説明

電解再生式の無電解スズメッキ方法

【課題】 3価のチタン塩を含む無電解スズメッキ浴において、簡便な操作で無電解スズ浴のメッキ機能を長期に安定化させる。
【解決手段】 可溶性第一スズ塩とレドックス系還元剤としての3価チタン塩と錯化剤とを含有した無電解スズメッキ浴を用いて、3価のチタンイオンから4価への酸化によりスズイオンを金属スズに還元して析出させる際に、スズメッキ浴に陰極と陽極を臨ませ、無電解メッキ処理と並行して、或は無電解メッキ処理後に、メッキ液を電解還元処理してチタンイオンを4価から3価に還元・再生する無電解スズメッキ方法である。微量の電圧で電解還元して、チタンイオンを4価から3価に還元するため、浴でのスズの析出作用を長期に保持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解再生式の無電解スズメッキ方法に関して、レドックス系還元剤としてのチタンイオンを含むメッキ浴に簡便な操作を施して、無電解スズメッキ浴のメッキ機能を長期に安定化できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
3価のチタン塩を還元剤に用いたスズ系の無電解メッキ浴を挙げると、次の通りである。
先ず、特許文献1には、3価チタンなどの還元剤と共に、所定の飽和脂肪族アルコールを含有する無電解スズメッキ浴が開示され、その実施例6には、3塩化チタン、イソプロピルアルコール、クエン酸塩などの錯化剤を含有するメッキ浴が記載される(段落50)。
次いで、特許文献2には、所定の有機スルホン酸と、還元剤としての3価チタンの塩を含有する無電解スズメッキ浴が開示されている(特許請求の範囲、実施例1〜2)。
また、特許文献3には、還元剤として3価チタンの塩を含有する無電解スズ又はスズ−鉛合金メッキ浴が開示され(請求項1〜5、実施例1〜4)、特許文献4には、同じく3価チタンの塩を含有する無電解スズメッキ浴が開示され(特許請求の範囲、実施例1〜2)、特許文献5には、同じく3価チタンの塩を含有する無電解スズ−銀合金メッキ浴などが開示されている(請求項1〜3、段落10、16、表3)。
【0003】
3価のチタン塩を含有する無電解スズメッキ浴を用いて長時間メッキ処理を続けると、浴中の2価のスズイオンに対する還元反応の進行で、3価のチタンイオンは電子を放出して4価に酸化され、還元力が低下してスズを析出させる能力が弱ってしまう。
そこで、広くスズ浴のメッキ力を簡便な操作で回復させる方法が報告されている。
先ず、特許文献6には、スズの析出によりメッキ溶液から消費される2価スズイオンの再生に関するもので、補助陰極と補助陽極から構成される電解再生セルを用いて、スズメッキ浴からの電解析出により生じた金属スズを、メッキ溶液に含有される4価スズイオンに接触させて、2価のスズイオンを再生する方法が開示されている(請求項1、14、段落25〜27)。
【0004】
また、特許文献7には、第一に、遷移金属のイオンが低い酸化状態から高い状態に酸化する際の還元作用で、析出対象の金属イオンを還元析出させるハロゲンフリーの還元剤溶液が開示され(請求項1〜4)、第二に、この還元剤溶液を析出対象の金属イオンを含む反応液に混合した液相の反応系で、金属粉末或は金属皮膜を形成する方法が開示され(請求項5〜10)、第三に、金属を析出させた後の液を電解処理して、還元剤溶液を再生する方法が開示されている(請求項8と11)。
上記遷移金属のイオンはチタンを初めとして、コバルト、鉄、クロム、ニッケル、マンガンなどであり(請求項3、段落19〜20)、析出対象の金属は貴金属や銅が記載され(段落53)、実施例1〜13では銀が挙げられる(段落66〜69)。
次いで、3価のチタン塩とは異なる種類の還元剤の使用に関して、特許文献8には、カソード、不活性アノード、半透明のイオン障壁によって分離されたカソード液とアノード液からなり、カソード液にはバナジウム、クロム又はユウロピウムのイオンのようなレドックス対を有する電解質を含み、このレドックス対の酸化数の小さいイオン(例えば2価のバナジウムイオン;還元剤)が電子を供給して、電子部品のはんだのコーティングの表面にある酸化第二錫(SnO2)のような金属酸化物を還元するとともに、レドックス対の酸化されたイオン(例えば3価のバナジウムイオン)をカソードで電気化学的に再生する(電子を供与して還元する)方法が開示されている(請求項1〜2、段落3、段落8)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−268558号公報
【特許文献2】特公昭59−34229号公報
【特許文献3】特開平8−60376号公報
【特許文献4】特開平3−61380号公報
【特許文献5】特開2004−323872号公報
【特許文献6】特表2004−534151号公報
【特許文献7】特開2005−42135号公報
【特許文献8】特公平7−103472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献6は無電解スズメッキ浴の再生方法に関するが、4価のスズイオンを電解再生セルで析出した金属スズで2価に還元して、メッキ機能を保持しようとするものであり、3価のチタン塩を含有する無電解メッキ浴の再生に関するものではない。
また、上記特許文献7では、その実施例(段落66〜69)を見ると、4塩化チタンを含む還元剤溶液を電解処理して4価を3価のチタンイオンに還元し、銀粉末を製造しようとするもので、陰極室と陽極室をイオン交換膜で仕切った電解槽を用いて電解処理する点で処理構造が複雑になっている。
上記特許文献8でも、カソード、不活性アノード、半透明のイオン障壁によって分離されたカソード液とアノード液の収容室を設ける点で処理構造が複雑であり、レドックス対を有する電解質はバナジウム、クロム又はユウロピウムのイオンであり、チタンイオンに関するものではない。
【0007】
本発明は、3価のチタン塩を含有する無電解スズメッキ浴において、メッキ浴に簡便な操作を施して浴のメッキ機能を長期に安定化することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、3価のチタン塩を含有する無電解スズメッキ浴を簡便な操作で再生する方法を鋭意研究した結果、上記特許文献7〜8のような複雑な処理構造ではなく、メッキ浴に陽極と陰極を臨ませて、無電解メッキ処理と並行して、或は無電解メッキ処理後に、上記陽極と陰極に通電することでメッキ液を電解還元すると、メッキ力を長時間保持できること、特に、0.1〜3.0Vの微量範囲の電圧でもチタンイオンを4価から3価に効率良く還元できること、さらには、建浴当初から4価のチタン塩を含有させたメッキ浴を電解還元しても有効にスズを析出できることなどを見い出して、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明1は、可溶性第一スズ塩とレドックス系還元剤としての3価チタン塩と錯化剤とを含有した無電解スズメッキ浴を用いて、3価のチタンイオンから4価への酸化によりスズイオンを金属スズに還元して析出させる無電解スズメッキ方法において、
上記スズメッキ浴に陰極と陽極を臨ませ、無電解メッキ処理と並行して、或は無電解メッキ処理後に、メッキ液を電解還元処理してチタンイオンを4価から3価に還元・再生することを特徴とする3価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法である。
【0010】
本発明2は、可溶性第一スズ塩と4価チタン塩と錯化剤とを含有した無電解スズメッキ浴を用いる無電解スズメッキ方法において、
上記スズメッキ浴に陰極と陽極を臨ませ、無電解メッキ処理の前にメッキ液を電解還元処理し、チタンイオンを4価から3価に還元・再生して、3価のチタンイオンの4価への酸化によりスズイオンを金属スズに還元して析出させることを特徴とする4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法である。
【0011】
本発明3は、上記本発明1又は2において、電解還元の電圧が0.1〜3.0Vの微量範囲であることを特徴とする3価又は4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法である。
【0012】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、3価又は4価のチタン塩のメッキ浴中の濃度が0.001〜1モル/Lであることを特徴とする3価又は4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法である。
【0013】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかにおいて、3価チタン塩が、TiCl3、TiBr3、TiI3、Ti2(SO4)3から選ばれた少なくとも一種であり、4価チタン塩が、TiCl4、Ti(SO4)2、TiI4から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする3価又は4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法である。
【発明の効果】
【0014】
3価チタン塩をレドックス系の還元剤とする無電解スズメッキ方法において、メッキの進行で電子を放出して3価から4価に酸化されるチタンイオンを電解還元処理により、4価から3価イオンに還元するため、無電解スズメッキ浴でのスズの析出作用を良好に保持し、簡便な操作で無電解スズ浴のメッキ機能を長期に安定化することができる。
この場合、電解還元での電圧はスズ系の電気メッキで使用する大きさとは異なり、0.1〜3.0Vの微量範囲であり、この電圧でチタンイオンを4価から3価に有効に還元することができる。
上記4価のチタンイオンの電解還元は無電解メッキと同時並行で処理することができ、また、無電解メッキ後に4価に酸価されたチタンイオンを電解還元処理をすることもできる。同時並行の場合には、一つのメッキ槽内で電解還元と無電解メッキを一括で処理しても良いし、補充槽での電解還元処理で4価から3価に再生したチタンイオンをメッキ槽に循環させるようにしても良い。
【0015】
一方、4価のチタン塩を含有する無電解スズ浴を使用するメッキ方法では、無電解メッキ前に電解還元処理をしてチタンイオンを4価から3価に還元・再生することで、無電解スズ浴のメッキ機能を回復してスズを析出させようとするものであるが、これは3価のチタン塩を含有するメッキ後の劣化した無電解スズ浴に電解還元を施して、チタンイオンを3価に還元・再生する上記本発明1の方法と実質的に同義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、第一に、3価チタン塩をレドックス系還元剤として含有するスズ浴を用いて無電解メッキする方法において、電解還元によりチタンイオンを4価から3価に再生し、メッキ力を持続化する無電解スズメッキ方法であり、第二に、4価チタン塩を含有するスズ浴を用いてメッキ前に電解還元する無電解メッキ方法である。
【0017】
本発明1の無電解スズメッキ方法で用いる無電解スズ浴は、可溶性第一スズ塩とレドックス系還元剤としての3価チタン塩と錯化剤とを含有する。
可溶性第一スズ塩は、メッキ浴中でSn2+を生じる化合物であれば特に制限はなく、硫酸第一スズ、酸化第一スズ、塩化第一スズ、ホウフッ化第一スズ、スルファミン酸第一スズ、亜スズ酸塩などの無機系の可溶性塩、有機スルホン酸第一スズ塩、脂肪族カルボン酸第一スズ、スルホコハク酸第一スズなどの有機系の可溶性塩などが挙げられる。
当該可溶性第一スズ塩の含有量は1〜200g/L、好ましくは5〜100g/Lである。
【0018】
本発明のレドックス系の還元剤は3価チタン塩に限定され、例えば、他種のレドックス系還元剤であるバナジウム塩(2価と3価)やクロム塩(2価と3価)などは適しない。
上記3価チタン塩はTiCl3(塩化チタン(III))、TiBr3(臭化チタン(III))、TiI3(ヨウ化チタン(III))、Ti2(SO4)3(硫酸チタン(III))などを単用又は併用でき、TiCl3(塩化チタン(III))が好ましい(本発明5参照)。
3価チタン塩のメッキ浴中の濃度は0.001〜1モル/Lが適しており、0.005〜0.8モル/Lが好ましく、0.01〜0.5モル/Lがより好ましく、0.03〜0.3モル/Lがさらに好ましい(本発明4参照)。0.001モル/Lより少ないと2価のスズイオンをスズに還元・析出する機能が低下し、1モル/Lより多いとメッキ浴が分解し易い問題がある。
【0019】
上記錯化剤は2価のスズイオンに錯化してメッキ浴を安定化するために添加され、オキシカルボン酸類、アミノカルボン酸類、ポリアミン類などが好ましい。
上記オキシカルボン酸類としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、あるいはこれらの塩などが挙げられる。
上記アミノカルボン酸類としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、イミノジプロピオン酸(IDP)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、グリシン、アラニン、N−メチルグリシン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、或はこれらの塩などが挙げられる。
上記ポリアミン類には、メチレンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミンなどが挙げられる。
また、チオ尿素類も有効であり、チオ尿素、或は、1,3―ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素(例えば、1,3―ジエチル―2―チオ尿素)、N,N′―ジイソプロピルチオ尿素、アリルチオ尿素、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3―ジフェニルチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジドなどのチオ尿素誘導体が挙げられる。
上記錯化剤のメッキ浴に対する含有量は0.01〜2.0モル/L、好ましくは0.1〜1.0モル/Lであり、より好ましくは0.3〜0.8モル/Lである。
【0020】
無電解スズメッキ浴を構成するベース酸は、硫酸、塩酸、ホウフッ化水素酸、スルファミン酸などの無機酸、有機スルホン酸、カルボン酸、スルホコハク酸などの有機酸の中から任意に選択できる。
上記有機スルホン酸にはアルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、芳香族スルホン酸などが挙げられ、カルボン酸には脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸などが挙げられ、有機スルホン酸は排水が容易で溶解性に優れる。
また、本発明の無電解メッキ浴には、界面活性剤、pH調整剤、光沢剤、半光沢剤などの各種添加剤を含有できることはいうまでもない。
上記界面活性剤にはアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤があり、上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアリルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。
上記カチオン系界面活性剤としては、モノ〜トリアルキルアミン塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、トリメチルアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
上記ノニオン系界面活性剤としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C1〜C25アルキルフェノール、アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシルリン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものなどが挙げられる。
上記両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。
また、上記pH調整剤には、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸等の各種の酸、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の各種の塩基などが挙げられる。
【0021】
基本的に、本発明1の無電解メッキ方法は次の3つの手法P〜Rに分類される。
(1)手法P:無電解メッキと電解還元を同時並行で処理し、且つ、2つの処理を同じ場で処理、即ち、メッキ槽で無電解メッキをしながら電解還元する手法である。
(2)手法Q:無電解メッキと電解還元を同時並行で処理し、且つ、2つの処理を異なる場で処理、即ち、補充槽で電解還元しながら、メッキ槽で無電解メッキする手法である。
(3)手法R:無電解メッキと電解還元を時間差を設けて処理するもので、メッキ槽で無電解メッキをし、その処理後の劣化したメッキ液に電解還元を行って、チタンイオンを4価から3価に還元・再生する手法である。
【0022】
そこで、上記メッキ槽に補充槽を並設して無電解スズメッキを行う手法Qを、図1に基づいて説明する。
即ち、メッキ槽1とは別に補充槽2を並設し、メッキ槽1と補充槽2の上・下部を送給路3・4で連通し、下部の送給路4に搬送ポンプ8を介装して、メッキ槽1を基準に上側の送給路3を往路、下側の送給路4を復路に夫々形成し、上記ポンプ8の作用でメッキ液が送給路3・4を介してメッキ槽1と補充槽2の間を循環可能に構成する。尚、符号10はメッキ槽1に浸漬した被メッキ物、符号9a・9bは送給路3・4に付設したフィルターである。
そして、補充槽2に陰極5(材質:チタン白金)と陽極6(材質:スズ)を臨ませ、電源7により両極に通電して、メッキ槽1ではなく補充槽2の側で4価のチタンイオンを3価に電解還元し、メッキ槽1に循環させるように構成している。
尚、メッキ槽1で無電解メッキと電解還元を同時に行う前記手法Pでは、極間距離が近い場合などに被メッキ物に析出したスズが再溶解するバイポーラ現象を起こす恐れもあるが、上記手法Qでは当該現象を円滑に防止することができる。
【0023】
本発明の電解還元処理はメッキ槽又は補充槽に臨ませた陰極と陽極に通電すれば良く、使用する陽極はチタン白金、酸化イリジウム、カーボンなどの不溶性陽極に限らず、スズ又はスズ合金などの可溶性陽極でも差し支えない。また、使用する陰極は通電可能であれば任意の材質が使用できる。
電解還元する際の電圧は0.1〜3.0Vの微量範囲で充分であり(本発明3参照)、0.5〜2.5Vが好ましく、0.7〜2.0Vがより好ましい。
電圧が下限値より低いとチタンイオンを4価から3価に還元するのが困難になる恐れがあり、上限値より高いと電解還元処理用の陰極にスズが析出し、浴中のスズイオンが無駄に消耗されて被メッキ物への析出不足になる恐れがある。
即ち、本発明の電解還元処理では、4価のチタンイオンを3価に還元するに足る電圧であれば充分であり、その大きさはスズ系の電気メッキで使用する電圧に比べると微量なので、2価のスズイオン又は酸化された4価のスズイオンが金属スズに還元される恐れはない。
一方、3価チタン塩のメッキ浴中での濃度(チタンイオンとしての換算値ではなく、チタン塩の濃度である)は0.001〜1モル/Lが適しており(本発明4参照)、0.005〜0.8モル/Lが好ましく、0.01〜0.5モル/Lがより好ましく、0.03〜0.3モル/Lがさらに好ましい。0.001モル/Lより少ないとスズイオンの還元力が低下し、1モル/Lを越えるとメッキ浴が分解し易い問題がある。
【0024】
本発明2は、基本的に本発明1の無電解スズメッキ浴の3価チタン塩を4価チタン塩に置き換えたもので、無電解メッキの前にメッキ浴を電解還元して、チタンイオンを4価から3価に還元・再生し、その還元力で2価のスズイオンをスズに還元・析出させる無電解スズメッキ方法である。
上記4価チタン塩にはTiCl4(塩化チタン(IV))、Ti(SO4)2(硫酸チタン(IV))、TiI4(ヨウ化チタン(IV))などが挙げられ、例えば、硫酸チタンにおいては4価の方が3価より安価であるため、コスト面で有利である。
但し、3価チタン塩を使用する上記本発明1の手法Rは、無電解メッキ処理後に2価スズイオンの還元で自らは4価に酸化されたチタンイオンを電解還元するものであるが、これは無電解メッキ前に4価チタン塩に電解還元を施す点で、本発明2の電解再生方式と実質的に同じであり、本発明2は本発明1の手法Rと同義に位置づけられる。
また、4価チタン塩を使用する際の電解還元の電圧は、上記本発明1で電解還元する場合と同様であり、また、4価チタン塩の濃度(チタン塩としての濃度)も上記本発明1の3価チタン塩の場合と同様である。
【0025】
このように、本発明はレドックス系還元剤としての3価チタンの機能を利用して2価のスズイオンをスズに析出させる無電解スズメッキに際して、電解還元処理により4価に酸価されたチタンイオンを3価に還元して、無電解スズ浴のメッキ機能を長期に安定化することを目的とするため、無電解スズメッキの条件は通常のメッキ条件と差異はない。
例えば、撹拌の有無は任意であり、浴温は45〜90℃が適しており、析出速度を増す見地から50〜70℃が好ましい。また、pHについては、pH9.5以下が好ましく、pH8.5以下がより好ましく、pH7.5以下がさらに好ましい範囲である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の電解再生式の無電解スズメッキ方法の実施例、当該メッキ方法を実施した際の3価のチタンイオンの再生評価試験例、スズメッキ皮膜の形成評価試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0027】
《電解再生式の無電解スズメッキ方法の実施例》
下記に示す通り、3価チタン塩(TiCl3)を含有する無電解スズメッキ浴を基本浴1とし、同じく4価チタン塩(TiCl4)を含有する浴を基本浴2とした。
そして、TiCl3の濃度(チタン塩としての濃度)を3種類に変化させ、TiCl4の濃度(チタン塩としての濃度)は1種類に固定して、各実施例1〜14の無電解スズメッキ方法に使用するスズ浴を建浴した。
尚、各基本浴1〜2には当該メッキ浴を用いる際のメッキ条件を併記した。
一方、3価チタン塩を含有する無電解スズメッキ浴(TiCl3の濃度Aを0.1モル/Lに設定した基本浴1)を用いて、電解還元することなく、通常の無電解メッキを行ったブランク例を比較例1とした。
【0028】
[基本浴1]
(a)組成
SnCl2・2H2O(Sn2+として) 0.05モル/L
クエン酸3ナトリウム・2H2O 0.35モル/L
EDTA 0.10モル/L
ニトリロ3酢酸(NTA) 0.10モル/L
TiCl3 Aモル/L
pHは8.0に調整
(b)メッキ条件
浴温:70℃
撹拌:有り
被メッキ物:25×25mm圧延銅板
【0029】
[基本浴2]
(a)組成
SnCl2・2H2O(Sn2+として) 0.05モル/L
クエン酸3ナトリウム・2H2O 0.35モル/L
EDTA 0.10モル/L
ニトリロ3酢酸(NTA) 0.10モル/L
TiCl4 0.05モル/L
pHは8.0に調整
(b)メッキ条件
浴温:70℃
撹拌:有り
被メッキ物:25×25mm圧延銅板
【0030】
次に、無電解メッキ方法は、下記に示す通り、同槽で無電解メッキと電解還元を並行で行う手法P1、補充槽での電解還元とメッキ槽での無電解メッキを並行で行う手法Q1、無電解メッキ後の劣化したメッキ液(即ち、レドックス系の還元剤である3価チタンイオンが4価に酸化されてしまったメッキ液)を電解還元する手法R1の3方式で行った。
この場合、手法P1又はQ1では上記基本浴1を使用し、手法R1では上記基本浴2を使用した。
(a)手法P1
基本浴1を収容したメッキ槽に極板を入れて電解還元を行いながら、無電解メッキを1時間行って、膜厚を測定、外観を確認し、これを初期試料とした。
次いで、電解還元をしながら、無電解メッキを並行して連続8時間行って、メッキ液を劣化させた。
次に、再度、電解還元をしながら、さらに無電解メッキを1時間行って、膜厚を測定、外観を確認し、これを評価試料とした。
【0031】
(b)手法Q1
基本浴1をメッキ槽に収容し、補充槽に極板を入れて電解還元を行いながら、メッキ槽で無電解メッキを1時間行って、膜厚を測定、外観を確認し、これを初期試料とした。
次いで、補充槽で電解還元をしながら、メッキ槽で無電解メッキを連続8時間行って、メッキ液を劣化させた。
次に、再度、補充槽で電解還元をしながら、さらに無電解メッキを1時間行って、膜厚を測定、外観を確認し、これを評価試料とした。
【0032】
(c)手法R1
無電解メッキにより劣化したメッキ液に相当する、4価のチタン塩を含有する基本浴2をメッキ槽に収容し、このメッキ槽に極板を入れて電解還元を3時間行って、メッキ液が透明から青紫色に着色したことを確認した。その後、電解還元をしながら、無電解メッキを1時間行って、これを評価試料とした。
【0033】
そこで、下記の実施例1〜14のうち、先ず、基本浴1を用いた手法P1で無電解メッキを行った実施例1〜10について説明する。
(1)実施例1
TiCl3の濃度Aを0.1モル/Lに調整した基本浴1を用い、電解還元の電圧を0.8Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をし、最初の1時間での初期試料と最後の1時間での評価試料とを対比しながら、各試料のメッキ液の色調の変化、被メッキ物に付着したスズ皮膜の膜厚を観察した(この試料の観察は下記の実施例2〜14でも同様とした)。
(2)実施例2
TiCl3の濃度Aを0.1モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を1.5Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(3)実施例3
TiCl3の濃度Aを0.1モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を2.0Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(4)実施例4
TiCl3の濃度Aを0.05モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を0.8Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(5)実施例5
TiCl3の濃度Aを0.05モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を1.5Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(6)実施例6
TiCl3の濃度Aを0.05モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を2.0Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(7)実施例7
TiCl3の濃度Aを0.05モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を2.5Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(8)実施例8
TiCl3の濃度Aを0.01モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を0.8Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(9)実施例9
TiCl3の濃度Aを0.01モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を1.5Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
(10)実施例10
TiCl3の濃度Aを0.01モル/Lに調整した基本浴1を用いるとともに、電解還元の電圧を2.0Vに設定して、手法P1で無電解スズメッキ処理をした。
【0034】
そこで、上記実施例1〜10での3価チタン塩の濃度A(モル/L)と電解還元の電圧(V)をまとめて整理すると、次の通りである。
0.8V 1.5V 2.0V 2.5V
A=0.1 実施例1 実施例2 実施例3
A=0.05 実施例4 実施例5 実施例6 実施例7
A=0.01 実施例8 実施例9 実施例10
【0035】
次いで、基本浴1を用いて手法Q1で無電解メッキを行った実施例11〜13について説明する。
(11)実施例11
TiCl3の濃度Aを0.1モル/Lに調整した基本浴1を用い、電解還元の電圧を1.5V(即ち、本発明でのより好ましい範囲を満たす電圧)に設定して、手法Q1で無電解スズメッキ処理をした。
(12)実施例12
TiCl3の濃度Aを0.05モル/Lに調整した基本浴1を用い、電解還元の電圧を1.5Vに設定して、手法Q1で無電解スズメッキ処理をした。
(13)実施例13
TiCl3の濃度Aを0.01モル/Lに調整した基本浴1を用い、電解還元の電圧を1.5Vに設定して、手法Q1で無電解スズメッキ処理をした。
【0036】
上記実施例11〜13での3価チタン塩の濃度A(モル/L)と電解還元の電圧(V)をまとめると、次の通りである。
1.5V
A=0.1 実施例11
A=0.05 実施例12
A=0.01 実施例13
【0037】
次いで、基本浴2を用いた手法R1で無電解メッキを行った実施例14について説明する。
(14)実施例14
基本浴2(TiCl4の濃度は0.05モル/L)を用い、電解還元の電圧を1.5Vに設定して、手法R1で無電解スズメッキ処理をした。
従って、この実施例14では、3価チタン塩の濃度A(モル/L)と電解還元の電圧(V)は、次の通りである。
1.5V
A=0.05 実施例14
【0038】
(15)比較例1(ブランク例)
TiCl3の濃度を0.1モル/Lに設定した上記基本浴1を使用し、無電解メッキを1時間行って、膜厚を測定、外観を確認し、これを初期試料とした。
次いで、再度メッキを連続して8時間行ってメッキ液を劣化させた。
その後、さらに無電解メッキを1時間行って、膜厚を測定、外観を確認し、これを評価試料とした。
【0039】
《チタン塩の再生評価試験例》
通常、3価のチタンイオンは青紫色を呈するが、4価に酸化されたチタンイオンは脱色して透明になってしまう。従って、無電解スズメッキを継続するとメッキ液が劣化して、浴中の3価のチタンイオンは2価のスズイオンを金属スズに還元する過程で4価に酸化されるため、メッキ液は青紫色から透明に脱色されてしまう。
そこで、上記実施例1〜14及び比較例1の無電解スズメッキ方法において、各手法P1、Q1、R1での(最後の1時間の)評価試料のメッキ液の色調を、(建浴初期の1時間の)初期試料と対比観察して、次の基準で3価のチタンイオンの再生能力の優劣を評価した。
○:メッキ液は青紫色を保持していた。
×:メッキ液は透明に脱色されてしまった。
【0040】
《スズメッキ皮膜の評価試験例》
上記実施例1〜14及び比較例1の無電解スズメッキ方法において、各手法P1、Q1、R1を施した場合、評価試料での被メッキ物に形成されたスズ皮膜の膜厚並びに外観を初期試料との対比において、次の基準でスズ皮膜の形成能力の優劣を評価した。
○:スズ皮膜の膜厚及び外観は初期試料に比して遜色なかった。
×:スズ皮膜は形成されなかった。
【0041】
《チタン再生とスズ皮膜形成についての評価試験結果》
実施例1のメッキ液は建浴初期の試料では青紫色を呈したが、最後の1時間に相当する評価試料のメッキ液でも色調に変化はなく、青紫色を保持していた。
また、実施例1の初期試料のスズ皮膜は均一で色調ムラのない美麗な外観を呈し、皮膜の膜厚は1μm前後であったが、評価試料のスズ皮膜にあっても色調は美麗であり、膜厚も初期試料とあまり差異はなかった。
他の実施例2〜13でも同様であった。
手法R1による実施例14にあっては、評価試料と対比すべき対象を実施例1の初期試料としたが、評価試料のメッキ液は青紫色を保持し、評価試料のスズ皮膜の状態は当該初期試料に比べて遜色なかった。
また、比較例1(ブランク例)のメッキ液は評価試料では初期の青紫色から透明に脱色していた。また、評価試料ではスズ皮膜の形成が見られなかった。
【0042】
従って、試験結果は下表の通りである。
チタン再生評価 スズ皮膜評価
実施例1 ○ ○
実施例2 ○ ○
実施例3 ○ ○
実施例4 ○ ○
実施例5 ○ ○
実施例6 ○ ○
実施例7 ○ ○
実施例8 ○ ○
実施例9 ○ ○
実施例10 ○ ○
実施例11 ○ ○
実施例12 ○ ○
実施例13 ○ ○
実施例14 ○ ○
比較例1 × ×
【0043】
上表によると、電解還元をしない通常の無電解スズメッキ方法である比較例1では、建浴初期から9時間〜10時間目に無電解メッキを行っても、標準試料ではメッキ液は劣化して、被メッキ物にはスズが析出せず、この点は、透明に脱色されてしまったメッキ液の変化(即ち、チタンイオンが3価から4価に酸化されてしまった脱色現象)からも裏付けられた。
これに対して、電解還元処理をした実施例1〜14では、明らかにメッキ液の青紫色に変化はなかったので、液中のチタンイオンは4価に酸化されることなく、3価に良好に保持されていた。その結果、建浴から長時間を経過した時点でもスズの析出能力に優れ、建浴初期での膜厚形成能を失わず、また、皮膜外観も良好であることが確認された。
しかも、電解還元と無電解メッキをメッキ槽で並列的に行う手法P1であっても、また、メッキ槽での無電解メッキと補充槽での電解還元を並列的に行う手法Q1であっても、無電解スズ浴のメッキ機能を長期に安定化できることが確認できた。
また、劣化したメッキ後の液に電解還元を施す手法R1においても、上記手法P1やQ1と同様に、良好な膜厚と外観のスズ皮膜が得られた。このため、3価ではなく、4価のチタン塩を添加してスズメッキ液を建浴してから、電解還元を施すことによっても、無電解スズメッキを良好に実現できることが裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】手法Qによる電解再生式の無電解スズメッキを行うための、メッキ槽に補充槽を並設した形態の同メッキ装置の概略系統図である。
【符号の説明】
【0045】
1…メッキ槽、2…補充層、3…送給路(往路)、4…送給路(復路)、5…陰極、6…陽極、7…電源、8…搬送ポンプ、9a、9b…フィルター、10…被メッキ物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性第一スズ塩とレドックス系還元剤としての3価チタン塩と錯化剤とを含有した無電解スズメッキ浴を用いて、3価のチタンイオンから4価への酸化によりスズイオンを金属スズに還元して析出させる無電解スズメッキ方法において、
上記スズメッキ浴に陰極と陽極を臨ませ、無電解メッキ処理と並行して、或は無電解メッキ処理後に、メッキ液を電解還元処理してチタンイオンを4価から3価に還元・再生することを特徴とする3価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法。
【請求項2】
可溶性第一スズ塩と4価チタン塩と錯化剤とを含有した無電解スズメッキ浴を用いる無電解スズメッキ方法において、
上記スズメッキ浴に陰極と陽極を臨ませ、無電解メッキ処理の前にメッキ液を電解還元処理し、チタンイオンを4価から3価に還元・再生して、3価のチタンイオンの4価への酸化によりスズイオンを金属スズに還元して析出させることを特徴とする4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法。
【請求項3】
電解還元の電圧が0.1〜3.0Vの微量範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の3価又は4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法。
【請求項4】
3価又は4価のチタン塩のメッキ浴中の濃度が0.001〜1モル/Lであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の3価又は4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法。
【請求項5】
3価チタン塩が、TiCl3、TiBr3、TiI3、Ti2(SO4)3から選ばれた少なくとも一種であり、4価チタン塩が、TiCl4、Ti(SO4)2、TiI4から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の3価又は4価チタン塩を用いた電解再生式の無電解スズメッキ方法。

【図1】
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