説明

静電噴霧装置

【課題】使用状況に応じて噴霧対象に対して最適な噴霧性状の液体を供給できる静電噴霧装置を提供する。
【解決手段】液体を貯留する容器21と、容器21の内部に連通するノズル25と、容器21内の液体をノズル25内へ搬送する液体搬送機構50と、ノズル25の先端に電界を形成するように電圧を印加する電源45とを備え、電界によってノズル25の先端から液糸を形成するように液体を噴霧する静電噴霧装置には、液糸の長さを調整する液糸調整手段47が更に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界によってノズルの先端から液体を噴霧する静電噴霧装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、容器内に貯留された液体を噴霧させるための液体噴霧装置が広く知られている。この種の液体噴霧装置として、ノズルの先端の電界を利用して液体を噴霧する、静電噴霧装置が知られている。
【0003】
特許文献1に開示される静電噴霧装置は、袋状の容器と、該容器と連通するノズルと、対向電極と、電源とを備えている。容器内の液体がノズルの先端に搬送された状態で、電源からノズル先端の液体に高電圧が印加されると、ノズル先端と対向電極との間に電界が形成される。これにより、ノズル先端で帯電された液体が引きちぎられて噴霧粒子となり、この噴霧粒子が拡散する。拡散した噴霧粒子は、所定の噴霧対象へ供給される。なお、特許文献1では、化粧水を噴霧粒子とし、この噴霧粒子を噴霧対象としての使用者の顔面等へ付着させるようにしている。
【特許文献1】特開2009−022891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような静電噴霧装置においては、噴霧粒子を噴霧対象へ確実に到達させるために、ノズル先端から所定距離に亘って線状の液糸(リガメント)を形成することが好ましい。即ち、ノズル先端から所定距離に亘って液糸を形成し、この液糸の先端で噴霧粒子を拡散させることで、比較的離れた噴霧対象に対して、微細な液滴を供給することができる。
【0005】
一方、静電噴霧装置を使用する場合、ノズル先端から噴霧対象までの距離は必ずしも一定ではなく、この距離は静電噴霧装置の使用状況に応じて変化する。従って、所定長さの液糸を形成して噴霧を行った場合にも、噴霧対象(例えば使用者)がノズル先端に近すぎると、液糸が噴霧対象に直接的に当たってしまう。また、噴霧対象がノズル先端から遠すぎると、液糸の先端から拡散した噴霧粒子が噴霧対象に届かなくなってしまう。その結果、この静電噴霧装置において、噴霧対象に対して最適な噴霧性能を得ることができないという問題が生じる。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、使用状況に応じて噴霧対象に対して最適な噴霧性状の液体を供給できる静電噴霧装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、液体を貯留する容器(21)と、該容器(21)の内部に連通するノズル(25)と、該容器(21)内の液体をノズル(25)内へ搬送する液体搬送機構(50)と、該ノズル(25)の先端に電界を形成するように電圧を印加する電源(45)とを備え、該電界によってノズル(25)の先端から液糸を形成するように液体を噴霧する静電噴霧装置を対象とする。そして、この静電噴霧装置は、上記液糸の長さを調整する液糸調整手段(35,47,57)を更に備えていることを特徴とする。
【0008】
第1の発明の静電噴霧装置では、液体搬送機構(50)によって容器(21)内の液体がノズル(25)内へ送られる。また、電源(45)から電圧が印加されてノズル(25)の先端に所定の電界が形成される。これにより、ノズル(25)の先端からは、所定長さの液糸が形成されるように液体が噴霧される。ここで、本発明では、液糸調整手段(35,47,57)によって液糸の長さを調整できる。従って、静電噴霧装置の使用状況に併せて最適な液糸の長さで噴霧を行うことができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、上記液糸調整手段(35,47,57)は、上記ノズル(25)の先端を通過する液体の流速を変化させる流速調整手段(57)であることを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、液糸調整手段として、ノズル(25)の先端を通過する液体の流速(面流速)を変化させる流速調整手段(57)が設けられる。流速調整手段(57)がノズル(25)の面流速を変化させると、これに伴い液糸の長さが変化する。その結果、静電噴霧装置の使用状況に併せて最適な液糸の長さで噴霧を行うことができる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、上記液糸調整手段(35,47,57)は、上記ノズル(25)の先端の電界強度を変化させる電界強度調整手段(35,47)であることを特徴とする。
【0012】
第3の発明では、液糸調整手段として、ノズル(25)の先端の電界強度を変化させる電界強度調整手段が設けられる。電界強度調整手段(35,47)が電界強度を変化させると、これに伴い液糸の長さが変化する。その結果、静電噴霧装置の使用状況に併せて最適な液糸の長さで噴霧を行うことができる。
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、上記電界強度調整手段(35,47)は、上記電源(45)の印加電圧を調整する電圧調整手段(47)であることを特徴とする。
【0014】
第4の発明では、電界強度調整手段としての電圧調整手段(47)が、電源(45)の印加電圧を調整する。その結果、ノズル(25)の先端の電界強度が変化し、液糸の長さが変化する。
【0015】
第5の発明は、第3の発明において、上記ノズル(25)の先端の近傍に配設される対向電極(40)を備え、上記電源(45)は、上記ノズル(25)の先端内部の液体と、上記対向電極(40)との間に電位差を付与するように構成され、上記電界強度調整手段(35,47)は、上記ノズル(25)の先端と上記対向電極(40)との間の距離を変化させる電極間距離調整手段(35)であることを特徴とする。
【0016】
第5の発明では、電界強度調整手段としての電極間距離調整手段(35)が、ノズル(25)の先端と対向電極(40)との間の距離を調整する。その結果、ノズル(25)の先端の電界強度が変化し、液糸の長さが変化する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ノズル(25)の先端から形成される液糸長さを液糸調整手段(35,47,57)によって調整できるので、使用状況に応じた最適な液糸長さで噴霧を行うことができる。従って、例えば液糸長さを比較的長めに調節することで、比較的離れた噴霧対象に対しても噴霧粒子を到達させることができる。また、例えば液糸長さを比較的短めに調節することで、比較的近い噴霧対象に対して液糸が当たってしまうのを回避できる。
【0018】
特に第2の発明では、ノズル(25)の面流速を変化させているので、比較的広範囲に亘って液糸長さを変化させることができる。また、第4の発明では、電源(45)の印加電圧を変化させているので、液糸長さを細かいレンジで微調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
本実施形態の静電噴霧装置(10)は、卓上等に設置されて使用者に向かって所定の液体を噴霧するものである。静電噴霧装置(10)は、噴霧装置本体(30)と、該噴霧装置本体(30)に交換可能に装着される噴霧カートリッジ(20)とを備えている。
【0021】
噴霧装置本体(30)は、筒状本体部(31)と支持部(32)と台座カバー(33)とを有している。支持部(32)は、筒状本体部(31)を支持する略矩形状の柱部材で構成されている。支持部(32)には、静電噴霧装置(10)を操作するためのスイッチ等が設けられている。台座カバー(33)は、下側が開放され且つ筒状本体部(31)の上部に沿うような略半円柱状に形成されている。静電噴霧装置(10)の使用時には、台座カバー(33)が支持部(32)の下端に連結されて噴霧装置本体(30)の台座として機能する(図1を参照)。静電噴霧装置(10)の不使用時には、台座カバー(33)が筒状本体部(31)の上部に取り付けられてノズル(25)を覆う状態となる(図示省略)。なお、この不使用時には、支持部(32)が台座として機能する。
【0022】
筒状本体部(31)は、筒状の胴部(34)と、該胴部(34)の軸方向両端にそれぞれ形成される円形カバー部(35,36)とを有している。また、胴部(34)の斜め上方部位には、径方向外側に膨出するシュラウド部(37)が形成されている。シュラウド部(37)の先端側には、筒状本体部(31)内に臨むように開口穴が形成され、この開口穴にノズルベース(38)が径方向(図2に示す白抜きの矢印の方向)に進退自在に嵌り込んでいる。ノズルベース(38)には、表面側(外側)にノズル凹部(38a)が形成され、背面側に取付凹部(38b)が形成されている。ノズルベース(38)では、ノズル凹部(38a)の内側に噴霧カートリッジ(20)のノズル(25)が突出し、且つ取付凹部(38b)の内部に噴霧カートリッジ(20)の導電部材(22)が嵌り込む(詳細は後述する)。
【0023】
また、胴部(34)には、シュラウド部(37)の下側にLEDライト(39)が形成されている。LEDライト(39)は、ノズル(25)の先端から噴霧される液体に向かって光を照射することで、噴霧性状を視認し易くするものである。
【0024】
一対の円形カバー部(35,36)は、胴部(34)の両側面を覆うように該胴部(34)に取り付けられている。各円形カバー(35,36)には、帯状の金属部材(40)がそれぞれ設けられている。金属部材(40)は、ノズル(25)内で電荷を帯びた液体との間において、所望の電界を形成するための電極(対向電極)を構成している。また、各円形カバー部(35,36)は、その軸心を中心として胴部(34)に対して回転可能に構成されている。
【0025】
筒状本体部(31)の内部には、噴霧カートリッジ(20)を収容するための収容部(41)と、噴霧カートリッジ(20)の容器(21)内の液体を搬送するための液体搬送機構(50)とが設けられている。収容部(41)は、筒状本体部(31)の内部において、噴霧カートリッジ(20)の容器(21)を収容するスペースを区画している。即ち、噴霧カートリッジ(20)は、収容部(41)に着脱自在に収容される。
【0026】
液体搬送機構(50)は、噴霧カートリッジ(20)の容器(21)の周囲に配設されている。液体搬送機構(50)は、加圧部材(51)と仕切部材(52)と巻き取り部(53)とを有している。収容部(41)内では、加圧部材(51)と仕切部材(52)とが、筒状本体部(31)の軸方向に配列され、該加圧部材(51)と仕切部材(52)との間に噴霧カートリッジ(20)の容器(21)が介設されている。加圧部材(51)は、有底筒状の加圧部本体(51a)と、該加圧部本体(51a)の外周面に一体的に形成される2枚の突出板(51b,51b)とで構成されている。仕切部材(52)は、矩形板状に形成され、筒状本体部(31)の内部に保持されている。
【0027】
筒状本体部(31)の内部には、上記2枚の突出板(51b,51b)に対応するように、2つの巻き取り部(53,53)が設けられている。各巻き取り部(53,53)には、糸状ないしひも状のワイヤー部材(54)の一端がそれぞれ取り付けられている。各ワイヤー部材(54)の他端は、各突出板(51b)にそれぞれ連結している。また、図4に模式的に示すように、液体搬送機構(50)は、巻き取り部(53,53)を回転駆動するモータ(55)を有している。液体搬送機構(50)では、モータ(55)によって巻き取り部(53,53)が回転駆動されることで、ワイヤー部材(54)を介して加圧部材(51)が仕切部材(52)側へ引き寄せられる。これにより、容器(21)が加圧部材(51)によって加圧され、容器(21)内の液体がノズル(25)側へ押し出される(詳細は後述する)。
【0028】
噴霧カートリッジ(20)は、容器(21)と導電部材(22)とノズル保持部(23)とノズル(25)とが一体的に組み付けられて構成されている。
【0029】
容器(21)は、やや扁平な略直方体状の密閉式の袋によって構成されている。容器(21)は、液体を浸透させない比較的柔軟な材料から成る2枚のシートを重ね合わせることで構成されている。容器(21)の長手方向の一端側には、口部(21a)が突出して形成されている。
【0030】
容器(21)の内部には、使用者の用途等に応じて所定の液体が充填される。本実施形態の容器(21)には、化粧用の液体として、保湿成分や抗酸化成分を含んだ液体(例えばヒアルロン酸を含む溶液)が充填される。また、容器(21)に充填される噴霧用の液体は、その電気抵抗率が1.0×10Ωcm以上1.0×10Ωcm以下となるように調整されている。
【0031】
導電部材(22)は、導電性の樹脂材料で構成されており、ノズルベース(38)の取付凹部(38b)に嵌合可能に構成されている。導電部材(22)は、容器(21)内の液体に接触するようにして口部(21a)に挿入される挿入部(22a)と、該挿入部(22a)よりも大径に形成されて口部(21a)の先端を覆うフランジ部(22b)とで構成されている。フランジ部(22b)は、図3に模式的に示すように、電源(45)と電気的に接続している。これにより、電源(45)は、導電部材(22)の挿入部(22a)を介して容器(21)内の液体、ひいてはノズル(25)内の液体に高電圧を印加するように構成されている。
【0032】
ノズル(25)は、柔軟な樹脂製の細管によって構成されている。ノズル(25)の外径は、例えば0.35mmであり、ノズル(25)の内径は例えば0.13mmである。なお、ノズル(25)の内径は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましく、更には0.13mm以上0.42mm以下であることがより好ましい。ノズル(25)は、導電部材(22)に形成された貫通孔に挿通されている。ノズル(25)の一端は、容器(21)の内部と連通し、ノズル(25)の他端(先端)は、ノズル凹部(38a)の底部を貫通して筒状本体部(31)の外部に臨んでいる。
【0033】
ノズル保持部(23)は、ノズルベース(38)及び導電部材(22)の内部にノズル(25)を保持するものである。ノズル保持部(23)とノズル(25)とは、いわゆるインサート成形によって一体形成されている。ノズル保持部(23)は、その外形が円柱状に形成されている。そして、ノズル保持部(23)は、ノズル(25)を内部に保持した状態で、ノズルベース(38)の貫通口、及び導電部材(22)のフランジ部(22b)の円形溝に嵌り込む。これにより、ノズル(25)と筒状本体部(31)の相対位置が決定される。また、ノズル保持部(23)は、内部に空隙が形成されている。この空隙によってノズル保持部(23)の周壁が薄肉となり、該周壁からの応力に伴うノズル(25)の潰れや捩れ等が抑制されている。
【0034】
上記の電源(45)は、ノズル(25)の先端に電界を形成するように電圧を印加する。具体的には、電源(45)は、高圧の直流電源で構成されており、導電部材(22)に正極性の電圧を印加する。ここで、導電部材(22)は、容器(21)の液体と導通しており、且つこの液体は上述した液体搬送機構(50)によって、ノズル(25)の先端内部まで圧送されている。このため、この静電噴霧装置(10)では、実質的にはノズル(25)の先端近傍の液体に正極性の電圧が印加されることになる。これに対し、上述した金属部材(40)は、例えばゼロ電位となる対向電極を構成する。従って、ノズル(25)の先端の液体と、金属部材(40)との間に所定の電位差が付与される。その結果、ノズル(25)の先端と金属部材(40)との間には、ノズル(25)の先端の液体を噴霧するための電界が形成される。
【0035】
例えば図5に示すように、本実施形態の静電噴霧装置(10)では、ノズル(25)の先端から所定距離に至るまでは、液体が放射状あるいは扇状に拡がらずに実質的に線状の軌跡となる、いわゆる液糸(リガメント)が形成され、該液糸の先端において液体が放射状あるいは扇状に拡散する(詳細は後述する)。
【0036】
図4に示すように、静電噴霧装置(10)には、液体搬送機構(50)のモータ(55)を制御するモータコントローラ(57)が設けられている。モータコントローラ(57)は、使用者等が操作可能なつまみ等によって構成され、つまみの位置に応じてモータ(55)のトルクや回転数が調節される。モータコントローラ(57)の操作によって、モータ(55)のトルクや回転数が変更されると、加圧部材(51)から容器(21)へ作用する圧力も変化する。これにより、容器(21)の内圧が調整されることで、ノズル(25)の先端から噴霧される液体の流量も調整され、ひいてはノズル(25)の先端を通過する液体の流速(面流速)が変化する。本実施形態では、このような液体の流速の変化に伴い、上記液糸の長さが調整可能となっている。即ち、本実施形態のモータコントローラ(57)は、液糸の長さを調整するための第1の液糸調整手段を構成している。
【0037】
なお、モータコントローラ(57)によって調整されるノズル面流速は、液糸の長さを充分に確保するために、1mm/sec以上1000mm/sec以下の範囲とするのが好ましく、更には10mm/sec以上100mm/sec以下の範囲とするのがより好ましい。
【0038】
図3に示すように、静電噴霧装置(10)には、電源(45)の印加電圧(出力電圧)を調整するための電圧調整手段としての電圧コントローラ(47)が設けられている。電圧コントローラ(47)は、使用者が操作可能なつまみ等によって構成され、つまみの位置に応じて電源(45)の印加電圧が調節される。電圧コントローラ(47)の操作によって電源(45)の印加電圧が変更されると、ノズル(25)の先端の液体と金属部材(40)との間の電界強度が変化する。本実施形態では、このような電界強度の変化によっても、上記液糸の長さが調整可能となっている。即ち、本実施形態の電圧コントローラ(47)は、液糸の長さを調整するための第2の液糸調整手段を構成している。
【0039】
なお、電圧コントローラ(47)によって調整される電源(45)の印加電圧は、液糸の長さを充分に確保するために、3.5kV以上10.0kV以下の範囲とするのが好ましく、更には4.0kV以上7.0kV以下の範囲とするのがより好ましい。
【0040】
−運転動作−
次に、本実施形態の静電噴霧装置(10)の動作について説明する。この静電噴霧装置(10)では、いわゆるコーンジェットモードのEHD噴霧が行われる。
【0041】
静電噴霧装置(10)の使用時には、噴霧装置本体(30)からノズルベース(38)を外部に取り外し、ノズルベース(38)の取付凹部(38b)に噴霧カートリッジ(20)を装着する。そして、ノズルベース(38)及び噴霧カートリッジ(20)を一体としながら、筒状本体部(31)内の収容部(41)へ収容し、図2に示すような状態とする。
【0042】
静電噴霧装置(10)の運転時には、モータ(55)が駆動されて加圧部材(51)が容器(21)側へ引き寄せられる。これにより、容器(21)が加圧部材(51)によって押し付けられ、容器(21)内の圧力が上昇する。容器(21)内の圧力が上昇すると、容器(21)内の液体はノズル(25)の内部に流入し、ノズル(25)の先端から線状の液体(液糸)が噴出する。
【0043】
また、静電噴霧装置(10)の運転時には、電源(45)から導電部材(22)へ高電圧(例えば約6.0kV)が印加される。これにより、導電部材(22)と接触状態の液体が分極し、ノズル(25)から噴出された液体の気液界面の近傍に+(プラス)の電荷を帯びた液体が集まる。噴出された液体は、対向電極を成す金属部材(40)との電位差によって気液界面が引きちぎられて微細な粒径(例えば50μm〜200μm程度の粒径)の液滴となり、このような噴霧粒子が放射状に拡散する。
【0044】
以上のように、静電噴霧装置(10)では、ノズル(25)の先端から所定の距離(例えば80mm)に亘って、線状の液糸(リガメント)が形成され、この液糸の先端において帯電した微細な噴霧粒子が拡散する(例えば図5を参照)。これにより、使用者が静電噴霧装置(10)のノズル(25)からある程度離れていても、使用者等の顔面等に微細な噴霧粒子(化粧水等)を広範囲に亘って付着させることができる。この際、噴霧粒子はプラスに帯電しているため、噴霧粒子を使用者の顔面等に電気的に誘引することができ、使用者の顔面等への付着性能を高めている。
【0045】
ところで、このような静電噴霧装置(10)の運転時において、ノズル(25)から噴霧対象(例えば使用者)までの距離は必ずしも一定ではない。即ち、拡散させた噴霧粒子を噴霧対象へ到達させるための最適な距離は、静電噴霧装置(10)の使用状況に応じて変化する。従って、図5に示すように液糸を形成して噴霧を行う際、例えばノズル(25)に対して使用者が近すぎると、使用者の顔面等に液糸が当たってしまう可能性がある。また、ノズル(25)に対して使用者が遠すぎると、使用者の顔面に噴霧粒子を到達させることができない可能性もある。その結果、この静電噴霧装置(10)において、使用者に対して最適な噴霧性状で液体を供給することができず、所望の性能を得ることができないという問題が生じてしまう。そこで、本実施形態では、液糸調整手段(47,57)によってノズル(25)の先端から形成される液糸の長さを適宜調整できるようにしている。
【0046】
具体的には、本実施形態の静電噴霧装置(10)では、モータコントローラ(57)を調節することで、ノズル(25)の先端を通過する液体の面流速(ノズルから放出される液体の流量V/ノズル先端の開口面積S)を変化させ、これにより液糸の長さを調整できるようにしている。
【0047】
例えば図6に示すグラフは、電源(45)の出力電圧を6.5kVとした場合において、面流速と液糸の長さの関係を表したものである。なお、この例では、ノズルの先端の内径を3種類に変更しながら、面流速と液糸長さの関係を評価している。その結果、液糸の長さはノズルの内径にはさほど依存せず、面流速に応じて大きく変化することが確認できる。例えばノズルの内径を0.13mmとしたものでは、面流速を約1mm/sec〜約100mm/secの範囲で変化させると、これに応じて、液糸の長さを約45mm〜約130mmの範囲で変化させることが確認できる。
【0048】
また、本実施形態の静電噴霧装置(10)では、電圧コントローラ(47)を調節することで、電源(45)の印加電圧、ひいてはノズル(25)の先端の電界強度を変化させ、これにより液糸の長さを調整できるようにしている。
【0049】
例えば図7に示すグラフは、上記の面流速に加えて電源(45)の出力電圧が液糸の長さに与える影響を評価したものである。この例では、ノズルの先端の内径を0.13mmとしたものについて、電源(45)の出力電圧を6.2kVと6.5kVとに変化させている。電源(45)の出力電圧を6.2kVとした場合には、面流速を約1mm/sec〜約100mm/secの範囲で変化させると、これに応じて、液糸の長さを約40mm〜約110mmの範囲で変化させることが確認できる。そして、例えば面流速を約100mm/secとした場合に、電源(45)の出力電圧を6.2kV〜6.5kVの範囲で変化させると、液糸の長さを約110mm〜約130mmの範囲で変化させることができる。
【0050】
−実施形態の効果−
本実施形態の静電噴霧装置(10)では、使用者がノズル(25)の面流速と電源(45)の印加電圧とを適宜調節することで、使用状況に応じて液糸の長さを調整することができる。従って、ノズル(25)と使用者との間の距離が変化しても、これに併せて液糸の長さを最適に変化させることができるので、使用者の顔面に比較的微細な噴霧粒子を確実に到達させることができる。また、ノズル(25)の面流速と電源(45)の印加電圧との双方を調節できるので、液糸の長さを微調整でき、噴霧性状をより最適な状態に変更できる。
【0051】
〈その他の実施形態〉
上記実施形態において、以下のような他の構成としても良い。
【0052】
上記実施形態では、加圧部材(51)による容器(21)の押圧力を変化させることで、ノズル(25)の流速を変化させている。しかしながら、流速調整手段として、例えばノズル(25)に液体を搬送するポンプの流量を変化させるものを用いても良い。また、ノズル(25)に一定の流量で液体を供給するものにおいて、ノズル(25)の開口面積を変化させるものを用いても良い。
【0053】
また、上記実施形態では、ノズル(25)の先端の電界強度を変化させる電界強度調整手段として、電源(45)の印加電圧を調整する電圧コントローラ(47)を用いている。しかしながら、これ以外の電界強度調整手段として、ノズル(25)の先端と対向電極(40)との間の距離を変化させる電極間距離調整手段を用いても良い。具体的には、図1に示す上記実施形態において、対向電極(40)が形成された円形カバー(35)を筒状本体部(31)の胴部(34)に対して軸周りに回転させる。つまり、この例では、円形カバー(35)が電極間距離調整手段を構成している。円形カバー(35)を回転させると、対向電極(40)とノズル(25)の先端までの距離が変化するので、結果的にノズル(25)の先端の電界強度を変化させることができる。また、ノズル(25)をノズルベース(38)に対して前後に進退可能な構造とし、ノズル(25)の先端位置を変化させることで、ノズル(25)の先端と対向電極(40)との距離を変化させても良い。
【0054】
また、上記実施形態では、液糸調整手段として、流速調整手段(57)と電圧調整手段(47)との双方を用いているが、いずれか一方だけを用いても良い。また、上記実施形態で述べた各液糸調整手段と他の液糸調整手段とを組み合わせた構成としても良い。
【0055】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、電界によってノズルの先端から液体を噴霧する静電噴霧装置に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施形態に係る静電噴霧装置の構成を第1カバー側から視て示す斜視図である。
【図2】実施形態に係る静電噴霧装置の構成を示す縦断面図である。
【図3】実施形態に係る液体搬送手段の構成を示す斜視図である。
【図4】実施形態に係る液体搬送手段を模式的に表した概略構成図である。
【図5】実施形態に係る静電噴霧装置の噴霧性状を模式的に表した図である。
【図6】ノズルの面流速と液糸の長さとの関係を表したグラフである。
【図7】ノズルの面流速と電源の印加電圧と液糸の長さとの関係を表したグラフである。
【符号の説明】
【0058】
10 静電噴霧装置
21 容器
25 ノズル
35 円形カバー(電極間距離調整手段、電界強度調整手段、液糸調整手段)
40 金属部材(対向電極)
45 電源
47 電圧コントローラ(電圧調整手段、液糸調整手段)
50 液体搬送機構
57 モータコントローラ(流速調整手段、液糸調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する容器(21)と、該容器(21)の内部に連通するノズル(25)と、該容器(21)内の液体をノズル(25)内へ搬送する液体搬送機構(50)と、該ノズル(25)の先端に電界を形成するように電圧を印加する電源(45)とを備え、該電界によってノズル(25)の先端から液糸を形成するように液体を噴霧する静電噴霧装置であって、
上記液糸の長さを調整する液糸調整手段(35,47,57)を更に備えていることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記液糸調整手段(35,47,57)は、上記ノズル(25)の先端を通過する液体の流速を変化させる流速調整手段(57)であることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項3】
請求項1において、
上記液糸調整手段(35,47,57)は、上記ノズル(25)の先端の電界強度を変化させる電界強度調整手段(35,57)であることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項4】
請求項3において、
上記電界強度調整手段(35,47)は、上記電源(45)の印加電圧を調整する電圧調整手段(47)であることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項5】
請求項3において、
上記ノズル(25)の先端の近傍に配設される対向電極(40)を備え、
上記電源(45)は、上記ノズル(25)の先端内部の液体と、上記対向電極(40)との間に電位差を付与するように構成され、
上記電界強度調整手段(35,47)は、上記ノズル(25)の先端と上記対向電極(40)との間の距離を変化させる電極間距離調整手段(35)であることを特徴とする静電噴霧装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−184220(P2010−184220A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31353(P2009−31353)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】