説明

青酸配糖体の低減化方法及び青酸配糖体を低減化した食品

【課題】杏や桃といったバラ科の果実未成熟果肉や仁には、猛毒のシアン化水素を発生する青酸配糖体アミグダリンやプルナシンが高濃度で含まれているため、食品として利用することができず、廃棄処分されていた。青酸配糖体を効率的に低減化することができれば、青酸配糖体を含有する未成熟果肉や仁を、食品として有効利用することが可能になる。
【解決手段】1〜50%のエタノール水溶液に青酸配糖体を含有した食品素材を、その形態に係らず所定の温度に保ったまま浸漬することにより、青酸配糖体を除去するものである。さらに1〜50%のエタノール水溶液から水への漬け替えを行うことで、青酸配糖体をより低減化することができ、食品素材中に残留したエタノールも除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある特定の食品素材に含まれる青酸配糖体を、丸ごと、粉砕物といった形態に関わらず効率的に除去する、青酸配糖体を低減化する処理方法、及びその方法によって得られる、青酸配糖体を低減化した食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する青酸化合物は、世界で約2000種類の植物に含まれているといわれている。そのほとんどは青酸配糖体の形で存在しており、主にアミグダリン、プルナシン、リナマリンの3種類の化合物が知られている。
【0003】
リナマリンは、バター豆やライマ豆等のいわゆるシアン豆、およびキャッサバ等に含まれる青酸配糖体で、シアン豆に関してはシアン化水素換算で500〜600ppm含まれている。
【0004】
アミグダリンおよびプルナシンは、杏や桃、すもも、梅、プルーン、枇杷、アーモンドといったバラ科の果実の未成熟な果肉や葉、樹皮、種子に存在することが知られている。特に「仁」と呼ばれるこれらの種子には、3〜6%という高濃度でアミグダリンが含有されている。
【0005】
なお、上記の果実の中に存在する硬い木質の殻のことを、一般に種と呼ぶことが多い。しかしこの木質の殻は、実際は内果皮が硬化してできた核で、学術的な意味での種(種子)は核の内部に存在する。
【0006】
種子は仁(杏なら杏仁、桃なら桃仁)とも呼ばれ、種皮と呼ばれる茶色の薄く柔らかい皮に白い胚が覆われている形状をしている。なお、仁とは種皮に包まれた状態の種子そのものを指す場合と、種皮に包まれている内部の胚を指す場合とがある。混同を避けるため、ここでは種皮が付いた状態のものを仁とする。
【0007】
青酸配糖体は、水の存在下において食品素材自身の持つβ−グルコシダーゼによってケトン、グルコース、およびシアン化水素に加水分解されることが知られている。青酸配糖体は人の体内に存在するβ−グルコシダーゼによっても上記の化合物に分解されるため、青酸配糖体を除去せずに仁を食すと死に至る可能性がある。
【0008】
ところで、杏仁にはアミグダリンを多量に含む苦杏仁と、アミグダリンをほとんど含まない甜杏仁がある。前者は主に漢方の生薬等として、後者は主に杏仁豆腐等の食品素材として用いられる。
【0009】
厚生労働省の食薬区分(専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト)において、苦杏仁は医薬品に分類されている。一方で甜杏仁は非医薬品に分類されているため、食品として用いることが可能である。青酸配糖体を含有する食品素材は、そのままでは食品として用いることはできない。しかし甜杏仁と同程度まで青酸配糖体を減らすことができれば、食品として用いることが可能になる。
【0010】
なお、アミグダリンをビタミンB17と呼び、抗ガン作用があるとする説もある。しかしこのことについて科学的根拠は確認されておらず、臨床試験によっても抗ガン作用がないことが報告されている。微量のシアン化水素が、殺菌作用等により健康促進に寄与することも考えられるが、シアン化水素は猛毒である。実際にアミグダリンの服用で死亡した例も報告されていることから、ここではアミグダリン、およびその他の青酸配糖体を除去すべきものとして扱う。
【0011】
アミグダリンの低減化に関しては、いくつかの知見が報告されている。例えば田森らが青梅の果肉や仁について、梅漬けや梅酒等の加工工程におけるアミグダリンの消長について調べている(非特許文献1)。また梶原らは、杏仁豆腐の調理工程におけるアミグダリン、及びシアン化物イオンの消長について調べている(非特許文献2)。
【0012】
特許文献1では、梅の仁(梅仁)の有効利用方法として、種皮を剥離した梅仁を丸ごと、あるいは粉砕された状態で水や熱水に晒すことでアミグダリンを除去し、食用可能にする方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】 特開2002−10759号広報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】 田森純二他「梅加工品の製造工程中のアミグダリンの消長」農林水産消費安全技術センター調査研究報告 1987年
【非特許文献2】 梶原直子他「高速液体クロマトグラフィーによる杏仁中のアミグダリンの測定とその調理過程における消長」食品衛生学雑誌 1982年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
青酸配糖体を含有する食品素材の例は前記したとおりである。その中でリナマリンを含有するシアン豆やキャッサバ等の食品素材は、古来よりリナマリンを低減化して食されてきた歴史がある。またアミグダリンを含有する食品素材に関しても、例えば青梅は梅漬けや梅酒にするなど、アミグダリンを低減化して食すことが歴史的に行われてきた。
【0016】
しかし、杏や桃といったバラ科果実の仁に関しては、アミグダリンを低減化して食すことはされてこなかった。一つ目の理由として、仁に含まれるアミグダリンが3〜6%と高濃度であるため、人体に無害なレベルまで低減化することが容易でないことが挙げられる。またもう一つの理由として、仁は種皮に包まれているため、酵素分解に必要な水が中まで浸透しにくいからである。
【0017】
ちなみに、アミグダリンを高濃度で含有する仁は、生薬として用いられてきた歴史がある。しかし、よく知られているようにシアン化水素は猛毒であるため、量を誤って命を落とす者も少なくなかった。
【0018】
特許文献1の方法は仁を食品として利用するための技術であるが、対象としているのは梅の仁のみである。またアミグダリンの低減化効率を上げるため、梅仁の種皮を予め剥離する、又は粉砕してからアミグダリン低減化処理を行っている。
【0019】
種皮を剥離あるいは粉砕することで仁に溶媒が浸透しやすくなり、アミグダリンの低減化が促進されることが期待できる。しかし一方で、用途が杏仁豆腐や菓子等のトッピングに限られてしまう。
【0020】
アミグダリンを低減化した仁の利用方法として、ローストしてアーモンドナッツのように食すといったものが考えられる。アーモンドナッツも同じくアーモンドの果実の仁であるから、似たような味や食感になることが予想される。
【0021】
さらには仁のアミグダリンが除去される際に、酵素分解によってベンズアルデヒドが生成される。ベンズアルデヒドは杏の特徴的な芳香の由来となっている物質である。アミグダリンを低減化した仁から作られたナッツは杏の香りのする、アーモンドナッツにはない特徴を備えた食品になることが期待できる。
【0022】
シアン豆を除く輸入食品中のシアン化合物の含有量に係る基準として、2010年に厚生労働省から各検疫所への通達に、シアン化水素として10ppmを超えるものを食品衛生法第6条違反として措置するとある。ただし、国内での調理・加工によって10ppm以下にまで低減化できることが確認できた事例については違反に該当しないものとしている。
【0023】
このことから、苦杏仁やその他の前記果実の仁もアミグダリンをシアン化水素換算で10ppm以下にまで低減化することができれば、種皮付きのままでも食品として利用することが可能になる。なおシアン化水素10ppmをアミグダリンに換算すると、169ppmに相当する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
以下、仁に適用する場合を例として記述するが、アミグダリンを含有する未成熟果肉や、その他の青酸配糖体含有物にも適用可能であるものとする。ほとんどの青酸配糖体含有食品素材の青酸配糖体含有量は1%にも満たないため、仁のアミグダリンに適用する方法で、他の食品素材の青酸配糖体も容易に低減化することができる。
【0025】
仁は基本的に種皮を剥離せずに処理を行うものとするが、種皮が剥離された状態で処理を行っても構わないものとする。なお種皮が剥離されていると仁が溶媒を吸収しやすくなるため、種皮がついている場合よりもアミグダリンは早く低減化する。
【0026】
種皮がついたままの仁を水に浸漬すると、アミグダリンの低減化に時間が掛かるうえ、個体ごとの低減化量の差が大きいことが、本発明者らの研究により明らかとなっている。
【0027】
そこで本発明者らは、様々な濃度のエタノール水溶液に、アミグダリンを6%程度含有する苦杏仁を試料として浸漬し、アミグダリンの低減化試験を行った。その結果、ある濃度範囲のエタノール水溶液への浸漬が、アミグダリンの低減化を速やかに進行させ、なおかつ個体ごとのばらつきも少なくさせることを明らかにした。
【0028】
請求項1記載の本発明は、仁を1〜50%のエタノール水溶液に浸漬することを特徴とする仁の処理方法である。用いるエタノールの等級や、エタノール水溶液の形態は限定しないものとする。すなわち、焼酎やホワイトリカー等の蒸留酒を適宜希釈したものを用いても構わない。
エタノールの濃度が50%より高いと、たんぱく質の変性により酵素が活性を失うため、除去効率が下がってしまう。
【0029】
請求項2記載の本発明は、浸漬する溶媒の温度が10〜50℃であることを特徴とする、請求項1記載の方法を提供するものである。この方法は仁が自ら持つ酵素を利用してアミグダリンを分解するものであるため、酵素反応の活性が維持される10〜50℃の範囲が望ましい。
【0030】
エタノール水溶液に長期間浸漬しても、アミグダリンの低減化はある程度の量で止まってしまう。溶媒に溶け出たアミグダリンの一部が、溶媒に溶解した状態で仁の中に残留するためである。
請求項1記載の方法のみでもアミグダリンを基準値以下まで低減化することはできる。しかし溶媒に対して仁の量が多い場合などは、溶媒中のアミグダリンが基準値より多く残留することも考えられる。
【0031】
請求項3記載の本発明は、1〜50%のエタノール水溶液に浸漬する工程の後、水に漬け替える工程を備える請求項1、及び請求項2に記載の仁の処理方法を提供するものである。
水に漬け替えて浸漬することで、溶媒に溶解した状態で仁の中に残留したアミグダリンを、拡散させることができる。
さらに、エタノール水溶液から取り出した仁をそのまま乾燥させると、エタノールの一部が蒸発せずに残ってしまう可能性がある。水に漬け替えることで、残ったエタノールを拡散させることができるため、杏仁、桃仁を乾燥させてもエタノールはほとんど残らない。
【0032】
請求項4記載の本発明は、青酸配糖体を含有する食品素材を、請求項1〜2又は請求項1〜3に記載の処理方法で処理してなる、青酸配糖体を低減化された食品を提供するものである。
【0033】
上記には、杏仁を対象としてアミグダリンを低減化する方法を記述しているが、この方法は青酸配糖体を含有する食品素材自身が持つ青酸配糖体分解酵素を利用するものであるしたがって、リナマリンを含有するシアン豆、キャッサバ、亜麻仁、アミグダリンを含有する杏、桃、すもも、梅、プルーン、枇把、アーモンドの未成熟果肉、葉、茎、および仁にも適用可能である。
【発明の効果】
【0034】
仁のほとんどは、核の状態のまま廃棄され、焼却処分されている。仁を有効利用できるようになると、分離されて残った核の殻も、炭、研磨剤などとして利用できるため、これまで廃棄されていた核や仁を余すことなく利用できる。
【0035】
未成熟果実の多くは摘果によって取り除かれる際に発生し、その果肉に青酸配糖体が含まれるために食品として利用されることがほとんどない。その多くはそのまま畑に埋められるが、青酸配糖体を低減化できれば、漬物やシロップ漬けといった食品にすることが可能になる。
【0036】
本発明に係る青酸配糖体を低減化する処理方法によれば、種皮の有無など、形態に係らず青酸配糖体をシアン化水素に換算して10ppm以下にまで低減化した食品を得ることができる。本発明によって得られる青酸配糖体を低減化した食品は、処理前の形態を維持しているため、幅広い用途に供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。ここでは、杏仁および桃仁を例に挙げる。その理由は、梅仁や枇杷の仁に比べて杏仁、桃仁が大きいためである。大きさがあるほど青酸配糖体の低減化が困難になるため、杏仁および桃仁に適用できる方法であれば、他の食品素材の青酸配糖体の低減化にも適用できる。
【0038】
まず、本発明の実施に先んじて杏、桃の核から仁を取り出さなくてはならない。これはハンマーや万力等を使って取り出すこともでき、また杏の種割り機等の機械を使っても取り出すことができる。
【0039】
請求項1記載の本発明において、1〜50%のエタノール水溶液に浸漬する日数は特に限定しない。例えばエタノール濃度が10〜30%であれば、3日程度の浸漬で十分な効果が得られ、3日間、25℃での浸漬で、アミグダリンをおよそ30〜150ppmまで低減化することができる。特に低減化が進みやすいのはエタノール濃度10〜20%の水溶液で、3日間の浸漬で規制値169ppmより大幅に低い数値まで低減化することができる。
【0040】
請求項2記載の本発明において、請求項1記載の処理方法で溶媒の温度を10〜50℃とする理由は、この温度範囲であれば酵素反応が不活性化しないためである。しかし温度が低いと酵素反応は進みにくくなり、逆に温度が高いと浸漬している杏仁、桃仁の品質劣化が起こる。したがって、この温度範囲において特に25〜35℃の溶媒で杏仁、桃仁を浸漬するのが最良であると言える。
【0041】
請求項3記載の本発明においては、請求項1記載の処理方法を行った杏仁、桃仁をエタノール水溶液から取り出し、水に漬け替える。10〜30%のエタノール水溶液に杏仁、桃仁を3日間浸漬すれば、アミグダリンを規制値以下にまで低減化することができる。しかし水に漬け替えることで、分解せずに残ったアミグダリンを拡散させるとともに更に分解させ、より低減化することができる。
【0042】
請求項3記載の本発明を行うもう一つの理由は、請求項1記載の処理方法により吸水した杏仁、桃仁に残留しているエタノールを除去するためである。エタノールを除去せずに、請求項4記載の処理方法により杏仁、桃仁を乾燥すると、僅かながらエタノールが蒸発しきらずに残ることがある。エタノールの香りがすることを特徴とする製品を作る場合においては問題ないが、その香りを不快とする者も少なからずいるため、エタノールを除去する方法も必要になる。
【0043】
請求項3記載の本発明において、漬け替え後水に浸漬する日数は特に限定しないが、請求項1記載の処理方法と合わせて3日間となる程度の日数で十分である。すなわち、10〜30%のエタノールに1日浸漬したならば、水に漬け替えて2日間の浸漬、10〜30%のエタノールに2日間浸漬したならば、水に漬け替えて1日の浸漬で、アミグダリンを規制値の169ppm以下に低減化することが可能である。
【0044】
請求項1あるいは3記載の処理方法により処理された杏仁、桃仁は、水分率が60%程度であるため、非常に腐敗しやすい状態である。そこでこれらの杏仁、桃仁を低温で熱風乾燥することで、品質を損なうことなく保存性を高めることができる。ここでいう低温とは、常温よりもやや高い程度の温度であり、30〜50℃程度が望ましい。
【0045】
上記の温度帯で乾燥させれば、乾燥後の杏仁、桃仁の水分率は約10%と、浸漬処理前のものと同程度の水分率になるため、食感及び保存性が保たれる。なお乾燥温度が低すぎると上手く乾燥がなされず、逆に高すぎると水分が飛びすぎてしまい、乾燥後の杏仁、桃仁の食感を好ましくないものにしてしまう。
【0046】
なお、溶媒を十分に吸水した杏仁、桃仁は60%程度の水分率となっている。これが乾燥して水分が飛ぶとアミグダリンが濃縮されるのではないかという懸念があるが、30〜50℃で乾燥させると乾燥中にも酵素反応が進むため、乾燥後のアミグダリンは乾燥前とほとんど変わらないか、より低い数値になる。
【0047】
以上により請求項1〜2又は請求項1〜3に記載の処理方法で処理された、安全性の確保されたアミグダリン低減化食品を提供するのが、請求項4に係る本発明である。なお請求項1〜3記載のアミグダリンを含有した食品は、杏、桃、すもも、梅、枇杷、プルーン、アーモンドの未成熟果実、未成熟果肉、および仁とする。またこれら以外のものでも、アミグダリンを含有していれば、本発明の対象とする。
【0048】
請求項3記載の処理方法は、単にアミグダリンの低減化を促進するためだけではなく、不快な風味として残ってしまうエタノールを除去する目的もある。そこで果樹内の杏仁や桃仁等の仁を1〜50%のエタノール水溶液に所定時間浸漬して、上記仁に含有する青酸配糖体を溶解したのち、上記仁を水に所定時間浸漬して上記エタノールを排出した請求項4に記載の青酸配糖体を低減化した食品を提供するのが、請求項5に係る本発明である。
【実施例1】
【0049】
例として、0〜30%のエタノール水溶液に1〜3日間浸漬した杏仁のアミグダリン含量を表1に示す。水溶液の温度は25℃で、100mlの溶媒に杏仁を30個投入し、1日に10個ずつ抜き取り(2個×5点、3日目はアミグダリンの量が少ないため3個×2点、4個×1点)分析に供した。なお0%は水のみの溶媒で、参考までに示した。
【0050】
【表1】

【0051】
分析方法は、田森らの方法をもとにした。すなわち、試料をメタノール抽出したものを試料液とし、高速液体クロマトグラフ・質量分析装置(LC−MS)に導入して定量した。LC−MSの条件を表2に示す。標準試料はシグマ・アルドリッチ社製アミグダリン(含有量99%)を用いた(表2)。
なお、試料液中のアミグダリンが10ppmを下回ると、LCだけでは定量が困難になるため、10ppm以下の数値はMSによって定量した。
【0052】
【表2】

【0053】
表1から、10〜20%のエタノール水溶液に25℃で3日間浸漬すれば、確実にアミグダリンを規制値以下まで低減化できることが分かる。30%エタノール水溶液でも10〜20%エタノール水溶液には劣るが、3日間で規制値以下にまでアミグダリンを低減化する効果は十分にある。なおエタノール濃度が30%以上になると、エタノール濃度が高くなるほどアミグダリンを低減化する効果は薄れ、99.5%ではほとんど低減化されなくなる。
【実施例2】
【0054】
例として、20%エタノール水溶液に1日浸漬した後、水に漬け替えて2日間浸漬した場合(パターンA)と、20%エタノール水溶液に2日間浸漬した後、水に漬け替えて1日浸漬した場合(パターンB)の杏仁のアミグダリン含量を表3に示す。水溶液の温度は25℃で、杏仁を100mlの20%エタノール水溶液に30個浸漬し、パターンAは2日目に20個を、パターンBは3日目に10個を、それぞれ水に漬け替えた。それを2日目、3日目に10個ずつ抜き取り(2個×5点、3日目はアミグダリンの量が少ないため3個×2点、4個×1点)分析に供した。なお、1日目及びパターンBの2日目のデータは、表1の20%エタノールのデータを流用している。
【0055】
【表3】

【0056】
表3から、パターンAの場合2日間でアミグダリンがほぼ基準値以下になることが分かる。さらにパターンA、Bともに3日間の処理を行うことで、アミグダリンはシアン換算で1ppm以下まで低減化することができる。
【実施例3】
【0057】
例として、実施例2記載のパターンA及びパターンBの処理方法を3日間施した杏仁を、40℃で16時間熱風乾燥後、130℃2時間又は160℃12分の条件でローストしたもののアミグダリン含量を表4に示す。ローストした杏仁は各条件で4個を1組として分析に供した。
【0058】
【表4】

【0059】
表1、3のデータは杏仁が60%程度の水分率で吸水した状態での含有量だったが、表4から、乾燥後ロースト調理を行い、水分のほとんどが飛んだ状態でもアミグダリンの量が十分に安全なレベルにあることが分かる。
【実施例4】
【0060】
例として、20%エタノール水溶液に2日間浸漬した後、水に1日ずつ、計2回付け替えを行い、40℃で14時間乾燥を行った杏仁について、各工程においてシアン化水素分析を行った結果を表5に示す。分析の前処理はJIK0102に定められた全シアン化物定量法の水蒸気蒸留、およびピリジン・ピラゾロン法による定量分析方法に従って行った。浸漬処理は、各条件について15gの杏仁を各溶媒100mlに25℃で浸漬し、約5gを取り出して0.5M水酸化ナトリウム水溶液でホモジナイズし、水蒸気蒸留に供した。なお、分析値はいずれも湿重量あたりの数値である(1日目〜4日目は水分率50〜60%、乾燥後は10%程度)。
【0061】
【表5】

【0062】
たとえアミグダリンが規制値以下にまで低減化されていたとしても、シアン化水素として残留していたのでは意味がない。表5の結果から、請求項1〜3記載の処理方法を用いることでシアン化水素としても除去されていることが分かる。
【0063】
実施例1〜3に記載した方法で処理することで、杏仁だけでなく、杏、桃、梅、すもも、枇杷、プルーン、アーモンドの未成熟果実、未成熟果肉、および仁についても、アミグダリンを低減化することが可能である。また実施例4記載の方法のように、2回の水への漬け替えを行った後、乾燥させることで、シアン化水素としても安全なレベルまで低減化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
上記果実の摘果や、成熟果実を加工した際に廃棄される仁は、青酸配糖体を高濃度で含有しているため、食品として利用することができず、ほとんどが焼却処分や埋め立て処分されていた。本発明によりこれらの青酸配糖体を低減化し、食品として有効利用できるようになれば、廃棄物の削減につながることが期待される。またこれまで食品として利用できなかったものが利用可能になるため、食品素材としても十分価値のあるものになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青酸配糖体を含有する食品素材を1〜50%のエタノール水溶液に浸漬することを特徴とする、青酸配糖体を低減化する処理方法。
【請求項2】
浸漬する溶媒の温度が10〜50℃であることを特徴とする、請求項1に記載の青酸配糖体を低減化する処理方法。
【請求項3】
1〜50%のエタノール水溶液に浸漬する工程の後、水に漬け替える工程を備える請求項1、及び請求項2に記載の青酸配糖体を低減化する処理方法。
【請求項4】
青酸配糖体を含有する食品素材を、請求項1〜2又は請求項1〜3に記載の処理方法で処理してなる、青酸配糖体を低減化した食品。
【請求項5】
果樹内の杏仁や桃仁等の仁を1〜50%のエタノール水溶液に所定時間浸漬して、上記仁に含有する青酸配糖体を溶解したのち、上記仁を水に所定時間浸漬して上記エタノールを排出した請求項4に記載の青酸配糖体を低減化した食品。