説明

電解装置

【課題】電解槽の温度調整を十分に行うことができる熱容量を確保できるとともに、電位差に起因する電気腐食を確実に防止することが可能な電解装置を提供する。
【解決手段】電解装置は、電解浴12を収容する電解槽11、加熱器21および送風機21bを備える。加熱器21aおよび送風機21bが電解浴12を収容する電解槽11から電気的に絶縁された状態で電解槽11に設けられる。電解槽11は、加熱器21aにより加熱され、送風機21bにより冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽を備えた電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造工程等において、材料の洗浄および表面改質等の種々の用途でフッ素ガスが用いられている。この場合、フッ素ガス自体が用いられることもあり、フッ素ガスを基に合成されたNF(三フッ化窒素)ガス、NeF(フッ化ネオン)ガスおよびArF(フッ化アルゴン)ガス等の種々のフッ素系ガスが用いられることもある。
【0003】
フッ素ガスを安定に供給するために、通常、HF(フッ化水素)を電気分解してフッ素ガスを発生する電解装置が用いられる。このような電解装置では、例えば、電解槽内にKF−HF(カリウム−フッ化水素)系の混合溶融塩からなる電解浴が形成される。電解槽内の電解浴が電気分解されることによりフッ素ガスが発生される。この場合、電解装置の電解条件を一定にするため、電解槽内の電解浴の温度を一定範囲内に保つ必要がある。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された溶融塩電解装置では、電解槽の外周の側面に温水ジャケットが設けられている。温水ジャケットは、温水パイプおよび断熱層を有する。温水パイプは、電解槽の外周の側面を取り巻くように設けられている。温水パイプ内には、温水加熱装置で加熱された熱媒体が循環する。電解槽内には温度計が設けられている。温水加熱装置は、温度計により測定された温度に基づいて熱媒体を加熱することにより、電解槽内の電解浴を所定の温度に保つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−244724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電解装置の電解槽は、少なくとも蓋体部分については、漏電および静電気による電解槽内での放電等に備えて基準電位を有する地面に接地されることが必要となる。また、温水加熱装置においては、高電流の電力が取り扱われるため、安全性を確保するために温水加熱装置は基準電位を有する地面に接地されることが必要となる。
【0007】
この場合、電解槽の蓋体部分は、電解浴を通じて電解槽と電気的に接続される。ここで、熱媒体に導電性があると、電解槽の蓋体部分、電解浴、電解槽、導電性の熱媒体、温水加熱装置および地面という閉回路が形成される。このような閉回路が形成された電解槽を用いて電気分解を開始すると、電解槽内の電位差による電流が閉回路内に流れ、閉回路に含まれる金属部分に電気腐食が発生する。
【0008】
このような電気腐食を防止するために、特許文献1には、少なくとも一部が絶縁された配管および絶縁性の高い熱媒体を用いる対策が記載されている。しかしながら、絶縁性の溶媒(例えばフッ素系の溶媒)でかつ電解槽の温度調整が可能なほど熱容量の大きい熱媒体は存在しない。そのため、比較的電気抵抗が高く熱容量の大きい熱媒体として純水が挙げられる。しかしながら、純水は僅かながら電気伝導性を有するため、上記のような金属部分の電気腐食を完全に防止するには至らなかった。
【0009】
本発明の目的は、電解槽の温度調整を十分に行うことができる熱容量を確保できるとともに、電位差に起因する電気腐食を確実に防止することが可能な電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る電解装置は、電解浴を収容する電解槽と、電解槽から電気的に絶縁された熱源により電解槽を加熱する加熱手段と、電解槽から電気的に絶縁された放熱源により電解槽を冷却する冷却手段とを備えるものである。
【0011】
本発明に係る電解装置においては、加熱手段の熱源が電解槽から電気的に絶縁され、冷却手段の放熱源が電解槽から電気的に絶縁される。この状態で、電解槽が、加熱手段の熱源により加熱され、冷却手段の放熱源により冷却される。
【0012】
この場合、熱媒体を用いた熱交換とは異なり、熱源および放熱源により直接的に電解槽が加熱および冷却される。それにより、電解槽の温度調整を十分に行うことができる。
【0013】
また、熱源および放熱源を通して電解槽に電位が与えられない。そのため、電解槽における電位差に起因する電解装置の電気腐食を確実に防止することができる。
【0014】
(2)加熱手段は、熱源として絶縁被膜で被覆された発熱体を有するヒータを含み、ヒータは電解槽の外面に接して設けられていてもよい。
【0015】
この場合、ヒータの発熱体が絶縁被膜を介して電解槽の外面に接して設けられている。そのため、ヒータの発熱体から電解槽への熱伝導により電解槽が直接的に加熱される。それにより、高い応答性で電解槽を加熱することが可能となる。
【0016】
(3)加熱手段は、熱源として赤外線を放射する赤外線加熱装置を含み、赤外線加熱装置は、電解槽から絶縁されるように離間して設けられていてもよい。
【0017】
この場合、電解槽から離間して設けられている赤外線加熱装置から電解槽に赤外線が放射される。それにより、熱放射により電解槽が直接的に加熱される。また、赤外線加熱装置が電解槽から確実に絶縁される。
【0018】
(4)冷却手段は、放熱源として電解槽に送風する送風機を含み、送風機は、電解槽から絶縁されるように離間して設けられていてもよい。
【0019】
この場合、電解槽から離間して設けられている送風機により電解槽に送風される。それにより、電解槽が空気流通により直接的に冷却される。また、送風機が電解槽から確実に絶縁される。
【0020】
(5)冷却手段は、放熱源として絶縁被膜で被覆された冷却素子を有する冷却体を含み、冷却体は、電解槽の外面に接して設けられていてもよい。
【0021】
この場合、冷却素子が絶縁被膜を介して電解槽の外面に接して設けられている。そのため、電解槽から冷却体への吸熱により電解槽が直接的に冷却される。それにより、高い応答性で電解槽を冷却することが可能となる。
【0022】
(6)電解槽内に第1室が設けられるとともに、第1室と電解槽との間に第2室が設けられ、第1室に第1の電極が配置され、電解槽が第2の電極として機能してもよい。
【0023】
この場合、設置面、熱源および放熱源から電気的に絶縁された電解槽が第2の電極として機能する。そのため、第1の電極と第2の電極との間に安定的かつ正確な電圧を印加することができる。
【0024】
(7)電解装置は、電解槽内の電解浴の温度が予め定められた目標温度範囲内に保たれるように加熱手段および冷却手段を制御する制御手段をさらに備えてもよい。
【0025】
この場合、加熱手段による電解槽の加熱および冷却手段による電解槽の冷却が制御手段により制御される。それにより、電解槽内の温度を目標温度範囲内に安定的かつ確実に保つことが可能となる。
【0026】
(8)電解装置は、電解槽内の電解浴の温度を検出する検出手段をさらに備え、制御手段は、検出手段により検出される温度が目標温度範囲の上限値よりも低い第1の温度まで上昇したときに加熱手段の動作を停止させるとともに冷却手段を動作させ、検出手段により検出される温度が目標温度範囲の下限値よりも高い第2の温度まで低下したときに加熱手段を動作させるとともに冷却手段の動作を停止させてもよい。
【0027】
この場合、電解槽の温度が目標温度範囲の上限値よりも低い第1の温度まで上昇すると、加熱手段の動作が停止するとともに冷却手段が動作する。それにより、電解槽の温度がオーバーシュートにより目標温度範囲の上限値を超えることを防止することができる。
【0028】
また、電解槽の温度が目標温度範囲の下限値よりも高い第2の温度まで低下すると、加熱手段が動作するとともに冷却手段の動作が停止する。それにより、電解槽の温度がアンダーシュートにより目標温度範囲の下限値未満になることを防止することができる。
【0029】
さらに、加熱手段が停止されるとともに冷却手段が動作し、加熱手段が動作するとともに冷却手段が停止される。それにより、電解槽の温度におけるオーバーシュート量およびアンダーシュート量を低減することができる。その結果、目標温度範囲を小さくすることが可能となり、電解槽の温度をほぼ一定に維持することができる。
【0030】
(9)制御手段は、目標温度の上限値と下限値との差が2度以内になるように加熱手段および冷却手段を制御してもよい。
【0031】
この場合、電解浴の温度がほぼ一定に保たれる。そのため、電気分解の条件がほぼ一定に保たれる。それにより、より安定した電気分解を行うことが可能となる。
【0032】
(10)電解槽はフッ素発生用電解槽であってもよい。電解浴として用いられるフッ素化合物の蒸気圧は温度により大きく変化する。このような場合でも、電解浴の温度が安定かつ高精度で制御されるので、電解槽内の電解浴からフッ素化合物の蒸気が放出されることが防止される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、低コストかつ簡単な構成で電解槽内の電解浴の温度を安定的かつ高精度で制御する電解装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。
【図2】図1の電解装置の主として電解槽の外側の模式図である。
【図3】制御部による加熱器および送風機の制御動作を示すフローチャートである。
【図4】実施例および比較例における電解浴の温度の結果を示す図である。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る電解装置の主として電解槽の外側の模式図である。
【図6】本発明のさらに他の実施の形態に係る電解装置の主として電解槽の外側の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施の形態に係る電解装置について図面を参照しながら説明する。
【0036】
(1)電解装置の構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る電解装置の模式的断面図である。図2は、図1の電解装置の主として電解槽の外側の模式図である。
【0037】
図1の電解装置10は、フッ素ガスを発生する気体発生装置である。電解装置10は電解槽11を備える。電解槽11は電解槽本体11a、上部蓋体11bおよび絶縁部材11cにより構成される。
【0038】
電解槽本体11aおよび上部蓋体11bは、例えばNi(ニッケル)、モネル、純鉄もしくはステンレス鋼等の金属または合金により形成される。
【0039】
電解槽本体11aは、底面部および4つの側面部を有し、上部に開口を有する。絶縁部材11cは、側面部の上端面に沿って設けられる。絶縁部材11cは、樹脂等の絶縁材料により形成される。電解槽本体11aの開口を閉塞するように、絶縁部材11c上に上部蓋体11bが配置される。それにより、電解槽本体11aと上部蓋体11bとが、絶縁部材11cにより互いに電気的に絶縁される。
【0040】
電解槽11では、高電流の電力が扱われる。また、静電気による電解槽11内の放電を防止する必要がある。そのため、電解槽11の上部蓋体11bは、アース線S1により地面Eに接地される。これにより、電解槽11からの漏電による感電等が防止される。
【0041】
電解槽11は、導電材料からなる筺体32内で絶縁材料からなる複数の支持部材31により支持される。支持部材31は、例えばベークライトにより形成される。また、筺体32の底面には、絶縁材料からなる車輪33が取り付けられる。このようにして、電解槽11は、筺体32から電気的に絶縁され、筺体32は設置面から電気的に絶縁される。
【0042】
電解槽11内には、KF−HF(カリウム−フッ化水素)系混合溶融塩からなる電解浴12が形成される。電解浴12に一部浸漬するように、円筒状の隔壁13が上部蓋体11bと一体的に設けられる。隔壁13は、例えばNiまたはモネルからなる。電解槽11内において、隔壁13の内側に陽極室14aが形成され、隔壁13の外側に陰極室14bが形成される。
【0043】
陽極室14a内で電解浴12に浸漬するように陽極15aが配置される。陽極15aの材料としては、例えば低分極性炭素電極を用いることが好ましい。電解槽本体11aの内面には、陰極15bが形成される。陰極室14bにおいて主に水素ガスが発生する。陰極15bの材料としては、例えばNiを用いることが好ましい。
【0044】
HFを供給するためのHF供給ライン18aが上部蓋体11bに接続される。HF供給ライン18aは温度調整用ヒータ18bで覆われる。これにより、HF供給ライン18aでHFが液化することが防止される。電解浴12の液面の高さは液面検出装置(図示せず)により検出される。液面検出装置により検出される液面の高さが所定値よりも低くなると、HF供給ライン18aを通して電解槽11内にHFが供給される。
【0045】
この電解装置10は、制御部23を備える。制御部23により陽極15aと陰極15bとの間に電圧が印加される。それにより、電解槽11内の電解浴12が電気分解される。それにより、陽極室14aにおいて主にフッ素ガスが発生する。
【0046】
上部蓋体11bには、ガス排出口16a,16bが設けられる。ガス排出口16aには排気管17aが接続され、ガス排出口16bには排気管17bが接続される。ガス排出口16aは陽極室14aに連通し、ガス排出口16bは陰極室14bに連通する。陽極室14aで発生される気体は、ガス排出口16aから排気管17aを通して排出され、陰極室14bで発生する気体はガス排出口16bから排気管17bを通して排出される。
【0047】
電解槽11は、加熱器21aおよび送風機21bを備える。本実施の形態では、加熱器21aとしてシーズヒータが用いられる。シーズヒータは、電熱線が縁被膜で被覆された構造を有する。シーズヒータは、電熱線により任意の大きさの熱容量を得ることができる。加熱器21aを電解槽11に接して設けることにより、電解槽11を迅速に加熱することができる。なお、加熱器21aは、電解槽11に接して設けられるが、電解槽11と電気的には絶縁されている。
【0048】
図2に示すように、加熱器21aは、電解槽本体11aの側面部の外側の面に、蛇行するように取り付けられる。それにより、加熱器21aと電解槽本体11aとの接触面積が大きくなる。加熱器21aは、熱伝導により電解槽11を加熱する。
【0049】
送風機21bは、電解槽11から絶縁されるように離間して設けられ、電解槽11に送風する。それにより、送風機21bは、電解槽11から電気的に絶縁された状態で空気流通により電解槽11を冷却する。
【0050】
加熱器21aおよび送風機21bは、電源装置21から供給される電力により動作する。電源装置21は、安全性を確保するために、アース線S2により地面Eに接地される。
【0051】
本実施の形態においては、加熱器21aであるシーズヒータが備える絶縁被膜により、加熱器21aと電解槽11とが電気的に絶縁される。また、絶縁体である空気により、送風機21bと電解槽11とが電気的に絶縁される。この場合、上部蓋体11bおよび電源装置21が地面Eに接地され、閉回路が形成されても、電解槽11における電位差に起因する電流が電解装置の金属部分に流れない。これにより、電解装置の金属部分の電気腐食が防止される。
【0052】
電解装置10には、加熱器21aの温度を検出する温度センサ22a、および電解槽本体11a内の電解浴12の温度を検出する温度センサ22bが設けられる。本実施の形態では、温度センサ22a,22bは、熱電対からなる。
【0053】
制御部23は、温度センサ22aにより検出される電解槽11の温度および温度センサ22bにより検出される電解浴12の温度に基づいて加熱器21aおよび送風機21bを制御する。
【0054】
(2)温度制御動作
次に、制御部23による電解槽11内の電解浴12の温度の制御動作について説明する。
【0055】
電解槽11内の電解浴12は、室温でかつ大気圧下では固体状態をとる。そのため、電解浴12の電気分解を行うためには、電解浴12を80〜90℃に加熱し、液体状態に溶解させる必要がある。
【0056】
電気分解時に、陽極15a、陰極15bおよび電解浴12に電流が流れると、陽極15a、陰極15bおよび電解浴12が有する電気抵抗に起因するジュール熱が発生する。また、電解浴12が溶解する際には溶解熱が発生する。それにより、電解浴12の温度が過度に上昇する。その結果、電解浴12のHFの蒸気圧が高くなり、電解浴12からHFが放出される。この場合、排気管17aから取り出されるフッ素ガスの純度の低下、およびHFの電解効率の低下が発生する可能性がある。そのため、電解浴12の温度を適切な温度範囲に維持する必要がある。
【0057】
まず、制御部23は、加熱器21aをオンする。それにより、電解槽11の温度が上昇し、電解槽11内の電解浴12の温度も上昇する。電解浴12が溶解するまでは、制御部23は、温度センサ22aにより検出される温度に基づいて加熱器21aのオンおよびオフを制御する。電解浴12が溶解するときの電解槽11の温度(以下、電解槽温度下限値と呼ぶ。)は、予め測定されている。
【0058】
制御部23は、電解槽11の過昇温を防止するために、温度センサ22aにより検出される温度が予め設定された上限値(以下、電解槽温度上限値と呼ぶ。)以上になると、加熱器21aをオフする。
【0059】
電解浴12が溶解すると、温度センサ22bによる電解浴12の温度の検出が可能となる。電気分解が開始されると、ジュール熱等の発生により、電解浴12に自然放熱により失われる熱量よりも大きな熱量が投入される。それにより、加熱器21aが停止した状態においても、電解浴12の温度が上昇する。
【0060】
制御部23は、温度センサ22aにより検出される温度が電解槽温度下限値以上になると、温度センサ22bにより検出される温度に基づいて加熱器21aおよび送風機21bのオンおよびオフを制御する。
【0061】
図3は、制御部23による加熱器21aおよび送風機21bの制御動作を示すフローチャートである。
【0062】
以下、電気分解に最適な電解浴の温度範囲の上限値を目標上限温度と呼び、電気分解に最適な電解浴の温度範囲の下限値を目標下限温度と呼ぶ。
【0063】
また、電解浴の温度が目標上限温度を超えないように加熱器21aをオフにしかつ送風機21bをオンにする温度を冷却開始温度と呼び、電解浴の温度が目標下限温度より低下しないように加熱器21aをオンにしかつ送風機21bをオフにする温度を加熱開始温度と呼ぶ。冷却開始温度は目標上限温度よりも一定温度(例えば1度)低く設定され、加熱開始温度は目標下限温度よりも一定温度(例えば1度)高く設定される。
【0064】
初期状態では、加熱器21aはオンになっているものとし、送風機21bはオフになっているものとする。
【0065】
制御部23は、温度センサ22bにより検出された電解浴12の温度が冷却開始温度まで上昇したか否かを判定する(ステップS1)。電解浴12の温度が冷却開始温度まで上昇していない場合には、制御部23は電解浴12の温度が冷却開始温度になるまで待機する。電解浴12の温度が冷却開始温度まで上昇した場合には、制御部23は加熱器21aをオフにし(ステップS2)、送風機21bをオンにする(ステップS3)。
【0066】
次に、制御部23は、温度センサ22bにより検出された電解浴12の温度が加熱開始温度まで低下したか否かを判定する(ステップS4)。電解浴12の温度が加熱開始温度まで低下していない場合には、制御部23は電解浴12の温度が加熱開始温度になるまで待機する。電解浴12の温度が加熱開始温度まで低下した場合には、制御部23は加熱器21aをオンにし(ステップS5)、送風機21bにオフして(ステップS6)、ステップS1の処理に戻る。
【0067】
このようにして、電解浴12の温度が冷却開始温度よりも一定温度高い目標上限温度と加熱開始温度よりも一定温度低い目標下限温度との間に保たれる。
【0068】
(3)実施の形態の効果
本実施の形態に係る電解装置10においては、電解槽11が支持部材31により筺体32から電気的に絶縁するように支持される。また、加熱器21aおよび送風機21bが電解槽11から電気的に絶縁される。この状態で、電解槽11が、加熱器21aからの熱伝導により加熱され、送風機21bからの空気流通により冷却される。
【0069】
この場合、加熱器21aおよび送風機21bを通して電解槽11に電位が与えられない。そのため、電解槽11に安定な防食電圧を印加することにより、容易に電解槽11の腐食を防止することができる。これにより、電解槽11のメンテナンスのコストを低減することが可能となる。
【0070】
また、電解槽11の加熱は熱伝導により行われ、電解槽11の冷却は空気流通により行われる。この場合、電解槽11を加熱および冷却するための絶縁性の熱媒体を必要としない。そのため、低コストかつ簡単な構成で電解槽11を加熱および冷却することが可能となる。
【0071】
さらに、熱媒体を用いた熱交換とは異なり、加熱器21aからの熱伝導および送風機21bからの空気流通により直接的に電解槽11が加熱および冷却される。それにより、電解槽11内の電解浴12の温度を安定的かつ高精度で制御することが可能となる。
【0072】
(4)実施例
以下の実施例および比較例では、上記実施の形態に基づき、図1および図2に示す電解装置10を用いて、電解浴12の温度制御を行った。なお、比較例で用いた電解装置は、送風機21bが取り付けられていない点を除いて、図1および図2の電解装置10と同じ構造を有する。
【0073】
実施例および比較例において、電解浴12の加熱開始温度および冷却開始温度がそれぞれ85℃および86℃に設定された。
【0074】
実施例では、温度センサ22bにより検出される電解浴12の温度が86℃まで上昇すると、加熱器21aがオフになるとともに送風機21bがオンになり、送風により電解浴12が強制的に冷却される。また、温度センサ22bにより検出される電解浴12の温度が85℃まで低下すると、加熱器21aがオンになるとともに送風機21bがオフになり、電解浴12が加熱される。
【0075】
一方、比較例では、温度センサ22bにより検出される電解浴12の温度が86℃まで上昇すると、加熱器21aがオフになり、電解浴12が自然に冷却される。また、温度センサ22bにより検出される電解浴12の温度が85℃まで低下すると、加熱器21aがオンになり、電解浴12が加熱される。
【0076】
図4(a),(b)は、実施例および比較例における電解浴12の温度の結果をそれぞれ示す図である。図4において、横軸は時間を示し、縦軸は電解浴12の温度を示す。
【0077】
図4(a)に示すように、実施例においては、889分の期間、電解浴12の温度の変動が2度の範囲内に制御された。一方、比較例においては、865分の期間、電解浴12の温度の変動が4度以上になった。
【0078】
実施例および比較例の結果から、加熱器21aに加えて送風機21bを用いることにより、電解浴12の温度の変動をほぼ一定に維持することが可能であることが明らかになった。
【0079】
(5)他の実施の形態
図5は、本発明の他の実施の形態に係る電解装置の主として電解槽の外側の模式図である。
【0080】
図5の電解装置10が図1および図2の電解装置10と異なるのは、加熱器21aの代わりに、複数の赤外線加熱装置21cが電解槽11の周囲に配置されている点である。
【0081】
複数の赤外線加熱装置21cは、電解槽11から離間するように設けられ、電解槽11に赤外線を放射する。それにより、複数の赤外線加熱装置21cは、電解槽11から電気的に絶縁された状態で熱放射により電解槽11を加熱する。
【0082】
図6は、本発明のさらに他の実施の形態に係る電解装置の主として電解槽の外側の模式図である。
【0083】
図6の電解装置10が図1および図2の電解装置10と異なるのは、送風機21bの代わりに、複数の冷却体21dが電解槽本体11aの側面部の外側の面に接して、分散的に取り付けられている点である。冷却体21dは、ペルチェ素子がセラミックス材および絶縁被膜の被覆等で絶縁された構造を有する。それにより、複数の冷却体21dは、電解槽11から電気的に絶縁された状態で吸熱動作を行うことにより電解槽11を冷却する。
【0084】
なお、図1および図2の加熱器21aの代わりに複数の赤外線加熱装置21cが設けられ、かつ送風機21bの代わりに複数の冷却体21dが設けられてもよい。
【0085】
(6)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0086】
加熱器21aおよび赤外線加熱装置21cが熱源および加熱手段の例であり、送風機21bおよび冷却体21dが放熱源および冷却手段の例であり、シーズヒータの電熱線が発熱体の例であり、加熱器21aがヒータの例であり、ペルチェ素子が冷却素子の例であり、陽極室14aが第1室の例であり、陰極室14bが第2室の例であり、陽極15aが第1の電極の例であり、陰極15bが第2の電極の例であり、制御部23が制御手段の例であり、温度センサ22bが検出手段の例である。
【0087】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、気体発生装置等の電解装置に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 電解装置
11 電解槽
11a 電解槽本体
11b 上部蓋体
11c 絶縁部材
12 電解浴
13 隔壁
14a 陽極室
14b 陰極室
15a 陽極
15b 陰極
16a,16b ガス排出口
17a,17b 排気管
18a HF供給ライン
18b 温度調整用ヒータ
21 電源装置
21a 加熱器
21b 送風機
21c 赤外線加熱装置
21d 冷却体
22a,22b 温度センサ
23 制御部
31 支持部材
32 筺体
33 車輪
E 地面
S1,S2 アース線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解浴を収容する電解槽と、
前記電解槽から電気的に絶縁された熱源により前記電解槽を加熱する加熱手段と、
前記電解槽から電気的に絶縁された放熱源により前記電解槽を冷却する冷却手段とを備えることを特徴とする電解装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記熱源として絶縁被膜で被覆された発熱体を有するヒータを含み、
前記ヒータは前記電解槽の外面に接して設けられていることを特徴とする請求項1記載の電解装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記熱源として赤外線を放射する赤外線加熱装置を含み、
前記赤外線加熱装置は、前記電解槽から絶縁されるように離間して設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の電解装置。
【請求項4】
前記冷却手段は、前記放熱源として前記電解槽に送風する送風機を含み、
前記送風機は、前記電解槽から絶縁されるように離間して設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電解装置。
【請求項5】
前記冷却手段は、前記放熱源として絶縁被膜で被覆された冷却素子を有する冷却体を含み、
前記冷却体は、前記電解槽の外面に接して設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電解装置。
【請求項6】
前記電解槽内に第1室が設けられるとともに、前記第1室と前記電解槽との間に第2室が設けられ、
前記第1室に第1の電極が配置され、前記電解槽が第2の電極として機能することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電解装置。
【請求項7】
前記電解槽内の電解浴の温度が予め定められた目標温度範囲内に保たれるように前記加熱手段および前記冷却手段を制御する制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電解装置。
【請求項8】
前記電解槽内の電解浴の温度を検出する検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記検出手段により検出される温度が前記目標温度範囲の上限値よりも低い第1の温度まで上昇したときに前記加熱手段の動作を停止させるとともに前記冷却手段を動作させ、前記検出手段により検出される温度が前記目標温度範囲の下限値よりも高い第2の温度まで低下したときに前記加熱手段を動作させるとともに前記冷却手段の動作を停止させることを特徴とする請求項7記載の電解装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記目標温度の上限値と下限値との差が2度以内になるように前記加熱手段および前記冷却手段を制御することを特徴とする請求項8記載の電解装置。
【請求項10】
前記電解槽はフッ素発生用電解槽であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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