説明

静電噴霧装置

【課題】電圧を印加した液体をノズルから噴霧させる静電噴霧装置であって、ノズルから吐出される液の気液界面を安定させ、噴霧方向の乱れを防止する。
【解決手段】静電噴霧装置の噴霧ノズル2の先端の中央部に、液体の噴出方向へ膨らんだ膨出面3を形成し、且つ膨出面3に第1ノズル孔4を設ける、また第1ノズル孔4は,膨出面3の中央部に設けられ、第1ノズル孔4を中心とする仮想円周に沿って間隔をおいて第2ノズル孔5が設けられている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルを有する静電噴霧装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気流体力学(EHD:Electro Hydrodynamics)により液体を霧化して噴霧する静電噴霧装置が知られている。この静電噴霧装置は、例えば細径管の開口端の近傍に電界を形成し、その電界の不平等性を用いて細径管内の液体を霧化して噴霧するものである。
【0003】
特許文献1や特許文献2には、静電噴霧装置で構成された吸入器が開示されている。この吸入器は、例えば喘息や気管支炎等の治療薬を霧化し、微細な液滴状になった薬剤を鼻から吸入させるために用いられる。また、特許文献3には、静電噴霧装置で構成された手持ち式のスプレー装置が開示されている。このスプレー装置は、液状ファンデーションや香水等の化粧品を霧化し、微細な液滴状になった化粧品を肌に付着させるために用いられる。
【0004】
これらの特許文献に開示された吸入器やスプレー装置では、ノズル(60)の先端近傍に電界が形成される。そして、これらの静電噴霧装置で液体を霧化する際には、まず、ノズルの先端にある液体の気液界面が電界によって引き伸ばされて円錐状になる(円錐状となった気液界面をコーンという。)。その後、このコーンの先端部分がさらに引き伸ばされて、該先端部分が霧化されて放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−197071号公報
【特許文献2】特表2002−532163号公報
【特許文献3】特表2003−507166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したコーンを形成する前の気液界面において、該気液界面上に突出した部分がある場合には、その突出した部分が他の部分よりも引き伸ばされやすい。一方、従来の静電噴霧装置において、コーンを形成する前の気液界面が波を打ったように不安定になることがある。こうなると、上述したように、その波状の気液界面の先端部分が引き伸ばされやすくなるため、図11に示すように、上記液体の噴霧方向が乱れやすくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液体に電圧を印加してノズルから該液体を噴霧させる噴霧機構を備えた静電噴霧装置であって、上記ノズルから安定して液体を噴霧させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、液体が充填された容器(21)と、該容器(21)に接続されて該容器(21)の内外を連通する液体通路が形成されたノズル(2)と、上記容器(21)内の液体に電圧を印加して上記ノズルから該液体を噴霧させる静電噴霧機構(45,50)とを備えた静電噴霧装置を前提としている。
【0009】
そして、上記静電噴霧装置のノズル(2)は、該ノズル(2)の先端の中央部が液体の噴出方向へ膨らんだ膨出面(3)を有し、且つ該膨出面(3)に第1ノズル孔(4)が設けられていることを特徴としている。
【0010】
第1の発明では、上記第1ノズル孔(4)から露出した液体が上記膨出面(3)に広がり、上記ノズル(2)の先端には、上記膨出面(3)に沿うように円錐面状の気液界面が形成される。つまり、液体の噴出方向へ円錐面状に膨らんだ気液界面が形成される。この気液界面は上記膨出面(3)に保持されているため、該気液界面の形状が安定する。
【0011】
そして、この円錐面状の気液界面における頂点部分が電界によって引き伸ばされることにより、液体の噴出方向に突出した安定形状のコーンが形成される。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記第1ノズル孔(4)は、上記膨出面(3)の中央に設けられていることを特徴としている。
【0013】
上記第2の発明では、上記第1ノズル孔(4)を膨出面(3)の中央に配置している。これにより、上記第1ノズル孔(4)から露出した液体が、上記膨出面(3)の頂部(中央部)から該膨出面(3)の周縁部へ広がりやすくなる。これにより、上記コーンを形成する前の気液界面の形状が、円錐状になりやすくなる。
【0014】
第3の発明は、第2の発明において、上記膨出面(3)には、上記第1ノズル孔(4)を中心とする仮想円周(a)に沿って間隔をおいて第2ノズル孔(5)が設けられていることを特徴としている。
【0015】
第3の発明では、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)から露出した液体が上記膨出面(3)上でつながって円錐状の気液界面が形成される。ここで、上記第2ノズル孔(5)は上記気液界面の周縁部分に位置する。このことから、上記第2ノズル孔(5)から露出した液体により、上記仮想円周(a)に沿うように上記気液界面の外周縁が形成されやすくなる。従って、上記気液界面の外周縁を略円形に近い状態にしやすくなる。
【0016】
第4の発明は、第3の発明において、上記第2ノズル孔(5)は、上記第1ノズル孔(4)の中心を通る平面(b)に対して対称に配置されていることを特徴としている。
【0017】
第4の発明では、上記平面(b)の両側に上記第2ノズル孔(5)が均等に配置される。これにより、上記第2ノズル孔(5)が偏在しないので、上記気液界面の外周縁を、より一層略円形に近い状態にしやすくなる。
【0018】
第5の発明は、第3又は第4の発明において、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)は、共に径方向の開口断面積が同一であることを特徴としている。
【0019】
第5の発明では、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)から流れ出る液体の量が均一になる。これにより、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一な状態に近づけやすくなる。
【0020】
第6の発明は、第3から第5の何れか1つの発明において、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)は、共に同一の孔径であることを特徴としている。
【0021】
第6の発明では、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を同一形状で構成することにより、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)の形状を異ならせた場合に比べて、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)が形成しやすくなる。
【0022】
第7の発明は、第2から第6の何れか1つの発明において、上記膨出面(3)には、上記第1ノズル孔(4)を中心とする仮想円周(a)の内側に第3ノズル孔(6)が設けられていることを特徴としている。
【0023】
第7の発明では、上記第1から第3のノズル孔から露出した液体が上記膨出面(3)上でつながって円錐状の気液界面が形成される。上記第1ノズル孔(4)と第2ノズル孔(5)との間に第3ノズル孔(6)を設けることにより、上記膨出面(3)に形成されるノズル孔の数が増える。このことから、ノズル孔の数が増えた分だけ、上記膨出面(3)へ流れる液体の量が増加し、上記気液界面を早く形成することができるようになる。
【0024】
第8の発明は、第2から第7の何れか1つの発明において、上記第3ノズル孔(6)は、上記第1ノズル孔(4)の中心を通る平面(b)に対して対称に配置されていることを特徴としている。
【0025】
第8の発明では、上記平面(b)の両側に上記第3ノズル孔(6)が均等に配置される。これにより、上記第3ノズル孔(6)を偏在させることなく、上記仮想円周(a)内に配置することができるようになる。これにより、上記気液界面を、より早く円錐状にすることができるようになる。
【0026】
第9の発明は、第7又は第8の発明において、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)は、共に径方向の開口断面積が同一であることを特徴としている。
【0027】
第9の発明では、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)から流れ出る液体の量が均一になる。これにより、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一な状態に近づけやすくなる。
【0028】
第10の発明は、第7から第9の発明の何れか1つにおいて、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)は、共に同一の孔径であることを特徴としている。
【0029】
第10の発明では、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)を同一形状で構成することにより、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)の形状を異ならせた場合に比べて、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)を形成しやすくなる。
【0030】
第11の発明は、第2の発明において、上記膨出面(3)には、上記第1ノズル孔(4)から外側へ向かって同心円状に配列された環状の第4ノズル孔(7)が形成されていることを特徴としている。
【0031】
第11の発明では、上記第1ノズル孔(4)及び第4ノズル孔(7)から露出した液体が上記膨出面(3)上でつながって円錐状の気液界面が形成される。ここで、上記第4ノズル孔(7)の液体は環状の状態、つまり円周方向につながった状態で露出する。このため、第4ノズル孔(7)の液体が円錐状の気液界面を形成する際に、第4ノズル孔(7)から露出した液体は、上記膨出面(3)の径方向へ広がるだけよい。以上より、上記気液界面を、より早く確実に円錐状にすることができるようになる。
【0032】
第12の発明は、第11の発明において、上記第1ノズル孔(4)及び第4ノズル孔(7)は、共に径方向の開口断面積が同一であることを特徴としている。
【0033】
第12の発明では、上記第1ノズル孔(4)及び第4ノズル孔(7)から流れ出る液体の量が均一になる。これにより、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一な状態に近づけやすくなる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、上記ノズル(2)の先端において、上記コーンを形成する前の気液界面の形状を安定した円錐状にすることができる。これにより、従来とは違い、上記コーンを形成する前の気液界面が波を打ったように不安定とならず、上記ノズル(2)から安定して液体を噴霧させることができる。
【0035】
また、上記第2の発明によれば、上記第1ノズル孔(4)を膨出面(3)の中央に配置することにより、上記コーンを形成する前の気液界面の形状が、円錐状に近い状態になりやすくなる。これにより、従来とは違い、上記コーンを形成する前の気液界面が波状とならずに上記コーンの形状がより安定する。その結果、上記ノズル(2)から安定して液体を噴霧させることができる。
【0036】
また、上記第3の発明によれば、上記第2ノズル孔(5)を上記仮想円周(a)に沿って並べることにより、上記気液界面の外周縁を略円形に近い状態にすることができる。これにより、上記コーンを形成する前の気液界面の形状が、確実に円錐状に近い状態になりやすくなる。これにより、上記コーンの形状が安定し、上記ノズル(2)から安定して液体を噴霧させることができる。
【0037】
また、上記第4の発明によれば、上記第2ノズル孔(5)を偏在させないようにすることで、上記コーンを形成する前の気液界面の外周縁を、より一層略円形に近い状態にしやすくすることができる。これにより、上記コーンの形状がより一層安定し、上記ノズルから安定して液体を噴霧させることができる。
【0038】
また、上記第5の発明によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を同一の開口面積にすることで、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一に近づけることができる。これにより、上記気液界面の形状が安定し、上記コーンの形状がより安定した状態にすることができる。
【0039】
また、上記第6の発明によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を同一形状で構成することで、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を形成しやすくなり、上記ノズル(2)の製造コストを低減することができる。
【0040】
また、上記第7の発明によれば、上記第3ノズル孔(6)を設けることで、上記膨出面(3)に形成されるノズル孔が増えた分だけ、上記膨出面(3)へ流れる液体の量が増加し、、上記膨出面(3)に形成される気液界面を早く形成することができる。そして、上記膨出面(3)へ流れる液体の量が増加した分だけ、上記コーンの形状を早く安定させることができる。
【0041】
また、上記第8の発明によれば、上記第3ノズル孔(6)を偏在しないように配置することで、上記気液界面を、より早く円錐状にすることができる。これにより、上記ノズル(2)から噴霧される液体を、より早く安定させることができる。
【0042】
また、上記第9の発明によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)を同一の開口面積にすることで、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一に近づけることができる。これにより、上記気液界面の形状が安定し、上記コーンの形状がより安定した状態にすることができる。
【0043】
また、上記第10の発明によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)を同一形状で構成することで、上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)を形成しやすくなる。これにより、上記ノズル(2)の製造コストを低減することができる。
【0044】
また、上記第11の発明によれば、上記第4ノズル孔(7)から露出した液体は、上記膨出面(3)の径方向へ広がるだけで、円錐状の気液界面を形成することができる。これにより、上記気液界面を、より早く確実に円錐状にすることができる。これにより、上記ノズル(2)から噴霧される液体を、より早く確実に安定させることができる。
【0045】
また、上記第12の発明によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第4ノズル孔(7)を同一の開口面積にすることで、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一に近づけることができる。これにより、上記気液界面の形状が安定し、上記コーンの形状をより安定した状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に係る静電噴霧装置の構成を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る静電噴霧装置の構成を示す縦断面図である。
【図3】本実施形態に係る液体搬送手段の構成を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係るノズルの径方向の断面図である。
【図5】本実施形態に係るノズルの軸方向の断面図である。
【図6】本実施形態の変形例1に係るノズルの径方向の断面図である。
【図7】本実施形態の変形例2に係るノズルの径方向の断面図である。
【図8】その他の実施例に係るノズルの径方向の断面図である。
【図9】その他の実施例に係るノズルの径方向の断面図である。
【図10】本実施形態の変形例3に係るノズルの径方向の断面図である。
【図11】従来のノズルの噴霧状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0048】
本実施形態の静電噴霧装置(10)は、卓上等に設置されて使用者に向かって所定の液体を噴霧するものである。上記静電噴霧装置(10)は、噴霧装置本体(30)と、該噴霧装置本体(30)に交換可能に装着される噴霧カートリッジ(20)とを備えている。
【0049】
上記噴霧装置本体(30)は、図1に示すように、支持部(32)と筒状本体部(31)と台座カバー(33)とを有している。
【0050】
上記支持部(32)は、筒状本体部(31)を支持する略矩形状の柱部材で構成されている。支持部(32)には、静電噴霧装置(10)を操作するためのスイッチ等が設けられている。上記台座カバー(33)は、下側が開放され且つ筒状本体部(31)の上部に沿うような略半円柱状に形成されている。静電噴霧装置(10)の使用時には、台座カバー(33)が支持部(32)の下端に連結されて噴霧装置本体(30)の台座として機能する。静電噴霧装置(10)の不使用時には、台座カバー(33)が筒状本体部(31)の上部に取り付けられてノズル(2)を覆う状態となる(図示省略)。なお、この不使用時には、支持部(32)が台座として機能する。
【0051】
上記筒状本体部(31)は、筒状の胴部(34)と、該胴部(34)の軸方向両端にそれぞれ形成される円形カバー部(35,36)とを有している。また、胴部(34)の斜め上方部位には、径方向外側に膨出するシュラウド部(37)が形成されている。シュラウド部(37)の先端側には、筒状本体部(31)内に臨むように開口穴が形成され、この開口穴にノズルベース(38)が径方向(図2に示す白抜きの矢印の方向)に進退自在に嵌り込んでいる。ノズルベース(38)には、表面側(外側)にノズル凹部(38a)が形成され、背面側に取付凹部(38b)が形成されている。ノズルベース(38)では、ノズル凹部(38a)の内側に噴霧カートリッジ(20)のノズル(2)が突出し、且つ取付凹部(38b)の内部に噴霧カートリッジ(20)の導電部材(22)が嵌り込む。
【0052】
また、胴部(34)には、シュラウド部(37)の下側にLEDライト(39)が形成されている。LEDライト(39)は、ノズル(2)の先端から噴霧される液体に向かって光を照射することで、噴霧性状を視認し易くするものである。
【0053】
一対の円形カバー部(35,36)は、胴部(34)の両側面を覆うように該胴部(34)に取り付けられている。各円形カバー(35,36)には、帯状の金属部材(40)がそれぞれ設けられている。金属部材(40)は、ノズル(2)内で電荷を帯びた液体との間において、所望の電界を形成するための電極(対向電極)を構成している。また、各円形カバー部(35,36)は、その軸心を中心として胴部(34)に対して回転可能に構成されている。
【0054】
上記筒状本体部(31)の内部には、図2に示すように、噴霧カートリッジ(20)を収容するための収容部(41)と、噴霧カートリッジ(20)の容器(21)内の液体を搬送するための液体搬送機構(50)とが設けられている。尚、この液体搬送機構(50)と後述する電源部(45)とにより、静電噴霧機構(45,50)を構成する。
【0055】
上記収容部(41)は、筒状本体部(31)の内部において、噴霧カートリッジ(20)の容器(21)を収容するスペースを区画している。即ち、噴霧カートリッジ(20)は、収容部(41)に着脱自在に収容される。上記液体搬送機構(50)は、噴霧カートリッジ(20)の容器(21)の周囲に配設されている。
【0056】
上記液体搬送機構(50)は、図3に示すように、加圧部材(51)と仕切部材(52)と巻き取り部(53)とを有している。収容部(41)内では、加圧部材(51)と仕切部材(52)とが、筒状本体部(31)の軸方向に配列され、該加圧部材(51)と仕切部材(52)との間に噴霧カートリッジ(20)の容器(21)が介設されている。加圧部材(51)は、有底筒状の加圧部本体と、該加圧部本体の外周面に一体的に形成される2枚の突出板とで構成されている。仕切部材(52)は、矩形板状に形成され、筒状本体部(31)の内部に保持されている。
【0057】
筒状本体部(31)の内部には、上記2枚の突出板に対応するように、2つの巻き取り部(53)が設けられている。各巻き取り部(53)には、糸状ないしひも状のワイヤー部材(54)の一端がそれぞれ取り付けられている。各ワイヤー部材(54)の他端は、上記加圧部材(51)の突出板にそれぞれ連結している。また、液体搬送機構(50)は、巻き取り部(53)を回転駆動するモータ(図示なし)を有している。液体搬送機構(50)では、モータによって巻き取り部(53)が回転駆動されることで、ワイヤー部材(54)を介して加圧部材(51)が仕切部材(52)側へ引き寄せられる。これにより、容器(21)が加圧部材(51)によって加圧され、容器(21)内の液体がノズル(2)側へ押し出される。
【0058】
上記噴霧カートリッジ(20)は、容器(21)と導電部材(22)とノズル(2)とノズル保持部(23)とが一体的に組み付けられて構成されている。
【0059】
上記容器(21)は、やや扁平な略直方体状の密閉式の袋によって構成されている。容器(21)は、液体を浸透させない比較的柔軟な材料から成る2枚のシートを重ね合わせることで構成されている。容器(21)の長手方向の一端側には、口部(21a)が突出して形成されている。この容器(21)の内部には、使用者の用途等に応じて所定の液体が充填される。本実施形態の容器(21)には、化粧用の液体として、保湿成分や抗酸化成分を含んだ液体(例えばヒアルロン酸を含む溶液)が充填される。また、容器(21)に充填される噴霧用の液体は、その電気抵抗率が1.0×10Ωcm以上1.0×10Ωcm以下となるように調整されている。
【0060】
上記導電部材(22)は、導電性の樹脂材料で構成されており、ノズルベース(38)の取付凹部(38b)に嵌合可能に構成されている。導電部材(22)は、容器(21)内の液体に接触するようにして口部(21a)に挿入される挿入部(22a)と、該挿入部(22a)よりも大径に形成されて口部(21a)の先端を覆うフランジ部(22b)とで構成されている。フランジ部(22b)は、図3に模式的に示すように、電源部(45)と電気的に接続している。これにより、電源部(45)は、導電部材(22)の挿入部(22a)を介して容器(21)内の液体、ひいてはノズル(2)内の液体に高電圧を印加するように構成されている。
【0061】
上記ノズル(2)は、柔軟な樹脂製の細管によって構成されている。このノズル(2)は、導電部材(22)に形成された貫通孔に挿通されている。ノズル(2)の一端は、容器(21)の内部と連通し、ノズル(2)の他端(先端)は、ノズル凹部(38a)の底部を貫通して筒状本体部(31)の外部に臨んでいる。尚、上記ノズル(2)の形状は本発明の特徴であり、詳しく後述する。
【0062】
上記ノズル保持部(23)は、ノズルベース(38)及び導電部材(22)の内部にノズル(2)を保持するものである。ノズル保持部(23)とノズル(2)とは、いわゆるインサート成形によって一体形成されている。ノズル保持部(23)は、その外形が円柱状に形成されている。そして、ノズル保持部(23)は、ノズル(2)を内部に保持した状態で、ノズルベース(38)の貫通口、及び導電部材(22)のフランジ部(22b)の円形溝に嵌り込む。これにより、ノズル(2)と筒状本体部(31)の相対位置が決定される。また、ノズル保持部(23)は、内部に空隙が形成されている。この空隙によってノズル保持部(23)の周壁が薄肉となり、該周壁からの応力に伴うノズル(2)の潰れや捩れ等が抑制されている。
【0063】
上記電源部(45)は、ノズル(2)の先端に電界を形成するように電圧を印加する。具体的には、電源部(45)は、高圧の直流電源で構成されており、導電部材(22)に正極性の電圧を印加する。ここで、導電部材(22)は、容器(21)の液体と導通しており、且つこの液体は上述した液体搬送機構(50)によって、ノズル(2)の先端内部まで圧送されている。このため、この静電噴霧装置(10)では、実質的にはノズル(2)の先端近傍の液体に正極性の電圧が印加されることになる。これに対し、上述した金属部材(40)は、例えばゼロ電位となる対向電極を構成する。従って、ノズル(2)の先端の液体と、金属部材(40)との間に所定の電位差が付与される。その結果、ノズル(2)の先端と金属部材(40)との間には、ノズル(2)から液体を噴霧するための電界が形成される。
【0064】
−ノズルの形状−
図4は上記ノズル(2)の径方向の断面図であり、図5は上記ノズル(2)の軸方向の断面図である。上記ノズル(2)は、径方向断面が円形状の細管である。この上記ノズル(2)の先端には、中心部分が突出するように膨らんだ膨出面(3)を有している。
【0065】
この膨出面(3)の中心には、第1ノズル孔(4)が形成されている。この第1ノズル孔(4)は、上記ノズル(2)を軸方向に貫通する貫通孔で構成されている。
【0066】
又、上記膨出面(3)には、第1ノズル孔(4)を中心とする仮想円周(a)に沿って間隔をおいて複数の第2ノズル孔(5)が形成されている。尚、これらの第2ノズル孔(5)は、上記第1ノズル孔(4)の中心を通る平面(b)に対して対称に配置されている。
【0067】
又、これらの第2ノズル孔(5)は、仮想円周(a)に沿って等間隔に配置されている。この第2ノズル孔(5)は、第1ノズル孔(4)と同様に、上記ノズル(2)を軸方向に貫通する貫通孔で構成されている。尚、上記第1、第2ノズル孔(4,5)は、共に同一の孔径であり、共に径方向の開口断面積が同一である。
【0068】
−運転動作−
次に、本実施形態の静電噴霧装置(10)の動作について説明する。この静電噴霧装置(10)では、いわゆるコーンジェットモードのEHD噴霧が行われる。
【0069】
静電噴霧装置(10)の使用時には、噴霧装置本体(30)からノズルベース(38)を外部に取り外し、ノズルベース(38)の取付凹部(38b)に噴霧カートリッジ(20)を装着する。そして、ノズルベース(38)及び噴霧カートリッジ(20)を一体としながら、筒状本体部(31)内の収容部(41)へ収容し、図2に示すような状態とする。
【0070】
静電噴霧装置(10)の運転時には、モータが駆動されて加圧部材(51)が容器(21)側へ引き寄せられる。これにより、容器(21)が加圧部材(51)によって押し付けられ、容器(21)内の圧力が上昇する。上記容器(21)内の圧力が上昇すると、該容器(21)内の液体は上記ノズル(2)の第1、第2ノズル孔(4,5)を流れて、該ノズル(2)の膨出面(3)に露出する。
【0071】
又、静電噴霧装置(10)の運転時には、電源部(45)から導電部材(22)へ高電圧(例えば約6.0kV)が印加される。これにより、導電部材(22)と接触状態の液体が分極し、該ノズル(2)の膨出面(3)に露出した液体の気液界面の近傍が+(プラス)の電荷を帯びた状態になる。
【0072】
この状態で、上記第1ノズル孔(4)から露出した液体は、上記膨出面(3)の頂部(中央部)から該膨出面(3)の周縁部へ広がる。そして、上記膨出面(3)の周縁部へ広がった液体と上記上記第2ノズル孔(5)から露出した液体とがつながって、上記膨出面(3)には、該膨出面(3)に沿うように円錐面状の気液界面が形成される。ここで、上記第2ノズル孔(5)が仮想円周(a)に沿って並べられることにより、上記円錐状の気液界面の外周縁は、この仮想円周(a)に近い略円形になる。
【0073】
このようにして、上記ノズル(2)の先端に形成された気液界面は、該ノズル(2)の先端付近に形成された電界によって、該気液界面の頂点部分が引き伸ばされる。すると、上記ノズル(2)の先端部分には、上記ノズル(2)の噴出方向に突出した安定形状のコーンが形成される。このコーンは、対向電極を成す金属部材(40)との電位差によって、さらに引き伸ばされることにより、上記気液界面が引きちぎられて微細な粒径(例えば50μm〜200μm程度の粒径)の液滴となり、このような噴霧粒子が放射状に拡散する。この際、噴霧粒子はプラスに帯電しているため、噴霧粒子を使用者の顔面等に電気的に誘引することができ、使用者の顔面等への付着性能を高めている。
【0074】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、上記ノズル(2)の先端において、上記コーンを形成する前の気液界面は膨出面(3)に保持されて、該気液界面の形状を安定した円錐状にすることができる。又、上記第1ノズル孔(4)を膨出面(3)の中央に配置することにより、上記コーンを形成する前の気液界面の形状が、円錐状に近い状態になりやすくなる。
【0075】
これにより、従来とは違い、上記コーンを形成する前の気液界面が波状とならずに上記コーンの形状がより安定する。その結果、上記ノズル(2)から安定して液体を噴霧させることができる。
【0076】
又、本実施形態によれば、上記第1ノズル孔(4)を中心とする仮想円周(a)に沿って間隔をおいて、上記第2ノズル孔(5)が設けられている。又、上記第2ノズル孔(5)は、上記第1ノズル孔(4)の中心を通る平面(b)に対して対称に配置されている。ここで、上記第2ノズル孔(5)は上記気液界面の周縁部分に位置する。このことから、上記第2ノズル孔(5)から露出した液体により、上記仮想円周(a)に沿うように上記気液界面の外周縁が形成されやすくなる。従って、上記気液界面の外周縁を略円形に近い状態にしやすくなる。以上より、上記コーンの形状がより一層安定し、上記ノズル(2)からより安定して液体を噴霧させることができる。
【0077】
又、本実施形態によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を同一の開口面積にすることで、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一に近づけることができる。これにより、上記気液界面の形状が安定し、上記コーンの形状がより安定した状態にすることができる。
【0078】
又、本実施形態によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を同一形状で構成することで、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を形成しやすくなり、上記ノズル(2)の製造コストを低減することができる。
【0079】
−実施形態の変形例1−
本実施形態の変形例1では、上記第2ノズル孔(5)における径方向の断面形状が異なる。上記変形例1のノズルにおける径方向の断面図を図6に示す。
【0080】
上記変形例1の第2ノズル孔(5)は扇形である。ここで、上記第1ノズル孔(4)と上記第2ノズル孔(5)とは、共に径方向の開口断面積が同一である。又、上記第2ノズル孔(5)は、該円弧部分の外縁と上述した仮想円周(a)とが一致するように配置されている。
【0081】
本実施形態の変形例1によれば、上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)を同一の開口面積にすることより、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一に近づけることができる。又、上記第2ノズル孔(5)の円弧部分の外縁と仮想円周(a)とを一致させることにより、上記気液界面の外周縁をさらに略円形に近い状態にしやすくなる。
【0082】
−実施形態の変形例2−
本実施形態の変形例2では、上記膨出面(3)において、第1ノズル孔(4)と第2ノズル孔(5)とは別に、第3ノズル孔(6)が形成されている。上記変形例2のノズル(2)における径方向の断面図を図7に示す。
【0083】
上記第3ノズル孔(6)は、上記膨出面(3)における上記第1ノズル孔(4)を中心とする仮想円周(a)の内側に形成されている。又、上記第3ノズル孔(6)は、上記第1ノズル孔(4)を囲むように、第1ノズル孔(4)と第2ノズル孔(5)との間に形成されている。
【0084】
本実施形態の変形例2によれば、上記第3ノズル孔(6)を設けることで、上記膨出面(3)に形成されるノズル孔が増えた分だけ、上記膨出面(3)へ流れる液体の量が増加し、、上記膨出面(3)に形成される気液界面を早く形成することができる。そして、上記膨出面(3)へ流れる液体の量が増加した分だけ、上記コーンの形状を早く安定させることができる。
【0085】
−実施形態の変形例3−
本実施形態の変形例3では、上記膨出面(3)において、上記第1ノズル孔(4)と、断面が環状の第4ノズル孔(7)とが形成されている。上記変形例3のノズル(2)における径方向の断面図を図10に示す。
【0086】
上記第4ノズル孔(7)は、上記第1ノズル孔(4)から外側へ向かって同心円状に配列されている。こうすると、上記第4ノズル孔(7)の液体は環状の状態、つまり円周方向につながった状態で露出する。このため、第4ノズル孔(7)から露出した液体は、上記膨出面(3)の径方向へ広がるだけで、円錐状の気液界面を形成することができる。以上より、上記気液界面を、より早く確実に円錐状にすることができるようになる。
【0087】
又、上記第1ノズル孔(4)及び第4ノズル孔(7)は、共に径方向の開口断面積が同一であるため、上記第1ノズル孔(4)及び第4ノズル孔(7)から流れ出る液体の量が均一になる。これにより、上記円錐状の気液界面を有する液体の液膜厚さを均一に近づけることができ、結果的に上記気液界面の形状が安定し、上記コーンの形状をより安定した状態にすることができる。
【0088】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0089】
本実施形態では、上記膨出面(3)に形成されるノズル孔(4,5,6,7)が、全て上記ノズル(2)を軸方向に貫通する貫通孔で構成されているが、これに限定されず、例えば、中空状のノズルの端部を閉塞して、その閉塞面にノズル孔を設けてもよい。こうすると、ノズル孔を流れる液体の圧力損失を低減することができる。
【0090】
又、本実施形態の変形例2では、第1から第3までのノズル孔(4,5,6)は、何れも同一の孔径であったが、これに限定されず、図8に示すように、第1ノズル孔(4)から径方向外方へ向かって孔径を大きくしてもよいし、図9に示すように、第1ノズル孔(4)から径方向外方へ向かって孔径を小さくしてもよい。このように、第1から第3までのノズル孔(4,5,6)の孔径を異ならせた場合でも、上記変形例2と同様の効果を得ることができる。
【0091】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明は、ノズルを有する静電噴霧装置について有用である。
【符号の説明】
【0093】
2 ノズル
3 膨出面
4 第1ノズル孔
5 第2ノズル孔
6 第3ノズル孔
7 第4ノズル孔
10 静電噴霧装置
20 噴霧カートリッジ
21 容器
45 電源部(静電噴霧機構)
50 液体搬送機構(静電噴霧機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填された容器(21)と、該容器(21)に接続されて該容器(21)の内外を連通する液体通路が形成されたノズル(2)と、上記容器(21)内の液体に電圧を印加して上記ノズルから該液体を噴霧させる静電噴霧機構(45,50)とを備えた静電噴霧装置であって、
上記ノズル(2)は、上記ノズル(2)の先端の中央部が液体の噴出方向へ膨らんだ膨出面(3)を有し、且つ該膨出面(3)に第1 ノズル孔(4)が設けられていることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記第1ノズル孔(4)は、上記膨出面(3)の中央に設けられていることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記膨出面(3)には、上記第1ノズル孔(4)を中心とする仮想円周(a)に沿って間隔をおいて第2ノズル孔(5)が設けられていることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項4】
請求項3において、
上記第2ノズル孔(5)は、上記第1ノズル孔(4)の中心を通る平面(b)に対して対称に配置されていることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項5】
請求項3又は4において、
上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)は、共に径方向の開口断面積が同一であることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項6】
請求項3から5の何れか1つにおいて、
上記第1ノズル孔(4)及び第2ノズル孔(5)は、共に同一の孔径であることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項7】
請求項2から6の何れか1つにおいて、
上記膨出面(3)には、上記第1ノズル孔(4)を中心とする仮想円周(a)の内側に第3ノズル孔(6)が設けられていることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項8】
請求項2から7の何れか1つにおいて、
上記第3ノズル孔(6)は、上記第1ノズル孔(4)の中心を通る平面(b)に対して対称に配置されていることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項9】
請求項7又は8において、
上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)は、共に径方向の開口断面積が同一であることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項10】
請求項7から9の何れか1つにおいて
上記第1ノズル孔(4)及び第3ノズル孔(6)は、共に同一の孔径であることを特徴とする静電噴霧装置。
【請求項11】
請求項2において、
上記膨出面(3)には、上記第1ノズル孔(4)から外側へ向かって同心円状に配列された環状の第4ノズル孔(7)が形成されている特徴とする静電噴霧装置。
【請求項12】
請求項11において、
上記第1ノズル孔(4)及び第4ノズル孔(7)は、共に径方向の開口断面積が同一であることを特徴とする静電噴霧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−279875(P2010−279875A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133800(P2009−133800)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】