説明

電解質材料及びその製造方法、電解質膜、触媒ペースト、膜電極接合体並びに燃料電池

【課題】耐酸化性に優れ且つ高い性能を発揮できる炭化水素系電解質材料の提供。
【解決手段】プロトン伝導性基をもつ炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として10質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程を有する製造方法にて製造され得る炭化水素系電解質材料組成物を含有する。又は炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として10質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程と、前記炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基を導入する工程と、を有する製造方法にて製造され得る炭化水素系電解質材料組成物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質材料及びその製造方法、並びに、その電解質材料を採用した電解質膜、触媒ペースト、膜電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に適用できる電解質材料としてはパーフルオロ系電解質材料及び炭化水素系電解質材料(本明細書においては、フッ素による置換が完全にはされていない電解質材料も「炭化水素系電解質材料」に含ませる)がある。
【0003】
パーフルオロ系電解質材料はナフィオン(商標)に代表され、燃料電池に一般的に採用される材料であり、耐酸化性に優れる材料である。燃料電池はその電極反応過程において、アノードで生成したプロトンが電解質膜を通してカソードに達したときに、カソード側に供給される酸素により酸化されて水を生成しているが、副反応としてヒドロキシラジカルを生成することが考えられ、そのヒドロキシラジカルは拡散して燃料電池の構成要素を分解するおそれがある。
【0004】
また、その樹脂骨格の性質上、撥水性構造をもつセグメントと親水性構造をもつセグメントとが混在しており撥水層と親水層とが相分離構造を採っている。このために、保水性及びガスの拡散性の機能をバランスよくもつ構造になっている。
【0005】
しかしながら、パーフルオロ系電解質材料は燃料電池に適用した場合の性能は高いものの、複雑なプロセスを経て合成される材料であること及びフッ素含有量が高いことから非常にコストが高くなっており、燃料電池普及の障害になっている。
【0006】
一方、炭化水素系電解質材料は、一般に低コスト化が可能であるが、パーフルオロ系の電解質材料と比較して充分な性能が発揮できない傾向があった。その理由として、炭化水素系電解質材料は、親水性構造の部分が優勢で撥水性構造が充分でない場合が多く、プロトン伝導性の低下を招いていることが考えられる。
【0007】
また、炭化水素系電解質材料の耐酸化性はパーフルオロ系電解質材料よりも充分でないものが多いことが知られている。すなわち、炭素−水素間の結合エネルギーは炭素−フッ素間の結合エネルギーより小さいので、耐酸化性が充分でないものと考えられる。
【0008】
たとえば、炭化水素系電解質材料の1つであるスルホン化芳香族ポリエーテルエーテルケトンでは親水性が高く、吸水時に強度低下が認められる。そこで、特許文献1ではスルホン化ポリマーのスルホン化前の原料ポリマーとして高分子量のポリマーを採用することで耐水性を向上させた炭化水素系電解質材料が開示されている。
【0009】
また、従来の燃料電池では電解質と電極との界面において異種材料に接合による出力電圧低下が生じるという課題を解決するために、特許文献2には、多孔体に触媒が担持されている電極と、その電極との間でプロトンを伝導する固体電解質とからなる電気化学素子であって電極と固体電解質のいずれもヘテロポリ酸を有する構成が開示されている。
【0010】
更に、特許文献3では第1工程で金属−酸素結合を有する3次元架橋構造体を形成する液状物質とプロトン伝導性付与剤とを混合して原料混合液を調製し、第2工程で原料混合液を繊維材料に含浸させる。第3工程で含浸された繊維材料をゾルゲル反応により硬化させる手法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−116679号公報
【特許文献2】特開2005−129285号公報
【特許文献3】特開2003−100316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の炭化水素系電解質材料はプロトン伝導性に限界があった。そして、特許文献2に記載の技術では性能向上は認められるものの、ヘテロポリ酸は親水性が高いので運転中の溶出による性能低下が問題になった。更に、特許文献3に記載の技術では液体状ではないので触媒層内の三相界面を構成することが困難である。
【0012】
本発明は上記実状に鑑み為されたものであり、耐酸化性に優れると共に、高い性能を発揮できる炭化水素系電解質材料組成物を主体とした耐久性の高い電解質材料及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。また、その電解質材料を採用した電解質膜、触媒ペースト、膜電極接合体及び燃料電池を提供することも解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決する目的で鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。すなわち、ヘテロポリ酸を炭化水素系電解質材料組成物中に混入する手段として、炭化水素系電解質材料組成物を形成する際にヘテロポリ酸を混合した状態で炭化水素系単量体を重合することで、炭化水素系電解質材料組成物からヘテロポリ酸が溶出することを抑制できる。詳細は明らかではないが重合反応をヘテロポリ酸の存在下で行うことで生成した高分子構造中で安定的に保持されるようになる。
【0014】
本発明は以上の知見に基づき完成されたものであり、本発明の電解質材料は、プロトン伝導性基をもつ炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程を有する製造方法にて製造され得る炭化水素系電解質材料組成物を含有することを特徴とする。又は炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程と、前記炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基を導入する工程と、を有する製造方法にて製造され得る炭化水素系電解質材料組成物を含有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の電解質材料の製造方法は、プロトン伝導性基をもつ炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系電解質材料組成物を得る工程を有することを特徴とする。又は、炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程と、前記炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基を導入する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
ここで、炭化水素系単量体及びヘテロポリ酸の混合割合を決定するにあたりヘテロポリ酸の質量は無水物に換算して算出した値を用いる。
【0017】
以上説明したように、ヘテロポリ酸を炭化水素系電解質材料組成物中に混入する手段として、炭化水素系電解質材料組成物を形成する際にヘテロポリ酸を混合した状態で炭化水素系単量体を重合することで、炭化水素系電解質材料組成物からヘテロポリ酸が溶出することを抑制できる。詳細は明らかではないが重合反応をヘテロポリ酸の存在下で行うことにより生成した高分子構造中にてヘテロポリ酸が安定的に保持されるようになり電解質としての安定性(形態安定性、水への溶解性など)が向上できる。
【0018】
ヘテロポリ酸は、2種以上のオキソ酸が縮合した多核構造のポリ酸である。プロトンを除いた骨格はヘテロポリ酸イオン(ヘテロポリアニオン)といい、骨格をつくる酸の縮合構造の中に少数個の異種原子(ヘテロ原子という)の酸素酸を含む構造になっている。その他の骨格酸の中心原子はポリ原子と称される。
【0019】
ヘテロ原子としては、P、Si、As、Geが例示される。ポリ原子は遷移金属から選択され、W、Mo、Nb、V、Taが例示できる。そして、一部が異なる遷移金属と置換することも可能である。また、ポリ原子の一部が欠損した構造も存在する。好ましいヘテロポリ酸はケイタングステン酸である。
【0020】
そして、炭化水素系電解質材料組成物について耐酸化性を評価したところ、イオン交換容量が比較的小さい0.5meq/g以上から2.1meq/g以下の範囲であれば、高い耐酸化性を示すことを発見した。これはヒドロキシラジカルなどによる反応点として作用しうるイオン交換基を減少させたことで耐酸化性が向上したものと考えられる。なお、イオン交換基を減少させることによる耐酸化性向上効果はパーフルオロ系電解質材料にも妥当することが推測できる。
【0021】
そして、イオン交換容量を低い範囲内に制御した炭化水素系電解質材料組成物に対し、プロトン伝導性助剤としてヘテロポリ酸を混合することで耐酸化性とプロトン伝導性とを両立させることに成功した。
【0022】
そこで、前記炭化水素系電解質材料組成物のイオン交換容量は前記ヘテロポリ酸に相当する質量を除いた質量を基準にして、0.5meq/g以上2.1meq/g以下であることが望ましい。イオン交換容量をこの範囲内に制御することにより高い耐酸化性と高いプロトン伝導性とが両立できる。
【0023】
前記炭化水素系単量体としてはプロトン伝導性基をもつものが採用できる。また、前記重合工程後に前記炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基を導入する工程を有することができる。
【0024】
そして、上記課題を解決する本発明の電解質膜は前述した本発明の電解質材料と、その電解質材料を含浸する多孔質膜とを有することを特徴とする。前述の電解質材料は多孔質膜中に含浸されることで充分な機械的強度が与えられる。多孔質膜としてはポリイミドから構成されることが好ましい。また、上記課題を解決する本発明の触媒ペーストは前述した本発明の電解質材料と、触媒とを有することを特徴とする。
【0025】
更に、上記課題を解決する本発明の膜電極接合体は、電解質膜と、該電解質膜の両面に積層される触媒層と、該触媒層の該電解質膜の反対側に積層される拡散層とを有する燃料電池用の膜電極接合体であって、前記電解質膜が前述した本発明の電解質膜であること及び/又は前記触媒層が前述した本発明の触媒ペーストから形成される層であることを特徴とする。そして、上記課題を解決する本発明の燃料電池は、この本発明の膜電極接合体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電解質材料及び触媒ペーストは、耐酸化性とプロトン伝導性とを両立することができると共に、高い性能を長期間維持することができる。本発明の電解質膜及び膜電極接合体は、耐酸化性とプロトン伝導性とを両立できると共に充分な強度及び高い耐久性を付与することができる。本発明の燃料電池は高い耐久性と性能とが両立できる。
【0027】
更に、ヘテロポリ酸を含有させることによる付随的な効果として、燃料ガス中などに含まれる一酸化炭素による影響を低減できることを発見している。すなわち、燃料電池の燃料としては、純水素を用いる場合のほか、炭化水素を改質して燃料ガスを製造することがあるが、その場合に一酸化炭素が混入することがある。一酸化炭素が混入すると、燃料電池の発電能力が落ちるが、本発明の電解質材料及び触媒ペーストを採用すると、一酸化炭素が燃料ガス中に混入しても電池性能の落ち込みを小さくできる。これはヘテロポリ酸が水和物であるので、それを含む電解質材料の保水性能が向上したことによると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(電解質材料及びその製造方法)
本実施形態の電解質材料は炭化水素系単量体とヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程を有する製造方法にて製造され得る炭化水素系電解質材料組成物を含有することを特徴とする。
【0029】
また、本実施形態の電解質材料の製造方法は、炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系電解質材料組成物を得る工程を有することを特徴とする。
【0030】
ここで、ヘテロポリ酸の混合量は炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満である。
【0031】
炭化水素系材料組成物は炭化水素系単量体及びヘテロポリ酸の混合物を重合することで得ることができる。ここで、炭化水素系単量体としてプロトン伝導性基を有するものを採用すると、重合して得られる炭化水素系材料組成物はプロトン伝導性基を有するものであり、プロトン伝導性基の量を制御する(例えば、プロトン伝導性基を有さない炭化水素系単量体を共重合させる)ことで、そのまま炭化水素系電解質材料組成物として用いることができる。また、プロトン伝導性基を有さない炭化水素系単量体を採用しても、炭化水素系材料組成物を製造した後にプロトン伝導性基を導入することで炭化水素系電解質材料組成物とすることが可能である。更にプロトン伝導性基を有する炭化水素系単量体を用いた場合でも後にプロトン伝導性基を導入することができる。
【0032】
炭化水素系単量体としては特に限定されず、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルベンゼン、(メタ)アクリル酸などが例示できる。また、それら炭化水素系単量体にプロトン伝導性基を導入した誘導体も例示できる。プロトン伝導性基の導入についてスチレンを例として説明すると、スチレンのフェニル基にプロトン伝導性基を直接結合させたり、アルキレン基などの炭化水素基を介して結合させることができる。
【0033】
プロトン伝導性基としてはスルホ基、リン酸基、カルボン酸基などである。ここで重合反応前の炭化水素系単量体としてプロトン伝導性基を有する化合物を採用する場合には、導入されたプロトン伝導性基が重合反応を阻害しないように、適正な置換基を導入して遮蔽乃至保護することが望ましい。
【0034】
重合反応はラジカル開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などを用いた熱重合や光重合のほか、放射線重合、電子線重合などの高エネルギー線を用いた重合を採用することもできる。また、ラジカル開始剤として、高エネルギー線を照射してラジカルを生成した高分子材料(ポリスチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などが例示できる)を採用して、炭化水素系単量体をその高分子材料にグラフト化することもできる。グラフト化を行うことで耐久性が向上できる。また、炭化水素系単量体及びヘテロポリ酸以外にも必要に応じて添加剤などを加えることができる。
【0035】
炭化水素系電解質材料組成物の前記ヘテロポリ酸に相当する部分を除いた残部のイオン交換容量は、0.5meq/g以上2.1meq/g以下であることが望ましい。ここで、質量は乾燥質量である。ヘテロポリ酸に相当する部分のイオン交換容量及び質量は、実際に添加したヘテロポリ酸の量から算出しても良いし、ヘテロ原子の量から算出することもできる。イオン交換容量は、炭化水素系単量体由来の部分に導入するプロトン伝導性基の量などにより制御できる。
【0036】
更に、炭化水素系電解質材料の残部のイオン交換容量の上限は2.1meq/g以下の他、2.01meq/g以下、2.01meq/g未満、1.75meq/g以下、1.5meq/g以下及び1.1meq/g以下の各値を任意に採用することができる。また、残部のイオン交換容量の下限は0.5meq/g以上の他、0.75meq/g以上及び1.0meq/g以上の各値を任意に採用することができる。残部のイオン交換容量の上限及び下限は、それぞれ独立して選択可能であり任意に組み合わせることが可能である。また、耐酸化性向上の観点からは上限のみを採用することもできる。
【0037】
イオン交換容量の測定は、炭化水素系電解質材料の試験試料についてイオン交換基をH型に置換した後、溶解後の質量を基準として、乾燥したH型に置換後の試験試料の質量が0.3%の濃度になるようにエタノールに溶解させ、指示薬としてフェノールフタレインを用い、溶液の赤色への変色が数秒間保持される点を終点として、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液にて滴定した値に基づき下式に従い算出した値である。このようにして算出したイオン交換容量の値から添加したヘテロポリ酸の添加量に相当するイオン交換容量を減ずることで、残部のイオン交換容量が算出できる。
【0038】
(イオン交換容量)(meq/g)=(0.05×滴定量(ml))/(溶解させた試験試料の乾燥質量(g))
【0039】
ヘテロポリ酸は、前述の炭化水素系電解質材料からヘテロポリ酸に相当する質量を除いた残部の質量を基準として、0.2質量%以上、300質量%未満の量を含有する。ヘテロポリ酸のポリ原子は遷移金属原子から選択されるが、特にW、Mo、Nb、V及びTaが好ましい例として挙げられる。特にタングステンが好ましい。これらのポリ原子はヘテロポリ酸中において、W6+、Mo6+、Nb5+、V5+、Ta5+などの形態で存在するものと考えられる。ヘテロ原子としてはP、Si、As、Ge、Bが例示される。特にケイ素が好ましい。ポリ原子としてタングステン、ヘテロ原子としてケイ素を採用した好ましいヘテロポリ酸としては、ケイタングステン酸:H〔SiW1240〕・nHOが例示される。その他にも本実施形態に適用できるヘテロポリ酸としては、リンタングステン酸:H〔PW1240〕・nHO、リンモリブデン酸:H〔PMo1240〕・nHO、リンモリブデン酸ナトリウム:Na〔PMo1240〕・nHO、リンタングストモリブデン酸:H〔PW12−XMo40〕・nHO(0<x<12)、リンバナドモリブデン酸:H15−X〔PV12−XMo40〕・nHO(6<x<12)、ケイモリブデン酸:H〔SiMo1240〕・nHOが例示できる。なお、以上に示したヘテロポリ酸における水和物の量を示すnの値はすべて30程度(n≒30)である。ヘテロ原子とポリ原子との間の原子数の比(ヘテロ原子/ポリ原子)は特に限定しないが、1/6、1/9、1/12、2/18などの原子数比が頻出する。
【0040】
ヘテロポリ酸の含有量の上限は、前述した残部の質量を基準として、300質量%未満の他、200質量%以下、150質量%以下及び100質量%以下の各値を任意に採用することができる。ヘテロポリ酸の含有量の下限は、0.2質量%以上の他、10質量%以上、33質量%以上、33質量%超、50質量%以上及び75質量%以上の各値を任意に採用することができる。ヘテロポリ酸の含有量の上限及び下限は、それぞれ独立して選択可能であり任意に組み合わせることが可能である。
【0041】
(電解質膜)
本実施形態の電解質膜は電解質材料と多孔質膜とを有する。電解質材料は前述した本実施形態の電解質材料をそのまま採用できるので、ここでの更なる説明は省略する。
【0042】
多孔質膜は膜の表裏面を連通する多数の孔をもつ薄膜である。この孔内に電解質材料が含浸されている。多孔質膜の空孔率はプロトン伝導性の観点からは高いことが好ましい。また、膜の強度の観点からはある程度以下の値に制限することが好ましい。例えば、多孔質膜の空孔率は90%〜20%程度にすることが好ましく、70%〜40%程度にすることがより好ましい。
【0043】
多孔質膜は有機、無機を問わず高分子材料から構成されることが好ましい。高分子材料としては燃料電池内の環境下で化学的及び物理的安定性の高い材料が望ましい。例えばエンジニアリングプラスチック(ポリイミド、フッ素樹脂など)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)などの有機高分子材料、炭素材料(カーボンペーパー、多孔質カーボンなど)、セラミックス材料(ガラス、アルミナなど)を採用することができる。特に膜の強度に優れ且つ可撓性の高い有機高分子材料(ポリイミドなど)を採用することが好ましい。
【0044】
これらの材料に孔を形成する方法としては常法が採用できる。例えば、孔のない膜を延伸する方法(高分子材料など)、繊維状にした後に不織布若しくは織布にする方法(高分子材料、炭素材料、セラミックス材料など)、溶解除去できる微粉末を混練などして分散させた後に製膜し微粉末を溶解除去する方法(高分子材料、炭素材料、セラミックス材料など)、機械的方法などが例示できる。
【0045】
電解質材料は固体状の材料を採用することが好ましい。固体状の電解質材料を加熱により溶融した状態乃至は溶媒により溶解した状態にて多孔質膜中に浸透乃至は圧入することで孔内に含浸させ、その後、液状にした電解質材料は冷却乃至は乾燥により固体状に戻すことで安定した膜が形成できる。
【0046】
(触媒ペースト及び膜電極接合体)
本実施形態の触媒ペーストは電解質材料と触媒とを有する。触媒ペーストは適正な溶媒などを含有させることが好ましい。本触媒ペーストを電解質膜や拡散層に塗布することで触媒層を形成できる。電解質材料は前述した本実施形態の電解質材料をそのまま採用できるので、ここでの更なる説明は省略する。触媒は、一般的に担持粉末に触媒を担持させた触媒担持粉末として使用される。触媒としては白金や白金に他の元素(ルテニウム、パラジウムなど)を合金化させた貴金属触媒などが使用される。担持粉末としてはカーボン粉末などが使用される。担持粉末としてカーボン粉末、触媒として白金を使用した白金担持カーボンが汎用される。白金担持カーボンの白金は他の元素と合金化されていても良く、また、他の元素と混合して用いることもできる。触媒は、担持粉末を使用せずに、触媒自身を粉末として使用しても良い。
【0047】
本実施形態の膜電極接合体は電解質膜と触媒層と拡散層とを有する。ここで、電解質膜は主に膜厚方向でのプロトン伝導性を示す部材であり、触媒層は酸化還元反応を触媒する部材であり、そして拡散層は燃料ガスや空気などの気体及び水分の透過性に優れ、電気及び熱の伝導性をも発揮できる部材である。拡散層は表面処理したカーボンペーパーなどから構成されるものが知られている。触媒層は電解質膜及び/又は拡散層の表面に触媒ペーストを塗布することで形成することができる。本膜電極接合体は、電解質膜に対して本実施形態の電解質膜を採用するか、及び/又は触媒層として本実施形態の触媒ペーストから形成される層を採用している。
【0048】
(燃料電池)
本実施形態の燃料電池は固体高分子電解質型燃料電池である。本実施形 態の燃料電池としては燃料電池セルを単独で用いているか又は複数積層したスタックを形成しているものである。燃料電池セルは、前述の本実施形態の膜電極接合体を有し、その膜電極接合体をセパレータで狭持している。
【0049】
セパレータは一般的に使用されている材質、形態のものが使用できる。セパレータには燃料ガス又は酸化剤ガスが流れる流路が形成され、ガス供給装置が接続される。
【実施例】
【0050】
〔試験例1:ヘテロポリ酸を添加した状態で重合反応を行う〕
(炭化水素系材料組成物の製造)
炭化水素系単量体としてのα−メチルスチレン50gを溶媒としてのジクロロメタン365g中に加えて混合物とし、フラスコ内にて150rpmで撹拌した。混合物の撹拌は液体窒素で−80℃に冷却しながら行った。フラスコ内の温度が−80℃に達したことを確認してポリマーの重合を開始させた。
【0051】
アニオン重合開始剤としての三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート(BFO(C)0.85gを1.45gのジクロロメタンに混合した溶液をゆっくり原材料に滴下した。この時、同時にヘテロポリ酸(ケイタングステン酸)を1g(炭化水素系単量体に対して0.2質量%)添加した。
【0052】
重合反応を約1時間行った後、室温に戻し、炭化水素系材料組成物の溶液を得た。炭化水素系材料組成物を800mLのメタノール中に滴下し、精製されたポリマーである炭化水素系材料組成物を得た。得られた炭化水素系材料組成物を乾燥して溶媒を除去し、その後、粉砕した。この方法で得られるポリマーの分子量をGPCで測定した結果、17万前後であった。
【0053】
(炭化水素系電解質材料組成物の製造)
前述の方法にて製造したポリマーである炭化水素系材料組成物20gを1,2−ジクロロエタン419g中で液温30℃に保持して溶解させて炭化水素系材料組成物溶液とした。ポリマーが完全に溶解したことを確認してからスルホン化を行った。スルホン化はクロロスルホン酸7.86gを1,2−ジクロロエタンに溶解させたクロロスルホン酸混合溶液を炭化水素系材料組成物溶液中に滴下して行った。クロロスルホン酸混合溶液の滴下速度は約1.5mL/分とした。滴下終了後、30分ほど放置して生成物を沈降させた。得られた生成物を取り出して、蒸留水ですばやく洗浄した。生成物が白くなったらろ過して結晶を回収した。得られた結晶を乾燥して溶媒を除去した。生成した電解質材料のEW値は400(合成例1)であった。クロロスルホン酸の添加量を変化させることでEW値を200から800までの範囲で設定できることを確認した。
【0054】
製造した電解質材料5gを蒸留水とエタノールとの混合溶液(質量比1:1)95g中に溶解して電解質材料溶液を製造した。
【0055】
(触媒ペーストの製造)
触媒としての白金を含む白金担持カーボン(白金担持量50質量%)8gにイオン交換水33gを加えてスラリー状にした。更にエタノール22gを加えて白金担持カーボンの粒径が1.0μm以下になるまで混合分散した。その後、前述の電解質材料溶液12gを添加して混合分散させて試験例1の触媒ペーストを得た。混合分散は高速ホモジナイザーにて行った。
【0056】
〔試験例2:高分子電解質を溶解して溶液を調製する際にヘテロポリ酸を混合する〕
ヘテロポリ酸を混合しないこと以外は合成例1と同様の方法で炭化水素系材料組成物を合成した。得られた炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基(スルホ基)を導入する工程として合成例1と同様の方法でスルホ基を導入し電解質材料を得た。そして、蒸留水とエタノールとの混合溶液(質量比1:1)中に溶解する際にヘテロポリ酸を試験例1と同じ割合になるように混合した後、触媒ペーストを調製して試験例2の触媒ペーストとした。
【0057】
〔試験例3:触媒ペーストを調製後にヘテロポリ酸を混合する〕
ヘテロポリ酸を混合しないこと以外は合成例1と同様の方法で炭化水素系材料組成物を合成した。得られた炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基(スルホ基)を導入する工程として合成例1と同様の方法でスルホ基を導入し電解質材料溶液を得た後、触媒ペーストを調製して試験例3の触媒ペーストとした。触媒ペーストを調製する際にヘテロポリ酸を試験例1と同じ割合になるように混合した。
【0058】
〔燃料電池の評価〕
(膜電極接合体の製造)
各試験例の触媒ペーストを、ガス拡散基材(拡散層)になる撥水処理したカーボンペーパー(厚み180μm、気孔率65%)に白金担持量が1mg/cmになるようにバーコータにより塗工した。塗工後、80℃で30分間加熱乾燥を行い触媒層を形成した電極を得た。電解質膜(デュポン株式会社製、ナフィオン112)を触媒層側で接する向きにそれぞれ配した2枚の電極にて挟持した後、140℃、3MPaで3分間ホットプレスして接合し、各試験例の膜電極接合体を得た。また、比較例として、プロトン伝導性助剤を含まない触媒層を用いた膜電極接合体を製造した。
【0059】
(触媒ペーストに含まれる白金の電気化学表面積の測定)
触媒ペーストの性能を電気化学表面積により評価した。電気化学表面積は膜電極接合体1cm当たりの白金の活性表面積(cm)として評価した。まず、電極面積13cmの燃料電池セルを作成し、一方に水素ガス、他方に窒素ガスを流した状態で電圧を掃引してサイクリックボルタンメトリーのデータを求めた。サイクリックボルタンメトリーにより得られた電圧−電流曲線にて囲まれた部分の面積から電気二重層形成に由来する部分の面積を減じて白金の活性に由来する電荷量を算出し、その値(C)を白金1cm当たりの電荷量である210(C/cm)で除することで白金の活性表面積を求めた。
【0060】
結果を図1に示す。図1より明らかなように、試験例1の触媒ペーストにおける電気化学表面積がいずれの加湿温度(50℃、60℃、70℃)においても一番大きく、次いで試験例2、試験例3の順になった。また、加湿温度の上昇に伴い、電気化学表面積が大きくなることが判ったが、試験例1の触媒ペーストにおける電気化学表面積の上昇が一番大きく、試験例2、試験例3の順であった。従って、ヘテロポリ酸の添加を合成時(試験例1)に行うことで白金の電気化学表面積を大きくできることが判った。
【0061】
(電池性能の評価:一酸化炭素の影響)
各試験例及び比較例の膜電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込んで評価した。評価は電流密度が0.34A/cmのときの出力電圧を測定した。燃料電池評価用単セルの評価(運転)条件は電極面積59cm、セル内温度77℃、供給するガスは、アノード側が85%の利用率に相当する純水素、カソード側が40%の利用率に相当する空気とした。ガスに対する加湿量は、ガス1モルに対するモル比で、アノード側が0.2mol(57℃)、カソード側が0.25mol(60℃)の水を用いた。アノード側のガスの一酸化炭素は、0ppmと100ppmとの2条件で検討を行った。
【0062】
結果を図2(一酸化炭素濃度0ppm)及び図3(一酸化炭素濃度100ppm)に示す。図より明らかなように、一酸化炭素濃度が0ppmの場合に、試験例1〜3の燃料電池は従来の比較例の燃料電池と同程度のセル電圧を示した。また、一酸化炭素濃度が100ppmの場合に、比較例の燃料電池が大きく出力電圧が低下したのに対して試験例1〜3の燃料電池では比較例の燃料電池よりも出力電圧の低下が小さかった。出力電圧の低下は試験例3の燃料電池が一番小さく、次いで試験例2、試験例1の順であった。
【0063】
(電池性能の評価:耐久性評価)
試験例1の燃料電池及び比較例の燃料電池について耐久試験を行った。耐久試験はアノード側の水素に一酸化炭素を10ppm含有させた以外は前述の一酸化炭素の影響を評価した場合と同様の条件にて燃料電池の運転を140時間行い、出力電圧の経時変化を測定した。
【0064】
結果を図4に示す。図4より明らかなように、合成時にヘテロポリ酸を添加した試験例1の燃料電池の耐久性が他の燃料電池よりも長時間高い出力電圧を保持できることが判った。
【0065】
(電池性能の評価:ヘテロポリ酸の添加量)
電解質材料の固形分(質量基準)に対して、ヘテロポリ酸の添加量を1/2倍(試験例4)、1倍(試験例5)及び2倍(試験例6)とした以外は試験例1と同様にして触媒ペーストを調製し、その触媒ペーストを用いて膜電極接合体を製造した。その後、試験例4〜6の燃料電池について、一酸化炭素の影響を評価したときと同じ条件にて運転を行い出力電圧を測定した。
【0066】
結果を図5及び図6に示す。図より明らかなように、一酸化炭素の濃度が0ppmの場合にはヘテロポリ酸の添加量による出力電圧に大きな差は認められなかったが、一酸化炭素濃度が100ppmの場合にはヘテロポリ酸の添加量が多いほど出力電圧の低下が小さかった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例における触媒ペーストにおける白金の電気化学表面積を示したグラフである。
【図2】実施例における燃料電池の出力電圧(一酸化炭素濃度0ppm)を示したグラフである。
【図3】実施例における燃料電池の出力電圧(一酸化炭素濃度100ppm)を示したグラフである。
【図4】実施例における触媒ペーストを用いた燃料電池の出力電圧の運転時間依存性を示したグラフである。
【図5】実施例における燃料電池の出力電圧(一酸化炭素濃度0ppm)のヘテロポリ酸の添加量依存性を示したグラフである。
【図6】実施例における燃料電池の出力電圧(一酸化炭素濃度100ppm)のヘテロポリ酸の添加量依存性を示したグラフである。を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性基をもつ炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程を有する製造方法にて製造され得る炭化水素系電解質材料組成物を含有することを特徴とする電解質材料。
【請求項2】
炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程と、
前記炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基を導入する工程と、を有する製造方法にて製造され得る炭化水素系電解質材料組成物を含有することを特徴とする電解質材料。
【請求項3】
前記炭化水素系電解質材料組成物の前記ヘテロポリ酸に由来する部分を除いた残部のイオン交換容量は、0.5meq/g以上2.1meq/g以下である請求項1又は2に記載の電解質材料。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸はケイタングステン酸である請求項1〜3のいずれかに記載の電解質材料。
【請求項5】
プロトン伝導性基をもつ炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系電解質材料組成物を得る工程を有することを特徴とする電解質材料の製造方法。
【請求項6】
炭化水素系単量体と前記炭化水素系単量体を基準として0.2質量%以上300質量%未満の量のヘテロポリ酸とを含む混合物を重合して炭化水素系材料組成物を得る工程と、
前記炭化水素系材料組成物にプロトン伝導性基を導入する工程とを有することを特徴とする電解質材料の製造方法。
【請求項7】
前記炭化水素系電解質材料組成物のイオン交換容量は前記ヘテロポリ酸に相当する質量を除いた質量を基準にして、0.5meq/g以上2.1meq/g以下である請求項5又は6に記載の電解質材料の製造方法。
【請求項8】
前記ヘテロポリ酸はケイタングステン酸である請求項5〜7のいずれかに記載の電解質材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の電解質材料又は請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法にて製造された電解質材料と、
前記電解質材料を含浸する多孔質膜とを有することを特徴とする電解質膜。
【請求項10】
前記多孔質膜はポリイミドから構成される請求項9に記載の電解質膜。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の電解質材料又は請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法にて製造された電解質材料と、触媒とを有することを特徴とする触媒ペースト。
【請求項12】
電解質膜と、該電解質膜の両面に積層される触媒層と、該触媒層の該電解質膜の反対側に積層される拡散層とを有する燃料電池用の膜電極接合体であって、
前記電解質膜が請求項9又は10に記載の電解質膜であること及び/又は前記触媒層が請求項11の触媒ペーストから形成される層であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項13】
請求項12に記載の膜電極接合体を有することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−265905(P2007−265905A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91720(P2006−91720)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】