説明

電解銅箔の製造方法、該製造方法で得られる電解銅箔、該電解銅箔を用いて得られる表面処理銅箔及び該電解銅箔又は該表面処理銅箔を用いて得られる銅張積層板

【課題】従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔と比べ更に低プロファイルで、且つ、機械強度の優れた電解銅箔を、効率よく生産可能とする製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを含む硫酸系銅電解液を電解して電解銅箔を得る製造方法であって、前記硫酸系銅電解液に含ませる4級アンモニウム塩重合体には、2量体以上のDDAC重合体を用いる電解銅箔の製造方法等を採用する。また、当該4級アンモニウム塩重合体には、数平均分子量300〜10000のジアリルジメチルアンモニウムクロライドを用いることが好ましい。また、前記硫酸系銅電解液は、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、又は、メルカプト基を持つ化合物である3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸を含むものであることも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、電解銅箔の製造方法、該製造方法で得られる電解銅箔、該電解銅箔を用いて得られる表面処理銅箔、及び、該電解銅箔又は該表面処理銅箔を用いて得られる銅張積層板に関する。特に、その析出面側が低プロファイルであることを特徴とする電解銅箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電解銅箔はプリント配線板の基礎材料として広く使用されてきた。そして、プリント配線板が多用される電子機器及び電気機器には、小型化、軽量化等のいわゆる軽薄短小化が求められている。従来、このような電子機器及び電気機器の軽薄短小化を実現するためには、使用するプリント配線板の信号回路を、可能な限りファインピッチ化する必要がある。そのため、プリント配線板の製造に際しては、エッチングによって回路を形成する際のオーバーエッチングの設定時間を短縮し、形成する回路のエッチングファクターを向上させるために、より薄い銅箔を採用することで対応してきた。
【0003】
そして、同時に、小型化、軽量化される電子機器及び電気機器には高機能化の要求も行われる。従って、限られたプリント配線板の面積の中に、可能な限りの部品実装面積を確保するためにも、回路形成時のエッチングファクターを良好にすることで対応してきた。特に、ICチップ等を直接搭載するテープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板やチップ オン フィルム(COF)基板用途には、エッチングファクターを更に良好にするために、通常のプリント配線板以上の低プロファイル電解銅箔が求められてきた。なお、低プロファイルとは、銅箔の、基材樹脂との接合界面における凹凸が低いという意味で用いている。
【0004】
このような問題を解決すべく、特許文献1には、硫酸酸性銅めっき液の電気分解による電解銅箔の製造方法において、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体を含有する硫酸酸性銅めっき液を用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法が開示されている。当該硫酸酸性銅めっき液には、ポリエチレングリコールと塩素と3−メルカプト−1−スルホン酸とを含有することが好ましいとされている。そして、この製造方法により得られる電解銅箔は、絶縁基材との張り合わせ面の表面粗さ(析出面粗さ)が小さく、厚さ10μmの電解銅箔の場合、Rz=1.0±0.5μm程度の低プロファイル(粗さ)である。
【0005】
また、特許文献2には、ゼラチンや膠などを用いなくても、析出面の表面粗さが小さく、伸び率に優れた電解銅箔を製造する方法が開示されており、硫酸酸性銅めっき液の電気分解による電解銅箔の製造方法において、ポリエチレングリコールと塩素と3−メルカプト−1−スルホン酸とを含有することを特徴とする硫酸酸性銅めっき液を用いている。そして、この製造方法により得られる電解銅箔の、絶縁基材との張り合わせ面の表面粗さ(析出面粗さ)が小さく、厚さ10μmの電解銅箔の場合、Rz=1.5±0.5μm程度の低プロファイル(粗さ)である。
【0006】
特許文献3には、1分子中に1個以上のエポキシ基を有する化合物とアミン化合物とを付加反応させることにより得られる特定骨格を有するアミン化合物と有機硫黄化合物を添加剤として含む銅電解液を電解銅箔の製造に用いることが開示されている。そして、この製造方法により得られる電解銅箔は、その実施例の記述より、表面粗さRzが0.90〜1.20μmの範囲にあり、常温伸び6.62〜8.90%、常温抗張力30.5〜37.9kgf/mm、高温伸び12.1〜18.2%、高温抗張力20.1〜22.3kgf/mmとなっている。
【0007】
特許文献4には、1分子中に1個以上のエポキシ基を有する化合物とアミン化合物とを付加反応させた後、窒素を4級化することにより得られる特定骨格を有する4級アミン化合物と、有機硫黄化合物を添加剤として含む銅電解液を電解銅箔の製造に用いることが開示されている。そして、この製造方法により得られる電解銅箔は、その実施例の記述より、表面粗さRzが0.94〜1.23μmの範囲にあり、常温伸び6.72〜9.20%、常温抗張力30.5〜37.2kgf/mm、高温伸び11.9〜18.2%、高温抗張力19.9〜23.4kgf/mmとなっている。
【0008】
一方、特許文献5には、未処理電解銅箔の析出面の表面粗度Rzが、該未処理電解銅箔の光沢面の表面粗度Rzと同じか、それより小さい箔の析出面上に粗化処理を施して、接着面とすることを特徴とする表面処理電解銅箔が開示されている。そして、前記未処理電解銅箔の製造には、メルカプト基を持つ化合物、塩化物イオン、分子量10000以下の低分子量膠、及び、高分子多糖類を添加した電解液を用いている。具体的には、メルカプト基を持つ化合物は3−メルカプト1−プロパンスルホン酸塩、低分子量膠の分子量は3000以下、そして高分子多糖類はヒドロキシエチルセルロースである。
【0009】
そして、これらの製造方法を用いて、電解銅箔を製造すると、確かに優れた低プロファイルの析出面が形成され、低プロファイル電解銅箔としては、極めて優れた性質を示す。
【0010】
【特許文献1】特開2004−35918号公報
【特許文献2】特開2004−162144号公報
【特許文献3】特開2004−107786号公報
【特許文献4】特開2004−137588号公報
【特許文献5】特開平9−143785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、電子機器又は電気機器の代表であるパーソナルコンピュータのクロック周波数も急激に上昇し、演算速度が飛躍的に速くなっている。そして、従来のコンピュータにおける本来の役割である単なるデータ処理に止まらず、コンピュータ自体をAV機器と同様に使用する機能も付加されている。即ち、音楽再生機能をはじめとし、DVDの録画再生機能、TV受像録画機能、テレビ電話機能等多くの機能が次々に付加されている。
【0012】
これに伴い、パーソナルコンピュータのモニタも、単なるデータモニタではなく、映画等の画像を写しても、長時間視聴に耐えるだけの画質が要求される。更に、このような品質のモニタを安価に且つ大量に供給することが求められる。そして、現在の当該モニタには液晶モニタが多用されており、この液晶パネルのドライバには、前記テープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板やチップ オン フィルム(COF)基板を用いるのが一般的である。従って、モニタをハイビジョン映像に対応させるためには、前記ドライバにもよりファインな回路の形成が求められるようになる。
【0013】
また、リチウムイオン電池用の集電体として使用する銅箔も、表面が平滑であることが好ましい。即ち、銅箔上に活物質を塗工する際に、活物質含有スラリーを均一な塗膜厚で銅箔上に塗工するためには、表面が平滑な銅箔を集電体として使用することが有利なのである。そして、当該負極活物質は、充放電時に膨張収縮を繰り返すため、集電材としてその膨張収縮に追随する銅箔の寸法変動も大きくなってしまい、追随できないと破断する現象が発生する。従って、集電材である銅箔の機械的物性には、繰り返しの膨張収縮挙動に耐えるため、良好な引張り強さと、伸び率とが求められる。更に、銅箔上にキャパシタ用誘電体層をゾルゲル法で形成させる際にも、表面が平滑な銅箔を用いることは同様に有利である。
【0014】
以上のことから、市場には、従来供給されてきた低プロファイル電解銅箔と比べて、更に低プロファイルで、且つ機械強度に優れた電解銅箔に対する要求が存在していたのである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、上記課題を解決すべく、本件発明者等は、環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体を添加して得られた硫酸系銅電解液を用い、これを電解することにより、電解銅箔を得ることを鋭意研究してきた。その結果、以下に示す製造条件を採用することで、従来の低プロファイル銅箔を超える低プロファイル電解銅箔の製造を安定的に行え、得られる電解銅箔のプロファイル品質もバラツキの小さいものとなることに想到した。本件発明は、以下のとおりである。
【0016】
低プロファイル電解銅箔の製造方法: この電解銅箔の製造方法は、環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを含む硫酸系銅電解液を電解し、電解銅箔を得る製造方法であって、前記硫酸系銅電解液に含ませる4級アンモニウム塩重合体には、2量体以上のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体を用いることを特徴とするものである。
【0017】
本件発明に係る電解銅箔の製造方法において、前記硫酸系銅電解液に含ませる4級アンモニウム塩重合体は、数平均分子量300〜10000のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体を用いることが好ましい。
【0018】
また、本件発明に係る電解銅箔の製造方法において、前記硫酸系銅電解液は、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、又は、メルカプト基を持つ化合物である3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸から選択される1種以上を含み、その濃度が0.5ppm〜200ppmであることが好ましい。
【0019】
また、本件発明に係る電解銅箔の製造方法において、前記硫酸系銅電解液中の4級アンモニウム塩重合体濃度が1ppm〜150ppmであることが好ましい。
【0020】
更に、本件発明に係る電解銅箔の製造方法において、前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度が5ppm〜120ppmであることが好ましい。
【0021】
そして、本件発明に係る電解銅箔の製造方法における前記硫酸系銅電解液は、液温20℃〜60℃とし、電流密度15A/dm〜90A/dmで電解し、低プロファイルの電解銅箔の製造に用いることが好ましい。
【0022】
本件発明に係る電解銅箔の製造方法により得られる電解銅箔: 本件発明に係る電解銅箔の製造方法により得られる電解銅箔は、上記硫酸系銅電解液を電解して得られる電解銅箔であって、当該電解銅箔は、その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の低プロファイルであり、且つ、当該析出面の光沢度(Gs(60°))が400以上であることを特徴とするものである。
【0023】
本件発明に係る表面処理銅箔: 本件発明に係る表面処理銅箔は、上記電解銅箔の析出面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか1種又は2種以上を行ったものである。
【0024】
そして、前記表面処理銅箔の絶縁樹脂基材との張り合わせ面の表面粗さ(Rzjis)が2μm以下の低プロファイルを備えることを特徴とする。
【0025】
本件発明に係る銅張積層板: 上述してきた電解銅箔又は表面処理銅箔を用いることで、特にプリント配線板製造に好適な高品質の銅張積層板を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本件発明に係る電解銅箔の製造方法によれば、従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔に比べ、更に低プロファイルで、且つ、高強度の機械的特性を備える電解銅箔を、品質のバラツキが小さく、且つ、効率よく製造できる。また、本件発明に係る電解銅箔の製造方法で用いる電解液の組成は、従来の低プロファイルの電解銅箔の製造に用いられていたものとは異なり、溶液安定性にも優れ、安定して長期の電解に使用が可能で、廃液処理を考慮してもコスト上昇を招かないものである。
【0027】
また、この製造方法で得られる低プロファイルの電解銅箔は、その析出面に上記表面処理を施した表面処理銅箔としても、低プロファイル及び優れた機械的特性は維持される。従って、銅箔に対して低プロファイルであることの要求が強い、テープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板やチップ オン フィルム(COF)基板のファインピッチ回路の形成に好適である。また、リチウムイオン二次電池の負極を構成する集電材等の分野での使用にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本件発明に係る電解銅箔の製造形態: 本件発明に係る低プロファイルの電解銅箔の製造方法は、環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを含む硫酸系銅電解液を用いるものであって、前記4級アンモニウム塩重合体には、2量体以上のジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下、「DDAC」と称する。)重合体を用いるものである。即ち、上記形態は、DDACの単量体(モノマー)を除外した概念であり、2量体以上のDDAC重合体を選択的に用いるのである。なお、4級アンモニウム塩重合体としてのDDACは重合体構造を取る際に環状構造を成すものであり、環状構造の一部が4級アンモニウムの窒素原子で構成されることになる。そして、DDAC重合体は前記環状構造が4員環〜7員環のいずれか又はそれらの混合物であると考えられているため、ここではこれら重合体の内5員環構造を取っている化合物を代表とし、化1として以下に示した。このDDAC重合体とは化1に明らかなようにDDACが2量体以上の重合体構造を取っているものである。即ち、DDACの単量体は、電解銅箔の表面のロープロファイル化に寄与しない。そして、このDDAC重合体の主鎖は、炭素と水素のみで構成されていることが好ましい。
【0029】
【化1】

【0030】
そして、この2量体以上のDDAC重合体を含む組成の硫酸系銅電解液を用いることで、従来の低プロファイルの電解銅箔以上の低プロファイル表面を備える電解銅箔の安定製造が可能となる。
【0031】
そして、2量体以上のDDAC重合体であっても、分子量が大きくなり過ぎると、その低プロファイル電解銅箔の製造能力が低下する。多量体構造で言えば、2量体〜150量体、より好ましくは4量体〜14量体である。単量体の場合及び150量体を超えた場合には、電解銅箔の表面のロープロファイル化に寄与せず、プロファイルにバラツキを生ずるのである。そして、より好ましい多量体の範囲で用いると、電解銅箔の表面のロープロファイル化を、最も安定的に、バラツキ無く達成できる。
【0032】
また、2量体以上のDDAC重合体として最適なものを、数平均分子量の観点から見ると、300〜10000の範囲のものが好適である。DDAC重合体の数平均分子量が300以下になり、単量体の存在比率が高くなると、後述の比較例に示すように低プロファイル化が困難になる傾向がある。但し、本件発明に係る電解銅箔の低プロファイル化とは、単に触針式の粗さ計で測定したときのプロファイルが良好という意味で用いているのではない。従来の電解法で得られた低プロファイル銅箔と比較すると、その析出面の光沢度が明らかに異なり、平面的に見た平坦性も飛躍的に向上したという意味で用いているのである。そして、DDAC重合体の数平均分子量が10000を超えると、共存する他の添加剤濃度を調整しても、電解銅箔の低プロファイル化には寄与し得ず、得られる電解銅箔の析出面のプロファイルのバラツキが大きくなる。また、当該数平均分子量が10000以下であっても7000を超えると、例えば、共存するビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(以下、「SPS」と称する。)濃度を100ppm以上としなければ、得られる電解銅箔の析出面のプロファイルのバラツキが顕著に大きくなる。よって、電解操作を行う際の液温、濃度等諸条件の一般的な管理レベルでのバラツキを考慮すると、より好ましくは数平均分子量300〜7000、更に好ましくは数平均分子量600〜2500のDDAC重合体を用いる。但し、DDAC重合体を製造しようとしても、そこには不可避的に単量体のDDACが残留する場合がある。この場合、残留した単量体のDDACは微量であるため、その排除を必要とするものではないことを明記しておく。
【0033】
なお、上記数平均分子量は、以下の測定方法により測定して得られた値である。即ち、試料を溶媒に溶解させ、以下に示す条件の下で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。検出器には多角度レーザー光散乱光度計(MALS)を使用した。なお、「第2ビリアル係数×濃度」の値は0mol/gと仮定し、屈折率濃度変化(dn/dc)計算用の標準試料には、ポリエチレンオキサイド(SRM1924);NISTを用いた。
【0034】
[GPC測定条件]
カラム:TSKgel α−4000、α―2500(φ7.8mm×30cm);東ソー株式会社製
溶 媒:水系:メタノール=50:50(体積比)
流 速:0.504mL/min
温 度:23℃±2℃
検出器:MALS(DAWN−EOS型);Wyatt Technology
波 長:690nm
温 度:23℃±2℃
【0035】
更に、本件発明に係る電解銅箔の製造方法に用いる、硫酸系銅電解液中の4級アンモニウム塩重合体としてのDDAC重合体の濃度は、SPS又は3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸(以下、「MPS」と称する。)の濃度との関係を考慮して定める。DDAC重合体の濃度は1ppm〜150ppmであることが好ましく、より好ましくは2ppm〜100ppm、更に好ましくは3ppm〜80ppmである。ここで、DDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度が1ppm未満の場合には、SPSと又はMPSの濃度を如何に高めても電解銅箔の析出面が粗くなり、低プロファイル化した電解銅箔を得ることが困難となる。DDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度が150ppmを超えても、銅の析出状態が不安定になり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。
【0036】
そして、本件発明に係る電解銅箔の製造方法に用いる硫酸系銅電解液は、SPS又はメルカプト基を持つ化合物であるMPSから選択される1種以上を含むことで、より精度よく低プロファイルの電解銅箔を得ることが可能となり、その濃度は0.5ppm〜200ppmであることが好ましく、より好ましくは4ppm〜150ppm、更に好ましくは4ppm〜50ppmである。SPS又はMPSの濃度が0.5ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面が粗くなり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。一方、SPS又はMPSの濃度が200ppmを越えても、得られる電解銅箔の析出面を平滑化する効果は向上せず、むしろ電析状態が不安定化するのである。なお、本件発明で言うSPS又はMPSとは、それぞれの塩をも含む意味で使用しており、濃度の記載値は、ナトリウム塩としての3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(以下、「MPS−Na」と称する。)としての換算値である。そしてMPSは、硫酸系銅電解液中で2量体化することでSPS構造となる。従って、SPS又はMPSの濃度とは、SPSとして添加されたもの及びMPS単体やMPS−Na等塩類の他MPSとして電解液中に添加された後SPS等に多量体化した変性物をも含む濃度である。MPSの構造式を以下の化2として、SPSの構造式を加3として以下に示す。これらの構造式の比較から、SPS構造体はMPSの2量体であることがわかる。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
更に、前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度は、5ppm〜120ppmであることが好ましく、更に好ましくは10ppm〜50ppmである。この塩素濃度が5ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面が粗くなり低プロファイルを維持出きなくなる。一方、塩素濃度が120ppmを超えると、電解銅箔の析出面が粗くなり、電析状態が安定せず、低プロファイルの析出面を形成できなくなる。
【0040】
以上のように、前記硫酸系銅電解液中の、SPS又はMPSと、DDAC重合体と塩素との成分バランスが最も重要であり、これらの量的バランスが上記範囲を逸脱すると、結果として電解銅箔の析出面が粗くなり低プロファイルを維持出きなくなる。
【0041】
なお、本件発明に言う硫酸系銅電解液では、銅濃度が50g/l〜120g/l、フリー硫酸濃度が60g/l〜250g/l程度の溶液を想定している。
【0042】
そして、上記硫酸系銅電解液を用いて電解銅箔を製造する場合には、液温を20℃〜60℃とし、電流密度15A/dm〜90A/dmで電解することが好ましい。液温が20℃未満の場合には析出速度が低下し、伸び率及び引張り強さ等の機械的物性のバラツキが大きくなる。一方、液温が60℃を超えると蒸発水分量が増加し液濃度の変動が速く、得られる電解銅箔の析出面が良好な平滑性を維持できない。そして、液温のより好ましい範囲は40℃〜55℃である。また、電流密度が15A/dm未満の場合には銅の析出速度が小さく工業的生産性が劣る。一方、電流密度が90A/dmを超える場合には、得られる電解銅箔の析出面の表面粗さが大きくなり、低プロファイルを維持できない。そして、電流密度のより好ましい範囲は40A/dm〜70A/dmである。
【0043】
本件発明に係る製造方法で得られる電解銅箔の形態: 本件発明に係る製造方法で得られる電解銅箔は、その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の低プロファイルであり、且つ、当該析出面の光沢度(Gs(60°))が400以上であることを特徴とするものである。厳密な意味で言えば、電解銅箔の析出面の表面粗さは、電解銅箔の厚さによって変動する概念である。しかし、本件発明に係る電解銅箔の製造方法によれば、得られる電解銅箔の表面粗さ及び光沢度は、電解銅箔として生産可能な450μm厚さ以下の電解銅箔の全ての厚さの箔において、その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の低プロファイルであり、且つ、当該析出面の光沢度(Gs(60°))が400以上という条件を満たすことが可能となる。
【0044】
本件発明に言う「電解銅箔」とは、何ら表面処理を行っていない状態のものであり「未処理銅箔」、「析離箔」等と称されることがある。本件明細書では、これを単に「電解銅箔」と称する。この電解銅箔の製造には、一般的に連続生産法が採用され、ドラム形状をした回転陰極と、その回転陰極の形状に沿って対向配置する鉛系陽極又は寸法安定性陽極(DSA)との間に、硫酸銅系溶液を流し、電解反応を利用して銅を回転陰極のドラム表面に析出させる。この析出した銅が箔形状となり、回転陰極から連続して引き剥がして巻き取ることにより、電解銅箔が生産される。この段階では、防錆処理等の表面処理は何ら行われておらず、電析直後の銅は活性化した状態にあって、空気中の酸素により容易に酸化されやすい状態にある。
【0045】
この引き剥がされた電解銅箔の、回転陰極と接触していた側の表面形状は、鏡面仕上げされた回転陰極表面の形状が転写した形状を持ち、光沢を持ち滑らかな面であるため、この面を光沢面と称する。これに対し、析出サイドであった側の表面形状は、一般的には析出する銅の結晶成長速度が結晶面ごとに異なる結果山形の凹凸形状を示すものとなるため、この面を粗面又は析出面と称する。通常は、この析出面が銅張積層板を製造する際の絶縁層との張り合わせ面となる。そして、この析出面の表面粗さ(粗度)が小さいほど、優れた低プロファイルの電解銅箔と言う。更に、本件発明に係る電解銅箔では、この析出面の表面粗さが一般的な電解ドラムを使用して製造された銅箔の光沢面より平滑となるため、粗面という用語は使用せず、単に「析出面」と称することとする。
【0046】
そして、この電解銅箔には、表面処理工程において、析出面への粗化処理と防錆処理とが施されるのが通常である。析出面への粗化処理とは、硫酸銅溶液中でいわゆるヤケめっき条件で電解して析出面に微細銅粒を析出付着させ、直ちに平滑めっき条件で電解して被せめっきすることで微細銅粒の脱落を防止する処置を施す等の処理である。従って、微細銅粒を析出付着させた析出面のことを「粗化処理面」と称する。続いて、表面処理工程では、電解銅箔の表裏に、亜鉛、亜鉛合金、クロム系のめっき等により防錆処理が行われ、乾燥して、巻き取る等の操作が行われ、製品としての電解銅箔が完成するのである。このようにして得られた製品を、一般に「表面処理箔」と称する。
【0047】
本件発明に係る電解銅箔は、その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm未満、且つ、光沢度[Gs(60°)]が400以上の特性を備える。そして、より好ましくは、表面粗さ(Rzjis)は0.6μm未満、光沢度[Gs(60°)]は600以上である。最初に、光沢度に関して説明する。ここで、[Gs(60°)]の光沢度とは、電解銅箔の表面に入射角60°で測定光を照射し、反射角60°で跳ね返った光の強度を測定したものである。ここで言う入射角は、光の照射面に対する垂直方向を0°としている。そして、JIS Z 8741−1997によれば、入射角の異なる5つの鏡面光沢度測定方法が記載されており、試料の光沢度に応じて最適な入射角を選択すべきとされている。中でも、入射角を60°とすることで低光沢度の試料から高光沢度の試料まで幅広く測定可能であるとされている。従って、本件発明に係る電解銅箔などの光沢度測定には主として60°を採用したのである。
【0048】
一般的に、電解銅箔の析出面の平滑性の評価には表面粗さRzjisがパラメータとして用いられてきた。しかしながら、Rzjisだけでは高さ方向の凹凸情報しか得られず、凹凸の周期やうねりと言った情報を得ることができない。光沢度は両者の情報を反映したパラメータであるため、Rzjisと併用することで表面の粗さ周期、うねり、それらの面内での均一性等の種々のパラメータを総合して判断することができる。
【0049】
本件発明に係る電解銅箔の場合、析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm未満であり、且つ、当該析出面の光沢度[Gs(60°)]が400以上であるという条件を満たす。即ち、このような範囲で品質が保証でき、市場に供給可能な電解銅箔は、従来存在しなかった。そして、後述する製造方法を適正に用いることで、表面粗さ(Rzjis)は0.6μm未満、光沢度[Gs(60°)]は700以上の析出面を備える電解銅箔の提供も可能となる。また、ここでは、光沢度の上限値を定めていないが、経験的に判断して[Gs(60°)]で800程度が上限となる。なお、本件発明における光沢度は、日本電色工業株式会社製光沢計VG−2000型を用い、光沢度の測定方法であるJIS Z 8741−1997に準拠して測定した。
【0050】
そして、ここで言う電解銅箔に関して、厚さの限定は行っていない。何故なら、厚くなるほど、当該析出面の粗度が小さく、光沢度も上昇すると言う好ましい傾向にあるためである。敢えて、上限を定めるとするならば、電解銅箔を工業的に製造しても採算を取れる限度である450μm厚さ以下の電解銅箔を対象としている。
【0051】
また、ここでは析出面側の表面粗さ(Rzjis)の下限値を限定していない。測定器の感度にもよるが、経験的に表面粗さの下限値は0.1μm程度である。しかし、実際の測定においては、バラツキが見られ、保証できる測定値としての下限は0.2μm程度であると考える。
【0052】
このように滑らかな析出面に対して、粗化処理や防錆処理等の表面処理を施しても、従来の低プロファイル表面処理銅箔よりも、更に低プロファイルの粗化処理面を備える表面処理銅箔が得られるのは当然である。そして、この表面処理銅箔を絶縁樹脂基材に張り合わると、物理的なアンカー効果を適度に得ることが可能で、接着界面の凹凸も小さくなるため、当該界面でのエッチング液等の薬液のしみ込みが小さく、良好な耐薬品性を示す。
【0053】
本件発明に係る電解銅箔の機械的特性としては、常態における引張り強さが33kgf/mm以上、伸び率が5%以上となる。そして、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)では引張り強さが30kgf/mm以上、伸び率が8%以上であることが好ましい。
【0054】
そして、本件発明においては、製造条件を最適化することにより、常態の引張り強さが38kgf/mm以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の引張り強さが33kgf/mm以上という、より優れた機械的特性を備えるものとできる。従って、この良好な機械的特性は、フレキシブルプリント配線板の折り曲げ使用にも十分に耐えうるものであるのみならず、膨張収縮挙動を受けるリチウムイオン二次電池等の負極を構成する集電材用途にも好適である。
【0055】
本件発明に係る表面処理銅箔の形態: 本件発明に係る表面処理銅箔は、前記電解銅箔の析出面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか1種又は2種以上を行ったものである。即ち、ここで用いる電解銅箔とは、「その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の低プロファイルであり、且つ、当該析出面の光沢度(Gs(60°))が400以上である電解銅箔」、「環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体を添加して得られた硫酸系銅電解液を用いて得られる電解銅箔」である。
【0056】
ここで、粗化処理とは、電解銅箔の析出面に微細金属粒を付着形成させるか、エッチング法で粗化表面を形成するかの、いずれかの方法が採用される。ここで、前者の微細金属粒を付着形成する方法として、銅微細粒を析出面に付着形成する方法に関して例示しておく。この粗化処理工程は、電解銅箔の析出面上に微細銅粒を析出付着させるヤケめっき工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程とで構成される。
【0057】
電解法により電解銅箔の析出面上に微細銅粒を析出付着させる工程では、電解条件としてヤケめっきの条件が採用される。従って、一般的に微細銅粒を析出付着させる工程で用いる溶液の組成は、ヤケめっき条件を作り出しやすいよう、銅イオン濃度は低い設定となっている。このヤケめっき条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅5〜20g/l、硫酸50〜200g/l、その他必要に応じた添加剤(α−ナフトキノリン、デキストリン、膠、チオ尿素等)、液温15〜40℃、電流密度10〜50A/dmの条件とすることができる。
【0058】
そして、微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程は、析出付着させた微細銅粒の脱落を防止するために、平滑めっき条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させる工程である。従って、この工程では前述のバルク銅の形成槽で用いたと同様の溶液を銅イオンの供給源として用いることができる。この平滑めっき条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅50〜80g/l、硫酸50〜150g/l、液温40〜50℃、電流密度10〜50A/dmの条件とすることができる。
【0059】
次に、防錆処理層を形成する方法に関して説明する。この防錆処理層は、銅張積層板の製造工程及びプリント配線板の製造過程で支障をきたすことの無いよう、電解銅箔層の表面が酸化したり腐食したりすることを防止するためのものである。防錆処理に用いる手法としては、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等を用いる有機防錆、若しくは亜鉛、クロメート、亜鉛合金等を用いる無機防錆のいずれを採用しても問題は無い。電解銅箔の使用目的に合わせた防錆手法を選択すればよい。有機防錆を施す場合は、有機防錆剤を浸漬塗布、シャワーリング塗布、電着法等の手法を採用することが可能となる。無機防錆を施す場合は、電解で防錆元素を電解銅箔層の表面上に析出させる方法、その他いわゆる置換析出法等を用いること等が適用可能である。例えば、亜鉛防錆処理を行う場合には、ピロ燐酸亜鉛めっき浴、シアン化亜鉛めっき浴、硫酸亜鉛めっき浴等を用いることができる。例えば、ピロ燐酸亜鉛めっき浴であれば、亜鉛濃度が5〜30g/l、ピロ燐酸カリウム濃度が50〜500g/l、液温20〜50℃、pH9〜12、電流密度0.3〜10A/dmの条件とすることができる。
【0060】
そして、シランカップリング剤処理とは、粗化処理、防錆処理等が終了した後に施すものであり、絶縁層構成材との密着性を化学的に向上させるための処理である。ここで言う、シランカップリング剤処理に用いるシランカップリング剤は、特に限定を要するものではなく、使用する絶縁層構成材やプリント配線板製造工程で使用するめっき液等の性状を考慮して、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤等から任意に選択して使用することができる。
【0061】
より具体的には、プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心に選択することが好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることができる。
【0062】
そして、本件発明に係る電解銅箔を用いて、その表面に上記所望の表面処理を施した表面処理銅箔は、その絶縁層構成材料との張り合わせ面の表面粗さ(Rzjis)が2μm以下の低プロファイルを備えることを特徴とする。このような低プロファイルの粗化処理面を備えることで、絶縁層構成材料に張り合わせたとき、実用上支障の無い密着性を確保することができる。そして、基板として実用上支障の無い耐熱特性、耐薬品性、引き剥がし強さを得ることができる。
【0063】
本件発明に係る銅張積層板の形態: 上述の電解銅箔とは、粗化処理、防錆処理等を施していないものであり、この電解銅箔とガラスーエポキシ基材、ガラスーポリイミド基材等のリジット系プリプレグ、ポリイミド樹脂フィルム等のフレキシブル系基材に代表される各種絶縁層構成材料とを、定法により熱間プレス加工する等して張り合わせることで銅張積層板を得ることができる。また、フレキシブル銅張積層板を製造する際には、ポリイミド樹脂基材層をキャスティング法で形成することも可能である。
【0064】
しかしながら、電解銅箔と絶縁層構成材料との密着性を確保するために、当該電解銅箔の接着面に、密着性を向上させることのできる粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理等を適宜施し、この面と絶縁層構成材料とを張り合わせることが多い。このときのロープロファイル接着面の選択に際しては、本件発明に係る電解銅箔の場合には、析出面が光沢面よりも滑らかであるため、いずれの面を張り合わせ面に選択しても構わない。
【0065】
そして、ここで言う銅張積層板とは、いわゆるリジッド系銅張積層板、COFテープキャリア等を含むフレキシブル銅張積層板を含むものである。そして、その製造方法に関しては、公知の方法のいずれを用いても構わないことを明記しておく。以下、本件発明に係る実施例に関して説明する。
【実施例】
【0066】
電解銅箔の製造: この実施例では、硫酸系銅電解液であって、銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/l、表1に記載のSPS又はMPSの濃度、所定の数平均分子量(309、1220、2170、7250)のDDAC重合体濃度、塩素濃度の溶液を調製した。なお、数平均分子量が309のDDAC重合体とは、DDACの2量体を意味するものとして記載している。また、SPS及びMPSはナトリウム塩として添加した。
【0067】
【表1】

【0068】
そして、陰極には表面を#2000の研磨紙を用いて研磨を行って表面粗さをRaで0.20μmに調整したチタン板電極を用い、陽極にはDSAを用いて、液温50℃とし、実施例1〜実施例6では電流密度60A/dmで、実施例7及び実施例8では電流密度52A/dmで、電解した。このようにして、実施例1、3,5,7,8では12μm厚さの電解銅箔5種類を、そして、実施例2,4,6では210μm厚さの電解銅箔3種類を製造し、計8種類の電解銅箔を得た。なお、これら電解銅箔の結晶構造は、厚み方向全体に亘り実質的にランダム配向であった。
【0069】
この電解銅箔の表面粗さ及び光沢度等の測定は以下のようにして行った。析出面の評価結果を表2に示す。なお、前記のチタン板電極の表面粗さ(Raで0.20μm)は、得られた電解銅箔の光沢面を評価して確認した値である。
表面粗さ: 小坂研究所(株)製表面粗さ計SE−3500を用いて、JIS B 0601−1994に基づいて測定し、得られたRzをRzjisの値とした。
光沢度: 日本電色工業株式会社製光沢計VG−2000型を用いて、光沢度の測定方法であるJIS Z 8741−1997に基づいて測定した。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に記載した析出面表面粗さの平均値及び標準偏差は、30点の測定値の平均値及び標準偏差である。そして、光沢度に関しても30点の測定値の平均値及び標準偏差を示している。また、表面処理銅箔の表面粗さとは、粗化処理した後の表面の30点の測定値の平均値を示している。
【0072】
表面処理銅箔の製造: そして、上述の種々の電解銅箔の表面処理として、当該析出面に微細銅粒を析出付着させて粗化処理面を形成し、防錆処理を施した。この粗化処理面の形成の前に、当該電解銅箔の表面を酸洗処理して、清浄化を行った。この酸洗処理条件は、濃度100g/l、液温30℃の希硫酸溶液を用い、浸漬時間30秒とした。
【0073】
酸洗処理の終了後、電解銅箔の析出面に微細銅粒を形成する工程として、析出面上に微細銅粒を析出付着させるためのヤケめっき工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程とを施した。前者の微細銅粒を析出付着させるヤケめっき工程では、銅濃度が15g/l、フリー硫酸濃度が140g/lの硫酸銅系溶液を用い、電解銅箔を陰極とし、陽極にはDSAを用いて液温25℃、電流密度25A/dmの条件で、5秒間電解した。
【0074】
そして、析出面に微細銅粒を付着形成すると、微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程として、平滑めっき条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させた。このときの電解条件は平滑めっき条件とし、銅濃度が70g/l、フリー硫酸濃度が80g/lの硫酸銅溶液を用い、電解銅箔を陰極とし、陽極にはDSAを用いて液温45℃、電流密度25A/dmの条件で、10秒間電解した。
【0075】
上述した粗化処理工程が終了すると、次には当該銅箔の両面に防錆処理を施した、ここでは以下に述べる条件の無機防錆を採用した。硫酸濃度70g/l、亜鉛濃度20g/lの硫酸亜鉛浴を用い、電解銅箔を陰極とし、陽極には亜鉛板を用いて、液温40℃、電流密度15A/dmで5秒間電解し、亜鉛防錆処理を施した。
【0076】
更に、本実施例の場合、前記亜鉛防錆層の上に、電解でクロメート層を形成した。このときの電解条件は、クロム酸5.0g/l、pH 11.5の溶液を用い、電解銅箔を陰極とし、陽極にはSUS板を用いて、液温35℃、電流密度8A/dmで5秒間電解した。
【0077】
以上のように防錆処理が完了すると水洗し、直ちにシランカップリング剤処理槽で、粗化処理面の防錆処理層の上にシランカップリング剤の吸着を行った。このとき用いた溶液組成は、イオン交換水を溶媒として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを5g/lの濃度となるよう加えたものとした。そして、この溶液をシャワーリングにて吹き付けることにより吸着処理した。
【0078】
シランカップリング剤処理が終了すると、電熱器により箔温度が140℃となるよう、雰囲気温度を調整加熱した炉内を4秒かけて通過し、水分を気散させ、シランカップリング剤の縮合反応を促進し、最終的に、厚さ12μmの表面処理電解銅箔5種類と厚さ210μmの表面処理銅箔3種類を得た。この表面処理後の粗化処理面の表面粗さは、12μm厚さの箔と210μm箔とに分けて表2に併記する。
【比較例】
【0079】
[比較例1]
この比較例では、実施例で用いた銅電解液中のDDAC重合体に代えて、単量体のDDACを用いた点が異なるのみで、その他は実施例1〜実施例6と同様の条件を用いて電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面の表面粗さ及び光沢度等の測定結果を表2に実施例と共に示す。その後、実施例1と同様にして表面処理銅箔を得た、その粗化処理面の表面粗さを、表2に実施例と共に示す。
【0080】
[比較例2]
本比較例は、特許文献1に開示の実施例1のトレース実験である。硫酸銅(試薬)と硫酸(試薬)とを純水に溶解し、硫酸銅(5水和物換算)280g/l、フリー硫酸濃度90g/lの水溶液を調製した。これに、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体(日東紡績株式会社製、商品名PAS−A−5、重量平均分子量4000:4ppm)とポリエチレングリコール(平均分子量1000:10ppm)とMPS(1ppm)とを添加し、更に塩化ナトリウムを用いて塩素濃度を20ppmに調整し、硫酸酸性銅めっき液を調製した。
【0081】
そして、陰極に表面を#2000の研磨紙を用いて研磨を行って表面粗さをRaで0.20μmに調整したチタン板電極を用い、陽極には鉛板を用いて、上記の電解液を液温40℃、電流密度50A/dmで電解を行い、12μm厚さ及び210μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面の表面粗さ及び光沢度等の測定結果を表2に実施例と共に示す。
【0082】
その後、この電解銅箔を実施例1と同様に処理して表面処理銅箔を得た。その粗化処理面の表面粗さは、表2に実施例と共に示す。
【0083】
[比較例3]
銅濃度90g/l、フリー硫酸濃度110g/lの硫酸系銅電解液を調製し、活性炭フィルターに通して清浄処理した。ついで、この電解液にMPS−Na(1ppm)と、高分子多糖類としてヒドロキシエチルセルロース(5ppm)及び低分子量膠(数平均分子量1560:4ppm)と、塩素濃度30ppmとなるように、それぞれを添加して電解液を調製した。この電解液を用い、陰極に表面を#2000の研磨紙を用いて研磨を行って表面粗さをRaで0.20μmに調整したチタン板電極を用い、陽極にはDSAを用いて、液温58℃、電流密度50A/dmで電解を行い、12μm厚さ及び210μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の析出面の表面粗さ及び光沢度の測定結果を表2に実施例と共に示す。
【0084】
その後、この電解銅箔を実施例1と同様に処理して表面処理銅箔を得た。その粗化処理面の表面粗さは、表2に実施例と共に示す。
【0085】
<実施例1、3,5と実施例7,8との対比>
ここでは、メルカプト基を持つ化合物であるMPSを用いた場合と、SPSを用いた場合とを比較する。表2から明らかなように、得られた電解銅箔の析出面表面粗さ、光沢度、引張り強さの常態及び加熱後、伸び率の常態及び加熱後、そして表面処理銅箔の表面粗さもほぼ同等である。従って、銅電解液の調製に用いるSPS又はMPSは、MPS単体やMPS−Na等塩類の他SPSとして添加しても、同等の効果が得られることが確認できた。
【0086】
<実施例と比較例との対比>
析出面の表面粗さ: Raで表面粗さを対比した場合には、実施例1〜実施例8で得られた本件発明に係る電解銅箔の析出面と、比較例1〜比較例3で得られた電解銅箔の析出面との差は、平均値及び標準偏差共に大きなものではない。しかしながら、Rzjisで表面粗さを対比すると、比較例で得られた電解銅箔よりも実施例で得られた電解銅箔の方が、平均値の比較から、より低プロファイルな析出面を有している。そして、比較例1と実施例との比較から、DDACの単量体は、DDAC重合体と比較すると、平滑化効果に劣っていることが明らかである。また、標準偏差(及び変動係数)の比較から、実施例で得られた電解銅箔の析出面は、バラツキの少ない安定したプロファイルを示しており、表面の均一性に優れていると言える。そして、これは、箔の厚さによらずに同様の傾向がある。
【0087】
即ち、触針式の粗さ計を用いて測定した、析出面のプロファイル(Rzjis)から判断する限り、比較例1〜比較例3で得られた電解銅箔も良好な低プロファイル電解銅箔の範囲に入ってはいるが、実施例1〜実施例8に係る電解銅箔は、更に均一で優れた低プロファイル化が達成されている。また、比較例2と実施例との対比から、アンモニウム塩の重合体であっても、主鎖が、炭素及び水素のみで構成されているDDAC重合体の方が、均一で優れた低プロファイル化が達成できている。
【0088】
そして、表面処理銅箔で比較しても、電解銅箔の表面粗さ(Rzjis)での対比と同様の結果が得られている。即ち、比較例で得られた電解銅箔を用いた表面処理銅箔の粗化処理面の表面粗さ(Rzjis)は3μm程度を示しているのに対し、実施例1〜実施例8で得られた電解銅箔を用いた表面処理銅箔の粗化処理面では、表面粗さ(Rzjis)は全て2μm以下となっており、より優れた低プロファイルのものが得られている。
【0089】
光沢度: 比較例で得られた電解銅箔の各光沢度の平均値に対し、実施例1〜実施例8で得られた電解銅箔の光沢度はかなり高い値となっており、全く異なる範囲を示している。このことから、比較例1〜比較例3で得られた各電解銅箔と比べ、実施例1〜実施例8で得られた各電解銅箔は、より平坦で鏡面に近い、均一な析出面を備えていると言える。
【0090】
引張り強さ及び伸び率: 好ましい製造条件を用いて得られた実施例の各電解銅箔を、比較例で得られた電解銅箔と比較すると、引張り強さは、常態及び加熱後とも比較例1及び比較例2で得られた電解銅箔と互角である。しかし、比較例3で得られた電解銅箔には、引張り強さに関して明確な差異があり、常態の引張り強さは小さく、加熱により低下するという特徴も有している。そして、伸び率に関しては各比較例との対比において、優れた特性を備えている。特に、加熱後を対比することにより、その差が顕著となる。従って、本件発明に係る電解銅箔は、熱履歴を受ける用途に好ましく用いることのできるものである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本件発明に係る電解銅箔の製造方法を用いて電解銅箔を製造すると、従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔に比べ、更に安定した品質の低プロファイル電解銅箔を効率よく供給することができる。しかも、その製品として得られる電解銅箔は、従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔を遙かに超える平坦な表面を備えている。従って、その析出面に表面処理を施し、粗化処理を施した場合でも、従来に無いレベルの低プロファイルの表面処理銅箔を容易に得ることができる。よって、テープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板やチップ オン フィルム(COF)基板等の、ファインピッチ回路の形成用途に好適である。また、本件発明に係る電解銅箔は、その析出面の表面粗さが光沢面の表面粗さ以下となり、両面共に光沢のある平滑面となる。しかも、従来の低プロファイル電解銅箔に比べ、優れた引張り強さと伸び率とを兼ね備えているため、リチウムイオン二次電池の負極を構成する集電材としての使用にも適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体と塩素とを含む硫酸系銅電解液を電解し電解銅箔を得る製造方法であって、
前記硫酸系銅電解液に含ませる4級アンモニウム塩重合体は、2量体以上のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体を用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法。
【請求項2】
前記硫酸系銅電解液に含ませる4級アンモニウム塩重合体は、数平均分子量300〜10000のジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体である請求項1に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項3】
前記硫酸系銅電解液は、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド又はメルカプト基を持つ化合物である3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸から選択される1種以上を含み、その濃度が0.5ppm〜200ppmである請求項1又は請求項2に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項4】
前記硫酸系銅電解液中の4級アンモニウム塩重合体濃度が1ppm〜150ppmである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度が5ppm〜120ppmである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項6】
前記硫酸系銅電解液を、液温20℃〜60℃、電流密度15A/dm〜90A/dmで電解する請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の製造方法により得られる電解銅箔であって、
その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm以下の低プロファイルであり、且つ、当該析出面の光沢度(Gs(60°))が400以上であることを特徴とする電解銅箔。
【請求項8】
請求項7に記載の電解銅箔を用いて得られる銅張積層板。
【請求項9】
請求項7に係る電解銅箔の析出面に粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか1種又は2種以上を行った表面処理銅箔。
【請求項10】
前記表面処理銅箔の絶縁樹脂基材との張り合わせ面の表面粗さ(Rzjis)が2μm以下の低プロファイルであることを特徴とする請求項9に記載の表面処理銅箔。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の表面処理銅箔を用いて得られる銅張積層板。