説明

静電容量型振動センサ

【課題】キャパシタを構成する可動電極板と固定電極板のうち外側に位置している固定電極板の強度を向上させ、静電容量型センサの耐衝撃性、耐破損性を高める。
【解決手段】
シリコン基板32に貫通孔などの空洞部36を形成する。振動電極板34は、空洞部36の上方を覆うようにして、シリコン基板32の上面に配置する。固定電極板35は、振動電極板34と微小なギャップを保って振動電極板34の上方を覆っており、周辺部をシリコン基板32の上面に固定されている。固定電極板35の側壁部の外面は、Au、Cr、Pt等の金属からなる補強膜44によって覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電容量型センサに関し、特にMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術もしくはマイクロマシニング技術を用いて製作される微小サイズの静電容量型センサに関する。
【背景技術】
【0002】
(製作方法)
微小なサイズの静電容量型センサは、上記のようにMEMS技術もしくはマイクロマシニング技術により製作される。例えば従来の静電容量型振動センサ(マイクロフォン)では、図1(a)〜(f)に示すような工程によって製作されている。以下、この工程を簡単に説明する。
【0003】
まず、図1(a)に示すように、Si基板11の表面を熱酸化法によって酸化させ、Si基板11の表面を熱酸化膜(SiO膜)12によって保護する。ついで、図1(b)に示すように、Si基板11の上面において熱酸化膜12の上にポリシリコン膜によって振動電極板13(可動電極板)を成膜する。図1(c)に示すように、振動電極板13の上からSi基板11の上面にSiOからなる犠牲層14を堆積させ、犠牲層14をエッチングすることによってメサ型の犠牲層14を形成する。さらに、この上からSi基板11の上面にSiNを堆積させることによってバックプレート15を形成し、バックプレート15の上に金属薄膜からなる固定電極16を成膜してバックプレート15及び固定電極16からなる固定電極板17を形成する。ついで、図1(d)に示すように、エッチングによって固定電極板17に複数の音響孔18を開口する。
【0004】
この後、図1(e)に示すように、裏面側の熱酸化膜12に窓19を開口し、この窓19からSi基板11を異方性エッチングすることによって空洞部20を形成する。そして、空洞部20をSi基板11の上面まで到達させてSi基板11に空洞部20を貫通させる。ついで、図1(f)に示すように、空洞部20や音響孔18を通して犠牲層14をエッチング除去し、Si基板11と固定電極板17との間の空間に、振動可能な振動電極板13を設け、チップ状の振動センサ23を得る。
【0005】
図2(a)は上記のようにして作製された振動センサ23の概略平面図を表し、図2(b)は固定電極板17を取り除いて振動電極板13を露出させた状態の平面図である。ここで、符号24は固定電極板17の固定電極16と導通した電極パッド、符号25は振動電極板13と導通した電極パッドである。また、振動電極板13は四隅部分がSi基板11に固定された支持脚26となっている。
【0006】
(問題点)
しかし、従来の振動センサ23では、図1(a)〜(f)に示すようにして作製されるので、バックプレート15の固定部近傍、特に固定部の端から立ち上がっている側壁部の強度が低下し易いという問題があった。図3(a)、(b)は、振動センサの製作工程において側壁部の強度が低下する理由を説明する図である。
【0007】
図3(a)はメサ型の犠牲層14の上にSiNを堆積させてバックプレート15を形成した状態の部分拡大断面図であり、図1(c)の初期の工程を表している。SiNの堆積工程においては、膜成長速度は鉛直方向で最も大きくなるので、バックプレート15のうち水平面では最も膜厚が大きくなり、側壁部21では水平面よりも膜厚が薄くなる。しかも、側壁部21では、水平面よりも膜質が悪い。
【0008】
また、図1(e)の空洞部20を形成する工程では、Si基板11をTMAHやKOH液でウェットエッチングしたり、XeFガスを用いてドライエッチングしたりして空洞部20を形成するが、このとき同時にバックプレート15も幾分かエッチングされ、特に側壁部21の厚みが薄くなりやすい。
【0009】
さらに、図1(f)の犠牲層14をエッチング除去する工程では、フッ酸水溶液でウェットエッチングしたり、CF系ガスを用いてドライエッチングしたりして犠牲層14を除去するが、このときも同時にバックプレート15が幾分かエッチングされ、特に側壁部21の厚みが薄くなりやすい。
【0010】
こうして、図3(b)に矢印で示すようにバックプレート15がエッチングされる結果、側壁部21の厚みが薄くなり、また膜質も悪いので、バックプレート15の側壁部21は他の箇所よりも強度が小さくなる。しかも、図3(b)に示すように、バックプレート15の固定部22と側壁部21との境界部には、バックプレート15の成膜時や、Si基板11と犠牲層14のエッチング時にクラックαが発生しやすい。
【0011】
このため、振動センサ23に外部からの衝撃が加わった場合に応力の逃げ場がなく、バックプレート15の側壁部21や、側壁部21と固定部22との境界部に応力が集中し、バックプレート15にクラックが発生したり、破損したりすることがあった。
【0012】
なお、バックプレート15の成膜時の膜厚を大きくすることにより、バックプレート15の強度を高くすることができるが、このような対処方法では、成膜時間が長くなるために振動センサ23の生産性が悪くなり、また、バックプレートの加工精度が低下するので、実用的ではない。
【0013】
(特許文献1における開示)
特許文献1には、バックプレート(窒化シリコンの薄膜板)の側壁部をリブ構造とすることでバックプレートの剛性を高め、バックプレートの反りを防ぐようにしたセンサが開示されている。このような構造では、バックプレートの側壁部にリブ構造を形成しているので、一見側壁部の強度が高くなっているように思える。
【0014】
しかし、この構造のように側壁部をリブ構造にしたところで、基板や犠牲層をエッチングする際のバックプレートのエッチングを防ぐことはできず、またバックプレートを成膜する際の側壁部の膜質を良好にすることはできず、側壁部の強度を向上させるためには有効でない。
【0015】
むしろ、側壁部をリブ構造とすることで、外部から衝撃が加わったときにリブに応力が集中しやすく、側壁部やその基部などにクラックが発生したり、破損したりしやすくなる。
【0016】
【特許文献1】特開2007−116721号公報(図13、図14)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、キャパシタを構成する可動電極板と固定電極板のうち外側に位置している固定電極板の強度を向上させ、耐衝撃性と耐破損性を高めることのできる静電容量型センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の静電容量型センサは、基板と、前記基板の上面に配置された可動電極板と、前記可動電極板を覆うようにして前記基板の上面に配置された固定電極板とを備え、前記可動電極板と前記固定電極板との間の静電容量又はその変化によって物理量又はその変化を検知するようにした静電容量型センサにおいて、
前記固定電極板は、空間を介することなく前記基板の上面に固定されている部分の内縁に設けられた側壁部によって、空間を介して前記基板の上面に対向している部分が支持されており、前記側壁部の少なくとも一部に補強膜が形成されたことを特徴としている。
【0019】
本発明の静電容量型センサにあっては、固定電極板のうち前記基板に固定された領域の内縁に位置する側壁部に補強膜を形成しているので、補強膜によって固定電極板の側壁部の強度を向上させることができる。また、静電容量型センサの製造工程において基板等をエッチングする際、補強膜で覆った領域においては固定電極板が基板等とともにエッチングされて厚みが薄くなるのを抑制することができる。このため、本発明にあっては、外部からの衝撃等によって固定電極板が破損するのを防止することができ、静電容量型センサの耐衝撃性、耐破損性を向上させることができる。
【0020】
本発明の静電容量型センサのある実施態様は、前記補強膜が金属によって形成されており、前記補強膜が、前記可動電極板及び前記固定電極板のいずれとも電気的に絶縁されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、補強膜が金属によって形成されているので、固定電極板その他の電極を形成する際に同時に補強膜を形成することが可能になり、静電容量センサの製造工程を簡略化することができる。また、固定電極板の成膜時に固定電極板にクラックが生じていても、固定電極板に補強膜を形成したときに、補強膜の材料である塑性を有する金属がクラック内に侵入してクラックを埋めるので、クラックがある程度修復される。しかも、金属製の補強膜が固定電極板や可動電極板と導通していないので、補強膜を形成したことによって固定電極板と可動電極板との間のキャパシタンスに影響を及ぼすことがない。
【0021】
さらに、この補強膜は、Au、Cr及びPtのうちから選択された少なくとも1つの材料によって形成されていることが望ましい。Au、Cr、Ptは耐薬品性を有しているので、補強膜をAu、Cr、Ptで形成すれば、補強膜を形成した後のエッチング工程(例えば、基板や犠牲層のエッチング工程)において補強膜がエッチングされて薄くなりにくく、補強膜の強度が低下しにくくなる。
【0022】
さらに、この補強膜は、前記可動電極板の導電領域及び前記固定電極板の導電領域のいずれとも重なり合っていないことが望ましい。金属製の補強膜が可動電極板の導電領域とも固定電極板の導電領域とも重なり合っていないので、補強膜と可動電極板との間や補強膜と固定電極板との間に寄生容量が生じにくくなっており、寄生容量による静電容量型センサの感度低下を抑制することができる。
【0023】
本発明の静電容量型センサの別な実施態様は、前記補強膜が、前記側壁部の外面に設けられていることを特徴としている。固定電極板は外周部を基板に固定されていることが多く、固定電極板のクラックや破損は固定電極板の側壁部に発生しやすいので、かかる実施態様によれば、補強膜を側壁部の外面に設けることにより固定電極板のクラックや破損を効果的に防ぐことができる。また、補強膜を固定電極板の外面に設けているので、補強膜を固定電極板の固定電極と同時に形成することができ、静電容量型センサの製造工程を簡略化することができる。
【0024】
本発明の静電容量型センサのさらに別な実施態様は、前記補強膜が、前記側壁部の内面に設けられていることを特徴としている。固定電極板は外周部を基板に固定されていることが多く、固定電極板のクラックや破損は固定電極板の側壁部に発生しやすいので、かかる実施態様によれば、補強膜を側壁部の内面に設けることにより固定電極板のクラックや破損を効果的に防ぐことができる。
【0025】
さらに、前記補強膜は、前記補強膜は、前記側壁部の外面または内面のうち少なくとも一方において、前記可動電極板の導電領域及び前記固定電極板の導電領域のいずれにも重なり合わない領域のうち、当該領域に隣接する絶縁のための領域を除く全体に形成されていることが望ましい。補強膜は前記のように固定電極板や可動電極板と導通しないようにして、また固定電極板の導電領域や可動電極板の導電領域と重なり合わないようにしてできるだけ広い面積に設けることが望ましく、それによって側壁部の強度をできるだけ高くすることができる。
【0026】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。以下の実施形態においては、静電容量型センサの一種である静電容量型振動センサ(特に、音響センサ)を例にとって説明するが、本発明は振動センサ以外にも適用することができるものである。
【0028】
(第1の実施形態)
以下、図4〜図7を参照して本発明の実施形態1による振動センサ31を説明する。図4は実施形態1による振動センサ31を示す斜視図であり、図5はその分解斜視図である。図6は図4のX−X線に沿った概略断面図である。また、図7(a)は、実施形態1の振動センサを模式的に表した平面図である。図7(b)は、図7(a)の振動センサから固定電極板を取り除いて振動電極板を露出させた状態の概略平面図である。
【0029】
この振動センサ31は静電容量型のセンサであり、シリコン基板32の上面に絶縁被膜33を介して振動電極板34(可動電極板)を設け、その上に微小ギャップ(空隙)を介して固定電極板35を設けたものである。
【0030】
図5に示すように、シリコン基板32には、角柱状の貫通孔や角錐台状の凹部などからなる空洞部36を設けている(図では上下に貫通した空洞部36を示している。)。シリコン基板32のサイズは、平面視で1〜1.5mm角(これよりも小さくすることも可能である。)であり、シリコン基板32の厚みが400〜500μm程度である。シリコン基板32の上面には酸化膜(SiO膜)等からなる絶縁被膜33が形成されている。
【0031】
振動電極板34は、膜厚が1μm程度のポリシリコン薄膜によって形成されている。振動電極板34はほぼ矩形状の薄膜であって、その四隅部分には対角方向外側に向けて支持脚37が延出している。さらに、支持脚37の一つからは延出部47が延びている。振動電極板34は、空洞部36の上面を覆うようにしてシリコン基板32の上面に配置され、四隅の各支持脚37と延出部47を絶縁被膜33の上に固定されている。振動電極板34のうち空洞部36の上方で宙空に支持された部分(この実施形態では、支持脚37及び延出部47以外の部分)はダイアフラム38(振動膜)となっており、音圧に感応して振動する。
【0032】
固定電極板35は、窒化膜からなるバックプレート39の上面に金属薄膜からなる固定電極40を設けたものである。図6に示すように、固定電極板35は、ダイアフラム38と対向する領域においては3μm程度の微小ギャップをあけてダイアフラム38を覆っており、固定電極40はダイアフラム38と対向してキャパシタを構成している。固定電極板35の外周部、すなわちダイアフラム38と対向する領域の外側の部分は、酸化膜等からなる絶縁被膜33を介してシリコン基板32の上面に固定されている。この固定された部分を、以下においては固定部42と呼ぶ。
【0033】
固定電極40からは引き出し部45が延出されており、引き出し部45の先端には固定電極40と導通した電極パッド46(Au膜)が設けられている。さらに、固定電極板35には、振動電極板34の延出部47に接合して振動電極板34と導通させる電極パッド48(Au膜)が設けられている。電極パッド46はバックプレート39の上面に配置しており、電極パッド48はバックプレート39の開口内に位置している。また、固定部42の内周縁に沿った領域の一部においては、バックプレート39の外面を金属膜からなる補強膜44で覆っている。
【0034】
固定電極40及びバックプレート39には、上面から下面に貫通するようにして、音圧(振動)を通過させるための音響孔41(アコースティックホール)が穿孔されている。なお、振動電極板34は、音圧に共鳴して振動するものであるから、1μm程度の薄膜となっているが、固定電極板35は音圧によって励振されない電極であるので、その厚みは例えば2μm以上というように厚くなっている。
【0035】
しかして、この振動センサ31にあっては、表面側から音響振動(空気の疎密波)が到達すると、この音響振動は固定電極板35の音響孔41を通過してダイアフラム38に達し、ダイアフラム38を振動させる。ダイアフラム38が振動すると、ダイアフラム38と固定電極板35との間のギャップ距離が変化するので、それによってダイアフラム38と固定電極40の間の静電容量が変化する。よって、電極パッド46、48間に直流電圧を印加しておき、この静電容量の変化を電気的な信号として取り出すようにすれば、音の振動を電気的な信号に変換して検出することができる。
【0036】
(補強膜の構成)
図7(a)、(b)は、実施形態1の基本構造を分かりやすくするために、図4及び図5に図示した構造を簡略化して表したものである。以下においては、図4及び図5の代わりに、図7(a)、(b)を用いて補強膜44の構成を説明する。また、後述の実施形態2、3についても、同様な簡略化した図を用いて説明するものとする。
【0037】
図6及び図7(a)に示すように、バックプレート39の外周部、すなわち固定部42はシリコン基板32の上面に固定されており、その内側の領域はシリコン基板32の上面から浮き上がっていて振動電極板34と対向している。シリコン基板32から浮き上がっているバックプレート39の上面と固定部42との間は、水平面に対して傾斜した側壁部43となっている。背景技術において説明したように、固定電極板35は側壁部43の強度が低下しやすいので、本実施形態では、側壁部43に沿ってその一部に補強膜44を形成している。
【0038】
補強膜44は、シリコン基板32や犠牲層などのエッチング時にエッチングされない(あるいは、エッチングレートが小さい)材料を用いるのが好ましい。また、補強膜44は、衝撃によって破損しにくい材料が好ましいので、脆性材料でなく、延性または靱性を有する材料が好ましい。従って、補強膜44としては、金属材料を用いることが望ましく、特にAu、Cr、Ptなどのエッチング液に浸食されにくいものが好ましい。
【0039】
補強膜44の最も好ましい材料は、Au膜である。その理由は、Au膜を用いることにより電極パッド46、48を作製する際に、同時に補強膜44を作製できるからである。また、Au膜は延性に優れた金属であり、補強膜44に適している。また、Au膜は、耐薬品性に優れ、エッチング液に浸食されにくいからである。
【0040】
さらには、補強膜44は、上層Au膜/下層Cr膜の二層構造とすることが望ましい。Cr膜は他材料との密着性に優れるので、下層にCr膜を用いることにより、Au膜とバックプレート39との密着力を高めることができるからである。しかも、Cr膜は耐薬品性にも優れているからである。
【0041】
また、Cr膜は耐薬品性と他材料との密着性に優れているので、Cr膜単独での使用も補強膜44に適している。
【0042】
次に、補強膜44の形態について説明する。図6に示すように、補強膜44は、固定部42及びバックプレート39の上面へ延びている。すなわち、バックプレート39の成膜時にクラックの発生しやすい側壁部43の上端と下端の屈曲部分を補強膜44で覆っている。
【0043】
また、補強膜44は、図7(a)に示すように、固定電極板35の導電領域(固定電極40、引き出し部45、電極パッド46)や振動電極板34の導電領域(振動電極板34そのもの)に接触しないようにして、しかも、固定電極板35の導電領域や振動電極板34の導電領域に重なり合わないようにして、側壁部43の一部に設けている。ただし、固定電極板35や振動電極板34の導電領域と接触せず、また重なり合わない限度で、側壁部43のできるだけ広い面積を補強膜44で覆った方が、側壁部43の強度が増して望ましい。つまり、側壁部43の、振動電極板34の導電領域及び固定電極板35の導電領域のいずれにも重なり合わない領域のうち、当該領域に隣接する絶縁のための領域を除く全体に補強膜44を形成しておくことが望ましい。
【0044】
補強膜44が固定電極板35の導電領域や振動電極板34の導電領域と接触したり、重なり合ったりしないように設けている理由を、図8及び図9に示す比較例(望ましくない例)と比較することによって説明する。なお、図9は図8のY−Y線断面図である。
【0045】
図8及び図9に示す比較例では、側壁部43の全周にわたって補強膜44を設けている。この比較例のように、金属製の補強膜44が引き出し部45を通過していると、補強膜44が引き出し部45に接触して補強膜44と固定電極板35が導通し、振動センサ31の特性が変化したり、感度が低下したりする。
【0046】
さらに、延出部47の上方を通過している補強膜44が電極パッド48の上にはみ出たり、電極パッド48の位置ずれによって電極パッド48が補強膜44に接触したりすると、補強膜44によって振動電極板34と固定電極板35とが短絡し、振動センサ31が不良品となる。
【0047】
また、補強膜44が電極パッド48に接触しない場合であっても、補強膜44が延出部47の上方を通過していると、図9に示すように、補強膜44と振動電極板34との間に寄生容量Cが発生するので、寄生容量Cによってセンサ感度が低下する恐れがある。
【0048】
これに対し、本実施形態の振動センサ31では、補強膜44を部分的に除去して振動電極板34の導電領域や固定電極板35の導電領域を補強膜44が通過しないようにしているので、補強膜44と固定電極40などとの導通、振動電極板34と固定電極板35との短絡、寄生容量の発生といった不具合を回避することができ、振動センサ31の感度や特性を良好に保持することができる。
【0049】
(製造方法)
図10(a)〜(f)により実施形態1の振動センサ31の製造方法を説明する。まず、図10(a)に示すように、シリコン基板32の表面を熱酸化法によって酸化させ、シリコン基板32の表面を絶縁被膜33(SiO膜)によって覆う。ついで、図10(b)に示すように、シリコン基板32の上面において絶縁被膜33の上にポリシリコン膜によって振動電極板34を成膜する。図10(c)に示すように、振動電極板34の上からシリコン基板32の上面にSiOからなる犠牲層49を堆積させ、犠牲層49をエッチングすることによってメサ型の犠牲層49を形成する。さらに、この上からシリコン基板32の上面にSiNを堆積させることによってバックプレート39を形成し、バックプレート39の上面に金属薄膜からなる固定電極40を成膜してバックプレート39及び固定電極40からなる固定電極板35を形成する。また、スパッタ法などによってバックプレート39の側壁部43及びその近傍に補強膜44を形成する。このとき、固定電極40と補強膜44が同じ材料であれば、固定電極40と補強膜44を一つの工程で同時に作製することができ、製造工程を簡略化できる。
【0050】
ついで、図10(d)に示すように、エッチングによって固定電極板35に複数の音響孔41を開口する。この後、図10(e)に示すように、裏面側の絶縁被膜33に窓50を開口し、この窓50からシリコン基板32を異方性エッチングすることによって空洞部36を形成する。そして、空洞部36をシリコン基板32の上面まで到達させてシリコン基板32に空洞部36を貫通させる。ついで、図10(f)に示すように、空洞部36や音響孔41を通して犠牲層49をエッチング除去し、シリコン基板32と固定電極板35との間の空間に、振動可能な振動電極板34を設け、チップ状の振動センサ31を得る。
【0051】
(作用効果)
本実施形態の振動センサ31にあっては、上記のような構造を有しているので、バックプレート39(特に、製造工程において強度の低下しやすい側壁部43)を補強膜44によって補強することができる。また、シリコン基板32に空洞部36を開口する工程や、犠牲層49をエッチング除去する工程においては、耐エッチング性を有する補強膜44で側壁部43を覆っておくことにより、側壁部43がエッチングによって浸食されて肉厚が薄くなるのを防ぐことができる。さらに、バックプレート39を成膜する工程においては、バックプレート39の側壁部43にクラックが発生することがあるが、側壁部43に塑性材料である金属からなる補強膜44を形成すると、クラックが補強膜44の金属で埋められて修復される。こうして、補強膜44によりバックプレート39の機械的強度を向上させることができるので、振動センサ31の耐衝撃性、耐破損性が向上し、振動センサ31の耐久性や寿命が向上する。
【0052】
(第2の実施形態)
図11は本発明の実施形態2による振動センサ51を示す概略平面図である。この実施形態においては、バックプレート39の側壁部43及びその近傍領域のうち、平面視で側壁部43の四隅部分にあたる領域にのみ補強膜44を設けている。
【0053】
図11は振動センサ51を模式的に表した図であるが、実施形態1の詳細な図である図4及び図5から分かるように、側壁部43の四隅部分は、実際には振動電極板34の支持脚37に合わせて対角方向外側に向けて膨らんでいる。そのため、側壁部43のうちでも、四隅部分が特に強度の低下しやすい部分となっている。よって、実施形態2では、側壁部43のうちでも最も強度の低下しやすい、最小限の領域に補強膜44を形成した実施形態となっている。
【0054】
(第3の実施形態)
図12は本発明の実施形態3による振動センサ61を示す概略平面図である。図13は実施形態3の振動センサ61の概略断面図である。この実施形態は、バックプレート39の側壁部43及びその近傍領域の内面に補強膜44を設けたものである。
【0055】
側壁部43の内面に補強膜44を設ける場合にも、補強膜44が固定電極板35の導電領域や振動電極板34の導電領域に触れないようにし、また補強膜44が固定電極板35の導電領域や振動電極板34の導電領域と重なり合わないようにする点は、実施形態1の場合と同様である。また、補強膜44を最小限の領域に設けるため、側壁部43の内面の四隅部分にのみ補強膜44を設けるようにすることも可能である。
【0056】
図14(a)〜(f)は実施形態3の振動センサ61の製造工程を示す概略断面図である。この製造工程は、図10に示した実施形態1の製造工程とほぼ同じである。異なっている点は、図14(c)において犠牲層49の側壁面に予め補強膜44を形成しておく点である。補強膜44を形成した後に、図14(d)のように犠牲層49の上にバックプレート39を成膜することで、バックプレート39の側壁部43の内面に補強膜44が形成される。
【0057】
この実施形態では、図14(f)のように犠牲層49をエッチング除去する際に、補強膜44によって側壁部43を保護することができるので、バックプレート39の材料が犠牲層49のエッチングに用いるエッチャントに対してエッチングレートが比較的高い場合に有効である。
【0058】
なお、側壁部43の内面と外面の両面にそれぞれ補強膜44を設けてもよいことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1(a)〜(f)は、従来の静電容量型振動センサの製作工程を説明する概略断面図である。
【図2】図2(a)は、図1(a)〜(f)の工程により作製された振動センサの概略平面図である。図2(b)は、図2(a)の振動センサから固定電極板を除いて振動電極板を露出させた状態の概略平面図である。
【図3】図3(a)、(b)は、振動センサの製作工程において固定電極板の強度が低下する理由を説明する図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1による振動センサを示す斜視図である。
【図5】図5は、実施形態1の振動センサの分解斜視図である。
【図6】図6は、図4のX−X線に沿った概略断面図である。
【図7】図7(a)は、実施形態1の振動センサを模式的に表した平面図である。図7(b)は、図7(a)の振動センサから固定電極板を除いて振動電極板を露出させた状態の概略平面図である。
【図8】図8は、比較例の振動センサを示す概略平面図である。
【図9】図9は、図8のY−Y線に沿った断面図である。
【図10】図10(a)〜(f)は、実施形態1の静電容量型振動センサの製作工程を説明する概略断面図である。
【図11】図11は、本発明の実施形態2によるの振動センサを模式的に表した平面図である。
【図12】図12は、本発明の実施形態3によるの振動センサを模式的に表した平面図である。
【図13】図13は、実施形態3の振動センサの概略断面図である。
【図14】図14(a)〜(f)は、実施形態3の静電容量型振動センサの製作工程を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0060】
31、51、61 振動センサ
32 シリコン基板
34 振動電極板
35 固定電極板
37 支持脚
38 ダイアフラム
39 バックプレート
40 固定電極
41 音響孔
42 固定部
43 側壁部
44 補強膜
45 引き出し部
46 電極パッド
47 延出部
48 電極パッド
49 犠牲層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の上面に配置された可動電極板と、前記可動電極板を覆うようにして前記基板の上面に配置された固定電極板とを備え、前記可動電極板と前記固定電極板との間の静電容量又はその変化によって物理量又はその変化を検知するようにした静電容量型センサにおいて、
前記固定電極板は、空間を介することなく前記基板の上面に固定されている部分の内縁に設けられた側壁部によって、空間を介して前記基板の上面に対向している部分が支持されており、
前記側壁部の少なくとも一部に補強膜が形成されたことを特徴とする静電容量型センサ。
【請求項2】
前記補強膜は金属によって形成されており、
前記補強膜は、前記可動電極板及び前記固定電極板のいずれとも電気的に絶縁されていることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型センサ。
【請求項3】
前記補強膜は、Au、Cr及びPtのうちから選択された少なくとも1つの材料によって形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の静電容量型センサ。
【請求項4】
前記補強膜は、前記可動電極板の導電領域及び前記固定電極板の導電領域のいずれとも重なり合っていないことを特徴とする、請求項2に記載の静電容量型センサ。
【請求項5】
前記補強膜は、前記側壁部の外面に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型センサ。
【請求項6】
前記補強膜は、前記側壁部の内面に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型センサ。
【請求項7】
前記補強膜は、前記側壁部の外面または内面のうち少なくとも一方において、前記可動電極板の導電領域及び前記固定電極板の導電領域のいずれにも重なり合わない領域のうち、当該領域に隣接する絶縁のための領域を除く全体に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の静電容量型センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−56745(P2010−56745A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218149(P2008−218149)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【特許番号】特許第4419103号(P4419103)
【特許公報発行日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】