説明

電解槽

【課題】 電極と隔膜間で発生する電気抵抗を極力少なくして電解槽の電気的な効率を高め、電極と隔膜の挟持部における隔膜の劣化を防止した電解槽を提供する。
【解決手段】 電解質を溶解した水溶液を供給する中間室2と、当該中間室2と隔膜3および陽極板4を介して隣接する酸性室5を有し、陽極板4は、その外周縁において中間室2および酸性室5の内壁を形成するハウジング6、7によって水密的に保持されるとともに、隔膜3は、陽極板4と中間室2の内壁を形成するハウジング6によって挟持し、陽極板4の外周縁から所定幅の環状領域には、電極としての作用を阻害する絶縁被膜もしくは陽極板と隔膜との接触を阻害する電気絶縁性の絶縁体8が設け、電極の保持部と隔膜の挟持部との間に水路9を形成し、当該水路に水が供給されるようになっていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食塩等の電解質を溶解した水溶液を電気分解することにより電解水を生成する電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極板と隔膜によって中間室、陽極室、陰極室を設け、中間室に供給した食塩水を電気分解し、陽極室と陰極室からそれぞれ酸性水、アルカリ性水を取得する電解槽が知られている(特許文献1)。当該特許文献1記載の電解槽は、電極板と隔膜の間に網目シート状のクッション材を有したものとなっている。
また、電極板と隔膜との間に介在物を設けず、これらを一体として電解槽内に固定した構造も知られている。
【特許文献1】特開2006−43707号公報
【0003】
上記特許文献1記載には、電極板を保護するために、電極板と隔膜との間にシリコンゴム等の柔軟材よりなるクッション材を介挿したと記載されている。どのような原因によって電極板が損傷し、どのような作用によって電極板が保護されるのかは記載がないものの、損傷については電気分解で生成した塩素などの酸化力の強い成分(酸化剤)が電極板と隔膜の間に滞留することが一因として考えられる。このような電極の損傷を防止するには、特許文献1のようにクッション材を介挿して電極板と隔膜間に一定の距離を設ける方法がある。しかし、電極板と隔膜の間に一律にクッション材を設けることは、電極板と中間室との距離が遠くなることにより、電極間の抵抗が高くなり、電解水の生成に必要な一定の電流量を得るには電圧を高くする必要があり、消費電力も多くなる。
また、電極板と隔膜との間に介在物を設けない構造は、電力的な効率は良いものの、電極板や隔膜の寿命が短くなる。本願出願人の装置では、電極板については表面処理をすることで隔膜よりも寿命を延ばすことができた。この際生じる隔膜の損傷は、電極板と隔膜をともに挟持した外周縁部分から進行が始まることが確認された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、上記課題に鑑み発明されたものであって、第1に、電極と隔膜の寿命を損なうことなく電極と隔膜間で発生する電気抵抗を極力少なくすることにより電解槽としての電気的な効率を高め、第2に、電極と隔膜の挟持部において発生が始まる隔膜の劣化を防止することで、電解槽の寿命を長くすることを発明課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明は下記の構成を備えたものである。すなわち、
電解質を溶解した水溶液を電気分解する電解槽であって、
前記電解質を溶解した水溶液を供給する中間室と、当該中間室と隔膜および陽極板を介して隣接する酸性室を有し、
前記陽極板および隔膜は、その外周縁において前記中間室又は酸性室の内壁を形成するハウジングの一方又は双方によって水密的に保持されており、
前記陽極板の外周縁から所定幅の環状領域には、電極としての作用を阻害する絶縁被膜もしくは前記陽極板と隔膜との接触を阻害する電気絶縁性の絶縁体が設けられていることを特徴とする電解槽。
【0006】
また、本願請求項2記載の発明は下記の構成を備えたものである。すなわち、
電解質を溶解した水溶液を電気分解する電解槽であって、
前記電解質を溶解した水溶液を供給する中間室と、当該中間室と隔膜および陽極板を介して隣接する酸性室を有し、
前記陽極板は、その外周縁において前記中間室および酸性室の内壁を形成するハウジングによって水密的に保持されるとともに、前記隔膜は、前記陽極板と前記中間室の内壁を形成するハウジングによって挟持されており、
前記電極の保持部と隔膜の挟持部との間に水路を形成し、当該水路に水が供給されるようになっていることを特徴とする電解槽。
【0007】
また、本願請求項3記載の発明は下記の構成を備えたものである。すなわち、
前記水路に供給される水は、前記中間室内の水圧以上の水圧で供給されるようになっていることを特徴とする請求項2記載の電解槽。
【0008】
また、本願請求項4記載の発明は下記の構成を備えたものである。すなわち、
電解質を溶解した水溶液を電気分解する電解槽であって、
前記電解質を溶解した水溶液を供給する中間室と、当該中間室と隔膜および陽極板を介して隣接する酸性室を有し、
前記陽極板は、その外周縁において前記中間室および酸性室の内壁を形成するハウジングによって水密的に保持されるとともに、前記隔膜は、前記陽極板と前記中間室の内壁を形成するハウジングによって挟持し、
前記陽極板の外周縁から所定幅の環状領域には、電極としての作用を阻害する絶縁被膜もしくは前記陽極板と隔膜との接触を阻害する電気絶縁性の絶縁体を設け、
前記電極の保持部と隔膜の挟持部との間に水路を形成し、当該水路に水が供給されるようになっていることを特徴とする電解槽。
【0009】
また、本願請求項5記載の発明は下記の構成を備えたものである。すなわち、
前記水路に供給される水は、前記中間室内の水圧以上の水圧で供給されるようになっていることを特徴とする請求項4記載の電解槽。
【発明の効果】
【0010】
電極に隣接して配置される隔膜の保持部に電極との電気的および物理的な接触を阻害する絶縁体を設けた本願発明に係る電解槽は、次に述べる効果を有している。
従来、低消費電力で効率よく電解水を生成することを目的として隔膜と電極の間を密着させる方法を採用した場合、隔膜外周部の隔膜保持部において生成された酸化剤が当該部分に滞留し、他の部位よりも顕著に隔膜が劣化する現象が発生していた。また、隔膜と電極の間に、直接的な接触を妨げる遮蔽物を設けた場合には、隔膜の劣化を抑制できるものの電解槽としての酸性水、またはアルカリ性水の生成能力は低下する。
これに対して本願発明は、隔膜の保持部付近の陽極板で生成された酸化剤が、絶縁体によって隔膜に接触しないようになっており、電解反応が行われる隔膜の中央側の領域では陽極板と隔膜が陽極室を流れる流水の圧力によって接触、離間を繰り返し、電解反応を阻害することなく電解水の生成が行われるようになっている。また、陽極板と隔膜の間を流れる流水は、陽極板と隔膜間に存在する酸化剤を除去するので、隔膜劣化を抑制するとともに酸化剤の濃度を低下させる。
このように、本願発明に係る電解槽は、従来隔膜劣化の進行が最も早い隔膜外周部の劣化を抑制することができるという効果を有している。
【0011】
また、電極に隣接して配置される隔膜の保持部外周に、隔膜外周部位の洗浄若しくは当該外周部位を水によって加圧することができる水路を設けた本願発明に係る電解槽は、次に述べる効果を有している。
すなわち、隔膜保持部付近で発生若しくは侵入した酸化剤を、隔膜保持部の外周に設け
た水路に供給する水によって希釈、洗浄することができる。また、隔膜外周部位の水路に中間室よりも高い圧力の原水を供給することにより、当該部位への電解質水溶液の侵入を防止して、当該部位での酸化剤の発生を防止することができるという効果がある。
以上の作用により、本願発明に係る電解槽は、隔膜の保持部付近における酸化剤の希釈、除去若しくは侵入の抑制によって隔膜の劣化を防止し、電解槽の寿命を長くすることができるという効果を有している。
【0012】
また、電極に隣接して配置される隔膜の保持部に電極との電気的および物理的な接触を阻害する絶縁体を設け、さらに、電極に隣接して配置される隔膜の保持部外周に隔膜外周部位の洗浄若しくは当該外周部位を加圧することができる水路を設けた本願発明に係る電解槽は、次に述べる効果を有している。
すなわち、絶縁体を用いることにより、隔膜の保持部付近の陽極板で生成された酸化剤が、絶縁体によって隔絶されることにより隔膜に接触しないようにすることができる。また、隔膜外周部位に洗浄水若しくは中間室よりも高い水圧の水を供給することにより、当該部位への電解質水溶液の侵入を防止して、当該部位での酸化剤の発生を防止することができる。これら2つの相乗効果により、従来のように隔膜保持部が先に劣化するのを防止し、電解槽の寿命を長くすることができるという効果を有している。また、電解反応が行われる隔膜の中央側の領域では陽極板と隔膜が陽極室を流れる流水の圧力によって接触、離間を繰り返し、電解反応を阻害することなく電解水の生成が行われるようになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本願発明を実施するための最良の形態を図を用いて説明する。図1は、電解水生成装置に使用する本願発明に係る電解槽の分解斜視図を表している。当該電解槽は、詳細には図2を用いて後述するように、飽和食塩水を貯めた塩水タンクからポンプによって供給される電解質の水溶液(一例として食塩水)を電気分解し、酸性水もしくはアルカリ性水を取得する装置の一部として使用するものである。なお、本実施の形態の説明に使用する図面は、説明に必要な部位を中心に表したものであって、電解水生成装置としての細部を省略したものである。
【0014】
本実施の形態に係る電解槽1は、外観を構成するハウジングと当該ハウジング内に設けた各手段によって構成されている。以下、図1および図2を中心に、電解槽1の構造について説明する。
電解槽1は、前記食塩水を一例とした電解質を溶解した水溶液を供給する中間室2と、当該中間室2と隔膜3および陽極板4を介して隣接する酸性室5を有している。
中間室2は、3分割されたハウジングの中央部を成す中央ハウジング6内に形成される空間として構成されている。中央ハウジング6は、酸とアルカリに耐性を有する素材によって形成された板状体に表裏貫通した矩形状の穴を形成した構造を有しており、穴の開口部に隔膜および電極板を装着するための装着部を設けたものである。当該装着部に隔膜および電極板を装着することによって中間室2が形成される。
【0015】
中央ハウジング6の表裏には、それぞれハウジングの一部を成す側板7と側板11が水密的に装着されている。側板7は、中央ハウジング6と同様に酸とアルカリに耐性を有する素材によって形成された板状体であり、中央ハウジング6側の側面に中間室2の開口よりもやや大きく形成した矩形の開口を有する凹部を設けたものとなっている。当該凹部によって形成される空間が、中間室2に隣接する酸性室5となる。
また、前記側板7を設けた側とは反対側の中央ハウジング6の側面にも、側板7とほぼ同一外観の側板11が設けられている。当該側板11も中央ハウジング6側の側面に凹部を有しており、当該凹部が中間室2に隣接するアルカリ性室12となっている。
また、図1および図2の紙面の上下を電解槽1の天地として説明すると、中央ハウジン
グ6には、塩水タンク13内で生成された食塩水を中間室2内に導く塩水供給部14が外周部下方に設けられ、中間室2内を通過した電解処理後の食塩水を塩水タンク13に戻すための塩水排出部15が外周部上方に設けられている。
【0016】
ハウジングの一部を成す側板7には、上水道から供給される水道水を原水として供給する原水供給部16が外周部下方に設けられ、酸性室5内を通過した電解処理後の酸性水を外部に取り出すための酸性水排出部17が外周部上方に設けられている。
また、ハウジングの一部を成す側板11には、上水道から供給される水道水を原水として供給する原水供給部18が外周部下方に設けられ、アルカリ性室12内を通過した電解処理後のアルカリ性水を外部に取り出すためのアルカリ性水排出部19が外周部上方に設けられている。
【0017】
中央ハウジング6の酸性室側開口の内縁には段凹部が設けられており、当該段凹部内に正電極を成す陽極板4と隔膜3の外周部が装着されるようになっている。
本実施の形態では、隔膜3は、食塩水中の塩素イオン(陰イオン)を選択的に透過させるイオン交換膜によって形成されている。また、陽極板4は、複数の小孔を設けたチタン製の矩形板に酸化イリジウムと白金をコーティングしたものであり、外周縁に断面が凹状の溝ゴム20が環状に装着されたものである。
陽極板4の一部には、電力供給用の端子片10が設けられており、ハウジングの外部に表出するようになっている。陽極板4は、中央ハウジング6の段凹部内に装着された後、側板7の装着によって前記溝ゴム20が両ハウジング6、7によって押圧された状態で挟持され、当該部分において中間室2から酸性室5へ水が漏れないように水密性を保持している。
【0018】
隔膜3は、陽極板4の外周に設けた前記溝ゴム20との間に僅かな間隔を有し、当該溝ゴム20と干渉しない程度の大きさとなるように外形が小さく形成されている。また、隔膜3の外形部分は、中間室2の開口部に設けた環状のパッキン21によって、後述する絶縁体8を介して陽極板4側に押し付けられている。
前記絶縁体8は、耐酸性かつ絶縁性を有する樹脂シートであり、前記パッキン21によって押圧される隔膜3との接触領域から溝ゴム20に覆われた外周縁に至る環状の帯幅領域に接着するなどして設けられた陽極板4表面上の遮蔽物である。
当該絶縁体8は、陽極板4と隔膜3が直接接触するのを防止するとともに、陽極板4と隔膜3間の隙間において水溶液の電解が行われるのを阻害し、この付近分で電解された酸化力の強い成分が隔膜3と接するのを阻害する作用を有するものである。なお、樹脂シート状の前記絶縁体8に換えて、陽極板4上の該当部分に絶縁性を有する塗料等を付着させた皮膜によって形成してもよい。
【0019】
さらに、前記隔膜3外周部と前記溝ゴム20との間に設けた間隔に対応して、外部から供給された水が循環可能な通水路9が設けられている。図3に示すように、当該通水路9は、中央ハウジング6の段凹部内に設けられた溝として形成されており、酸性室5に供給される水の一部を分岐して、通水路9の一部に設けた孔23から供給し、他の通水路9の一部に設けた孔24から排水するようになっている。前記孔23にはハウジング6に設けた洗浄水供給部34を介して原水を供給し、孔24からの排出水は洗浄水排水部35を介して電解槽の外部に取り出すようになっている。
本実施の形態では、酸性室5に供給される原水の水圧は、中間室2内の水溶液の水圧よりも高く設定されているので、通水路9内の水圧も中間室2内の水圧よりも高くなっている。したがって、中間室2に供給された水溶液が隔膜3とパッキン21の隙間に入り込むのを防止し、通水路9を超えて陽極板4外周の溝ゴム20まで到達しないようになっている。
なお、通水路9内の水圧が中間室2内の水圧よりも低くなった場合には、中間室2の水
溶液が通水路9内にしみでる可能性がある。しかし、水溶液が通水路9内にしみ出たとしても、通水路9内を流れる水が水溶液を希釈する。また、仮にしみ出た水溶液の一部が電極と接触したとしても、洗浄作用によって酸化力の強い成分が一箇所に滞留しないので、隔膜の端部付近の劣化や溝ゴムおよびパッキンの劣化を防止するようになっている。
【0020】
また、中央ハウジング6のアルカリ性室12側開口の内縁にも段凹部が設けられており、当該段凹部内に負電極を成す陰極板25と隔膜26が配置されている。当該隔膜26は、イオン交換膜であり、食塩水中のナトリウムイオン(陽イオン)を選択的に透過させる機能を有している。
陰極板25は、複数の小孔36を設けたチタン製の矩形板に白金をコーティングしたものであり、外周縁に断面が凹状の溝ゴム27を環状に装着したものである。また、陰極板25の一部には、電力供給用の端子片28が設けられており、ハウジングの外部に表出するようになっている。
陰極板25は、中央ハウジング6の段凹部に装着された後に、溝ゴム27を側板11の取り付けによって押圧されつつ両ハウジングによって挟持される。この際、溝ゴム27はパッキンとして作用するので、中間室2の水溶液がアルカリ性室12へ移動しないようになっている。
【0021】
陰極板25と接する隔膜26は、陰極板25の外周に設けた前記溝ゴム27との間に僅かな間隔を設けた状態で、隔膜26の表面に接するように配置されている。そして、当該隔膜26の外形部分は中間室2の開口部に設けた環状のパッキン29によって、ほぼ水密的に陰極板25側に押し付けられている。
【0022】
また、図1のみに表しているが、中間室2には当該中間室2の内側形状とほぼ同形の外形寸法を有するスペーサ30が収容されるようになっている。スペーサ30は、合成樹脂により一体成形された格子状の内部構造を有するものであり、表裏2つの板状の分割体を連結させて構成したものである。スペーサ30は、各分割体の裏面同士を当接させて結合させた状態で、中間室2内にがたつきが少なく収まるように寸法精度良く形成されている。
スペーサ30の両面には、塩水の流れ方向に沿って設けられた複数本の凸条が、隔膜側に向かって僅かに突出した状態でほぼ等間隔で設けられている。本実施の形態では、凸条は約5.5mm間隔で設けられており、各凸条の頂部の高さは全て等しくなるように形成されている。また、凸条の幅は1.5mmであり、先端中央に0.5mm程度の幅の平坦部を有するとともに、当該平坦部の両側は半径0.5mmの曲面となっている。すなわち、凸条は、断面が半円に近似した形状となるように形成されている。
また、当該凸条は、凸条と直交して格子を形成する連結部と一体的に成形されている。連結部の表面は長方形状の平坦面であって、かつ当該平坦面は、前記凸条先端の高さより約0.5mm程低くなるように設けられている。
【0023】
スペーサ30の外周部の形状は、中央ハウジング6に設けた中間室2の内周壁の内側にがたつき無く収まるように形成されている。スペーサ30は、中間室2内をほぼ埋め尽くすように設けられているが、内部には塩水を通過させるための空間が設けられている。
また、スペーサ30は、中央ハウジング6と係合する係合部を有しており、陽極側から入れられた後に中間室2内に固定されるようになっている。これにより、酸性室5、中間室2、アルカリ性室12の各室間で圧力差が生じても、隔膜に押されてスペーサ30が移動するのを妨げている。各電極板、隔膜、スペーサの位置関係は、要求されるpHと次亜塩素酸等の有効塩素濃度等を制御する上で重要な要素となっている。当該、酸性室で生成される次亜塩素酸を中心とした塩素系イオン、その他酸化剤を含む酸性水は、食品の殺菌、厨房機器の殺菌等に広く利用することができるものである。
【0024】
図1に示した各部材は中央ハウジング6を中心として重ね合わされ、中央ハウジング6外周に設けた孔37、側板7外周に設けた孔38および側板11外周に設けた孔39に、それぞれボルト(図示せず)を挿通し、当該ボルトの端部にナット(図示せず)を締結することで、図2に示す断面を有する電解槽が形成される。
【0025】
以上説明した本願発明に係る電解槽は、陽極板4の外周付近の電極面に絶縁体8を設け、当該絶縁体8によって隔膜3と陽極板4の接触を阻害することを第1の特徴とする。
中間室2に供給された水溶液に含まれる電解質のイオンは、電場によって各電極に引き寄せられて隔膜を通過する。しかし、陽極板4付近には、隔膜3を劣化させる性質の強い成分が集まるので、隔膜3を通過した後には、隔膜3を劣化させる成分はすみやかに除去されることが望ましい。そして、一般的な電解槽は、酸性室に供給される水が陽極板4と隔膜3との間にも流れるので、電極板の中央付近においては隔膜3を劣化する成分が比較的すみやかに除去される。
しかし、陽極板4および隔膜3の固定部を中心とした中間室2および酸性室5の外周部分では、原水の流速が遅くなるので、生成された酸化剤が滞留しやすい。また、隔膜3と陽極板4が直接接触していると、隔膜3と陽極板4の間に染み込んだ溶液はその場に止まり、電解作用によって生じる次亜塩素酸やその他の酸化剤がその場に滞留して隔膜の劣化を促進する。
【0026】
本実施の形態では、隔膜劣化の原因となる成分の滞留しやすい、陽極板4および隔膜3の固定部を中心とした領域において、陽極板4と隔膜3を絶縁体8によって隔絶する構造を採用している。隔膜3は、中間室2の開口縁に設けたパッキン21の弾性によって押圧され、絶縁体を介して陽極板4に押し付けられている。したがって、当該押し付け部分において、隔膜3と陽極板4の間に塩水が侵入したとしても、絶縁体8の介在によって隔膜直近での隔膜劣化の成分の発生を抑制し、隔膜の寿命を保つことができるようになっている。
【0027】
また、本願発明は、第2の特徴として、ハウジングへの固定部となる陽極板4外周の溝ゴム20と、陽極板4の電極面(絶縁体8表面)に押し付けられた隔膜3の外周縁(パッキン21)との間に空間(水路9)を形成し、当該空間に電解質を含まない原水(例えば、上水道にて供給される通常の水道水)を供給するようになっている。
本実施の形態では、酸性室5に供給する水の一部をハウジング6に設けた洗浄水供給部34を介して原水として水路9内に供給し、ハウジング6に設けた洗浄水排出部35を介して排出するようになっている。
図3は、ハウジング6の酸性室側の側面を表したものであり、同図においてハッチングを施した部分が水路9となる部分となっている。当該水路9中には、原水の塩水供給部14と連通する孔23と塩水排出部15と連通する孔24が設けられており、当該孔23から流入した水が循環して孔24から排出されるようになっている。
【0028】
前記水路9は、ハウジング6側面の段凹部内に形成した内側環状凸部31と外側環状凸部32との間の凹部として形成されている。内側環状凸部31は、主として隔膜3を陽極板に押し付けるパッキン21を押圧し、外側環状凸部32は、主として陽極板4外周の溝ゴム20を側板7側に押し付けることでそれぞれ水密作用を生じさせる部位である。
本実施の形態に係る電解槽は、中間室2よりも酸性室5およびアルカリ性室12の水圧を高く設定して、隔膜3と隔膜26をスペーサ側に押し付けるようになっている。特に、酸性室5に供給される水を分岐して水路9に供給することで、水路9内を中間室2よりも高い水圧の原水を供給している。このように水路9内を中間室2よりも高圧にするということは、水路9内から中間室2に水が漏れ出すことはあっても、内側環状凸部31を超えて中間室2の塩水が水路9内侵入しないということである。また、水路9内と酸性室5はほぼ等圧であるから、圧力差によって酸性室5で発生した酸性水が水路9内に侵入して隔
膜の端部を劣化させることはない。
【0029】
上記のように、水路9内の水圧は中間室2や酸性室5よりも高いことが望ましい。しかし、水路9内の水圧が低い場合であっても、水路9内に一定流量の水を流すことで、侵入した塩水成分を希釈するとともに押圧部である隔膜端部を洗浄するので、隔膜保持部分での隔膜劣化の速度を遅らせることができる。
なお、上述した水圧差と水流による希釈、洗浄の双方を利用する方法、水圧差のみを利用する方法、水による希釈、洗浄のみ行う方法の何れを採用するかは、製品として要求される電解槽のスペックに応じて適宜選択されるものであり、何れに於いても本発明の技術的範囲に属するものである。
【0030】
次に、図4を用いて、隔膜保持部付近における隔膜劣化の防止構造を採用した電解槽の他の構造について説明する。図4に示した電解槽101は、その大部分において前述した電解槽1と同一である。したがって、同一構造の部位については同一の符号を付してその説明を省略する。
電解槽101と電解槽1との相違点は、電解槽1に設けていた水路9、当該水路9に水道水等の原水を供給する手段を省いた構造を採用している点である。隔膜劣化防止の観点からは、前述した電解槽1のように、絶縁体8と水路9との相乗効果を有するほうが好ましい。しかし、隔膜3の保持部付近に絶縁体8を設けるだけでも、同能力の従来の電解槽と比較して隔膜の寿命を延ばすことができる。
製品として要求される電解槽には、業務用、家庭用、酸性水の生成能力等の点で能力の異なるいくつかの種類がある。電解槽として実現しうる最大限の能力を要求しない装置の場合には、当然隔膜劣化の速度が遅いので、他の部位との寿命のバランスを考慮した場合に中央ハウジング106に水路を設けず、絶縁体8を設けるだけで十分な場合がある。
【0031】
次に、図5を用いて、隔膜保持部付近における隔膜劣化の防止構造を採用した他の電解槽の構造について説明する。図5に示した電解槽201は、その大部分の構造において前述した電解槽1と同一である。したがって、同一構造の部位については同一の符号を付してその説明を省略する。
電解槽201の電解槽1との相違点は、電解槽1に設けていた絶縁体8を省いた点である。図5に示した電解槽201は、電解槽1と同一形状の中央ハウジング6を用いているので、絶縁体8を省いた厚みの分、パッキン21よりもパッキン221の厚みを厚くし、溝ゴム20よりも溝ゴム220の厚みを厚くしている。
隔膜劣化防止の観点からは、前述した電解槽1のように、絶縁体8と水路9との相乗効果を有するほうが好ましい。しかし、隔膜3の保持部の付近にのみ水路9を設けるだけでも、同能力の従来の電解槽と比較して隔膜の寿命を延ばすことができる。
製品として要求される電解槽には、業務用、家庭用、酸性水の生成能力等の点で能力の異なるいくつかの種類がある。電解槽として実現可能な最大限の能力を要求しない装置の場合には、当然隔膜劣化の速度が遅いので、他の部位との寿命のバランスを考慮して絶縁体8を設けず、水路9を設けるだけで十分な場合がある。
【0032】
以上、酸性室を中心に電解槽の構造を説明したが、これはアルカリ性室と比較して酸性室における隔膜劣化の進行度合いが顕著であるためであり、同一電極・隔膜構造をアルカリ性室側に適用することに何ら支障はなく、本願発明の技術的範囲に属するものである。
また、電解槽には、生成する酸性水、アルカリ性水の量、濃度等に応じて、2室式、上記実施例のような3室式、その他電解室を多数設けた3室以上の多室式の電解槽がある。本願発明は、隔膜の劣化防止と電解効率の向上を目的としたものであり、本願発明に係る構造を採用した場合には、2室式や多室式電解槽であっても本願発明の技術的範囲に属するものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本願発明は、食塩水等の電解質の水溶液を電気分解して、酸性水やアルカリ性水を得ることができる電解槽に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本願発明に係る電解槽の概要を示す分解斜視図である。
【図2】本願発明に係る電解槽の断面図である。
【図3】本願発明に係る電解槽に用いる中央ハウジングの説明図である。
【図4】本願発明の第2の実施例に係る電解槽の断面図である。
【図5】本願発明の第3の実施例に係る電解槽の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 電解槽
2 中間室
3 隔膜
4 陽極板
5 酸性室
6 中央ハウジング
7 ハウジング(側板)
8 絶縁体
9 水路
10 端子片
11 ハウジング(側板)
12 アルカリ性室
13 塩水タンク内
14 塩水供給部
15 塩水排出部
16 原水供給部
17 酸性水排出部
18 原水供給部
19 アルカリ性水排出部
20 溝ゴム
21 パッキン
23 孔
24 孔
25 陰極板
26 隔膜
27 溝ゴム
28 端子片
29 環状のパッキン
30 スペーサ
31 内側環状凸部
32 外側環状凸部
34 洗浄水供給部
35 洗浄水排水部
36 小孔
37 孔
38 孔
39 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を溶解した水溶液を電気分解する電解槽であって、
前記電解質を溶解した水溶液を供給する中間室と、当該中間室と隔膜および陽極板を介して隣接する酸性室を有し、
前記陽極板および隔膜は、その外周縁において前記中間室又は酸性室の内壁を形成するハウジングの一方又は双方によって水密的に保持されており、
前記陽極板の外周縁から所定幅の環状領域には、電極としての作用を阻害する絶縁被膜もしくは前記陽極板と隔膜との接触を阻害する電気絶縁性の絶縁体が設けられていることを特徴とする電解槽。
【請求項2】
電解質を溶解した水溶液を電気分解する電解槽であって、
前記電解質を溶解した水溶液を供給する中間室と、当該中間室と隔膜および陽極板を介して隣接する酸性室を有し、
前記陽極板は、その外周縁において前記中間室および酸性室の内壁を形成するハウジングによって水密的に保持されるとともに、前記隔膜は、前記陽極板と前記中間室の内壁を形成するハウジングによって挟持されており、
前記電極の保持部と隔膜の挟持部との間に水路を形成し、当該水路に水が供給されるようになっていることを特徴とする電解槽。
【請求項3】
前記水路に供給される水は、前記中間室内の水圧以上の水圧で供給されるようになっていることを特徴とする請求項2記載の電解槽。
【請求項4】
電解質を溶解した水溶液を電気分解する電解槽であって、
前記電解質を溶解した水溶液を供給する中間室と、当該中間室と隔膜および陽極板を介して隣接する酸性室を有し、
前記陽極板は、その外周縁において前記中間室および酸性室の内壁を形成するハウジングによって水密的に保持されるとともに、前記隔膜は、前記陽極板と前記中間室の内壁を形成するハウジングによって挟持し、
前記陽極板の外周縁から所定幅の環状領域には、電極としての作用を阻害する絶縁被膜もしくは前記陽極板と隔膜との接触を阻害する電気絶縁性の絶縁体を設け、
前記電極の保持部と隔膜の挟持部との間に水路を形成し、当該水路に水が供給されるようになっていることを特徴とする電解槽。
【請求項5】
前記水路に供給される水は、前記中間室内の水圧以上の水圧で供給されるようになっていることを特徴とする請求項4記載の電解槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−196014(P2008−196014A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32692(P2007−32692)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】