説明

露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法およびモニターシステム、該モニターシステムを備えた露光用マスク洗浄装置、並びに残留イオン濃度を保証した露光用マスク

【課題】露光用マスクの製造において、クロスコンタミネーションの影響を生じさせずに、洗浄後のマスク1枚毎の表面に残留するイオン濃度をモニターする方法およびモニターシステム、並びに1枚毎にイオン濃度値を保証した露光用マスクを提供する。
【解決手段】露光用マスクの洗浄後に、マスク表面に残留するイオン濃度のモニター方法であって、マスク洗浄装置内で、マスクを洗浄後に、マスク表面に純水または温純水を給水して盛り、表面張力で純水または温純水を一定時間保持後、マスク1枚毎にマスク表面から純水または温純水を回収し、回収した純水または温純水を順にイオン分析装置へ圧送し、マスク1枚毎に回収した純水または温純水のイオン濃度の分析を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスのリソグラフィ工程で用いられる露光用マスク(以下、マスクとも記す)の表面に残留するイオン濃度のモニター方法および該モニター方法を用いたモニターシステム、該モニターシステムを備えた露光用マスク洗浄装置、並びに残留イオン濃度を保証した露光用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
露光用マスクは、半導体デバイスの原版として用いるので、マスクに付着した塵埃やシミなどの異物がウェハ上に転写されることを防止するため、マスクを極めて清浄な表面とする洗浄技術が求められている。
【0003】
近年、LSIパターンの微細化・高集積化に伴い、パターン形成に用いるフォトリソグラフィ技術においては、露光装置の光源が、高圧水銀灯のg線(波長436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザ(248nm)、ArFエキシマレーザ(193nm)、さらにEUV(極端紫外光;13.5nm程度)の開発へと短波長化が進んでいる。エキシマレーザなどの短波長の露光光源は、短波長で高出力のために光のエネルギーが高く、露光に用いられているマスク上に時間の経過と共に成長する異物が生じてマスクを汚染するという現象があり、この成長性異物(ヘイズ、Haze、曇り、とも称する。)は露光光が短波長であるほど顕著となることが指摘されている。マスク上に生じた成長性異物がウェハ上に転写されるほど大きくなると、共通欠陥となって半導体素子の回路の断線やショートを引き起こしてしまう。
【0004】
例えば、エキシマレーザの露光光源を用いたときに露光用マスクを汚染する成長性異物の発生は、その大きな要因の一つとして、マスク製造後にマスク表面に残存するマスク洗浄などに用いた酸性物質である硫酸イオンと、マスク使用環境などに存在するアンモニアなどの塩基性物質とが、パターン転写の際のエキシマレーザ照射により反応を起こし、硫酸アンモニウム等を生じることにより異物となると言われている(例えば、特許文献1参照)。成長性異物の核となる硫酸イオンなどの物質は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いたマスク検査装置でも検出することができない。
【0005】
このため、従来、マスク洗浄に用いていた硫酸過水(硫酸と過酸化水素水の混合液)、あるいはアンモニア過水(アンモニア水と過酸化水素水の混合液)などの溶液の使用を低減あるいは中止し、これに代わって、純水にオゾンや水素といった特定の気体をわずかに溶解しただけのオゾン水や水素水などによる硫酸を使用しない洗浄技術も開発されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0006】
マスク品質を低下させ、マスクを使用できなくする上記の成長性異物の問題に対処するためには、マスク洗浄後のマスク表面に残留する酸イオンやアルカリイオンなどをモニターする必要があり、マスク表面に付着しているイオンを定性・定量分析し、もしもマスクの表面イオン濃度に異常がある場合には、そのマスクを半導体製造工程で使用しないとするマスク管理方法が求められている。
【0007】
従来、マスク表面の残留イオンのモニター方法としては、いくつかの方法が知られている。第1の方法は、表面イオン濃度の管理用マスクを用いて、表面イオン濃度を測定する方法である。第2の方法は、マスク表面のイオン抽出方法として、マスクを丸ごとイオンの抽出液(通常は純水を用いる)に浸漬し、マスクを抽出液ごと加温し、イオンを抽出して表面イオン濃度を測定する方法である。
【0008】
また、半導体ウェハの製造分野においては、金属汚染を管理するためにオンラインのモニター方法として、ウェハに直接接触する液体中の金属濃度を所定値以下に管理することによって、製造されるウェハ表面の金属濃度を管理する方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0009】
特許文献5には、レチクルなどを洗浄後にその検査面に残留する汚染を分析する際に、検査面と液とを接触させて、サンプリング液を抽出するサンプリングモジュールと、サンプリング液から残留する汚染物質を分析する分析器とを備え、上記のサンプリングモジュールは、検査面が収容可能な収容空間が形成された液槽と、液槽の収容空間に液を供給する液供給ノズルとを備えた汚染分析装置および汚染分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−51880号公報
【特許文献2】特開平10−62965号公報
【特許文献3】特開2000−330262号公報
【特許文献4】特開2002−270568号公報
【特許文献5】特開2008−197109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の管理用マスクを用いる第1の方法は、計測された残留イオン量はあくまでも管理用マスクにおけるイオン濃度であり、露光用マスク1枚毎のマスクの表面イオン濃度のモニターが出来ていないという問題があり、直接製品をモニターしている訳ではないために、個別の露光用マスクの表面残留イオン濃度に異常が無いと保証することができない問題があった。
【0012】
また、マスクを丸ごと純水などのイオンの抽出液に浸漬する第2の方法は、露光用マスクを丸ごと抽出液に浸漬した場合、加温された抽出液によりマスクへのダメージや汚れが発生し、例えば、モリブデンシリサイド(MoSi)系の材料を用いた位相シフト型マスクの場合には、抽出液の条件によりMoSi膜の膜減りが生じるという問題があった。また、丸ごと抽出液に浸漬するために、分析したい部位以外からのクロスコンタミネーションの影響を受けて汚染されるという問題もあった。一方、抽出液の抽出条件を緩和させて常温とした場合には、マスク表面の微量な残留イオン成分を抽出液へ溶出させることができないという問題があった。
【0013】
また、特許文献4に記載されたモニター方法は、測定対象はマスクではなく半導体基板であるが、試料に直接接触する液体中の金属(イオン)濃度を測定するので、測定対象の異なる部位からのクロスコンタミネーションによる汚染が避けられないこと、測定対象の1枚毎の濃度値が不明であることなどの問題があった。
【0014】
特許文献5に記載された汚染分析装置および汚染分析方法は、レチクルなどの検査対象物の検査面を液槽に浸漬する浸漬方式を用いており、液槽装置からのクロスコンタミネーションを避けることはできないという問題があった。また、引用文献5の図1に示されるように、イオン濃度を測るためのサンプリング液を抽出するサンプリングモジュールは洗浄装置の外に設けられており、汚染分析装置の一部を構成するものである。引用文献5に記載された汚染分析方法は、洗浄が完了したレチクルの中から選択されたレチクルを汚染分析装置に移送し、サンプリング液を抽出し分析する方法であり、レチクル1枚毎にイオン濃度を測定するのではないため、マスク1枚毎の残留イオン濃度は不明であるという問題があった。また、引用文献5の方法では、洗浄が完了したレチクルをサンプリングモジュールに搬送するときに、搬送時のクロスコンタミネーションによる汚染の危険があるという問題があった。
【0015】
上記のように、従来の露光用マスクは、マスク1枚毎にマスク表面に残留しているイオン濃度が不明であり、半導体製造時に成長性異物によるトラブルが生じても、定量的かつ定性的な調査が困難であるという問題があった。
【0016】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、露光用マスクの製造において、クロスコンタミネーションの影響を生じさせずに、洗浄後のマスク1枚毎の表面に残留するイオン濃度をオンラインでモニターする方法および該モニター方法を用いたモニターシステム、該モニターシステムを備えた露光用マスク洗浄装置、並びに1枚毎に表面に残留するイオン濃度値を保証した露光用マスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法は、露光用マスクの洗浄後に、前記マスク表面に残留するイオン濃度のモニター方法であって、(1)前記マスクを水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置内で、前記マスクを洗浄後に、前記水平に保持したマスク表面に純水または温純水を給水して盛り、表面張力で前記純水または温純水を保持する工程と、(2)前記純水または温純水を一定時間前記マスク表面に保持後、前記マスク1枚毎に前記マスク表面から前記純水または温純水を回収する工程と、(3)前記マスク1枚毎に回収した前記純水または温純水を順にイオン分析装置へ圧送する工程と、(4)前記イオン分析装置にて前記マスク1枚毎に回収した前記純水または温純水のイオン濃度の分析を自動で行う工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明のイオン濃度のモニター方法により、マスク1枚毎の表面イオン濃度をオンラインで測定することが可能となり、表面イオン濃度の値が1枚毎に付与されたマスクを提供することができる。
【0018】
本発明の請求項2に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法は、請求項1に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法において、前記工程(1)に加えて、前記マスクおよび前記マスク表面に保持された前記純水または温純水を加温する工程を有することを特徴とするものである。本発明のイオン濃度のモニター方法により、洗浄装置内でマスク表面に純水または温純水を表面張力で保持し、加温して、純水または温純水をともに加温した温純水とし、マスク表面の微量なイオンを効率よく抽出でき、より高精度なモニターが可能となる。
【0019】
本発明の請求項3に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法は、請求項2に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法において、前記マスクの裏面側に温純水を当て、前記マスクおよび前記マスク表面に保持された前記純水または温純水を加温することを特徴とするものである。マスク裏面から温純水で加温する本発明のイオン濃度のモニター方法により、マスク表面およびマスク裏面を清浄な状態に維持しながら、マスク表面に保持された純水または温純水を均一に加温し、マスク表面の微量なイオンを効率よく抽出でき、より高精度なモニターが可能となる。
【0020】
本発明の請求項4に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法は、請求項1から請求項3までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法において、前記工程(2)において、チューブを用いて、前記マスク1枚毎に前記マスク表面から前記純水または温純水を吸い上げて回収することを特徴とするものである。マスク表面に盛った純水または温純水の回収にチューブを用いて吸い上げることにより、分析したい部位以外からのクロスコンタミネーションによる回収した純水または温純水の汚染を避けることができ、信頼性の高い分析が可能となる。
【0021】
本発明の請求項5に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法は、請求項1から請求項4までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法において、前記イオン分析装置が、イオンクロマトグラフ装置、キャピラリー電気泳動装置およびICPマススペクトル装置のうちのいずれかの装置であることを特徴とするものである。検出するイオンに適したイオン分析装置を用いることにより、高精度の残留イオン分析が可能となる。
【0022】
本発明の請求項6に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法は、請求項1から請求項5までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法において、前記マスク表面でモニターする残留イオンは、硫酸イオン、シュウ酸イオン、アンモニウムイオンの中から選ばれた少なくとも1種のイオンを含むものであることを特徴とするものである。マスク表面に残留する硫酸イオン濃度などのイオンを測定することにより、成長性異物などによるトラブル発生を避けたマスク管理が可能となる。
【0023】
本発明の請求項7に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムは、露光用マスクの洗浄後に、前記マスク表面に残留するイオン濃度のモニターシステムであって、前記マスクを水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置内で、前記マスクを洗浄後に、前記水平に保持したマスク表面に純水または温純水を給水して盛り、表面張力で前記純水または温純水を保持する給水保持手段と、前記純水または温純水を一定時間前記マスク表面に保持後、前記マスク1枚毎に前記マスク表面から前記純水または温純水を回収する回収手段と、前記マスク1枚毎に回収した純水または温純水を順にイオン分析装置へ圧送する圧送手段と、前記イオン分析装置にて前記マスク1枚毎に回収した純水または温純水のイオン濃度の分析を自動で行うイオン分析手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0024】
本発明の請求項8に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムは、請求項7に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムにおいて、前記給水保持手段とともに、前記マスクおよび前記保持されたマスク表面の前記純水または温純水を加温する加温手段を有することを特徴とするものである。
【0025】
本発明の請求項9に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムは、請求項8に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムにおいて、前記加温手段が、前記マスクの裏面側に温純水を当てる手段であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の請求項10に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムは、請求項7から請求項9までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムにおいて、前記回収手段が、チューブを用いて前記純水または温純水を吸い上げて回収する手段であることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の請求項11に記載の発明に係る露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムは、請求項7から請求項10までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムにおいて、前記イオン分析装置が、イオンクロマトグラフ装置、キャピラリー電気泳動装置およびICPマススペクトル装置のうちのいずれかの装置であることを特徴とするものである。
【0028】
本発明の請求項12に記載の発明に係る露光用マスク洗浄装置は、前記マスク洗浄装置が、請求項7から請求項11までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターモニターシステムを備えたことを特徴とするものである。
【0029】
本発明の請求項13に記載の発明に係る露光用マスクは、露光用マスクであって、前記マスクが、マスク1枚毎にマスク表面に残留しているイオン濃度の値が保証されていることを特徴とするものである。本発明の露光用マスクは、例えば、マスク表面に残留するイオンを硫酸イオンとした場合、マスク1枚毎に付与された残留硫酸イオン濃度の値を所定値以下に管理し、所定値を超えたマスクの半導体製造工程への流出を防止することができる。また、半導体製造工程において、残留イオンの影響に対するマスク管理が容易になる。
【0030】
本発明の請求項14に記載の発明に係る露光用マスクは、請求項13に記載のイオン濃度の値が、請求項1から請求項6までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法により測定した値であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の露光用マスクの表面イオン濃度モニター方法によれば、マスク洗浄装置でマスクを洗浄した後に、マスク洗浄装置内でマスク表面に純水または温純水を表面張力で保持し、その純水または温純水をチューブを用いて回収し、イオンクロマトグラフなどの分析手法により分析することで、クロスコンタミネーションの影響を生じさせずに、マスク1枚毎の表面イオン濃度をオンラインで測定することが可能となる。さらに、マスク表面に盛る純水または温純水を加温することにより、マスク表面の微量な残留イオンを効率よく抽出でき、より高精度なモニターが可能となる。また、残留イオンの値が異常なマスクの半導体製造工程への流出を防止することができる。
【0032】
本発明の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムによれば、従来のマスクの出荷前の最終洗浄装置内に本発明のモニターシステムを組み込むことができ、オンラインによりマスク1枚毎に残留イオン量を保証したマスクのモニターシステムが可能となる。
【0033】
本発明の露光用マスク洗浄装置によれば、マスク洗浄装置が上記の残留イオン濃度のモニターシステムを備えることにより、マスク最終洗浄ラインでマスク1枚毎に残留イオン量を保証したマスクを提供することが可能となる。
【0034】
本発明の露光用マスクによれば、マスク1枚毎にマスク表面に残留するイオン濃度の値が付与され品質保証されたマスクを提供することができ、残留イオンの影響に対するマスク管理が容易になり、半導体の生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の露光用マスクの表面の残留イオン濃度モニター方法およびモニターシステム、該モニターシステムを備えたマスク洗浄装置を説明するためのマスク洗浄実施フローの一実施形態を示すフロー図である。
【図2】本発明の露光用マスクの表面イオン濃度モニター方法およびモニターシステムの一例を説明するための断面模式図である。
【図3】本発明の露光用マスクの表面イオン濃度モニター方法およびモニターシステムとイオンクロマトグラフ装置との関係を示す図である。
【図4】本発明の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムを備えたマスク洗浄装置の一実施形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0037】
(露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法およびモニターシステム、該モニターシステムを備えたマスク洗浄装置)
図1は、本発明の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法およびモニターシステム、該モニターシステムを備えたマスク洗浄装置を説明するためのマスク洗浄実施フローの一実施形態を示すフロー図である。
【0038】
本発明において、表面イオン濃度のモニターシステムを備えるためのマスク洗浄装置としては、従来露光用マスクの洗浄装置として用いられているスピン式洗浄装置を基本とするのが好ましい。スピン式洗浄装置は、洗浄した異物の再付着が極めて少ないという利点を有するからである。スピン式洗浄装置において、マスクは、スピンナー装置の回転軸上に設置されたマスク保持冶具の上に、水平状態で保持される。マスクはマスク中央を軸として回転し、マスクの上に設けられたノズルから吹き出した洗浄液が回転するマスク上に吐出され、マスク上の異物を溶解し、遠心力によりマスクの外に排出する。この場合、基本的には、洗浄液は使い捨てにするため、マスクの洗浄した異物による再汚染の問題は生じない。上記において、洗浄液は常温あるいは加温してマスク上に吐出される。また、マスク表面を洗浄中、必要に応じてマスクの裏面側を超純水で洗浄することも行われる。
【0039】
図1に示すマスク洗浄フローは、露光用マスクの最終洗浄工程に用いられる洗浄フローの一例であり、ロード11と、薬液洗浄ステップ12と、純水によるリンスステップ13と、超音波などの物理洗浄ステップ14と、純水によるリンスステップ15と、イオン濃度モニターステップ16と、乾燥ステップ17と、アンロード18という流れで洗浄される。
【0040】
ロード11にパターン面を上にしてセットされたマスクは、薬液洗浄ステップ12で洗浄されて、マスク表面のレジストなどの有機物や金属不純物などを溶解もしくは剥離除去する。薬液としては、例えば、加温された硫酸過水(硫酸と過酸化水素水の混合液)などが用いられる。この工程でマスク表面の濡れ性が改善され、以後の洗浄効率が高められる。上記の薬液洗浄ステップ12において、硫酸イオンなどの酸イオンがマスク上に残留するのを避け、硫酸を使用しない場合には、オゾン水などの薬液を使用することもできる。
【0041】
また、図1には示してないが、薬液洗浄ステップ12の前に、エキシマUV光照射ステップを設けて、マスク表面のレジストなどの有機物を光分解させて以後の洗浄効率をより向上させる方法も本発明に適用できる。
【0042】
次に、リンスステップ13で純水によりリンスし、硫酸などの薬液を除去する。リンスに用いる純水は加温した温純水であってもよい。
【0043】
次に、物理洗浄ステップ14で、マスク表面を物理的に洗浄し、マスク表面に付着した異物を除去する。物理洗浄としては、洗剤を用いた回転ブラシによるスクラブ洗浄、2流体洗浄、あるいはい超音波洗浄などが適用できる。超音波洗浄においては、加温したアンモニア過水(アンモニアと過酸化水素水の混合液)などを用いて超音波洗浄することもできる。上記の物理洗浄ステップ14において、アンモニウムイオンなどのアルカリイオンがマスク上に残留するのを避けるため、アルカリ性薬品を使用しない場合には、純水のみを用いて、あるいは洗剤を加えた純水を用いて、あるいは水素ガス溶解水を用いて物理洗浄を行うこともできる。
【0044】
次に第2のリンスステップ15で、純水によりリンスし、洗浄に用いた洗剤あるいはアンモニア過水などを除去する。リンスに用いる純水は加温した温純水であってもよい。リンスにおいては、乾燥ステップ17におけるスピンドライ方式による乾燥を考慮して、通常、スピンナー上にマスクをセットしてリンスするのが好ましい。
【0045】
リンスを終了した洗浄後のマスクは、マスク洗浄装置内のイオン濃度モニターステップ16で水平に保持された状態で、マスク表面に純水または温純水を給水して盛られ、一定時間、表面張力により上記の盛られた純水または温純水がマスク表面に保持される。上記の工程において、物理洗浄後のリンスステップ15とイオン濃度モニターステップ16は、マスクを同じ洗浄槽内の同じスピンナー上に保持して、リンスとイオン濃度モニターを行うことも可能である。
次に、イオン濃度モニターステップ16について詳しく説明する。
【0046】
図2は、本発明の一実施形態の例を説明するためのイオン濃度モニターステップ16のモニター断面模式図である。マスクを水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置内のイオン濃度モニターステップ16において、スピンナー21上に純水でリンスした後のマスク22を保持し、給水管23から純水または温純水を給水してマスク22表面の全面を覆うように盛り、表面張力で盛られた純水または温純水24を所定時間保持する給水保持手段を備える。純水または温純水の滴下量としては、純水または温純水がマスク表面の全面を覆って均一に広がればよいので、マスクの大きさや形状などに依存するが、例えば、6インチ角のマスクならば数10mlでマスク表面の全面に均一に広げることができる。
【0047】
マスク22上に盛られた純水または温純水24を所定時間保持するので、給水および保持しているときのスピンナー21の回転数は、0回転またはマスク22上から純水または温純水24が流れ落ちない程度の数rpm〜数10rpmの低速回転が好ましい。
【0048】
本発明において、純水は20℃〜25℃の範囲の常温の超純水を意味し、温純水は液温が好ましくは60℃〜95℃の範囲、より好ましくは80℃〜90℃の範囲の温められた超純水を意味するものである。
【0049】
本発明においては、水平に保持したマスク22の表面(上面側)に純水または温純水24を保持するとともに、加温手段としてマスク22の裏面(下面側)から温純水25を当て、マスク22、およびマスク表面に盛られた純水または温純水24を加温するのが好ましい。加温は、純水または温純水24をマスク22上に盛る前からあらかじめマスク22を温めておいてもよいし、純水または温純水24をマスク22上に盛ると同時であってもよい。加温手段は、マスクの表面側から赤外線などで温める方法であってもよいが、マスク裏面へ温純水を当てる方法が、温度制御が容易で温度均一性が高くより好ましい。加温することにより、常温の純水は温純水となる。また、純水に換えて温純水を用いた場合には、温純水の温度をさらに上げることもでき、温度の低下を防ぐことができる。加温した温純水の温度は、残留イオンの溶出度をあげ、一方で温度制御を容易にするために、通常、80℃〜90℃程度の範囲の温度で用いるのが好ましい。
【0050】
次いで、純水または温純水を一定時間マスク表面に保持し、マスク表面に残留しているイオンを純水または温純水に溶解させた後、回収手段によりマスク表面から純水または温純水を回収する。上記の純水または温純水をマスク表面に一定時間保持する時間としては、純水または温純水の温度と関係するが、より高温の方が短時間にイオンが溶出するので好ましく、通常、数10秒〜数分で残留イオンを抽出できる。例えば、温純水の温度を85℃とした場合には、30秒の保持時間と3分の回収時間(全体で5分程度)で、マスク表面の微量な残留イオンを効率よく抽出し回収することができる。
【0051】
次に、マスク表面に一定時間保持された純水または温純水を、マスク1枚毎にマスク表面から回収する。回収方法としては、スピンナーを回転させて、マスク表面からこぼれ落ちる純水または温純水を回収する方法、あるいはスピンナーの回転を止めて、ピペットやチューブなどでマスク表面に保持されている純水または温純水を吸い上げる方法などが用いられる。後述するように、こぼれ落ちる純水または温純水を回収する方法は、クロスコンタミネーションにより回収された純水または温純水の汚染が生じやすく、測定誤差を生じやすいので、使用設備などが測定対象イオンに汚染されないような厳しい管理が必要である。
【0052】
回収時のクロスコンタミネーションの影響を避けるために、本発明における回収方法としては、図2に示すように、純水または温純水の回収はチューブ26を用いてマスク上から吸い上げるのがより好ましい。スピンナーを低速回転させている場合にはスピンナーの回転を止めて、チューブ26をマスク上に移動し、マスク上の周辺部あるいは中央部からチューブ26を用いて吸い上げることにより、クロスコンタミネーションの影響が避けられ、高精度の分析が可能となるからである。
【0053】
回収に用いるチューブの材質としては、各種イオンにより汚染されない石英チューブや軽量な樹脂製チューブが好ましく、より好ましくは摩擦係数の小さいポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂系チューブ、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂チューブが挙げられる。チューブの内径は、1mm〜10mm程度の範囲が好ましい。
【0054】
次に、送液ポンプなどの圧送手段により、マスク1枚毎に回収した純水または温純水を順にイオン分析装置へ圧送する。圧送する際はクロスコンタミネーションを避けるため、外気と触れない方が好ましい。イオン分析装置に接続する配管は上記の回収用のチューブを延長して用いるのが好ましく、その長さは、短い方がより好ましい。配管の長さが長いと、圧力損失が大きくなり、かつ装置が不必要に大型化するからである。
【0055】
次に、イオン分析手段として、イオン分析装置により、マスク1枚毎に回収した純水または温純水のイオン濃度の分析を自動で行う。イオン分析装置としては、イオンクロマトグラフ装置あるいはキャピラリー電気泳動装置あるいはICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)マススペクトル装置などが用いられるが、洗浄装置に直結させてオンラインによるイオン分析が容易であるイオンクロマトグラフ装置がより好ましい。
【0056】
本発明において、イオン分析の対象となるイオンは、洗浄後のマスク表面に残留してマスクを汚染し、半導体製造に障害を引き起こすイオンのすべてが対象となるが、それらのイオンの中でも、硫酸イオン、シュウ酸イオン、アンモニウムイオンの中から選ばれた少なくとも1種のイオンを含むのが好ましい。硫酸イオン、シュウ酸イオンとアンモニウムイオンはマスク上の成長性異物(ヘイズ)の原因物質であり、短波長の高エネルギーの光照射により硫酸アンモニウムやシュウ酸アンモニウムとしてマスク表面に析出するからである。
【0057】
図3は、イオン分析装置にイオンクロマトグラフ装置を用いた場合の本発明の露光用マスクの表面イオン濃度モニター方法およびモニターシステムとの関係を示す説明図である。マスク1枚毎に回収した純水または温純水34は、溶離液32とともに分離カラム31で各イオンに分離され、電気伝導度検出器などの検出器37で検出され、マスク1枚毎のイオン濃度の分析が行われる。
【0058】
一方、図1に示すように、純水または温純水を回収した後のマスクは、乾燥ステップ17に進み、スピンドライなどの方法で乾燥した後、アンロードされる。洗浄乾燥されたマスクは、次工程であるペリクル貼付工程に進み、検査工程を経て、出荷される。出荷される個々の露光用マスクには、イオン分析装置によりマスク1枚毎に分析されて得られた残留イオン量のデータが付与され、マスク表面に残留しているイオン濃度の値が保証されており、半導体製造におけるマスク管理が容易になる。
【0059】
上記の説明において、マスクを物理洗浄後のリンスとその後のイオン濃度モニターは、マスクを同じ洗浄槽内の同じスピンナー上に保持して行うことが可能である。また、乾燥方法としてスピンドライ方式を採用するマスク洗浄装置では、リンスおよび乾燥はマスクを同じ洗浄槽内の同じスピンナー上に保持して行われる。したがって、図1に示す例における、リンスステップ15とイオン濃度モニターステップ16を同一の洗浄槽の同一のスピンナーで処理するシステム、あるいはリンスステップ15、イオン濃度モニターステップ16および乾燥ステップ17を同一の洗浄槽の同一のスピンナーで処理するシステムも可能である。マスク洗浄装置の構成としては、リンスステップ15、イオン濃度モニターステップ16および乾燥ステップ17を同一の洗浄槽の同一のスピンナーで処理する構成とするのが、装置がコンパクトになり、より好ましい。
【0060】
上記のように、本発明の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法およびモニターシステムは、露光用マスクの洗浄後に、マスク表面に残留するイオン濃度をモニターする方法およびモニターシステムであり、マスクを水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置であって、最終工程で純水によるリンス工程が含まれていれば、途中の洗浄槽にどのような構成が含まれていても、本発明を適用できるものである。本発明によれば、マスク洗浄装置内でマスク1枚毎にマスク表面上に保持した純水または温純水を回収し、イオン分析装置で分析することにより、マスク1枚毎の表面イオン濃度値をモニターすることが可能となる。
【0061】
また、本発明の露光用マスク洗浄装置は、上記の本発明の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムを備えたものであり、イオン分析装置を既存のマスク洗浄装置に直結させてオンラインによるマスク表面の残留イオン分析が可能となる。
【0062】
図4は、本発明の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステムを備えた露光用マスク洗浄装置の一実施形態を示す構成図である。図4におけるマスク洗浄装置の各部11a〜18aは、図1に示すマスク洗浄フローの各ステップ11〜18に対応している。すなわち、洗浄対象となる露光用マスクは、1枚毎に洗浄するマスク表面を上向きとして水平状態に保持されてローダ11aにより洗浄装置にセットされ、薬液洗浄部12aで洗浄され、リンス部13aで純水によりリンスされ、物理洗浄部14aでマスク表面を物理的に洗浄され、第2のリンス部15aで純水によりリンスされ、イオン濃度モニター部16aで水平に保持された状態で、マスク表面に純水または温純水を給水して盛られ、一定時間、表面張力により上記の盛られた純水または温純水をマスク表面に保持し残留イオンを抽出する。次いで、マスク表面に保持されている純水または温純水を回収し、マスク1枚毎に回収した純水または温純水をイオン分析装置に圧送し、イオン濃度の分析を自動で行う。純水または温純水を回収した後のマスクは、乾燥部17aで乾燥され、アンローダ18aにより1枚毎に洗浄装置から出てくる。
【0063】
上記のように、本発明の露光用マスク洗浄装置は、残留イオンを抽出するための専用の液槽などの設備を設ける必要がなく、分析用のサンプリング液を抽出するためのマスクの移動も不要であり、マスク洗浄装置内でマスク表面に純水または温純水を表面張力で保持し、その純水または温純水をチューブを用いて回収し分析を行うため、クロスクンタミネーションが起こり難く、イオン分析が正確に行えて、マスク1枚毎に信頼性の高い残留イオンの分析が可能となる。また、洗浄装置内でマスク洗浄直後にイオンの抽出を行うため、マスク表面が洗浄直後の濡れ性の良い状態に保たれており、イオン抽出にあたり、表面張力でマスク表面全面に均一に一定量の純水または温純水を給水することができ、マスク1枚毎に微量の残留イオンの抽出が十分に可能である。
【0064】
(残留イオン濃度を保証した露光用マスク)
本発明によれば、フォトマスク製造において、マスク洗浄装置内でマスク表面に純水または温純水を表面張力で保持し、その純水または温純水を回収し、イオンクロマトグラフなどのイオン分析装置にて回収した純水または温純水を分析することで、マスク1枚毎の表面イオン濃度をオンラインで測定することが可能となり、表面イオン濃度の値が付与され、マスク表面に残留しているイオン濃度の値が保証された露光用マスクを提供することが可能となる。残留イオン濃度値のデータの付与は、具体的には、マスク収納ケースにデータを貼付する、あるいはマスク検査表にデータを記入するなどの方法が用いられる。
【0065】
本発明の露光用マスクによれば、製品マスク1枚毎にマスク表面に残留しているイオン量が保証されており、半導体製造時に成長性異物(ヘイズ)によるトラブルが生じても、原因の把握と対策が早くでき、マスク管理が容易になり、半導体の生産性が向上する。例えば、成長性異物が発生する露光用マスク表面の硫酸イオン量の閾値を1ng/cm2と設定した場合において、本発明の残留イオン濃度を保証した露光用マスクの出荷時の硫酸イオン濃度が0.1ng/cm2とすれば、約0.8ng/cm2がマスクの顧客となる半導体製造工程における硫酸イオン量の吸着許容分となり、マスク管理が容易になる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0066】
(予備テスト1)
まず、マスク表面に盛られた純水または温純水をこぼし落として回収する方法について予めテストした。
露光用マスクを水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置を用い、図1に示すフロー図において、硫酸は使用せずに露光用マスクを洗浄した。次に、マスク洗浄装置内のリンス部において、スピンナー上のマスク表面に液温85℃の温純水を給水して盛り、表面張力で30秒間温純水を保持した後、低速でスピンナーを回転させて、マスク表面からこぼれ落ちる温純水を回収し、回収した温純水をイオンクロマトグラフ装置へ圧送し、硫酸イオン濃度の分析を行った。露光用マスクの測定サンプルは2点で、いずれも6インチ角の石英基板上にクロム薄膜を形成したクロム基板を用いたマスクである。
表1は、予備テスト1における硫酸イオン濃度の測定結果である。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示されるように、マスク表面からこぼれた液を回収し分析することによるマスク表面の残留イオンの分析は可能である。しかし、表1に示されるように、洗浄には使用していないはずの相当量の硫酸イオンが検出されており、サンプル間のバラツキも大きいという現象が生じている。検出された硫酸イオンには、マスクチャック構造など、洗浄機自身のイオン残留の影響を受け、設備に起因するクロスコンタミネーションによる汚染も含まれていると推定される。本予備テスト1に示されるように、こぼれた液を回収し分析する方法は、使用設備や測定サンプルが測定対象イオンに汚染されないような厳しい管理が必要である。
【0069】
(実施例1)
本実施例は、マスク表面に盛られた純水または温純水を吸い上げて回収する方法の例である。
露光用マスクを、パターン面を上にして水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置を用い、図1に示すフロー図において、硫酸は使用せずに露光用マスクを洗浄した。次に、マスク洗浄装置内のリンス部において、スピンナー上のマスク表面に液温85℃の温純水を給水して盛り、表面張力で30秒間温純水を保持した後、チューブを用いて吸い上げて回収し、回収した温純水をイオンクロマトグラフ装置へ圧送し、硫酸イオン濃度の分析を行った。チューブによる回収時間は3分であった。露光用マスクの測定サンプルは2−1、2−2の2点で、いずれも6インチ角の石英基板上にクロム薄膜を形成したクロム基板を用いたマスクである。
表2は、実施例1における硫酸イオン濃度の測定結果である。
【0070】
【表2】

【0071】
表2に示されるように、チューブを用いて温純水を回収した場合には、硫酸イオンは僅かに認められるが、分析装置の測定再現性の範囲内の値であり、マスクチャックなどの外部からのクロスコンタミネーションの影響を受けず、マスク表面のみのイオン分析が可能となることが示された。したがって、以後の実施例は、すべてチューブを用いてマスク表面の純水または温純水を回収する方法により行った。
【0072】
(実施例2)
本実施例は、マスク洗浄に硫酸を使用した場合の例で、イオン抽出液である純水または温純水の温度の違いによる検出イオン量を比較した例である。
表3は、実施例1と同様にしてマスク洗浄し、マスクの表裏面を純水または温純水でリンスした後、マスク表面に盛った純水(20℃)または温純水(85℃)と、さらにそれらをマスク裏面側から液温85℃の温純水を当てて加温した場合と、加温せずに常温(20℃)の純水を当てた場合とにおいて、表面張力で30秒間温純水を保持した後、チューブを用いて吸い上げて回収し、回収した温純水をイオンクロマトグラフ装置へ圧送し、硫酸イオン濃度の分析を行い、検出された硫酸イオン濃度の結果である。サンプルは4点で、いずれも石英基板上にクロム薄膜を形成したクロム基板を用いたマスクである。マスク表面に盛った純水または温純水の保持時間は、いずれも30秒間である。
【0073】
【表3】

【0074】
表3のサンプル3−3、サンプル3−4が示すように、マスク表面のリンスおよびイオン抽出液を温純水にすることにより、硫酸イオンの検出量は増加している。また、サンプル3−2、サンプル3−4が示すように、裏面リンスを温純水にすることにより、硫酸イオンの検出量は増加しており、より多くのイオンを温純水に溶出できていることが分かる。特に、サンプル3−4が示すように、表面側と裏面側の両方を温純水にすることにより、硫酸イオンは効率よく抽出されていることが示された。
【0075】
(予備テスト2)
本予備テストは、マスク用石英基板を対象にして、マスク洗浄に硫酸を使用し、イオン抽出液である純水または温純水の温度の違いによる検出イオン量を比較したテストである。洗浄方法および石英基板表面の純水または温純水の回収条件は、実施例2と同様である。
【0076】
表4は、露光用マスクの基板として用いられる石英基板2点をサンプルとして用い、洗浄には硫酸を使用し、石英基板上に盛った純水(加温しない場合で20℃)または温純水(加温した場合で85℃)とにおいて、検出された硫酸イオン濃度を調べた結果である。
【0077】
【表4】

【0078】
石英基板の場合、硫酸を使用した洗浄後でも硫酸イオンの残留量は少なく、抽出方法によってはほとんど硫酸を検出しない場合があるが、本発明の方法ではより多くの硫酸を検出しており、微量な硫酸イオンも抽出液に溶出できていることが分かり、検出感度の高い高精度のモニター方法であることが裏付けられた。
【0079】
(実施例3)
露光用マスクとして、6インチ角の石英基板上にモリブデンシリサイド(MoSi)系薄膜によりパターンを形成したハーフトーン型位相シフトマスクを作成した。マスクを水平に保持し、図4に示す1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置を用いて、マスクの洗浄を行った。洗浄に硫酸は使用しなかった。次に、マスク洗浄装置内のリンス部において、マスク洗浄後のスピンナー上のマスク表面に85℃の温純水を給水して盛り、表面張力で30秒間温純水を保持した後、チューブを用いて温純水を回収し、回収した温純水をイオンクロマトグラフ装置へ圧送し、硫酸イオン濃度およびアンモニウムイオン濃度の分析を行った。温純水の回収には3分を要した。測定結果は、硫酸イオン濃度が0.3ppb、アンモニウムイオン濃度が3.7ppbであった。
【0080】
上記のハーフトーン型位相シフトマスクに、硫酸イオン濃度およびアンモニウムイオン濃度の値のデータを付与し、残留イオン量を保証した露光用マスクとして半導体製造工程へ提供した。本発明の位相シフトマスクは、表面の残留イオン濃度値が保証されており、半導体製造におけるマスク管理が容易になった。
【符号の説明】
【0081】
11 ロード
11a ローダ
12 薬液洗浄ステップ
12a 薬液洗浄部
13 リンスステップ
13a リンス部
14 物理洗浄ステップ
14a 物理洗浄部
15 リンスステップ
15a リンス部
16 イオン濃度モニターステップ
16a イオン濃度モニター部
17 乾燥ステップ
17a 乾燥部
18 アンロード
18a アンローダ
21 スピンナー
22 マスク
23 給水管
24 純水または温純水
25 温純水
26 チューブ
31 分離カラム
32 溶離液
33 ポンプ
34 回収した温純水
35 バルブ
36 サプレッサー
37 検出器
38 廃液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光用マスクの洗浄後に、前記マスク表面に残留するイオン濃度のモニター方法であって、
(1)前記マスクを水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置内で、前記マスクを洗浄後に、前記水平に保持したマスク表面に純水または温純水を給水して盛り、表面張力で前記純水または温純水を保持する工程と、
(2)前記純水または温純水を一定時間前記マスク表面に保持後、前記マスク1枚毎に前記マスク表面から前記純水または温純水を回収する工程と、
(3)前記マスク1枚毎に回収した前記純水または温純水を順にイオン分析装置へ圧送する工程と、
(4)前記イオン分析装置にて前記マスク1枚毎に回収した前記純水または温純水のイオン濃度の分析を自動で行う工程と、
を含むことを特徴とする露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法。
【請求項2】
前記工程(1)に加えて、前記マスクおよび前記マスク表面に保持された前記純水または温純水を加温する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法。
【請求項3】
前記マスクの裏面側に温純水を当て、前記マスクおよび前記マスク表面に保持された前記純水または温純水を加温することを特徴とする請求項2に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法。
【請求項4】
前記工程(2)において、チューブを用いて、前記マスク1枚毎に前記マスク表面から前記純水または温純水を吸い上げて回収することを特徴とする請求項1から請求項3までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法。
【請求項5】
前記イオン分析装置が、イオンクロマトグラフ装置、キャピラリー電気泳動装置およびICPマススペクトル装置のうちのいずれかの装置であることを特徴とする請求項1から請求項4までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法。
【請求項6】
前記マスク表面でモニターする残留イオンは、硫酸イオン、シュウ酸イオン、アンモニウムイオンの中から選ばれた少なくとも1種のイオンを含むものであることを特徴とする請求項1から請求項5までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法。
【請求項7】
露光用マスクの洗浄後に、前記マスク表面に残留するイオン濃度のモニターシステムであって、
前記マスクを水平に保持し1枚毎に洗浄するマスク洗浄装置内で、前記マスクを洗浄後に、前記水平に保持したマスク表面に純水または温純水を給水して盛り、表面張力で前記純水または温純水を保持する給水保持手段と、
前記純水または温純水を一定時間前記マスク表面に保持後、前記マスク1枚毎に前記マスク表面から前記純水または温純水を回収する回収手段と、
前記マスク1枚毎に回収した純水または温純水を順にイオン分析装置へ圧送する圧送手段と、
前記イオン分析装置にて前記マスク1枚毎に回収した純水または温純水のイオン濃度の分析を自動で行うイオン分析手段と、
を備えることを特徴とする露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステム。
【請求項8】
前記給水保持手段とともに、前記マスクおよび前記保持されたマスク表面の前記純水または温純水を加温する加温手段を有することを特徴とする請求項7に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステム。
【請求項9】
前記加温手段が、前記マスクの裏面側に温純水を当てる手段であることを特徴とする請求項8に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステム。
【請求項10】
前記回収手段が、チューブを用いて前記純水または温純水を吸い上げて回収する手段であることを特徴とする請求項7から請求項9までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステム。
【請求項11】
前記イオン分析装置が、イオンクロマトグラフ装置、キャピラリー電気泳動装置およびICPマススペクトル装置のうちのいずれかの装置であることを特徴とする請求項7から請求項10までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターシステム。
【請求項12】
露光用マスク洗浄装置であって、前記マスク洗浄装置が、請求項7から請求項11までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニターモニターシステムを備えたことを特徴とする露光用マスク洗浄装置。
【請求項13】
露光用マスクであって、前記マスクが、マスク1枚毎にマスク表面に残留しているイオン濃度の値が保証されていることを特徴とする露光用マスク。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン濃度の値が、請求項1から請求項6までのうちのいずれか1項に記載の露光用マスクの表面イオン濃度のモニター方法により測定した値であることを特徴とする露光用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−133343(P2012−133343A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258582(P2011−258582)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】