説明

露地水耕栽培装置の植物安全生長のための改良

【課題】 露地水耕栽培において、日照時間の調整等を行って植物安全生長を実現できる栽培装置を提供する。
【解決手段】 無端躯帯による上部栽培区帯と、下部退避駆帯を形成すると共に、該無端駆帯に、多数の植物植設パネルを連結し、
上記上部栽培区帯に栽培槽を、上記下部退避区帯に上記植物植設パネルが納入可能の暗室をそれぞれ配置し、
上記暗室内に、植物の根に水又は培養液を供給する補養装置及び温度調整機を備えた、
暗室つき植物露地水耕栽培装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、植物の露地水耕栽培装置における適正日照時間の超過、暴風、熱暑等に対する植物の安全生長のための改良及び生長促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、露地水耕栽培の場合、栽培する野菜の日照時間を調整することなどできないから、多くの場合どの野菜にも季節まかせの長時間の日照を与えているため、葉茎部が未生長の段階で花芽をつけて商品価値を著しく低下させてしまうことになる。
【0003】
また、露地水耕栽培においては、台風の季節には暴風雨から植物を守るための何らかの対策が必要である。そこで、従来は、暴風雨の予報に応じて、栽培槽の上に鉄枠を取りつけ、その上に天幕を張設する方法が知られている。しかし、この程度の対策では、作業に手間がかかるばかりでなく、激しい暴風によって天幕が吹きとばされる危険が多く見られた。
【0004】
さらに、夏期の熱暑又は冬期の厳寒、降雪等により、植物がダメージを受けて生長不能に至る場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願第1発明は、植物の受ける日照時間の調整を行うことができる露地水耕栽培装置を提供することを課題とする。
【0006】
本願第2発明は、暴風から植物を保護することのできる露地水耕栽培装置を提供することを課題とし、
【0007】
本願第3発明は、夏期の熱暑、冬期の厳寒、降雪等から植物を一時的に退避させることができる露地水耕栽培装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本願第1発明は、
前部躯帯車と後部駆帯車とに左右一対の無端駆帯を走行駆動可能に掛け回して、長い上部栽培区帯と、それより反転して長い下部退避区帯とを形成し、上記上部栽培区帯における無端駆帯に、多数枚の植物植設パネルを、該無端区帯とともに移動可能に連結し、
上記上部栽培区帯に、上記植物植設パネルの各根を浸漬させる培養液を入れた長い栽培槽を配置し、
上記下部退避区帯に、上記上部栽培区帯から移動される多数枚の植物植設パネルが納入可能の暗室を配置し、
上記暗室内に、上記植物の根に水又は培養液を供給する補養装置を設け、必要により温度調整機も備えた、
暗室つき植物露地水耕栽培装置を提案する。
【0009】
本願第2発明は、
前部躯帯車と後部駆帯車とに左右一対の無端駆帯を走行駆動可能に掛け回して、長い上部栽培区帯と、それより反転して長い下部退避区帯とを形成し、上記上部栽培区帯における無端駆帯に、多数枚の植物植設パネルを、該無端区帯とともに移動可能に連結し、
上記上部栽培区帯に、上記植物植設パネルの各根を浸漬させる培養液を入れた長い栽培槽を配置し、
上記下部退避区帯に、上記上部栽培区帯から移動される多数枚の植物植設パネルが納入可能の暴風避け室を配置し、
上記暴風避け室内に、上記植物の根に水又は培養液を供給する補養装置を設けた、
暴風避け室つき植物露地水耕栽培装置を提案し、
【0010】
本願第3発明は、
前部躯帯車と後部駆帯車とに左右一対の無端駆帯を走行駆動可能に掛け回して、長い上部栽培区帯と、それより反転して長い下部退避区帯とを形成し、上記上部栽培区帯における無端駆帯に、多数枚の植物植設パネルを、該無端区帯とともに移動可能に連結し、
上記上部栽培区帯に、上記植物植設パネルの各根を浸漬させる培養液を入れた長い栽培槽を配置し、
上記下部退避区帯に、上記上部栽培区帯から移動される多数枚の植物植設パネルが納入可能の調温室を配置し、
上記調温室内に、上記植物の根に水又は培養液を供給する補養装置及び温度調整機を設け、必要により、上記調温室を暗室とした、
調温室つき植物露地水耕栽培装置を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本願第1発明によれば、
上部栽培槽で栽培している植物が、例えば、1日14時間の日照では、生殖生長を促して花芽をつけてしまい、栄養生長は停滞してしまう場合に、上部栽培槽で植物への日照時間が例えば12時間経過したとき、植物植設パネルを下部の暗室内に収納して、それ以上の日照を打ち切り、以下これを繰り返して植物を所望の生長(栄養生長)に導くことができるのである。
【0012】
本願第2発明によれば、暴風の来る短時間前に、上部栽培槽で栽培していた植物植設パネルを無端駆帯の駆動により速かに下部暴風避け室に退避させて暴風から植物を守ることができるのである。
【0013】
本願第3発明によれば、夏期の熱暑、冬期の厳寒、降雪時に、上部栽培槽の植物植設パネルを下部調温室に移送して一時的に涼気下に置き、それにより植物を回復しがたいダメージから保護することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明における上記無端駆帯の駆動により、植物植設パネルが上部栽培区帯から下部退避区帯へ移動する際、植物植設パネルが根を上に、葉茎を下にした反転状態で移動する構成のもの、又は適宜修正機構により根を下に、葉茎を上にした正常状態で移動する構成のものもある。
【0015】
又、上記「補養装置」は、上記植物植設パネルが反転状態で各室に入る場合は、水又は培養液を上向きの根に供給するもの、上記植物植設パネルが正常状態で各室に入る場合は、上部栽培槽と同様の槽に水又は培養液を入れた補養槽に植物の根を浸すものが好ましい。
【実施例】
【0016】
第1発明の実施例
以下図面を参照して本発明の実施例について詳述する。図1(イ)、(ロ)において、前後に長いフレーム(F)の前端部左右上部に軸受(1)、(1)を、後端部左右上部に同じく軸受(2)、(2)を突設し、これら軸受(1)、(1)及び(2)、(2)にそれぞれ支持された軸(3)、(4)に、駆帯車として本例では左右一対づつの駆動プーリー(5)、(5)及び従動プーリー(6)、(6)を固着し、これら前後のプーリー(5)、(6)及び(5)、(6)に、無端駆帯として本例ではワイヤロープ(7)、(7)をそれぞれ掛け回して、上部に長く直線状に延長する上部栽培区帯(A)と、それより反転して下部に長く直線状に延長する下部退避区帯(B)とを形成している。
【0017】
(8)は、上記駆動プーリー(5)の後方でワイヤロープ(7)、(7)をやや上向き傾斜に案内するガイドプーリー、(9)は、上記駆動プーリー(5)から反転したワイヤロープ(7)、(7)をやや下方へ案内するガイドプーリーである。
【0018】
上部栽培区帯(A)においては、左右ワイヤロープ(7)、(7)に、前後幅の狭いパネル(10)…を、互に前後隣接状態で、各パネル左右端部において連結金具(11)…、(11)…により連結支持してあり、これらパネル(10)…には多数の定植孔を設け、各定植孔に植物(P)…を、根を下に、葉茎を上に向けた状態で植えてある(以下これを植物植設パネルという)。
【0019】
本例では、さらに図1(ロ)に示すように、横断面コ字形のガイドレール(12)、(12)を上記ワイヤロープ(7)、(7)の走行位置に敷設し、両レール(12)、(12)の溝内に、上記ワイヤロープ(7)、(7)及び各パネル(10)…の左右端部を摺動自在に保持させている。
【0020】
上記のように支持された植物植設パネル群の下に、前後に長い浅底の培養液(14)入り栽培槽(13)を設置し、その培養液(14)に植物(P)…の根を浸している。
【0021】
上記栽培槽(13)の前端側壁にはオーバーフロー口(15)を形成し、該オーバーフロー口(15)から流下する培養液を受ける受けタンク(16)を設置し、該受けタンク(16)に接続された循環管(17)を経てポンプ(18)により培養液を吸引し、該培養液を濾過タンク(19)により濾過して栽培槽(13)の後端部内に供給するようにしてある。
【0022】
なお、栽培槽(13)には、別途新しい培養液が補給されている。
【0023】
(20)は上記駆動プーリー(5)の一側に設置された正逆回転型モータで、その出力軸に固着された小プーリー(21)から、上記駆動プーリー軸(3)に固着された大プーリー(22)にベルト(23)を介して回転が伝達される。
【0024】
上記下部退避区帯(B)には、該区帯(B)のワイヤロープ(7)、(7)が内部へ走行されるべき前後に長い暗室(24)が設置してある。
【0025】
上記暗室(24)は、図1(イ)、図2に示すように、断熱板からなる上下側壁(25)、(25)、左右側壁(26)、(26)及び後側壁(27)からなる前端開口の四角筒体で、その前端開口から室(24)内に導入されたワイヤロープ(7)、(7)を、左右側壁(26)、(26)の内側面に敷設された横断面コ字形のガイドレール(28)、(28)の溝内に摺動自在に保持させ、そして後側壁(27)の孔を通過して従動プーリー(6)に延長させている。
【0026】
上記断熱暗室(24)の前端開口には、同じく断熱板からなる四角形のドア(29)を、その下端辺においてヒンジ(30)により開閉自在に取りつけてあり、該ドア(29)には、ドア開閉時にワイヤロープ(7)、(7)の通過を許すための上下の長溝(31)、(31)を開設すると共に、該長溝(31)、(31)の溝口に、地に多数毛を植設してなる、いわゆるモヘア(32)を接着して、光の入射を遮断している。
【0027】
(33)は、ドア(29)の内側面上部に回転自在に突設したハンドル(34)つきロックネジで、該暗室(24)の前端開口部に設けたメネジ(35)に螺合される。ドア(29)を閉止したとき、室(24)内は暗室になる。
【0028】
上記暗室(24)内の天井には、補養装置として、本例では多数の散水口を有する複数本の散水管(36)…を配管し、該散水管(36)…に、外部から水を圧送する。
【0029】
(37)は、上記暗室(24)内の底面に設置された水受け槽で、たまった水はドレイン管(38)により排出される。
【0030】
さらに、上記暗室(24)の下位に、ヒートポンプ等の温度調整機(39)を設置し、該調整機(39)から所望温度に調整された風をダクト(40)を介して暗室(24)内に送るようにしてある。
【0031】
上例の装置を使用した日照時間の調整例について次に説明する。
長日性植物である「ほうれん草」の限界日照時間は14時間であり、14時間をこえる日照時間で早期に花芽をつけてしまい、葉茎が小型の段階で花芽をつけたほうれん草は商品価値がなくなる。
【0032】
そこで、図1(イ)のように栽培槽(13)においてほうれん草の植設パネルの栽培を行っているとき、日照時間が12時間を経過したとき、まずモータ(20)を正回転させ、駆動プーリー(5)の正転によりワイヤロープ(7)、(7)を反時計方向に走行させ、それにより植物植設パネル群を栽培槽(13)を離脱させて、下部退避区帯(B)へ反転させつつ移動させ、そして暗室(24)内へ導く。
【0033】
植物植設パネル群が暗室(24)内に案内されたらドア(29)を閉じ、ロックネジ(33)をメネジ(35)に螺合し、それによりほうれん草の日照を遮断する。
【0034】
暗室(24)内では、散水管(36)…の散水口から各植物の根に散水し、又温度調整機(39)から10°〜15℃の低温風を暗室内に送る。各植物は、暗と低温により休眠状態となる。
【0035】
翌日、ドア(29)を開き、モータ(20)を逆回転させて植物植設パネル群を暗室(24)を脱して時計方向へ走行させて正姿勢で上部栽培槽(13)上の栽培位置に戻し、以下上記と同様に日照12時間の栽培を繰り返す。
【0036】
このように1日の日照を12時間に制限しつつ暗と低温を繰り返すことにより、ほうれん草は生殖生長を停滞しつつ栄養生長を継続して豊かな葉茎に生長する。
【0037】
第2発明の実施例
下部退避区帯に設置される暴風避け室は、軽量鉄骨による四角筒状骨組み及びドア枠に目の細い金網を張設したもので、温度調整機は除いてある。他の構造は、図1、2と実質的に同一である。
【0038】
暴風の予報に従い、その到来小時間前に上部栽培槽(13)の培養液を予備タンクに回収し、ついでモータ(20)の正回転により植物植設パネル群を反時計方向へ走行させて上記暴風避け室内に導き、ドアを閉止して、補養装置により植物の根に水を供給する。
【0039】
暴風がおさまったら、栽培槽に培養液を戻し、ついで暴風避け室内の植物植設パネル群を上部栽培槽に戻し、平常の栽培を再開する。
【0040】
上記暴風避け室は、栽培装置の図1に示されるフレームの骨組みにおける左右側面、上下側面に目の細い金網を張設し、これに金網張りのドアを開閉自在に取りつけたものであってもよい。
【0041】
第3発明の実施例
下部退避区帯に配置する調温室は、断熱板により組立てた四角筒体の後面を閉じ、前面にドアを開閉自在に取りつけたもので、室内に涼風又は温風を供給する温度調整機を備える。他の構造は図1、2と実質的に同一である。
【0042】
夏期、熱暑のきびしい日に、そのまま上部栽培槽での栽培を続けると、植物がダメージを受けると予想される場合に、植物植設パネル群を反時計方向に走行させて上記調温室内に導き、ドアを閉じた後、温度調整機により調温室内に15°〜20℃の涼風を送りこんで植物をダメージから保護してある。
【0043】
上記調温室を暗室型調温室とした場合、その使用例として、上部栽培槽で行っていた植物が出荷に適したサイズに生長したとき、その植物植設パネル群を調温室内に導き、そこで暗の下で10°〜15℃の低温で保管すると、植物を新鮮に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(イ)本願第1発明による暗室つき露地水耕栽培装置の縦断側面図である。 (ロ)同上一部の拡大平面図である。
【図2】暗室の一部の拡大斜面図である。
【符号の説明】
【0045】
5 前部駆動プーリー
6 後部駆動プーリー
7 ワイヤロープ
A 上部栽培区帯
B 下部退避区帯
10 パネル
P 植物
13 栽培槽
24 暗室
29 ドア
36 散水管
39 温度調整機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部躯帯車と後部駆帯車とに左右一対の無端駆帯を走行駆動可能に掛け回して、長い上部栽培区帯と、それより反転して長い下部退避区帯とを形成し、上記上部栽培区帯における無端駆帯に、多数枚の植物植設パネルを、該無端区帯とともに移動可能に連結し、
上記上部栽培区帯に、上記植物植設パネルの各根を浸漬させる培養液を入れた長い栽培槽を配置し、
上記下部退避区帯に、上記上部栽培区帯から移動される多数枚の植物植設パネルが納入可能の暗室を配置し、
上記暗室内に、上記植物の根に水又は培養液を供給する補養装置を設け、必要により温度調整機も備えた、
暗室つき植物露地水耕栽培装置。
【請求項2】
前部躯帯車と後部駆帯車とに左右一対の無端駆帯を走行駆動可能に掛け回して、長い上部栽培区帯と、それより反転して長い下部退避区帯とを形成し、上記上部栽培区帯における無端駆帯に、多数枚の植物植設パネルを、該無端区帯とともに移動可能に連結し、
上記上部栽培区帯に、上記植物植設パネルの各根を浸漬させる培養液を入れた長い栽培槽を配置し、
上記下部退避区帯に、上記上部栽培区帯から移動される多数枚の植物植設パネルが納入可能の暴風避け室を配置し、
上記暴風避け室内に、上記植物の根に水又は培養液を供給する補養装置を設けた、
暴風避け室つき植物露地水耕栽培装置。
【請求項3】
前部躯帯車と後部駆帯車とに左右一対の無端駆帯を走行駆動可能に掛け回して、長い上部栽培区帯と、それより反転して長い下部退避区帯とを形成し、上記上部栽培区帯における無端駆帯に、多数枚の植物植設パネルを、該無端区帯とともに移動可能に連結し、
上記上部栽培区帯に、上記植物植設パネルの各根を浸漬させる培養液を入れた長い栽培槽を配置し、
上記下部退避区帯に、上記上部栽培区帯から移動される多数枚の植物植設パネルが納入可能の調温室を配置し、
上記調温室内に、上記植物の根に水又は培養液を供給する補養装置及び温度調整機を設け、必要により、上記調温室を暗室とした、
調温室つき植物露地水耕栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−142186(P2009−142186A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321734(P2007−321734)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(395021239)株式会社生物機能工学研究所 (21)
【Fターム(参考)】