説明

静的破砕材

【解決手段】 膨張物質及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含むことを特徴とする静的破砕材。
【効果】 本発明の静的破砕材によれば、高性能の破砕能力を有し、低温時においても短時間で岩石又はコンクリートの破砕が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木・建築業界において使用される岩石又はコンクリートの静的破砕材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、岩石又はコンクリート等の脆性物体を爆発や機械的な衝撃を与えずに破砕する、いわゆる静的破砕方法として、岩石又はコンクリートに予め孔を空けておき、この孔の中に膨張性スラリーを充填し、その膨張力により破砕する方法が提案されている。例えば、生石灰は水和の際の膨張力が大きいので、これを破砕材として使用することが試みられている。
しかし、生石灰単独では、水和速度が非常に速く、水と練り混ぜると直ちに水和膨張し、流動性が急激に低下して孔への注入が困難となり、注入できたとしても、急激な発熱反応のため水蒸気爆発のようなものが生じ、孔の上部より吹き出してしまう、いわゆる鉄砲現象により十分な破砕効果が得られなかった。
【0003】
生石灰を利用した静的破砕材として、生石灰の結晶をエーライトの結晶に包含した鉱物粉末に減水剤を添加したものや硬焼生石灰粉末に水硬性物質と混和剤を添加したものを水で練りペーストとし、これを岩石又はコンクリートの孔中に注入する方法が提案されている(特許文献1,2:特開昭55−142894号公報、特開昭56−67059号公報参照)。
しかし、これらの方法では、特に10℃以下の低温になると、生石灰の水和反応性が低下し、破砕に2〜3日を要することもしばしばであり、5℃以下になると破砕に1週間以上もかかるという問題があった。これらに対して、CaO、Al23及びCaSO4を含む混合物を熱処理して生成する膨張物質を利用することも提案されているが(特許文献3:特開平7−305047号公報参照)、岩石又はコンクリートを破砕するのに半日程度の時間がかかるので、更に短時間での破砕が可能な静的破砕材が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭55−142894号公報
【特許文献2】特開昭56−67059号公報
【特許文献3】特開平7−305047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、高性能の破砕能力を有し、低温時においても短時間で岩石又はコンクリートを破砕することができる静的破砕材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、膨張物質及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む静的破砕材が前記の課題の解決に有用であることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は、膨張物質及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含むことを特徴とする静的破砕材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の静的破砕材によれば、高性能の破砕能力を有し、低温時においても短時間で岩石又はコンクリートの破砕が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の静的破砕材に用いる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、特開昭48−38858号公報、特開昭57−53100号公報に開示されるような公知の方法によって合成することができる。一般に、ヒドロキシプロピルセルロースは、グルコースユニット(C6105)当たりヒドロキシプロポキシル基の平均置換モル数が2.0〜4.2のものをいい、平均置換モル数が0.11〜0.39のものは、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースという。
【0010】
本発明においては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにおけるヒドロキシプロポキシル基の平均置換モル数は、グルコースユニット当たり0.01〜0.39、特に0.11〜0.35が好ましい。ヒドロキシプロポキシル基の平均置換モル数が、グルコースユニット当たり0.01未満だと膨潤力が不足して崩壊時間が延長し、0.39を超えると、ヒドロキシプロピルセルロースのような高置換度部分である水溶性の成分が増加して、水への浸透が妨げられてしまい、崩壊時間が延長する場合がある。
なお、グルコースユニット当たりの平均置換モル数は、第14改正日本薬局方の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの定量法に従い、ヒドロキシプロポキシル基の置換%を求め、これを換算することにより求められる。
【0011】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの平均粒径は、水に分散して流動できる程度であれば特に限定されないが、10〜100μmが望ましい。
また、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの重合度は、適切な強度を保つ程度であれば特に限定しないが、200〜3,000が好ましい。
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの静的破砕材への添加量は、静的破砕材として水を添加して使用する際の水を含む総重量に対して10〜70質量%、好ましくは20〜50質量%である。添加量が10質量%より少ないと膨潤効果が少なく破砕効果が出にくく、70質量%を超えるとスラリーとしての添加が困難となる場合がある。
【0012】
本発明で使用する膨張物質としては、CaO、Al23及びCaSO4を含むものが好ましく、CaO、Al23及びCaSO4を含む膨張物質の原料は、純度やコストにより、任意に選択され得るものであり、特に限定されるものではないが、例えばCaO原料としては、石灰石や消石灰等のCaCO3やCa(OH)2等が、またAl23原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰等が、更にCaSO4としては、無水セッコウ、半水セッコウ、二水セッコウ等が挙げられる。
【0013】
原料中に存在するSiO2、Fe23、CaF2、MgO及びTiO2等の不純物の混入は、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲内であれば特に限定されるものではないが、CaO/Al23モル比が7.5〜18、特に8〜12、CaSO4/Al23モル比が1.6〜4、特に2〜3が好ましい。また、これらの膨張物質については、特開平7−305047号公報に記載の如く、焼成処理したものを使用することもできる。
【0014】
かかる膨張物質の粒度は特に限定されるものではないが、ブレーン値で1,500〜5,000cm2/gが好ましい。1,500cm2/g未満では破砕時間が遅延する場合があり、5,000cm2/gを超えると十分な流動性や作業性が得られない場合がある。
【0015】
上記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと膨張物質の配合割合は、質量比として低置換度ヒドロキシプロピルセルロース/膨張物質=70/30〜50/50が好ましく、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが少なすぎると、低温時の破砕性が低下し、多すぎると、短時間の破砕が困難となる場合がある。
【0016】
更に、本発明においては、必要に応じて水硬性物質及び/又は潜在水硬性物質を併用することもできる。
ここで、水硬性物質とは、セメントや急硬材等の水と反応して硬化するものである。セメントとしては、例えば普通、早強及び超早強等の各種ポルトランドセメントやアルミナセメント等が挙げられる。急硬材としては、例えばCaOをC、Al23をAとすると、CA、C127、C2A、C3A、C117・CaF2、C33・CaSO4等と記載される結晶質あるいは非晶質のカルシウムアルミネート類、これらカルシウムアルミネート類に無水セッコウ等の無機硫酸塩を配合したセメント急硬材、セメントにセメント急硬材を添加した急硬性セメント等が挙げられる。
【0017】
また、潜在水硬性物質としては、例えば高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフラワー等が挙げられる。
【0018】
更に、水硬性物質と潜在水硬性物質の混合物として、ポルトランドセメントにスラグ等を混合した各種混合セメントが使用可能である。
【0019】
本発明では、これらの水硬性物質や潜在水硬性物質のうちの一種又は二種以上使用することが可能であるが、特に急硬材を用いることが好ましい。
【0020】
膨張物質に水硬性物質及び/又は潜在水硬性物質を併用する場合の膨張物質の添加量は、膨張物質と水硬性物質及び/又は潜在水硬性物質からなる結合材100質量部中90〜95質量部であることが好ましい。
【0021】
なお、本発明において水硬性組成物としてセメントを用いる場合には、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルミン酸アルカリ金属塩、硫酸アルミニウム、クエン酸や酒石酸等の有機酸又はその塩、デキストリン、糖類、ホウ酸等の凝結遅延材を添加使用することもできる。
【0022】
本発明の静的破砕材を水に分散させてコンクリートや岩石に注入する際の流動化材として、ナフタリン系、メラミン系、ポリカルボン酸系及びアミノスルホン酸系等に分類される流動化材、又は無機及び有機粒子の流動性を改善し、必要な添加水量を減らせる減水材とも呼ばれる界面活性剤系の添加材を添加することもできる。例えばナフタリン系流動化材として、マイティ2000WH(花王(株)製)等やデンカFT−500、デンカFT−80(電気化学工業(株)製)等、メラミン系流動化材として、メルメントF−10((株)昭和電工製)、シーカメント100H(日本シーカ(株)製)等、ポリカルボン酸系流動化材として、ダーレックススーパー100pH、ダーレックススーパー200(グレースケミカルズ(株)製)、レオビルドSP−8S((株)エヌエムビー製)等、アミノスルホン酸系流動化材として、パリックFP−100U(藤沢薬品工業(株)製)等が挙げられる。その他、日本ゼオン社、神戸材料社、日本製紙(株)、竹本油脂(株)、福井化学工業(株)及び第一工業製薬(株)等各社より市販されている同様の減水剤を用いることができる。
【0023】
また、最近では、これら減水剤を粉末化したものが製品化されており、例えばマイティ100(花王(株)製)、バニレソクス(日本製紙(株)製)、シーカメントFFパウダー(日本シーカ(株)製)、ウルトラジン(ボクスイブラウン社製)等が挙げられ、これら粉末状減水剤を使用することが施工作業簡素化の面から好ましい。
【0024】
これらの流動化材又は減水剤の添加量は、特に限定されるものではないが、膨張物質と水硬性物質及び/又は潜在水硬性物質からなる結合材100質量部に対して、ナフタリン系やメラミン系の場合は0.1〜4質量部が、ポリカルボン酸系やアミノスルホン酸系の場合には0.1〜3質量部が好ましい。
【0025】
本発明において、各材料の混合方法は特に限定されるものでなく、それぞれの材料を施工時に混合してもよいし、予め一部又は全部を混合しても差し支えない。
【0026】
混合装置としては、既存の撹拌装置が使用可能であり、例えば傾胴ミキサー、オムニミキサー、V型ミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサーや粉体と水を同時に混合する(株)粉研パウテックス製のフロージェットミキサーを好適に用いることができる。
【0027】
更に、本発明では、必要に応じて砂や砂利等の骨材及び炭酸カルシウム等の無機粉末等を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することも可能である。
【0028】
本発明の静的破砕材を用いて岩石又はコンクリート等の脆性物体を破砕する方法は、公知の方法が採用し得、具体的には、単独では化学膨張剤工法、併用法としてはウォータージェット工法、機械式破砕工法により破砕することができる。
【0029】
これにより、本発明においては、3〜10℃程度の低温度下においても30分〜5時間程度の短時間で破砕することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1〜4]
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(信越化学工業(株)製、ヒドロキシプロポキシル基の平均置換モル数が0.04)及びCaO原料として石灰石粉を、Al23原料としてアルミ残灰を、CaSO4原料として天然無水セッコウを使用し、表1に示す低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと膨張物質との合計100質量部と水40質量部を(株)粉研パウテックス製の内径30mmのフロージェットミキサーシステムにより混合した後、すぐにそのスラリーを70×70×70cmの無筋コンクリート硬化体のφ2×深さ60cmの孔中に注入し、10℃における破砕時間(コンクリートが破損し始めてから破砕完了までの時間)を測定した。その結果を表1に示す。
なお、膨張物質の組成は、JIS R 5202に従って、CaO、Al23及びSO3量を分析し、更にSO3量をCaSO4に換算してCaO/Al23/CaSO4のモル比で求めた。
【0032】
[比較例1]
膨張物質を添加しない以外は、実施例1と同様に行い、その結果を表1に示す。
【0033】
[比較例2]
市販の静的破砕材(小野田セメント社製「ブライスター」、主成分生石灰系静的破砕材)を使用して実施例1と同様に行い、その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張物質及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含むことを特徴とする静的破砕材。
【請求項2】
膨張物質が、CaO、Al23及びCaSO4を含む請求項1記載の静的破砕材。

【公開番号】特開2006−176687(P2006−176687A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372510(P2004−372510)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】