説明

静電型トランスデューサ

【課題】音響センサや圧力センサとして使用する場合に従来より感度が向上し、スピーカとして使用する場合には従来より出力音圧が向上する静電型トランスデューサを提供する。
【解決手段】固定板4には固定電極7が設けられ、固定板4にギャップGを介して対向配置された可動板5には可動電極8が設けられる。固定板4は、厚み方向に貫通する貫通孔10を有する。可動板5は、固定板4に対して固定板4の厚み方向に対向する振動部11と、振動部11における固定板4側の表面から突出し少なくとも振動部11が振動する前の初期状態において貫通孔10に一部が挿入される突起部12とを有する。可動電極8は振動部11から突起部12に亘って設けられ、固定電極7は固定板4における振動部11との対向面に沿う部分と貫通孔10の内側面に沿う部分とを一体に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動板の振動エネルギを電気エネルギに変換する音響センサや、圧力変化による可動板の変位を電気エネルギに変換する圧力センサや、電気エネルギを可動板の振動エネルギに変換するスピーカ等として使用される静電型トランスデューサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、静電型トランスデューサ1として、図10(a)に示すようにギャップGを介して互いに対向配置された固定板4および可動板5と、固定板4および可動板5にそれぞれに設けられた一対の電極7,8(ここでは、固定板4に設けられた電極7が固定電極を、可動板5に設けられた電極8が可導電極を構成する)とを備えるものが知られている(たとえば特許文献1参照)。この種の静電型トランスデューサ1は、たとえばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術などの微細加工技術を利用して作製される。
【0003】
図10(a)の例では、固定板4および可動板5は枠状の支持基板3に支持されている。この静電型トランスデューサ1では、一対の電極7,8がギャップGを介して対向することで一対の電極7,8間にキャパシタが構成されており、可動板5が厚み方向に振動すると一対の電極7,8間の距離が変化しキャパシタの静電容量が変化する。そのため、一対の電極7,8間にバイアス電圧を印加しておき、キャパシタの静電容量変化を電気信号に変換して取り出すことにより、可動板5が音波を受けた際に、当該音波に応じた可動板5の振動エネルギを電気エネルギ(ここでは、電気信号)として取り出すことができる。したがって、静電型トランスデューサ1はたとえば音響センサとして使用される。同様に、一対の電極7,8間にバイアス電圧を印加しておき圧力変化による可動板5の変位を電気エネルギとして取り出すことにより、圧力を検出する圧力センサとして使用することもできる。
【0004】
この種の静電型トランスデューサ1において、受波音波に対する出力電圧の感度(電圧感度)は、音圧をP〔Pa〕とすれば、
感度=20・log10(E/P)
で表される。ここで、Eは外部に流す電流が0〔A〕のときの電極7,8間の電圧である開放端電圧〔V〕であって、電極7,8間の静電容量をC〔F〕、静電容量の変化量をΔC〔F〕、電極7,8に印加している直流バイアス電圧をV〔V〕とすれば、
E∝(ΔC/C)・V
の関係が成り立つ。要するに、ΔC/C(静電容量の変化率)が大きいほど、静電型トランスデューサ1の感度は高くなる。
【0005】
以下に、一対の電極7,8間に直流バイアス電圧V〔V〕が印加されている初期状態から可動板5が厚み方向に沿って固定板4側にx〔m〕だけ変位したときの静電容量の変化率について、図10(b)に示すように静電型トランスデューサ1における固定板4および可動板5の小領域に着目して説明する。なお、可動板5が固定板4から離れる向きに変位したときにはx〔m〕は負になる。ここでは、図10(a)にAで示す領域であって、可動板5の振動方向に直交する断面が一辺a〔m〕の正方形となる領域を小領域とする。
【0006】
可動板5の変位前における電極7,8間距離(ここではギャップGのギャップ長)をg〔m〕とすれば、可動板5の変位前における小領域の静電容量Cparallel〔F〕は、ギャップGの誘電率をεとすると、
【0007】
【数1】

【0008】
で表される。同様に、可動板5の変位後における小領域の静電容量Cparallel’は、
【0009】
【数2】

【0010】
で表される。ここにおいて、小領域の静電容量の変化量ΔCparallel〔F〕はCparallel’−Cparallelで表されるから、結果的に、静電容量の変化率(ΔCparallel/Cparallel)は、上述したCparallel、Cparallel’を用いて、
【0011】
【数3】

【0012】
で表される。
【0013】
ところで、可動板5の作製時に可動板5に生じる残留応力により可動板5のコンプライアンスが低下することが知られている。そこで、支持基板3が複数のアーム(図示せず)を介して可動板5を支持するようにし、可動板5が支持基板3に対して移動可能となるようにアームを歪ませることで可動板5の残留応力を緩和し、可動板5のコンプライアンスを向上させた静電型トランスデューサ1も提案されている(たとえば特許文献2参照)。この構成では、可動板5のコンプライアンスを向上させた分だけ、音波を受けた際の可動板5の変位xが大きくなるので、上述した静電容量の変化率(ΔCparallel/Cparallel)が大きくなり、比較的高い感度を確保することができる。
【0014】
なお、上述した静電型トランスデューサ1は、一対の電極7,8間に駆動電圧を印加すれば、一対の電極7,8間に静電力が作用し可動板5が固定板4側に引き寄せられるので、一対の電極7,8間に印加する駆動電圧を変化させることで、可動板5を振動させて可動板5から音波を発生することができる。つまり、上述した静電型トランスデューサ1は、音響センサに限らず、電気エネルギ(駆動電圧)を可動板5の振動エネルギに変換することで可動板5から音波を発生するスピーカとして使用することも可能である。
【特許文献1】特表2004−506394号公報(図1)
【特許文献2】特表2005−535152号公報(第6−7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献2に記載の静電型トランスデューサ1であっても、音響センサや圧力センサとして使用する場合に、一般に普及しているエレクトレットコンデンサマイクロホン等に比べると感度が低く、さらなる感度の向上が望まれている。また、静電型トランスデューサ1をスピーカとして使用する場合に、出力音圧の向上が望まれている。
【0016】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、音響センサや圧力センサとして使用する場合には従来よりも感度が向上し、スピーカとして使用する場合には従来よりも出力音圧が向上する静電型トランスデューサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明では、ギャップを介して互いに対向配置された固定板および可動板と、固定板および可動板にそれぞれ設けられた一対の電極とを備え、一対の電極間にキャパシタが形成される静電型トランスデューサであって、固定板は、厚み方向に貫通する貫通孔を有し、可動板は、固定板に対して固定板の厚み方向に対向する振動部と、振動部における固定板側の表面から突出し少なくとも振動部が変位する前の初期状態において貫通孔に一部が挿入される突起部とを有し、可動板側の電極は振動部から突起部に亘って設けられ、固定板側の電極は固定板における振動部との対向面に沿う部分と貫通孔の内側面に沿う部分とを一体に有することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、可動板側の電極は振動部から突起部に亘って設けられ、固定板側の電極は固定板における振動部との対向面に沿う部分と貫通孔の内側面に沿う部分とを一体に有するので、可動板が変位すると固定板と振動部との間の距離が変化して一対の電極間の距離が変化するだけではなく、貫通孔への突起部の挿入量に応じて一対の電極の対向面積も変化する。つまり、可動板が固定板側に変位すると、可動板側の電極のうち振動部に設けられた部分と固定板側の電極のうち固定板における振動部との対向面に沿う部分との間の距離が小さくなることでキャパシタの静電容量が増加することに加えて、可動板側の電極のうち突起部に設けられた部分と固定板側の電極のうち貫通孔の内側面に沿う部分との対向面積が増加することによってキャパシタの静電容量が増加する。したがって、貫通孔および突起部がない構成に比べると、可動板の変位量が同じ場合でも静電容量の変化率を大きくすることが可能となり、感度を向上することができる。なお、一対の電極間に駆動電圧を印加して一対の電極間に静電力を作用させることで可動板から音波を出力するスピーカとして使用する場合には、比較的大きな音圧を出力可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、音響センサや圧力センサとして使用する場合には従来よりも感度が向上し、スピーカとして使用する場合には従来よりも出力音圧が向上するという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の静電型トランスデューサは、可動板の振動エネルギを電気エネルギに変換するたとえばマイクロホンなどの音響センサや、圧力変化による可動板の変位を電気エネルギに変換する圧力センサや、電気エネルギを可動板の振動エネルギに変換するスピーカ等として使用されるものであるが、以下の各実施形態では静電型トランスデューサを音響センサとして使用する例を示す。
【0021】
(実施形態1)
本実施形態の静電型トランスデューサ1は、図1に示すように、矩形枠状に形成された支持基板3と、支持基板3の一表面側(図1(a)の上面側)に形成された固定板4と、固定板4の支持基板3と反対の一表面側において固定板4とはギャップGを介して対向するように配置された可動板5とを備える。固定板4は矩形板状であって、支持基板3の開口部を閉塞するように支持基板3の前記一表面に形成されている。これにより、支持基板3の他表面側(図1(a)の下面側)においては支持基板3と固定板4とで囲まれたキャビティ2が形成される。可動板5は固定板4よりも薄肉の矩形板状に形成されており、固定板4の前記一表面側に絶縁支持部6を介して積層されている。絶縁支持部6は可動板5の周部と固定板4の周部との間に介在し、この絶縁支持部6によって固定板4と可動板5との間に所定のギャップ長を有するギャップGが形成されている。
【0022】
固定板4には固定電極7が設けられ、可動板5において固定電極7に対応する位置には固定電極7と対をなす可動電極8が設けられる。一対の電極(固定電極7および可動電極8)はギャップGを介して対向し、固定電極7および可動電極8を電極とするキャパシタが構成される。これにより、可動板5が厚み方向に振動すると固定電極7と可動電極8との間の距離が変化しキャパシタの静電容量が変化するので、この静電容量変化を電気信号に変換して取り出すことにより、可動板5が音波を受けた際に当該音波に応じた可動板5の振動エネルギを電気エネルギ(ここでは、電気信号)として取り出すことができる。ここで、静電容量変化を電気信号に変換して取り出すため、音波を検出する際には固定電極7と可動電極8との間にバイアス電圧が印加される。本実施形態では、図1(a)に示すように固定電極7に接続されたパッド7aを固定板4の支持基板3と反対側の一表面の一端部に設け、可動電極8に接続されたパッド8aを可動板5の固定板4と反対側の一表面の一端部に設けることで、パッド7a,8aから固定電極7と可動電極8との間にバイアス電圧を印加可能としてある。バイアス電圧を印加する外部回路はたとえばワイヤボンディングによりパッド7a,8aと接続される。ここに、可動板5はパッド8aを露出させる形状に形成されている。なお、図1(b)ではパッド7a,8a、絶縁支持部6の図示を省略している。
【0023】
支持基板3は、たとえばシリコン基板からなり中央部をエッチングで除去することにより固定板4と共にキャビティ2を構成する形状に形成されている。キャビティ2は、矩形状に開口しており、ここではたとえばアルカリ溶液を用いた異方性エッチングなどにより内側面にテーパを付け、支持基板3の厚み方向に直交する断面の面積が固定板4から離れるほど大きくなる形状に形成しているが、支持基板3を極力小型化するために各内側面が支持基板3の前記一表面に対してそれぞれ垂直に形成されていてもよい。
【0024】
固定板4は、上述のように矩形板状に形成されており、支持基板3の前記一表面の各辺に対向する各辺を支持基板3の各辺に略平行させるように支持基板3上に配置される。固定板4は、シリコン(ポリシリコン、アモルファスシリコンを含む)や窒化シリコンなどから形成されており、CVD法(化学気相成長法)などによる堆積により作製される。支持基板3とは別のシリコン基板にエッチングを施して後述の貫通孔を形成することで作製した固定板4を支持基板3に貼り合わせてもよい。支持基板3と別に作製した固定板4を支持基板3に貼り合わせてもよい。ここで、固定板4は音圧を受けても殆ど変形しないように所定の剛性を有する材料、厚み、サイズに設計されている。さらに固定板4には、可動板5の振動を妨げないように空気を通す貫通孔(いわゆるアコースティックホール)10が、キャビティ2の底板となる領域に複数貫設されている。本実施形態の貫通孔10は正方形状の開口を有する形状に形成されており、矩形状の領域において等間隔で格子点状に配置されている。つまり、固定板4におけるキャビティ2の底板となる領域は格子状に形成されている。ここでは貫通孔10は、たとえばフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて形成される。あるいは、固定板4において貫通孔10が形成される以外の領域に不純物をドープし、貫通孔10以外の部位について部分的に耐エッチング性を高めた状態でエッチングを施すことで形成される。
【0025】
本実施形態では、不純物をドープし導電性を付与したポリシリコンを固定板4の材料とすることにより固定板4自体が固定電極7を構成しているが、この構成に限らず、たとえば導電性を有する金属膜から固定板4を形成したり、絶縁体からなる固定板4に導電性を有する金属膜などを積層させたりすることによって固定電極7を形成してもよい。なお、絶縁体に導電パターンを積層させる場合には、寄生容量を小さく抑えるように、固定電極7の必要な部分、つまり固定板4のうち、可動板5において音波を受けて振動する部位に対向する部分と、固定電極7を外部回路に接続するための接続パターン(パッド7aを含む)を形成する部分とのみに導電パターンを形成することが望ましい。
【0026】
絶縁支持部6は、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁体からなり、固定板4に設けた固定電極7と可動板5に設けた可動電極8とを電気的に絶縁する。絶縁支持部6は固定板4の一表面の全周に亘って設けられている。ここでは一例として、作製過程において固定板4と可動板5との間に作製された絶縁性の犠牲層を部分的に除去し、犠牲層の残存部分を絶縁支持部6として用いている。
【0027】
可動板5は、固定板4の一表面の各辺に対向する各辺を固定板4の各辺に略平行させるように固定板4上に配置されており、固定板4と同様に、シリコン(ポリシリコン、アモルファスシリコンを含む)や窒化シリコンなどから形成されており、CVD法などによる堆積や、シリコン基板にエッチングを施して後述の突起部を形成することにより作製される。固定板4と別に作製した可動板5を固定板4に貼り合わせてもよい。ここにおいて、固定板4には上述したように貫通孔10が複数貫設されているので、支持基板3の他表面側からキャビティ2内に伝播された音波は貫通孔10を通って可動板5に伝播される。つまり、支持基板3と固定板4とで形成されたキャビティ2が音波の入り口となる。そのため、音波を検出する際には、静電型トランスデューサ1は、音波の検出を行う外部雰囲気にキャビティ2の開口面を晒すように配置される。
【0028】
可動板5は、音波を受けて変位(振動)しやすいようにある程度大きなコンプライアンスを有しつつ、所望の共振周波数や振幅などの振動特性を実現することや、バイアス電圧を印加した際のプルイン(静電力が可動板5の復元力に比べて過大となって可動板5の姿勢を安定して制御できなくなる現象)を防止することなどを考慮して、適切なコンプライアンスを有する材料、厚み、サイズに設計される。このとき、可動板5の作製時に可動板5に生じる残留応力も考慮される。
【0029】
また、本実施形態では、不純物をドープし導電性を付与したポリシリコンを可動板5の材料とすることにより可動板5自体が可動電極8を構成しているが、この構成に限らず、たとえば導電性を有する金属膜から可動板5を形成したり、絶縁体からなる可動板5に導電性を有する金属膜などを積層させたりすることによって可動電極8を形成してもよい。なお、絶縁体に導電パターンを積層させる場合には、寄生容量を小さく抑えるように、可動電極8の必要な部分、つまり可動板5のうち音波を受けて振動する部分(後述の振動部11および突起部12)と、可動電極8を外部回路に接続するための接続パターン(パッド8aを含む)を形成する部分とのみに導電パターンを形成することが望ましい。
【0030】
ところで、本実施形態の可動板5は、固定板4のうちキャビティ2の底板となる領域に対して固定板4の厚み方向に対向し音波を受けて振動する振動部11と、振動部11の固定板4側の表面において貫通孔10の開口面に対向する各位置にそれぞれ突設された複数の突起部12とを有している。なお、図1(b)では可動板5における突起部12以外の部分を想像線(2点鎖線)で図示している。
【0031】
突起部12は、突出方向に直交する断面が貫通孔10の開口面よりも小さく形成され、且つ突出寸法が固定板4と振動部11との間のギャップGのギャップ長よりも大きく設定されており、少なくとも可動板5が振動する前の初期状態で貫通孔10に一部が挿入されるものである。ここでいう初期状態は、バイアス電圧が一対の電極(固定電極7および可動電極8)間に印加されている状態を意味する。本実施形態では、突起部12は突出方向に直交する断面が貫通孔10の開口面よりも小さい正方形状となる四角柱状に形成されている。ここで、突起部12は各側面を貫通孔10の各内側面に略平行させるように貫通孔10の開口面内での中央部に配置される。突起部12は、可動板5の作製過程においてたとえば一表面に凹部を有する犠牲層の前記一表面に可動板5の材料を堆積した後で犠牲層を除去することで形成される。あるいは、可動板5を固定板4とは別に作製して固定板4に貼り合わせる場合、可動板5を部分的にエッチングすることで突起部12を形成することもできる。
【0032】
また、ここでは上述したように固定板4自体が固定電極7を構成し可動板5自体が可動電極8を構成しているから、振動部11が固定板4に接触することによる固定電極7と可動電極8との間の短絡を防止する目的で、図2に示すように、振動部11における固定板4との対向面に絶縁材料からなる絶縁膜13を形成してもよい。固定板4における振動部11との対向面に絶縁膜を形成してもよい。
【0033】
以上説明した構成の静電型トランスデューサ1においては、可動電極8は振動部11から突起部12に亘って設けられ、固定電極7は固定板4における振動部11との対向面に沿う部分と貫通孔10の内側面に沿う部分とを一体に有するので、可動板5が振動すると、固定板4と振動部11との間の距離が変化して固定電極7と可動電極8との間の距離が変化するだけではなく、貫通孔10への突起部12の挿入量が変化して貫通孔10の内側面と突起部12の側面との対向面積が変化することにより固定電極7と可動電極8との対向面積も変化する。要するに、固定電極7と可動電極8との間の距離が変化することによるキャパシタの静電容量の変化だけでなく、固定電極7と可動電極8との対向面積が変化することによるキャパシタの静電容量の変化も生じる。たとえば、振動部11が固定板4側に変位すると、固定電極7と可動電極8との距離が小さくなるから静電容量が増加し、貫通孔10の内側面と突起部12の側面との対向面積が大きくなることによって静電容量がさらに増加する。したがって、貫通孔10および突起部12がない従来構成に比べると、可動板5の変位量が同じ場合でも静電容量の変化量は大きくなり、高い感度を確保することができる。
【0034】
また、本実施形態では、固定板4および可動板5の材料を導電性材料とすることにより、固定板4自体が固定電極7を構成し、突起部12自体が可動電極8を構成しているが、この構成に限らず、固定板4の材料を絶縁材料とし、固定板4における貫通孔10の内側面に導電性を有する金属膜などを積層させることで固定電極7のうち貫通孔10の内側面に沿う部分を形成してもよく、また、可動板5の材料を絶縁材料とし、突起部12の表面に導電性を有する金属膜などを積層させることで可動電極8のうち突起部12に設けられる部分を形成してもよい。ここで、固定電極7を固定板4における突起部12との対向面(つまり貫通孔10の内側面)に露出させることは必須ではなく、固定板4における突起部12との対向面を絶縁材料からなる絶縁膜(図示せず)で覆い、突起部12が固定板4における貫通孔10の内側面に接触することによる固定電極7と可動電極8との間の短絡を防止するようにしてもよい。同様に、可動電極8を突起部12の表面に露出させることは必須ではなく、突起部12の表面を絶縁材料からなる絶縁膜(図示せず)で覆ってもよい。
【0035】
以下、固定電極7と可動電極8との間にバイアス電圧が印加されている初期状態から可動板5が厚み方向に沿って固定板4側にx〔m〕だけ変位したときの静電容量の変化率(ΔC/C)について、図3に示すように固定板4および可動板5の小領域に着目して説明する。なお、可動板5が固定板4から離れる向きに変位したときにはx〔m〕は負になる。ここでは、図1(a)にAで示す領域であって、1つの貫通孔10および突起部12を中央に有し、可動板5の振動方向に直交する断面が一辺a〔m〕の正方形となる領域を小領域とする。
【0036】
可動板5の変位前において、固定板4と振動部11との対向面間の距離(つまり、ギャップGのギャップ長)をg〔m〕、突起部12の断面の一辺長をb〔m〕、貫通孔10への突起部12の挿入量をc〔m〕、貫通孔10の内側面と突起部12の側面との間の距離をd〔m〕とすれば、可動板5の変位前における小領域の静電容量Ccomb〔F〕は、ギャップGの誘電率をεとすると、
【0037】
【数4】

【0038】
で表される。同様に、可動板5の変位後における小領域の静電容量Ccomb’は、
【0039】
【数5】

【0040】
で表される。ここにおいて、小領域の静電容量の変化量ΔCcomb〔F〕はCcomb’−Ccombで表されるから、結果的に、静電容量の変化率(ΔCcomb/Ccomb)は、上述したCcomb、Ccomb’を用いて、
【0041】
【数6】

【0042】
で表される。
【0043】
一例として、上記数4、数5における各パラメータの値を、a=6×10−6〔m〕、b=2×10−6〔m〕、c=1×10−6〔m〕、d=1×10−6〔m〕、g=4×10−6〔m〕と仮定し、可動板5が厚み方向にx=5×10−9〔m〕だけ変位したと仮定して、静電容量の変化率(ΔCcomb/Ccomb)を計算すると、上記数4、数5、数6からΔCcomb/Ccomb=0.00356と求まる。
【0044】
これに対して、貫通孔10および突起部12がない従来構成において、同様の条件(a=6×10−6〔m〕、g=4×10−6〔m〕、x=5×10−9〔m〕)で静電容量の変化率(ΔCparallel/Cparallel)を計算すると、上記数1、数2、数3からΔCparallel/Cparallel=0.00125と求まる。
【0045】
要するに、本実施形態の静電型トランスデューサ1では、従来の静電型トランスデューサ1に比較して、貫通孔10および突起部12を設けたことによって静電容量の変化率が大きくなり、感度が向上することになる。
【0046】
ところで、本実施形態では四角柱状の突起部12を例示しているが、突起部12はこの形状に限るものではなく、少なくともバイアス電圧が印加されている初期状態で貫通孔10に一部が挿入される形状であればよいので、たとえば多角柱状、角錘状、円柱状、円錐状などでもよい。図4に示すように突起部12が中空に形成されていてもよい。さらにまた、本実施形態では貫通孔10は正方形状の開口を有する形状に形成されており、格子点状に複数設けられているので、突起部12は図5(a)にように貫通孔10に対応する各位置に点在しているが、貫通孔10の形状および配列はこの例に限るものではなく、突起部12の形状および配置も貫通孔10に合わせて適宜変更される。たとえば、貫通孔10を細長いスリット状とする場合には、図5(b)に示すように細長いリブ状の突起部12を採用することができる。
【0047】
なお、上述した静電型トランスデューサ1は、音波の検出を行う外部雰囲気にキャビティ2の開口面を晒すような配置に限らず、音波の検出を行う外部雰囲気に可動板5における固定板4と反対側の一表面を晒すように配置されてもよい。この場合には、可動板5は固定板4と反対側からの音波を受けることになるので、キャビティ2はバックチャンバとして機能する。
【0048】
(実施形態2)
本実施形態の静電型トランスデューサ1は、基本構成が実施形態1と同様であり、固定板4と可動板5とが接触するのを防止するストッパを設けた点が実施形態1と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0049】
ストッパ14は、たとえば図6に示すように振動部11における固定板4との対向面の一部に突設される。これにより、振動部11の厚み方向における移動範囲(振幅)を規制することができ、たとえば過大な音圧を受けたときでも、振動部11の変位量が過大となることによる可動板5の破損や、可動板5が固定板4に接触することによる固定電極7と可動電極8との間の短絡を回避することができる。ここにおいて、ストッパ14を通して固定電極7と可動電極8とが短絡することがないように、固定板4自体が固定電極7を構成し可動板5自体が可動電極8を構成している場合、あるいは固定板4と振動部11とのそれぞれの対向面間に固定電極7および可動電極8が露出している場合には、ストッパ14の少なくとも一部(たとえば表面や突出方向の中間部など)を絶縁材料で形成し、固定電極7と可動電極8との間の絶縁性を確保する。ストッパ14は固定板4における振動部11との対向面に設けられていてもよい。
【0050】
また、他の例として、図7に示すように固定板4における突起部12との対向面(貫通孔10の内側面)にストッパ14を突設してもよい。これにより、固定板4の厚み方向に直交する面内での可動板5の移動範囲を規制することができ、たとえば静電型トランスデューサ1に衝撃が加わったときでも、固定板4の厚み方向に直交する面内で可動板5が大きく移動することによる可動板5の破損や、突起部12が貫通孔10の内側面に接触することによる固定電極7と可動電極8との間の短絡を回避することができる。ここにおいて、ストッパ14の少なくとも一部(たとえば表面や突出方向の中間部など)を絶縁材料で形成し、固定電極7と可動電極8との間の絶縁性を確保する。ストッパ14は突起部12における貫通孔10の内側面との対向面に設けられていてもよい。
【0051】
(実施形態3)
本実施形態の静電型トランスデューサ1は、基本構成が実施形態1と同様であり、電極対(固定電極7および可動電極8)を複数組設けてキャパシタを複数形成している点が実施形態1と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付し説明を省略する。
【0052】
本実施形態では、たとえば図8に示すように1枚の可動板5の厚み方向の両側に固定板(以下では、第1の固定板41および第2の固定板42と称する)を設けている。ここで、可動板5においては第1および第2の各固定板41,42との対向面にそれぞれ突起部12が突設されている。この静電型トランスデューサ1は、第1の固定板41の固定電極7と可動板5の可動電極8との間に形成されるキャパシタC1と、第2の固定板42の固定電極7と可動板5の可動電極8との間に形成されるキャパシタC2とを有するものであり、可動板5が厚み方向に振動すると第1および第2の各固定板41,42と可動電極8との間の距離が変化し各キャパシタC1,C2の静電容量が変化する。ここで、各静電容量変化を電気信号に変換して取り出すため、音波を検出する際にはキャパシタC1とキャパシタC2とのそれぞれにバイアス電圧が印加される。
【0053】
上述した構成によれば、可動板5が音波を受けて振動した際にキャパシタC1から取り出される電気信号とキャパシタC2から取り出される電気信号とは互いに逆位相となるから、それぞれの電気信号の差分をとる差動増幅回路を後段に設ければ、音波に対して出力される電気信号(電圧)が大きくなり、感度が向上することになる。さらに、この静電型トランスデューサ1は可動板5の厚み方向の両側から音波を受波することができるので、いわゆる双指向性を持った音響センサとして使用することができる。
【0054】
また、本実施形態の他の例として、図9に示すように1枚の固定板4の両側に可動板5(以下では、第1の可動板51および第2の可動板52と称する)を設けてもよい。この静電型トランスデューサ1は、第1の可動板51の可動電極8と固定板4の固定電極7との間に形成されるキャパシタC1と、第2の可動板52の可動電極8と固定板4の固定電極7との間に形成されるキャパシタC2とを有するものであり、第1の可動板51が振動すれば第1の可動板51と固定板4との間の距離が変化しキャパシタC1の静電容量が変化する一方で、第2の可動板52が振動すれば第2の可動板52と固定板4との間の距離が変化してキャパシタC2の静電容量が変化する。この構成の静電型トランスデューサ1は、第1の可動板51と第2の可動板52とのそれぞれで音波を受け、各音波をそれぞれ電気信号に変換して出力することができ、いわゆる双指向性を持った音響センサとして使用することができる。
【0055】
ところで、上述した各実施形態では、可動板5の振動エネルギを電気エネルギに変換して出力する音響センサとして本発明の静電型トランスデューサ1を使用する例を示したが、固定電極7−可動電極8間にバイアス電圧を印加しておき圧力変化による可動板5の変位を電気エネルギとして取り出すことにより、圧力を検出する圧力センサとして本発明の静電型トランスデューサ1を使用することもでき、この場合にも、音響センサとして使用する場合と同様に、従来構成に比較して高い感度を得ることができる。
【0056】
また、電気エネルギを可動板5の振動エネルギに変換するスピーカとして本発明の静電型トランスデューサ1を使用することもできる。すなわち、上述した静電型トランスデューサ1は、一対の電極(固定電極7および可動電極8)間に駆動電圧(電気エネルギ)を印加すれば、固定電極7−可動電極8間に静電力が作用し可動板5が固定板4側に引き寄せられるので、固定電極7−可動電極8間に印加する駆動電圧を変化させることにより、可動板5を振動させて可動板5から音波を出力することができる。ここに、突起部12は少なくとも可動板5が振動する前の初期状態(つまり、駆動電圧が印加されていない状態)で貫通孔10に一部が挿入される。静電型トランスデューサ1をスピーカとして使用する場合、固定電極7−可動電極8間に作用する静電力Fは、固定電極7−可動電極8間の静電エネルギをU、固定電極7−可動電極8間の静電容量をC〔F〕、一対の電極(固定電極7および可動電極8)間に印加する駆動電圧をV〔V〕、可動板5の初期状態からの変位をx〔m〕とすれば、
【0057】
【数7】

【0058】
で表される。ここで、実施形態1で説明した小領域に着目すると、初期状態から可動板5が厚み方向に沿って固定板4側にx〔m〕だけ変位した状態での小領域の静電力Fcombは、上記数5、数7より、
【0059】
【数8】

【0060】
で表される。なお、静電力Fcombは可動板5を厚み方向に沿って固定板4側に引き寄せる向きの力(いわゆる静電引力)である。これに対して、貫通孔10および突起部12がない従来構成において、初期状態から可動板5が厚み方向に沿って固定板4側にx〔m〕だけ変位した状態での小領域の静電力Fparallelは、上記数2、数7より、
【0061】
【数9】

【0062】
で表される。したがって、一例として上記数8、数9の各パラメータの値を、a=6×10−6〔m〕、b=2×10−6〔m〕、d=1×10−6〔m〕、g=4×10−6〔m〕と仮定したときに、初期状態(つまり、x=0〔m〕)にある可動板5に作用する小領域の静電力について、本発明の静電型トランスデューサ1と従来構成とで比をとると、上記数8、数9からFcomb/Fparallel=2.76と求まる。これは、一対の電極(固定電極7および可動電極8)間に同じ大きさの駆動電圧V〔V〕を印加したときに、本発明の静電型トランスデューサ1では従来構成の2.76倍の静電力が固定電極7と可動電極8との間に作用することを意味する。
【0063】
要するに、本発明の静電型トランスデューサ1では、貫通孔10および突起部12がない従来構成に比較して、音響センサや圧力センサとして使用される場合に高い感度が得られるだけでなく、スピーカとして使用される場合に固定電極7−可動電極8間に作用する静電力が大きくなり、出力音圧が向上する。また、従来構成と同一感度の音響センサや圧力センサとして本発明の静電型トランスデューサ1を用いる場合には、従来構成に比べて静電型トランスデューサ1の小型化、バイアス電圧の低電圧化を図ることができ、従来構成と同一出力のスピーカとして本発明の静電型トランスデューサ1を用いる場合には、従来構成に比べて静電型トランスデューサ1の小型化、駆動電圧の低電圧化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態1の静電型トランスデューサを示し、(a)は概略断面図、(b)は一部を破断した概略斜視図である。
【図2】同上の他の例の要部を示す概略断面図である。
【図3】同上の小領域を示す概略斜視図である。
【図4】同上の他の例の要部を示し、一部破断した概略斜視図である。
【図5】(a)は同上の要部を示し、一部破断した概略斜視図、(b)は他の例の要部を示し、一部破断した概略斜視図である。
【図6】本発明の実施形態2の静電型トランスデューサの要部を示す概略断面図である。
【図7】同上の他の例の要部を示す概略断面図である。
【図8】本発明の実施形態3の静電型トランスデューサを示す概略断面図である。
【図9】同上の他の例を示す概略断面図である。
【図10】従来例を示し、(a)は概略断面図、(b)は小領域の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
1 静電型トランスデューサ
4 固定板
5 可動板
7 固定電極
8 可動電極
10 貫通孔
11 振動部
12 突起部
G ギャップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップを介して互いに対向配置された固定板および可動板と、固定板および可動板にそれぞれ設けられた一対の電極とを備え、一対の電極間にキャパシタが形成される静電型トランスデューサであって、固定板は、厚み方向に貫通する貫通孔を有し、可動板は、固定板に対して固定板の厚み方向に対向する振動部と、振動部における固定板側の表面から突出し少なくとも振動部が変位する前の初期状態において貫通孔に一部が挿入される突起部とを有し、可動板側の電極は振動部から突起部に亘って設けられ、固定板側の電極は固定板における振動部との対向面に沿う部分と貫通孔の内側面に沿う部分とを一体に有することを特徴とする静電型トランスデューサ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−252847(P2008−252847A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95189(P2007−95189)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】