びに装置
【課題】電気化学的変化、特には、発電酵素により発生する電荷を電流として測定することにより、任意の標的物質を、迅速かつ高感度で、特には定量性をもって検出する方法を提供することを目的とする。本発明はまた、該検出方法に用いるための検出部および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明により、支持体(好ましくは、磁気ビーズまたはプラスチックプレート)を用いた分子特異的な検出系に、発電酵素(グルコースオキシダーゼなど)を組み合わせ、そこで発生する電子を電流として検出することで、目的とする分子を定量的に検出する方法が提供される。さらには、その検出方法に適した電極セルならびに装置が提供される。
【解決手段】本発明により、支持体(好ましくは、磁気ビーズまたはプラスチックプレート)を用いた分子特異的な検出系に、発電酵素(グルコースオキシダーゼなど)を組み合わせ、そこで発生する電子を電流として検出することで、目的とする分子を定量的に検出する方法が提供される。さらには、その検出方法に適した電極セルならびに装置が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電酵素により発生する電荷を測定することにより標的分子を、迅速かつ高感度で検出するための方法に関する。本発明はまた、該検出方法に用いるための、検出用電極セルに関する。本発明はさらには、該検出方法に用いるための、該検出用電極セルを有する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、食品、警察捜査、など多くの分野で分子検出定量はますます重要になっている。特に近年は高感度、迅速、簡便、安価、汎用性など、分析技術の向上が求められている。検出手段としては、放射能物質を用いた方法や光学的な検出を用いた方法がある、放射能物質を用いた方法としては、放射能原子を有する分子、例えば抗体を、標的分子に特異的に結合させて放射能を測定する方法等がある。光学的な検出方法としては、比色法、発光法、蛍光法などをあげることができ、代表的なものとしては、蛍光免疫測定法(FIA)や酵素免疫測定法(ELISA)がある。
【0003】
しかしながら、放射能を測定する方法では、放射性物質の取扱いが厳重に管理されなければならないという制限があるばかりか、放射能を測定する装置が大がかりなものとなってしまうなどの問題がある。また、光学的な検出方法は、高感度で迅速であるという特徴を有するが、光学的検出装置がどうしても大きくなってしまいコストや汎用性に問題がある。
【0004】
そこで、標的分子の検出を電気的に測定することが提案されている。例えば、電極を標的分子に対する抗体で覆い、電気的に活性な標的分子を電極表面の抗体と反応させて電流を発生させ、それを検出する方法が知られている(米国特許第4,997,526号)。しかしこの方法では、検出できる標的分子が電気的に活性な物質に限られ、適用範囲が限られてしまう。
【0005】
また、発電酵素を用いて、標的分子を検出する方法も提案されている。例えば、発電酵素である、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸脱水素酵素等を用いて、酵素反応により生じる電気化学的変化を検出することにより標的分子の存在を測定するものである。代表的なものとして、グルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーをあげることができ、それらの酵素の基質であるグルコースが試料中に存在する場合は、酵素反応により生じる電気化学的変化を検出し、試料中のグルコースの存在および量を測定するというものである。例えば、特表平4−503249号公報に記載の方法をあげることができ、そこでは、センサー表面に固定されたグルコースオキシダーゼがグルコースと反応することにより、電気化学的変化が検出される。
【0006】
さらには、任意の標的分子を検出する方法として、標的分子と結合するグルコースオキシダーゼと結合した第一の抗体と、標的分子と結合する磁気ビーズに結合した第二の抗体を用いて、発生する電気的出力(電圧)を測定することにより標的分子を検出することが提案されている(国際公開第2009/039136号公報)。しかしながら、感度が十分でない、安定的に測定できないなど、実用レベルでの検出を提供するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,997,526号
【特許文献2】特表平4−503249号公報
【特許文献3】国際公開第2009/039136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、電気化学的変化を測定することにより、標的分子を検出する方法が提案されてきているが、任意の標的分子を、満足できる感度で検出できるものは報告されていない。そこで、本発明は、電気化学的変化、特には、発電酵素により発生する電荷を測定することにより、任意の標的物質を、迅速かつ高感度で、特には定量性をもって検出する方法を提供することを目的とする。本発明はまた、該検出方法に用いるための検出部および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、支持体(好ましくは、磁気ビーズまたはプラスチックプレート)を用いた分子特異的な検出系に、発電酵素(グルコースオキシダーゼなど)を組み合わせ、そこで発生する電子を検出することで、目的とする分子を定量的に検出する方法である。
本発明はまた、以下の通りである。
(1)試料中の標的分子の検出方法であって、
(i)以下の工程からなる標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する工程、
(i−1)標的分子を支持体に保持させた後、支持体を回収することにより標的分子を回収する工程、
(i−2)標的分子と特異的に結合できかつ発電酵素(好ましくは、グルコースオキシダーゼ)を保持した結合性物質と、標的分子を反応させる工程、および
(i−3)支持体を回収することにより、標的分子と発電酵素を保持した結合性物質の複合体を回収する工程、および
(ii)以下の工程からなる発電酵素による電気化学的変化により生じる電流を測定する工程、
(ii−1)該複合体と、発電酵素の基質(例えば、グルコース)および電子メディエーターを含む溶液を混合し反応溶液を調製する工程、
(ii−2)反応溶液を、電子メディエーター(および任意に該基質)を含む参照溶液とセパレータを介して連絡させるとともに、該反応溶液に検出電極を、該参照溶液に参照電極を配置する工程、
ここで、セパレータは、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜であり、電極は、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、
(ii−3)発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程、
からなる標的分子の検出方法。
【0010】
(2)試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(i−1)の工程が、以下の工程、
(a)標的分子と特異的に結合できかつ支持体に保持された他の結合性物質を、試料中の標的分子と反応させる工程、および
(b)支持体を回収することにより、他の結合物質を介して支持体に保持された標的分子を回収する工程、
からなる前記(1)に記載の検出方法。
(3)試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(ii−2)の工程が、
参照電極と検出電極のそれぞれを、内側および外側に配置した、電子メディエーター(および任意に該基質)を含む参照溶液を入れる容器を、反応溶液中に配置し、かつ該容器に参照溶液を入れることにより、該反応溶液中に該検出電極をおよび該参照溶液中に該参照電極を配置する工程、
ここで、参照溶液を入れる該容器は、下部に開口部を有し、該開口部はセパレータで覆われ、参照溶液は該セパレータを介して反応溶液と連絡する、
である、前記(1)または(2)に記載の検出方法。
【0011】
(4)前記発電酵素が、グルコースオキシダーゼであり、基質がグルコースである、(1)から前記(3)のいずれかに記載の検出方法。
(5)前記電子を電流として検出する工程において、検出のための測定開始後の所定時間後に検出された電流が、所定の値(iH)より大きい場合は、標的分子が存在するあるいはあらかじめ定めた規定値以上と評価し、所定の値(iL)より小さい場合は、標的分子が存在しないあるいはあらかじめ定めた規定値以下と評価し、iHとiLの間であった場合はさらに測定を続け追加の所定の時間後に再び検出された電流量を測定することにより標的分子の存在を評価する工程を含む、前記(1)から(4)のいずれかに記載の検出方法。
(6)前記所定時間が1〜3分である前記(5)に記載の検出方法。
【0012】
(7)前記発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程が、電流の測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにすることを含む、前記(1)から(6)のいずれかに記載の検出方法。
(8)前記標的分子が、タンパク質、ウィルス、食中毒菌または核酸である前記(1)から(7)のいずれかに記載の検出方法。
【0013】
(9)上部および下部が開口部となっている、中空の容器、
下部開口部を覆っている、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜、
該中空の容器の外側に沿って配置され、該中空容器の下部端の少なくとも一部より伸びている検出電極、および、
該中空容器の下部端の少なくとも一部を越えないように、該中空の容器の内側に沿って配置されているもう参照電極、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための検出用電極セル。
(10)前記中空の容器の外周が、略円形または略半円形であり、直径が0.3cm〜3.0cmである、前記(9)に記載の電極セル。
(11)前記中空の容器の外周が、略正方形であり、一片の長さが0.3cm〜3.0cmである、前記(9)に記載の電極セル。
(12)前記検出電極および参照電極が、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、前記(9)から(11)のいずれかに記載の電極セル。
【0014】
(13)前記(9)から(12)のいずれか一つに記載の電極セル、
試料中の標的分子を回収しかつ発電酵素による反応を行うための反応セル、
該電極セルの2つの電極のそれぞれに接続された電流電圧変換回路を含む電荷測定回路部、
該電流電圧変換回路部に接続され、所定の電流値に応じて、標的分子の存在の評価を行う情報処理部、および
該評価に応じて表示を行う表示部、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための装置。
(14)前記電荷測定回路が、電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにするためのスイッチを含む前記(13)に記載の装置。
【発明の効果】
【0015】
従来の提案では、電圧を検出するため、電極の蓄電容量などさまざまな不確定性要因によって結果が安定することは無く、実用化が困難な技術であったが、本発明の方法では、酵素の作り出す電子を電流として測定するため、定量性のある測定が可能であるとともに、短時間で標的分子の存在評価ができ迅速な測定が可能である。
また、本発明の方法では、この定量性を利用して、2種類の抗体を用いたサンドイッチ法によって検出対象分子の高感度検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の方法および装置において用いることができる電流電圧変換回路を示している。
【図2】図2は、本発明の方法による検出における判断の概略図を示している。
【図3】図3は、本発明の電極セル構造の概略図を示している。図3Aは、略円柱形の電極セル、図3Bは略正方形の電極セルを示している。図3Cは、本発明の電極セルの他の様式を閉めている。
【図4】図4は、本発明の電極セルの他の実施態様を示した図である。
【図5】図5は、本発明の電極セルに取り付けることができる保護容器(A)および蓋(B)を示した図である。
【図6】図6は、本発明の装置の構成の一例の概略を示した図である。
【図7】図7は、本発明の電極セルと反応セルの構成の概略を示した図である。
【図8】図8は、本発明の電極セルを挿入した際の測定の一例を模式的に示した図である。
【図9】図9は、本発明の装置の各構成要素を単一の装置とした場合の装置全体の様子を模式的に示したものである。
【図10】図10は、本発明の装置を用いて本発明の検出方法を実行した場合の判断手法を模式的に示したものである
【図11】図11は、本発明の電極セルを用いて作成した定量性試験の結果である。
【図12】図12は、発電酵素による反応開始後、本発明の電極セルを用いた測定開始までの時間の影響を検討した結果である。
【図13】図12の検討における、バックグランドの電流を測定した結果である。
【図14】図12および図13の結果に基づいて、明細書に記載のアルゴリズムに従って解析した結果を示した図である。
【図15】図15は、本発明の方法において、種々の電極を用いて検討した結果である。
【図16】図16は、本発明の方法において、種々のメディエーターを用いて検討した結果である。
【図17】図17は、本発明に方法における、メディエーターの濃度を検討した結果である。
【図18】図18は、本発明に方法において、種々のセパレータを検討した結果である。
【図19】図19は、本発明の方法に従った測定を、室温および40℃で行った結果である。
【図20】図20は、抗原抗体反応を用いて本発明の方法を実施した結果である。
【図21】図21は、ハイブリダイゼーション反応を用いて本発明の方法を実施した結果である。
【図22】図22は、本発明の方法を用いて、1ユニットのHBウィルスを検出した結果である。
【図23】図23は、本発明の方法を用いて、サルモネラ菌を検出した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の標的分子は、存在あるいは量を検出する対象となる物質を意味し、特に限定されないが、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAまたはRNA)、糖鎖、脂質、ウィルス、抗原をあげることができる。また、これらの物質を産生または有する細菌や細胞そのものも標的分子である。菌としては、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、カンピロバクター、リステリア菌、ウェルシュ菌、ノロウィルス等の食中毒菌をあげることができる。
【0018】
本発明で用いる発電酵素は、対応する基質と反応することにより電圧が生じかつ電子を放出できるものであればいずれでもよい。例えばグルコースオキシターゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸脱水素酵素、グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼなどが例示できるが、好ましくはグルコースオキシダーゼである。
また、発電酵素、例えばグルコースオキシダーゼは市販のものを用いることができるが、遺伝子組み換え技術を用いて、発電活性が改善されたグルコースオキシダーゼを用いることも可能である。
【0019】
本発明で用いる基質は、発電酵素の基質となり、発電酵素の反応に比例して電子の放出をもたらすものである。例えば、発電酵素グルコースオキシダーゼに対しては、グルコースが基質として用いられる。
【0020】
本発明で用いる支持体とは、磁気ビーズ、プラスチック容器またはプレートなど、標的分子と発電酵素との複合体を保持できるものであれば何でも良いが、好ましくは、磁気ビーズまたはプラスチック容器である。支持体への標的分子の結合は、吸着、親和性結合または共有結合など、標的分子を強固に支持体に結合できかつ洗浄等の操作により解離されないものであれば特に制限がなく、また直接であってもあるいは標的分子への結合性物質を介してでもよい。標的分子または標的分子への結合性物質を、吸着により支持体に固定する場合は、その後、ブロッキングを行う。親和性結合としては、アビジンービオチン結合をあげることができる。アビジンービオチン結合を用いる場合は、支持体または標的分子への結合物質にアビジンまたはビオチンを結合させ、他方にビオチンまたはアビジンに結合させることにより行うことができる。
【0021】
本発明の電極セルを用いた方法では、プラスチックプレートとして、例えば、マイクロタイタープレート、1.5mlエッペンチューブを用いることもできる。それにより、少量で、複数の試料を同時に迅速に測定することができる。
【0022】
本発明に用いる結合性物質とは、標的分子に特異的に結合するものであれば特に制限がないが、標的分子がたんぱく質または糖鎖、あるいはそれらを有する細菌や細胞等の場合は、好ましくは抗体をあげることができる。標的分子が、DNAやRNAの場合は、DNAプローブをあげることができる。
このように、本発明の方法によれば、標的分子としては抗原抗体反応を用いることでタンパク質や糖の検出が可能であるばかりでなく、核酸プローブを用いることでDNAやRNAなどを検出することが可能となり、従来の分子検出関連技術のほとんどすべてに応用することが可能である。
【0023】
本発明において、特異的結合後に、複合体を保持した支持体を回収する方法としては、遠心分離などの従来の方法を用いることができる。支持体として磁気ビーズを用いた場合は磁石により回収することも可能であり、また、結合性物質を支持体に固定した場合は、溶液を廃棄することにより回収することが可能である。回収する工程においては、夾雑物を除くために洗浄を行うことが好ましい。
【0024】
本発明で用いる電子メディエーターとは、酵素−電極間の電子移動を媒介して、つまり、酵素内部に存在する環化還元中心に電子を運ぶための低分子であり、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセンおよびその誘導体等が例示される。より具体的には、ベンゾキノン/ハイドロキノン、フェリシアン/フェロシアン化物(カリウムもしくはナトリウム塩)、フェリシニウム/フェロセンなどが挙げられる。フェナジンメトサルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジウムメチルサルフェイト、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールなどを用いてもよい。その他にも、オスミウム、コバルト、ルテニウムなどの金属錯体を用いることも可能である。水溶性の低い化合物をメデエーターとして用いる場合、有機溶媒を用いると、酵素自体の安定性を損なったり、酵素活性を失活させたりする可能性がある。そこで、水溶性を高めるために、ポリエチレングリコール(PEG)のような親水性高分子により修飾されたものを用いてもよい。好ましくは、フェリシアン化カリウムおよび2,6−ジクロロインドフェノールをあげることができる。反応系におけるメディエーター濃度は、1mM〜1M程度の範囲が好ましく、5〜500mMがより好ましく、10〜300mMが更に好ましい。
【0025】
本発明で用いるセパレータとは、捕捉した標的分子を測定するために、発電酵素による電子の発生による電気状態が変化した溶液と、そのような反応がない基準となる溶液を連絡させて、両溶液の電気状態の差を電流として検出するために用いるものである。セパレータとしては、分離膜、多孔性樹脂または素焼き板を用いることができる。好ましいセパレータは、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質から作られている膜であり、特に好ましくは、ナフィオン膜またはポリ塩化ビニリデン膜である。
【0026】
本発明で用いる電極は、上記両溶液に配置して、両溶液間の電気状態の差を電流として検出できるものであれば特に制限がないが、好ましくは金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である。具体的には、金電極、金/ポリフェニレンサルフィド蒸着電極、金/Crガラス蒸着電極、または金メッキしたプラスチックからなる電極である。
本発明においては、上記電極を、電流電圧変換回路を含む電荷測定回路部に接続して、発電酵素の反応を電流として検出する。電流電圧変換回路は、図1に示すようなオペアンプを利用した回路を用いることができる。
電源回路への電源の供給は、電池またはACアダプターの他、消費電力が少ないことから、PCのUSBからの給電でも可能である。
【0027】
本発明においては、検出された電流の大きさに応じて、試料中の標的分子の存在の有無を評価する。例えば、検出された電流が、所定の値(iH)より大きい場合は、標的分子が存在するまたはあらかじめ定めた所定値以上(つまり、陽性)との判断を行い、所定の値(iL)より小さい場合は、標的分子が存在しないまたはあらかじめ定めた所定値以下(つまり、陰性)との判断を行う。上記判断は、電流測定開始後の所定の時間(T1時間)後までは初期変動期として考慮せず、T1時間を検出のための測定開始時間とし、その後の所定時間(T2)後、例えば1〜5分後、好ましくは1〜3分後、さらに好ましくは1分後に判断を行うことにより、迅速に標的分子の存在の有無を評価できる。T1からT2時間までの間に、検出された電流が単調増加(あるいは一定間隔の2点における傾きがプラス)する場合または所定の値(iH)より大きい場合は陽性との判断を行い、電流が単調減少または同値推移(あるいは一定間隔の2点における傾きがマイナスまたはゼロ)する場合または所定の値(iL)より小さい場合は陰性との判断を行うことにより迅速な判断ができるとともに、上記所定の値(iHおよびiLの間)である場合は、要精密計測との判断を行い継続して測定を行って所定の値(iH)を超えた場合には陽性、所定の値(iL)を下回った場合には陰性、さらに所定の時間(T3)後、例えば5〜30分後、好ましくは約5〜10分後まで測定を延長し、測定値がT2時点よりも増加した場合は陽性、減少した場合には陰性との判断をすることができる。その後、測定終了(Te)となる。
これにより、単一の方法または装置を用いて、迅速な検出が可能であると同時に精密な検出が可能となる。
【0028】
上記中のTs、T0、T1、T2、T3、Teを次のように定義する。
Ts:酵素反応の開始時間
T0:電極あるいは電極セルを反応セルに挿入した時間
T1:初期変動の影響をうけない測定開始時間(好ましくは1分)
T2:迅速測定を判断する時間(好ましくはT1から1分)
T3:精密測定を判断する時間(好ましくはT1から10分)
Te:測定終了
【0029】
本発明に方法によれば、発電酵素の反応により検出される電流は、反応開始後1分程度で判定のために十分なレベルで検出可能であるとともに、反応開始後30分程度まで安定して検出可能である。従って、複数の反応を一度に開始した後各々の試料一つずつ検査機で検査することが可能であるので、複数の試料の検査に適している。
【0030】
本発明の方法による判断の一例を図2に模式的に示す。これにより、迅速な判断が可能であるとともに、試料中に標的分子が微量に存在する場合等は、より精密な測定が可能となる。
また、本発明の方法においては、発電酵素の反応量に応じた電流を検出することが可能であるので、試料中に標的分子の存在が確認された場合はさらに、試料中の標的分子の量を、あらかじめ求めた検量線に従って決定できる。
【0031】
国際公開第2009/039136号公報において提案されている装置においては、電気的信号を検出するための検出部をもった反応容器中に測定試料を入れて反応を開始し、発生する電気的信号を測定していた。しかしながら、検出される電気的信号が、反応開始時および反応継続時においても安定せず、検出感度が十分に得られず、また、定量的な検出はできなかった。
【0032】
本発明の方法においてはまた、電流の検出において、反応溶液中で発電酵素による反応が開始した後、一定時間、例えば、0〜60分、好ましくは1〜30分経過した後、電極を溶液中に挿入し、電流を測定することもできる。これにより、安定的に電流が検出でき、より高感度で定量的な検出が可能となる。
【0033】
本発明の方法においては、電極挿入時のスパイクノイズを低減するための工程を含むことができる。例えば、挿入時から測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された静電気を低減または除去し、その際には電流電圧変換回路側の回路を開いておくことで出力電圧をゼロにすることができる。また、電極挿入後X秒後に短絡回路を開いて電極が電流測定回路に接続された形にすることで、スパイクノイズを低減することができる。これらの工程は、好ましくは、電極挿入と連動したスイッチを用いることにより達成できる。
【0034】
本発明の検出方法は、以下の2つの工程を含む。
(i)標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する工程、および
(ii)発電酵素による電気化学的変化により生じる電流を測定する工程。
本発明の方法の(i)の工程においては、標的分子と結合性物質との特異的結合性を用いて、標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する。具体的には、結合性物質を介して標的分子と発電酵素の複合体を形成する。標的分子と発電酵素の複合体は、標的分子と支持体の結合は、直接または標的分子に特異的に結合する他の結合性物質を介して行われ、それにより、標的分子と発言酵素の複合体が支持体に保持され、効率よく回収される。
具体的には、本発明の方法において、支持体−標的分子−結合性物質−発電酵素の複合体、または支持体−他の結合性物質−標的分子−結合性物質−発電酵素の複合体が形成される。
これらの複合体を形成する方法は、抗原抗体反応を初めとする特異的結合を用いた技術分野に公知の方法で行うことができる。
【0035】
本発明の(ii)の工程においては、支持体に保持された標的分子と発電酵素の複合体中の発電酵素の化学的変化により生じる電流を測定することにより、標的分子の存在または量を測定する。より具体的には、複合体中の発電酵素を基質と反応させることにより、電子を発生させ、それを電流として検出することにより測定を行う。
発電酵素の反応は、発電酵素を含む複合体が回収されている容器中に、発電酵素の基質および電気メディエーターを含む反応溶液を加えることにより起こる。
発電酵素の反応を電流として測定するためには、発電酵素による反応が起こっていない溶液(参照溶液)と反応溶液を、セパレータを介して連絡させ、かつそれぞれの溶液に電極(参照溶液に参照電極、反応溶液に検出電極)を配置することが必要である。好ましくは、容器の外側と内側にあらかじめ電極が配置され、容器の下部にセパレータを有する参照溶液を入れる容器を、反応溶液に挿入するとともに容器中に参照溶液を添加することにより、電極の配置とセパレータによる両溶液の連絡を同時に行う。さらには、あらかじめ参照容器中に参照溶液を入れた後、参照容器を反応溶液中に挿入することも可能である。
参照溶液は、反応溶液と同じ濃度の同じ電子メディエーターを含む。好ましくは、さらに反応溶液と同じ濃度の基質を含む。
発電酵素の反応により発生した電子は、本明細書に記載の測定装置および測定原理を用いて測定される。
【0036】
特異的結合性物質として抗体を用いた本発明の方法の実施態様の一つにおいて、抗体を結合させた反応セル内において、発電酵素を化学結合させた抗体を用いてサンドイッチ式抗原抗体反応を行わせ、次いで、発電酵素の反応により発生する電流を測定する。具体的は、以下の工程を含む。
1.検査したい対象物を水溶液等に溶かし、一部を検体として固形物の無い状態で分取する、
2.抗体を結合させた反応セルに検体を入れて、発電酵素を結合させた抗体を含む溶液内において、サンドイッチ法1Step抗原抗体反応を起こさせる、
3.反応液をとりのぞき、洗浄液を加えて放置後、洗浄液を除去する、
4.発電酵素の基質とメディエーターを含む反応液を入れる、
5.電極を入れ、電流を測定する、
6.電流の発生パターンを分析アルゴリズムに従って解析し、陽性陰性の判定を行う。または、規定された一定時間の反応測定値による試料の定量化を行う。
【0037】
本発明の方法は、遺伝子増幅法であるPCR法組み合わせることも可能である。例えば、PCRプライマーの一方に吸着因子(磁気ビーズなど)、一方に発電酵素を結合させることにより、PCR反応が進んだ場合だけ発電酵素が吸着系に回収されることを利用して、PCR反応の検定をすることも可能である。本発明に方法によれば、RealTimePCRに比べて安価な機器で、またPCR反応物を電気泳動する場と比較して短時間で検出することが可能となる。
【0038】
本発明の電極セルの構造の概略図を図3に示す。電極セルは、上部および下部が開口部になっている本体部(1)、下部開口部を覆っている、好ましくは膜であるセパレータ(2)、本体部の外側に沿って配置され本体部の少なくとも下部端の一部より伸びている参照電極(3)、および本体部の少なくとも下部端の一部を越えないように本体部の内側に沿って配置されている検出電極(4)からなる。
本体部は、上部および下部が開口部であれば、その形は特に限定されないが、例えば、図3Aに示すように略円柱形または図3Bに示すように略正方形であるが、好ましくは、略円柱形である。また、本体部は、図3Cに示すように、下部が傾斜断面を有していても良く、また、半円形であっても良い。さらに、操作しやすいように、電極セルは、図3Cに示すように、つまみ部分を有していても良い。
【0039】
本発明の電極セルの他の実施態様を図4に示す。本体部(1)の上に連結部(5)を構成して、本体部、検出電極(4)および参照電極(3)が一体となるように構成することもできる。本体部は、下部に傾斜した開口部を有し、反応溶液と参照溶液を連絡させる好ましくは膜であるセパレータ(2)を有する。参照電極は、本体部の下部端の少なくとも一部より上に位置し、そして検出電極は本体部の下部端の一部より下に位置している。
【0040】
本体部は、その外周が略円形または略半円形である場合は、その直径(半円形の場合は、直線部分の長さを意味する)は、特に限定はされないが、通常の目的においては、0.3cm〜6.0cm、好ましくは、0.3cm〜3.0cm、さらに好ましくは、0.5cm〜2.0cmである。
本体部は、その外周が略正方形である場合は、その一片の長さは、通常の目的においては、0.3cm〜6.0cm、好ましくは、0.3cm〜3.0cm、さらに好ましくは、0.5cm〜2.0cmである。
本体部の長さは、特に限定はされないが、通常の目的においては、0.5cm〜10cm、好ましくは、1.0cm〜5.0cm、さらに好ましくは、1.0cm〜4.0cmである。
【0041】
本体部は、絶縁性であれば特にその材質は制限されないが、好ましくは、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのプラスチックである。また、その中に試薬を保存することも可能であり、かかる場合は、耐試薬性プラスチックが好ましく、さらには、遮光性を付与するために褐色とするのが好ましい。
【0042】
電極は、良好な導電性を有し、発電酵素により発生する電子を捕捉して十分な電流を伝達できるものであれば本発明において用いることができ、例えば金やプラチナを上げることができるが、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金が好ましく用いられる。
【0043】
電極セルは、必要に応じ、図5Aに示すような、電極を保護する保護容器をその外側に有するのが好ましい。また、図5Bに示すような蓋をつけることもできる。
電極と容器を一体化し電極セルを構成して装置にアタッチすることで、検査結果が陰性である限りは再利用ができる。
【0044】
本発明の装置の構成の一例の概略図を図6に示す。本発明の装置は、電極(電極セル)、反応セル(図示せず)、電荷測定回路部、情報処理部および表示部を含む装置である。好ましくは、電極と増幅回路の間にスイッチを設置し、電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにすることができる。本発明の装置に用いる電荷測定回路部は、増幅回路とA/D変換回路を有し、電極セルの2つの電極のそれぞれに接続され、発電酵素の反応により発生する電子を電流に変換する。情報処理部は、公知の情報処理のための構成を用いることができるが、例えば、マイクロプロセッサー、およびそれに連結された表示回路、電源回路およびインターフェイス通信回路からなる。装置に用いる情報処理部は、電荷測定回路部に接続され、所定の電流値に応じて、上記した、評価のためのアルゴリズムを実行し、標的分子の存在の評価を行う。
【0045】
本発明の装置に用いる電極セルは上記したものである。
本発明の装置は、試料中の標的分子を回収しかつ発電酵素による反応を行うための容器である反応セルを有する。測定においては、反応セルは電極セルと連結され、反応セル中での発電酵素による反応により生じる電子を、反応セル中の検出電極および電極セル中の参照電極を介して、電流として検出する。
【0046】
本発明の装置に用いる反応セルは、その中で発電酵素の反応を行えるものであれば特に制限がないが、好ましくは、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのプラスチックで作られているものが、操作性およびコストの面から好ましい。反応セルの形、大きさおよび長さは、電極セルがその中に収納できるものであれば特に制限がないが、形は電極セルと類似の形が好ましく、大きさは電極セルより少し大きめの外径を有するものが好ましい。例えば、図7に示すように、反応セル(6)は、電極セルと同様の形を有し、電極セルの外径より少し大きな外径を有し、電極セルをその中に収納した時に、電極セルのセパレータ(分離膜)の下に発電酵素による反応を行うのに十分な領域を有するものである。
【0047】
また、電極セルを挿入した際の測定の一例を模式的に示したものを、図8に示す。このように、本発明の方法及び装置を用いれば、少量の測定系において標的物質を測定できる。
測定感度は反応セル中の発電酵素濃度つまり反応液中の試料中に含まれる標的物質濃度に比例するので、反応セルは簡易操作が可能な範囲で小容量であることが好ましい。従って反応セルの外形は図8に示すような形状とすることで、内容量を小さく、液切れを良くし、かつ外形状を大きくすることで操作性を確保することができる。
【0048】
本発明の装置に用いる電荷測定回路部は、電極セルの電極に接続して、発電酵素により発生する電子を検出しそれを電流に変換できるものであれば特に制限がないが、電流電圧変換回路は、例えば、図1に示すようなオペアンプを利用した回路を含むことができる。本発明の装置に用いる情報処理部は、電荷測定回路部に接続され、所定の電流値に応じて、標的分子の存在または非存在の評価を行えるものであれば特に制限がなく、マイクロコンピューター、マイクロチップその他の情報処理デバイスをあげることができる。
本発明の装置に用いる表示部は、情報処理部からの情報に応じてその結果を表示できるものであれば特に制限がなく、液晶ディスプレーの他、特定の色を表示できるようにしたランプであっても良い。
本発明の装置においては、電源回路への電源の供給は、電池またはACアダプターの他、消費電力が少ないことから、PCのUSBからの給電でも可能である。
また、本発明の装置においては、例えば、図9に示すように、上記各構成を単一の装置内に配置し、持ち運びが可能な装置とすることもできる。また、USB端子を介してパソコンと接続することにより、データの管理や複雑な測定条件の検討、解析結果のネットワークを通じた転送、測定ソフトウェアのネットワークを通じたダウンロードなどが可能となる。
本発明の装置による測定においてはパソコンへの接続は必要ではなく、本体のみで判定結果をLED表示することが可能であり、検査結果をメモリーカードへ記録することが可能である。
【0049】
本発明の装置において、試料中に標的分子が存在するか否かの判断は以下のようにして行える。T1時間後までは初期変動期として考慮せず、T2時間までの間に単調減少する場合、またはiL以下になった場合には反応は起こっていないと考え、陰性と判断され、本発明の装置においては、例えば緑ランプを点灯させる。一方、T2時間でiH以上の電流値を計測すれば、陽性と判断され、本発明の装置においては、赤ランプを点灯させる。
もし、iHとiLの間の測定値を示した場合には、精密計測モードになり(例えば、黄色点滅→黄色点灯)T3時間まで測定を延長し、T2時点よりも増加した場合には陽性、減少した場合には陰性と判定することができる。iHまたはiLを超えた場合にはその時点で陽性または陰性判定することができる。
本発明の方法による判断の一例を図10に模式的に示す。これにより、迅速な判断が可能であるとともに、試料中に標的分子が微量に存在する場合等は、より精密な測定が可能となる。
【0050】
本発明の装置においては、電極挿入時のスパイクノイズを低減するため、電極挿入と連動したスイッチを含むことができ、スイッチの作用により、例えば、挿入時から測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された静電気を除去または低減し、その際には電流電圧変換回路側の回路を開いておくことで出力電圧をゼロにすることができる。また、電極挿入後X秒後にスイッチを作動させ、短絡回路を開いて電極が電流測定回路に接続された形にすることで、スパイクノイズを低減することができる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)定量性試験
本発明の電極付きセルを用いて、反応により発生する電流を測定した。内径の異なる2種類のポリスチレン製ストロー(大創産業)を3cm(直径4mmのもの)ないしは2cm(直径5mmのもの)にカットし、1cm平方程度のナフィオン膜(デュポン社)を一方の先端に挟み込むように2本ストローを重ね合わせた。金リボン(ニラコ)は4cmに2本カットし、ストロー内に挿入する一方、ストロー外側には絶縁テープにて固定した。ストロー容器内に反応緩衝液100μl(400mMフェリシアン化カリウム、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を添加した。
96ウェルセルプレートを用い、各ウェルにそれぞれ終濃度の異なるグルコースオキシターゼを加えた反応緩衝液90μl(400mMフェリシアン化カリウム、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を加え、そこに試料10μl(200mMグルコース、2Mリン酸緩衝液(pH6.0を添加して40℃で30分酵素反応をさせながら発生電流を測定した。30分後の発生電流の差分を用いて検量線を作成した。それぞれの測定結果を図11に示す。
【0052】
(実施例3)発生電流の測定
本発明の電極付きセルを用いて、反応により発生する電流を測定した。内径の異なる2ス種類のポリスチレン製ストロー(大創産業)を3cm(直径4mmのもの)ないしは2cm(直径5mmのもの)にカットし、1cm平方程度のナフィオン膜(デュポン社)を一方の先端に挟み込むように2本ストローを重ね合わせた。金リボン(ニラコ)は4cmに2本カットし、ストロー内に挿入する一方、ストロー外側には絶縁テープにて固定した。
96ウェルセルプレートを用い、各ウェルに終濃度150ng/mlになるようにグルコースオキシターゼを加えた反応緩衝液90μl(200mMフェリシアン化カリウム、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を加え、そこに試料10μl(200mMグルコース、2Mリン酸緩衝液(pH6.0を添加して、室温にて反応を行った。
発生する電流の測定は、以下のようにして行った。反応緩衝液にあらかじめ電極付きセルを入れておき、そこに試料を添加して発生する電流を測定したものを参照例とし、一方、反応緩衝液に試料を加えた後、5〜30分間放置し、その後電極付きセルを反応液に挿入して発生する電流を測定したものを実施例とした。放置時間は、300秒、600秒、1200秒、1800秒とした。それぞれの測定結果を図13に示す。
【0053】
これにより、反応開始後一定時間経過した後に、電極付きセルを反応液にいれ発生電流を測定すると、濃度に依存した電流発生を検出できることが判った。さらに、また、対照として発電酵素を加えない場合のバックグラウンドを、上記と同様にして測定した。結果を、図13に示す。
【0054】
得られた波形を以下のアルゴリズムに従って解析した。結果を図14に示す。
【0055】
(実施例3)電極の検討
50ml遠心管に、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)および10mM2,6−ジクロロインドフェノールを97:3の比率にて混合した溶液8ml(緩衝液A)を用意した。100mMグルコース水溶液2mlを、15ml遠心管を約3cmにカットしてナフィオン膜を接着剤で接着したポリプロピレン製電極セルに加えた。その後、各電極素材(Au(ニラコ、AU−170264)、Au/Cu(栄電子工業、CuにAuをメッキしたもの)、Au/Pd/Cu(栄電子工業、CuにPdとAuを順位メッキしたもの)、ステンレス(ニラコ、751387)、インコネル(ニラコ、AU−525487)、Au/PPS(CP films、AuARE)および金蒸着したガラス(レクザム社製)、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を挿入し、セルに緩衝液Aを200μl添加した。次いで、金リボンを接続し、5μg/mlのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を10μl添加して、室温で30分反応させ、発生電流を測定した。30分後の発生電流の差分を用いて、各電極の評価を行った。それぞれの電極について、反応および測定(実験数が3)を行いデータの平均値を用いた。
結果を図15に示す。
【0056】
また、それぞれの電極素材につきS/N比を求めた。結果を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
この結果より、GOXの存在の判定には、電極素材としては、Auが適していることが判った。また、ポシフェニレンサルフィド(PPS)またはガラス蒸着したAuについても、同様に適していることが判明した。
Auメッキ媒体においては、相対的に金属媒体にメッキ処理をするとS/N比に大きな影響を与えることが判った。これらの結果より、AuまたはAu蒸着非導電性媒体が、電極として適していることが判った。
【0059】
(実施例4)メディエーターの検討
メディエーターとして、2,6−ジクロロインドフェノールとフェリシアン化カリウムを検討した。
メディエーター溶液として300μM2,6−ジクロロインドフェノール/20mMグルコース/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)と200mMフェリシアン化カリウム/20mMグルコース/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を用意した。
96ウェルマイクロプレートの、ウェル内に、メディエーター溶液を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、同じメディエーター溶液を100μl添加し、金リボンをセルの内側に挿入し、測定システムに金リボンをそれぞれ接続した。電流測定開始後、約5分後に、5μg/mlのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)溶液をウェル側に10μl添加した。電流の測定結果を図16に示す。
【0060】
次いで、フェリシアン化カリウムの濃度の影響を検討した。
20mMグルコース/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)中に、終濃度が0.32〜500mMフェリシアン化カリウムになるように調製した各濃度のメディエーター溶液を作成した。96ウェルマイクロプレートのウェル内に、各メディエーター溶液を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、同じメディエーター溶液を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に5μg/mlのグルコースオキシターゼ/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。
結果を図17に示す。
【0061】
100〜500mMの濃度において良好な結果が得られた。しかし400mMおよび500mMの濃度の溶液は、数日保存すると析出が見られた。従って、キット等に用いるためには溶液として、100〜300mMの濃度が適していると判った。
【0062】
(実施例5)セルのセパレータの検討
96ウェルマイクロプレートのウェル内に、終濃度が1.7μg/mlとなるようにグルコオキシダーゼを添加した200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に200mMのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。
【0063】
ナフィオン膜(フッ素系陰イオン交換膜)のかわりに、サランラップ(ポリ塩化ビニリデン)、セレミヨンAMV(セルロース膜:陰イオン交換膜)、セレミヨンCMV(セルロース膜:陰イオン交換膜)、DEAEセルロース(DE81:陰イオン交換濾紙)およびリン酸セルロース(P81:陽イオン交換濾紙)を用いて同様の実験を行った。結果を図18に示す。
【0064】
下記表2に示すように、それぞれの膜を用いた場合のS/N比を比較したところ、ナフィオン膜、サランラップ、DE81およびP81で良好な結果を示した。
【0065】
【表2】
【0066】
(実施例6)温度条件の検討
1.5mlエッペンチューブに、終濃度が50ないしは0ng/mlとなるようにグルコオキシダーゼを添加した200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に200mMのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。結果を図19に示す。
【0067】
(実施例7)抗原抗体反応を用いた測定
ウシ血清アルブミン(BSA)をコートしたマイクロプレートに、発電酵素標識した抗体を加えて、特異的反応に基づく電流発生を測定した。
BSA(Bethyl社製)が5μg/mlになるように調製したBSA/PBS緩衝液を、96ウェルマイクロプレートに100μlづつ分注し、2時間緩やかに撹拌しながらBSAをマイクロプレートに固定した。溶液を廃棄し、0.05%Tween20を含むPBS溶液を200μlづつ各ウェルに添加し廃棄する洗浄工程を3回繰り返した。その後、Blocking One(Nacalai Tesque社製)をメーカーのプロトコルに従い調製し、ブロッキング剤を各ウェルに200μl添加した。一晩放置した後、再度溶液を廃棄し、次いで、0.25%Tween20を含むPBS溶液(200μl)で3回洗浄を行った。
【0068】
その後、各濃度に調製したグルコースオキシダーゼ標識抗BSA抗体(T.Kクラフト社受託製造品)を、Blocking Oneをメーカープロトコルに従い調製したELISA希釈液にて希釈した溶液を100μl添加し、1時間緩やかに撹拌した。その後、溶液を廃棄し、0.05%Tween 20を含むPBS溶液(200μl)を用いて3回洗浄を行った。
その後96ウェルマイクロプレートのウェル内に、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約3分に200mMのグルコース/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。上記の操作は、すべて常温で行った。結果を図20に示す。
【0069】
(実施例8)ハイブリダイゼーションを用いた測定
磁気ビーズ(DynaBeads MyOne Streptabdin T1、ベリタス社)50μlに対して、メーカー推奨のプロトコルに準じてboitylated ssDNA(5’ GGTAGCGATGG 3’)200pmolを、アジビンービオチン結合を介して固定した後、マグネットを用いて磁気ビーズのみを回収した。それを200μlのdistrilled H20に溶解した。
別途、磁気ビーズに固定したDNA配列に対して、完全一致配列のBiotylated ssDNA(5’ CCATCGCTACC 3’)および、1塩基ミスマッチ配列のBiotylated ssDNA(5’ CCATCCCTACC 3’)を準備し、それぞれを、1xSSC/0.1%SDSバッファーで、100nMになるように希釈した。
【0070】
96ウェルマイクロプレートのウェル内に、Biotylated ssDNA(5’ CCATCGCTACC 3’)溶液とBiotylated ssDNA(5’ CCATCCCTACC 3’)溶液を、それぞれ100μl添加し、上記の磁気ビーズを10μl添加し、3分間、室温で緩やかに撹拌した。その後、マグネットを用いて磁気ビーズを回収し、0.5xSSC/0.1%SDSバッファーを200μl添加し、さらに3分間緩やかに撹拌した後、磁気ビーズを回収し洗浄を行った。この洗浄操作を合計3回繰り返した。
【0071】
アビジングルコースオキシダーゼ(Rockland社製)を、0.05% Tween20を含むPBS溶液で希釈して、10ng/ml溶液を作成した。それを各ウェルに10μlづつ添加し、30分間室温で緩やかに撹拌した。その後、マグネットを用いて磁気ビーズのみを回収し、0.2xSSC/0.1%SDSバッファーを200μl添加し、3分間緩やかに撹拌後、磁気ビーズを回収し洗浄を行った。次いで、0.5xSSC/0.1%SDSバッファーを200μl添加し、同様にして、洗浄操作を3回行った。
【0072】
マグネットを用い磁気ビーズのみを回収し、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に200mMのグルコース/2Mリン酸緩衝液を10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。結果を図21に示す。
これにより、DNAを標的分子とした場合でも、本発明に方法により測定できることが示された。
【0073】
(実施例9)B型肝炎ウィルスの測定
本発明の定量可能性を利用して、2種類の抗体と磁性粒子を用いたサンドイッチ法によって検出対象分子の高感度検出を行うことができた。1単位のヒトB型肝炎ウィルスの有る無しの場合について、磁性粒子を結合させたB型肝炎ウィルス抗体と、GOxを結合させた別のB型肝炎ウィルス抗体を用いて、ウィルスの検出を以下のようにして行った。
磁性粒子を結合させたB型肝炎ウィルス抗体を、Genway社から購入した抗体をビオチンラベルしたものと、アビジンが結合した磁性粒子とを混ぜて作成した。
また、グルコースオキシダーゼを結合させたB型肝炎ウィルス抗体を、Genway社から購入した別の抗体をInnovaBioscience社から購入したGOX結合キットを用いて作成した。1単位のヒトB型肝炎ウィルス抗原を含有する水溶液(溶液1)と、ウィルス抗原を含有しない水(溶液2)を用意し、各試料に磁性粒子を結合させたB型肝炎ウィルス抗体1と、グルコースオキシダーゼを結合させた別のB型肝炎ウィルス抗体2を良く混合し、磁石で吸着させながら残余物を除去し、試料処理液を得た。その後、実施例1で用いたのと同様にして、ナフィオン膜で隔てられたリン酸緩衝液の両側に電極を置き、陰極側に試料処理液、次いでグルコースを最終濃度が20mMになるように添加し、両電極間に流れる電流を同様にして測定した。測定結果を図22に示す。この結果より、1単位のヒトB型肝炎ウィルス抗原の検出が可能であることが判った。
【0074】
(実施例10)サルモネラ菌の測定
サルモネラ免疫血清O9群(デンカ生研製)をプロテインAにより精製した抗体を5μg/mlになるようにPBSにより調製し溶液を、96ウェルマイクロプレートに100μlづつ分注し、2時間緩やかに撹拌しながら抗体をマイクロプレートに固定した。溶液を廃棄し、0.05%Tween20を含むPBS溶液を200μlづつ各ウェルに添加し廃棄する洗浄工程を3回繰り返した。その後、Blocking One(Nacalai Tesque社製)をメーカーのプロトコルに従い調製し、ブロッキング剤を各ウェルに200μl添加した。一晩放置した後、再度溶液を廃棄し、次いで、0.25%Tween20を含むPBS溶液(200μl)で3回洗浄を行った。
サルモネラ免疫血清O9群(デンカ生研製)をプロテインAにより精製し、更にグルコースオキシダーゼを修飾した抗体(TKクラフト受託製造)に12μg/mlになるように、Blocking Oneをメーカープロトコルに従い調製したELISA希釈液 50μlを先に分注し、その後、緩衝ペプトン水(日水製薬)により培養したサルモネラ培養液(東京都健康安全研究センター供与)および大腸菌培養液(NBRC3301株)をPBSを用いて、5.0x108 CFU/mlに調整し、それぞれウェルに50μlずつ分注し1時間緩やかに撹拌した。溶液を廃棄し、次いで、0.25%Tween20を含むPBS溶液(200μl)で3回洗浄を行った。
その後96ウェルマイクロプレートのウェル内に、200mMのグルコース/200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)の外側に沿うように金リボンを絶縁テープで固定し、内側に200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加した電極セルを、上記酵素反応後約1分後に挿入した。上記の操作は、すべて常温で行った。結果を図23に示す。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の方法により、任意の生物学的標的物質を、迅速かつ高感度で、特には定量性をもって検出することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 本体部
2 セパレータ
3 参照電極
4 検出電極
5 連結部
6 反応セル
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電酵素により発生する電荷を測定することにより標的分子を、迅速かつ高感度で検出するための方法に関する。本発明はまた、該検出方法に用いるための、検出用電極セルに関する。本発明はさらには、該検出方法に用いるための、該検出用電極セルを有する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、食品、警察捜査、など多くの分野で分子検出定量はますます重要になっている。特に近年は高感度、迅速、簡便、安価、汎用性など、分析技術の向上が求められている。検出手段としては、放射能物質を用いた方法や光学的な検出を用いた方法がある、放射能物質を用いた方法としては、放射能原子を有する分子、例えば抗体を、標的分子に特異的に結合させて放射能を測定する方法等がある。光学的な検出方法としては、比色法、発光法、蛍光法などをあげることができ、代表的なものとしては、蛍光免疫測定法(FIA)や酵素免疫測定法(ELISA)がある。
【0003】
しかしながら、放射能を測定する方法では、放射性物質の取扱いが厳重に管理されなければならないという制限があるばかりか、放射能を測定する装置が大がかりなものとなってしまうなどの問題がある。また、光学的な検出方法は、高感度で迅速であるという特徴を有するが、光学的検出装置がどうしても大きくなってしまいコストや汎用性に問題がある。
【0004】
そこで、標的分子の検出を電気的に測定することが提案されている。例えば、電極を標的分子に対する抗体で覆い、電気的に活性な標的分子を電極表面の抗体と反応させて電流を発生させ、それを検出する方法が知られている(米国特許第4,997,526号)。しかしこの方法では、検出できる標的分子が電気的に活性な物質に限られ、適用範囲が限られてしまう。
【0005】
また、発電酵素を用いて、標的分子を検出する方法も提案されている。例えば、発電酵素である、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸脱水素酵素等を用いて、酵素反応により生じる電気化学的変化を検出することにより標的分子の存在を測定するものである。代表的なものとして、グルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースセンサーをあげることができ、それらの酵素の基質であるグルコースが試料中に存在する場合は、酵素反応により生じる電気化学的変化を検出し、試料中のグルコースの存在および量を測定するというものである。例えば、特表平4−503249号公報に記載の方法をあげることができ、そこでは、センサー表面に固定されたグルコースオキシダーゼがグルコースと反応することにより、電気化学的変化が検出される。
【0006】
さらには、任意の標的分子を検出する方法として、標的分子と結合するグルコースオキシダーゼと結合した第一の抗体と、標的分子と結合する磁気ビーズに結合した第二の抗体を用いて、発生する電気的出力(電圧)を測定することにより標的分子を検出することが提案されている(国際公開第2009/039136号公報)。しかしながら、感度が十分でない、安定的に測定できないなど、実用レベルでの検出を提供するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,997,526号
【特許文献2】特表平4−503249号公報
【特許文献3】国際公開第2009/039136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、電気化学的変化を測定することにより、標的分子を検出する方法が提案されてきているが、任意の標的分子を、満足できる感度で検出できるものは報告されていない。そこで、本発明は、電気化学的変化、特には、発電酵素により発生する電荷を測定することにより、任意の標的物質を、迅速かつ高感度で、特には定量性をもって検出する方法を提供することを目的とする。本発明はまた、該検出方法に用いるための検出部および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、支持体(好ましくは、磁気ビーズまたはプラスチックプレート)を用いた分子特異的な検出系に、発電酵素(グルコースオキシダーゼなど)を組み合わせ、そこで発生する電子を検出することで、目的とする分子を定量的に検出する方法である。
本発明はまた、以下の通りである。
(1)試料中の標的分子の検出方法であって、
(i)以下の工程からなる標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する工程、
(i−1)標的分子を支持体に保持させた後、支持体を回収することにより標的分子を回収する工程、
(i−2)標的分子と特異的に結合できかつ発電酵素(好ましくは、グルコースオキシダーゼ)を保持した結合性物質と、標的分子を反応させる工程、および
(i−3)支持体を回収することにより、標的分子と発電酵素を保持した結合性物質の複合体を回収する工程、および
(ii)以下の工程からなる発電酵素による電気化学的変化により生じる電流を測定する工程、
(ii−1)該複合体と、発電酵素の基質(例えば、グルコース)および電子メディエーターを含む溶液を混合し反応溶液を調製する工程、
(ii−2)反応溶液を、電子メディエーター(および任意に該基質)を含む参照溶液とセパレータを介して連絡させるとともに、該反応溶液に検出電極を、該参照溶液に参照電極を配置する工程、
ここで、セパレータは、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜であり、電極は、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、
(ii−3)発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程、
からなる標的分子の検出方法。
【0010】
(2)試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(i−1)の工程が、以下の工程、
(a)標的分子と特異的に結合できかつ支持体に保持された他の結合性物質を、試料中の標的分子と反応させる工程、および
(b)支持体を回収することにより、他の結合物質を介して支持体に保持された標的分子を回収する工程、
からなる前記(1)に記載の検出方法。
(3)試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(ii−2)の工程が、
参照電極と検出電極のそれぞれを、内側および外側に配置した、電子メディエーター(および任意に該基質)を含む参照溶液を入れる容器を、反応溶液中に配置し、かつ該容器に参照溶液を入れることにより、該反応溶液中に該検出電極をおよび該参照溶液中に該参照電極を配置する工程、
ここで、参照溶液を入れる該容器は、下部に開口部を有し、該開口部はセパレータで覆われ、参照溶液は該セパレータを介して反応溶液と連絡する、
である、前記(1)または(2)に記載の検出方法。
【0011】
(4)前記発電酵素が、グルコースオキシダーゼであり、基質がグルコースである、(1)から前記(3)のいずれかに記載の検出方法。
(5)前記電子を電流として検出する工程において、検出のための測定開始後の所定時間後に検出された電流が、所定の値(iH)より大きい場合は、標的分子が存在するあるいはあらかじめ定めた規定値以上と評価し、所定の値(iL)より小さい場合は、標的分子が存在しないあるいはあらかじめ定めた規定値以下と評価し、iHとiLの間であった場合はさらに測定を続け追加の所定の時間後に再び検出された電流量を測定することにより標的分子の存在を評価する工程を含む、前記(1)から(4)のいずれかに記載の検出方法。
(6)前記所定時間が1〜3分である前記(5)に記載の検出方法。
【0012】
(7)前記発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程が、電流の測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにすることを含む、前記(1)から(6)のいずれかに記載の検出方法。
(8)前記標的分子が、タンパク質、ウィルス、食中毒菌または核酸である前記(1)から(7)のいずれかに記載の検出方法。
【0013】
(9)上部および下部が開口部となっている、中空の容器、
下部開口部を覆っている、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜、
該中空の容器の外側に沿って配置され、該中空容器の下部端の少なくとも一部より伸びている検出電極、および、
該中空容器の下部端の少なくとも一部を越えないように、該中空の容器の内側に沿って配置されているもう参照電極、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための検出用電極セル。
(10)前記中空の容器の外周が、略円形または略半円形であり、直径が0.3cm〜3.0cmである、前記(9)に記載の電極セル。
(11)前記中空の容器の外周が、略正方形であり、一片の長さが0.3cm〜3.0cmである、前記(9)に記載の電極セル。
(12)前記検出電極および参照電極が、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、前記(9)から(11)のいずれかに記載の電極セル。
【0014】
(13)前記(9)から(12)のいずれか一つに記載の電極セル、
試料中の標的分子を回収しかつ発電酵素による反応を行うための反応セル、
該電極セルの2つの電極のそれぞれに接続された電流電圧変換回路を含む電荷測定回路部、
該電流電圧変換回路部に接続され、所定の電流値に応じて、標的分子の存在の評価を行う情報処理部、および
該評価に応じて表示を行う表示部、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための装置。
(14)前記電荷測定回路が、電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにするためのスイッチを含む前記(13)に記載の装置。
【発明の効果】
【0015】
従来の提案では、電圧を検出するため、電極の蓄電容量などさまざまな不確定性要因によって結果が安定することは無く、実用化が困難な技術であったが、本発明の方法では、酵素の作り出す電子を電流として測定するため、定量性のある測定が可能であるとともに、短時間で標的分子の存在評価ができ迅速な測定が可能である。
また、本発明の方法では、この定量性を利用して、2種類の抗体を用いたサンドイッチ法によって検出対象分子の高感度検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の方法および装置において用いることができる電流電圧変換回路を示している。
【図2】図2は、本発明の方法による検出における判断の概略図を示している。
【図3】図3は、本発明の電極セル構造の概略図を示している。図3Aは、略円柱形の電極セル、図3Bは略正方形の電極セルを示している。図3Cは、本発明の電極セルの他の様式を閉めている。
【図4】図4は、本発明の電極セルの他の実施態様を示した図である。
【図5】図5は、本発明の電極セルに取り付けることができる保護容器(A)および蓋(B)を示した図である。
【図6】図6は、本発明の装置の構成の一例の概略を示した図である。
【図7】図7は、本発明の電極セルと反応セルの構成の概略を示した図である。
【図8】図8は、本発明の電極セルを挿入した際の測定の一例を模式的に示した図である。
【図9】図9は、本発明の装置の各構成要素を単一の装置とした場合の装置全体の様子を模式的に示したものである。
【図10】図10は、本発明の装置を用いて本発明の検出方法を実行した場合の判断手法を模式的に示したものである
【図11】図11は、本発明の電極セルを用いて作成した定量性試験の結果である。
【図12】図12は、発電酵素による反応開始後、本発明の電極セルを用いた測定開始までの時間の影響を検討した結果である。
【図13】図12の検討における、バックグランドの電流を測定した結果である。
【図14】図12および図13の結果に基づいて、明細書に記載のアルゴリズムに従って解析した結果を示した図である。
【図15】図15は、本発明の方法において、種々の電極を用いて検討した結果である。
【図16】図16は、本発明の方法において、種々のメディエーターを用いて検討した結果である。
【図17】図17は、本発明に方法における、メディエーターの濃度を検討した結果である。
【図18】図18は、本発明に方法において、種々のセパレータを検討した結果である。
【図19】図19は、本発明の方法に従った測定を、室温および40℃で行った結果である。
【図20】図20は、抗原抗体反応を用いて本発明の方法を実施した結果である。
【図21】図21は、ハイブリダイゼーション反応を用いて本発明の方法を実施した結果である。
【図22】図22は、本発明の方法を用いて、1ユニットのHBウィルスを検出した結果である。
【図23】図23は、本発明の方法を用いて、サルモネラ菌を検出した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の標的分子は、存在あるいは量を検出する対象となる物質を意味し、特に限定されないが、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAまたはRNA)、糖鎖、脂質、ウィルス、抗原をあげることができる。また、これらの物質を産生または有する細菌や細胞そのものも標的分子である。菌としては、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、カンピロバクター、リステリア菌、ウェルシュ菌、ノロウィルス等の食中毒菌をあげることができる。
【0018】
本発明で用いる発電酵素は、対応する基質と反応することにより電圧が生じかつ電子を放出できるものであればいずれでもよい。例えばグルコースオキシターゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸脱水素酵素、グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼなどが例示できるが、好ましくはグルコースオキシダーゼである。
また、発電酵素、例えばグルコースオキシダーゼは市販のものを用いることができるが、遺伝子組み換え技術を用いて、発電活性が改善されたグルコースオキシダーゼを用いることも可能である。
【0019】
本発明で用いる基質は、発電酵素の基質となり、発電酵素の反応に比例して電子の放出をもたらすものである。例えば、発電酵素グルコースオキシダーゼに対しては、グルコースが基質として用いられる。
【0020】
本発明で用いる支持体とは、磁気ビーズ、プラスチック容器またはプレートなど、標的分子と発電酵素との複合体を保持できるものであれば何でも良いが、好ましくは、磁気ビーズまたはプラスチック容器である。支持体への標的分子の結合は、吸着、親和性結合または共有結合など、標的分子を強固に支持体に結合できかつ洗浄等の操作により解離されないものであれば特に制限がなく、また直接であってもあるいは標的分子への結合性物質を介してでもよい。標的分子または標的分子への結合性物質を、吸着により支持体に固定する場合は、その後、ブロッキングを行う。親和性結合としては、アビジンービオチン結合をあげることができる。アビジンービオチン結合を用いる場合は、支持体または標的分子への結合物質にアビジンまたはビオチンを結合させ、他方にビオチンまたはアビジンに結合させることにより行うことができる。
【0021】
本発明の電極セルを用いた方法では、プラスチックプレートとして、例えば、マイクロタイタープレート、1.5mlエッペンチューブを用いることもできる。それにより、少量で、複数の試料を同時に迅速に測定することができる。
【0022】
本発明に用いる結合性物質とは、標的分子に特異的に結合するものであれば特に制限がないが、標的分子がたんぱく質または糖鎖、あるいはそれらを有する細菌や細胞等の場合は、好ましくは抗体をあげることができる。標的分子が、DNAやRNAの場合は、DNAプローブをあげることができる。
このように、本発明の方法によれば、標的分子としては抗原抗体反応を用いることでタンパク質や糖の検出が可能であるばかりでなく、核酸プローブを用いることでDNAやRNAなどを検出することが可能となり、従来の分子検出関連技術のほとんどすべてに応用することが可能である。
【0023】
本発明において、特異的結合後に、複合体を保持した支持体を回収する方法としては、遠心分離などの従来の方法を用いることができる。支持体として磁気ビーズを用いた場合は磁石により回収することも可能であり、また、結合性物質を支持体に固定した場合は、溶液を廃棄することにより回収することが可能である。回収する工程においては、夾雑物を除くために洗浄を行うことが好ましい。
【0024】
本発明で用いる電子メディエーターとは、酵素−電極間の電子移動を媒介して、つまり、酵素内部に存在する環化還元中心に電子を運ぶための低分子であり、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセンおよびその誘導体等が例示される。より具体的には、ベンゾキノン/ハイドロキノン、フェリシアン/フェロシアン化物(カリウムもしくはナトリウム塩)、フェリシニウム/フェロセンなどが挙げられる。フェナジンメトサルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジウムメチルサルフェイト、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールなどを用いてもよい。その他にも、オスミウム、コバルト、ルテニウムなどの金属錯体を用いることも可能である。水溶性の低い化合物をメデエーターとして用いる場合、有機溶媒を用いると、酵素自体の安定性を損なったり、酵素活性を失活させたりする可能性がある。そこで、水溶性を高めるために、ポリエチレングリコール(PEG)のような親水性高分子により修飾されたものを用いてもよい。好ましくは、フェリシアン化カリウムおよび2,6−ジクロロインドフェノールをあげることができる。反応系におけるメディエーター濃度は、1mM〜1M程度の範囲が好ましく、5〜500mMがより好ましく、10〜300mMが更に好ましい。
【0025】
本発明で用いるセパレータとは、捕捉した標的分子を測定するために、発電酵素による電子の発生による電気状態が変化した溶液と、そのような反応がない基準となる溶液を連絡させて、両溶液の電気状態の差を電流として検出するために用いるものである。セパレータとしては、分離膜、多孔性樹脂または素焼き板を用いることができる。好ましいセパレータは、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質から作られている膜であり、特に好ましくは、ナフィオン膜またはポリ塩化ビニリデン膜である。
【0026】
本発明で用いる電極は、上記両溶液に配置して、両溶液間の電気状態の差を電流として検出できるものであれば特に制限がないが、好ましくは金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である。具体的には、金電極、金/ポリフェニレンサルフィド蒸着電極、金/Crガラス蒸着電極、または金メッキしたプラスチックからなる電極である。
本発明においては、上記電極を、電流電圧変換回路を含む電荷測定回路部に接続して、発電酵素の反応を電流として検出する。電流電圧変換回路は、図1に示すようなオペアンプを利用した回路を用いることができる。
電源回路への電源の供給は、電池またはACアダプターの他、消費電力が少ないことから、PCのUSBからの給電でも可能である。
【0027】
本発明においては、検出された電流の大きさに応じて、試料中の標的分子の存在の有無を評価する。例えば、検出された電流が、所定の値(iH)より大きい場合は、標的分子が存在するまたはあらかじめ定めた所定値以上(つまり、陽性)との判断を行い、所定の値(iL)より小さい場合は、標的分子が存在しないまたはあらかじめ定めた所定値以下(つまり、陰性)との判断を行う。上記判断は、電流測定開始後の所定の時間(T1時間)後までは初期変動期として考慮せず、T1時間を検出のための測定開始時間とし、その後の所定時間(T2)後、例えば1〜5分後、好ましくは1〜3分後、さらに好ましくは1分後に判断を行うことにより、迅速に標的分子の存在の有無を評価できる。T1からT2時間までの間に、検出された電流が単調増加(あるいは一定間隔の2点における傾きがプラス)する場合または所定の値(iH)より大きい場合は陽性との判断を行い、電流が単調減少または同値推移(あるいは一定間隔の2点における傾きがマイナスまたはゼロ)する場合または所定の値(iL)より小さい場合は陰性との判断を行うことにより迅速な判断ができるとともに、上記所定の値(iHおよびiLの間)である場合は、要精密計測との判断を行い継続して測定を行って所定の値(iH)を超えた場合には陽性、所定の値(iL)を下回った場合には陰性、さらに所定の時間(T3)後、例えば5〜30分後、好ましくは約5〜10分後まで測定を延長し、測定値がT2時点よりも増加した場合は陽性、減少した場合には陰性との判断をすることができる。その後、測定終了(Te)となる。
これにより、単一の方法または装置を用いて、迅速な検出が可能であると同時に精密な検出が可能となる。
【0028】
上記中のTs、T0、T1、T2、T3、Teを次のように定義する。
Ts:酵素反応の開始時間
T0:電極あるいは電極セルを反応セルに挿入した時間
T1:初期変動の影響をうけない測定開始時間(好ましくは1分)
T2:迅速測定を判断する時間(好ましくはT1から1分)
T3:精密測定を判断する時間(好ましくはT1から10分)
Te:測定終了
【0029】
本発明に方法によれば、発電酵素の反応により検出される電流は、反応開始後1分程度で判定のために十分なレベルで検出可能であるとともに、反応開始後30分程度まで安定して検出可能である。従って、複数の反応を一度に開始した後各々の試料一つずつ検査機で検査することが可能であるので、複数の試料の検査に適している。
【0030】
本発明の方法による判断の一例を図2に模式的に示す。これにより、迅速な判断が可能であるとともに、試料中に標的分子が微量に存在する場合等は、より精密な測定が可能となる。
また、本発明の方法においては、発電酵素の反応量に応じた電流を検出することが可能であるので、試料中に標的分子の存在が確認された場合はさらに、試料中の標的分子の量を、あらかじめ求めた検量線に従って決定できる。
【0031】
国際公開第2009/039136号公報において提案されている装置においては、電気的信号を検出するための検出部をもった反応容器中に測定試料を入れて反応を開始し、発生する電気的信号を測定していた。しかしながら、検出される電気的信号が、反応開始時および反応継続時においても安定せず、検出感度が十分に得られず、また、定量的な検出はできなかった。
【0032】
本発明の方法においてはまた、電流の検出において、反応溶液中で発電酵素による反応が開始した後、一定時間、例えば、0〜60分、好ましくは1〜30分経過した後、電極を溶液中に挿入し、電流を測定することもできる。これにより、安定的に電流が検出でき、より高感度で定量的な検出が可能となる。
【0033】
本発明の方法においては、電極挿入時のスパイクノイズを低減するための工程を含むことができる。例えば、挿入時から測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された静電気を低減または除去し、その際には電流電圧変換回路側の回路を開いておくことで出力電圧をゼロにすることができる。また、電極挿入後X秒後に短絡回路を開いて電極が電流測定回路に接続された形にすることで、スパイクノイズを低減することができる。これらの工程は、好ましくは、電極挿入と連動したスイッチを用いることにより達成できる。
【0034】
本発明の検出方法は、以下の2つの工程を含む。
(i)標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する工程、および
(ii)発電酵素による電気化学的変化により生じる電流を測定する工程。
本発明の方法の(i)の工程においては、標的分子と結合性物質との特異的結合性を用いて、標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する。具体的には、結合性物質を介して標的分子と発電酵素の複合体を形成する。標的分子と発電酵素の複合体は、標的分子と支持体の結合は、直接または標的分子に特異的に結合する他の結合性物質を介して行われ、それにより、標的分子と発言酵素の複合体が支持体に保持され、効率よく回収される。
具体的には、本発明の方法において、支持体−標的分子−結合性物質−発電酵素の複合体、または支持体−他の結合性物質−標的分子−結合性物質−発電酵素の複合体が形成される。
これらの複合体を形成する方法は、抗原抗体反応を初めとする特異的結合を用いた技術分野に公知の方法で行うことができる。
【0035】
本発明の(ii)の工程においては、支持体に保持された標的分子と発電酵素の複合体中の発電酵素の化学的変化により生じる電流を測定することにより、標的分子の存在または量を測定する。より具体的には、複合体中の発電酵素を基質と反応させることにより、電子を発生させ、それを電流として検出することにより測定を行う。
発電酵素の反応は、発電酵素を含む複合体が回収されている容器中に、発電酵素の基質および電気メディエーターを含む反応溶液を加えることにより起こる。
発電酵素の反応を電流として測定するためには、発電酵素による反応が起こっていない溶液(参照溶液)と反応溶液を、セパレータを介して連絡させ、かつそれぞれの溶液に電極(参照溶液に参照電極、反応溶液に検出電極)を配置することが必要である。好ましくは、容器の外側と内側にあらかじめ電極が配置され、容器の下部にセパレータを有する参照溶液を入れる容器を、反応溶液に挿入するとともに容器中に参照溶液を添加することにより、電極の配置とセパレータによる両溶液の連絡を同時に行う。さらには、あらかじめ参照容器中に参照溶液を入れた後、参照容器を反応溶液中に挿入することも可能である。
参照溶液は、反応溶液と同じ濃度の同じ電子メディエーターを含む。好ましくは、さらに反応溶液と同じ濃度の基質を含む。
発電酵素の反応により発生した電子は、本明細書に記載の測定装置および測定原理を用いて測定される。
【0036】
特異的結合性物質として抗体を用いた本発明の方法の実施態様の一つにおいて、抗体を結合させた反応セル内において、発電酵素を化学結合させた抗体を用いてサンドイッチ式抗原抗体反応を行わせ、次いで、発電酵素の反応により発生する電流を測定する。具体的は、以下の工程を含む。
1.検査したい対象物を水溶液等に溶かし、一部を検体として固形物の無い状態で分取する、
2.抗体を結合させた反応セルに検体を入れて、発電酵素を結合させた抗体を含む溶液内において、サンドイッチ法1Step抗原抗体反応を起こさせる、
3.反応液をとりのぞき、洗浄液を加えて放置後、洗浄液を除去する、
4.発電酵素の基質とメディエーターを含む反応液を入れる、
5.電極を入れ、電流を測定する、
6.電流の発生パターンを分析アルゴリズムに従って解析し、陽性陰性の判定を行う。または、規定された一定時間の反応測定値による試料の定量化を行う。
【0037】
本発明の方法は、遺伝子増幅法であるPCR法組み合わせることも可能である。例えば、PCRプライマーの一方に吸着因子(磁気ビーズなど)、一方に発電酵素を結合させることにより、PCR反応が進んだ場合だけ発電酵素が吸着系に回収されることを利用して、PCR反応の検定をすることも可能である。本発明に方法によれば、RealTimePCRに比べて安価な機器で、またPCR反応物を電気泳動する場と比較して短時間で検出することが可能となる。
【0038】
本発明の電極セルの構造の概略図を図3に示す。電極セルは、上部および下部が開口部になっている本体部(1)、下部開口部を覆っている、好ましくは膜であるセパレータ(2)、本体部の外側に沿って配置され本体部の少なくとも下部端の一部より伸びている参照電極(3)、および本体部の少なくとも下部端の一部を越えないように本体部の内側に沿って配置されている検出電極(4)からなる。
本体部は、上部および下部が開口部であれば、その形は特に限定されないが、例えば、図3Aに示すように略円柱形または図3Bに示すように略正方形であるが、好ましくは、略円柱形である。また、本体部は、図3Cに示すように、下部が傾斜断面を有していても良く、また、半円形であっても良い。さらに、操作しやすいように、電極セルは、図3Cに示すように、つまみ部分を有していても良い。
【0039】
本発明の電極セルの他の実施態様を図4に示す。本体部(1)の上に連結部(5)を構成して、本体部、検出電極(4)および参照電極(3)が一体となるように構成することもできる。本体部は、下部に傾斜した開口部を有し、反応溶液と参照溶液を連絡させる好ましくは膜であるセパレータ(2)を有する。参照電極は、本体部の下部端の少なくとも一部より上に位置し、そして検出電極は本体部の下部端の一部より下に位置している。
【0040】
本体部は、その外周が略円形または略半円形である場合は、その直径(半円形の場合は、直線部分の長さを意味する)は、特に限定はされないが、通常の目的においては、0.3cm〜6.0cm、好ましくは、0.3cm〜3.0cm、さらに好ましくは、0.5cm〜2.0cmである。
本体部は、その外周が略正方形である場合は、その一片の長さは、通常の目的においては、0.3cm〜6.0cm、好ましくは、0.3cm〜3.0cm、さらに好ましくは、0.5cm〜2.0cmである。
本体部の長さは、特に限定はされないが、通常の目的においては、0.5cm〜10cm、好ましくは、1.0cm〜5.0cm、さらに好ましくは、1.0cm〜4.0cmである。
【0041】
本体部は、絶縁性であれば特にその材質は制限されないが、好ましくは、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのプラスチックである。また、その中に試薬を保存することも可能であり、かかる場合は、耐試薬性プラスチックが好ましく、さらには、遮光性を付与するために褐色とするのが好ましい。
【0042】
電極は、良好な導電性を有し、発電酵素により発生する電子を捕捉して十分な電流を伝達できるものであれば本発明において用いることができ、例えば金やプラチナを上げることができるが、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金が好ましく用いられる。
【0043】
電極セルは、必要に応じ、図5Aに示すような、電極を保護する保護容器をその外側に有するのが好ましい。また、図5Bに示すような蓋をつけることもできる。
電極と容器を一体化し電極セルを構成して装置にアタッチすることで、検査結果が陰性である限りは再利用ができる。
【0044】
本発明の装置の構成の一例の概略図を図6に示す。本発明の装置は、電極(電極セル)、反応セル(図示せず)、電荷測定回路部、情報処理部および表示部を含む装置である。好ましくは、電極と増幅回路の間にスイッチを設置し、電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにすることができる。本発明の装置に用いる電荷測定回路部は、増幅回路とA/D変換回路を有し、電極セルの2つの電極のそれぞれに接続され、発電酵素の反応により発生する電子を電流に変換する。情報処理部は、公知の情報処理のための構成を用いることができるが、例えば、マイクロプロセッサー、およびそれに連結された表示回路、電源回路およびインターフェイス通信回路からなる。装置に用いる情報処理部は、電荷測定回路部に接続され、所定の電流値に応じて、上記した、評価のためのアルゴリズムを実行し、標的分子の存在の評価を行う。
【0045】
本発明の装置に用いる電極セルは上記したものである。
本発明の装置は、試料中の標的分子を回収しかつ発電酵素による反応を行うための容器である反応セルを有する。測定においては、反応セルは電極セルと連結され、反応セル中での発電酵素による反応により生じる電子を、反応セル中の検出電極および電極セル中の参照電極を介して、電流として検出する。
【0046】
本発明の装置に用いる反応セルは、その中で発電酵素の反応を行えるものであれば特に制限がないが、好ましくは、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのプラスチックで作られているものが、操作性およびコストの面から好ましい。反応セルの形、大きさおよび長さは、電極セルがその中に収納できるものであれば特に制限がないが、形は電極セルと類似の形が好ましく、大きさは電極セルより少し大きめの外径を有するものが好ましい。例えば、図7に示すように、反応セル(6)は、電極セルと同様の形を有し、電極セルの外径より少し大きな外径を有し、電極セルをその中に収納した時に、電極セルのセパレータ(分離膜)の下に発電酵素による反応を行うのに十分な領域を有するものである。
【0047】
また、電極セルを挿入した際の測定の一例を模式的に示したものを、図8に示す。このように、本発明の方法及び装置を用いれば、少量の測定系において標的物質を測定できる。
測定感度は反応セル中の発電酵素濃度つまり反応液中の試料中に含まれる標的物質濃度に比例するので、反応セルは簡易操作が可能な範囲で小容量であることが好ましい。従って反応セルの外形は図8に示すような形状とすることで、内容量を小さく、液切れを良くし、かつ外形状を大きくすることで操作性を確保することができる。
【0048】
本発明の装置に用いる電荷測定回路部は、電極セルの電極に接続して、発電酵素により発生する電子を検出しそれを電流に変換できるものであれば特に制限がないが、電流電圧変換回路は、例えば、図1に示すようなオペアンプを利用した回路を含むことができる。本発明の装置に用いる情報処理部は、電荷測定回路部に接続され、所定の電流値に応じて、標的分子の存在または非存在の評価を行えるものであれば特に制限がなく、マイクロコンピューター、マイクロチップその他の情報処理デバイスをあげることができる。
本発明の装置に用いる表示部は、情報処理部からの情報に応じてその結果を表示できるものであれば特に制限がなく、液晶ディスプレーの他、特定の色を表示できるようにしたランプであっても良い。
本発明の装置においては、電源回路への電源の供給は、電池またはACアダプターの他、消費電力が少ないことから、PCのUSBからの給電でも可能である。
また、本発明の装置においては、例えば、図9に示すように、上記各構成を単一の装置内に配置し、持ち運びが可能な装置とすることもできる。また、USB端子を介してパソコンと接続することにより、データの管理や複雑な測定条件の検討、解析結果のネットワークを通じた転送、測定ソフトウェアのネットワークを通じたダウンロードなどが可能となる。
本発明の装置による測定においてはパソコンへの接続は必要ではなく、本体のみで判定結果をLED表示することが可能であり、検査結果をメモリーカードへ記録することが可能である。
【0049】
本発明の装置において、試料中に標的分子が存在するか否かの判断は以下のようにして行える。T1時間後までは初期変動期として考慮せず、T2時間までの間に単調減少する場合、またはiL以下になった場合には反応は起こっていないと考え、陰性と判断され、本発明の装置においては、例えば緑ランプを点灯させる。一方、T2時間でiH以上の電流値を計測すれば、陽性と判断され、本発明の装置においては、赤ランプを点灯させる。
もし、iHとiLの間の測定値を示した場合には、精密計測モードになり(例えば、黄色点滅→黄色点灯)T3時間まで測定を延長し、T2時点よりも増加した場合には陽性、減少した場合には陰性と判定することができる。iHまたはiLを超えた場合にはその時点で陽性または陰性判定することができる。
本発明の方法による判断の一例を図10に模式的に示す。これにより、迅速な判断が可能であるとともに、試料中に標的分子が微量に存在する場合等は、より精密な測定が可能となる。
【0050】
本発明の装置においては、電極挿入時のスパイクノイズを低減するため、電極挿入と連動したスイッチを含むことができ、スイッチの作用により、例えば、挿入時から測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された静電気を除去または低減し、その際には電流電圧変換回路側の回路を開いておくことで出力電圧をゼロにすることができる。また、電極挿入後X秒後にスイッチを作動させ、短絡回路を開いて電極が電流測定回路に接続された形にすることで、スパイクノイズを低減することができる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)定量性試験
本発明の電極付きセルを用いて、反応により発生する電流を測定した。内径の異なる2種類のポリスチレン製ストロー(大創産業)を3cm(直径4mmのもの)ないしは2cm(直径5mmのもの)にカットし、1cm平方程度のナフィオン膜(デュポン社)を一方の先端に挟み込むように2本ストローを重ね合わせた。金リボン(ニラコ)は4cmに2本カットし、ストロー内に挿入する一方、ストロー外側には絶縁テープにて固定した。ストロー容器内に反応緩衝液100μl(400mMフェリシアン化カリウム、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を添加した。
96ウェルセルプレートを用い、各ウェルにそれぞれ終濃度の異なるグルコースオキシターゼを加えた反応緩衝液90μl(400mMフェリシアン化カリウム、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を加え、そこに試料10μl(200mMグルコース、2Mリン酸緩衝液(pH6.0を添加して40℃で30分酵素反応をさせながら発生電流を測定した。30分後の発生電流の差分を用いて検量線を作成した。それぞれの測定結果を図11に示す。
【0052】
(実施例3)発生電流の測定
本発明の電極付きセルを用いて、反応により発生する電流を測定した。内径の異なる2ス種類のポリスチレン製ストロー(大創産業)を3cm(直径4mmのもの)ないしは2cm(直径5mmのもの)にカットし、1cm平方程度のナフィオン膜(デュポン社)を一方の先端に挟み込むように2本ストローを重ね合わせた。金リボン(ニラコ)は4cmに2本カットし、ストロー内に挿入する一方、ストロー外側には絶縁テープにて固定した。
96ウェルセルプレートを用い、各ウェルに終濃度150ng/mlになるようにグルコースオキシターゼを加えた反応緩衝液90μl(200mMフェリシアン化カリウム、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を加え、そこに試料10μl(200mMグルコース、2Mリン酸緩衝液(pH6.0を添加して、室温にて反応を行った。
発生する電流の測定は、以下のようにして行った。反応緩衝液にあらかじめ電極付きセルを入れておき、そこに試料を添加して発生する電流を測定したものを参照例とし、一方、反応緩衝液に試料を加えた後、5〜30分間放置し、その後電極付きセルを反応液に挿入して発生する電流を測定したものを実施例とした。放置時間は、300秒、600秒、1200秒、1800秒とした。それぞれの測定結果を図13に示す。
【0053】
これにより、反応開始後一定時間経過した後に、電極付きセルを反応液にいれ発生電流を測定すると、濃度に依存した電流発生を検出できることが判った。さらに、また、対照として発電酵素を加えない場合のバックグラウンドを、上記と同様にして測定した。結果を、図13に示す。
【0054】
得られた波形を以下のアルゴリズムに従って解析した。結果を図14に示す。
【0055】
(実施例3)電極の検討
50ml遠心管に、2Mリン酸緩衝液(pH6.0)および10mM2,6−ジクロロインドフェノールを97:3の比率にて混合した溶液8ml(緩衝液A)を用意した。100mMグルコース水溶液2mlを、15ml遠心管を約3cmにカットしてナフィオン膜を接着剤で接着したポリプロピレン製電極セルに加えた。その後、各電極素材(Au(ニラコ、AU−170264)、Au/Cu(栄電子工業、CuにAuをメッキしたもの)、Au/Pd/Cu(栄電子工業、CuにPdとAuを順位メッキしたもの)、ステンレス(ニラコ、751387)、インコネル(ニラコ、AU−525487)、Au/PPS(CP films、AuARE)および金蒸着したガラス(レクザム社製)、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を挿入し、セルに緩衝液Aを200μl添加した。次いで、金リボンを接続し、5μg/mlのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を10μl添加して、室温で30分反応させ、発生電流を測定した。30分後の発生電流の差分を用いて、各電極の評価を行った。それぞれの電極について、反応および測定(実験数が3)を行いデータの平均値を用いた。
結果を図15に示す。
【0056】
また、それぞれの電極素材につきS/N比を求めた。結果を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
この結果より、GOXの存在の判定には、電極素材としては、Auが適していることが判った。また、ポシフェニレンサルフィド(PPS)またはガラス蒸着したAuについても、同様に適していることが判明した。
Auメッキ媒体においては、相対的に金属媒体にメッキ処理をするとS/N比に大きな影響を与えることが判った。これらの結果より、AuまたはAu蒸着非導電性媒体が、電極として適していることが判った。
【0059】
(実施例4)メディエーターの検討
メディエーターとして、2,6−ジクロロインドフェノールとフェリシアン化カリウムを検討した。
メディエーター溶液として300μM2,6−ジクロロインドフェノール/20mMグルコース/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)と200mMフェリシアン化カリウム/20mMグルコース/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を用意した。
96ウェルマイクロプレートの、ウェル内に、メディエーター溶液を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、同じメディエーター溶液を100μl添加し、金リボンをセルの内側に挿入し、測定システムに金リボンをそれぞれ接続した。電流測定開始後、約5分後に、5μg/mlのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)溶液をウェル側に10μl添加した。電流の測定結果を図16に示す。
【0060】
次いで、フェリシアン化カリウムの濃度の影響を検討した。
20mMグルコース/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)中に、終濃度が0.32〜500mMフェリシアン化カリウムになるように調製した各濃度のメディエーター溶液を作成した。96ウェルマイクロプレートのウェル内に、各メディエーター溶液を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、同じメディエーター溶液を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に5μg/mlのグルコースオキシターゼ/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。
結果を図17に示す。
【0061】
100〜500mMの濃度において良好な結果が得られた。しかし400mMおよび500mMの濃度の溶液は、数日保存すると析出が見られた。従って、キット等に用いるためには溶液として、100〜300mMの濃度が適していると判った。
【0062】
(実施例5)セルのセパレータの検討
96ウェルマイクロプレートのウェル内に、終濃度が1.7μg/mlとなるようにグルコオキシダーゼを添加した200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に200mMのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。
【0063】
ナフィオン膜(フッ素系陰イオン交換膜)のかわりに、サランラップ(ポリ塩化ビニリデン)、セレミヨンAMV(セルロース膜:陰イオン交換膜)、セレミヨンCMV(セルロース膜:陰イオン交換膜)、DEAEセルロース(DE81:陰イオン交換濾紙)およびリン酸セルロース(P81:陽イオン交換濾紙)を用いて同様の実験を行った。結果を図18に示す。
【0064】
下記表2に示すように、それぞれの膜を用いた場合のS/N比を比較したところ、ナフィオン膜、サランラップ、DE81およびP81で良好な結果を示した。
【0065】
【表2】
【0066】
(実施例6)温度条件の検討
1.5mlエッペンチューブに、終濃度が50ないしは0ng/mlとなるようにグルコオキシダーゼを添加した200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に200mMのグルコースオキシダーゼ/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。結果を図19に示す。
【0067】
(実施例7)抗原抗体反応を用いた測定
ウシ血清アルブミン(BSA)をコートしたマイクロプレートに、発電酵素標識した抗体を加えて、特異的反応に基づく電流発生を測定した。
BSA(Bethyl社製)が5μg/mlになるように調製したBSA/PBS緩衝液を、96ウェルマイクロプレートに100μlづつ分注し、2時間緩やかに撹拌しながらBSAをマイクロプレートに固定した。溶液を廃棄し、0.05%Tween20を含むPBS溶液を200μlづつ各ウェルに添加し廃棄する洗浄工程を3回繰り返した。その後、Blocking One(Nacalai Tesque社製)をメーカーのプロトコルに従い調製し、ブロッキング剤を各ウェルに200μl添加した。一晩放置した後、再度溶液を廃棄し、次いで、0.25%Tween20を含むPBS溶液(200μl)で3回洗浄を行った。
【0068】
その後、各濃度に調製したグルコースオキシダーゼ標識抗BSA抗体(T.Kクラフト社受託製造品)を、Blocking Oneをメーカープロトコルに従い調製したELISA希釈液にて希釈した溶液を100μl添加し、1時間緩やかに撹拌した。その後、溶液を廃棄し、0.05%Tween 20を含むPBS溶液(200μl)を用いて3回洗浄を行った。
その後96ウェルマイクロプレートのウェル内に、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約3分に200mMのグルコース/2Mリン酸緩衝液をウェル側に10μl添加した。上記の操作は、すべて常温で行った。結果を図20に示す。
【0069】
(実施例8)ハイブリダイゼーションを用いた測定
磁気ビーズ(DynaBeads MyOne Streptabdin T1、ベリタス社)50μlに対して、メーカー推奨のプロトコルに準じてboitylated ssDNA(5’ GGTAGCGATGG 3’)200pmolを、アジビンービオチン結合を介して固定した後、マグネットを用いて磁気ビーズのみを回収した。それを200μlのdistrilled H20に溶解した。
別途、磁気ビーズに固定したDNA配列に対して、完全一致配列のBiotylated ssDNA(5’ CCATCGCTACC 3’)および、1塩基ミスマッチ配列のBiotylated ssDNA(5’ CCATCCCTACC 3’)を準備し、それぞれを、1xSSC/0.1%SDSバッファーで、100nMになるように希釈した。
【0070】
96ウェルマイクロプレートのウェル内に、Biotylated ssDNA(5’ CCATCGCTACC 3’)溶液とBiotylated ssDNA(5’ CCATCCCTACC 3’)溶液を、それぞれ100μl添加し、上記の磁気ビーズを10μl添加し、3分間、室温で緩やかに撹拌した。その後、マグネットを用いて磁気ビーズを回収し、0.5xSSC/0.1%SDSバッファーを200μl添加し、さらに3分間緩やかに撹拌した後、磁気ビーズを回収し洗浄を行った。この洗浄操作を合計3回繰り返した。
【0071】
アビジングルコースオキシダーゼ(Rockland社製)を、0.05% Tween20を含むPBS溶液で希釈して、10ng/ml溶液を作成した。それを各ウェルに10μlづつ添加し、30分間室温で緩やかに撹拌した。その後、マグネットを用いて磁気ビーズのみを回収し、0.2xSSC/0.1%SDSバッファーを200μl添加し、3分間緩やかに撹拌後、磁気ビーズを回収し洗浄を行った。次いで、0.5xSSC/0.1%SDSバッファーを200μl添加し、同様にして、洗浄操作を3回行った。
【0072】
マグネットを用い磁気ビーズのみを回収し、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、金リボン、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)を順に挿入した後、200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加し、さらに金リボンを挿入した。電流測定開始後、約5分に200mMのグルコース/2Mリン酸緩衝液を10μl添加した。30分反応後に、発生電流を測定し、発生電流値の差分を用いて評価を行った。各条件の平均値はそれぞれ3つのデータの平均値を用いた。結果を図21に示す。
これにより、DNAを標的分子とした場合でも、本発明に方法により測定できることが示された。
【0073】
(実施例9)B型肝炎ウィルスの測定
本発明の定量可能性を利用して、2種類の抗体と磁性粒子を用いたサンドイッチ法によって検出対象分子の高感度検出を行うことができた。1単位のヒトB型肝炎ウィルスの有る無しの場合について、磁性粒子を結合させたB型肝炎ウィルス抗体と、GOxを結合させた別のB型肝炎ウィルス抗体を用いて、ウィルスの検出を以下のようにして行った。
磁性粒子を結合させたB型肝炎ウィルス抗体を、Genway社から購入した抗体をビオチンラベルしたものと、アビジンが結合した磁性粒子とを混ぜて作成した。
また、グルコースオキシダーゼを結合させたB型肝炎ウィルス抗体を、Genway社から購入した別の抗体をInnovaBioscience社から購入したGOX結合キットを用いて作成した。1単位のヒトB型肝炎ウィルス抗原を含有する水溶液(溶液1)と、ウィルス抗原を含有しない水(溶液2)を用意し、各試料に磁性粒子を結合させたB型肝炎ウィルス抗体1と、グルコースオキシダーゼを結合させた別のB型肝炎ウィルス抗体2を良く混合し、磁石で吸着させながら残余物を除去し、試料処理液を得た。その後、実施例1で用いたのと同様にして、ナフィオン膜で隔てられたリン酸緩衝液の両側に電極を置き、陰極側に試料処理液、次いでグルコースを最終濃度が20mMになるように添加し、両電極間に流れる電流を同様にして測定した。測定結果を図22に示す。この結果より、1単位のヒトB型肝炎ウィルス抗原の検出が可能であることが判った。
【0074】
(実施例10)サルモネラ菌の測定
サルモネラ免疫血清O9群(デンカ生研製)をプロテインAにより精製した抗体を5μg/mlになるようにPBSにより調製し溶液を、96ウェルマイクロプレートに100μlづつ分注し、2時間緩やかに撹拌しながら抗体をマイクロプレートに固定した。溶液を廃棄し、0.05%Tween20を含むPBS溶液を200μlづつ各ウェルに添加し廃棄する洗浄工程を3回繰り返した。その後、Blocking One(Nacalai Tesque社製)をメーカーのプロトコルに従い調製し、ブロッキング剤を各ウェルに200μl添加した。一晩放置した後、再度溶液を廃棄し、次いで、0.25%Tween20を含むPBS溶液(200μl)で3回洗浄を行った。
サルモネラ免疫血清O9群(デンカ生研製)をプロテインAにより精製し、更にグルコースオキシダーゼを修飾した抗体(TKクラフト受託製造)に12μg/mlになるように、Blocking Oneをメーカープロトコルに従い調製したELISA希釈液 50μlを先に分注し、その後、緩衝ペプトン水(日水製薬)により培養したサルモネラ培養液(東京都健康安全研究センター供与)および大腸菌培養液(NBRC3301株)をPBSを用いて、5.0x108 CFU/mlに調整し、それぞれウェルに50μlずつ分注し1時間緩やかに撹拌した。溶液を廃棄し、次いで、0.25%Tween20を含むPBS溶液(200μl)で3回洗浄を行った。
その後96ウェルマイクロプレートのウェル内に、200mMのグルコース/200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を100μl加えた。その後、ポリプロピレン製電極セル(ナフィオン膜付き)の外側に沿うように金リボンを絶縁テープで固定し、内側に200mMフェリシアン化カリウム/2Mリン酸緩衝液(pH6.0)を電極セル内に100μl添加した電極セルを、上記酵素反応後約1分後に挿入した。上記の操作は、すべて常温で行った。結果を図23に示す。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の方法により、任意の生物学的標的物質を、迅速かつ高感度で、特には定量性をもって検出することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 本体部
2 セパレータ
3 参照電極
4 検出電極
5 連結部
6 反応セル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的分子の検出方法であって、
(i)以下の工程からなる標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する工程、
(i−1)標的分子を支持体に保持させた後、支持体を回収することにより標的分子を回収する工程、
(i−2)標的分子と特異的に結合できかつ発電酵素を保持した結合性物質と、標的分子を反応させる工程、および
(i−3)支持体を回収することにより、標的分子と発電酵素を保持した結合性物質の複合体を回収する工程、および
(ii)以下の工程からなる発電酵素による電気化学的変化により生じる電流を測定する工程、
(ii−1)該複合体と、発電酵素の基質および電子メディエーターを含む溶液を混合し反応溶液を調製する工程、
(ii−2)反応溶液を、電子メディエーターを含む参照溶液とセパレータを介して連絡させるとともに、該反応溶液に検出電極を、該参照溶液に参照電極を配置する工程、
ここで、セパレータは、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜であり、電極は、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、
(ii−3)発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程、
からなる標的分子の検出方法。
【請求項2】
試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(i−1)の工程が、以下の工程、
(a)標的分子と特異的に結合できかつ支持体に保持された他の結合性物質を、試料中の標的分子と反応させる工程、および
(b)支持体を回収することにより、他の結合物質を介して支持体に保持された標的分子を回収する工程、
からなる請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(ii−2)の工程が、
参照電極と検出電極のそれぞれを、内側および外側に配置した、電子メディエーターを含む参照溶液を入れる容器を、反応溶液中に配置し、かつ該容器に参照溶液を入れることにより、該反応溶液中に該検出電極をおよび該参照溶液中に該参照電極を配置する工程、
ここで、参照溶液を入れる該容器は、下部に開口部を有し、該開口部はセパレータで覆われ、参照溶液は該セパレータを介して反応溶液と連絡する、
である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記発電酵素が、グルコースオキシダーゼであり、基質がグルコースである、請求項1から3のいずれかに記載の検出方法。
【請求項5】
前記電子を電流として検出する工程において、検出のための測定開始後の所定時間後に検出された電流が、所定の値(iH)より大きい場合は、標的分子が存在するあるいはあらかじめ定めた規定値以上と評価し、所定の値(iL)より小さい場合は、標的分子が存在しないあるいはあらかじめ定めた規定値以下と評価し、iHとiLの間であった場合はさらに測定を続け追加の所定の時間後に再び検出された電流量を測定することにより標的分子の存在を評価する工程を含む、請求項1から4のいずれかに記載の検出方法。
【請求項6】
前記所定時間が1〜3分である請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
前記発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程が、電流の測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにすることを含む、請求項1から6のいずれかに記載の検出方法。
【請求項8】
前記標的分子が、タンパク質、ウィルス、食中毒菌または核酸である請求項1から7のいずれかに記載の検出方法。
【請求項9】
上部および下部が開口部となっている、中空の容器、
下部開口部を覆っている、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜、
該中空の容器の外側に沿って配置され、該中空容器の下部端の少なくとも一部より伸びている検出電極、および、
該中空容器の下部端の少なくとも一部を越えないように、該中空の容器の内側に沿って配置されているもう参照電極、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための検出用電極セル。
【請求項10】
前記中空の容器の外周が、略円形または略半円形であり、直径が0.3cm〜3.0cmである、請求項9に記載の電極セル。
【請求項11】
前記中空の容器の外周が、略正方形であり、一片の長さが0.3cm〜3.0cmである、請求項9に記載の電極セル。
【請求項12】
前記検出電極および参照電極が、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、請求項9から11のいずれかに記載の電極セル。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一つに記載の電極セル、
試料中の標的分子を回収しかつ発電酵素による反応を行うための反応セル、
該電極セルの2つの電極のそれぞれに接続された電流電圧変換回路を含む電荷測定回路部、
該電流電圧変換回路部に接続され、所定の電流値に応じて、標的分子の存在の評価を行う情報処理部、および
該評価に応じて表示を行う表示部、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための装置。
【請求項14】
前記電荷測定回路が、電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにするためのスイッチを含む請求項13に記載の装置。
【請求項1】
試料中の標的分子の検出方法であって、
(i)以下の工程からなる標的分子および発電酵素を含む複合体を形成する工程、
(i−1)標的分子を支持体に保持させた後、支持体を回収することにより標的分子を回収する工程、
(i−2)標的分子と特異的に結合できかつ発電酵素を保持した結合性物質と、標的分子を反応させる工程、および
(i−3)支持体を回収することにより、標的分子と発電酵素を保持した結合性物質の複合体を回収する工程、および
(ii)以下の工程からなる発電酵素による電気化学的変化により生じる電流を測定する工程、
(ii−1)該複合体と、発電酵素の基質および電子メディエーターを含む溶液を混合し反応溶液を調製する工程、
(ii−2)反応溶液を、電子メディエーターを含む参照溶液とセパレータを介して連絡させるとともに、該反応溶液に検出電極を、該参照溶液に参照電極を配置する工程、
ここで、セパレータは、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜であり、電極は、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、
(ii−3)発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程、
からなる標的分子の検出方法。
【請求項2】
試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(i−1)の工程が、以下の工程、
(a)標的分子と特異的に結合できかつ支持体に保持された他の結合性物質を、試料中の標的分子と反応させる工程、および
(b)支持体を回収することにより、他の結合物質を介して支持体に保持された標的分子を回収する工程、
からなる請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
試料中の標的分子の検出方法であって、
前記(ii−2)の工程が、
参照電極と検出電極のそれぞれを、内側および外側に配置した、電子メディエーターを含む参照溶液を入れる容器を、反応溶液中に配置し、かつ該容器に参照溶液を入れることにより、該反応溶液中に該検出電極をおよび該参照溶液中に該参照電極を配置する工程、
ここで、参照溶液を入れる該容器は、下部に開口部を有し、該開口部はセパレータで覆われ、参照溶液は該セパレータを介して反応溶液と連絡する、
である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記発電酵素が、グルコースオキシダーゼであり、基質がグルコースである、請求項1から3のいずれかに記載の検出方法。
【請求項5】
前記電子を電流として検出する工程において、検出のための測定開始後の所定時間後に検出された電流が、所定の値(iH)より大きい場合は、標的分子が存在するあるいはあらかじめ定めた規定値以上と評価し、所定の値(iL)より小さい場合は、標的分子が存在しないあるいはあらかじめ定めた規定値以下と評価し、iHとiLの間であった場合はさらに測定を続け追加の所定の時間後に再び検出された電流量を測定することにより標的分子の存在を評価する工程を含む、請求項1から4のいずれかに記載の検出方法。
【請求項6】
前記所定時間が1〜3分である請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
前記発電酵素反応により発生する電子を電流として検出する工程が、電流の測定開始前に電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにすることを含む、請求項1から6のいずれかに記載の検出方法。
【請求項8】
前記標的分子が、タンパク質、ウィルス、食中毒菌または核酸である請求項1から7のいずれかに記載の検出方法。
【請求項9】
上部および下部が開口部となっている、中空の容器、
下部開口部を覆っている、ナフィオン、ポリ塩化ビニリデン、DEAEセルロース、およびリン酸セルロースからなる群より選ばれる物質からなる膜、
該中空の容器の外側に沿って配置され、該中空容器の下部端の少なくとも一部より伸びている検出電極、および、
該中空容器の下部端の少なくとも一部を越えないように、該中空の容器の内側に沿って配置されているもう参照電極、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための検出用電極セル。
【請求項10】
前記中空の容器の外周が、略円形または略半円形であり、直径が0.3cm〜3.0cmである、請求項9に記載の電極セル。
【請求項11】
前記中空の容器の外周が、略正方形であり、一片の長さが0.3cm〜3.0cmである、請求項9に記載の電極セル。
【請求項12】
前記検出電極および参照電極が、金または非伝導性媒体に蒸着あるいはメッキした金である、請求項9から11のいずれかに記載の電極セル。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一つに記載の電極セル、
試料中の標的分子を回収しかつ発電酵素による反応を行うための反応セル、
該電極セルの2つの電極のそれぞれに接続された電流電圧変換回路を含む電荷測定回路部、
該電流電圧変換回路部に接続され、所定の電流値に応じて、標的分子の存在の評価を行う情報処理部、および
該評価に応じて表示を行う表示部、
からなる、発電酵素による反応を用いて試料中の標的分子を検出するための装置。
【請求項14】
前記電荷測定回路が、電極を短絡して電極間に蓄積された電荷を低減する、または電極と入力端子との間を切断することによって出力電圧をゼロにするためのスイッチを含む請求項13に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−21972(P2012−21972A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100220(P2011−100220)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(390004710)株式会社第一興商 (537)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(510167198)株式会社マイクロブラッドサイエンス (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
【出願人】(390004710)株式会社第一興商 (537)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(510167198)株式会社マイクロブラッドサイエンス (2)
【Fターム(参考)】
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