説明

電解質膜

【課題】
本発明は、隣接するドメイン間のイオン伝導性能を向上させることで、高いイオン伝導性を維持しながら、複合化した無機物の特徴である膜強度、ガスバリア性を向上させることが可能な電解質膜を提供することである。
【解決手段】
本発明にかかる電解質膜は、イオン伝導性成分及び非イオン伝導性成分からなるブロックコポリマーと、イオン伝導性無機物とを含む電解質膜であり、前記イオン伝導性無機物が、前記ブロックコポリマーが形成するグレイン構造の境界に局在化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解質膜に関し、特に燃料電池に好適に使用される電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子複合電解質膜が多く使用されている燃料電池は、一般に、触媒を有する2つの電極と、電極に挟まれた電解質膜からなる電解質電極接合体(MEA)を発電部として構成される。特に、電解質膜は、電子、ガスを通さずにイオン(プロトン)だけを通すシビアな機能が要求されるため、その開発は容易ではない。
【0003】
現在、各種特性に応じた様々なタイプの電解質膜が開発されており、使用する電解質の種類によって、固体高分子電解質型、リン酸型、アルカリ型、溶融炭酸塩型、及び固体酸化物型等に分類される。中でも、固体高分子型燃料電池は、常温に近い温度で使用でき、電解質膜が固体であるため姿勢変化による電解質の漏洩等がないことから、ノートPC、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の小型電気機器への燃料電池の応用が期待されている。
【0004】
高分子固体電解質膜として、Du Pont社のNafion(ナフィオン(登録商標))膜に代表されるパーフルオロスルホン酸膜が広く一般に用いられている。Nafion膜では、ポリテトラフルオロエチレンからなるマトリックス中にスルホン酸基を有する親水性のイオン伝導チャンネルが膜を貫通して存在し、イオン伝導チャンネルを通してプロトンが拡散・伝導すると報告されている。
【0005】
前記のNafion膜だけでなく、高分子固体電解質膜のイオン伝導については、膜中におけるイオン伝導性成分が形成するチャンネル構造の空間配置が極めて重要である。電解質膜中におけるイオン伝導部位の空間配置を任意に制御できれば、優れたイオン伝導性を示す固体電解質膜を得ることにつながるが、例えばNafion膜の場合、その空間配置を制御することは容易ではない。そのため、イオン伝導チャンネルの空間配置を制御することで優れたイオン伝導性を達成し、かつ、Nafion膜よりも安価な材料が待望されてきた。
【0006】
ナノメートルスケールのチャンネル構造を有する高分子膜を作製する方法として、ブロックコポリマーのミクロ相分離を利用する方法が知られている。
【0007】
2種類以上の鎖状高分子の末端を共有結合で連結したブロックコポリマーは異種高分子間に斥力的な相互作用が働き、同種の高分子鎖同士で凝集し相分離する。しかし、異種高分子鎖間の連結性のためにそれぞれの高分子鎖の広がりより大きな相分離構造を作ることができず、結果としてナノスケールからメソスコピックスケールの周期的な自己組織化構造を作る。ここで得られたナノメートルスケールの周期構造をミクロ相分離構造と呼ぶ。
【0008】
ブロックコポリマーの形成するミクロ相分離構造は、球状構造、シリンダー状構造、共連続構造、及びラメラ状構造などの形状(モルフォロジー)を示す。これらのモルフォロジーは、構成成分の組成や構成成分間に働く斥力相互作用の強弱によって任意にコントロールできる。そのため、ブロックコポリマーのミクロ相分離構造を高分子固体電解質膜として利用すれば、膜中におけるイオン伝導部位の空間配置を任意に制御し、イオン伝導に適した相分離構造を形成させることができる。
【0009】
例えば、前記のシリンダー構造や共連続構造は、ナノメートルスケールのチャンネル構造からなるため、これらをイオン伝導成分からなる高分子により作製すれば、Nafion膜におけるイオン伝導チャンネルと同等の機能を有する膜になることが期待される。実際、特許文献1をはじめとして数多くのブロックコポリマーからなる電解質膜がこれまでに開発されてきた。
【0010】
しかしながら、ブロックコポリマーの形成するミクロ相分離構造は、同一配向を有する領域(グレイン)の集合体(ポリグレイン構造)からなる。さらに、グレイン構造の境界(グレインバウンダリー)においては、例えば、電解質膜として適した構造であるシリンダー構造の場合、隣接するグレイン同士の連続性が全くない。つまり、ブロックコポリマーが形成するミクロ相分離構造を燃料電池用の電解質膜として用いた場合、グレイン構造の境界において、プロトン伝導チャンネルの連続性が大きく低下する。そのため、グレイン構造を持たないNafion等の電解質膜と比較した場合、イオン伝導チャンネルの連続性が十分であるとは言えないのが現状である。
【0011】
例えば、特許文献1では、共連続状のミクロ相分離構造を電解質膜として利用することにより、イオン伝導チャンネルの連続性を向上させる工夫を施していることが記載れている。しかしながら、この場合も、同一グレイン内のイオン伝導チャンネルの連続性が向上する一方で、グレイン構造の境界は必ず存在するため、グレイン構造の境界にて隣接するグレイン間のイオン伝導性が大きく低下する。
【0012】
ブロックコポリマーを用いる限り、グレイン構造の境界が存在することは必然であるが、グレインのサイズそのものを大きくすることにより、膜中のグレイン構造の境界の数を減らすことは可能である。このような高分子膜を電解質膜として用いれば、電解質膜中におけるイオン伝導チャンネルの連続性を確保し、高イオン伝導度を有する電解質膜を開発できることが十分に期待される。
【0013】
例えば、ブロックコポリマーをガラス転移温度以上の温度で熱処理し、ブロックコポリマーが溶融した状態で、せん断ひずみを印加することによりブロックコポリマーのグレインサイズを最大限大きくする方法がある。しかしながら、一般的に、電解質膜として用いるブロックコポリマーはイオン伝導成分(親水成分)と非イオン伝導成分(疎水成分)からなるため、両成分間に強い斥力相互作用が働く。この場合、最適な温度(室温〜150℃)でブロックコポリマーを溶融することができず、試料の分解温度に近い温度或いはそれ以上の温度で熱処理しなければならない。また、熱処理時間は一般的に、数十時間から数日にわたるため、電解質膜の生産性を考慮した場合についても、最良の方法ではない。
【0014】
以上のように、ブロックコポリマーのグレインサイズを大きくすることで、グレイン構造の境界の数を減少させる手法は、膜を得るために膨大な時間を必要とするため現実的な手法とは言えない。さらに、試料を加熱する必要があるため、加熱により容易に溶融しないブロックコポリマーに対しては不向きである。ブロックコポリマーを電解質膜として用いる場合の最大の課題は、グレイン構造の境界においてミクロ相分離構造の連続性が遮断されることである。そのため、グレイン構造の境界が存在してもイオン伝導が低下しない電解質膜が望まれてきた。
【0015】
【特許文献1】特開2003−142125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上のように、ブロックコポリマーは、ミクロ相分離構造の配向の異なる領域、つまりグレインの集合体(ポリグレイン構造)を形成する。そのため、ブロックコポリマーを電解質膜として用いる場合においては、隣り合うグレイン内のミクロ相分離構造同士が全く連結していないことにより、グレイン構造の境界にてイオン伝導性が大きく低下していた。イオン伝導チャンネルの連続性という観点においては、グレイン構造の境界を持たないNafion等の電解質膜と比較し、ブロックコポリマー電解質は十分ではないことが現状である。
【0017】
本発明は、このような技術背景に鑑みてなされたものであり、ブロックコポリマーからなる電解質膜のようにイオン伝導の妨げとなるグレイン構造の境界が存在する場合においても、イオン伝導性能を低下させないことを特徴とする。つまり、イオン伝導性無機物を、グレイン構造の境界に局在化させることで、通常、イオン伝導チャンネルが遮断されるグレイン構造の境界にイオン伝導性を提供し、その結果、隣接するグレイン間のイオン伝導が可能となる。隣接するドメイン間のイオン伝導性能を向上させることで、高いイオン伝導を維持しながら、複合化する無機物の特徴である膜強度、ガスバリア性を向上させることが可能な燃料電池用電解質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電解質膜は、イオン伝導性成分及び非イオン伝導性成分からなるブロックコポリマーと、イオン伝導性無機物とを含む電解質膜であり、前記イオン伝導性無機物が、前記ブロックコポリマーが形成するグレイン構造の境界に局在化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、イオン伝導性無機物をグレイン構造の境界に局在化させ、イオン伝導チャンネルが遮断されるグレイン構造の境界にイオン伝導性を付与することができる。その結果、隣接するグレイン間のイオン伝導が可能となり、隣接するドメイン間のイオン伝導性を向上させることができる。こうして、高いイオン伝導性を維持しながら、複合化した無機物の特徴である膜強度、ガスバリア性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の複合膜の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明のミクロ相分離構造の形成過程を利用した無機層状物質の分散手法の概略図である。
【図3】本発明の実施例1の条件で得られたミクロ相分離構造のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する為に、以下に発明を実施する為の最良の形態を示す。なお、本実施形態は、本発明に係る電解質膜に適用した例であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
本発明にかかる電解質膜は、イオン伝導性成分及び非イオン伝導性成分からなるブロックコポリマーと、イオン伝導性無機物とを含む電解質膜であり、前記イオン伝導性無機物が、前記ブロックコポリマーが形成するグレイン構造の境界に局在化することを特徴とする。なお、本発明において局在化とは、対象物質が均一に分散せず、特定の領域に集中して存在することを意味する。
【0023】
本発明の場合は、イオン伝導性無機物が、ブロックコポリマーが形成するグレイン構造の界面に集中して存在することを意味するが、必ずしも、すべてのイオン伝導性無機物がグレイン構造の界面に存在する必要はなく、一部がグレイン構造の境界部以外に存在しても構わない。具体的には、添加したイオン伝導性無機物のうちの50重量%以上、好ましくは70重量%以上がグレイン構造の界面に存在することを意味する。
【0024】
図1は、本発明の第一実施形態で用いるブロックコポリマーとイオン伝導性無機物が形成するミクロ相分離構造の一例を示す模式図である。図中11は、ブロックコポリマーのシリンダー状ミクロ相分離構造であり、12はイオン伝導性無機物の一例としてイオン伝導性無機層状物質を示す。なお、イオン伝導性無機物として、球状のイオン伝導性シリカなどであってもよい(以下、イオン伝導性無機層状物質をイオン伝導性無機物ということもある)。
【0025】
図中の13は、グレイン構造の境界を、14はグレインを示している。本発明において「グレイン構造の境界」とは、同一配向を有する領域(グレイン)同士の境界となる部分を意味する。シリンダー状ミクロ相分離構造の配向が同一である領域としてのグレイン構造の境界13に、イオン伝導性の無機層状物質12が存在することを特徴とする。通常、グレイン構造の境界においては、隣り合うグレイン内のシリンダー状ミクロ相分離構造同士が全く連結していないため、グレイン構造の境界13にてイオン伝導が大きく低下する。しかしながら、本発明では、グレイン構造の境界13にイオン伝導性の無機層状物質12が存在することによって、イオン伝導チャンネルが遮断されるグレイン構造の境界にイオン伝導性を付与し、その結果、隣接するグレインへのイオン伝導が達成される。
【0026】
まず、本実施形態で用いるブロックコポリマーについて説明する。なお、本発明のブロックコポリマーになる、イオン伝導性成分からなるセグメント(A)とは、イオン伝導性官能基を有するセグメント、非イオン伝導性成分からなるセグメント(B)とは、イオン伝導性官能基を持たないセグメントであることを意味する。そのため、後記するこれらの具体例は、本発明の実施例において用いるスルホン酸含有ブロックコポリマー(ポリスチレン(PS)、ポリエチレンエチレンプロピレン(PEEP)、及びポリスチレン(PS))と同じ作用・効果を奏する。
【0027】
本実施形態では、イオン伝導性成分を有するセグメント(A)と、非イオン伝導性セグメント(B)からなるA−B型のジブロックコポリマーに特記する。しかしながら、A−B型のジブロックコポリマーの一方の高分子鎖の片末端に別の高分子鎖Xが連結したA−B−X型、或いはB−A−X型のブロックコポリマーでも構わない。Xとして、高分子C、C−Dジブロックコポリマー、或いは高分子A、B等が挙げられる。上記高分子C或いはDについてはどのような性質を持つ高分子であれ特に制約されない。
【0028】
さらに、A−B−A型、或いはB−A−B型のトリブロックコポリマーでは、A−B型のジブロックコポリマーと比較して、膜の力学強度が上がるためA−B型のジブロックコポリマーより好ましい。また、本発明におけるブロックコポリマーは、一つの化学結合点に対して複数の異種高分子が連結したスターブロックコポリマー、1本の高分子鎖の側鎖に複数の異種高分子が連結したグラフトコポリマーを含む概念である。また、高分子鎖中のA成分とB成分の組成が勾配を有するグラジエントコポリマーであっても構わない。
【0029】
前記ブロックコポリマーに第三成分を添加しても構わない。例えばブロックコポリマーを構成するポリマー鎖と同じ成分のホモポリマーや、各種の添加剤、例えば可塑剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定剤、色素、架橋剤、各種触媒などを添加してもよい。イオン伝導性を示すA成分としては、イオン交換基を有し、かつ、ブロックコポリマーが合成可能な物質であれば良く、特に限定されるものではない。
【0030】
イオン交換基についても、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。すなわち、イオン交換基は、スルホン酸、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸等のいずれであってもよい。また、これらのポリマーには、1種類のイオン交換基が含まれていてもよく、また、2種以上のイオン交換基が含まれていても良い。
【0031】
スルホン酸基を有する単量体としては、ジエン単量体またはオレフィン系単量体にスルホン酸基が付加したものが好ましい例として挙げられる。具体的には、スルホン酸(塩)基含有スチレン、スルホン酸(塩)含有(メタ)アクリレート、スルホン酸(塩)含有(メタ)アクリルアミド、スルホン酸(塩)基含有ブタジエン、スルホン酸(塩)基含有イソプレン、スルホン酸(塩)基含有エチレン、スルホン酸(塩)基含有プロピレンなどがある。さらに、電解質の膜強度の向上、寸法安定性や、相分離構造の明確化を促す為、これらの単量体にフッ素を導入したもの、エチレンテトラフルオロエチレンスチレンスルホン酸、パーフルオロカーボンスルホン酸系、パーフルオロカーボンホスホン酸、トリフルオロスチレンスルホン酸等を用いてもよい。
【0032】
非イオン伝導部となるB成分についても、ブロックコポリマーを合成可能であり、膜構造を形成することができるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、スチレン誘導体、共役ジエン、ビニルエステル化合物などの単量体から合成される重合体が挙げられる。
【0033】
これらの他にも、疎水性高分子を形成する単量体としては、スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、アルコキシル、ハロゲン、ハロアルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル置換体;2,4−ジメチルスチレン、パラジメチルアミノスチレン、ビニルベンジルクロライド、ビニルベンズアルデヒド、インデン、1−メチルインデン、アセナフタレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルカルバゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−ビニルフルオレン等の重合性不飽和芳香族化合物;
【0034】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチルなどの不飽和モノカルボン酸エステル類;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレートなどのフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;
【0035】
トリメチルシロキサニルジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキサニル)シリルプロピル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロイルプロピルジメチルシリルエーテルなどのシロキサニル化合物類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミン含有(メタ)アクリレート類;クロトン酸2−ヒドロキシエチル、クロトン酸2−ヒドロキシプロピル、ケイ皮酸2−ヒドロキシプロピルなどの不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類;(メタ)アリルアルコールなどの不飽和アルコール類;
【0036】
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などの不飽和(モノ)カルボン酸類;(メタ)アクリル酸グリシジル、α−エチルアクリル酸グリシジル、α−n−プロピルアクリル酸グリシジル、α−n−ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、α−エチルアクリル酸−6,7−エポキシヘプチル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−β−プロピルグリシジル、α−エチルアクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−3−エチル−3,4−エポキシブチル、(メタ)アクリル酸−4−メチル−4,5−エポキシペンチル、(メタ)アクリル酸−5−メチル−5,6−エポキシヘキシル、(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸−3−メチル−3,4−エポキシブチルなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;及びこれらのモノ、ジエステル類;
【0037】
N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミド、N−m−メチルフェニルマレイミド、N−p−メチルフェニルマレイミド、N−o−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−m−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−p−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−m−メトキシフェニルマレイミド、N−p−メトキシフェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−m−クロロフェニルマレイミド、N−p−クロロフェニルマレイミド、N−o−カルボキシフェニルマレイミド、N−p−カルボキシフェニルマレイミド、N−p−ニトロフェニルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−イソプロピルマレイミドなどのマレイミド類や(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニルなどが挙げられるがこれらに限定されない。なお、本発明で用いるエステル置換体としては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、n−ブチルエステル、tert−ブチルエステルなどが好適である。
【0038】
A−Bジブロックコポリマーの分子量については、ミクロ相分離構造が形成される条件において特に制約されるものではない。ただし、分子量が高いほど電解質膜自身の膜強度が上昇するため、ここでは数平均分子量は10,000以上が好ましい。なお、Aの分子量は、3000以上であり、Bの分子量が7000以上であることが好ましい。
【0039】
本実施形態のA−Bジブロックコポリマーの組成比は、A成分が球状ドメインを形成する等、イオン伝導性部位であるA相の連続性が極端に損なわれない限りにおいて、特に限定されるものではない。ただし、Aリッチな体積組成で、A成分が形成するミクロドメイン構造がシリンダー構造や共連続構造のマトリクス部を形成する場合は、加湿環境下において膜構造の安定性が損なわれるため、A成分がマトリクス相を形成しない条件が好ましい。A成分がマトリクス相を形成しない限り、A成分の体積分率がB成分の体積分率を上回っても構わない。また、非イオン伝導性成分であるB成分は、一般に疎水性のため加湿環境下においても膨潤が抑制される。よって、B成分がマトリクス相を形成すると、環境に依存せず膜構造が安定するため好ましい。
【0040】
次に、本実施形態に用いるイオン伝導性無機物質について説明する。本実施形態では、電解質膜としてプロトン伝導性ブロックコポリマーを用いるため、複合化する無機物についても、プロトン伝導性を有する無機物でなければならない。無機物はその組成や結晶構造などに応じて、層状、筒状、粒子状等、種々の粒子形態をとるが、本発明においては、ガスの遮断効果、重量あたりの比表面積の大きさの点において、無機層状物質であることが、特に好適である。
【0041】
本発明でいう「イオン伝導性無機層状物質」の「層状」とは、薄い板状の構造を意味し、同様に「筒状」とは、多角形柱状、円柱状、楕円柱状、等を含む棒状の構造を意味し、「粒子状」とは、球状、多面体状、等を含む粒の構造を意味する。本発明でいう「一次粒子」とは、「層状」の場合、一層の無機層状物質からなる粒子を意味し、「二次粒子」とは、一次粒子が複数層積層している粒子を意味する。「筒状」、「粒子状」の場合、「一次粒子」とは、ひとつの無機物質からなる粒子を意味し、「二次粒子」とは、「一次粒子」が複数個凝集した粒子を意味する。
【0042】
ここでは、アスペクト比(一次粒子径/シート厚み)が20以上であるものを無機層状物質と定義する。一次粒子径、シート厚みに関しては、剥離させた無機層状物質を透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて直接測定すればよいが、シート厚みについては、無機層状物質の化学構造から類推することも可能である。本発明では、前記シート厚みは0.5nmから50nmの範囲にあることが好ましい。
【0043】
本実施形態では、ブロックコポリマーが形成するミクロ相分離構造のグレイン構造の境界間に存在するイオン伝導性無機物が、グレイン間のイオン伝導を担うバイパスとしての機能を果たせばよく、その形状は特に限定しない。本発明のイオン伝導性無機物の構造がイオン伝導性無機層状物質である場合、無機層状物質の一次粒子径が、ブロックコポリマーのミクロ相分離構造の周期長以上であることが好ましい。これは、一次粒子径がミクロ相分離構造の周期長以下の場合は、イオン伝導性無機物が、隣り合うグレイン間に存在するイオン伝導チャンネルをつなぐバイパスとしての機能を果たさないからである。ただし、粒子径がミクロ相分離構造の周期長以下であっても、複数枚の無機層状物質が凝集し、二次粒子径がミクロ相分離構造の周期長以上となる場合はこの限りではない。この場合、複数毎のシート間でのイオン伝導が達成されるため、二次粒子径がミクロ相分離構造の周期長以上となる条件についても本発明に適用できる。一次粒子、或いは二次粒子がミクロ相分離構造の周期長以上であることは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により確認できる。
【0044】
プロトン(カチオン)交換性の無機層状物質として、層状ケイ酸塩鉱物、層状リン酸塩鉱物、層状チタン酸塩鉱物、層状マンガン酸塩鉱物、層状ニオブ酸塩鉱物などが挙げられるが、無機層状物質の化学的、物理的安定性、イオン交換容量の大きさの点から、特に層状ケイ酸塩鉱物が好ましい。
【0045】
層状ケイ酸塩鉱物に属するものとして、例えば、雲母族(白雲母、黒雲母、鉄雲母、金雲母、白水雲母、ソーダ雲母、シデロフィライト、イーストナイト、ポリリシオ雲母、トリリシオ雲母、リチア雲母、チンワルド雲母、マーガライト、イライト、海縁石)、スメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、タルク)、カオリン族(カオリナイト、ハロイサイト)、バーミキュライト、マガディアイト、カネマイト、ケニヤアイトなどが挙げられるが、同様に、構造安定性、イオン交換容量の大きさ点から、特にスメクタイト族が好ましい。またこれらの層状ケイ酸塩鉱物については、天然に存在するものでも、合成して得られたものでも特に限定されない。
【0046】
前記無機層状物質は、層表面が負の電荷を有するため、層間に金属イオン(リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等)を含むことによって電荷のバランスが保たれる。本発明においては、プロトン伝導性を向上させるため、層間の金属イオンに代えてプロトンを用いることがより好ましいものである。これにより、層間の電荷バランスを保つイオン自体が伝導性物質となるのでプロトン伝導性を向上させることができる。
【0047】
層間のプロトン交換については、無機層状物質を塩酸、硫酸、硝酸等の酸性水溶液中で1昼夜撹拌することで、容易に層間の金属イオンがプロトンに交換された無機層状物質を得ることができる。
【0048】
本実施形態においては、無機層状物質の一部をスルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸等、プロトン伝導性能の高い官能基に置換することがさらに好適である。また、無機層状物質の表面の一部はシラノール基により構成されているため、クロロシランやアルコキシシランとのシリル化反応を利用し、無機層状物質に所望の官能基を直接結合させることができる。
【0049】
例えば、有機溶媒中において、無機層状物質と3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを反応させ、メルカプト基を有する無機層状物質を合成し、続いて、メルカプト基を過酸化水素等の酸化剤を用いることでスルホン化すれば、スルホン酸基を有する無機層状物質を合成できる。
【0050】
この場合、有機溶媒中においてシリル化反応を行うため、無機層状物質を疎水化処理させる必要があるが、無機層状物質の層間の金属イオンを界面活性剤で置換することより容易に無機層状物質を疎水化できる。
【0051】
無機層状物質の疎水化に用いる界面活性剤については、例えば、プロピルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン等のアミン系界面活性剤や、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩系界面活性剤を用いることができる。
【0052】
本実施形態では、イオン伝導性の無機層状物質が、イオン伝導性ブロックコポリマーが形成するグレイン構造の境界に局在化することが特徴のため、イオン伝導性ブロックコポリマー中への無機層状物質の分散法が極めて重要である。
【0053】
本発明に係る電解質膜の製造方法は、(1)溶液粘度が100mPa・s以下の無秩序状態のブロックコポリマー溶液を調整するステップと、(2)前記無秩序状態のブロックコポリマー溶液に前記ブロックコポリマーに対して50質量%以下のイオン伝導性無機物を混合するステップと、(3)前記混合物中の溶媒を基板上に塗布し蒸発させることによって電解質膜を製造するステップとからなることを特徴とする。
【0054】
本発明では、ブロックコポリマーが形成するミクロ相分離構造のグレイン構造の境界に無機層状物質を局在化させるためには、前記のようなミクロ相分離構造の構造形成過程を利用すれば良いことを見出した。すなわち、図2に示すように、イオン伝導性無機層状物質22が分散している状態(図2(a))で、無秩序状態からミクロ相分離構造を形成させる。その結果(図2(b))、イオン伝導性無機層状物質22は必然的に、ミクロ相分離構造のグレインの外に追いやられ、最終的にグレイン構造の境界に局在化することになる(図2(c))。なお、図2において、21はブロックコポリマーが形成するシリンダー状ミクロ相分離構造を、22はイオン伝導性無機層状物を、23は無秩序状態のブロックコポリマーを表す。
【0055】
なお、無機層状物質の表面からのエピタキシアル成長によりミクロ相分離構造が無機層状物質に対して平行に配列することもあり、実際に、TEM観察を行っても両成長過程を示唆するデータが得られている。しかしながら、本発明においては膜中のすべての無機層状物質がグレイン構造の境界に局在化する必要は無く、一部の無機層状物質がグレイン構造内に取り込まれても構わない。電解質膜中における無機層状物質の分散状態については、超薄切片のTEM観察により容易に確認が可能である。
【0056】
一般に、ブロックコポリマーは、分子レベルで均一に混合した無秩序状態から、温度や圧力、溶液の濃度を変化させることによりミクロ相分離構造を形成する。無秩序状態からのミクロ相分離構造の形成過程については、核生成・成長のメカニズムにより進行することがわかっている。核生成・成長のメカニズムに従いブロックコポリマーのミクロ相分離構造が生成・成長し、最終的に、配向の異なるグレインの集合体(ポリグレイン構造)を形成する。
【0057】
ブロックコポリマーの無秩序状態を得るためには、無秩序状態を形成する温度以上で該当するブロックコポリマーを熱処理するか、或いは、ブロックコポリマーを有機溶媒に溶解させ無秩序状態を形成する濃度以下のポリマー溶液を作製すれば良い。イオン伝導成分と非イオン伝導成分からなるブロックコポリマーのように、両成分間に強い斥力相互作用が働く場合は、無秩序状態を得られる温度が、試料の分解温度以上になることが多い。そのため、本発明においては、溶液中で無秩序状態を作製することが好適である。
【0058】
溶液中においてブロックコポリマーが無秩序状態であることを確認するためには、溶液の小角X線、或いは、中性子散乱測定を行い、無秩序状態を示唆する散乱プロファイルが得られれば良い。また、溶液中でミクロ相分離構造が発現した場合は、溶液粘度が急激に上昇するため、一般に溶液粘度が100mPa・s以下であれば、無秩序状態であると判断しても構わない。
【0059】
ブロックコポリマー電解質膜中における無機層状物質の含有量については、無機層状物質が、ミクロ相分離構造の形成を阻害し、イオン伝導性能の妨げにならない限りにおいて、特に限定されない。ただし、本発明に用いるイオン伝導性無機層状物質は水分子を層間に吸収することにより膨潤するため、燃料電池として使用する際の妨げとなる。よって、無機層状物質の含有量はブロックコポリマーの重量に対して、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましい。これは、50重量%を超えた場合、逆にイオン伝導性能が低下するからである。
【0060】
無機層状物質が分散した高分子溶液から電解質膜を作製するためには、一般的に、ブロックコポリマーと無機層状物質からなる混合溶液を基板上に塗布し、溶媒を蒸発させればよい。この際、塗布する方法としては、バーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレー法、キャスト法などの塗布手段を用いることができる。
【0061】
成膜時に用いる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール等、或いは、前記の溶媒を2種類以上混合した混合溶媒等が挙げられる。
【0062】
成膜に用いる溶媒によっては、ブロックコポリマー溶液中で無機層状物質が十分に分散せずに無機層状物質同士が凝集する可能性があるため、超音波洗浄機やホモジナイザーを用いることで無機層状物質の分散性を向上させることが好ましい。
【0063】
前記の溶媒、或いは混合溶媒を用いて製膜する場合、製膜する際に、乾燥空気、窒素、アルゴン等、水分のない条件下、混合溶媒の混合比を精密に制御することによって、ブロックコポリマーのモルフォロジーの制御が容易となる。また、ブロックコポリマーのイオン伝導成分や、無機層状物質の層間にも水分子が含まれているため、これらを使用する前に、十分に減圧乾燥し、層間の水分子を可能な限り除去することが好ましい。
【0064】
本発明のブロックコポリマーのモルフォロジーは、球状構造、シリンダー状構造、共連続構造、及びラメラ状構造などからなることができる。電解質膜として用いた場合の膜膨潤の観点から、ブロックコポリマーのイオン伝導成分がシリンダー状ミクロ相分離構造もしくは共連続状のミクロ相分離構造を有することができる。また、非イオン伝導成分がシリンダー状ミクロ相分離構造のマトリクス相を、或いは、共連続状のミクロ相分離構造のマトリクス相を有することができる。
【0065】
共連続状のミクロ相分離構造については、例えば、ポリスチレンとポリイソプレンからなるブロックコポリマーの場合は、ポリスチレンとポリイソプレンの体積比が32/68〜35/65と非常に狭い領域においてしか出現しない特殊な構造である。そのため、ブロックコポリマーの重合組成比,製膜溶媒の選択を厳密に行う必要がある。
【0066】
ブロックコポリマーと無機層状物質からなる複合膜においては、製膜時に無機層状物質の層間に含まれる水の影響を受けるため、モルフォロジーの制御を容易にするため、本発明は、シリンダー状ミクロ相分離構造を利用することが好ましい。
【0067】
また、シリンダー状ミクロ相分離構造においては、隣接するドメイン内のシリンダー構造同士がグレイン構造の境界において完全に遮断される。そのため、ラメラ状のミクロ相分離構造のように、グレイン構造の境界の一部において、隣接グレイン内のラメラ状のミクロ相分離構造同士がScherk‘s Surfaceと呼ばれる連続性を有する最小曲面構造を形成しない。よって、シリンダー状ミクロ相分離構造を用いる場合に、グレイン構造の境界に局在化させるイオン伝導性無機層状物質の効果が最も得られる。
【0068】
本発明で得られた高分子複合膜中に展開されるミクロ相分離構造は、製膜直後に出現する非平衡構造である。そのため、製膜後のフィルムに対して十分な熱処理を行いミクロ相分離構造が平衡状態に達すると、ブロックコポリマーの組成比に従い、球状構造、シリンダー状構造、共連続構造、ラメラ状構造などの秩序性の高いミクロ相分離構造に転移する。さらに、加熱処理等によりグレイン構造の境界に存在していた無機層状物質についても、無機層状物質とブロックコポリマーの各成分間に引力或は斥力相互作用が働き、ミクロ相分離構造が無機層状物質に対して平行に配列する。そのため、グレイン構造の境界間のイオン伝導を担うバイパスとしての役割を果たせなくなる恐れがある。
【0069】
そこで、一方の成分を架橋し、分子鎖の運動を抑制することで構造の転移を防ぐことが好ましい。イオン伝導成分、非イオン伝導成分のいずれを架橋しても構わないが、イオン伝導成分を架橋した場合は、分子鎖の運動が架橋構造によって拘束されるため、イオン伝導を妨げる可能性がある。よって、本発明においては、非イオン伝導成分のみを選択的に架橋することが好適である。
【0070】
(膜電極接合体及び燃料電池)
前記した本発明に係る電解質膜の両面に、2つの触媒層を配置することにより、本発明の一形態である膜電極接合体を作製することができる。本発明に係る燃料電池は前記膜電極接合体と膜電極接合体を挟んで存在する2つのガス拡散層を有することを特徴とする。
【0071】
ここで、触媒層は触媒活性を有する物質を少なくとも有する。なお、触媒活性を有する物質が単体で存在できない場合には、担持体に触媒活性物質を担持させることで触媒層としても良い。触媒活性物質が単体で存在する例としては、スパッタ法により形成した樹枝状形状の白金触媒などが挙げられる。一方、担持体に触媒活性物質が担持される例としては、白金担持カーボン粒子などが挙げられる。なお、触媒層にはカーボン粒子などの電子伝導体やプロトン伝導体(高分子電解質材料)が含まれていても良い。触媒層は電解質膜の表面に接触して一体化していても良いが、触媒層が電解質膜と接しており水素イオン等の化学種の受け渡しが可能であれば、膜電極接合体として一つに形成する必要はない。
【0072】
また、ガス拡散層は、ガス拡散、透水、保湿、集電等の機能を有する。すなわち、電極反応を効率良く行わせるために燃料ガスや酸化剤ガスを触媒の反応領域へ均一かつ充分に供給すること、過剰な反応生成水を触媒層から効率良く排出すること、固体高分子電解質膜の乾燥を防止すること、さらに電極反応によって生じる電荷をセル外部に効率的に取り出すこと等が求められる部材である。これらの要求を満足させるために、通常、ガス拡散層は、支持層と支持層よりも平均細孔径が小さいマイクロポーラス層との二層によって構成されている。支持層は100nm以上90μm以下の細孔径分布を有する導電性の炭素基材で構成されることが好ましく、撥水処理が施されたカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン不織布等を用いることができる。また、マイクロポーラス層は、種々の炭素微粒子と撥水剤とからなり、1nm以上900nm以下の細孔径分布を有するように支持層上に形成されることが好ましい。
【0073】
膜電極接合体は、本発明に係る電解質膜と、それを挟んで対向する触媒電極(アノード及びカソード)から構成され、前記触媒電極は触媒層を有する。この膜電極接合体の作製方法としては、特に制限はなく、公知の技術を用いることができ、例えば、白金、白金−ルテニウム合金、あるいはその微粒子をカーボンなどの担持体上に分散担持させたものを触媒とするガス拡散電極を電解質膜に直接形成する方法、ガス拡散電極と電解質膜をホットプレスする方法、あるいは、接着液により接合する方法などの方法により作製できる。
【0074】
また、本発明に係る電解質膜及び前記膜電極接合体を用いて、公知の手法により燃料電池を作製することができる。前記燃料電池の構成の一例としては、前記膜電極接合体、前記膜電極接合体を挟持する一対のセパレータ、セパレータに取り付けられた集電体及びパッキンとを備える構成が挙げられる。アノード極側のセパレータにはアノード極側開口部が設けられ、水素、メタノール等のアルコール類のガス燃料または液体燃料が供給される。一方、カソード極側のセパレータにはカソード極側開口部が設けられ、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例における、寸法、形状、材質、プロセス条件等は本発明の一例であり、本発明の技術的範囲を満たす範囲内であれば、設計事項として任意に変更することができるものである。
【0076】
(合成例1)スルホン酸含有(ポリスチレン(PS)−ポリエチレンエチレンプロピレン(PEEP)−ポリスチレン(PS))トリブロックコポリマーの合成
ブロックコポリマーとして、PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー(組成比:PS/PEEP=30/70)を用いた。分子量をGPC(Gel Permeation Chromatography)により確認した結果、Mn=64,600、Mw/Mn=1.06であった。
【0077】
PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー2gをジクロロメタン80mlに溶解し、40℃に維持した。続いて、無水酢酸3.3mlと濃硫酸1.3mlを0℃で混合攪拌し、アセチルサルフェート溶液を作製した。得られたアセチルサルフェート溶液をPS−PEEP−PSトリブロックコポリマーのジクロロメタン溶液に徐々に滴下し、50℃で6時間攪拌した。メタノール5mlを反応溶液中に滴下し、反応を停止した。生成物は水とメタノールを用い洗浄後、乾燥することによってスルホン酸含有PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーを得た。試料のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、スチレンユニットに対して16mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。
【0078】
(合成例2)H−モンモリロナイトの作製
月布産モンモリロナイト5gを1Nの塩酸500ml中で24時間攪拌した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、再び水中に分散させた。遠心分離による再沈殿と水による洗浄を2回繰り返すことで、層間のナトリウムイオンをプロトンで置換したH−モンモリロナイトを作製した。
【0079】
(合成例3)H−サポナイトの作製
合成サポナイト5gを1Nの塩酸500ml中で24時間攪拌した。反応後、10000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み液を除去後、再び水中に分散させた。遠心分離による再沈殿と水による洗浄を2回繰り返すことで、層間のナトリウムイオンをプロトンで置換したH−サポナイトを作製した。
【0080】
(合成例4)スルホン化モンモリロナイトの作製
水1.8ml、35%塩酸100μL、エタノール10mlの混合溶液中にメルカプトプロピルトリメトキシシラン2mlを徐々に滴下し、50℃で1時間攪拌した。得られた溶液は、H−モンモリロナイト10gをエタノール60ml中に分散させた溶液と混合し、70度で13時間攪拌した。合成したメルカプト基を有するモンモリロナイト10gをエタノール40mlと過酸化水素10mlの混合溶液中、70℃で2時間攪拌することにより、メルカプト基をスルホン酸基に置換し、スルホン化モンモリロナイトを得た。
【0081】
(実施例1)スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー/H−モンモリロナイト複合膜
合成例1で得たスルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーをTHFに溶解し5重量%の溶液を得た。続いて、合成例2で得たH−モンモリロナイトをメタノール中に分散させ2.5重量%の分散液を得た。得られたH−モンモリロナイトのメタノール分散液は、超音波洗浄機を用いさらに十分に分散させた。スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーのTHF溶液とH−モンモリロナイトのメタノール分散液を4:1の混合比で混合した。そして、スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー90重量%とH−モンモリロナイト10重量%とからなる混合液を得た。続いて、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0082】
得られた複合膜内部の透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果を図3に示す。溶媒キャスト法により得られたフィルムをクライオミクロトームによりフィルムの超薄切片を切り出し、リンタングステン酸1重量%水溶液を用い前記切片に対し電子染色を施した。本染色法では、水溶性であるスルホン化PS成分が暗く観察されるため、スルホン酸基を有する成分が、シリンダー状ミクロ相分離構造を形成していることが確認された。同様に、H−モンモリロナイトもSi、Al、Mg等、PEEP成分と比較して重い元素により構成されているため、TEM観察した際には、PEEP相よりも暗く観察される。図3にて、シリンダー状ミクロ相分離構造の配向が異なる領域の境界に、暗く観察されるH−モンモリロナイトが存在していることを確認できた(図3:点線で囲んだ領域)。以上の結果より、H−モンモリロナイトは、シリンダーグレインのグレイン構造の境界に存在していることが確認された。
【0083】
続いて、四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は1.86×10−2S・cm-1であった。
【0084】
H−モンモリロナイトを混合していないスルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー膜(比較例1)と比較し、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は0.98倍であった。
【0085】
(実施例2)スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー/H−サポナイト複合膜
合成例1で得たスルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーをTHFに溶解し5重量%の溶液を得た。続いて,合成例3で得たH−サポナイトをメタノール中に分散させ2.5重量%の分散液を得た。得られたH−サポナイトのメタノール分散液は、超音波洗浄機を用いさらに十分に分散させた。スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーのTHF溶液とH−サポナイトのメタノール分散液を4:1の混合比で混合した。そして、スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー90重量%とH−サポナイト10重量%からなる混合液を得た。続いて、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0086】
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は1.84×10−2S・cm-1であった。
【0087】
H−サポナイトを混合していないスルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー膜(比較例1)と比較し、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は0.97倍であった。
【0088】
(実施例3)スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー/スルホン化モンモリロナイト複合膜
合成例1で得たスルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーをTHFに溶解し5重量%の溶液を得た。続いて、合成例3で得たスルホン化モンモリロナイトをメタノール中に分散させ2.5重量%の分散液を得た。得られたスルホン化モンモリロナイトのメタノール分散液は、超音波洗浄機を用いさらに十分に分散させた。スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーのTHF溶液とスルホン化モンモリロナイトのメタノール分散液を4:1の混合比で混合した。そして、スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー90重量%とスルホン化モンモリロナイト10重量%からなる混合液を得た。続いて、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0089】
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は3.54×10−2S・cm-1であった。
【0090】
スルホン化モンモリロナイトを混合していないスルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー膜(比較例1)と比較し、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は1.87倍であった。
【0091】
(比較例1)スルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマー膜
合成例1で得たスルホン化PS−PEEP−PSトリブロックコポリマーをTHFとメタノールを4:1の割合で混合した混合溶媒に溶解し5重量%の溶液を準備し、窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0092】
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は1.89×10−2S・cm-1であった。
【0093】
(比較例2)Nafion膜
Nafion5重量%溶液(登録商標、デュポン社製)を準備し、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0094】
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は5.88×10−2S・cm-1であった。
【0095】
(比較例3)Nafion/H−モンモリロナイト複合膜
Nafion5重量%溶液(登録商標、デュポン社製)を準備した。続いて,合成例2で得たH−モンモリロナイトを水中に分散させ2.5重量%の分散液を得た。得られたH−モンモリロナイトの分散液は、超音波洗浄機を用いさらに十分に分散させた。Nafion溶液とH−モンモリロナイトの分散液を4:1の混合比で混合し、Nafion90重量%とH−モンモリロナイト10重量%からなる混合液を得た。続いて、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0096】
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は1.48×10−2S・cm-1であった。スルホン化モンモリロナイトを混合していないNafion膜(比較例2)と比較し、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は0.25であった。
【0097】
(比較例4)Nafion/スルホン化モンモリロナイト複合膜
Nafion5重量%溶液(登録商標、デュポン社製)を準備した。続いて,合成例4で得たスルホン化モンモリロナイトを水中に分散させ2.5重量%の分散液を得た。得られたスルホン化モンモリロナイトの分散液は、超音波洗浄機を用いさらに十分に分散させた。Nafion溶液とスルホン化モンモリロナイトの分散液を4:1の混合比で混合し、Nafion90重量%とスルホン化モンモリロナイト10重量%からなる混合液を得た。続いて、混合液を窒素雰囲気下中において溶媒キャスト法により製膜した。製膜後のフィルムの膜厚は40μmであった。
【0098】
四端子法により交流インピーダンス測定(電圧振幅5mV、周波数1Hzから1MHz)を行い、求めた抵抗値より、電解質膜の膜面方向の導電率を算出した。その結果、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は2.84×10−2S・cm-1であった。スルホン化モンモリロナイトを混合していないNafion膜(比較例2)と比較し、温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度は0.48倍であった。
【0099】
(実施例4)膜−電極接合体、及び燃料電池セルの作製方法の一例を以下に示す。
触媒粉末として、HiSPEC1000(登録商標、ジョンソン&マッセイ社製)を使用し、電解質溶液としてはNafion溶液(登録商標、デュポン社製)を使用した。まず、触媒粉末と電解質溶液の混合分散液を作製し、ドクターブレード法を用いてPTFE(polytetrafluoroethylene)シート上に成膜し、触媒シートを作製した。次に、作製した触媒シートをデカール法によって、120℃、100kgf/cm2で、実施例3で得た電解質膜上にホットプレス転写し、膜−電極接合体を作製した。さらに、その膜−電極接合体をカーボンクロス電極(E−TEK社製)で挟持した後、集電体で挟んで締結し、燃料電池を作製した。
【0100】
作製した燃料電池を用いて、アノード側に水素ガスを注入速度300ml/分で、カソード側には空気を供給し、セル出口圧力を大気圧、相対湿度をアノード、カソードともに50%、セル温度を50℃とした。電流密度400mA/cmで定電流測定を行ったところ、セル電位は720mVであり、100時間後においても安定した特性を保っていた。
【0101】
実施例1〜3と比較例1〜4について、それぞれの電解質膜の温度50℃、相対湿度80%におけるイオン伝導度を表1にまとめた。
【0102】
【表1】

【0103】
表1の結果から次のことがわかる。まず、実施例1〜3と比較例1とを比較すると、イオン伝導性無機層状物質を含有することにより、イオン伝導性がほぼ同じもしくは上がることがわかる。また、無機物を含有するので膜強度、ガスバリア性が向上する。一方、実施例1と比較例3との比較、実施例3と比較例4との比較から、実施例に係る電解質膜の方がより高いイオン伝導性を有することがわかる。さらに、bcpはNafionよりもガスバリア性が高いことが知られている。
以上により、本発明に係る電解質膜は高いイオン伝導性を維持しながら、膜強度、ガスバリア性を向上させることができることがわかる。
【符号の説明】
【0104】
11:ブロックコポリマーが形成するシリンダー状ミクロ相分離構造
12:イオン伝導性無機層状物質
13:グレイン構造の境界
14:グレイン
21:ブロックコポリマーが形成するシリンダー状ミクロ相分離構造
22:イオン伝導性無機層状物
23:無秩序状態のブロックコポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性成分及び非イオン伝導性成分からなるブロックコポリマーと、イオン伝導性無機物とを含む電解質膜であり、前記イオン伝導性無機物が、前記ブロックコポリマーが形成するグレイン構造の境界に局在化することを特徴とする電解質膜。
【請求項2】
前記イオン伝導性無機物が、イオン伝導性無機層状物質であることを特徴とする請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記イオン伝導性無機層状物質の層間の金属イオンが、プロトンに置換されていることを特徴とする請求項2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記イオン伝導性無機物の一次粒子径、或いは、二次粒子径が、前記ブロックコポリマーが形成するミクロ相分離構造の周期長よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項5】
前記イオン伝導性成分と非イオン伝導性成分からなるブロックコポリマーにおいて、イオン伝導成分がシリンダー状ミクロ相分離構造を、非イオン伝導成分が前記シリンダー状ミクロ相分離構造のマトリクス相を形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の電解質膜と、前記電解質膜を挟んで存在する2つの触媒層とを有することを特徴とする膜電極接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟んで存在する2つのガス拡散層とを有することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−257803(P2010−257803A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107192(P2009−107192)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】