説明

電解銀めっき液

銀源としてシアン化物を用いた電解銀めっき液において、As,Tl,SeおよびTeの化合物を光沢剤として1種以上含有し、ベンゾチアゾール骨格もしくはベンゾオキサゾール骨格を有する光沢調整剤を含有することを特徴としている。このめっき液は、光沢剤の高速性を最大限に生かしながら、電流密度に影響されずに安定な無光沢または半光沢のめっき外観が得られ、かつ、管理が容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は電解銀めっき液、具体的には、銀源としてシアン化物を用いた高速無光沢もしくは高速半光沢電解銀めっき液に関する。
【背景技術】
従来、電解銀めっき液には、銀源としてシアン化物を用い、光沢剤として、As,Tl,SeおよびTeの化合物を添加した電解銀めっき液が知られている(特許第2756300号公報)。
これら光沢剤を添加することによって、僅かの添加量であっても光沢銀めっき皮膜が得られ、また、添加量を増すほど、光沢度が増すと共に、作業電流密度を高められ、高速性が増すという利点がある。
一方、半導体装置用リードフレームのインナーリード先端部やダイパッド部等に銀めっき皮膜を形成する場合には、光沢が出ると(鏡面に近くなることを意味する)、却ってワイヤボンディングを行う際に画像認識ができない、封止性に劣るなどの不具合が生じるため、無光沢〜半光沢ねらいのめっきが行われる。そのために、光沢剤の添加量を低くする必要がある。
しかし、上記光沢剤の場合には、もともと僅かな添加量であることから、さらに添加量を下げた場合には分析が困難となって、分析による日常の添加量管理は不可能となり、実際には作業者の経験や勘によって添加量を判断しており、好適な添加量管理がし難いという課題がある。
また、光沢剤の添加量を少なくすると作業電流密度が低く、かつその範囲も狭くなり、生産効率が落ち、まためっき不良が生じやすいという課題がある。この場合、生産効率を上げるために作業電流密度を上げると、いわゆるヤケめっきや、めっきムラが生じてしまうのである。
【発明の開示】
本発明の目的は、上記光沢剤の高速性を最大限に生かしながら、電流密度に影響されずに安定な無〜半光沢のめっき外観が得られ、かつ、管理が容易である、銀源としてシアン化物を用いた電解銀めっき液を提供することである。
本発明の銀源としてシアン化物を用いた電解銀めっき液は、As,Tl,SeおよびTeの化合物を光沢剤として1種以上含有し、ベンゾチアゾール骨格もしくはベンゾオキサゾール骨格を有する光沢調整剤を含有することを特徴としている。
金属塩として50〜300g/lのシアン化銀類アルカリ金属を含有し、伝導塩として50〜300g/lのクエン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩およびコハク酸塩の1種以上含有するとよい。これらの伝導塩は、pHの緩衝剤としても機能する。また、さらに、緩衝剤としては、ホウ酸やホウ酸塩を添加してもよい。
また、必要に応じて界面活性剤を添加するとよい。これら界面活性剤としては、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤、もしくはフッ素系界面活性剤が好適であり、これら界面活性剤を0.001〜10g/l程度添加するとよい。
光沢剤は従来と同様に、As,Tl,SeおよびTeの化合物を用いる。
これら光沢剤として、亜ヒ酸カリウム、亜ヒ酸ナトリウム、硫酸タリウム、ギ酸タリウム、二酸化セレン、セレンシアン酸カリウム、テルル酸、二酸化テルルなどが好適である。
これら化合物を光沢剤に用いることによって、光沢度の調整は可能であるが、無〜半光沢の範囲の僅かな量のコントロールは、前記したように容易でない。
本発明では、後記する光沢調整剤をめっき液に添加することによって、上記光沢剤を比較的多量に添加しても光沢度を抑えることができ、したがって、光沢剤量を分析装置(例えばICP分析や原子吸光分析)によっても管理することが可能となり、また、光沢剤量を多くできるので、作業電流密度を上げることができ、その範囲も広くなって、生産効率の向上、作業性の向上を図ることができる。
光沢剤の添加量は、0.005〜50mg/lの範囲が好適で、0.01〜5mg/lの範囲が最適である。この添加量の範囲は通常の光沢めっき液の範囲である。
上記光沢調整剤の添加量は、1〜1000mg/lの範囲が好適であり、10〜100mg/lの範囲が最適である。この光沢調整剤の添加量は、1mg/lより少ないと光沢調整効果が少なく、作業電流密度も上げられない。1000mg/lよりも多くても、添加量に比して効果はそれ程変わらない。
また、光沢調整剤の添加量は、光沢剤の量に応じて増減するのが好適である。
例えば、光沢剤の添加量が0.05〜0.1mg/l程度のときは、光沢調整剤量は10mg/l前後、光沢剤の添加量が0.5mg/l程度のときは、光沢調整剤量は30mg/l前後とするのが好適である。
光沢調整剤の、ベンゾチアゾール骨格を有する化合物は下記化合物が好適である。


すなわち、上記において、Rは、H,CH、またはCHOであり、TはHであり、VはHまたはSONaであり、YはHまたはCHであり、Xはa〜iのいずれかである。
また、光沢調整剤の、ベンゾオキサゾール骨格を有する化合物は下記化合物が好適である。

すなわち、上記において、Xは、−CHCHCHSONaであり、Yは上記a,bのいずれかである。
【発明を実施するための最良の形態】
実施例1〜5、比較例1〜2のめっき液の組成を表1に示す。

なお、表1の化合物名を表2に示す。

表3に、電流密度範囲、光沢度等を示す。

実施例1〜3は、ベンゾチアゾール骨格を有する光沢調整剤を用いためっき液、実施例4,5は銀濃度を変えたものである。比較例1は銀塩と伝導塩のみの単純な組成のものを示し、比較例2は、従来通り、光沢剤と界面活性剤を添加したものである。
上記組成のめっき液でハルセル試験を行い、ハルセルパターンから光沢調整効果の評価を行った。また3cm×3cmの銅材テストピースにジェットめっき法により1cmφ、5μmの銀めっきを施し、良好半光沢外観を有する電流密度の比較を行った。
【実施例1〜3】
液のpHは8〜9で安定しており、ハルセルパターンは広い範囲で半光沢外観となり、光沢度は均一、ムラの無い良好なめっき外観であった。ジェットめっき試験により作成しためっき皮膜は50〜200A/dmの電流密度範囲で、光沢度0.4±0.05のバラツキの無い半光沢外観であった。また、無光沢、半光沢外観を有する銀皮膜の結晶は緻密であり、実装特性も十分満足していた。
また、光沢調整剤に、ダイレクトイエロー8、チオフラビンS、チオフラビンTについても同様な実験を行ったところ、同様な結果が得られた。
なお、光沢度は、日本電色工業株式会社製デンシトメーターND−1を用いて測定した。因みに、光沢度0.2以下は無光沢めっき、光沢度0.8以下が半光沢めっきとされている。
【実施例4】
実施例1〜3よりも銀濃度を少なくした組成であるが、ハルセルパターンの半光沢領域は均一で鈍い光沢の半光沢外観となっていた。ジェットめっき試験において100A/dm以上の高電流密度範囲までヤケめっきを生じることなく、得られためっき皮膜はムラの無い半光沢外観となっていた。
【実施例5】
実施例1〜3よりも銀濃度を多くした組成であるが、ハルセルパターンの半光沢領域は広く、ムラの無い良好な皮膜が得られていた。また、ジェットめっき試験では、300A/dmの電流密度範囲まで半光沢外観を有する銀皮膜が得られており、フクレやムラの無い均質な皮膜であった。
比較例1
添加剤を一切含まない組成であるが、ハルセルパターンは全体的に白く、ヤケに近い白い外観となっていた。ジェットめっき試験では電流密度が100A/dmを越えるとヤケめっきとなってしまい、半光沢外観となる電流密度は、50〜90A/dmと狭い範囲であった。
比較例2
従来通り、光沢剤と界面活性剤を含んだ組成であるが、ハルセルパターンの半光沢領域の光沢度は若干光り気味の光沢となっていた。またジェットめっき試験により作成したサンプルは200A/dmの電流密度範囲までヤケめっきを生じることがなく実装特性も満足していたものの、外観は光沢度0.8〜1.0程度の光沢気味の外観となっていた。
【産業上の利用可能性】
以上のように、銀源としてシアン化物を用い、光沢調整剤を添加した本発明の電解銀めっき液は、広い電流密度範囲で光沢度のバラツキが少なく、かつ、高電流密度でムラやヤケの無い良好な無〜半光沢銀めっき皮膜を得ることができる。したがって、めっきを行うのが難しいSOタイプリードフレームやQFPリードフレームのリングめっき、さらに複雑な形状のリードフレーム等の被めっき物へも高速でかつ安定しためっき外観のめっきを行うことが可能となった。また、これらの浴から得られる銀めっき皮膜の光沢度は、光沢調整剤を添加することによって光沢剤の有する光沢効果を制御することができ、銀めっき皮膜の光沢度を任意に調節することができる。また、光沢調整剤はその濃度を高くすることによって光沢を抑制する効果が高くなることから、光沢剤の濃度を高くすることが可能となり、分析による濃度(液)管理が可能となり、また高い作業電流密度が得られるので、生産効率が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀源としてシアン化物を含有する電解銀めっき液において、
As,Tl,SeおよびTeの化合物を光沢剤として1種以上含有し、
ベンゾチアゾール骨格もしくはベンゾオキサゾール骨格を有する光沢調整剤を含有することを特徴とする電解銀めっき液。
【請求項2】
前記光沢剤を、0.005〜50mg/l含有することを特徴とする請求項1記載の電解銀めっき液。
【請求項3】
前記光沢調整剤を1〜1000mg/l含有することを特徴とする請求項1または2記載の電解銀めっき液。
【請求項4】
前記光沢剤を0.01〜5mg/l含有することを特徴とする請求項1または3記載の電解銀めっき液。
【請求項5】
界面活性剤として、ポリオキシエチレン鎖を有する非イオン界面活性剤、もしくはフッ素系界面活性剤を0.001〜10g/l含有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の電解銀めっき液。
【請求項6】
金属塩として50〜300g/lのシアン化銀類アルカリ金属を含有し、伝導塩として50〜300g/lのクエン酸塩、リン酸塩、酒石酸塩およびコハク酸塩の1種以上含有することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の電解銀めっき液。
【請求項7】
前記ベンゾチアゾール骨格を有する化合物が下記化合物であることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の電解銀めっき液。


【請求項8】
前記ベンゾオキサゾール骨格を有する化合物が下記化合物であることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の電解銀めっき液。


【国際公開番号】WO2004/048646
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554966(P2004−554966)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013955
【国際出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】