説明

露光用マスクおよびそれを用いるパターン形成方法

【課題】一枚の露光用マスクを、複数の異なるパターンのフォトリソグラフィー法による製品を作製する露光工程に使用可能とし、露光工程での露光用マスクパターンの切り換えを容易に行える露光用マスクを提供すること。
【解決手段】周囲が遮光部1に囲まれた固定開口部2を有する複数の開口板3を積層して、各開口板を独立に固定開口部平面内に可動制御して開口板相互の位置関係を可変とすることにより、固定開口部平面に垂直な方向の積層体開口部21の形状を多様に限定できるシャッター素子5を構成して、シャッター素子により露光工程における光透過領域を選択する機能を付与した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSシャッターを用いた露光用マスクと、それを用いるパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置を始めとする平面型表示装置をカラー表示するために使用するカラーフィルタを透明基板上に効率よく製造する技術として、顔料分散タイプの感光性着色透明樹脂材料を基板に塗布、乾燥後、露光、現像、硬化のフォトリソグラフィ法の手法により形成することが一般に行われている。フォトリソグラフィ法では、光照射部分が選択的に硬化または分解する塗布材料の特性に応じて、選択的に光を透過する遮光パターンを予め形成した露光用マスクを露光装置に設置して、材料塗布済みの基板と露光用マスクとの正確な位置合わせにより、選択的に露光する工程が重要である。
【0003】
前記露光用マスクとしては、平坦で無欠陥であり、高い光透過率を有し、熱に対して低膨張のガラス基板表面に、金属クロム等の薄膜遮光性パターンを高精度で形成して用いる。例えば、大画面の表示装置に使用するカラーフィルタを、多面付けした大サイズのマザーガラス基板にて製造する場合、一括露光用のマスクは、極めて大きく重いものになるとともに、製造技術的難度も格段に高くなるので、マスク製造コストは飛躍的に増大する。上記の難点を解決するために、分割露光する小型の露光用マスクを複数枚準備して、位置合わせを効率よく行って、露光工程を短時間で実施するための工夫が提案されてきた(特許文献1)。
【0004】
然るに、近年は、多品種の製品を切り換えて製造する場合が増え、各品種ごとに必要な露光用マスクのセット内容が異なるため、一定期間内の製造に用いるために準備する露光用マスクの数が膨大になり、露光用マスク製作用初期費用の増大、マスク保管および運用の煩雑さ、マスク品種交換時間の増大、マスク表面のキズ欠陥による交換頻度の増大、等が生じて、カラーフィルタ製造工程上の負担が増加している。また、カラーフィルタに限らず、多種類のパターン形成を伴う多品種の製品をフォトリソグラフィ法で作る上で、露光用マスクの製作とそれを用いる露光工程の負荷が益々比重を増している。
【0005】
一方、半導体集積回路作製技術を基本に用いて、立体形状や可動構造を形成するデバイスとして、近年、多くの試みが提案されているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)があり、機構要素部品やセンサ、アクチュエータ、等の各種要素への応用が検討されている。機械式の表示装置として、微小、高速、低消費電力のシャッター機能を有する光変調器を複合した装置も、特許文献2に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−246025号公報
【特許文献2】特開2008−197668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、カラーフィルタ製造工程等のフォトリソグラフィー法の露光工程で用いる露光用マスクに関わる前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、一枚の露光用マスクを、複数の異なるパターンのフォトリソグラフィー法によ
る製品を作製する露光工程に使用可能とし、露光工程での露光用マスクパターンの切り換えを容易に行える露光用マスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、周囲が遮光部に囲まれた固定開口部を有する複数の開口板を積層して、各開口板を独立に固定開口部平面内に可動制御して開口板相互の位置関係を可変とすることにより、固定開口部平面に垂直な方向の積層体開口部の形状を多様に限定できるシャッター素子を構成して、シャッター素子により露光工程における光透過領域を選択する機能を付与したことを特徴とする露光用マスクである。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記シャッター素子が、シリコンの微細加工品からなることを特徴とする請求項1に記載の露光用マスクである。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記シャッター素子を構成する開口板を可動制御する力として静電力を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の露光用マスクである。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記シャッター素子を平面上の縦横に複数個整列配置し、前記各開口板を独立に可動制御するための制御マトリクスを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の露光用マスクである。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の露光用マスクを用いて、フォトリソグラフィー法における露光工程を実施することを特徴とするパターン形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、独立した開口板を平面上で積層して独立可動制御することにより、光の透過領域を多様に限定できるシャッター素子からなる露光用マスクを提供するので、一枚の露光用マスクを、複数の異なるパターンのフォトリソグラフィー法による製品を作製する露光工程に使用可能とし、露光工程での露光用マスクパターンの切り換えを容易に行うことを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の露光用マスクに用いられるシャッター素子の構成を説明するための平面模式図である。
【図2】本発明の露光用マスクの一例を示す概念図である。
【図3】本発明による選択された光透過領域を通して露光される状態を説明するための断面模式図である。
【図4】本発明の露光用マスクの他の例を示す概念図である。
【図5】本発明のパターン形成方法における露光工程の装置配置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に従って、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の露光用マスクに用いられるシャッター素子の構成を説明するための平面模式図である。図1(a)、(b)は、周囲が遮光部1に囲まれた固定開口部2を有する複数の開口板3を示し、図1(c1)、(c2)は、上記図1(a)、(b)に示した各開口板3を積層したシャッター素子5の異なる態様を示す。すなわち、各開口板3を独立に、開口板の可動制御機構4により、固定開口部平面内に可動制御して、積層した開口板
相互の位置関係を可変とすることにより、固定開口部平面に垂直な方向の積層体開口部21の形状を狭めたり(c1)、広めたり(c2)して、多様に限定できるシャッター素子の例がそれぞれ図1(c1)、(c2)である。上記のように構成したシャッター素子5を用いて、露光工程における光透過領域を選択する機能を付与した露光用マスクを形成することができる。なお、本例では、図1(a)、(b)の2枚の開口板を積層してシャッター素子5を形成する例を示しているが、積層する開口板を3枚以上としても良い。
【0016】
前記遮光部1に囲まれた固定開口部2と可動制御機構4を有する開口板3は、シリコンの微細加工技術を主要技術としたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)関連技術により製造することができ、本例のシャッター素子5は、シリコンの微細加工品からなる。図1(a)、(b)において、複数の固定開口部2を囲む一点鎖線の内外の位置関係を移動する目的で、可動制御機構4をアクチュエータとして利用する。
【0017】
前記アクチュエータとしての可動制御機構4は、静電力を用いて駆動することができるが、スプリング機能を有する弾性復元機構として働かせることもでき、これらの力を組み合わせて相反する向きに力をバランスさせることができる。本例では、前記開口板を積層して構成したシャッター素子5の積層体開口部21の形状の制御は、積層した個々の開口板の可動制御機構4の静電力による制御によって、全開から全閉までの間の多様に限定できる形状に任意に設定できる。なお、開口板の可動制御機構4は、開口板3を一方向に動かすように図示されているが、限定されない。あるいは、一方向にのみ動かす開口板の方が構造が単純にできるので、一方向にのみ動かす3枚の開口板を積層してシャッター素子5を形成し、内1枚の開口板のみが他の2枚の開口板とは垂直な一方向に可動とする構成にしても良い。
【0018】
露光用マスクに用いられるシャッター素子の数は、特に制約されない。例えば、本発明の露光用マスク10の一例を示す概念図である図2に示すように、形状を多様に限定できる積層体開口部21を有するシャッター素子5を、平面上の縦横に複数個整列配置することができる。本例の配置の場合には、前記各開口板とそれらからなるシャッター素子の積層体開口部21を独立に可動制御するために、制御マトリクスを有することができる。
【0019】
前記制御マトリクスは、各種平面型表示装置における画素駆動を行うためのスイッチング素子と同様のスイッチング機能と、シャッター素子の開閉制御のための静電力供給のための電極配線からなる。露光工程の直前に、露光用マスクとして必要とされるパターン形状に対応して、露光用マスクの周辺部に別に設けた外部接続端子(図示せず)を通じて、制御マトリクスにより各シャッター素子の開度の制御も含めた開閉制御を行う。すなわち、各シャッター素子の開閉制御を指示するソフトにより、露光用のパターン設計情報から定式化された開閉信号が予め準備され、後述の露光工程におけるマスク待機部にて、具体的な開閉信号が露光用マスクに入力されて、各シャッター素子のアクチュエータとしての可動制御機構が独立して働くことにより、露光用のパターンが露光用マスクにセットされる。
【0020】
図3は、本発明による選択された光透過領域を通して露光される状態を説明するための断面模式図である。2枚の積層した開口板からなるシャッター素子5が、図に示すように積層体開口部21を形成する例において、選択された光透過領域が積層体開口部21で与えられる。上記のようなシャッター素子からなる露光用マスクを用いて、フォトリソグラフィー法における露光工程を実施する場合、図面上方の光源6からの出射光71がシャッター素子5の上方に垂直に入り、選択された光透過領域である積層体開口部21を通過した透過照射光72が、パターン形成基板81の表面に均一塗布された感光性樹脂層82を垂直に照射する。露光用マスクのパターンの光透過性と照射された光による現像後のパタ
ーンとの関係は、通常の遮光パターンを固定形成した露光用マスクの場合と同様である。すなわち、感光性樹脂層82が光硬化性を有するネガタイプのレジストであれば、露光後の現像工程で、選択された光透過領域である積層体開口部21に対応するパターンのみが残り、他は溶解除去される。また、感光性樹脂層82が光分解性を有するポジタイプのレジストであれば、露光後の現像工程で、選択された光透過領域である積層体開口部21に対応するパターンのみが溶解除去し、他は残される。
【0021】
図3におけるシャッター素子5からなる露光用マスクを用いることにより、光透過領域を限定する積層体開口部21の形状を、形成したいパターンに応じて露光に先立って設定できるので、一枚の露光用マスクを、複数の異なるパターンのフォトリソグラフィー法による製品を作製する露光工程に使用可能とし、露光工程での露光用マスクパターンの切り換えを容易に行うことを可能にする。また、液晶表示装置等の一般的な表示装置を露光用マスクとして用い、複数の異なるパターンに切り換えて、フォトリソグラフィー法による製品を作製する露光工程に使用することは原理的に可能であるが、本発明のシャッター素子からなる露光用マスクにおいて開口板の遮光部によりマスクとしての遮光部を作る場合と比較して、遮光濃度が不足で明暗のコントラストが不充分であり、ガラス基板の厚さ等の影響で露光用マスクとしては画面上のパターン精細化を劣化させる要因もあるので、表示装置の露光用マスクへの利用は事実上困難である。
【0022】
また、本発明のシャッター素子からなる露光用マスクにおいて、パターン変更する場合の積層体開口部21の形状を切り換える速度は、表示装置のような高速での切り換えを必要としない。従って、シャッター素子を平面上の縦横に複数個整列配置し、前記各開口板を独立に可動制御するための制御マトリクスを用いての信号処理は低速でも構わない。その結果、制御マトリクスを作製する上での材料面や製造条件面の制約が小さく、容易に作製することができる。
【0023】
図4は、本発明の露光用マスクの他の例を示す概念図である。
形状を多様に限定できる積層体開口部21を有するシャッター素子5を、平面上の縦横に複数個整列配置することは、図2に示した例と同様である。また、前記各開口板とそれらからなるシャッター素子の積層体開口部21を独立に可動制御するために、制御マトリクスを有することも図2に示した例と同様である。本例の配置の場合には、一枚の露光用マスクの中で、点線枠で囲んだパターンAの表示領域11とパターンBの表示領域12とを自由に共存させることもできる。
【0024】
なお、本発明の露光用マスクに設定できるパターンは、シャッター素子を構成する各開口板3に形成する固定開口部2の形状を選択することにより、多種可能となる。特に液晶表示装置を始めとする平面型表示装置用のカラーフィルタをフォトリソグラフィ法で製造するための露光用マスクとして選択できる。また、必要に応じて、通常の遮光パターンを固定形成した露光用マスクと併用して用いることができる。
【0025】
図5は、本発明のパターン形成方法における露光工程の装置配置の一例を示す概念図である。感光性樹脂塗布済みパターン形成基板80を、図の右側から破線矢印の向きに投入し、基板温調部9で温度制御された基板を基板搬送系8により左側へ送り、露光ステージ7上の所定の位置に載置する。本発明の露光用マスク10を予めマスク待機部15に準備し、前述の積層体開口部21の形状を設定パターンに応じて形成しておく。パターン形成基板80を露光ステージ上に載置した後に、露光用マスク10をマスク待機部15から露光ステージ7のパターン形成基板80に重ねて設置し、通常の位置合わせ手段を行った後に露光用マスク10を通して感光性樹脂塗布済みパターン形成基板80に露光する。露光を終えたパターン形成基板80は、図の下向き破線矢印のように移動して、露光ステージ7から待避する。露光用マスク10は、パターン変更がなければ、次のパターン形成基板
80が到着するまで待機した後、同様な露光工程を繰り返すが、パターン変更がある場合には、一旦マスク待機部15に戻って、積層体開口部21の新しい形状を次の設定パターンに応じて改めて形成しておく。
【0026】
本発明において、シャッター素子を構成する材料としてシリコンを使うことは、前述のMEMS技術で実績があるだけでなく、ガラスより軽くて撓み難いため好都合である。熱的な性質も問題なく、光の透過部が開口部であることは透過率の点で最良である。遮光部において、シリコン表面での散乱光や回折現象の影響が場合により考えられるので、シリコン表面の平滑コーティングが有効である。コーティング材料として、例えば一般の露光用マスクに用いられる、金属クロムと酸化クロムの2層膜からなる低反射クロム膜が光学的には適している。しかし、開口板を可動制御する力として静電力を用いる場合、表面の導電性の低い材料が好ましいので、有機遮光膜をシリコン表面にコーティングすることが望ましい。また、開口板の帯電を必要以上に高めることは、開口板の適正な制御を妨げるので、除電のためのイオナイザーを作動させてリセットすることが運用上好ましい。
【符号の説明】
【0027】
1・・・遮光部
2・・・固定開口部
3・・・開口板
4・・・開口板の可動制御機構
5・・・シャッター素子
6・・・光源
7・・・露光ステージ
8・・・基板搬送系
9・・・基板温調部
10・・・露光用マスク
11・・・パターンAの表示領域
12・・・パターンBの表示領域
15・・・マスク待機部
21・・・積層体開口部
71・・・出射光
72・・・透過照射光
80・・・感光性樹脂塗布済みパターン形成基板
81・・・パターン形成基板
82・・・感光性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲が遮光部に囲まれた固定開口部を有する複数の開口板を積層して、各開口板を独立に固定開口部平面内に可動制御して開口板相互の位置関係を可変とすることにより、固定開口部平面に垂直な方向の積層体開口部の形状を多様に限定できるシャッター素子を構成して、シャッター素子により露光工程における光透過領域を選択する機能を付与したことを特徴とする露光用マスク。
【請求項2】
前記シャッター素子が、シリコンの微細加工品からなることを特徴とする請求項1に記載の露光用マスク。
【請求項3】
前記シャッター素子を構成する開口板を可動制御する力として静電力を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の露光用マスク。
【請求項4】
前記シャッター素子を平面上の縦横に複数個整列配置し、前記各開口板を独立に可動制御するための制御マトリクスを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の露光用マスク。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の露光用マスクを用いて、フォトリソグラフィー法における露光工程を実施することを特徴とするパターン形成方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−255965(P2012−255965A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129931(P2011−129931)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】