説明

静電型スピーカおよび静電型スピーカの製造方法

【課題】プッシュプル型の静電型スピーカにおいて、振動体で電極と対向する一方の面側と他方の面側とで、電極と振動体との間の絶縁耐圧に差が生じるのを抑える。
【解決手段】静電型スピーカ1においては、絶縁性を有する弾性部材30U,30Lの間に振動体10が位置している。また、弾性部材30U,30L及び振動体10を挟むように電極20U,20Lが位置している。振動体10は、絶縁性および柔軟性を有する合成樹脂のフィルムを基材とし、フィルムの一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜を形成したシートを、導電膜を内側にして二つ折りした構成となっている。振動体10においては、合成樹脂のフィルムが導電膜を覆い、合成樹脂のフィルムが電極20U,20Lと導電膜の間に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型スピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
柔軟性があり、折ったり曲げたりすることの可能な静電型スピーカとして、例えば、特許文献1に開示された静電型スピーカがある。この静電型スピーカにおいては、アルミニウムが蒸着されたポリエステルのフィルムが、導電性を有する糸により織られた2枚の布の間に挟まれており、フィルムと布との間にエステルウールが配置されている。この静電型スピーカにおいては、ポリエステルのフィルムが音を発生する振動体となり、2枚の布が振動体を振動させる電極となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−54154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、特許文献1に開示された静電型スピーカにおいては、振動体は、一方の面にアルミニウムが蒸着されており、他方の面はポリエステルのフィルムとなる。この場合、ポリエステルのフィルム側については、ポリエステルに絶縁性があるため、電極と振動体との間で絶縁耐圧を確保できる。一方、振動体においてアルミニウムが蒸着されている側については、ポリエステルのフィルム側と比較して絶縁耐圧が確保できず、振動体の一方の面と他方の面とで絶縁耐圧に差が生じることとなる。
即ち、振動体の導電層側は、絶縁層がある側と比較して放電や短絡が発生しやすくなる。特に、特許文献1の発明のように電極と振動体を折り曲げ可能な構成にあっては、折りや曲げによって電極と振動体との間のダンピング部材が変形して電極と導電層との距離が短くなる場合や、折りや曲げによって電極がダンピング部材に入り込むことによって電極と導電層との距離が短くなる場合があり、放電や短絡が発生する可能性が高くなる。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、プッシュプル型の静電型スピーカにおいて、振動体で電極と対向する一方の面側と他方の面側とで、電極と振動体との間の絶縁耐圧に差が生じるのを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、第1電極と、前記第1電極に対向し、前記第1電極と間隔を空けて配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極の間において前記第1電極及び前記第2電極と間隔を空けて配置され、絶縁膜と導電膜が重ねられて形成され、該重ねられた方向の両端面が前記絶縁膜である振動体とを有する静電型スピーカを提供する。
【0007】
本発明においては、前記振動体は、前記絶縁膜上に前記導電膜が形成されたシートを折って形成されていてもよい。
また、本発明においては、前記振動体は、前記シートを二つ折りにして形成されていてもよい。
また、本発明においては、前記振動体は、前記絶縁膜と前記導電膜が積層されたシートの前記絶縁膜が外側となるように2枚の前記シートを重ねて形成されていてもよい。
【0008】
また、本発明は、絶縁膜と導電膜とを重ね、重ねた方向の両端面が前記絶縁膜である振動体を形成する第1工程と、対向する第1電極と第2電極との間において前記第1電極及び前記第2電極と間隔を空けて前記第1工程で形成された振動体が位置するように前記第1電極、前記第2電極および前記振動体を配置する第2工程とを有する静電型スピーカの製造方法を提供する。
【0009】
本発明においては、前記第1工程は、絶縁膜と導電膜が積層されたシートの前記導電膜の表面に絶縁体を塗布して前記振動体を形成する構成であってもよい。
また、本発明においては、前記第1工程は、絶縁膜と導電膜が積層されたシートの前記絶縁膜が外側となるように前記シートを折って前記振動体を形成する構成であってもよい。
また、本発明においては、前記第1工程は、絶縁膜と導電膜が積層されたシートの前記絶縁膜が外側となるように、2枚の前記シートを重ねて前記振動体を形成する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プッシュプル型の静電型スピーカにおいて、振動体で電極と対向する一方の面側と他方の面側とで、電極と振動体との間の絶縁耐圧に差が生じるのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカの外観図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】静電型スピーカ1の分解図。
【図4】静電型スピーカ1に係る電気的構成を示した図。
【図5】変形例に係る静電型スピーカ1の分解図。
【図6】変形例に係る振動体10の斜視図。
【図7】絶縁層と導電層が積層されたシートの製造装置の模式図。
【図8】絶縁層と導電層が積層されたシートの模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る静電型スピーカ1の外観図、図2は、静電型スピーカ1のA−A線断面図である。また、図3は、静電型スピーカ1の分解図、図4は、静電型スピーカ1の電気的構成を示した図である。なお、図においては、直交するX軸、Y軸およびZ軸で方向を示しており、静電型スピーカ1を正面から見たときの左右方向をX軸の方向、奥行き方向をY軸の方向、高さ方向をZ軸の方向としている。また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは図面の裏から表に向かう矢印を意味するものとする。また、図中、「○」の中に「×」が記載されたものは図面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0013】
図に示したように、静電型スピーカ1は、振動体10、電極20U,20L、弾性部材30U,30L及び保護部材60U,60Lを有している。なお、本実施形態においては、電極20Uと電極20Lの構成は同じであり、弾性部材30Uと弾性部材30Lの構成は同じである。このため、これらの部材において両者を区別する必要が特に無い場合は、「L」および「U」などの記載を省略する。また、保護部材60Uと保護部材60Lの構成は同じであるため、保護部材60U,60Lにおいても両者を区別する必要が特に無い場合は、「L」および「U」などの記載を省略する。また、図中の振動体、電極等の各構成要素の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。
【0014】
(静電型スピーカ1の各部の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。Z軸上の点から見て矩形の振動体10は、PET(polyethylene terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)またはPP(polypropylene:ポリプロピレン)などの絶縁性および柔軟性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)を基材とし、フィルムの一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成したシートを二つ折りした構成となっている。具体的には、振動体10は、二つ折りする前のシートの導電膜に接着剤を塗布し、導電膜が内側になるように二つ折りし、対向する導電膜同士を互いに接着した構成となっている。導電膜を内側にして二つ折りにすることにより、振動体10においては合成樹脂のフィルムが導電膜を覆い、合成樹脂のフィルムが外側に面することとなる。
【0015】
弾性部材30は、本実施形態においては不織布であって電気を通さず空気および音の通過が可能となっており、その形状はZ軸上の点から見て矩形となっている。また、弾性部材30は、弾性を有しており、外部から力を加えられると変形し、外部から加えられた力が取り除かれると元の形状に戻る。なお、弾性部材30は、絶縁性があり、音が透過し、弾性がある部材であればよく、中綿に熱を加えて圧縮したもの、織られた布、絶縁性を有する合成樹脂を海綿状にしたものなどであってもよい。なお、本実施形態においては、弾性部材30のX軸方向の長さは振動体10のX軸方向の長さより長く、弾性部材30のY軸方向の長さは振動体10のY軸方向の長さより長くなっている。
【0016】
電極20は、PETまたはPPなどの絶縁性を有する合成樹脂のフィルム(絶縁層)を基材とし、フィルムの一方の面に導電性のある金属を蒸着して導電膜(導電層)を形成した構成となっている。電極20は、Z軸上の点から見て矩形となっており、表面から裏面に貫通する孔を複数有しており、空気および音の通過が可能となっている。なお、図面においては、この孔の図示を省略している。また、本実施形態においては、電極20のX軸方向の長さとY軸方向の長さは弾性部材30と同じとなっている。
【0017】
保護部材60は、絶縁性を有する布である。保護部材60は、Z軸上の点から見て矩形となっており、空気及び音の通過が可能となっている。なお、本実施形態においては、保護部材60のX軸方向の長さとY軸方向の長さは弾性部材30と同じとなっている。
【0018】
(静電型スピーカ1の構造)
次に静電型スピーカ1の構造について説明する。静電型スピーカ1においては、振動体10は、弾性部材30Uの下面と弾性部材30Lの上面との間に配置されている。振動体10は、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uと弾性部材30Lに接着されており、接着剤が塗布された部分より内側は弾性部材30Uと弾性部材30Lに固着されていない状態となっている。
【0019】
電極20Uは、弾性部材30Uの上面に接着されている。また、電極20Lは、弾性部材30Lの下面に接着されている。なお、電極20Uは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Uに接着されており、電極20Lは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて弾性部材30Lに接着されている。なお、電極20は、接着剤が塗布された部分より内側は弾性部材30に固着されていない状態となっている。また、電極20Uは、導電膜のある側が弾性部材30Uに接しており、電極20Lは、導電膜のある側が弾性部材30Lに接している。
【0020】
保護部材60Uは、電極20Uの上面に接着されている。また、保護部材60Lは、電極20Lの下面に接着されている。なお、保護部材60Uは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて電極20Uに接着されており、保護部材60Lは、左右方向の縁と奥行き方向の縁から内側へ数mmの幅で接着剤が塗布されて電極20Lに接着されている。なお、保護部材60は、接着剤が塗布された部分より内側は電極20に固着されていない状態となっている。
【0021】
(静電型スピーカ1の電気的構成)
次に、静電型スピーカ1に係る電気的構成について説明する。図4に示したように、静電型スピーカ1には、音を表す音響信号が入力されるアンプ部130、変圧器110、振動体10に対して直流バイアスを与えるバイアス電源120を備えた駆動回路100が接続される。
電極20Uは、変圧器110の二次側の端子T1に接続され、電極20Lは、変圧器110の二次側の他方の端子T2に接続される。また、振動体10は、抵抗器R1を介してバイアス電源120に接続される。変圧器110の中点の端子T3は、抵抗器R2を介して駆動回路100の基準電位であるグランドGNDに接続される。
アンプ部130には音響信号が入力される。アンプ部130は、入力された音響信号を増幅し、増幅された音響信号を出力する。アンプ部130は、音響信号を出力する端子TA1,TA2を有しており、端子TA1は、抵抗器R3を介して変圧器110の一次側の端子T4に接続され、端子TA2は、抵抗器R4を介して変圧器の一次側の他方の端子T5に接続されている。
【0022】
(静電型スピーカ1の動作)
次に、静電型スピーカ1の動作について説明する。アンプ部130に交流の音響信号が入力されると、入力された音響信号が増幅されて変圧器110の一次側に供給される。そして、変圧器110で昇圧された音響信号が電極20に供給され、電極20Uと電極20Lとの間に電位差が生じると、電極20Uと電極20Lとの間にある振動体10には、電極20Uと電極20Lのいずれかの側へ引き寄せられるような静電力が働く。
【0023】
具体的には、端子T2から出力される第2音響信号は、端子T1から出力される第1音響信号とは信号の極性が逆となる。端子T1からプラスの音響信号が出力され、端子T2からマイナスの音響信号が出力されると、電極20Uにはプラスの電圧が印加され、電極20Lにはマイナスの電圧が印加される。振動体10にはバイアス電源120によりプラスの電圧が印加されているため、振動体10は、プラスの電圧が印加されている電極20Uとの間の静電引力が弱まる一方、マイナスの電圧が印加されている電極20Lとの間の静電引力が強まる。振動体10は、振動体10に加わる静電引力の差に応じて電極20L側に吸引力が働き、電極20L側(Z軸方向と反対方向)へ変位する。
【0024】
また、端子T1からマイナスの第1音響信号が出力され、端子T2からプラスの第2音響信号が出力されると、電極20Uにはマイナスの電圧が印加され、電極20Lにはプラスの電圧が印加される。振動体10にはバイアス電源120によりプラスの電圧が印加されているため、振動体10は、プラスの電圧が印加されている電極20Lとの間の静電引力が弱まる一方、マイナスの電圧が印加されている電極20Uとの間の静電引力が強まる。振動体10は、振動体10に加わる静電引力の差に応じて電極20U側に吸引力が働き、電極20U側(Z軸方向)へ変位する。
【0025】
このように、振動体10が音響信号に応じて図のZ軸の正の方向とZ軸の負の方向に変位し(撓み)、その変位方向が逐次変わることによって振動となり、その振動状態(振動数、振幅、位相)に応じた音波が振動体10から発生する。発生した音波は、音響透過性を有する弾性部材30、電極20及び保護部材60を通過して静電型スピーカ1の外部に音として放射される。
【0026】
なお、振動体10は、二つ折りされて電極20Uと導電膜との間及び電極20Lと導電膜との間に絶縁性のあるフィルムがあるため、電極と振動体との間の絶縁耐圧について、電極20Uの側と電極20Lの側とで差が生じるのを抑えることができ、折られたり曲げられたりしても短絡が発生することを抑えることができる。
また、本実施形態によれば、振動体10の導電膜と電極20Uとの間及び振動体10の導電膜と電極20Lとの間に絶縁性のある合成樹脂のフィルムが位置する。このため、導電膜と電極20との間に合成樹脂のフィルムが位置しない構成と比較して、電極20と振動体10との間の絶縁耐圧を上げることができ、ひいては振動体10に印加する直流バイアスの電圧を上げることができる。静電型スピーカにおいては、スピーカの音圧は、直流バイアスの電圧と、電極20に印加される音響信号の電圧との積で決まるので、直流バイアスの電圧を上げることにより、電極20に印加する音響信号の電圧を、導電膜と電極20との間に合成樹脂のフィルムが位置しない構成より下げることができる。
また、電極20は、保護部材60が破損した場合に人体に触れる虞があるが、本実施形態では、電極20に印加する音響信号の電圧を導電膜と電極20との間に合成樹脂のフィルムが位置しない構成より下げることができるため、感電の対策を簡易なものにすることができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、振動体10、電極20、弾性部材30、および保護部材60の各部品に柔軟性があるため、特定の形状を保持することなく、折ること、曲げること、筒状に丸めることなどが可能であり、小さくした状態で搬送することができる。また、これらの部品は柔軟性があるため、例えば、簾、カーテンまたは暖簾のように、吊り下げた状態で使用することもできる。また、これらの部品は柔軟性があって特定の形状の変形が容易であるため、壁面や天井などに接着テープや両面テープ、面ファスナーなどで固定することができる。また、振動体10および電極20の縁部分において導電膜を設けないようにした場合、導電膜が設けられていない部分にピンを貫通させて壁や天井に固定するようにしてもよい。
【0028】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。なお、上述した実施形態及び以下の変形例は、各々を組み合わせてもよい。
【0029】
上述した実施形態においては、静電型スピーカ1は保護部材60を備えているが、静電型スピーカ1は保護部材60を備えていなくてもよい。
上述した実施形態においては、各部材は縁の部分に接着剤が塗布されて他の部材に接着されているが、接着剤を塗布する部分は部材の縁部分に限定されるものではない。例えば、各部材に格子状に接着剤を塗布して他の部材と接着してもよい。また、接着剤が点状に塗布された領域をマトリクス状など規則的に各部材に設けることにより他の部材と接着するようにしてもよい。
また、静電型スピーカ1において部材同士がずれないようにする方法は、接着剤で固定する方法に限定されるものではなく、例えば両面テープで部材同士をするようにしてもよい。
【0030】
上述した実施形態においては、電極20は、フィルムの表面に導電膜を形成した構成となっているが、電極20の構成は、この構成に限定されるものではない。例えば、導電性を有する金属板を電極20としてもよい。また、導電性を有する糸で織られた布を矩形の形状にし、矩形の形状にされたこの布を電極20としてもよい。また、絶縁性を有する素材(例えば、ガラスやフェノール樹脂)を板状に形成した基板上に導電膜を形成して電極20としてもよい。
また、上述した実施形態においては、電極20は、導電膜のある側が弾性部材30に向いているが、電極20は、導電膜のある側が保護部材60の側に向くように配置されていてもよい。
【0031】
上述した実施形態においては、電極20は、Z軸上の点から見た形状が矩形となっているが、電極20の形状は、矩形に限定されるものではない。例えば、円形、楕円形または多角形など、他の形状であってもよい。また、振動体10についても、Z軸上の点から見た形状は矩形に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形または多角形など、他の形状であってもよい。また、静電型スピーカ1の形状についても、Z軸上の点から見た形状は矩形に限定されるものではなく、例えば、円形、楕円形または多角形など、他の形状であってもよい。
【0032】
上述した実施形態においては、電極20と振動体10との間に弾性部材30を配置することにより電極20と振動体10とが接触しないようにされているが、電極20と振動体10とが接触しないようにする構成は、上述した実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、絶縁体で形成されたスペーサを電極20と振動体との間に配置することにより、電極20と振動体10とが接触しないようにしてもよい。図5は、本変形例に係る静電型スピーカの分解図である。ス ペーサ31U,31Lは、絶縁性がある合成樹脂のプラスチックで形成されており、その形状は図5に示したように矩形の枠の形状となっている。なお、本実施形態においては、スペーサ31Uとスペーサ31Lの高さは、いずれも同じとなっている。
静電型スピーカ1において電極20Lは、スペーサ31Lの下面に固定され、電極20Uは、スペーサ31Uの上面に固定される。そして、スペーサ31Lの上面に振動体10が固着され、振動体10の上にスペーサ31Uの下面が固着される。
なお、本変形例においては、振動体10はたるみが生じないように張力を掛けられた状態でスペーサ31Uとスペーサ31Lの枠の間に固定される。この構成によれば、電極20と振動体10との間は、スペーサ31U,31Lにより距離が保たれ、振動体10が振動しても電極20に接触することがない。
【0033】
上述した実施形態に係る振動体10は、導電膜が合成樹脂のフィルムの一方の面に形成されているシートを二つ折りした構成となっているが、合成樹脂のフィルム上に導電膜を形成し、さらに導電膜を合成樹脂のフィルムで覆い、導電膜の両面に合成樹脂のフィルムが積層された構成であってもよい。また、本実施形態においては、合成樹脂のフィルムの一方の面に導電膜が形成されている2つのシートを、導電膜が内側になるように互いに接着して振動体10を構成してもよい。
【0034】
上述した実施形態においては、振動体10は二つ折りにされて弾性部材30Uと弾性部材30Lの間に配置されているが、合成樹脂のフィルム側が弾性部材30側に向くのであれば上述した実施形態以外の折り方で折って弾性部材30Uと弾性部材30Lの間に配置してもよい。
例えば、図6(a)に示したように、X軸方向の両端が振動体10の中央に位置するように振動体10を折ってもよい。また、図6(b)に示したように、二つ折りにした振動体10をさらに二つ折りにしてもよい。また、図6(c)に示したように、合成樹脂のフィルムの一方の面に導電膜が形成されたシートに対して山折りと谷折りを交互に行い、合成樹脂のフィルム側が弾性部材30U,30Lに向くようにしてもよい。
【0035】
[振動体10の製造方法]
上述した実施形態においては、導電層と絶縁層を有するシートを二つ折りすることにより、振動体10において導電層が内側で絶縁層が外側になるようにしているが、絶縁層が外側になる振動体10の製法は、この方法に限定されるものではない。
例えば、絶縁層と導電層が積層されたシートをロールコート法で加工し、導電層を絶縁層で覆うようにしてもよい。図7は、導電層を合成樹脂で覆ったシートをリバースロールコート法(リバースロールコーター)で製造する装置の模式図である。ロール200A〜ロール200Cは円柱の形状をしたロールであり、各々図中の矢印A〜Cの方向に回転させられる。ブレード210は、板状の部品でありロール200Cの表面に接触させられている。ロール200Bとロール200Cは、絶縁性を有する合成樹脂の溶液300に浸されている。ロール200Aは、ロール200Bと間隔を空けて対向している。ロール200Aとロール200Bの間には、絶縁層と導電層が積層されたシート400が、ロール200Aに絶縁層が接触するようにして図中の矢印Dの方向へ搬送される。
【0036】
ロール200Cが回転するとロール200Cの表面により汲み上げられた溶液300はブレード210により掻き落とされる。一方、ロール200Bにより汲み上げられた溶液300は、シート400へ送られる。具体的には、ロール200Bにより汲み上げられた溶液300は、ロール200Bの表面と溶液300が掻き落とされたロール200Cの表面との隙間によって、一部が掻き落とされ、残りがロール200Aの方へ送られる。なお、シート400へ送られる溶液300の量は、ロール200Bとロール200Cとの隙間およびロールの回転速度によって決まる。
ロール200Bによって汲み上げられた溶液300は、ロール200Aとロール200Bとの間に搬送されたシートに塗布される。シート400は、導電層がロール200Bに向いているため、導電層の表面に溶液300が塗布されることとなる。導電層の表面に溶液300が塗布されると、絶縁性を有する合成樹脂で導電層が覆われ、導電層の表面と裏面とに絶縁層が重なることとなる。
なお、シート400の導電層側を絶縁性を有する材料でコーティングする方法は、上述したリバースロールコート法に限定されるものではなく、他のコーティング方法であってもよい。
【0037】
また、シート400の導電層側を絶縁性を有する材料でコーティングする際には、導電層の全面を絶縁層でコーティングするのではなく、図8に示したように、搬送方向に沿った端から所定の範囲をコーティングしないようにしてもよい。この方法によれば、導電層がコーティングされたシート400を切断して振動体10を作成する際、導電層が露出しているため、導電層への配線を容易に行うことができる。なお、導電層へ配線を行う場合には、導電性テープを導電層が露出した部分に貼り付け、貼り付けられた導電性テープに配線を半田付けしてもよく、また、配線を導電性テープで導電層へ貼り付けるようにしてもよい。また、導電性テープに配線を半田付けする場合には、振動体10に流す電流が多いほど導電性テープの長さが長くなるようにしてもよい。また、このように導電性テープを導電層に貼り付け、導電性テープに配線を半田付けする構成にあっては、静電型スピーカ1を上面側から見た際に、導電層が露出した部分が電極20より外側に位置するようにしてもよい。
【0038】
また、シート400の導電層側を絶縁性を有する材料でコーティング方法は、上記の方法に限定されるものではない。シート400の導電層側に絶縁性を有する材料をスプレーコーティングで塗布することにより、シート400の導電層側が絶縁性を有する材料でコーティングされるようにしてもよい。この方法でも、導電層の表面に絶縁体が塗布されて導電層の表面側と裏面側とに絶縁層が重なることとなる。
【0039】
また、絶縁層が外側になる振動体10の製法は、導電層の表面に絶縁性を有する材料を塗布する方法に限定されるものではない。例えば、絶縁層と導電層が積層された2枚のシートについて、各々の導電層同士が接触するように2枚のシートを重ねて貼り合わせてもよい。この方法によれば、2枚のシートを重ねるだけなので、導電層を絶縁層で覆ったシートを簡単に得ることができる。
また、絶縁層と導電層が積層されたシートの導電層の表面を、絶縁性を有するシートでラミネート加工することにより振動体10を形成してもよく、シート状の導電層の両面を、絶縁性を有するシートでラミネート加工するようにしてもよい。
【0040】
なお、導電層の表面側と裏面側とに絶縁層がある上記の製造方法によって製造されたシートを振動体10として用いてもよい。この場合、導電層の表面側と裏面側とが絶縁層でコーティングされているため、シートを折り曲げずに振動体10として用いてもよい。シートを折り曲げていなくても、導電層の表面側と裏面側とに絶縁層が重なっているため、電極と振動体との間の絶縁耐圧について、電極20Uの側と電極20Lの側とで差が生じるのを抑えることができ、折られたり曲げられたりしても短絡が発生することを抑えることができる。
【0041】
また、シート400の導電層側を絶縁性を有する材料でコーティングする際には、導電層の全面が絶縁性を有する材料でコーティングされるようにしてもよい。この場合、ステープラの針の形状であって導電性を有する部品を振動体10に刺し、針の先端を曲げて振動体10に固定させてもよい。導電性を有する部品は振動体10の導電層を貫通する際に導電層に接触するため、この部品に配線を半田付けすれば、導電層にバイアス電圧をかけることができる。なお、導電層に導電性を有する部品を貫通させる場合には、この部品の形状はステープラの針の形状に限定されるものではない。例えば、貫通する針の部分が3本以上となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…静電型スピーカ、10…振動体、20,20U,20L…電極、30,30U,30L…弾性部材、31U,31L…スペーサ、60,60U,60L…保護部材、100…駆動回路、110…変圧器、120…バイアス電源、130…アンプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極に対向し、前記第1電極と間隔を空けて配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極の間において前記第1電極及び前記第2電極と間隔を空けて配置され、絶縁膜と導電膜が重ねられて形成され、該重ねられた方向の両端面が前記絶縁膜である振動体と
を有する静電型スピーカ。
【請求項2】
前記振動体は、前記絶縁膜上に前記導電膜が形成されたシートを折って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の静電型スピーカ。
【請求項3】
前記振動体は、前記シートを二つ折りにして形成されていることを特徴とする請求項2に記載の静電型スピーカ。
【請求項4】
前記振動体は、前記絶縁膜と前記導電膜が積層されたシートの前記絶縁膜が外側となるように2枚の前記シートを重ねて形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の静電型スピーカ。
【請求項5】
絶縁膜と導電膜とを重ね、重ねた方向の両端面が前記絶縁膜である振動体を形成する第1工程と、
対向する第1電極と第2電極との間において前記第1電極及び前記第2電極と間隔を空けて前記第1工程で形成された振動体が位置するように前記第1電極、前記第2電極および前記振動体を配置する第2工程と
を有する静電型スピーカの製造方法。
【請求項6】
前記第1工程は、絶縁膜と導電膜が積層されたシートの前記導電膜の表面に絶縁体を塗布して前記振動体を形成すること
を特徴とする請求項5に記載の静電型スピーカの製造方法。
【請求項7】
前記第1工程は、絶縁膜と導電膜が積層されたシートの前記絶縁膜が外側となるように前記シートを折って前記振動体を形成すること
を特徴とする請求項5に記載の静電型スピーカの製造方法。
【請求項8】
前記第1工程は、絶縁膜と導電膜が積層されたシートの前記絶縁膜が外側となるように、2枚の前記シートを重ねて前記振動体を形成すること
を特徴とする請求項5に記載の静電型スピーカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−39597(P2012−39597A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88422(P2011−88422)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】