説明

電解質の分離装置および電解質の分離方法

【課題】電解質および非電解質を含む溶液から電解質を分離するに際し、効率よく電解質の分離が可能であり、さらに、多価イオンからなる電解質の分離にも効果を有する電解質の分離装置および電解質の分離方法を提供すること。
【解決手段】原液室と透析液室とがイオン透過膜を挟んで配列した透析槽からなり、該透析槽が交流電極を備えていることを特徴とする電解質の分離装置、および該分離装置を使用する電解質の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工業、電子・電気工業、発酵工業、食品工業、生物工業、医薬品工業などの産業における脱塩、および海水の脱塩などに有用な電解質の分離装置および電解質の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン性重合体およびアニオン性重合体が膜表面から裏面に貫通し、互いに相接しているモザイク荷電膜は、低分子量の電解質を透過させることができるが、非電解質は透過させ難い機能性膜であり、例えば、生化学関連分野の脱塩用、あるいは海水などの脱塩に大きい期待がもたれており、種々の研究が従来よりなされている。
【0003】
モザイク荷電膜の製造方法として、ブロック共重合体の相分離を利用して製造する方法が提案されているが、ブロック共重合体自身の合成の困難さおよびイオン性の基の導入など、その製造方法は非常に煩雑で、大型膜の製造は困難であり、かつ非常に高価であった。これに対して、カチオン性重合体およびアニオン性重合体の微粒子を要素として集積してモザイク荷電膜を製造する方法が提案された。該モザイク荷電膜は、塗布法で形成されることから容易に大型膜が得られ、その工業的利用が検討されるに至った。
【0004】
モザイク荷電膜を使用して原液室側と透析液室側とに電解質の濃度差を設け、電解質を分離する拡散透析法は、分離に長い時間を要すこと、さらに、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、硫酸イオン、リン酸イオンなどの多価イオンからなる電解質の分離には、ナトリウムイオン、塩素イオンなどの一価イオンからなる電解質に比べてより長い時間を要するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電解質および非電解質を含む溶液から電解質を分離するに際し、効率よく電解質の分離が可能であり、さらに、多価イオンからなる電解質の分離にも効果を有する電解質の分離装置および電解質の分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、原液室と透析液室とがイオン透過膜を挟んで配列した透析槽からなり、該透析槽が交流電極を備えていることを特徴とする電解質の分離装置、および該分離装置を使用する電解質の分離方法を提供する。
【0007】
上記本発明の電解質の分離装置においては、イオン透過膜が、少なくとも一部が架橋した粒状重合体であるカチオン性重合体、アニオン性重合体およびマトリックスからなるモザイク荷電膜であることが好ましい。また、本発明の電解質の分離方法では、電解質の分離に際して原液室を加圧することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
原液室および透析液室がイオン透過膜を挟んで一組のあるいは交互に配列した透析槽からなり、該透析槽が好ましくは少なくとも2カ所に交流電極を備えている電解質の分離装置を使用して、原液、透析液および/または膜に交流電場を印加することにより、膜近傍における電解質(イオン)の大きな濃度勾配を緩和させ、イオンを膜表面まで速やかに移動させることを可能とし、さらに原液室の膜表面から透析液室へのイオンの移動を促進させ、一価イオンからなる電解質ばかりでなく、多価イオンからなる電解質も効率よく分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の電解質の分離装置および分離方法では、原液側と透析液側に電解質(塩)の濃度差をつくり電解質を分離する。本発明で使用するモザイク荷電膜は、膜内部にイオン透過のチャンネルが多数構築されているため、電解質の濃度が数百ppm以下でも、原液側と透析液側に電解質濃度の差があれば、電解質の透析が可能であるという特徴を有している。そのため、原液中の電解質の濃度が高い場合ばかりでなく、電解質濃度が1質量%以下という低い原液(原水)の場合でも優れた脱塩効果を発揮する。
【0010】
本発明において用いるモザイク荷電膜は、本出願人により既に提案された膜であり、例えば、特許第2681852号公報、特許第2895705号公報、特許第3012153号公報、特許第3016406号公報、特許第3156955号公報、特許第3234426号公報、特許第3236754号公報、特許第3453056号公報、特許第3453067号公報、特許第3626650号公報に記載されたモザイク荷電膜は、何れも本発明の装置において使用することができる。
【0011】
本発明の分離装置は、原液室および透析液室がイオン透過膜を挟んで一組のあるいは交互に配列した透析槽からなり、該透析槽が好ましくは少なくとも2カ所に交流電極を備えていることを特徴としており、本発明の分離方法は、該装置を使用して原水(塩水)、透析液および/またはに交流電場を印加することが特徴である。
【0012】
本発明の分離装置の構成の一例を図1を参照して説明する。該装置は、原液室および透析液室がイオン透過膜として配置されたモザイク荷電膜を挟んで交互に配列設置され、原液室に被処理液(原液)が流入および処理液(脱塩水)が排出する流路を、透析液室に透析水が流入および塩水が排出する流路を設置し、所定の電圧および周波数の交流電場を印加して、原液室に流入させた被処理液中の溶存イオンを透析液室に透過させる装置である。この際、被処理液および透析水の流れの短絡を防ぐために原液室および透析液室の間にメッシュ状物を挟むことが望ましい。イオン透過膜として配置されたモザイク荷電膜は、少なくとも一部が架橋した粒状重合体であるカチオン性重合体、アニオン性重合体およびマトリックスからなり、織布状支持体で強化された膜である。
【0013】
印加する交流電場として、電圧は0.01V/cmから1kV/cmの範囲、さらに好ましくは0.1V/cmから100V/cmの範囲である。周波数は10Hzから10MHzの範囲、さらに好ましくは100Hzから1MHzの範囲である。
【0014】
また、交流電極は、イオン透過膜を挟んで一組のあるいは交互に配列した原液室および透析液室に好ましくは少なくとも2カ所に設置する。また、透析水として純水を使用する場合、電気抵抗が大きくなり発熱しやすくなるため、原液室および透析液室の最外側に交流電極室を設置し、該電極室に電解質液を導入して交流電場を印加することが望ましい。
【0015】
上記の交流電極を備えた分離装置を使用して、原液、透析液および/または膜に交流電場を印加することにより、膜近傍におけるイオン(塩)の大きな濃度勾配を緩和させ、イオンを膜表面まで速やかに移動させることを可能とする。また、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、硫酸イオン、リン酸イオンなどの多価イオンは、ナトリウムイオン、塩素イオンなどの一価イオンに比べて、膜を透過する際に受ける膜の固定電荷からの電気的束縛が大きいため、その透過速度は小さい。本発明においては、原液、透析液および/または膜に交流電場を印加して膜の固定電荷とイオン間との結合を振動させることにより、イオンの膜の固定電荷からの電気的束縛を弱め、イオンの透過が速やかに行われるため、原液室の膜表面から透析液室への一価イオンばかりでなく、多価イオンの透過も促進され、脱塩効率の向上が可能となる。
【0016】
また、交流電極を備え、モザイク荷電膜を挟んだ一組の原液室および透析液室からなる本発明の分離装置を使用し、原液室を加圧する圧透析法においても、加圧によるイオンの透過に加え、交流電場の印加によるイオンの透過効果が一層促進される。
【0017】
本発明の脱塩装置は、化学工業、電子・電気工業、発酵工業、食品工業、生物工業、医薬品工業などの産業における脱塩や、海水の脱塩に適し、具体的にはタンパク質、アミノ酸などの脱塩、染料、顔料、界面活性剤などの脱塩、従来、電気透析において発熱による目的物質の変質、イオン吸着による膜汚染などにより適用できなかった分野における脱塩などの幅広い用途に適用できる。
【0018】
また、本発明の交流電極を備えた分離装置は、イオン透過膜としてアニオン交換膜を使用することによって、酸などの回収、またはイオン透過膜としてカチオン交換膜を使用することによってアミンなどの回収にも有用である。
【実施例】
【0019】
次に参考例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中の「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
参考例1(ポリマーA:カチオン性粒状重合体の合成)
・4−ビニルピリジン 20.0部
・ジビニルベンゼン 2.0部
・2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロリド
0.4部
・水 1,000部
【0020】
上記成分をフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間重合した。重合生成物を凍結乾燥して、内部が架橋した粒状重合体を得た。該粒状重合体の平均粒子径は走査型電子顕微鏡で測定したところ約350nmであった。
【0021】
参考例2(ポリマーB:アニオン性粒状重合体の合成)
・スチレン 41.6部
・アクリロニトリル 7.1部
・ヒドロキシエチルメタクリレート 8.1部
・ジビニルベンゼン 8.7部
・過硫酸カリウム 0.5部
・水 1,000部
【0022】
上記成分をフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間重合した。得られた重合体の平均粒子径は約180nmであった。上記粒状重合体を濾過により分離し、乾燥後粉砕して粒状重合体を得た。この粒状重合体100部を、650部の98%濃硫酸に徐々に添加し、50℃で24時間、次いで80℃で3時間撹拌した。その後、冷却し、反応混合液を大量の氷水に投入した。炭酸ナトリウムで中和した後、濾過して粒状重合体を分離し、十分水洗した。得られた粒状重合体は、赤外線吸収スペクトルおよびイオンクロマトグラフィーなどの分析によって、芳香環にほぼ1個のスルホン酸基が導入されていることが確認できた。この粒状重合体の平均粒子径は約240nmであった。
【0023】
参考例3(モザイク荷電膜作製)
ポリマーA2.0部をN−メチル−2−ピロリドン8.0部に分散させた。この分散液とポリスルホン樹脂の10%N−メチル−2−ピロリドン溶液66.7部とを1時間混合し、さらに、この分散液とポリマーB4.7部とN−メチル−2−ピロリドン18.7部とからなる分散液を混合し、脱泡処理して塗布液を調製した。該塗布液をポリプロピレン樹脂コート離型紙上にナイフコーターで塗布し、ポリエステル織布を圧着し、熱風乾燥した。次いでヨードメタン雰囲気中に室温で12時間放置後、水洗および風乾してモザイク荷電膜を作製した。上記の方法で作製されたモザイク荷電膜は、約210μmの膜厚で、かつ均一な厚みを有していた。
【0024】
実施例1
参考例3で得られたモザイク荷電膜(膜面積135cm2)を19枚、間隔が2mmで、原液室と透析液室を交互に形成するように配置した。このように構成された原液室および透析液室を備え、両端に交流電極室を備えた分離装置を使用して、原液として1.0mol/Lの塩化ナトリウム水溶液(電気伝導度58.3ms/cm)1000ml、透析液として脱イオン水を使用して、流速1L/分、電極間距離5cm、電圧10V、周波数100Hzの条件で、原液の濃度が0.01mol/L(電気伝導度1.10ms/cm)になるまで、原液の脱塩精製処理を行い、結果を表1にまとめた。その際、原液は循環し、透析液は1パスで塩水として回収した。
【0025】
比較例1
交流電極を備えず、モザイク荷電膜を挟んだ原液室および透析液室からなる分離装置を使用した以外は、実施例1と同様に原液の分離処理を行い、結果を表1にまとめた。表1によれば、実施例1の塩化ナトリウムの透過速度は、交流電場を印加することによって比較例1の1.07倍大きくなった。
【0026】
実施例2
実施例1の塩化ナトリウム水溶液の代わりに1.0mol/Lの塩化カルシウム水溶液(電気伝導度120.3ms/cm)を使用した以外は実施例1と同様の方法で、原液の濃度が0.01mol/L(電気伝導度2.18ms/cm)になるまで、原液の分離精製処理を行い、結果を表1にまとめた。
【0027】
比較例2
交流電極を備えず、モザイク荷電膜を挟んだ原液室および透析液室からなる分離装置を使用した以外は実施例2と同様に原液の分離処理を行い、結果を表1にまとめた。表1によれば、実施例2の塩化カルシウムの透過速度は交流電場を印加することによって比較例2の1.45倍大きくなり、さらに、塩化カルシウムの透過速度は塩化ナトリウムと同程度の大きさになった。
【0028】
実施例3
実施例1の塩化ナトリウム水溶液の代わりに1.0mol/Lの塩化アルミニウム水溶液(電気伝導度117.2ms/cm)を使用した以外は実施例1と同様の方法で、原液の濃度が0.01mol/L(電気伝導度3.16ms/cm)になるまで原液の分離精製処理を行い、結果を表1にまとめた。
【0029】
比較例3
交流電極を備えず、モザイク荷電膜を挟んだ原液室および透析液室からなる分離装置を使用した以外は実施例3と同様に原液の分離処理を行い、結果を表1にまとめた。表1によれば、実施例3の塩化アルミニウムの透過速度は交流電場を印加することによって比較例3の1.78倍大きくなった。
【0030】
以上のように、交流電場を印加することによる電解質の透過速度への影響は、金属カチオンの価数が大きくなるとともに透過促進効果が顕著になった。
【0031】

【産業上の利用可能性】
【0032】
原液室および透析液室が、イオン透過膜として配置されたモザイク荷電膜を挟んで配列した透析槽からなり、該透析槽が交流電極を備えた本発明の分離装置を使用し、該装置に交流電流を印加するため、膜近傍におけるイオンの大きな濃度勾配を緩和させ、イオンを膜表面まで速やかに移動させることを可能とし、さらに原液室の膜表面から透析液室へのイオンの移動を促進させ、一価イオンからなる電解質ばかりでなく多価イオンからなる電解質においても効率よく分離することができる。
【0033】
従って、本発明の分離装置は、化学工業、電子・電気工業、発酵工業、食品工業、生物工業、医薬品工業などの産業における脱塩や、海水の脱塩に適し、具体的にはタンパク質、アミノ酸などの脱塩、染料、顔料、界面活性剤などの脱塩、従来、電気透析において発熱による目的物質の変質、イオン吸着による膜汚染などにより適用できなかった分野における脱塩などの幅広い用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の分離装置を説明する図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原液室と透析液室とがイオン透過膜を挟んで配列した透析槽からなり、該透析槽が交流電極を備えていることを特徴とする電解質の分離装置。
【請求項2】
イオン透過膜が、少なくとも一部が架橋した粒状重合体であるカチオン性重合体、アニオン性重合体およびマトリックスからなるモザイク荷電膜である請求項1に記載の電解質の分離装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置を使用して電解質と非電解質とを含む溶液から電解質を分離するに際し、電解質溶液、透析液および/または膜に交流電場を印加することを特徴とする電解質の分離方法。
【請求項4】
請求項1に記載の装置の原液室を加圧して電解質を分離する請求項3に記載の電解質の分離方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−36563(P2008−36563A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216138(P2006−216138)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】