説明

静電容量式スイッチ装置

【課題】 各測定区間における検出感度の差異を小さくし、検出範囲の広い静電容量式スイッチを提供する。
【解決手段】 検知電極2と接地との間の静電容量Cxをn個の領域に分割し、各領域にオフセット値を割り当てる。静電容量検出回路8は、検知電極2と接地との間の静電容量Cxに応じた値をオフセット値で補正して得られた検出値を出力する。CPU15は、検出回路8からの検出値と予め設定されたしきい値との大小関係を比較判定し、検出値がしきい値を超えたらオフセット値を次の領域のものに更新し、検出値及びしきい値の大小関係とオフセット値とにより出力値を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電用機器、産業用機器機、輸送機器、建造物等に使用される静電容量式スイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、静電容量の変化を検出する静電容量式スイッチとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この特許文献1に開示されたものは、透明保護膜の下に静電容量検知用透明電極及び表示素子を設け、透明電極での静電容量を検出手段で検出し、その検出結果に基づいて制御手段が表示素子を駆動するようにしたものである。また、この特許文献1には、表示素子の表示面にマスクを設け、文字や絵を表示する点も開示されている。これにより、機械的駆動部分がないタッチスイッチを実現するだけでなく、スイッチがONしたことを表示機能により操作者に報知することが可能になる。
【特許文献1】特開平5−298979号公報、段落0012〜0013、0019、図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の静電容量式スイッチでは、透明電極に人体の一部が近接してスイッチがONになる表示素子が表示されるだけで、たとえば暗所などにおけるスイッチの操作性を考慮したものではない。
【0004】
これを解決するために特願2004−317537「静電容量スイッチ装置」を提案している(未公知)。このスイッチでは明細書中の図3にあるように、距離に対応する検出値のしきい値を複数設定し、第1のしきい値を超えたとき点灯パターン1で点灯し、第2のしきい値を超えたとき点灯パターン2で点灯する手段を備えていることを特徴とする。
【0005】
本発明は、この静電容量スイッチ装置の精度を更に向上させようと鑑みてなされたもので、高精度かつ広い検出範囲を有する静電容量スイッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による静電容量式スイッチ装置は、検知電極と、前記検知電極と接地との間の静電容量に応じた値を検出して前記静電容量に応じた値をオフセット値でオフセット補正して得られた値を検出値として出力する静電容量検出回路と、 前記検知電極と接地との間の静電容量をn個(nは2以上の自然数)の領域に分割して得られた各領域にそれぞれオフセット値を設定すると共に、前記静電容量検出回路から出力される検出値と予め定めたしきい値とを比較してその大小関係に応じた信号を出力し、前記検出値が前記しきい値を超えた場合に前記オフセット値を次の領域に対応したものに更新し、前記検出値及び前記しきい値の大小関係と前記オフセット値とにより出力値を決定する制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検知電極と接地との間の静電容量を検知し、その検出値を静電容量の大きさに応じた複数の領域に分別し、その領域に従って設定された分だけ検出値をオフセットすることにより、被検知物体の接近により検知回路で検出される静電容量が急に変化しても、常に同じ精度で静電容量を検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0009】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る静電容量式スイッチ装置の構成を示す分解斜視図である。
【0010】
このスイッチ装置は、被覆材としての意匠板1の裏側に被検知物体の接近を検出するための中央に開口部2aを有する矩形状の検知電極2を配置し、意匠板1と検知電極2の間に意匠板1側から順にマスク板3と、バックライト導光板4及び第1光源5からなるバックライト6とを配置し、更に検知電極2の裏側に第2光源7を配置してなる。ここで、意匠板1は、光透過性を有する樹脂、ガラス等の材料により形成され、例えば無色透明の板の表面1a上に目的にあった模様や色のシートを貼り付けるなどして、数十%、例えば10〜50%の光透過率に調整されたものである。表示用マスク板3は、スイッチの種類及び位置を示すために所定の文字、記号、図形等の光透過パターン3aを形成して、それ以外の部分をマスクしたもので、バックライト6の点灯時に意匠板1の表面1aに光透過パターン3aを浮き上がらせるために設けられている。検知電極2は、図示しない所定の基板上に形成されている。
【0011】
図2は、このスイッチ装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0012】
検知電極2は、検知電極2と接地との間の静電容量Cxに応じた検出値を出力する電荷転送式の静電容量検出回路8に接続されている。検出回路8は、例えば静電容量Cxにチャージされた電荷を分配するコンデンサCsに、オフセット電荷を与えて検出値を出力するもので、その詳細は後述する。検出値測定回路9は、検出回路8から出力される検出値を測定してディジタルの検出値をしきい値判定回路10に出力する。しきい値判定回路10は、例えば複数のコンパレータ等からなり、測定回路9から入力した測定値と予め設定されている1つ又は複数のしきい値とを比較し、測定値としきい値との大小関係を判定し、判定結果をオフセット制御回路11に出力する。オフセット制御回路11は、しきい値判定回路10から入力した判定結果に対応したオフセット値を設定し、オフセット回路12に出力する。オフセット回路12は、オフセット制御回路11からオフセット制御値をDAコンバータ16を介して入力すると、後述する電荷オフセット機能を有する静電容量検出回路8を駆動し、電荷のオフセットを行う。コントローラ13は、しきい値判定回路10からの判定結果とオフセット制御回路11からのオフセット値をモニタリングし、判定結果及びオフセット値が変化したときに、メモリ14に信号を出力する。メモリ14は、コントローラ13から信号を入力すると、判定結果及びオフセット値が変化したことを記録する。なお、しきい値判定回路10、オフセット制御回路11及びコントローラ13は、CPU15によって容易に実現することができるが、プログラマブル・ロジック・アレイや論理回路で構成することも可能である。
【0013】
図3は、電荷オフセット機能を有する静電容量検出回路8の電気的構成を示す回路図である。
【0014】
検知電極2によって形成される等価的な静電容量Cxは、一方の端子が人体等の被検知物体を介して接地され、従って、検知電極2と人体との距離によって静電容量Cxは変化する。静電容量Cxの他方の端子は、スイッチS1を介して電源Voに接続されている。参照用コンデンサCsは、一方の端子がスイッチS2を介して静電容量CxとスイッチS1の接続点に接続されると共に、スイッチS3を介して接地され、他方の端子は接地されている。参照用コンデンサCsの両端の電圧は、検出値測定回路9によって測定される。また、参照用コンデンサCsの一方の端子は、スイッチS4を介してオフセット用コンデンサCoffの一方の端子に接続されている。オフセット用コンデンサCoffと他方の端子は、スイッチS5を介してオフセット回路12から与えられているオフセット値Voffの供給端子に接続されている。更に、オフセット用コンデンサCoffの両端子は、それぞれスイッチS6,S7を介して接地されている。
【0015】
次に、このように構成された静電容量式スイッチ装置の動作について説明する。
【0016】
被検知物体が検知電極2に近づくと、検知電極2と接地との間の静電容量Cxが増し、静電容量検出回路8の出力信号が変化する。ここで、オフセット電荷をまったく考えない場合、被検出物体と検知電極2の距離dによって静電容量Cxが非線形カーブに沿って連続的に変化するので、距離dと測定値との関係も図4に示すような関係となる。この場合、距離dを複数の段階で判別するためには、複数のしきい値を設定する必要がある事に加え、ダイナミックレンジも大きく設定する必要がある。
【0017】
そこで、この実施形態では、図5に示すように、オフセット用コンデンサCoffにチャージされるオフセット電荷を4段階に変化させることによって、予め設定された上限しきい値Vth1と下限しきい値Vth2との間に全測定値が収まるようにして、しきい値数の削減と各領域での精度の均一化を図っている。この場合、距離dは、オフセット制御回路11で設定されているオフセット値及び測定値によって特定することができる。
【0018】
図6は、CPU15による動作領域の切り替えを示すフローチャートである。
【0019】
はじめに、動作領域は動作領域1であり初期オフセット値はオフセット値1(操作量1)に設定される(S1)。この状態で検出値が上限しきい値Vth1を超えていたら(S2)、初期オフセット値をオフセット値2(操作量1+操作量2)に設定し動作領域は動作領域2に移行する(S3)。以下同様にこの動作を繰り返して初期オフセット値Nを決定し初期設定を行う。
【0020】
次に、被検知物体がスイッチ装置に近接し、測定値が上限しきい値Vth1に達したら(S4)、オフセット値をオフセット値(N+1)とし動作領域(N+1)に移行し、同時にメモリ14に動作領域が変わったことを出力する(S5)。また、被検知物体がスイッチ装置から離れ、測定値が下限しきい値Vth2を下回ったら(S6)、オフセット値をオフセット値(N−1)とし動作領域(N−1)に移行し、同時にメモリ9に動作領域が変わったことを出力する(S7)。以下この動作を繰り返し、測定値に応じてオフセット値を切り替える。
【0021】
CPU15によって動作領域が切り替わり、オフセット値が変化するときのスイッチ装置の動作について説明する。オフセット値の増減は、検出回路8が有するスイッチS1〜S3の切り替えを行うことにより実行される。以下にその動作を示す。
(a)はじめに、スイッチS1,S2,S4,S5をOFFにし、スイッチS3,S6,S7をONにする。これにより、参照用コンデンサCs及びオフセット用コンデンサCoffの両端が接地されるため、参照用コンデンサCs及びオフセット用コンデンサCoffの電荷はリセットされる。
(b)次に、スイッチS1,S5,S7をONにし、スイッチS2,S3,S4,S6をOFFにする。これにより、静電容量Cxは電源Voに接続されるため、静電容量Cxは電荷Qxをチャージする。また、オフセット用コンデンサCoffは、オフセット電荷Qoffをチャージする。
(c)更に、スイッチS1,S3,S5,S7をOFFにし、スイッチS2,S4,S6をONにする。これにより、参照用コンデンサCs,オフセット用コンデンサCoff及び静電容量Cxは、一方の端子同士が接続され他方の端子がそれぞれ接地されるため、並列接続となり、静電容量Cxにチャージされていた電荷Qxが、参照用コンデンサCsに移動し、参照用コンデンサCsの電荷は、オフセット用コンデンサCoffの電荷に影響を受ける。ここで参照用コンデンサCsの両端の電圧を測定し、測定値Vを得る。
【0022】
以下、動作領域が切り替わるたびに、(a)〜(c)の動作を繰り返す。
【0023】
ここで、オフセット電荷を考慮しないと静電容量Cxにチャージされる電荷Qx及び静電容量Cxと参照用コンデンサCsを並列したときのオフセット用コンデンサCsの両端の電圧Vは、以下の式によって表せる。
(数1)Qx=CxVo
(数2)V=CxVo/(Cx+Cs)
上式において、既知の供給電圧Vo及びオフセット用コンデンサCsを用い、参照用コンデンサCsの両端の電圧Vを計測することで、静電容量Cxを計測することができる。
【0024】
また、オフセット値をVoffとすると、オフセット用コンデンサCsにチャージされる電荷Qoffは、
(数3)Qoff=CoffVoff
となる。この電荷Qoffがチャージされたオフセット用コンデンサCsが参照用コンデンサCsに逆極性で接続されるので、結局、測定される電圧Vは、
(数4)V=(CxVo−CoffVoff)/(Cx+Cs+Coff)
となる。よって、静電容量Cxの増加に伴い、オフセット電圧Voff又はチャージ回数を変えることにより、Vを一定の幅に抑えるようにしている。
【0025】
このように構成された静電容量式スイッチ装置の効果について説明する。
【0026】
被検知物体の近接により静電容量Cxは急激に変化するが、検知電極2で検出される検出値を複数回オフセットすることで、静電容量の大小に関わらず、常に安定した精度で静電容量Cxを検出することが可能となる。ここで各動作領域における上限及び下限しきい値を一定とすれば、感度は常に同一となる。
【0027】
また、オフセット値を多段階に変化させることで、検出値を一定の幅に制限することが可能となるので、電源の低電圧化やコンバータ等のダイナミックレンジを効率よく活用することができる。
【0028】
本実施形態では、動作領域を4つとしたが、動作領域の数は2以上の任意の数とすることができる。
【0029】
また、本実施形態では、各動作領域における上限しきい値Vth1及び下限しきい値Vth2を一定値としたが、上限しきい値Vth1及び下限しきい値Vth2の少なくとも一方を、各動作領域において別々に設定することも可能である。更に、しきい値にヒステリシスを持たせることで、しきい値の境界付近での細かい検出値の変動があった場合に、出力のチャタリングを防止することもできる。
【0030】
図7は、本発明の他の実施形態に係る静電容量式スイッチ装置の電気的構成を示すブロック図である。しきい値判定回路10は、動作領域1において測定値が上限しきい値Vth1を上回ったとき、操作制御回路21に判定信号を出力し、動作領域2において測定値が上限しきい値Vth1を上回ったとき、操作制御回路22に判定信号を出力する。操作制御回路21は、しきい値判定回路10から判定信号を入力すると、光源駆動回路25を駆動して第1の光源5を第1の点灯パターンで制御すると共に、音発生回路19を駆動して発音体23を第1の発音パターンで制御する。また、操作制御回路22は、しきい値判定回路10から判定信号を入力すると、光源駆動回路26を駆動して第2の光源7を第2の点灯パターンで制御すると共に、音発生回路20を駆動して発音体24を第2の発音パターンで制御する。
【0031】
図8は、更に本発明の他の実施形態に係る静電容量式スイッチ装置の電気的構成を示すブロック図である。しきい値判定回路10は、動作領域1において測定値が上限しきい値Vth1を上回ったとき、及び動作領域2において測定値が上限しきい値Vth1を上回ったときに操作制御回路27に判定信号を出力する。操作制御回路27はしきい値判定回路10から判定信号を入力すると、光源駆動回路28を駆動して光源5r,5g,5bの輝度,色,照光時間及び点灯パターンの少なくとも1つを制御すると共に、音発生回路19を駆動して発音体23の発音パターンを制御する。
【0032】
これらの実施形態により、スイッチに指を近づけたとき、及び更に近づいてスイッチがONになったときの2つの状態をそれぞれ異なる点灯及び発音パターンで操作者に報知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に関わる静電容量式スイッチ装置の構成を示す斜視図である。
【図2】同装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】同装置の電気的構成を示す回路図である。
【図4】同装置と被検知物体との間の距離と測定値との関係を示すグラフである。
【図5】同装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】同装置と同装置と被検知物体との間の距離と測定値及びオフセット値との関係を示すグラフである。
【図7】他の実施形態に関わる静電容量式スイッチ装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図8】更に、他の実施形態に関わる静電容量式スイッチ装置の電気的構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0034】

1…意匠板、2…検知電極、3…マスク板、4…バックライト用導光板、5,7…光源、8…静電容量検出回路、9…検出値判定回路、10…しきい値判定回路、11…オフセット制御回路、12…オフセット回路、13…コントローラ、14…メモリ、15…CPU、16…DAコンバータ、18…静電容量検知回路、19,20…音発生回路、21,22,27…操作制御回路、23,24…発音体、25,26,28…光源駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知電極と、
前記検知電極と接地との間の静電容量に応じた値を検出して前記静電容量に応じた値をオフセット値でオフセット補正して得られた値を検出値として出力する静電容量検出回路と、
前記検知電極と接地との間の静電容量をn個(nは2以上の自然数)の領域に分割して得られた各領域にそれぞれオフセット値を設定すると共に、前記静電容量検出回路から出力される検出値と予め定めたしきい値とを比較してその大小関係に応じた信号を出力し、前記検出値が前記しきい値を超えた場合に前記オフセット値を次の領域に対応したものに更新し、前記検出値及び前記しきい値の大小関係と前記オフセット値とにより出力値を決定する制御手段と
を有することを特徴とする静電容量式スイッチ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記しきい値として、全ての前記静電容量の領域に対して共通の上限しきい値と下限しきい値とを設定してなるものであることを特徴とする請求項1記載の静電容量式スイッチ装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記しきい値として、各静電容量の領域毎に上限しきい値及び下限しきい値を設定し、前記上限しきい値及び下限しきい値の少なくとも一方を全領域について異なる値に設定してなるものであることを特徴とする請求項1記載の静電容量式スイッチ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記静電容量が増加する場合と減少する場合とで前記オフセット値の更新処理にヒステリシスを持たせるように前記しきい値を決定するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の静電容量式スイッチ装置。
【請求項5】
前記静電容量検出回路は、
前記検知電極と接地との間の静電容量と選択的に並列接続される参照用コンデンサと、
前記参照用コンデンサと選択的に並列接続されて前記オフセット値に対応したオフセット電荷を蓄積するオフセット用コンデンサと、
前記検知電極と接地との間の静電容量に蓄積された電荷を前記参照用コンデンサに転送する手段と、
前記オフセット用コンデンサに蓄積されたオフセット電荷によって前記参照用コンデンサの蓄積電荷を補正する手段を備え、
前記参照用コンデンサへの蓄積電荷に応じて発生する電圧を前記検出値として出力するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の静電容量式スイッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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