説明

電解質膜・電極接合体の製造方法

【課題】電解質と電極層との接合性を向上させることができる電解質膜・電極接合体の製造方法の提供。
【解決手段】まず、台紙フィルム24上にペーストを塗布してカソード電極層14を形成する。次に、電解質膜13と裏付フィルム26を用意し、裏付フィルム26上に、電解質膜13を積層し、さらに、台紙フィルム24上に形成されたカソード電極層14を、電解質膜13とカソード電極層14が接するように積層して、積層方向にホットプレス処理を行う。この裏付フィルム26には、ポリエチレンテレフタラートフィルムなど、アノード電極層12よりも弾性率の大きい部材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜と、電解質膜の一方の面と接合する第1の電極層と、電解質膜の他方の面と接合する第2の電極層とからなる電解質膜・電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池における電気化学反応による発電は、アノード電極層、電解質膜、カソード電極層からなる電解質膜・電極接合体で行われる。固形高分子形燃料電池の場合、電解質膜には、固体高分子材料により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜が用いられる。また、アノード電極層及びカソード電極層には、導電性の担体、例えばカーボンブラックに触媒を担持させた部材が用いられる。
【0003】
かかる構成の電解質膜・電極接合体の製造方法としてホットプレス法がある。その一つの方法は以下の通りである。まず、あらかじめ基材としての台紙フィルム上にアノード電極層、カソード電極層をそれぞれ形成する。次に、別に用意した電解質膜の両端に、台紙フィルムが外側となるようにアノード電極層、カソード電極層を積層する。そして、高温下で積層方向の両端から加圧して、電解質膜と各電極とを接合し、台紙フィルムを剥がして電解質膜・電極接合体を得る。
【0004】
上述のホットプレス法による電解質膜と電極との接合は、相対的に剛性の高い電極層が、相対的に剛性の低い電解質膜に入り込むことによるアンカー効果を主に利用したものである。かかる方法を用いれば、電解質膜・電極接合体を一度のプレス工程で効率的に製造することができる。このようなホットプレス法を利用した電解質膜・電極接合体の製造方法として、例えば、下記特許文献1の技術が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−39474号公報
【0006】
しかしながら、上述の製造方法では、電解質膜と電極層との接合が不十分となる場合がある。例えば、電解質膜の下にアノード電極層を配し、電解質膜の上にカソード電極層を配して、ホットプレス処理を行う際に、アノード電極層の弾性率が小さいと、電解質膜の変形と共に、アノード電極層にも変形が起こる。これにより、電解質膜の変形量が小さくなり、アノード電極層及びカソード電極層が電解質膜に入り込むことによるアンカー効果が不十分となる。
【0007】
このように、電解質膜と電極層との接合性の低い電解質膜・電極接合体を用いた燃料電池は、電解質と電極との接触抵抗が大きいために発電効率が低いという問題があった。特に、カソード電極においては、燃料電池の起動及び停止による冷熱サイクルにおいて、カソード電極層付近に残留する生成水が凍結・膨張と解凍・収縮を繰り返すことによって、電解質膜とカソード電極層との剥離が生じやすいといった耐久性の問題が生じていた。かかる電解質膜と電極層との接合性の問題は、固形高分子形燃料電池の電解質膜・電極接合体に限らず、加圧処理により製造される各種の電解質膜・電極接合体に共通した問題となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の問題を踏まえ、本発明が解決しようとする課題は、電解質膜と電極層との接合性を向上させることができる電解質膜・電極接合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の電解質膜・電極接合体の製造方法は、
電解質膜と、該電解質膜の一方の面と接合する第1の電極層と、前記電解質膜の他方の面と接合する第2の電極層とからなる電解質膜・電極接合体の製造方法であって、
前記第2の電極層よりも弾性率の大きい高弾性率部材と、前記電解質膜と、前記第1の電極層とを用意する工程と、
前記高弾性率部材上に、前記電解質膜を積層し、さらに前記第1の電極層を積層した積層体を形成して、該積層体を積層方向に加圧することで、前記電解質膜と前記第1の電極層とを接合する工程と、
前記電解質膜と前記第1の電極層との接合後に前記高弾性率部材を剥離する工程と
を備えたことを要旨とする。
【0010】
かかる構成の電解質膜・電極接合体の製造方法は、第2の電極層よりも弾性率の大きい高弾性率部材上に電解質膜と第1の電極層とを積層し、加圧することで電解質膜と第1の電極層とを接合するので、接合の際に高弾性率部材が変形しにくい。したがって、電解質膜が十分に変形することができ、当該電解質膜に第1の電極層が十分に入り込むので、第2の電極層の上に電解質膜と第1の電極層とを積層・加圧して接合する場合と比べて、電解質膜と第1の電極層との接合性を高めることができる。なお、本願において、上述の「加圧」とは、加温した状態での加圧を含む概念である。
【0011】
また、かかる構成の電解質膜・電極接合体において、第1の電極層は、カソード電極層としてもよい。このような構成とすれば、電解質膜とカソード電極層との接合性を高めることができる。したがって、かかる電解質膜・電極接合体を用いた燃料電池において、冷熱サイクルによる電解質膜とカソード電極層との剥離を生じにくくして、性能低下を防止することができる。
【0012】
また、かかる構成の電解質膜・電極接合体において、電解質膜は、高弾性率部材上に製膜されたものとしてもよい。このような構成とすれば、電解質膜は、高弾性率部材上に直接製膜されるので、電解質膜と高弾性率部材との間に空隙が生じることを抑えることができる。したがって、電解質膜が十分に変形することができ、当該電解質膜に第1の電極層が十分に入り込むので、電解質膜と第1の電極層との接合性を高めることができる。
【0013】
また、かかる構成の電解質膜・電極接合体において、高弾性率部材は、フィルム形状としてもよい。このような構成とすれば、電解質膜と第1の電極層との接合後に、高弾性率部材を簡単に剥離することができる。
【0014】
また、かかる構成の電解質膜・電極接合体において、高弾性率部材は、高分子フィルムとしてもよい。このような構成とすれば、例えば、金属フィルムが酸性の電解質膜と接触し、金属フィルムの成分がイオン化して電解質膜に移動するなど、高弾性率部材の成分が電解質膜へ移動し、異物として混入することを防止することができる。また、高分子フィルムは、柔軟性に富むので、簡単に剥離することができる。
【0015】
また、かかる構成の電解質膜・電極接合体において、高弾性率部材は、ポリエチレンテレフタラートフィルムとしてもよい。このような構成とすれば、経済的な部材を用いて、電解質膜と第1の電極層との接合性を高めることができる。
【0016】
また、かかる構成の電解質膜・電極接合体において、用意する第1の電極層は、所定の基材上に形成された電極層であり、積層体は、基材が積層体の外側に配置されるように形成され、更に、電解質膜と第1の電極層との接合後に基材を剥離する工程を備えたものとしてもよい。このような構成とすれば、基材上に電極層を形成して、当該電極層と電解質膜とを加圧して接合し、その後、基材を剥離する方法においても、同様に、電解質膜と第1の電極層との接合性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
A.電解質膜・電極接合体の構成:
本発明の実施例にかかる電解質膜・電極接合体10の概略構成を図1に示す。電解質膜・電極接合体10は固形高分子形燃料電池に用いられる発電部材であり、電解質膜13と、その両側に配されるアノード電極層12及びカソード電極層14が接合して構成される。
【0018】
電解質膜13は、固体高分子材料により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。アノード電極層12及びカソード電極層14は、導電性を有する担体上に触媒を担持させることによって形成される層である。本実施例においては、白金触媒を担持したカーボン粒子と、電解質膜13を構成する電解質と同一材質の電解質とから形成されている。
【0019】
B.電解質膜・電極接合体10の製造方法:
B−1.比較例:
まず、比較例としての従来のホットプレス法による電解質膜・電極接合体10の製造方法について、図2を用いて説明する。この方法では、まず、台紙フィルム22,24上にアノード電極層12、カソード電極層14をそれぞれ形成する(ステップS110)。具体的には、アノード電極層12及びカソード電極層14は、例えば、触媒粒子を担持させた炭素粒子及び電解質を適当な溶剤に混合、分散してペーストを調製し、台紙フィルム22,24上に塗布し、溶剤を乾燥・揮発させることで形成できる。
【0020】
なお、台紙フィルム22,24は、アノード電極層12またはカソード電極層14のハンドリング性を向上させるための基材であり、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンなど、種々の高分子フィルムを用いることができる。勿論、紙など、他の材質を用いてもよい。本比較例においては、ポリエチレンテレフタラートを用いた。また、上述の溶剤には、各種アルコール類、エーテル類、ジアルキルスルホキシド類、水またはこれらの混合物等を用いることができる。また、上述の塗布には、スプレー、スクリーン印刷、スピンコータ等、種々の方法を用いることができる。
【0021】
次に、電解質膜13を用意する(ステップS120)。そして、台紙フィルム24上に形成されたカソード電極層14、電解質膜13、台紙フィルム22上に形成されたアノード電極層12を、台紙フィルム24、カソード電極層14、電解質膜13、アノード電極層12、台紙フィルム22の順の並びとなるように積層して、積層方向にホットプレス処理を行う(ステップS130)。
【0022】
ホットプレス処理を行うと、台紙フィルム22,24をそれぞれアノード電極層12、カソード電極層14から剥がす(ステップS140)。こうして、アノード電極層12、電解質膜13、カソード電極層14が接合された電解質膜・電極接合体10が完成する。
【0023】
B−2.実施例:
次に、本発明の実施例としての電解質膜・電極接合体10の製造方法の流れを図3に示す。この方法では、まず、台紙フィルム22,24上にアノード電極層12、カソード電極層14をそれぞれ形成する(ステップS210)。このステップS210は、上記ステップS110と同一の工程であり、台紙フィルム22,24の材質なども同一である。
【0024】
次に、電解質膜13と裏付フィルム26を用意する(ステップS220)。そして、用意した裏付フィルム26上に、電解質膜13を積層し、さらに、台紙フィルム24上に形成されたカソード電極層14を、電解質膜13とカソード電極層14が接するように積層して、積層方向にホットプレス処理を行う(ステップS230)。
【0025】
上述の裏付フィルム26は、電解質膜13とカソード電極層14との接合性を高めるために用いる基材であり、アノード電極層12よりも弾性率の大きい部材が用いられる。望ましくは、フィルム形状、特に高分子フィルム、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリフェニンサルファイド(PPS)などである。裏付フィルム26をフィルム形状とすることで、後述するステップS240において、裏付フィルム26を簡単に剥がすことができる。また、裏付フィルム26に金属フィルムを用いると、裏付フィルム26と接触する電解質膜13は酸性であるので、金属フィルムの成分がイオン化して電解質膜に異物として入り込み、電解質膜・電極接合体10の性能を低下させることがある。裏付フィルム26に高分子フィルムを用いれば、このような性能劣化も防止することができる。また、高分子フィルムは、柔軟性に富むので、簡単に剥がすことができる。本実施例においては、裏付フィルム26は、経済性にも考慮してポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを用いた。
【0026】
ホットプレス処理を行うと、裏付フィルム26を電解質膜13から剥がす(ステップS240)。そして、裏付フィルム26を剥がした電解質膜13の面に、台紙フィルム22上に形成されたアノード電極層12を、電解質膜13とアノード電極層12が接するように積層して、積層方向に再度ホットプレス処理を行う(ステップS250)。
【0027】
2度目のホットプレス処理を行うと、台紙フィルム22,24をそれぞれアノード電極層12、カソード電極層14から剥がす(ステップS260)。こうして、アノード電極層12、電解質膜13、カソード電極層14が接合された電解質膜・電極接合体10が完成する。
【0028】
なお、本実施例においては、上記ステップS24において、裏付フィルム26のみを剥がし、上記ステップS250において、台紙フィルム24を底面にしてホットプレス処理を行ったが、必ずしもこのような態様に限られない。台紙フィルム24の弾性率が小さい場合には、上記ステップS240において台紙フィルム24も剥がし、上記ステップS250において、別に用意された裏付フィルムの上に、接合されたカソード電極層14及び電解質膜13と台紙フィルム22上に形成されたアノード電極層12とを積層して、ホットプレス処理を行うことでもよい。
【0029】
また、本実施例においては、アノード電極層12及びカソード電極層14のハンドリング性を向上させるために、台紙フィルム22,24上に形成したアノード電極層12及びカソード電極層14を用いたが、このような態様に限られるものではない。ハンドリング性が十分に確保できる場合には、台紙フィルム22,24はなくてもよい。
【0030】
また、上記ステップS230及びS250においては、電解質膜13及びカソード電極層14、または電解質膜13及びアノード電極層12を加圧して接合するためにホットプレス処理を用いたが、接合方法は、これに限られるものではない。熱間ロール法など他の熱間圧着法を用いてもよい。もとより、加温条件下でなくとも接合性が十分に確保できる材質が用いられるのであれば、熱間圧着法に限らず、加温せずに圧着させる冷間圧着法であってもよい。
【0031】
B−3.実施例の効果:
図2に示した従来の方法により製造された電解質膜・電極接合体10は、カソード電極層14と同程度の弾性率を有するアノード電極層12の上に電解質膜13を配してホットプレス処理を行い、電解質膜13とカソード電極層14とを接合する。この場合、電解質膜13の変形と共に、アノード電極層12にも変形が起こるので、電解質膜13の変形量が小さくなり、カソード電極層14が電解質膜13に入り込むことによるアンカー効果も比較的小さくなる。
【0032】
一方、図3に示した本発明の方法により製造された電解質膜・電極接合体10は、アノード電極層12よりも弾性率の大きい裏付フィルム26の上に、電解質膜13を配してホットプレス処理を行い、電解質膜13とカソード電極層14とを接合する。この場合、裏付フィルム26は、カソード電極層14よりも弾性率が大きいために、変形しにくいので、図2に示した従来方法と比べて、電解質膜13が大きく変形することができ、当該電解質膜にカソード電極層14が十分に入り込むことができる。すなわち、電解質膜13とカソード電極層14との接合性を高めることができる。かかる方法で製造された電極接合体10は、電解質膜13とカソード電極層14との接触抵抗を小さくできると共に、冷熱サイクルによるカソード電極層14の剥離に対する耐久性を高めることができる。
【0033】
上述した実施例の効果の具体例として、製造方法の違いによる電解質膜13及びカソード電極層14の剥離強度の変化を測定した実験結果の一例を図4に示す。図中の比較例1は、図2に示した従来の製造方法を用いて、電解質膜・電極接合体10を製造した場合である。図3の方法との違いに着目すれば、裏付フィルム26に代えて、台紙フィルム22上に形成されたアノード電極層12を用いたともいえる。ここでのアノード電極層12の弾性率は、1.1GPaである。
【0034】
一方、図中の比較例2、比較例3、実施例1及び実施例2は、いずれも、図3に示した裏付フィルム26を用いる方法で電解質膜・電極接合体10を製造した場合である。裏付フィルム26には、比較例1では、弾性率が0.4GPaのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム、比較例2では、弾性率が0.6GPaのポリエチレン(PE)フィルム、実施例1では、弾性率が1.4GPaのポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、実施例2では、弾性率が2.0GPaのポリフェニンサルファイド(PPS)フィルムを用いている。
【0035】
本実施例において、上述の剥離強度とは、電解質膜13とカソード電極層14との剥離接着強さの測定結果であり、JIS K 6854に準拠したものである。図4において示す各製造方法の剥離強度は、比較例2を1.0として、相対的な値として示している。
【0036】
図4に示すとおり、図2に示した従来の製造方法を用いた比較例1では、電解質膜13及びカソード電極層14の剥離強度は1.0であった。また、図3に示した裏付フィルム26を用いる方法において、裏付フィルム26にアノード電極層12よりも弾性率が小さい部材(PTFEまたはPE)を用いた比較例2及び比較例3では、剥離強度はいずれも1.0であった。一方、図3に示した裏付フィルム26を用いる方法において、裏付フィルム26にアノード電極層12よりも弾性率が大きい部材(PETまたはPPS)を用いた実施例1及び実施例2においては、いずれも剥離強度が1.5であった。以上のように、実施例に示した製造方法により、電解質膜13とカソード電極層14の接合性を大幅に高めることができた。
【0037】
B−4.変形例:
次に、本発明の変形例としての電解質膜・電極接合体10の製造方法の流れを図5に示す。実施例として図3に示した製造方法との違いは、ステップS320及びS330のみである。その他のステップは、図3に示した下2桁の番号が一致するステップと同一の内容であり、説明を省略する。
【0038】
実施例におけるステップS220においては、電解質膜13と裏付フィルム26とを個別に用意したが、本変形例においては、裏付フィルム26上に電解質膜13を形成する(S320)。この工程は、具体的には、上記ステップS110で説明した、台紙フィルム22,24上にアノード電極層12、カソード電極層14をそれぞれ形成する方法と同様の方法により行う。
【0039】
このように、裏付フィルム26上に形成された電解質膜13は、ステップS330において、台紙フィルム24上に形成されたカソード電極層14が、電解質膜13とカソード電極層14が接するように積層され、ホットプレス処理される(ステップS330)。
【0040】
B−5.変形例の効果:
かかる方法で製造された電解質膜・電極接合体10は、電解質膜13が裏付フィルム26上に直接製膜されるので、電解質膜13と裏付フィルム26との間に空隙が生じることを抑えることができる。したがって、上記ステップS330におけるホットプレス処理において、電解質膜13が十分に変形することができ、電解質膜13にカソード電極層14が十分に入り込むので、電解質膜13とカソード電極層14との接合性を高めることができる。
【0041】
上述した変形例の効果の具体例として、製造方法の違いによる電解質膜13及びカソード電極層14の剥離強度の変化を測定した実験結果の一例を図6に示す。図中の比較例1及び実施例1は、図4に示した比較例1及び実施例1と同様の製造方法である(比較例1:裏付フィルム26の使用なし、実施例3:PETの裏付フィルム26を使用)。これに対して、実施例3は、上述の変形例で説明したように、PETの裏付フィルム26上に直接製膜した電解質膜13を用いた場合である。
【0042】
従来の製造方法を用いた比較例1、あるいは、裏付フィルム26にアノード電極層12よりも弾性率が大きい部材(PET)を用いた実施例1においては、図4で示した通り、剥離強度は、それぞれ1.0、1.5であった。一方、裏付フィルム26にPETを用い、さらに、裏付フィルム26上に直接製膜した電解質膜13を用いた実施例3においては、剥離強度は1.7であった。以上のように、変形例の製造方法により、電解質膜13とカソード電極層14の接合性を実施例の方法と比べてさらに高めることができた。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした形態に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明の電解質膜・電極接合体の製造方法は、実施の形態に示した固形高分子形燃料電池用の電解質膜・電極接合体に限るものではない。アンカー効果を利用して電解質膜と電極層とが接合される電解質膜・電極接合体であれば、他の形式の燃料電池、水電解槽、食塩電解槽、塩酸電解槽など、種々の電気化学装置に用いられる電解質・電極接合体の製造方法として構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明にかかる電解質膜・電極接合体10の概略構成である。
【図2】比較例としての従来のホットプレス法による電解質膜・電極接合体10の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例としての電解質膜・電極接合体10の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例の効果の具体例として、製造方法の違いによる電解質膜13及びカソード電極層14の剥離強度の変化を測定した実験結果の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の変形例としての電解質膜・電極接合体10の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【図6】変形例の効果の具体例として、製造方法の違いによる電解質膜13及びカソード電極層14の剥離強度の変化を測定した実験結果の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10...電解質膜・電極接合体
12...アノード電極層
13...電解質膜
14...カソード電極層
22...台紙フィルム
24...台紙フィルム
26...裏付フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、該電解質膜の一方の面と接合する第1の電極層と、前記電解質膜の他方の面と接合する第2の電極層とからなる電解質膜・電極接合体の製造方法であって、
前記第2の電極層よりも弾性率の大きい高弾性率部材と、前記電解質膜と、前記第1の電極層とを用意する工程と、
前記高弾性率部材上に、前記電解質膜を積層し、さらに前記第1の電極層を積層した積層体を形成して、該積層体を積層方向に加圧することで、前記電解質膜と前記第1の電極層とを接合する工程と、
前記電解質膜と前記第1の電極層との接合後に前記高弾性率部材を剥離する工程と
を備えた電解質膜・電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の電極層は、カソード電極層である請求項1記載の電解質膜・電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記電解質膜は、前記高弾性率部材上に製膜された請求項1または請求項2記載の電解質膜・電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記高弾性率部材は、フィルム形状である請求項1ないし請求項3のいずれか記載の電解質膜・電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記高弾性率部材は、高分子フィルムである請求項4記載の電解質膜・電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記高弾性率部材は、ポリエチレンテレフタラートフィルムである請求項5記載の電解質膜・電極接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか記載の電解質膜・電極接合体の製造方法であって、
前記用意する第1の電極層は、所定の基材上に形成された電極層であり、
前記積層体は、前記基材が該積層体の外側に配置されるように形成され、
更に、前記電解質膜と前記第1の電極層との接合後に前記基材を剥離する工程を備えた
電解質膜・電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−293721(P2008−293721A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136132(P2007−136132)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】