説明

電解槽

【課題】
液体を電気分解し、物質の変換、生成等を行う電解槽の内部では、液体の対流や発生するガスによって、内部の液が攪拌され、電解効率が下がったり、生成物に未分解の原料の混入が見られることが多い。そこで、液体の電気分解を行う電解槽の内部で、供給原料と電解物の混合を避けて、原料の混入比率の低い高純度の電解物を得る技術を提供することを解決すべき課題とした。
【解決手段】
2以上の平行に配設された電極で構成される電解槽にあって、鉛直方向で下方に原料供給口が、上方に電解物排出口が配設されている電解槽の水平断面で、対向する2の電極、或いは対向する2の電極と電極保持部で囲まれた平面の面積S(cm2)で電極の鉛直方向長さH(cm)を除した値H/Sが7以上、より好ましくは10以上である電解槽を、課題を解決する手段として提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解槽に関するものである。より詳細には、対流や発生ガスによる電解原料と電解物の混合を抑制する構造を持った電解槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気分解は物質の生成、改質、分解など多様な目的で汎用されている技術である。反応の種類によっては、熱や圧力を用いた通常の化学反応過程に比べ極めて低いエネルギーで反応を生起できるためである。また、電圧による反応の選択性が高いことや、電流によって反応の制御を容易に行うことができる点、熱の影響が少ないことなどの利点があるためでもある。
【0003】
ところで、電解反応を連続的に行う工程においては、原料と生成物の分離が課題となる。電解槽には原料が連続的に供給され、それと同量の電解物が排出されなければならないので、原料と電解物を完全に分離することは原理的に不可能である。槽内での滞留時間を長くとれば反応は進み原料の排出量は減少するが生成効率は下がってしまう。
【0004】
電解槽から排出される電解物に原料が混入していると、電解物の純度を高めるためにその後の工程で原料を分離除去する操作が必要となり、設備費の増大、工程時間延長及びエネルギーの浪費が発生し、生産コストを引き上げる要因となる。
【0005】
電解槽内で原料と電解物の混合を助長し分離を困難にする要因は主に槽内における液体の攪拌である。それらは原料供給流によるものの他、電解熱による対流、発生ガスによる攪拌などによって生じる。それを緩和するためには、まず原料の供給を少量ずつ一定低流量とすることである。又、熱による対流は電解槽の冷却によっても軽減することが可能である。
【0006】
一方、発生ガスによる攪拌には別の対策が必要となる。発生ガスによる攪拌を抑制するためには槽を対流しにくい構造とすることが重要である。つまり液体が移動しにくいようにできるだけ液体が摩擦を受けやすい構造や、気泡の移動により発生する乱流の影響ができるだけ広範囲に及ばないようにすることである。特許文献1には電極の形状を縦長にすることにより電解槽内の流れを整える技術が示されている。一般に、電極を縦長にすることで電解槽自体も縦長となり液深が深くなるために上下の混合が起きにくくなる効果はあるが、液柱の水平断面積が大きかったり、電極間隔が大きすぎると混合流は起きやすくなる。従って、単に電極を縦長にしたことのみでは攪拌抑制の十分な効果は得られないのである。
【0007】
この先行技術の他には、電解槽内の原料と電解物の混合に着目し、混合抑制技術について説明された特許文献は見出し得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−35201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、電解槽の中で原料と電解物の混合を避けて、原料の混入比率の低い高純度の電解物を得る技術を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
もし、電解槽内で液体の攪拌が起きなければ、原料入り口から電解物出口に向かって、電解物の濃度が連続的に高くなるような電解物濃度勾配が形成されるはずである。そのような状況であれば、電解条件を調整することで、原料混入の無い電解物の生成が可能になる。従って、電解中に攪拌の無い状態を実現することで本課題を解決することが可能である。
【0011】
電極間に構成される空間を液体の流路と想定すると、電解原料と電解物の混合を抑えるためには、基本的に、流路の下端に配設された原料供給口から上端の電解物の出口までの距離が離れているほど有利である。又、供給口と出口の距離には流路の断面積に対しても最適値があることが推測された。そこで実際にサイズの異なる電解槽を製作し最適形状を実体試験により求め、本発明の課題を解決するための手段の各態様を得た。
【0012】
まず、2以上の平行に配設された電極で構成される電解槽にあって、鉛直方向で下方に原料供給口が、上方に電解物排出口が配設されている電解槽の水平断面で、対向する2の電極、或いは対向する2の電極と電極保持部で囲まれた平面の面積S(cm2)で電極の鉛直方向長さH(cm)を除した値H/Sが7以上、より好ましくは10以上である電解槽を本課題を解決する第1の態様とした。
【0013】
又、第1の態様において、対向する電極間距離が4mm以下、より好ましくは3mm以下である電解槽を本課題を解決する第2の態様とした。
【0014】
又、第1又は2の態様において、電解反応がガス発生反応である電解槽を本課題を解決する第3の態様とした。
【0015】
又、第1乃至3の何れかの態様において、対向する2の電極間に通電される電流が電極の単位面積当たり0.05(A/cm2)以下である電解槽を本課題を解決する第4の態様とした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によりもたらされる効果は次の通りである。まず、2以上の平行に配設された電極で構成される電解槽にあって、鉛直方向で下方に原料供給口が、上方に電解物排出口が配設されている電解槽の水平断面で、対向する2の電極、或いは対向する2の電極と電極保持部で囲まれた平面の面積S(cm2)で電極の鉛直方向長さH(cm)を除した値H/Sが7以上、より好ましくは10以上である電解槽としたことにより、電解槽の下部から供給される原料が電極に沿って静かに上昇するにつれて電解され、上部の排出口から電解物として排出される状態が実現された。電解反応がガス発生を伴う場合も、電解原料と電解物の混合は最小限に抑制される。
【0017】
又、対向する電極間距離が4mm以下、より好ましくは3mm以下である電解槽としたことにより、ガス生成反応による攪拌が一層効果的に抑制される。
【0018】
又、電解反応がガス発生反応である電解槽としたことにより、電解槽内部液の攪拌混合抑制効果が最大限に発揮されることになる。
【0019】
また、対向する2の電極間に通電される電流が電極の単位面積当たり0.05(A/cm2)以下である電解槽としたことにより、電解がガス発生反応である場合も電解槽電解空間当たり必要以上のガス発生が無く、また必要以上の発熱が無く本発明の効果が最も効果的に発揮される電解条件が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例を組み込んだ装置のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、電解原料と電解物の混合を極力避けたい、いかなる電解工程にも利用できるが、特にガス発生を伴う反応において、発生ガスによる電解槽内部の液の攪拌を避けたいときに効果的である。電解槽は単一セル式にも複数セル式にも適用でき、又結線方式も単極式と複極式とを問わない。電極の形状も、平板や円筒状など、電極面を相互に平行に組み合わせるものならいかなる形状にも適用できる。
【0022】
このような電解槽を設計する手順としては、まず電解物の目標生成量から常法により電流値を算出し、本発明の限度内で対応する必要電極面積を算出する。次に、電極間隔を電解原料の物性に応じて、本発明の限度内に設定し、最後にそれらのパラメーターを使って、本発明に従って電極の寸法を決定すればよい。
【0023】
さらに、本発明の実施形態をより具体的に説明するために、本発明を構成する最適条件を求める目的で行った試験の一部を紹介する。6%の希塩酸を原料として2種類の単一セルの電解槽で電解性能を比較した。電解槽Aは、電極サイズが幅50mm、高さ200mmで、電極間隔を3mmに構成した。電解槽Bは、1辺が100mmの正方形の電極を3mm間隔で配置した。「電極高さ/横断面積」はそれぞれ13及び3.3である。何れも電圧は2.2V、電解電流は4.5Aで連続電解試験を行った。希塩酸の供給量は電流追随で、電流値を一定に維持するように供給した。両電解槽から排出された電解物は水で連続的に1000倍に希釈した。希釈液の生成量はA、B同一にした。
【0024】
このような電解条件で希塩酸を電解すると、希塩酸に含まれる塩素イオンは電解酸化され、単体塩素や、それが水と反応した分子状次亜塩素酸が生成される。一方、水素イオンは還元されて水素ガスとなり反応系から外れる。その結果、反応の進行度に応じてpHは高くなり、有効塩素濃度も高くなる。従って排出液についてそれらの特性値を測定することによって電解反応の進行状況を知ることができるのである。
【0025】
そこで両電解槽を使って生成された希釈液の有効塩素濃度とpHを測定した。その結果、電解槽Aから得られた電解物の希釈液は有効塩素濃度42ppm、pH5.8で、電解槽Bから得られたものはそれぞれ25ppm、pH4.5であった。
【0026】
塩酸の電解反応では塩素ガスと水素ガスが発生するので、気泡による内部の攪拌混合が起きやすい状況にある。電解槽Bでは断面積に対する電解槽高さが不足していたため、電解槽の内部の液組成が上下でほぼ均等になるような攪拌が起きてしまい、未分解の塩酸が排出され、その結果Aに比べて有効塩素濃度及びpHが低くなったものと推論される。この現象は電解槽の側面を透明プラスチックで構成した電解槽に微粒子を入れて観察することで視覚的にも確認された。原料希塩酸の消費量もBの方がAに比べ約10%多かった。
【実施例1】
【0027】
図1に示したのは希塩酸を電気分解し、次亜塩素酸溶液を生成する装置のフロー図であり、その中の電解槽4が本発明の実施例である。電解原料である希塩酸は原料入り口2から定量ポンプ3で電解槽に供給される。電解槽には直流電源5から直流電流が供給され電解が行われる。電解物は排出口6を経て、希釈水入り口1から供給される希釈水流中に注入され混合器7で均一に混合され、生成水排出口8から排出される。
【0028】
本実施例の電解槽は、幅160mm、高さ1000mmの矩形電極31枚を3mm間隔で配置し構成された複極式電解槽である。電極高/横断面積比は21となる。この電解槽に65Vで60Aの直流電流を通電し、生成した電解液を希釈水入り口から流入する海水に、有効塩素濃度2ppmの目標で注入し、毎時160tの海水を殺菌した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は電解によって物質の変換を行う目的の電解槽に関するものであるので、電解槽を用いるいかなる産業にも利用できる。特にガス発生を伴う反応を用いる産業には効果的に利用される。
【符号の説明】
【0030】
1 希釈水入り口
2 原料入り口
3 定量ポンプ
4 電解槽
5 直流電源
6 排出口
7 混合器
8 生成水排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の平行に配設された電極で構成される電解槽にあって、鉛直方向で下方に原料供給口が、上方に電解物排出口が配設されている電解槽の水平断面で、対向する2の電極、或いは対向する2の電極と電極保持部で囲まれた平面の面積S(cm2)で電極の鉛直方向長さH(cm)を除した値H/Sが7以上、より好ましくは10以上であることを特徴とする電解槽
【請求項2】
対向する電極間距離が4mm以下、より好ましくは3mm以下であることを特徴とする請求項1記載の電解槽
【請求項3】
電解反応がガス発生反応であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解槽
【請求項4】
対向する2の電極間に通電される電流が電極の単位面積当たり0.05(A/cm2)以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電解槽

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−12325(P2011−12325A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159380(P2009−159380)
【出願日】平成21年7月5日(2009.7.5)
【出願人】(509266789)株式会社微酸性電解水研究所 (7)
【Fターム(参考)】