説明

電荷輸送性材料および電荷輸送性ワニス

【課題】電荷輸送性物質の電荷輸送性を低下させずに有機EL素子の駆動電圧を維持し得るとともに、得られた薄膜の光透過率を向上させ得る、フラーレン化合物を含む電荷輸送性材料および電荷輸送性ワニスを提供すること。
【解決手段】水酸基などの極性官能基を有するフラーレン化合物と、電荷輸送性物質とを含む電荷輸送性材料、およびこの電荷輸送性材料と有機溶媒とを含み、フラーレン化合物および電荷輸送性物質が、有機溶媒に均一に溶解している電荷輸送性ワニス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送性材料および電荷輸送性ワニスに関し、さらに詳述すると、極性官能基を有するフラーレン化合物を含む電荷輸送性材料および電荷輸送性ワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低分子有機エレクトロルミネッセンス(以下、OLEDと略す)素子では、正孔注入層として銅フタロシアニン(CuPC)層を設けることによって、駆動電圧の低下や発光効率向上等の初期特性向上、さらには寿命特性向上を実現し得ることが報告されている(非特許文献1:アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)、米国、1996年、69巻、p.2160−2162)。
一方、高分子発光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス(以下、PLEDと略す)素子では、ポリアニリン系材料(特許文献1:特開平3−273087号公報、非特許文献2:ネイチャー(Nature)、英国、1992年、第357巻、p.477−479)や、ポリチオフェン系材料(非特許文献3:アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)、米国、1998年、72巻、p.2660−2662)からなる薄膜を正孔輸送層として用いることで、OLED素子と同様の効果が得られることが報告されている。
【0003】
近年、高溶解性の低分子オリゴアニリン系材料やオリゴチオフェン系材料を利用し、有機溶媒に完全溶解させた均一系溶液からなる電荷輸送性ワニスが見出された。そして、このワニスから得られる正孔注入層を有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子中に挿入することで、下地基板の平坦化効果や、優れたEL素子特性が得られることが報告されている(特許文献2:特開2002−151272号公報、特許文献3:国際公開第2005/043962号パンフレット)。
当該低分子オリゴマー化合物は、それ自体の粘度が低く、通常の有機溶媒を使用した場合、成膜操作におけるプロセスマージンが狭いため、スピンコート、インクジェット塗布、スプレー塗布等の種々の塗布方式や、種々の焼成条件を用いる場合、高い均一性を有する成膜を行うことは困難であった。
この点、各種添加溶媒を用いることで、粘度や、沸点および蒸気圧の調整が可能となり、種々の塗布方式に対応して高い均一性を有する成膜面を得ることが可能になってきている(特許文献4:国際公開第2004/043117号パンフレット、特許文献5:国際公開第2005/107335号パンフレット)。
【0004】
ところで、照明用途を考えた場合、色度コントロールのためには正孔注入層の透過率はできる限り高い方がよい。また、異物や陽極の凹凸によって有機EL素子にリークが発生するのを防止するためには、正孔注入層の膜厚は、厚い方がよい。
透過率を向上させる手法としては、構成材料の透過率を向上させるよう分子構造を変えたり、透過率の高い添加物を用いたりするものが考えられるが、これらの手法では、電荷輸送性が低下して薄膜の抵抗値が上昇し、有機EL素子の駆動電圧を上昇させる場合が多い。
その一方、その他の電荷輸送性物質を添加物として使用する場合、一般に可視光吸収があるうえに有機溶媒に対する溶解性が低いため、透過率が低下したり、薄膜を形成させるときに大きな凹凸が発生したりする場合が多く、特に有機EL素子で用いるような10〜100nmの薄膜では均一かつ平坦な膜を得ることは難しい。
また、PLED用途においては、アニリン骨格あるいはその酸化体を含む正孔輸送性ホスト物質を含む正孔注入材料がポリマー発光層に対する励起子失活作用を示し、当該正孔注入材料に対し、添加物を含有させることによってPLED素子における発光効率を向上させ得ることが特許文献6(国際公開第2008/129947号パンフレット)に示されている。
すなわち、透過率や有機EL素子の駆動電圧を維持できる添加物は、PLED素子のように発光層と正孔注入層とが直接接触している素子において、アニリン骨格あるいはその酸化物を含む正孔注入材料とともに用いる場合、当該添加物自体に励起子失活作用がなければ、発光効率を向上させ、消費電力を低下させ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−273087号公報
【特許文献2】特開2002−151272号公報
【特許文献3】国際公開第2005/043962号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004/043117号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2005/107335号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2008/129947号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】アプライド・フィジックス・レターズ、米国、1996年、69巻、p.2160−2162
【非特許文献2】ネイチャー、英国、1992年、第357巻、p.477−479
【非特許文献3】アプライド・フィジックス・レターズ、米国、1998年、72巻、p.2660−2662
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電荷輸送性物質の電荷輸送性を低下させずに有機EL素子の駆動電圧を維持し得るとともに、得られた薄膜の光透過率を向上させ得るフラーレン化合物を含む電荷輸送性材料および電荷輸送性ワニスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、極性官能基を有するフラーレン化合物が、有機溶媒に対する溶解性に優れ、電荷輸送性物質と組み合わせて電荷輸送性材料として使用可能であることを見出すとともに、当該電荷輸送性材料を含む電荷輸送性薄膜をOLED素子の正孔注入層として用いた場合に、駆動電圧の上昇がなく、可視光から赤外光領域における透過率を向上させ得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 極性官能基を有するフラーレン化合物と、電荷輸送性物質とを含むことを特徴とする電荷輸送性材料、
2. 前記極性官能基が、水酸基である1の電荷輸送性材料、
3. 前記電荷輸送性物質が、アニリン誘導体化合物である1または2の電荷輸送性材料、
4. 前記電荷輸送性物質が、下記式(1)で表されるオリゴアニリン誘導体、または式(1)の酸化体であるキノンジイミン誘導体である3の電荷輸送性材料、
【化1】

〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基またはスルホン基を示し、AおよびBは、それぞれ独立して、一般式(2)または(3)で表される二価の基を示す。
【化2】

(式中、R4〜R11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、またはスルホン基を示す。)
mおよびnは、それぞれ独立して、1以上の整数で、m+n≦20を満足する。〕
5. 前記電荷輸送性物質が、式(4)で表されるオリゴアニリン誘導体、または式(4)の酸化体であるキノンジイミン誘導体である4の電荷輸送性材料、
【化3】

(式中、R1〜R7、mおよびnは、前記と同じ意味を示す。)
6. 1〜5のいずれかの電荷輸送性材料と、有機溶媒とを含み、前記フラーレン化合物および電荷輸送性物質が、前記有機溶媒に均一に溶解していることを特徴とする電荷輸送性ワニス、
7. 前記有機溶媒が、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒である6の電荷輸送性ワニス、
8. 20℃での粘度が、10〜200mPa・sである5または6の電荷輸送性ワニス、
9. 1〜5のいずれかの電荷輸送性材料を含む電荷輸送性薄膜、
10. 6〜8のいずれかの電荷輸送性ワニスから作製される電荷輸送性薄膜、
11. 9または10の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電荷輸送性材料およびワニスに含まれる極性官能基を有するフラーレン化合物は、一般的な電荷輸送性ワニスの調製に用いられる有機溶媒に対し、良好な溶解性を有しており、特に、一旦、良溶媒に溶解させることで、貧溶媒をはじめとした各種有機溶媒に対しても優れた溶解性を示す。このため、貧溶媒を一部、またはほぼ全量使用して貧溶媒(低極性有機溶媒)系の電荷輸送性ワニスを調製することができる。
このような低極性有機溶媒系の電荷輸送性ワニスは、溶剤耐性が問題となるインクジェット塗布装置にて塗布することができるだけでなく、基板上に絶縁膜や隔壁などの耐溶剤性が問題となる構造物が存在する場合でも用いることができ、その結果、高平坦性を有する非晶質固体薄膜を問題なく作製することができる。
さらに、得られた薄膜は、高電荷輸送性を示すため、正孔注入層または正孔輸送層として使用することで、有機EL素子の駆動電圧を低下させることができる。
また、この薄膜は、高平坦性および高電荷輸送性を有しているため、この特性を利用して、当該薄膜を太陽電池の正孔輸送層、燃料電池用電極、コンデンサ電極保護膜、帯電防止膜へ応用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電荷輸送性材料は、極性官能基を有するフラーレン化合物と、電荷輸送性物質とを含むものである。
ここで、電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性、電子輸送性、正孔および電子の両電荷輸送性のいずれかを意味する。本発明の電荷輸送性材料は、それ自体に電荷輸送性があるものでもよく、これから得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。
【0012】
本発明において、フラーレン化合物としては、従来公知の各種フラーレン化合物を用いることができ、例えば、C60フラーレン、C70フラーレン、C84フラーレン等を用いることができるが、中でも、C60フラーレンが好適である。
極性官能基としては、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノチオ基、アシル基、スルホン基などが挙げられるが、高い化学安定性、熱安定性、多くの溶媒に対する高溶解性を有するとともに、中性であるという点から、水酸基が好ましい。
また、電荷輸送性向上の観点から、フラーレン骨格に対する置換基の分子量比率は低い方が好ましく、25%以下が好適であり、20%以下であるとさらに好ましい。
【0013】
フラーレン化合物に、極性官能基を導入する手法としては、例えば、求核付加反応や双極子付加反応等が挙げられる。
なお、極性官能基を有するフラーレン化合物は、市販品を用いることもでき、例えば、フロンティアカーボン製の水酸化フラーレン、phenyl C61−butyric acid methyl ester (PCBM)、phenyl C61−butyric acid n−butyl ester (PCBNB)、phenyl C61−butyric acid i−butyl ester (PCBIB)等を用いることができる。
【0014】
本発明の電荷輸送性材料に使用できる電荷輸送性物質としては、使用する有機溶媒に可溶なものであれば特に限定されるものではなく、従来高溶解性材料として用いられている低分子オリゴアニリン化合物等のアニリン誘導体化合物、低分子オリゴチオフェン化合物などを用いることができるが、アニリン誘導体化合物が好適である。
特に、高溶解性および高電荷輸送性を示すとともに、適切なイオン化ポテンシャルを有していることから、下記式(1)で表されるオリゴアニリン誘導体、または式(1)の酸化体であるキノンジイミン誘導体を好適に用いることができ、さらには、分子内のπ共役系をなるべく拡張させた方が、得られる電荷輸送性薄膜の電荷輸送性が向上することから、式(4)で表されるオリゴアニリン誘導体、または式(4)の酸化体であるキノンジイミン誘導体が最適である。
【0015】
【化4】

〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基またはスルホン基を示し、AおよびBは、それぞれ独立して、一般式(2)または(3)で表される二価の基を示す。
【0016】
【化5】

(式中、R4〜R11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、またはスルホン基を示す。)
mおよびnは、それぞれ独立して、1以上の整数で、m+n≦20を満足する。〕
【0017】
【化6】

(式中、R1〜R7、mおよびnは、上記と同じ意味を示す。)
【0018】
なお、キノンジイミン体とは、その骨格中に、下記式で示される部分構造を有する化合物を意味する。
【0019】
【化7】

(式中、R4〜R7は上記と同じ。)
【0020】
上記各式において、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられる。
一価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビシクロヘキシル基等のビシクロアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1または2または3−ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、キシリル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルシクロヘキシル基等のアラルキル基等や、これらの一価炭化水素基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、スルホン基などで置換されたものが挙げられる。
【0021】
オルガノオキシ基の具体例としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基などが挙げられ、これらのアルキル基、アルケニル基、アリール基としては、先に例示した基と同様のものが挙げられる。
オルガノアミノ基の具体例としては、フェニルアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基、ラウリルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジヘプチルアミノ基、ジオクチルアミノ基、ジノニルアミノ基、ジデシルアミノ基等のジアルキルアミノ基;シクロヘキシルアミノ基、モルホリノ基などが挙げられる。
【0022】
オルガノシリル基の具体例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、トリペンチルシリル基、トリヘキシルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、デシルジメチルシリル基などが挙げられる。
オルガノチオ基の具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基、ラウリルチオ基などのアルキルチオ基が挙げられる。
【0023】
アシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
リン酸エステル基としては、−P(O)(OQ1)(OQ2)が挙げられる。
エステル基としては、−C(O)OQ1、−OC(O)Q1が挙げられる。
チオエステル基としては、−C(S)OQ1、−OC(S)Q1が挙げられる。
アミド基としては、−C(O)NHQ1、−NHC(O)Q1、−C(O)NQ12、−NQ1C(O)Q2が挙げられる。
ここで、上記Q1およびQ2は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を示し、これらについては、上記一価炭化水素基で例示した基と同様のものが挙げられる。
【0024】
上記一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基およびアミド基などにおける炭素数は、特に限定されるものではないが、一般に炭素数1〜20、好ましくは1〜8である。
好ましい置換基としては、フッ素、スルホン基、オルガノオキシ基、アルキル基、オルガノシリル基等が挙げられる。
なお、置換基において、置換基同士が連結されて環状である部分を含んでいてもよい。
【0025】
一般式(1)および(4)において、m+nは、良好な電荷輸送性を発揮させるという点から4以上であることが好ましく、溶媒に対する溶解性を確保するという点から16以下であることが好ましい。
また、式(1)および(4)のオリゴアニリン化合物は、溶解性を高めるとともに、電荷輸送性を均一にするということを考慮すると、分子量分布のない、換言すれば、分散度が1のオリゴアニリン化合物であることが好ましい。
その分子量は、材料の揮発の抑制および電荷輸送性発現のために、下限として通常200以上、好ましくは400以上であり、また溶解性向上のために、上限として通常5000以下、好ましくは3000以下である。
これらの電荷輸送性物質は1種類のみを使用してもよく、また2種類以上の物質を組み合わせて使用してもよい。
このような化合物の具体例としては、フェニルテトラアニリン、フェニルペンタアニリン、テトラアニリン(アニリン4量体)、オクタアニリン(アニリン8量体)等の有機溶媒に可溶なオリゴアニリン誘導体が挙げられる。
【0026】
なお、これらの電荷輸送性物質の合成法としては、特に限定されないが、オリゴアニリン合成法(ブレティン・オブ・ケミカル・ソサエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of Chemical Society of Japan)、1994年、第67巻、p.1749−1752、シンセティック・メタルズ(Synthetic Metals)、米国、1997年、第84巻、p.119−120参照)や、オリゴチオフェン合成法(例えば、ヘテロサイクルズ(Heterocycles)、1987年、第26巻、p.939−942、ヘテロサイクルズ(Heterocycles)、1987年、第26巻、p.1793−1796参照)などが挙げられる。
【0027】
本発明に係る電荷輸送性ワニスは、上述した極性官能基を有するフラーレン化合物および電荷輸送性物質を含んで構成される電荷輸送性材料と、有機溶媒とを含み、フラーレン化合物および電荷輸送性物質が、有機溶媒に均一に溶解しているものである。
電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる有機溶媒としては、フラーレン化合物および電荷輸送性物質の溶解能を有する良溶媒を用いることができる。
ここで、良溶媒とは、溶媒分子の極性が高く、高極性化合物を良く溶解することのできる溶媒を意味する。
このような良溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、または2種以上混合して用いることができ、その使用量は、ワニスに使用する溶媒全体に対して5〜100質量%とすることができる。
【0028】
本発明で用いる極性官能基を有するフラーレン化合物は、有機溶媒に対する溶解性に優れているため、上記良溶媒よりも極性の低い貧溶媒(低極性溶媒)を併用することもできる。
ここで、貧溶媒とは、溶媒分子の極性が低く、高極性化合物に対する溶解性という点では劣るものの、粘度の向上、表面張力の低下、揮発性の付与等によって基板に対する塗れ性の向上や、各種塗布装置の噴霧あるいは塗布に適した物性を付与したり、塗布装置に対する腐食性の低下を可能にしたりする溶媒を意味する。
このような貧溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、p−キシレン、o−キシレン、スチレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノーマルブチルケトン、シクロヘキサノン、エチルノーマルアミルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノーマルプロピル、酢酸イソブチル、酢酸ノーマルブチル、酢酸ノーマルアミル、カプロン酸メチル、酢酸−2−メチルペンチル、乳酸ノーマルブチル等のエステル類;エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール等のグリコールエステルまたはグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、アリルアルコール、ノーマルプロパノール、2−メチル−2−ブタノール、イソブタノール、ノーマルブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1−メトキシ−2−ブタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のアルコール類;アニソール、フェノール、m−クレゾール等のフェノール類;イソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、酢酸、γ−ブチルラクトン等のエーテルまたはカルボン酸類などが挙げられる。
【0029】
これらの中でも、20℃で10〜200mPa・s、特に50〜150mPa・sの粘度を有し、常圧で沸点50〜300℃、特に150〜250℃の高粘度溶媒であるシクロヘキサノール、エチレングリコール、エチレングリコールジクリシジルエーテル、1,3−オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、へキシレングリコール等が好適である。
【0030】
良溶媒と貧溶媒とを併用する場合、それらの使用割合は特に限定されるものではないが、貧溶媒の使用割合を多くすると、上述のように、粘度の向上、表面張力の低下、揮発性の付与、基板表面に対する塗れ性の向上、塗布、噴霧性の向上等の新たな好ましい物性を付与することが可能となる。また、得られたワニスの極性が低くなる結果、溶剤耐性が問題となる塗布装置や基板などを用いることができるようになり、その応用範囲が広がる。
したがって、貧溶媒の使用量を可能な限り多くすることが好ましく、より具体的には、良溶媒と貧溶媒との比率は、質量比で9:1〜1:9程度が好ましく、1:1〜1:4程度がより好ましい。
【0031】
電荷輸送性ワニスの調製法としては、特に限定されるものではなく、各成分および溶媒を任意の順序で混合して調製することができるが、上述した極性官能基を有するフラーレン化合物は、一旦、良溶媒に溶解させると、より極性の低い貧溶媒を添加しても析出が生じないという性質を有しているため、フラーレン化合物および電荷輸送性物質を良溶媒に溶解させた溶液と、貧溶媒とを混合して調製することが好ましい。
このような手法を用いると、電荷輸送性ワニス中における貧溶媒の割合を多くできる結果、より低極性の電荷輸送性ワニスを得ることができる。
【0032】
なお、上記のような貧溶媒を含む溶剤を使用しても析出が生じずに溶解状態を維持できる高分子化合物からなる添加物は少なく、溶解したとしても電荷輸送性が乏しいために有機EL素子中で用いた場合に駆動電圧を大きく上昇させてしまう場合が多い。
一方、低分子化合物は上記のような溶媒に対する溶解性が良好である場合があるものの、成膜時の高温焼成条件下で昇華あるいは使用する溶媒中で結晶化し、有機EL素子の添加物として適しない場合が多い。
また、電荷輸送性ワニスが均一溶液、あるいは直径数nm以下で高度に粒径を制御された粒子分散系材料でない場合で、不溶成分が残存、あるいは懸濁状態となっている場合には、そのまま成膜操作を行っても、成膜後の平均荒さが数nm以上と非常に大きくなるため素子の電流リークが生じ、長寿命の有機EL素子を作製することは一般に困難である。この点、不溶成分や懸濁状態の電荷輸送性ワニスを濾過することで、均一の電荷輸送性ワニスを得ることが可能な場合があるが、濾過によってワニス中に添加した固形材料が所定量未満の含有量になったり、全く含まれなくなったりするなど構成成分が変化して、膜の性能を想定通りに制御することは困難となることが多い。
本発明で添加物として用いる極性官能基を有するフラーレン化合物は、上述のように貧溶媒を含む溶剤に対する溶解性にも優れているため均一性の電荷輸送性ワニスが作製し易い上に、通常の低分子化合物のように、高温成膜条件下で昇華や結晶化することもない。また、得られた薄膜は、高電荷輸送性を示すため、正孔注入層または正孔輸送層として使用することで、有機EL素子の駆動電圧を低下させることができる。
【0033】
本発明の電荷輸送性ワニスの電荷輸送能等を向上させるために、正孔輸送性物質に対しては電子受容性ドーパント物質を、電子輸送性物質に対しては電子供与性ドーパント物質を必要に応じて用いることができるが、それぞれ高い電子受容性および高い電子供与性を有することが好ましい(以下、電子受容性ドーパント物質と電子供与性ドーパント物質を併せてドーパント物質と総称する)。ドーパント物質の溶解性に関しては、ワニスに使用する少なくとも1種の溶媒に溶解するものであれば特に限定されない。
【0034】
電子受容性ドーパント物質の具体例としては、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機強酸;塩化アルミニウム(III)(AlCl3)、四塩化チタン(IV)(TiCl4)、三臭化ホウ素(BBr3)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3・OEt2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化銅(II)(CuCl2)、五塩化アンチモン(V)(SbCl5)、五フッ化砒素(V)(AsF5)、五フッ化リン(PF5)、トリス(4−ブロモフェニル)アルミニウムヘキサクロロアンチモナート(TBPAH)等のルイス酸;ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、国際公開第2005/000832号パンフレット記載の1,4−ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、国際公開第2006/025342号パンフレット記載のアリールスルホン酸誘導体、特開2005−108828号公報記載のジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等の有機強酸;7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)、ヨウ素等の有機または無機酸化剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
特に好ましい電子受容性ドーパント物質としては、5−スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、国際公開第2005/000832号パンフレット記載の1,4−ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、特開2005−108828号公報記載のジノニルナフタレンスルホン酸誘導体、国際公開第2006/025342号パンフレット記載のナフタレンジスルホン酸誘導体等の有機強酸である電子受容性ドーパント物質を挙げることができる。
【0036】
電子供与性ドーパント物質の具体例としては、アルカリ金属(Li,Na,K,Cs)、リチウムキノリノラート(Liq)、リチウムアセチルアセトナート(Li(acac))等の金属錯体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0037】
ドーパント物質と電荷輸送性物質との混合比率は、ドーパント物質の分子構造、電荷輸送性物質の分子構造、ドーパント物質の分子量、電荷輸送性物質の分子量、導電性膜の目標導電率により異なるため一概には規定できないが、電荷輸送性物質:ドーパント物質=1:0.01〜10.0(質量比)が好ましく、より好ましくは電荷輸送性物質:ドーパント物質=1:0.05〜4.0(質量比)である。
【0038】
また、極性官能基を有するフラーレン化合物と、電荷輸送性物質および必要に応じて用いられるドーパント物質の総量との比率は、導電性膜の目標導電率や目標透過率により異なるため一概には規定できないが、フラーレン化合物:(電荷輸送性物質+ドーパント物質)=0.01〜10.0:1(質量比)が好ましく、より好ましくは0.05〜4.0:1(質量比)である。
【0039】
さらに、基板に対する濡れ性の向上、溶媒の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、焼成時に膜の平坦性を付与し得るその他の溶媒を、ワニスに使用する溶媒全体に対して1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%の割合で混合することもできる。
このような溶媒としては、例えば、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルカルビトール、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
以上で説明した電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、溶媒を蒸発させることで基材上に電荷輸送性薄膜を形成させることができる。
ワニスの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。
溶媒の蒸発法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレートやオーブンを用いて、適切な雰囲気下、即ち大気、窒素等の不活性ガス、真空中等で蒸発させればよい。これにより、均一な成膜面を有する薄膜を得ることが可能である。
焼成温度は、溶媒を蒸発させることができれば特に限定されないが、40〜250℃が好ましい。この場合、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよい。
【0041】
電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子内で電荷注入層として用いる場合、5〜200nmであることが望ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0042】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いてOLED素子を作製する場合の使用材料や、作製方法としては、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にオゾン処理、酸素−プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
【0043】
正孔輸送性ワニスをOLED素子に使用する場合、以下の方法を挙げることができる。
陽極基板上に当該正孔輸送性ワニスを塗布し、上記の方法により蒸発、焼成を行い、電極上に正孔輸送性薄膜を作製する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。発光領域をコントロールするために任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン誘導体を用いることもできる。
【0044】
正孔輸送層を形成する材料としては、(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、(α−ナフチルジフェニルアミン)ダイマー(α−NPD)、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー(Spiro−TAD)等のトリアリールアミン類、4,4’,4”−トリス[3−メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4’,4”−トリス[1−ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1−TNATA)等のスターバーストアミン類、5,5”−ビス−{4−[ビス(4−メチルフェニル)アミノ]フェニル}−2,2’:5’,2”−ターチオフェン(BMA−3T)等のオリゴチオフェン類を挙げることができる。
【0045】
発光層を形成する材料としては、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq3)、ビス(8−キノリノラート)亜鉛(II)(Znq2)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、電子輸送材料または正孔輸送材料と発光性ドーパントとを共蒸着することによって、発光層を形成してもよい。
電子輸送材料としては、Alq3、BAlq、DPVBi、(2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、シロール誘導体等が挙げられる。
【0046】
発光性ドーパントとしては、キナクリドン、ルブレン、クマリン540、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)、(1,10−フェナントロリン)−トリス(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオナート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3phen)等が挙げられる。
【0047】
キャリアブロック層を形成する材料としては、PBD、TAZ、BCP等が挙げられる。
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al23)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、Liq、Li(acac)、酢酸リチウム、安息香酸リチウム等が挙げられる。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。
【0048】
また、電子輸送性ワニスをOLED素子に使用する場合、以下の方法を挙げることができる。
陰極基板上に当該電子輸送性ワニスを塗布して電子輸送性薄膜を作製し、これを真空蒸着装置内に導入し、上記と同様の材料を用いて電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層を形成した後、陽極材料をスパッタリング等の方法により成膜してOLED素子とする。
【0049】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いたPLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
上記OLED素子作製において、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、発光性電荷輸送性高分子層を形成することによって本発明の電荷輸送性ワニスによって形成される電荷輸送性薄膜を含むPLED素子を作製することができる。
具体的には、陽極基板上に、電荷輸送性ワニス(正孔輸送性ワニス)を塗布して上記の方法により正孔輸送性薄膜を作製し、その上部に発光性電荷輸送性高分子層を形成し、さらに陰極電極を蒸着してPLED素子とする。
あるいは、陰極基板上に、電荷輸送性ワニス(電子輸送性ワニス)を塗布して上記の方法により電子輸送性薄膜を作製し、その上部に発光性電荷輸送性高分子層を形成し、さらにスパッタリング、蒸着、スピンコート等の方法により陽極電極を作製してPLED素子とする。
【0050】
使用する陰極および陽極材料としては、上記OLED素子作製時と同様の物質が使用でき、同様の洗浄処理、表面処理を行うことができる。
発光性電荷輸送性高分子層の形成法としては、発光性電荷輸送性高分子材料、またはこれに発光性ドーパントを加えた材料に溶媒を加えて溶解するか、均一に分散し、正孔注入層を形成してある電極基板に塗布した後、溶媒の蒸発により成膜する方法が挙げられる。
発光性電荷輸送性高分子材料としては、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキソキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)などのポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等を挙げることができる。
【0051】
溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロホルム等を挙げることができ、溶解または均一分散法としては撹拌、加熱撹拌、超音波分散等の方法が挙げられる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット法、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗布は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが望ましい。
溶媒の蒸発法としては、不活性ガス下または真空中、オーブンまたはホットプレートで加熱する方法を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[1]電荷輸送性ワニスおよび電荷輸送性薄膜の作製
[実施例1]
フェニルテトラアニリン(以下、PTAという)50mg、NSO−2 102mgおよび水酸化フラーレンC60(フロンティアカーボン製nanom spectra D100、以下同様)51mgの混合物に対し、窒素雰囲気中で高極性溶媒であるDMI1.68mLを加えてこれらを溶解させた。この溶液に、プロピレングリコール0.85mLおよび40℃まで加熱して融解させたシクロヘキサノール2.78mLを加え、室温まで放冷して赤黒色透明溶液を得た。
得られた溶液を孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いて濾過し、赤黒色透明の電荷輸送性ワニスを得た。なお、濾過の際、目詰まりは生じなかった。
40分間オゾン洗浄を行ったITO基板上に、得られたワニスをスピンコート法により塗布し、ホットプレート上220℃で30分間焼成して電荷輸送性薄膜を形成した。得られた薄膜は均一な非晶質固体であった。
【0054】
なお、下式で示されるPTAは、ブレティン・オブ・ケミカル・ソサエティ・オブ・ジャパン(Bulletin of Chemical Society of Japan)、1994年、第67巻、p.1749−1752に記載されている方法に従って合成した。
【0055】
【化8】

【0056】
また、下式で示されるNSO−2は、国際公開第2006/025342号パンフレットに従って合成した。
【0057】
【化9】

【0058】
[比較例1]
水酸化フラーレンC60 70mgに、窒素雰囲気中で高極性溶媒であるDMI1.10mLを加えてこれを溶解させた。この溶液に、プロピレングリコール0.55mLおよび40℃まで加熱して融解させたシクロヘキサノール1.81mLを加え、室温まで放冷して赤黒色透明溶液を得た。
得られた溶液を孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いて濾過し、赤黒色透明の電荷輸送性ワニスを得た。なお、濾過の際、目詰まりは生じなかった。
40分間オゾン洗浄を行ったITO基板上に、得られたワニスをスピンコート法により塗布し、ホットプレート上220℃で30分間焼成して電荷輸送性薄膜を形成した。得られた薄膜は均一な非晶質固体であった。
【0059】
[比較例2]
PTA50mgおよびNSO−2 102mgの混合物に対し、窒素雰囲気中でDMI1.68mLを加えてこれらを溶解させた。この溶液に、プロピレングリコール0.85mLおよび40℃まで加熱して融解させたシクロヘキサノール2.78mLを加え、室温まで放冷して緑色透明溶液を得た。
得られた溶液を孔径0.2μmのPTFE製フィルターを用いて濾過し、緑色透明の電荷輸送性ワニスを得た。なお、濾過の際、目詰まりは生じなかった。得られた電荷輸送性ワニスは、実施例1の電荷輸送性ワニスから水酸化フラーレンを除いたワニスと、濃度も含めて同一である。
40分間オゾン洗浄を行ったITO基板上に、得られたワニスをスピンコート法により塗布し、ホットプレート上220℃で30分間焼成して電荷輸送性薄膜を形成した。得られた薄膜は均一な非晶質固体であった。
【0060】
[比較例3]
水酸化フラーレンを無置換フラーレンC60(フロンティアカーボン製nanom purple ST)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして電荷輸送性ワニスの調製を試みた。無置換フラーレンC60が使用した溶媒に不溶であり、均一溶液は得られなかった。
【0061】
[比較例4]
水酸化フラーレンを水素化フラーレンC60(フロンティアカーボン製nanom spectra A100)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして電荷輸送性ワニスの調製を試みた。水素化フラーレンC60が使用した溶媒に不溶であり、均一溶液は得られなかった。
【0062】
[比較例5]
水酸化フラーレンをポリビニルピロリドンK−15(純正化学製)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして電荷輸送性ワニスの調製を試みた。ワニスは懸濁し、均一溶液は得られなかった。
【0063】
[比較例6]
水酸化フラーレンをポリ−N−ビニルカルバゾール(純正化学製)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして電荷輸送性ワニスの調製を試みた。ワニスは懸濁し、均一溶液は得られなかった。
【0064】
[比較例7]
水酸化フラーレンを、トリフェニルアミン(関東化学製)、ジフェニルアミン(東京化成製)、チアナフテン(東京化成製)、N−ビニルカルバゾール(関東化学製)、フルオレン(関東化学製)、ピレン(関東化学製)に置き換えた以外は、実施例1と同様にして6種の電荷輸送性ワニスの調製を試みた。いずれも均一な緑色透明溶液である電荷輸送性ワニスが得られた。
40分間オゾン洗浄を行ったITO基板上に、得られたワニスそれぞれをスピンコート法(スピン回転時間:各20秒)により塗布し、ホットプレート上220℃で30分間焼成して電荷輸送性薄膜を形成した。
得られた薄膜は、いずれも比較例2で得られたワニスを同条件でスピンコートして得られた薄膜と膜厚、透過率ともに変化がなかった。またトリフェニルアミンおよびフルオレンについては結晶化由来と考えられる模様が成膜面に発生した。このことから、添加した材料がいずれも焼成時に揮発あるいは結晶化し、透明性の向上に寄与しないことがわかる。
【0065】
実施例1、比較例1および比較例2のワニスの固形分濃度、薄膜の膜厚、イオン化ポテンシャル(Ip)および透過率を表1に示す。
なお、イオン化ポテンシャルは理研計器(株)製 光電子分光装置 AC−2を使用して測定した。膜厚は、(株)小坂研究所製 サーフコーダET−4000Aを使用して測定した。透過率は、(株)島津製作所製 島津自記分光光度計UV−3100PCを使用して測定した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、実施例1のワニスは、同一のスピン回転数で成膜した比較例2と比べて厚膜化しており、水酸化フラーレンが膜中に残存していることが示唆される。
実施例1の透過率(波長650nm)は、比較例2のそれと比較して高く、水酸化フラーレンを添加したことで透過率が改善したことがわかる。
一方で比較例1は、アクセプタを含まないノンドープ材料でありながらIp値が非常に大きいため、陽極からの良好な正孔注入が生じず、駆動電圧が大幅に増加することが予想される。すなわち正孔注入層に必要な物性を有していないことがわかる。
【0068】
[2]OLED素子の作製
[実施例2]
実施例1と同様の方法によりITO基板上に正孔輸送性薄膜を形成した後、この基板を真空蒸着装置内に導入し、α−NPD、Alq3、LiF、Alを順次蒸着し、OLED素子を作製した。膜厚は、それぞれ35nm、50nm、0.5nm、100nmとし、それぞれ8×10-4Pa以下の圧力となってから蒸着操作を行った。蒸着レートは、α−NPDおよびAlq3では0.35〜0.40nm/s、LiFでは0.015〜0.025nm/s、Alでは0.2〜0.4nm/sとした。蒸着操作間の移動操作は真空中で行った。
【0069】
[比較例8]
比較例2と同様の方法によりITO基板上に電荷輸送性薄膜を形成した後、実施例2と同様の方法で各膜を蒸着し、OLED素子を作製した。
実施例2および比較例8で得られた素子特性を併せて表2に示す。
なお、OLED素子の特性は、有機EL発光効率測定装置(EL1003、プレサイスゲージ(株)製)を使用して測定した。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示されるように、実施例2のOLED特性は、比較例8のそれと比較して駆動電圧が低く、正孔注入特性が高いことがわかる。また、電流効率に関してもほぼ同等であることがわかる。
【0072】
[比較例9]
比較例1と同様の方法によりITO基板上に正孔輸送性薄膜を形成した後、実施例2と同様の方法により有機EL素子を作製した。10Vまで電圧を印加したが最高輝度は10cd/m2以下であった。実施例2と比較して比較例1の正孔輸送性薄膜は正孔注入特性が低いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性官能基を有するフラーレン化合物と、電荷輸送性物質とを含むことを特徴とする電荷輸送性材料。
【請求項2】
前記極性官能基が、水酸基である請求項1記載の電荷輸送性材料。
【請求項3】
前記電荷輸送性物質が、アニリン誘導体化合物である請求項1または2記載の電荷輸送性材料。
【請求項4】
前記電荷輸送性物質が、下記式(1)で表されるオリゴアニリン誘導体、または式(1)の酸化体であるキノンジイミン誘導体である請求項3記載の電荷輸送性材料。
【化1】

〔式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基またはスルホン基を示し、AおよびBは、それぞれ独立して、一般式(2)または(3)で表される二価の基を示す。
【化2】

(式中、R4〜R11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基、またはスルホン基を示す。)
mおよびnは、それぞれ独立して、1以上の整数で、m+n≦20を満足する。〕
【請求項5】
前記電荷輸送性物質が、式(4)で表されるオリゴアニリン誘導体、または式(4)の酸化体であるキノンジイミン誘導体である請求項4記載の電荷輸送性材料。
【化3】

(式中、R1〜R7、mおよびnは、前記と同じ意味を示す。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の電荷輸送性材料と、有機溶媒とを含み、
前記フラーレン化合物および電荷輸送性物質が、前記有機溶媒に均一に溶解していることを特徴とする電荷輸送性ワニス。
【請求項7】
前記有機溶媒が、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒である請求項6記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項8】
20℃での粘度が、10〜200mPa・sである請求項5または6記載の電荷輸送性ワニス。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項記載の電荷輸送性材料を含む電荷輸送性薄膜。
【請求項10】
請求項6〜8のいずれか1項記載の電荷輸送性ワニスから作製される電荷輸送性薄膜。
【請求項11】
請求項9または10記載の電荷輸送性薄膜を備える有機エレクトロルミネッセンス素子。

【公開番号】特開2010−123930(P2010−123930A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243073(P2009−243073)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】