説明

電解質流動を伴い、貫通電極を備える電気化学セル及びその製造方法

本発明は、電解質流動のための注入口(6)と、排出口と、2つのユニポーラ型電極(5a、5b)とを備える電気化学セルに関する。各電極は、頑丈な枠により囲まれた、複数の貫通流路の網状体を有する構造体を備える。電解質は、注入口(6a、6b)を介して入り、前記電極(5a、5b)の前記複数の貫通流路を介して循環し、前記電極(5a、5b)の間の空間を通過し、排出口を介して排出される。前記構造体と前記枠とは炭素をベースにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質流動(electrolyte flow)を伴う電気化学セルに関し、この電気化学セルは、平行で、且つ、平坦な主面を有する少なくとも2つの電極を備え、各電極は、電極の主面と垂直な複数の貫通流路(through-passage)の網状体(network)を有する構造体(structure)を備える。
【0002】
また、この発明はこのようなセルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
このタイプのセルは、電池のようなストレージ・アプリケーションに適したものである。電解質流動を伴った電気化学電池の第1のタイプは、酸化還元流動セル(redox flow cell)であり、電気化学反応に寄与する化学種(species)は、電解質中に完全に溶解している。これは特にバナジウム電池の場合である。
【0004】
Paul C.Butlerらの文献“Handbook of Batteries”(3rd ed.,chapter39 “Zinc/Bromine Batteries”,2002)に開示されている亜鉛/臭素電池のように、電気化学種の1つは亜鉛の固体層の形状で堆積している。図1にこのようなセルの1つを示す。このセルは、少なくとも2つのバイポーラ型電極1及び2を備え、これらは炭素ベース及び高分子ベースの化合物材料から、モールド注入(injection moulding)により形成されている。セルが2つの電解質を用いる場合には、高分子セパレータ3は2つの電極の間に位置することとなる。これにより、セパレータの表面の1つはカソード電解質に接触しており、他の表面はアノード電解質と接触している。このセルは、垂直方向の電解質流動により、すなわち、電極1及び2の主面と平行である流れにより、供給される。この立体構造体(configuration)においては、セルのパワーは、一体化された電解質と接触した電極の幾何学的表面に比例する。従って、高いパワーを持つセルの製造は、電極サイズが大きいために難しいものである。さらに、大きなセルに注入すること(pumping)は難しい。この技術の他の欠点は、電池が古くなると(ageing)、化合物材料の構造体(composite material structure)が劣化することである。
【0005】
2つの平行で、且つ、平坦な電極を備える電気化学セルは、米国出願2005/084737に提案されている。各電極は、電解質を循環させるための複数の貫通流路を備える。
【0006】
さらに、特許出願WO 01/15792は、水の脱イオン(deionization)のための電極が開示されている。水は、気孔の中を電極の1つの表面から他の表面までを流れる。
【0007】
それにもかかわらず、これらの電極は、機械的ストレスに対する低い耐性と、限定された導電性(current conduction)とを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術の欠点を改善するような電気化学セルと、電気化学セルの製造方法とを提供することである。さらに詳細には、本発明の目的は、頑丈で(solid)、且つ、コンパクトな電気化学セルであって、製造が容易であり、同時に高い効率を有する電気化学セルを提供することである。
【0009】
本発明によれば、この目的は添付された請求の範囲により達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、従来技術による電気化学セルを示す。
【図2】図2は、本発明による1つの電解質を用いたセルの断面図を示す。
【図3】図3は、本発明による2つの電解質を用いたセルの断面図を示す。
【図4】図4は、本発明によるセルの電極の第1の実施形態を示す。
【図5】図5は、本発明によるセルの電極の第2の実施形態を示す。
【図6】図6は、図2又は図4のセルの電極の製造方法における異なる工程を示す。
【図7】図7は、図2又は図4のセルの電極の製造方法における異なる工程を示す。
【図8】図8は、図2のセルのA-Aに沿った断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
他の利点及び特徴は、本発明の特有の実施形態についての下記の説明により、さらに明らかにされる。本発明の特有の実施形態は、単なる例示であって、本発明を限定するものではない。本発明の特有の実施形態は、添付の図面により示される。
【0012】
図2は、本発明による電解質流動を伴う電気化学セルの特有の実施形態の断面図である。通常、このセルは、通常2つの電極5a及び5bを備え、それらはセパレータ3により分離され、筐体4に格納されている(図3)。セルは、少なくとも異なる2つの注入口と、少なくとも1つの排出口とを備え、各注入口は電極と一体化される。筐体4の前壁(front wall)に形成された2つの注入口の開口部6a及び6bは、図2に示され、筐体4の後壁(rear wall)に形成された2つの排出口の開口部7a及び7bは、図3に示される。図2においては、電解質は、注入口の開口部6aを介して、電極5aとそれに対応する筐体4の壁との間の容積(volume)に入る。同様に、電解質は、注入口の開口部6bを介して、電極5bとそれに対応する筐体4の壁との間の容積に入る。各電極は、1つの主面から他の主面に伸びる複数の貫通流路の網状体を有する構造体9(図4)を備える。この複数の貫通流路は、電極の主面に対して垂直である。これらは好ましくはすべて同一であり、低い多孔率(porosity)(多孔率:5−10%)を有する薄膜により分離されている。各貫通流路の断面は、円形、六角形、四角形、長方形等とすることができる。このように形成された網状体は、好ましくは均一な(regular)網状体であり、例えば蜂の巣の形状である。
【0013】
従って、電解質は、複数の貫通流路を介して電極5a及び5bから流れ、電極5a及び5bの間に備えられた容積を通過し、図2に図示されていない排出口の開口部を介して出る。図3の特有の実施形態においては、セパレータ3を有し、第1の電解質は、注入口の開口部6aを介して入り、電極5aを通過し、第1の排出口の開口部7aを介して排出される。同様に、第2の電解質は、注入口の開口部6bを介して入り、電極5bを通過し、第2の排出口の開口部7bを介して排出される。最終的には、金属コレクタ8a及び8bは、電流をセルの外側まで運び、且つ、セルの正極端子及び負極端子を構成する。注入口の開口部6a及び6bは、好ましくは筐体4の前壁の下部に配置され、一方、排出口の開口部7a及び7bは、好ましくは反対側の壁(後壁)の上部に配置される。
【0014】
図4は、構造体9を備える電極の透視図である。構造体9は、分厚い(bulky)外枠10により囲まれており、例えば、外枠はコンパクトで、且つ、可能な限り少しの気孔を持つ。外枠10の外面の領域11は金属化(metallize)され、金属電流コレクタ8は領域11の上に溶接されている。枠10の他の外面は、好ましくは筐体4の内壁に重ねられる。図5に示されるように、大きなディメンジョンの電極の場合には、構造体9は好ましくは小さな基本構造(elementary structure)に分割され、例えば、図5においては4つに分割され(9a、9b、9c及び9d)、内枠12により分離されている。
【0015】
構造体9と頑丈な外枠10とは、好ましくは炭素ベースであり、例えばガラス状炭素から形成される。複数の貫通流路は規則正しく配置され(order)、且つ、一様である。網状体を流れる電解質の分配もまた一様である。具体的には、貫通流路は、サイズ(直径又は差し渡り(side))が1mmから4mmであり、長さが10mmから20mmである。このようなディメンジョンを持つことで、セルは貫通流路の長さ全体に亘って良好な流れのパワーを維持する。この流れのパワーは、貫通流路に沿った流れの密度の分配を示し、通常2つのパラメータに依存する。この2つのパラメータとは、静電ポテンシャルと反応物質濃度とである。反応が反応物質を消費するために、反応物質濃度は、貫通流路の注入口からの距離が長くなると減少する。反対に、オームの法則(ohmic)と静電効果とにより、静電ポテンシャルは反対方向に減少する。従って、これら2つのパラメータは反対方向に変化する。電流密度は、これら2つのパラメータが組み合わさった結果、貫通流路に沿ってほとんど一様である。このセルの活性表面は、電気化学的充電及び放電プロセスに一様に寄与する。
【0016】
特有の実施形態においては、各電極の構造体9の主面は1辺24cmの四角であり、構造体9は2cmの厚さを有する。複数の貫通流路は四角の断面を持ち、その1辺は1mmであり、厚さ0.2mmの壁により分離されている。電極の構造体の中に形成された貫通流路の数は、40,000である。電解質に接する各貫通流路の内部表面は0.8cmであり、網状体全体の活性表面は32,000cmである。厚さ0.5cmの枠10を有するセルは、25×25cmであり厚さ6cmである。セルの体積は3,750cmである。2つの電極の活性表面とセルの体積との間の割合は、17cm/cmであり、例えば従来技術によるバイポーラ型電極を有するセルの8.5倍以上である。24×24cmの断面と1cmの厚さを有する従来技術によるセルにおいては、電解質に接する各電極の表面は実際には576cmであり、セルの体積は576cmである。セルの体積全体に亘る2つの電極の活性表面の割合は、この場合、2cm/cmである。従って、本発明によるセルは、同じ体積のバイポーラ型立体構造体を持つセルの8.5倍以上の接触面積を有する。
【0017】
これまで説明したセルの構造体9は、米国特許3825460に記載された方法を用いて製造することが好ましい。従って、図6に示すように、複数の紙の管に、少なくとも1つの炭素ベースの熱硬化樹脂を含浸させ、複数の貫通流路の網状体を備える、樹脂を浸透させた紙の暫定支持体(temporary support)13を形成する。樹脂は炭化(carbonizable)され、例えば熱処理により炭素に改質される。例えば樹脂と混合された硬化剤を用いるもしくは60℃までに加熱することにより、樹脂は硬化される。熱処理は、前記の炭素の網状体を備える構造体に変化させるように行われる。樹脂が含浸した紙の支持体は、市場において低コストであることができ、特に、1から4mmの貫通流路のサイズ(直径又は差し渡り)であって、厚さ約0.1mmの壁を有する。
【0018】
米国特許3825460に記載されたこの炭素構造体は、電極として直接使えるものではない。この構造体の周辺の電流輸送キャパシティ(current-carrying capacity)は、実際には、この構造体で生成される電流すべての集めるためには十分でない。さらに、構造体の側壁は、電気化学セル中に一体化されるための十分な強度を持ってはいない。さらに、構造体の外壁は、電流コレクタを固定するために最適な手段を与えることはない。
【0019】
先に説明したように、このようにして得られた構造体は、その外部側面の周りに形成された頑丈な枠により、強固なものとなる。熱処理を行う前に、少なくとも1つの炭素ベースの熱硬化樹脂を含む、有利には炭素繊維と溶媒とを含む混合物を用いた枠を形成するために、支持体13はモールドに配置される。貫通流路の注入口及び排出口は、混合物が複数の貫通流路に入ってくるのを防ぐために、事前に閉められている。この樹脂は、暫定支持体13に含浸させるために用いたものと同じであることが好ましい。炭素繊維の濃度は変化させることができ、好ましくは用いられる樹脂の重量の1から10%であり、溶媒の濃度は、用いられる樹脂の重量の5から15%に変化させることができる。これらの添加剤は、枠中に欠陥を生ずることなく素早く次の炭化を可能にする。混合物が硬化した後、その枠により覆われた支持体13は、モールドから取り出され、帯鋸またはそれに似た装置を用いて、電極5として要求される厚さにスライスされる(図7)。スライスを行った後、領域11の金属化の工程とセル中に電極5を貼り付ける(固着する)工程とを容易にするために、枠の外面は硬化される。次の工程は、このようにして形成された電極5の熱処理であり、不活性雰囲気中で1000から1100℃の温度にして行われる。この工程の間、構造体9の炭素ベースの樹脂と枠10の混合物の樹脂とは、炭素に変化し、この炭素は伝導性を有し、良好な化学的耐性と機械的強度とを有する。電極形成の最後の工程は、銅による枠の外面の領域11のめっき(electroplating)と、連続した、金属電流コレクタ8の溶接(welding)とである。
【0020】
電極が大きなディメンジョンを有する場合には、構造体9の中央部のオーミック抵抗は、セルのパフォーマンスを限定することができ、スライスすることは構造体中に物理的な欠陥を生じさせる。このような場合、暫定支持体は、複数のブロックに分けられることが好ましい(図5)。複数のブロックの間のモールドに残った空間は、炭素ベースの内枠を形成するために、少なくとも熱硬化樹脂を含む混合物により充填されている。
【0021】
電気化学セルは好ましくは、セルを密閉するようなカバーを備える。図8に示すように、電極5の配置のために、筐体4は好ましくは内部リブ14を備える。リブ14は、例えば、2つの対向する側壁とセルの底部との上に配置される。分離−配置リブ(separator-positioning ribs)の一対は、セパレータを有する電池の場合、付加することができる。セルの密閉工程は、電解質流動を伴う電池の存在のために用いられるものと同様である。
【0022】
このようなセルの利点は、活性表面と体積との間の高い割合であり、高い化学的耐性と機械的強度とを持った炭素構造体を用いることができることである。電極中に運ばれる電流は、改善され、これによってセルの効率が増加する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質流動を伴う電気化学セルであって、前記電気化学セルは、平行で、且つ、平坦な主面を有する少なくとも2つの電極を備え、前記各電極(5;5a、5b)は、前記電極の前記主面と垂直な複数の貫通流路の網状体を有する構造体(9)を備え、
前記構造体(9)は、炭素ベースであり、且つ、炭素ベースの頑丈な枠(10)により囲まれた複数の側面を備える、
ことを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
少なくとも異なる2つの注入口と、少なくとも1つの排出口とを備え、前記各注入口は電極と一体化される、ことを特徴とする請求項1に記載のセル。
【請求項3】
前記枠(10)は、ガラス状炭素から形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のセル。
【請求項4】
前記構造体(9)は、ガラス状炭素から形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のセル。
【請求項5】
前記電極(5)は、炭素ベースの内枠(12)により少なくとも2つの部分に分けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のセル。
【請求項6】
前記枠(10)は、銅によりめっきされ、且つ、溶接により金属電流コレクタ(8;8a、8b)に接続された外面の少なくとも1つの領域(11)を有する、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のセル。
【請求項7】
前記複数の貫通流路の網状体は、蜂の巣の形状であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のセル。
【請求項8】
前記電極を配置するための内部リブ(14)が設けられた筐体(4)を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載のセル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載のセルの製造方法であって、
前記電極の形成は、
− 第1の炭素のベースの熱硬化樹脂を含浸させて、前記複数の貫通流路の網状体を備える暫定支持体(13)を形成し、
− 少なくとも第2の炭素ベースの熱硬化樹脂を備える混合物により、前記暫定支持体(13)の周りに前記枠(10)を成型し、
− 前記混合物を硬化させ、
− 前記複数の電極(5)を形成するようにスライスし、
− 炭素ベースの構造体(9)と炭素ベースの枠(10)とを得るための熱処理を行う、
ことを備えることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
前記暫定支持体(13)は紙から形成されることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記枠(10)を構成する前記混合物は、炭素繊維と不活性溶媒とをさらに備えることを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
銅による前記枠(10)の外面の前記領域(11)のめっきと、金属電流コレクタ(8)の溶接とを連続的に備えることを特徴とする請求項9から11のいずれか1つに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2012−523096(P2012−523096A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503948(P2012−503948)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053750
【国際公開番号】WO2010/115703
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(510225292)コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ (97)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F−75015 Paris, FRANCE
【Fターム(参考)】