説明

電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法

【課題】相対的に高いイオン伝導度、及び/又は、含水時における相対的に小さな膨潤率を有する電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】固体高分子電解質及びカチオン分子を第1の溶媒に溶解させ、アニオン・カチオンコンプレックスを形成するコンプレックス形成工程と、前記アニオン・カチオンコンプレックスが形成された固体高分子電解質及び非電解質高分子を第2の溶媒に溶解させる非電解質溶解工程と、前記非電解質溶解工程で得られた溶液をキャスト製膜し、膜を得る製膜工程と、前記膜から前記カチオン分子の80%以上を除去する除去工程とを備えた電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法、及び、このような方法により得られる電解質/非電解質ブレンド膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、固体高分子型燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜として好適な電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層内電解質)との複合体からなる。
【0003】
このようなMEAを構成する電解質膜あるいは触媒層内電解質には、耐酸化性に優れた炭化フッ素系電解質(例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成(株)製)、フレミオン(登録商標、旭硝子(株)製)等。)を用いるのが一般的である。また、炭化フッ素系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質の使用も検討されている。
【0004】
最近、芳香族ポリアリーレンエーテルケトン類や芳香族ポリアリーレンエーテルスルホン類などの芳香族ポリアリーレンエーテル化合物は、燃料電池用高分子電解質膜としての有望な骨格構造と考えられている。例えば、非特許文献1には、ポリアリールエーテルスルホンをスルホン化したものが開示されている。また、特許文献1には、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したものが開示されている。しかし、これらの高分子電解質膜は、プロトン伝導度は高い性能を示すが、高湿条件になると膜の膨潤が大きいので、燃料電池用電解質としての使用が困難となる欠点を有している。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、非特許文献2、3には、酸性基含有ポリマを塩基性ポリマとブレンドした電解質膜が開示されている。同文献には、高分子鎖間の酸・塩基化学架橋により、高湿下での電解質膜の膨潤が抑制される点が記載されている。
また、非特許文献4には、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とポリエーテルスルホン(PES)のブレンド膜が開示されている。同文献には、2種類のポリマをブレンドすると、乾燥状態において高い可撓性を示し、かつ、形状安定性が向上する点が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−93114号公報
【非特許文献1】Journal of Membrane Science, 1993, vol.83, 221
【非特許文献2】Solid State Ionics, 1999, vol.125, 243
【非特許文献3】Journal of Applied Polymer Science, 1999, vol.74, 67
【非特許文献4】Journal of Membrane Science, 2001, vol.18b, 29
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高分子鎖間を酸・塩基化学架橋させる方法は、含水時における電解質膜の膨潤を抑制する方法、あるいは、膜の強度を向上させる方法として有効である。しかしながら、この方法は、電解質中のプロトン酸基を介して架橋が行われるので、塩基性ポリマの混合割合が増すほど、電解質膜のイオン伝導度が低下する欠点を有している。
また、電解質と非電解質とを共通溶媒を用いて単純ブレンドする方法でも、電解質膜の膨潤をある程度抑制することができる。しかしながら、電解質と非電解質とを単にブレンドする方法では、電解質内に数μメートル以上の粗大な非電解質が分散した状態となる。さらに、電解質と非電解質の両者を溶解させることができる溶媒は限られているので、電解質及び非電解質の種類によっては、ブレンド膜自体が得られない場合がある。そのため、この方法による膜平面方向の膨潤の抑制、あるいは、強度の向上には、限界がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、相対的に高いイオン伝導度、及び/又は、含水時における相対的に小さな膨潤率を有する電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする課題は、相対的に高いイオン伝導度、含水時における相対的に小さな膨潤率、及び/又は、相対的に高い強度を有する電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このような特性を有する電解質/非電解質ブレンド膜を容易に製造することが可能な電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法は、固体高分子電解質及びカチオン分子を第1の溶媒に溶解させ、アニオン・カチオンコンプレックスを形成するコンプレックス形成工程と、前記アニオン・カチオンコンプレックスが形成された固体高分子電解質及び非電解質高分子を第2の溶媒に溶解させる非電解質溶解工程と、前記非電解質溶解工程で得られた溶液をキャスト製膜し、膜を得る製膜工程と、前記膜から前記カチオン分子の80%以上を除去する除去工程とを備えていることを要旨とする。
また、本発明に係る電解質/非電解質ブレンド膜は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
【発明の効果】
【0010】
固体高分子電解質及びカチオン分子を第1の溶媒に溶解させると、プロトン酸基のプロトンとカチオン分子とがイオン交換し、アニオン・カチオンコンプレックスが形成される。アニオン・カチオンコンプレックスは、プロトン酸基を疎水化させ、非電解質高分子との相溶性を向上させる作用がある。そのため、アニオン・カチオンコンプレックスが導入された固体高分子電解質と非電解質高分子とを第2の溶媒に溶解させ、この溶液をキャスト製膜すると、島サイズ1μm以下の相分離構造若しくは均一(相溶)構造を有するブレンド膜が得られる。さらに、得られた膜からカチオン分子の80%以上を除去すると、アニオン・カチオンコンプレックスの80%以上がプロトン酸基に戻ると同時に、膜内にはカチオン分子相当の大きさを有する相対的に大きなプロトン伝導パスが形成される。そのため、得られた電解質/非電解質ブレンド膜は、含水時における相対的に小さな膨潤率、相対的に高い強度、及び/又は、相対的に高いイオン伝導度を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る電解質/非電解質ブレンド膜は、固体高分子電解質と、非電解質高分子との混合物からなる。
【0012】
本発明において、固体高分子電解質は、特に限定されるものではなく、炭化フッ素系電解質又は炭化水素系電解質のいずれであっても良い。
ここで、「炭化フッ素系電解質」とは、全フッ素系電解質又は部分フッ素系電解質をいう。
「全フッ素系電解質」とは、ポリマ骨格中にC−F結合を含み、C−H結合を含まないものをいう。本発明において、「全フッ素系電解質」というときは、ポリマ骨格中に、C−F結合以外の構造(例えば、−O−、−S−、−C(=O)−、−N(R)−等。但し、「R」は、アルキル基。)を有するものも含まれる。
「部分フッ素系電解質」とは、ポリマ骨格中にC−F結合とC−H結合の双方を含むものをいう。
「炭化水素系電解質」とは、ポリマ骨格中にC−H結合を含み、C−F結合を含まないものをいう。
本発明に係るブレンド膜には、これらのいずれか1種の電解質のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0013】
これらの中でも、固体高分子電解質は、芳香環及び複素環の少なくとも一方を有する重合体からなり、芳香環及び複素環のいずれか1以上にプロトン酸基が結合しているものが好ましい。
このような固体高分子電解質としては、
(1) ポリアリーレン系重合体(例えば、ポリエーテル系、ポリケトン系、ポリスルホン系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルエーテルスルホン系、ポリフェニレンオキシド系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリフェニレンスルホキシド系、ポリエーテルケトンケトン系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系)を含み、重合体に含まれる芳香環及び複素環のいずれか1以上にプロトン酸基が結合しているもの、
(2) ポリアゾール系重合体(例えば、ポリベンゾイミダゾール系、ポリベンゾチアゾール系、ポリベンゾオキサゾール系)を含み、重合体に含まれる芳香環及び複素環のいずれか1以上にプロトン酸基が結合しているもの、
が挙げられる。
また、プロトン酸基としては、スルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸が挙げられ、これらの中でもスルホン酸が最も好ましい。
【0014】
ポリアリーレン系構造の繰り返し構成単位を含む重合体(ポリアリーレン系重合体)を含む固体高分子電解質は、具体的には、式(1)に示すものが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
式(1)中、X1、X2、及びX3は、それぞれ、単結合、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンチル基などからなる。これらの基の内、フェニル基、ナフチル基が好ましい。また、ポリマーユニット全体の20〜100%のユニットに含まれるX1、X2、X3の1種以上には、プロトン酸基が結合している。
A、B及びCは、2価の単結合又は有機基を示す。具体的には、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2)−、−C(CF2)2−、−(CH2)−、−C(CH2)2−、−O−、−S−、−CH=CH−、−C≡C−などが挙げられる。
nは、10〜10000の整数を示す。
【0017】
また、ポリアゾール系構造の繰り返し構成単位を含む重合体(ポリアゾール系重合体)を含む固体高分子電解質は、具体的には、式(2)に示すものが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
式(2)中、X4は、O、S、N原子のいずれかを表す。また、X5は、単結合、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンチル基を表す。また、ポリマーユニット全体の20〜100%のユニットに含まれるX5又はベンズアゾール基中の芳香環及び/又は複素環には、プロトン酸基が結合している。
【0020】
本発明において、「非電解質高分子」とは、高分子鎖内にプロトン酸基を有しない高分子化合物をいう。非電解質高分子は、炭化フッ素系高分子又は炭化水素系高分子のいずれであっても良い。
ここで、「炭化フッ素系高分子」とは、全フッ素系高分子又は部分フッ素系高分子をいう。
「全フッ素系高分子」とは、ポリマ骨格中にC−F結合を含み、C−H結合を含まないものをいう。本発明において、「全フッ素系高分子」というときは、ポリマ骨格中に、C−F結合以外の構造(例えば、−O−、−S−、−C(=O)−、−N(R)−等。但し、「R」は、アルキル基。)を有するものも含まれる。
「部分フッ素系高分子」とは、ポリマ骨格中にC−F結合とC−H結合の双方を含むものをいう。
「炭化水素系高分子」とは、ポリマ骨格中にC−H結合を含み、C−F結合を含まないものをいう。
本発明に係るブレンド膜は、これらのいずれか1種の非電解質のみが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0021】
これらの中でも、非電解質高分子は、上述したポリアリーレン系重合体であって、プロトン酸基を含まないものが好ましい。
【0022】
本発明に係る方法を用いて固体高分子電解質と非電解質高分子とをブレンドすると、単純ブレンドの場合と比較して、小サイズの相分離構造若しくは均一(相溶)構造が得られる。「相分離構造」とは、固体高分子電解質内に非電解質高分子からなる島状の粒子が分散している構造をいう。後述する方法を用い、かつ、組成を最適化すると、固体高分子電解質内に、島サイズ径が1μm以下である非電解質高分子が分散している相分離構造が得られる。
本発明に係るブレンド膜は、このような構造を備えているので、固体高分子電解質のみからなる膜に比べて、膜平面方向の膨潤率が小さい。ここで、「膜平面方向の膨潤率」とは、絶乾状態の膜に対する、25℃の水中に一晩浸漬した後の膜の平面方向の寸法の変化率をいう。組成、後述する製造条件等を最適化すると、膨潤率が、固体高分子電解質のみからなる膜の1/2以下であるブレンド膜が得られる。
【0023】
次に、本発明に係る電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法について説明する。
本発明に係る電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法は、コンプレックス形成工程と、非電解質溶解工程と、製膜工程と、除去工程とを備えている。
【0024】
コンプレックス形成工程は、固体高分子電解質及びカチオン分子を第1の溶媒に溶解させ、アニオン・カチオンコンプレックスを形成する工程である。
「カチオン分子」とは、固体高分子電解質に含まれるプロトン酸基のプロトンとイオン交換することによって、アニオン・カチオンコンプレックスを形成することができる化合物をいう。このようなカチオン分子としては、具体的には、アミン化合物、アンモニウム塩、イミダゾール誘導体、ピリジン誘導体、キノリン誘導体、ピリダジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体などがある。これらは、それぞれ単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
アミン化合物としては、具体的には、ブチルアミン、ヘキシルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ペンチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、フェニルアミンなどがある。
アンモニウム塩としては、具体的には、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラペンチルアンモニウムブロミド、テトラヘプチルアンモニウムブロミド、テトラヘキシルアンモニウムブロミド、テトラオクチルアンモニウムブロミド、トリエチルヘキシルアンモニウムブロミド、トリエチルメチルアンモニウムブロミドなどがある。
イミダゾール誘導体としては、具体的には、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールなどがある。
ピリジン誘導体としては、具体的には、ピリジン、2−エチルピリジン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、1,2−ジメチルピリジンイオダイドなどがある。
キノリン誘導体としては、具体的には、キノリン、3−メチルキノリン、6−メチルキノリン、7−メチルキノリン、8−メチルキノリンなどがある。
ピリダジン誘導体としては、具体的には、ピリダジン、4−メチルピリダジンなどがある。
ピリミジン誘導体としては、具体的には、ピリミジン、4−メチルピリミジン、4,6−ジメチルピリジミンなどがある。
ピラジン誘導体としては、具体的には、ピラジン、2−メチルピラジン、エチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジンなどがある。
【0026】
第1の溶媒は、固体高分子電解質及びカチオン分子の双方を溶解させることが可能なものであればよい。第1の溶媒としては、具体的には、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、メタノール、エタノール、プロパノール、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、O−ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン、ヘキサン、キシレン、トルエン、ジクロロエタンなどがある。これらは、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、第1の溶媒への溶解手順は、特に限定されるものではなく、アニオン・カチオンコンプレックスが形成できる限り、いずれを先に溶解させても良い。
【0027】
第1の溶媒に溶解させる固体高分子電解質の量は、特に限定されるものではなく、固体高分子電解質の溶解度、作業性等を考慮して、任意に選択することができる。
カチオン分子の量は、固体高分子電解質中のプロトン酸基のすべてをアニオン・カチオンコンプレックスに変換できる量以上の量であればよい。一般に、カチオン分子の量が少ない場合、相対的に多量のプロトン酸基が残り、島サイズ1μm以下の相分離構造若しくは均一(相溶)構造を得るのが困難となる。カチオン分子の量は、具体的には、すべてのプロトン酸基をアニオン・カチオンコンプレックスに変換できる量の50%以上が好ましく、さらに好ましくは、80%以上である。
一方、必要以上のカチオン分子の添加は、実益がない。従って、カチオン分子の量は、すべてのプロトン酸基をアニオン・カチオンコンプレックスに変換できる量の150%以下が好ましく、さらに好ましくは、120%以下である。
【0028】
非電解質溶解工程は、アニオン・カチオンコンプレックスが形成された固体高分子電解質及び非電解質高分子を第2の溶媒に溶解させる工程である。
第2の溶媒は、アニオン・カチオンコンプレックスが形成された固体高分子電解質及び非電解質高分子の双方を溶解可能なものであればよい。また、第2の溶媒は、第1の溶媒と同一の溶媒であっても良く、あるいは、異なる溶媒でも良い。第2の溶媒としては、具体的には、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、メタノール、エタノール、プロパノール、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、O−ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン、ヘキサン、キシレン、トルエン、ジクロロエタンなどがある。
第2の溶媒が第1の溶媒と同一である場合、コンプレックス形成工程で得られた溶液に、直接、非電解質高分子を溶解させても良い。一方、第2の溶媒が第1の溶媒と異なる場合、コンプレックス形成工程で得られた溶液から、揮発、置換等により固体高分子電解質を分離し、これを第2の溶媒に溶解させればよい。
第2の溶媒に溶解させる固体高分子電解質及び非電解質高分子の量は、特に限定されるものではなく、目的とする組成、固体高分子電解質及び非電解質高分子の溶解度、作業性等に応じて、任意に選択することができる。
【0029】
製膜工程は、非電解質溶解工程で得られた溶液をキャスト製膜し、膜を得る工程である。製膜方法は、特に限定されるものではなく、周知の方法を用いることができる。溶液を適当な基材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン基板、ガラスシャーレなど)表面にキャストし、第2の溶媒を除去すると、アニオン・カチオンコンプレックスを含むブレンド膜が得られる。
【0030】
除去工程は、膜からカチオン分子の80%以上を除去する工程である。カチオン分子の除去は、得られたブレンド膜を酸水溶液に浸漬することにより行う。カチオン分子の除去に用いる酸としては、具体的には、塩酸、硝酸、硫酸などがある。酸水溶液中の酸濃度、浸漬時間等は、特に限定されるものではなく、効率よくカチオン分子を除去できる条件であればよい。除去工程は、カチオン分子の80%以上を除去するものが良い。
また、カチオン分子の分子量が大きい場合、酸水溶液で処理する前又はこれと同時に、膜を膨潤させる処理を施すのが好ましい。膜を若干、膨潤させた状態で酸処理を行うと、カチオン分子の除去を容易に行うことができる。このような処理としては、
(1) 酸水溶液による処理を相対的に高温(室温〜100℃)で行う方法、
(2) 酸水溶液にアルコール(例えば、エタノール)を添加する方法、
などがある。
【0031】
次に、本発明に係る電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法の作用について説明する。固体高分子電解質と非電解質高分子とをブレンドする場合において、ブレンド条件を最適化すると、島サイズ1μm以下の相分離構造若しくは均一(相溶)構造を有するブレンド膜が得られる。膜内にこれらの構造が形成されると、膜平面方向の膨潤が抑制される。
島サイズが1μm以下の相分離構造若しくは均一(相溶)構造を持つことで、膨潤抑制効果を持つ理由を以下に述べる。
固体高分子電解質は、一般に水中において含水し、膨潤する。一方、一般的な非電解質高分子は、含水せず、膨潤しない。これらの異なる性質を持ったポリマをブレンドしたブレンド膜についての膨潤特性を考えた場合、膨潤特性に寄与する因子として、固体高分子電解質/非電解質高分子の分子の絡み合いがある。この絡み合いによって(水中で)膨潤する固体高分子電解質を非電解質高分子が抑えることにより、膨潤抑制効果を発揮する。また、このことから膨潤抑制効果を高くするためには、固体高分子電解質と非電解質高分子との分子の絡み合いを多くすることが有効であり、より小さいサイズの非電解質高分子が分散したブレンド膜若しくは均一(相溶)構造を持つブレンド膜が高い膨潤抑制効果を持つ。
しかしながら、固体高分子電解質は、一般に、プロトン酸基のある部分が親水性であり、その他の部分は疎水性である。一方、非電解質高分子は、一般に疎水性であるので、固体高分子電解質との相溶性が低い。そのため、固体高分子電解質と非電解質高分子とを単にブレンドする方法では、島サイズ1μm以下の相分離構造を得るのが困難である。また、相分離構造が得られた場合であっても、非電解質高分子の大きさが5μm以上となる。従って、この方法では、強度の向上や膜平面方向の膨潤抑制に限界がある。
【0032】
これに対し、固体高分子電解質及びカチオン分子を第1の溶媒に溶解させると、プロトン酸基のプロトンとカチオン分子がイオン交換し、アニオン・カチオンコンプレックスが形成される。アニオン・カチオンコンプレックスは、プロトン酸基を疎水化させ、非電解質高分子との相溶性を向上させる作用がある。そのため、アニオン・カチオンコンプレックスが導入された固体高分子電解質と非電解質高分子とを第2の溶媒に溶解させ、この溶液をキャスト製膜すると、島サイズ1μm以下の相分離構造を有するブレンド膜が得られる。さらに、得られた膜からカチオン分子の80%以上を除去すると、アニオン・カチオンコンプレックスの80%以上がプロトン酸基に戻ると同時に、膜内にはカチオン分子相当の大きさを有する相対的に大きなプロトン伝導パスが形成される。そのため、得られた電解質/非電解質ブレンド膜は、含水時における相対的に小さな膨潤率、相対的に高い強度、及び/又は、相対的に高いイオン伝導度を示す。
さらに、アニオン・カチオンコンプレックスが形成された固体高分子電解質は、疎水性が大きくなり、非電解質高分子様の性質を持つことから、溶解性が変化し、非電解質高分子とブレンドする際に使用できる共通溶媒の種類が増え、ブレンドを容易に行うことができる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)0.4gをはかり取り、8mLのDMAcに溶解・攪拌した(溶液A)。この溶液Aにテトラブチルアンモニウムブロミド0.32gを添加し、さらに攪拌した(溶液B)。次に、ポリエーテルスルホン(PES)0.1g(PES含有量20wt%相当)をはかり取り、これを溶液Bに添加し、良く攪拌した(溶液C)。φ100mmのシャーレに溶液Cを注ぎ、ドラフト内の水平台の上に乗せ、3日間室温下に放置した。概ねDMAcがなくなったところで、シャーレごと真空乾燥(60℃、2時間)した。
次に、余分なDMAcを除去するために、膜をシャーレから剥がし、1N塩酸で洗浄(ゆっくり攪拌しながら一晩。その後、新しい塩酸に替えて2時間攪拌)した。さらに、イオン交換水による洗浄(1時間ゆっくり攪拌×3回)を行い、真空乾燥(140℃、2時間)を行った。
次に、テトラブチルアンモニウムブロミドを除去するために、膜をEtOH/HCl混合溶液(EtOH/HCl=9/1)中で洗浄(40℃、ゆっくり攪拌、24時間)した。さらに、イオン交換水による洗浄(1時間ゆっくり攪拌×3回)を行い、真空乾燥(60℃、一晩)を行った。
(比較例1)
テトラブチルアンモニウムブロミド及びPESを用いなかった以外は、実施例1と同一の手順に従い、S−PEEKのみからなる膜を作製した。
(比較例2)
テトラブチルアンモニウムブロミドを用いなかった以外は、実施例1と同一の手順に従い、ブレンド膜(PES含有量20wt%相当)を作製した。
【0034】
実施例1及び比較例1〜2で得られた膜について、当量重量(EW:Equivalent Weight)、電気伝導度、含水率、及び、含水時の膨潤率を測定した。表1に、その結果を示す。S−PEEKとPESとを単にブレンドした場合(比較例2)、膜平面方向の膨潤率は、22%であり、S−PEEKのみの場合(比較例1)よりも抑制された。しかしながら、含水率が低下したために、電気伝導度は、0.045S/cmに低下した。
これに対し、テトラブチルアンモニウムブロミドで処理した実施例1の場合、膜平面方向の膨潤率は、15%であり、S−PEEKのみの場合(比較例1)、及びS−PEEKとPESとを単にブレンドした場合(比較例2)よりも大幅に抑制された。また、含水率がS−PEEKのみの場合とほぼ同等に維持されたために、電気伝導度は、0.052S/cmであった。
【0035】
【表1】

【0036】
図1及び図2に、それぞれ、実施例1及び比較例2で得られたブレンド膜の光学顕微鏡写真を示す。比較例2で得られた膜は、図2に示すように、サブミクロンオーダの島構造が見られる不均一膜であった。島の部分は、その量からPESと推定される。これに対し、実施例1で得られた膜は、図1に示すように、不均一さが見られず、透明の膜であった。これは、実施例1で得られた膜が、島サイズ1μm以下の相分離構造若しくは均一(相溶)構造を持っていることを示している。また、実施例1で得られたブレンド膜の膜平面方向の膨潤率が相対的に小さく、かつ、電気伝導度が相対的に大きいのは、テトラブチルアンモニウムブロミドで処理することによって、そうでない場合と比べて大きな伝導パスが形成されたためと考えられる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る電解質/非電解質ブレンド膜及びその製造方法は、固体高分子型燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜及びその製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1で得られたブレンド膜の光学顕微鏡写真である。
【図2】比較例2で得られたブレンド膜の光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質及びカチオン分子を第1の溶媒に溶解させ、アニオン・カチオンコンプレックスを形成するコンプレックス形成工程と、
前記アニオン・カチオンコンプレックスが形成された固体高分子電解質及び非電解質高分子を第2の溶媒に溶解させる非電解質溶解工程と、
前記非電解質溶解工程で得られた溶液をキャスト製膜し、膜を得る製膜工程と、
前記膜から前記カチオン分子の80%以上を除去する除去工程と
を備えた電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法。
【請求項2】
前記固体高分子電解質は、ポリアリーレン系又はポリアゾール系の重合体を含み、前記重合体に含まれる芳香環及び複素環のいずれか1以上にプロトン酸基が導入されたものである請求項1に記載の電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法。
【請求項3】
前記非電解質高分子は、ポリアリーレン系又はポリアゾール系の重合体を含むものである請求項1又は2に記載の電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法。
【請求項4】
前記カチオン分子は、アミン化合物、アンモニウム塩、イミダゾール誘導体、ピリジン誘導体、キノリン誘導体、ピリダジン誘導体、ピリミジン誘導体、及び、ピラジン誘導体から選ばれるいずれか1以上である請求項1から3までのいずれかに記載の電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法。
【請求項5】
前記コンプレックス形成工程は、前記固体高分子電解質に含まれるすべてのプロトン酸基をアニオン・カチオンコンプレックスに変換することができる量の50%以上150%以下の前記カチオン分子を前記第1の溶媒に溶解させるものである請求項1から4までのいずれかに記載の電解質/非電解質ブレンド膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載の方法により得られる電解質/非電解質ブレンド膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−250490(P2007−250490A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75939(P2006−75939)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】