説明

電解生成水の製造装置及びその製造方法

【課題】 多孔質体の電極を各電極室内に配設することで、各電極室内を流水する水が電極と十分に接触し、電解反応を向上させる電解生成水の製造装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 上記課題を解決するために、本発明の電解生成水の製造装置は、多孔質体で形成された陽極電極が隙間なく充填された陽極室と、多孔質体で形成された陰極電極が隙間なく充填された陰極室と、前記陽極室と、前記陰極室との間に設けられ、電解質水溶液を収容する中間室と、前記陽極室と、前記中間室とを隔てる陰イオン交換膜からなる第1の隔膜と、前記陰極室と、前記中間室とを隔てる陽イオン交換膜からなる第2の隔膜と、前記陽極室と前記陰極室とを隔てる隔壁とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解生成水を製造する製造装置及び製造方法に関するものであり、特に、電解反応を向上させることにより電解効率を飛躍的に向上させることと、陰極へのスケール付着防止を図った電解生成水の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電解生成水の製造装置としては、平板電極使用の1室式と2室式の製造装置がある。1室式の製造装置は、例えば、食塩水などの電解質水溶液を槽内に注入して陽極板と陰極板とを配設し、これら陽極板と陰極板とに通電して電解工程を経ると未電解の塩化ナトリウムと次亜塩素酸ソーダ(NaClO)を含むアルカリ性電解水と強い塩素ガス(Cl)が生成される。
【0003】
また、2室式の電解生成水の生成装置としては、例えば、特許文献1(特開2005−329375号公報)に開示された構成のものが公知になっている。この2室式の製造装置は、1つの槽の中間部をイオン透過性隔膜で隔てて対向する2つの電解室を形成し、各電解室に原水供給手段と電解生成水取出手段とを設けると共に、一方の電解室に陽極電極と塩化物水溶液(食塩水)供給手段を配設し、他方の電解室にも陰極電極と塩化物水溶液(食塩水)供給手段を配設したものである。そして、各電極に所要の電圧を印加して電解工程を経ることで、陽極側に塩素ガスと未電解の塩化ナトリウムを含む酸性の次亜塩素酸(HClO)を含む電解生成水が得られ、陰極側に水素ガスとアルカリ電解生成水が得られる。
【0004】
ところが、1室式の場合、電解工程において、水道水に含まれる有機物とアルカリ環境下の次亜塩素酸ソーダとが反応して有害な塩素ガス(Cl)とトリハロメタンが発生すると共に、塩化ナトリウムが未電解としてそのまま残存してしまう。
また2室式のもの、即ち、特許文献1で開示されている電解生成水生成装置の場合は、1室式の製造装置で発生するトリハロメタンといった有害物質の発生を抑制することはできるものの、未電解の塩化ナトリウムが残存してしまい、次亜塩素酸(HClO)の塩素イオン(Cl)と平行移動作用による強い塩素ガスを生成してしまう。即ち、特許文献1に開示される2室式のものは、電解の効率を高めるために電解室に食塩水を供給して電解を行うようにしており、そのため陽極側の電解室で生成された酸性の電解生成水は、次亜塩素酸のみならず未電解の塩化ナトリウムを含んでしまう。これにより、平衡移動による塩素ガスの気化等が生じてしまう。従って、次亜塩素酸は短時間で気化してしまい、酸性次亜塩素酸(HClO)において必要とする殺菌力や消臭力の機能を長時間担保することが難しく、その用途が制限されてしまう。
【0005】
そこで、塩化ナトリウムを含まない電解生成水を製造する装置として、例えば、特許文献2(特開2000−246249号公報)に開示されるような3室式の電解装置が提案されている。この3室式の電解装置は、中間室の両側にイオン交換膜と電極板とを介して両側に陽極室と陰極室とを備えた構成となっている。中間室には高濃度の電解質水溶液、例えば、10%濃度の塩化カリウムや塩化ナトリウム水溶液が充填されている。そして、陽極室と陰極室には、例えば、水道水を通水し、両電極板に通電して電解工程を経ることで、塩化ナトリウムを含まない電解生成水、すなわち、陽極室ではpH2.0〜3.0程度の酸性の電解生成水が生成され、陰極室ではpH10.0〜12.0程度のアルカリ性の電解生成水が生成される。
【0006】
この特許文献2で開示されている電解生成水の製造装置は、2隔膜3室式の電解室を有することで、電圧・電流・時間が少なくても効率よく塩化ナトリウムを含まない酸性の電解生成水及びアルカリ性の電解生成水を生成することができる。しかし、これらはすべて回分式であることから、量産性に乏しい。また、陽極室で生成される次亜塩素酸を含む電解生成水はpH2.0〜3.0程度の範囲でしかpH調整をすることができず、次亜塩素酸を含む電解生成水のpH調整の自由度を妨げてしまっている。
【0007】
なお、2室式または3室式の電解槽を使用した電解法で酸性とアルカリ性の電解生成水を生成することは行われているが、その生成された電解生成水の有効塩素濃度を所定の範囲に保ちつつ、かつ、pHを弱酸性ないし弱アルカリ性に調整することは困難である。
【0008】
そこで、特許文献3に開示されているように、容易にpH調整を行うことができ、弱酸性または弱アルカリ性の電解生成水をも効率よく製造できる製造装置が提案されている。図13は、この製造装置を示す図である。
図に示すように、この電解生成水の製造装置には、陽極電極202が配設された陽極室200と、陰極電極302が配設された陰極室300との間に電解質水溶液が収容された中間室400とが設けられおり、陽極室200と中間室400との間、陰極室300と中間室400との間にそれぞれ隔膜201,301が設けられている。そして、陽極室200と陰極室300とが連通しており、各電極室に給水と吐出する水量を変えることで、陽極室200と陰極室300とで生成される電解生成水の混合比を変化させ、電解生成水のpH及び次亜塩素酸(HClO)を混合したアルカリ性の電解生成水の調整を可能にしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−329375号公報
【特許文献2】特開2000−246249号公報
【特許文献3】特許第4216892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に開示されている電解生成水の製造装置では用いられる陽極及び陰極の電極203,302は、図14(a)に示すように、平板にパンチングによって形成された孔202a,302aを有した電極であり、電解原水が孔部202a,302aに接触することで電解反応が起こり、所望の電解生成水を得るようにしたものである。
ところが、図14(b)〜(d)に示すように、電解原水の電解反応が不十分なために、所望の電解生成水が得られない。
具体的には、中間室400から供給される電解イオン物質は、電極(陽極・陰極)202,302付近において、高濃度に凝縮された状態であるが、後に、電極室(陽極室・陰極室)200,300内に拡散され、希釈されてしまう(図14(b))。一方、電極室200,300に供給される電解原水は、電極室200,300の上部から下部の吐出口に向かって流れる。しかし、電極202,302から離れた所では、電解原水は障害物がないために急速に排出口へ向かって流れてしまう(図14(c))。つまり、電極202,302付近では、高濃度に凝縮された電解イオン物質と原水との接触が密であり、十分な電解反応が行われるが、電極202,302から離れた位置では、電極室内200,300で拡散し、希釈してしまった電解イオン物質と吐出口へ向かって急速に流れる電解原水とでは、接触が希薄であって、十分な電解反応が行われない(図14(d))。
【0011】
従って、使用する電気量に対して、電解原水に十分な電位を与えることができず、良好な電解反応を与え、所望のpHに調整した電解生成水を十分に採取することができないといった問題がある。また、このような未電解の電解原水が多いと、電解原水に含まれる金属(ナトリウムやカルシウム等)、所謂スケール、が陰極に付着してしまい電解効率向上の妨げとなる等の問題がある。
【0012】
本発明は係る問題に鑑みてなされたものであり、電解反応を向上させることにより電解効率を飛躍的に向上させることが可能であり、陰極へのスケール付着の防止を図ることが可能な電解生成水の製造装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を解決するために、本発明の電解水の製造装置は、陽極と、陰極とが配設された電解水の製造装置であって、前記陽極及び前記陰極が多孔質体の電極で形成されており、該多孔質体に電解質水溶液を通過させて電気分解を行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の電解水の製造装置は、陽極を配設した陽極室と、陰極を配設した陰極室と、前記陽極室と前記陰極室とを隔てるイオン透過膜とを有する電解水の製造装置であって、前記陽極及び前記陰極が多孔質体の電極で形成されており、該多孔質体に前記電解槽に収容された電解質水溶液を通過させて電気分解を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の電解水の製造装置は、陽極及び陰極をそれぞれ格納した陽極室と陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に配設され、前記陽極室と前記陰極室とに電解イオン物質を供給するための電解質水溶液を収容する中間室と、前記陽極室と前記中間室とを隔てる陰イオン透過膜からなる第1の隔膜と、前記陰極室と前記中間室とを隔てる陽イオン透過膜からなる第2の隔膜とを有する電解水の製造装置であって、前記陽極及び前記陰極は、多孔質体から形成され、前記陽極室及び前記陰極室のそれぞれに隙間なく充填されて格納されており、電解原水と電解イオン物質を前記陽極及び前記陰極を構成する多孔質体内に通過させて電気分解を行うことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記多孔質体の電極は、金属チタンの粒子及び繊維を多孔質状に固めた焼結体であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記多孔質体の電極は、孔の平均口径が0.3mm〜3mmの範囲であり、気孔率が20%以上で、かつ、厚みが1mm以上であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室及び前記陰極室は、厚みのある立体形状の前記多孔質体の電極を収容できる容積を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室と前記陰極室との間に連通孔を有し、該連通孔を介して前記電解原水が双方向に移動も可能であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記連通孔を介して、前記陽極室及び前記陰極室で生成された電解生成水を混合させることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室及び前記陰極室には、給水する水量の分配割合を調整するための分配割合調整バルブが設けられていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室及び前記陰極室には、電解生成水の吐出量を調整するための吐出調整バルブが設けられていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室及び前記陰極室には、電解原水を給水するための給水口が上部に設けられ、電解生成水を吐出させる吐出口が下部に設けられていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室及び前記陰極室には、互いを結ぶ連通路と、該連通路内を移動する水の水量を調整するための開閉調整バルブが設けられていることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室及び前記陰極室は、各電極室へ電解原水の供給量を決定するための調整バルブが設けられていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室及び前記陰極室がそれぞれ複数設けられおり、前記陽極室及び前記陰極室で生成される電解生成水を共通の排出口から排出することを特徴とする。
【0027】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記中間室は、一つ又は複数の区画に分けられ、各区画に電解質水溶液を供給する供給部と、排出する排出部とを設けたことを特徴とする。
【0028】
また、本発明の電解水の製造装置は、複数の区画に分けられた場合には、前記中間室は、各区画がそれぞれ連通していることを特徴とする。
【0029】
また、本発明の電解水の製造装置は、一対の電極のそれぞれを収容し、互いに連通する電極室と、前記電極室との間に配設され、電解イオン物質を前記電極室に供給するための電解質水溶液を収容する中間室とからなる電解装置で電解水を製造する方法において、多孔質体で形成されたそれぞれの電極を収容した電極室内に電解原水を通過させ、各電極室内で電解原水を電気分解すると共に、前記中間室から電解イオン物質を前記電極室内に供給し、ぞれぞれの電極室で電解生成水を生成し、生成された前記電解生成水を一方またはぞれぞれの電極室で混合させ、pH調整された電解生成水を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、陽極及び陰極に立体形状でかつ気孔率の大きい多孔質体の電極を採用することで、陽極室及び陰極室に供給される電解原水が、多孔質体の複雑な形状によって電解原水の流れに対して大きな抵抗となり多孔質体内をゆっくりと移動し、電極表面に時間をかけて接触するためイオンを含んだ電解原水に対して十分な電位を与えることができる。これにより、電極表面に気泡が発生し、この気泡が電解原水と電極表面との接触を阻害し、電解原水に含まれる金属が陰極に付着するのを防ぐことができる。また、中間室では飽和電解質水溶液が電気伝導率を最大限にしつつ、電解原水と電極との接触時間が長いため効率の良い低消費電力の電解を実現することができる。これにより電解効率を飛躍的に向上させることができる。さらに、低電力による電解に伴い、電極本体の温度上昇を抑制し、電極と共に繊細なイオン透過膜の劣化損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施形態に係る電解生成水の製造装置の構成を示した図である。
【図2】中間室の外枠の構成を示した図である。
【図3】第1、第2の隔膜の構成を示した図である。
【図4】電解生成水の製造装置内でのイオンの移動を示した概略図である。
【図5】図5(a)は、多孔質体の電極の構成を示した図であり、図5(b)は、電極室内での電解イオン物質の動きを示した図であり、図5(c)は、電極室内での電解原水の動きを示した図であり、図5(d)は、電極室内での電解イオン物質と電解原水の電解反応の様子を示した図である。
【図6】第2の実施形態に係る電解生成水の製造装置を示した図である。
【図7】第3の実施形態に係る電解生成水の製造装置を示した図である。
【図8】第4の実施形態に係る電解生成水の製造装置を示した図である。
【図9】第5の実施形態に係る電解生成水の製造装置を示した図である。
【図10】第6の実施形態に係る電解生成水の製造装置を示した図である。
【図11】第6の実施形態に係る電解生成水の製造装置内でのイオンの移動を示した概略図である。
【図12】副供給部の構成を示した図である。
【図13】従来の電解生成水の製造装置の構成を示した図である。
【図14】図14(a)は、従来の平板電極の構成を示した正面図であり、図14(b)は、電極室内での電解イオン物質の動きを示した図であり、図14(c)は、電極室内での電解原水の動きを示した図であり、図14(d)は、電極室内での電解イオン物質と電解原水の電解反応の様子を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0033】
本実施の形態では、本発明に係る電解生成水の製造装置を次亜塩素酸の製造の場合に適用した例について示す。
【0034】
<第1の実施形態>
図1は、電解生成水の製造装置(以下、「電解装置」という)の模式図である。
図1に示すように、電解装置10は、中央に配設された中間室40の一方の片側に陽極室20が配設され、他方の片側に陰極室30が配設されている。中間室40と陽極室20とは第1の隔膜21で隔てられており、中間室40と陰極室30とは第2の隔膜31で隔てられている。陽極室20及び陰極室30には、それぞれ多孔質体の電極から構成される陽極22と陰極32とが設けられている。
【0035】
陽極22は直流電源60のプラス側に接続され、陰極32には直流電源60のマイナス側に接続されている。直流電源60は、その電圧や電流を任意に設定できる構成になっている。例えば、電圧は5〜20ボルト程度の範囲で任意に選択でき、電流についても3〜26アンペアの範囲で適宜選択して設定することができるものを挙げることができる。
【0036】
陽極22と陰極32との大きさを非対称、すなわち、電極表面積の大きさを異ならせてもよい。これにより、陽極22の電解量と陰極32の電解量とを変えることができる。また、陽極電極の電極体積と陰極電極の電極体積とを異ならせることで、混合された電解生成水の酸性度を適宜調整することができる。つまり、陽極22の電極体積は陰極の電極体積より大きいことで、酸性電解生成水の発生量がアルカリ性電解生成水の発生量より多くなるため、酸性度を高めることができる。一方で、陰極32の電極体積を陽極22の電極体積より大きくすることで、アルカリ性電解生成水の発生量が酸性電解生成水の発生量より多くなるため、アルカリ性の度合いを高めることができる。
【0037】
電解装置10は、陽極室20に電解原水を給水するための第1の給水口24と、陰極室30に電解原水を給水するための第2の給水口34とが設けられている。第1の給水口24及び第2の給水口34に繋がる流路は、1つの流路が分岐されて構成されている。その流路の分岐したところには、陽極室20及び陰極室30への分配する水量を調整するための分配割合調整バルブ70が設けられている。分配割合調整バルブ70は、電解装置10に電解原水を供給する量を調整する供給量調整機能をもたせてもよい。
【0038】
また、電解装置10は、陽極室20の液体を吐出させるための第1の吐出口23と、陰極室の液体を吐出させるための第2の吐出口33とが設けられている。さらに、電解装置10は、第1の吐出口23から吐出される液体の量を調整する第1の吐出バルブ25と、第2の吐出口33から吐出される液体の量を調整する第2の吐出バルブ35とを有する。
【0039】
図1に示すように、第1の吐出口23及び第2の吐出口33は、陽極室20及び陰極室30のそれぞれの下部に設け、第1の給水口24及び第2の給水口34を陽極室20及び陰極室30のそれぞれの上部に設けている。これにより、各給水口から給水された液体(電解原水)が電極表面に発生する塩素ガス(Cl)の上昇に逆らって上から下へ向かって流れ、流速抵抗の大きな各多孔質体の電極内の細孔をくまなく通り、効率良く気液接触させることができる。従って、陽極22で発生する気体(電解質水溶液が塩化ナトリウムや塩化カリウムの場合は塩素)からなる気泡と水との気液接触時間が長くなり、次亜塩素酸への反応を確実に行うことができる。
【0040】
陽極室20は、縦長であるとよい。具体的には、陽極22と直交する方向の陽極室20の幅よりも陽極室20の高さの方が大きいとよい。その陽極室の幅に対する陽極室の高さの比(高さ/幅)は、例えば、1.5以上、好ましくは1.5〜5.0とすることができる。このような縦長であることにより、陽極室20で発生した上昇する塩素ガス(Cl)が水と接触する時間を長くすることができ、塩素と水との反応を確実に行うことができる。また、陰極32も同様とするとよい。
【0041】
中間室40には、供給タンク41からパイプ42を介して供給される電解質水溶液が充填されており、電解質水溶液に含まれる電解イオン物質を陽極室20及び陰極室30に供給する。この電解質水溶液は、例えば、塩化物塩水溶液(塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液)である。中間室40を通過した水溶液を供給タンク41に戻して電解室水溶液として再利用して循環させてもよいし、消費した分だけの電解質水溶液を中間室40に補充してもよい。なお、電解質水溶液の濃度は、例えば、電解質の飽和濃度とすることができる。
【0042】
図2は、中間室の外枠の構成を示した図である。図に示すように、中間室40の周囲には、複数の連通孔51a〜51cを有する隔壁50が設けられており、この連通孔51a〜51cを通じて陽極室20と陰極室30と間で液体が双方向に移動することができる。
【0043】
図3は、第1の隔膜21、第2の隔膜31の構成を示す図であり、図4は、電解装置内での電解原水とイオンの動きを示す図である。
第1の隔膜21は、陰イオン透過膜から構成されており、中間室40の陽イオンは通過することができず、陰イオンのみを選択的に通過させることができる。従って、中間室40に供給されている電解質水溶液中の陰イオン(例えば、塩化物イオン)が陽極室20に供給される(図4を参照)。
第2の隔膜31は、陽イオン透過膜から構成されており、中間室40の陰イオンは通過することができず、陽イオンのみが選択的に通過することができる。従って、中間室40に供給されている電解質水溶液中の陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)が陰極室30に供給される(図4を参照)。
なお、第1の隔膜21及び第2の隔膜31は、公知のものを適用することができる。
【0044】
図5(a)は電極の構成を示す図であり、図5(b)〜(d)は、電極室内での電解原水と電解イオン物質の挙動を示した図である。
図に示すように、この多孔質体の電極は、チタン製やステンレス製の金網を多層にわたって重ねたものや、金属チタンの粒子及び繊維を多孔質状に固めた焼結体でかつ、立体形状で構成されている(図5(a))。さらに、この電極は、立体形状を十分に収容できる容積を備えた陽極室20及び陰極室30のそれぞれに充填されるようにして収容されている。そして、この多孔質体の電極は、孔の平均口径が0.3mm〜3mmの範囲の大きさであり、気孔率が20%以上、厚みが1mm以上である。この構成によって、中間室40から供給される電解イオン物質は、高濃度の状態で多孔質体の電極22,32に浸入し、そのままの状態が多孔質体の電極内で保持される(図5(a))。また、一方で、電極室内に供給される電解原水は、多孔質体の電極内を直線的に移動することができず、流体抵抗の大きな多孔質体の内部で孔をくぐり抜けながら、各電極室内の上部から下部へ向かって、ゆっくりと電極と気泡に接触しながら移動する(図5(c))。そして、多孔質体の電極内において、電解イオン物質と電解原水は電極から電子の授受が効率的で、かつ十分な電解反応が行われる(図5(d))。
【0045】
ところで、上記した多孔質体の電極の気孔率は、本発明者の実験によると、気孔率が20%以下の場合では、流体抵抗が小さいために電解原水が多孔質体の電極内をスムーズに通過してしまう。さらに、電解原水と電極との接触面積も少なく、十分な電位を与えることができない。
【0046】
しかし、気孔率20%以上の場合では、電解原水が多孔質体の電極内をスムーズに通過できず、かつ、電極内をくまなく通過するために、電解原水に十分な電位を与えることができる。これにより、電解原水に対して十分な電位を与えることができ、水素イオン濃度(pH)や酸化還元電位(ORP)を高濃度にすることができる。本発明者の実験によると、この電極の気孔率の範囲は60%〜90%が好適であると確認されている。90%以上になると流体抵抗が大きくなり過ぎるので、電解効率に影響を及ぼすことになる。
また、従来の装置では、電極と原水との接触を多くするために、ある程度の電極の大きさが必要であり、それに伴い装置本体も大きくなってしまう。しかし、多孔質体の電極を採用することで、従来の装置に用いる電極より小さくても電極と原水との接触は大幅に増加させることができるため、装置本体を小型化させることが可能である。
【0047】
さらに、ゆっくり流れた電解原水は電極室における滞留時間が長いため、電極表面に猛烈な気泡を発生させ、その気泡が電解原水と電極表面の接触を阻害し、陰極側へのスケールの付着を防止することができる。また、電解原水と電極との接触時間が長いため、少ない電気量で効率良く従来の濃度を生成することができる。これにより、電極の温度上昇を抑えることができ、第1の隔膜21、第2の隔膜31の劣化の防止、電極表面の劣化の防止をすることができる。
なお、本実施形態では、3室式のみについてこの多孔質の電極を採用した電解装置について説明しているが、1室式や2室式の電解装置に利用することも可能である。その場合でも本実施形態と同様に、電解原水に対して十分な電位を与えることができ、電解反応を向上させて、電解効率を向上させることができる。
【0048】
以上のことからすると、前述した図14に示す従来の電解装置では電極付近では、電解イオン物質は高濃度で存在するが、自然拡散及び強制的な拡散により電極から離れ希釈されてしまう。また、電極近傍では当然高い電流密度が存在し、電解イオン物質と電解原水の電子の授受が高い密度で行われるが、電極から離れた位置では、電解イオン物質の濃度は希薄であり、電解原水も電極と接触することができないために、効率的な電解反応を行うことができない。
しかし、多孔質体の電極の場合では、高濃度の電解イオン物質が電極内の全体で電解イオン物質が高濃度で存在し、かつ、電解原水も電極内をくまなく通過しながら電極と接触することにより、電子の授受を高い密度で行うことができ、効率的に電解反応を起こすことができる。
【0049】
また、従来の電極室では、電極と電極室との空間が3〜5mm程度の距離があり、電解原水が電極と接触せずに排出されてしまう。ところが、電極室内に充填されるように配設されている多孔質体の電極では、微細孔を通過する電解原水と電極との距離が、0.3mm径の孔の場合、原水と電極間との距離は、最大で半径の0.15mmと電極近傍を通過するため、電解イオン物質と電解原水の電子の授受が効率的に行われる。
【0050】
従って、多孔質体の電極を採用することで、電解効率を向上させることができるため、得られる電解生成水のpHや酸化還元電位を向上させることができ、未電解の電解イオン物質の排出を防止することができる。また、省電力で電解反応を起こすことができ、電極やイオン透過膜への損傷を防止することができる。さらに、装置本体の小型化を図ることができる。
【0051】
<電解生成水の製造装置の動作について>
次に、電解装置10の動作について説明する。
まず、分配割合調整バルブ70の調整によって液体(電解原水)を陽極室20及び陰極室30に供給する。水量は、例えば0.5〜1.51/分とする。この電解原水の供給に併せて陽極22と陰極32との間に電位を印加し、電気分解を行う。ここで、電気分解時の電圧は、例えば、5〜10Vとし、電流を3〜10Aとする。
【0052】
陽極22と陰極32との間に電位を印加すると、中間室40の陽イオン(電解質が塩化ナトリウムの場合にはナトリウムイオン)が第2の隔膜31を通過し、陰極室30に移動する。一方で、中間室40の陰イオン(電解質が塩化ナトリウムの場合には塩化物イオン)が第1の隔膜21を通過し陽極室20に移動する。
【0053】
陽極室20では、陽極22にて塩化物イオンが次式(1)の反応を起こし、塩素が発生する。
2Cl→Cl+2e・・・(1)
この塩素は、さらに、次式(2)に示すように、水を反応して次亜塩素酸が生成される。
Cl+HO→HClO+HCl・・・(2)
【0054】
一方で、陰極室30では、陰極32にて次式(3)の反応が起こる。
O+2e→1/2H+OH・・・(3)
この電気分解において、陽極室20と陰極室30とを隔てる隔壁50に設けられた連通孔51から陽極室20で生成された酸性の電解生成水が陰極室30に移動するとともに陰極室30で生成されたアルカリ性の電解生成水は陽極室20に移動する。これにより、陽極室20で生成された酸性の電解生成水が陰極室30に移動することで、陰極32で発生するスケールが付着するのを防止することができる。
【0055】
また、この電気分解において第1の吐出バルブ25と第2の吐出バルブ35とを調整し、陽極室20及び陰極室30からの吐出される電解生成水の量を制御することができる。
【0056】
第1の吐出口23から吐出された電解生成水と、第2の吐出口33から吐出された電解生成水とを混合することで、弱アルカリ性、中性または弱酸性の次亜塩素酸を含む電解生成水が生成される。
【0057】
なお、第1の吐出バルブ25または第2の吐出バルブ35の一方を完全に閉め、第1の吐出口23または第2の吐出口33のいずれかのみから吐出してもよい。この場合には、陽極室20または陰極室30の内部で混合水が生成されることになる。
【0058】
一般的に陰極室20の陰極32には、中間室40から供給された陽イオンがスケールとして付着する。しかし、第1の実施形態の電解装置10によれば、陽極室20で生成された酸性の電解生成水を陰極室30に誘導混合させることで、陰極32にスケールが付着しない。このように陰極32にスケールがつかないことで、陰極32に付着したスケールを除去する工程が不要または減らすことができるため、連続運転が可能になる。
【0059】
また、第2の吐出バルブ35のみを開き、陰極室30の第2の吐出口33のみから電解生成水を吐出することで、陽極室20で生成された酸性の電解生成水が陰極室30側に流れ、高濃度の次亜塩素酸を含有したアルカリ性の電解生成水を生成することが可能になる。さらに、一層陰極32にはスケールの付着は起こらなくなる。
【0060】
また、第1の実施形態に係る電解装置10では、陽極室20で生成された電解生成水と陰極室30で生成された電解生成水とを混合することで、弱アルカリ性、中性または弱酸性を示す混合水を生成することができる。さらに、従来では、陽極室20または陰極室30の一方で生成された電解生成水を使用し、他方の電解生成水は廃棄していたが、双方の電解生成水を使用することができるため、水資源を有効に使用することができる。
【0061】
陽極室20側への分配量が低いと、陽極室20で生成した電解生成水と陰極室30で生成した電解生成水とを混合した場合には、次亜塩素酸の濃度が大きく低下すると思われる。しかし、第1の実施の形態に係る電解装置10により得られた電解生成水は、次亜塩素酸の濃度(有効塩素濃度)が大きく低下しない。したがって、本実施の形態によれば、得られる電解生成水が高濃度の次亜塩素酸を含有するため、殺菌力が低下しない。
【0062】
なお、次亜塩素酸は陽極側で生成された酸性の電解生成水中に含まれるものであることが一般的に知られているが、pH値が微酸性、中性もしくは微アルカリ性に調整された次亜塩素酸水を製造しようとする場合は、工業的に製造された次亜塩素酸ナトリウム(ソーダ)に塩酸を加えてpH値を調整するか、または前記文献1により生成された塩化ナトリウムを含む酸性電解生成水とアルカリ性電解生成水とを適当量混合して製造することが考えられるが、いずれの場合も有効塩素濃度をあまり変化させずにpH値を単独に調整することは行われていない。
【0063】
そこで、第1の実施の形態では、陽極室20に供給される水の量と陰極室30に供給される水の量との大小関係、および、第1の吐き出しバルブ25と第2の吐き出しバルブ35との開閉量(絞り量)の大小関係を組み合わせることで、表1に示すように弱酸性から弱アルカリ性の範囲で様々なpH調整が可能となる。
【0064】
【表1】

【0065】
なお、第1の吐出バルブ25と第2の吐出バルブ35とを同じ程度開放することで、陽極室20で生成された電解生成水と陰極室30で生成された電解生成水との混合比率は下がることになるため、混合比率は特に第1および第2の吐き出しバルブ25,35で調整することができる。
【0066】
従来は、どちらか一方を使用している時は一方を廃棄していたが、この製法により大切な水資源を無駄に捨てないで済むようになった。
【0067】
中性付近電解生成水の生成により排水基準などの適合も未処理で実現するため、環境汚染など環境に負荷を与えないという利点がある。
【0068】
電解次亜塩素酸は有機物と接触する事で簡単に中和する特長も持ち合わせている。
【0069】
陽極室と陰極室とが連通していない状態で電解を行った場合に、陰極室から吐出される電解生成水は、沈殿物(炭酸カルシウム)を含んでしまう。しかし、第1の実施形態に係る電解装置10は、陽極室20と陰極室30とが連通した状態で電解を行うことで、陰極室30から吐出された電解生成水は陽極室20から陰極室30に流入した電解生成水も含むため、その沈殿物が生じない。これにより、たとえば次の効果が奏される。
【0070】
陰極室30から吐出された電解生成水をタンクに貯めて、必要に応じて使用する場合が考えられる。この場合に、電解生成水に沈殿物が含まれていると、タンクの内壁に沈殿物が付着し、頻繁に洗浄をする必要がある。また、取水口に沈殿物が貯まり通水ができなくなり、故障の要因となる場合がある。しかし、沈殿物が含まない電解生成水であると、タンクの内壁に沈殿物が付着せず洗浄回数を減らすことができ、取水口に沈殿物が貯まらないため通水を確実に確保することができる。
【0071】
<第2の実施形態>
図6は、第2の実施形態に係る電解生成水の製造装置の構成を示した図である。
図に示すように、第2の実施形態に係る電解装置10では、陽極室20と陰極室30とを隔壁50の連通孔51で連通させる代わりに、別途連通路52を設けて連通させてもよい。連通路52の設置によって陽極室20と陰極室30との間を行き来する水の量を把握し易いという利点がある。そして、この連通路52に開閉量調整御バルブ53を設けることで、陽極室20と陰極室30との間を行き来する水の量を容易に調整することができる。
【0072】
<第3の実施形態>
図7は、第3の実施形態に係る電解生成水の製造装置の構成を示した図である。
図に示すように、第4の実施形態に係る電解装置10は、陽極室20に対して電解原水を供給するか否かを決める第1の開閉バルブ27を設けている。通常の電解装置であれば、陽極室及び陰極室の双方に電解原水を供給しなければ電解することはできない。しかし、第4の実施形態の電解装置10によれば、陽極室20と陰極室30とが隔壁50が有する連通孔51で連通しているため、この第1の開閉バルブ27を閉じても、陽極室20には、陰極室30を通じて電解原水が供給されることになり、通常の電解装置ではできない手法での電解が可能となる。これにより、第1の開閉バルブ27を閉じ、陽極室20側のみから電解生成水を吐出した場合には、強い酸性を有する電解生成水を生成することができる。
【0073】
また、同様に、陰極室30に対して電解原水を供給するか否かを決める第2に開閉バルブ37を設けてもよい。第2の開閉バルブ37を閉じても、第1の開閉バルブ27が空いていれば、陰極室30には、陽極室20を通じて電解原水が供給されることにより、通常の電解装置ではできない手法での電解が可能となる。例えば、第2の開閉バルブ37を閉じ、陰極室30側のみから電解生成水を吐出した場合には、強いアルカリ性を有する電解生成水を生成することができる。
【0074】
<第4の実施形態>
図8は、第4の実施形態に係る電解生成水の製造装置の構成を示した図である。
図に示すように、第5の実施形態に係る電解装置10は、複数の電解装置10を並列に接続した構成となっている。図示するように、複数の陽極室20と陰極室30とをそれぞれ用意し、各陽極室20から吐出された電解生成水を共通の排出口から排出し、各陰極室30から吐出される電解生成水を同様に、共通の排出口から排出する。これにより、水の電解室の並列処理が可能となり、電解生成水の大量生成が行い易くなる。
【0075】
<第5の実施形態>
図9は、第5の実施形態に係る電解生成水の製造装置の構成を示した図である。
図に示すように、供給口側に設けられた連通孔51aと吐出側に設けられた連通孔51bとの開口比を変更させている。この例では、例えば、0.5:9.5〜1.5:8.5としている。供給口側に設けられた連通孔51aを小さくすることで、陽極室20で生成された酸性の電解生成水が連通孔を通じて陰極室30に入った場合に、第1の連通孔51aの開口が小さいため、陰極室30にて酸性の電解生成水に含まれる次亜塩素酸などが二次電解されるのを抑制することができる。
【0076】
つまり、酸性の電解生成水の二次電解を極力防ぎつつ、その酸性の電解生成水をアルカリ性の電解生成水と混合させ吐出させることができる。連通孔51aは、スケールが陰極に付着することを防ぐことができる程度の酸性の電解生成水の量が流れるように設定するとよい。陰極にpH3.0前後の酸性の電解生成水を陰極室30に供給される原水に対して10%以上混合させるとアルカリ性の電解生成水には炭酸カルシウムが生成されてないことが実験で確認されている。
【0077】
また、炭酸カルシウムはアルカリ性水を洗浄等や植物の活性に使用する時に配管の内部に付着したり、給水ポンプの軸に付着してポンプの軸が回転しない等の故障を引き起こしてきた。しかし、この変形例によれば、そのような炭酸カルシウムからなる澱が発生しないという効果がある。
【0078】
さらに、連通孔51bがあるために、陰極側に所定量の次亜塩素酸を移動させることができる。
【0079】
<第6の実施形態>
図10は、第6の実施形態に係る電解生成水の製造装置の構成を示した図である。
図に示すように、第7の実施形態に係る電解装置10は、中間室40の電極が延伸する方向に対して複数の区画に分けられている。中間室40の複数の区画は、仕切部40aによって仕切られており、上下の区画と連通された構成となっている。中間室40を複数の区画で仕切ることで、供給される電解質水溶液の滞留させることができ、電解質イオンの移動をより確実に行うことができ、効率的な電解を図ることができる。このような構成において、各区画に対して電解質水溶液を供給するための供給部43が設けられている。また、各区画から電解質水溶液の排出を行うための排出部44が設けられている。供給部43は、中間室40の一方の電極側に設け、排出部44を中間室40の他方の電極側に設ける。
【0080】
なお、供給部43を電解質水溶液の供給用ではなく、電解質を供給するための供給部としてもよい。また、中間室40の各区画を仕切部40aによって完全に仕切ってもよい。
【0081】
また、図11に示すように、中間室40の一端に電解質水溶液の主供給部41を設け、中間室40の他端に電解質水溶液の主排出部を設けることができる。
【0082】
この場合において、陽極室20及び陰極室30は、中間室40の複数の区画に対応するように、複数の区画を設けてもよい。この区画は、陽極室20及び陰極室30でそれぞれ仕切り部20a,30aで設けることができる。また、複数の区画は、上下の区画と連通してもよいし、連通しなくてもよい。なお、陽極室20及び陰極室の複数の区画において、上下の区画と連通していない場合には、各区画に対して原水の供給部と排出部とを設ける。仕切り部20a,30aにより区画を設けることで電解室水溶液の滞留を図ることができ、図12に示すように、電解質イオンの移動をより確実に行うことができ、効率的な電解を行うことができる。
なお、陽極室20及び陰極室30に設ける排出部を最後の区画のみに設けると、高濃度の電解生成水となり隔膜が損傷しやすくなる。従って、各区画に排出部を設けるとよい。
【0083】
従来の三室型電解装置では、電解生成水の大量生成を一つの電解槽で行うことは一般的に行われていない。本願発明者は、一つの電解槽で電解生成水の大量生成ができない課題の原因を次のように見出した。中間室を挟んだ陽極と陰極との間の距離は、電気伝導の関係で極めて重要である。陽極と陰極との間の距離が短ければ短い程、伝導率は向上するが、両電極間には中間室が有るためにどうしても一定の間隔が必要である。そのため、中間室に流れる電解質の流量の限界が有る一方で、電解によるイオンが中間室から陽極室及び陰極室に移動するため、中間室の途中において電解質を消耗し、電解に必要なNaやClなどが不足する。つまり、陽極と陰極との間の中間室の隙間は一般的に3〜6mm程度の狭い空間を電解質水溶液が流れる。電解質水溶液は飽和食塩水が最も効率よく電気を流すが、幅の狭い中間室を流れる電解質液のNa及びClはイオン交換膜を通過して両極に移動し、その中間室のイオン濃度は、電解槽を通過するに従って、イオンが消耗されていくことに基づき低下していく。これにより一枚の大きな電解槽では電解質液の入り口付近と出口付近のイオンの濃度差が大きくなってしまう。
【0084】
中間室の電解イオン濃度が消耗により一定以下の濃度になると強い電圧を必要とする。
しかし、消費電力及び電極または隔膜の損傷を防止するには一定の低電圧で電気分解が必要となる。そこで最適効率の電圧を維持するには構造上、その電解面積には自ずと適正値が有る。その結果、本願発明者は、電解生成水の大量生成に伴う問題の克服ができないのではないかという課題の原因を認識した。
【0085】
この例は、この課題の原因に着目し、なされたものである。つまり、中間室40の途中に電解質または電解質水溶液を供給する供給部44を設けることで、消費された電解質の補充を行うことができる。したがって、中間室40の各区域においての電解質濃度の平準化を図ることができる。このため、各電解部分においての電解効率のむらを抑えることができ、効率的かつ効果的な電解を図ることができる。また、電解質濃度の平準化を図ることができるため、低電圧の駆動ができ、電極やイオン交換膜の損傷を抑えることができる。
【0086】
以下、実験例について説明する。
【0087】
(1)各態様における実験結果を示す。
【0088】
表2に、陽極室と陰極室とが連通している電解装置の各態様における実験結果を示す。電解装置の供給口、連通孔および吐出口の条件の違いによって、電解生成水の性質がどう変わるかについて実験した。次亜塩素酸の濃度の測定に当たっては、クロール試験紙(10〜50ppm)(商品名:ADVANTEC、(株)東洋製作所製)を用いた。
【0089】
【表2】

【0090】
(2)pH調整
表2から、陽極室と陰極室とが連通している電解装置によれば、pH3〜11までの電解生成水を生成できることを確認した。具体的な陽極室と陰極室との連通態様、供給口および吐出口の態様を表1に示す。表1に示すように、陽極室と陰極室との連通態様、供給口および吐出口の態様を調整することで、自由なpH調整が可能である。
【0091】
陽極室から吐出された電解生成水は、少なくとも、pHは3.2〜9.6、ORPは1,120mV〜20mV、次亜塩素酸の濃度は40ppm〜35ppmの範囲内で調整可能であることを確認した。
【0092】
陰極室から吐出された電解生成水は、少なくとも、pHは7.6〜11.2、ORPは800mV〜−780mV、次亜塩素酸の濃度は0ppm〜38ppmの範囲内で調整可能であることを確認した。
【0093】
(3)陰極へのスケールの付着の有無について
陰極に本来スケールが付着する。しかし、電解装置を50時間使用しても、陰極にスケールの付着を目視できなかった。
【0094】
(4)浮遊物(おり)について
陽極室と陰極室を連通させた状態で水を電解し、陰極室から電解生成水を吐出させた。その電解生成水には、浮遊物(酸化カルシウムなど)が生じないことを確認した。
【符号の説明】
【0095】
10 電解装置
20 陽極室
21 第1の隔膜
22 陽極
23 吐出口
24 給水口
25 第1の吐出バルブ
26 第1のガス抜き口
27 第1の開閉バルブ
30 陰極室
31 第2の隔膜
32 陰極
33 吐出口
34 給水口
35 第2の吐出バルブ
36 第2のガス抜き口
37 第2の開閉バルブ
40 中間室
41 供給タンク
42 パイプ
50 隔壁
51a〜51c 連通孔
52 連通路
53 開閉量調整御バルブ
60 電源
70 分配割合調整バルブ







【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極とが配設された電解水の製造装置であって、
前記陽極及び前記陰極が多孔質体の電極で形成されており、
該多孔質体に電解質水溶液を通過させて電気分解を行うことを特徴とする電解水の製造装置。
【請求項2】
陽極を配設した陽極室と、陰極を配設した陰極室と、前記陽極室と前記陰極室とを隔てるイオン透過膜とを有する電解水の製造装置であって、
前記陽極及び前記陰極が多孔質体の電極で形成されており、
該多孔質体に前記電解槽に収容された電解質水溶液を通過させて電気分解を行うことを特徴とする電解水の製造装置。
【請求項3】
陽極及び陰極をそれぞれ格納した陽極室と陰極室と、前記陽極室と前記陰極室との間に配設され、前記陽極室と前記陰極室とに電解イオン物質を供給するための電解質水溶液を収容する中間室と、前記陽極室と前記中間室とを隔てる陰イオン透過膜からなる第1の隔膜と、前記陰極室と前記中間室とを隔てる陽イオン透過膜からなる第2の隔膜とを有する電解水の製造装置であって、
前記陽極及び前記陰極は、多孔質体から形成され、前記陽極室及び前記陰極室のそれぞれに隙間なく充填されて格納されており、
電解原水と電解イオン物質を前記陽極及び前記陰極を構成する多孔質体内に通過させて電気分解を行うことを特徴とする電解水の製造装置。
【請求項4】
前記多孔質体の電極は、金属チタンの粒子及び繊維を多孔質状に固めた焼結体であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項5】
前記多孔質体の電極は、孔の平均口径が0.3mm〜3mmの範囲であり、気孔率が20%以上で、かつ、厚みが1mm以上であることを特徴とする請求項4に記載の電解水の製造装置。
【請求項6】
前記陽極室及び前記陰極室は、厚みのある立体形状の前記多孔質体の電極を収容できる容積を有することを特徴とする請求項2または3に記載の電解水の製造装置。
【請求項7】
前記陽極室と前記陰極室との間に連通孔を有し、該連通孔を介して前記電解原水が双方向に移動も可能であることを特徴とする請求項2から3のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項8】
前記連通孔を介して、前記陽極室及び前記陰極室で生成された電解生成水を混合させることを特徴とする請求項7記載の電解水の製造装置。
【請求項9】
前記陽極室及び前記陰極室には、給水する水量の分配割合を調整するための分配割合調整バルブが設けられていることを特徴とする請求項2から8のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項10】
前記陽極室及び前記陰極室には、電解生成水の吐出量を調整するための吐出調整バルブが設けられていることを特徴とする請求項2から8のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項11】
前記陽極室及び前記陰極室には、電解原水を給水するための給水口が上部に設けられ、電解生成水を吐出させる吐出口が下部に設けられていることを特徴とする請求項2から10のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項12】
前記陽極室及び前記陰極室には、互いを結ぶ連通路と、該連通路内を移動する水の水量を調整するための開閉調整バルブが設けられていることを特徴とする請求項2から11のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項13】
前記陽極室及び前記陰極室は、各電極室へ電解原水の供給量を決定するための調整バルブが設けられていることを特徴とする請求項2から12のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項14】
前記陽極室及び前記陰極室がそれぞれ複数設けられおり、前記陽極室及び前記陰極室で生成される電解生成水を共通の排出口から排出することを特徴とする請求項2から13のいずれかに記載の電解水の製造装置。
【請求項15】
前記中間室は、一つ又は複数の区画に分けられ、各区画に電解質水溶液を供給する供給部と、排出する排出部とを設けたことを特徴とする請求項3から14のいずれか1項に記載の電解水の製造装置。
【請求項16】
複数の区画に分けられた場合には、前記中間室は、各区画がそれぞれ連通していることを特徴とする請求項15に記載の電解水の製造装置。
【請求項17】
一対の電極のそれぞれを収容し、互いに連通する電極室と、
前記電極室との間に配設され、電解イオン物質を前記電極室に供給するための電解質水溶液を収容する中間室とからなる電解装置で電解水を製造する方法において、
多孔質体で形成されたそれぞれの電極を収容した電極室内に電解原水を通過させ、
各電極室内で電解原水を電気分解すると共に、前記中間室から電解イオン物質を前記電極室内に供給し、
ぞれぞれの電極室で電解生成水を生成し、
生成された前記電解生成水を一方またはぞれぞれの電極室で混合させ、pH調整された電解生成水を得ることを特徴とする電解水の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−7220(P2012−7220A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145656(P2010−145656)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【特許番号】特許第4705190号(P4705190)
【特許公報発行日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(500111806)
【Fターム(参考)】